(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143858
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/344 20060101AFI20220926BHJP
F04B 39/04 20060101ALI20220926BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20220926BHJP
F04C 29/02 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
F04C18/344 351Q
F04C18/344 351M
F04B39/04 H
F04C29/00 C
F04C29/02 351D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044602
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】特許業務法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】加島 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】小塚 直星
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 雅洋
【テーマコード(参考)】
3H003
3H040
3H129
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB06
3H003AC03
3H003BH05
3H003CD01
3H040AA09
3H040BB05
3H040BB11
3H040CC15
3H040CC19
3H040DD01
3H040DD06
3H040DD23
3H129AA05
3H129AA17
3H129AB03
3H129BB05
3H129BB33
3H129BB35
3H129CC04
3H129CC06
3H129CC09
3H129CC25
3H129CC44
(57)【要約】
【課題】圧縮機の大型化や重量増加を避けつつ、外部に流出する冷媒ガス中のオイルレートの上昇を抑えることができる圧縮機を提供する。
【解決手段】ハウジング1内には、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構と、圧縮機構から吐出された冷媒ガスから潤滑油を分離し、潤滑油を排出する排出孔60bを有する油分離器60と、が収容されるとともに、排出孔60bから排出された潤滑油を貯留する貯油室19が区画されている。貯油室19を区画する壁面には、壁面から油分離器60に向けて突設される筒状の側壁71を有する有底筒状の凹部70が形成されている。排出孔60bは凹部70の内部空間70aに向けて開口している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構と、前記圧縮機構から吐出された冷媒ガスから潤滑油を分離し、前記潤滑油を排出する排出孔を有する油分離器と、が収容されるとともに、前記排出孔から排出された前記潤滑油を貯留する貯油室が区画され、
前記貯油室を区画する壁面には、前記壁面から前記油分離器に向けて突設される筒状の側壁を有する有底筒状の凹部が形成され、
前記排出孔は前記凹部の内部空間に向けて開口していることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記圧縮機構と前記油分離器とを収容するシェルと、前記圧縮機構と前記油分離器とを区画する区画壁と、を有し、
前記区画壁と前記シェルの内壁面とは前記貯油室を区画し、
前記貯油室を区画する前記区画壁と前記貯油室を区画する前記シェルの内壁面とのうちの一方に、前記凹部が形成されている請求項1記載の圧縮機。
【請求項3】
前記側壁は前記シェルの内壁面に形成され、
前記シェルの外壁面には、前記側壁と対応する位置に、前記油分離器から離れる方向に前記外壁面から突出する凸部が形成され、
前記凸部には前記凹部の底面が形成されている請求項2記載の圧縮機。
【請求項4】
前記油分離器は、前記内部空間に向かって筒状に延び、内部に前記排出孔が形成されたノズル部を有し、
前記ノズル部の前記排出孔は前記内部空間に到達している請求項1乃至3のいずれか1項記載の圧縮機。
【請求項5】
前記内部空間は円形断面を有し、前記内部空間の内径は前記凹部の底面に向かって徐々に縮小している請求項1乃至4のいずれか1項記載の圧縮機。
【請求項6】
前記内部空間と前記貯油室とは、前記側壁に設けられたスリットを介して連通している請求項1乃至5のいずれか1項記載の圧縮機。
【請求項7】
前記凹部には、前記排出孔から排出された前記潤滑油が衝突するように前記凹部の内面から突出する突起が形成されている請求項1乃至6のいずれか1項記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の圧縮機が開示されている。この圧縮機では、ハウジング内に、圧縮機構と、油分離器とが収容されている。圧縮機構は、冷媒ガスを圧縮する。油分離器は、圧縮機構から吐出された冷媒ガスから潤滑油を分離し、分離した潤滑油を排出孔から排出する。ハウジングは、有底筒状のシェルと、区画壁とを有する。シェルは、底壁と、底壁から円筒状に延びる周壁とを有し、圧縮機構及び油分離器を収容する。区画壁は、圧縮機構と油分離器とを区画する。そして、シェルの内壁面と区画壁とにより、排出孔から排出された潤滑油を貯留する貯油室が区画されている。
【0003】
さらに、上記特許文献1の段落[0014]、[0035]及び
図5には、シェルの周壁の内周面であって排出孔と対向する位置に、内周面から凹む凹部を形成する技術が開示されている。この技術によれば、排出孔から排出された冷媒ガス混じりの潤滑油が凹部に衝突するので、その衝撃により冷媒ガスと潤滑油との分離が促進される。これにより、貯油室の潤滑油に冷媒ガスが混入することを抑制でき、圧縮機構へ供給される潤滑油に冷媒ガスが混入することを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の圧縮機では、油分離器の排出孔はシェルの周壁に向いている。そして、凹部は、周壁と同じ軸方向の円柱の周面の一部をなしている。すなわち、凹部の周面は円弧状になっている。この凹部の下端側の境界点近傍の周面に衝突した潤滑油は、円弧状の周面に沿って上方に移動し、凹部の上方に向かって飛び散る。そうすると、貯油室の上方から外部に流出する冷媒ガスに潤滑油が混じり易くなり、オイルレートの上昇により外部システムの性能が低下することが懸念される。
【0006】
他方、凹部に衝突した潤滑油が凹部の外に勢いよく飛び散ることを抑えるために凹部を深く抉ることも考えられるが、そのためには、例えば、シェルを厚肉化する必要があり、圧縮機の大型化や重量増加を避けられない。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、圧縮機の大型化や重量増加を避けつつ、外部に流出する冷媒ガス中のオイルレートの上昇を抑えることができる圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の圧縮機は、ハウジング内に、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構と、前記圧縮機構から吐出された冷媒ガスから潤滑油を分離し、前記潤滑油を排出する排出孔を有する油分離器と、が収容されるとともに、前記排出孔から排出された前記潤滑油を貯留する貯油室が区画され、
前記貯油室を区画する壁面には、前記壁面から前記油分離器に向けて突設される筒状の側壁を有する有底筒状の凹部が形成され、
前記排出孔は前記凹部の内部空間に向けて開口していることを特徴とする。
【0009】
本発明の圧縮機では、貯油室を区画する壁面に有底筒状の凹部が形成されている。この凹部は、貯油室を区画する壁面から油分離器に向けて突設される筒状の側壁を有する。そして、油分離器の排出孔は凹部の内部空間に向けて開口している。この構成により、排出孔から排出された潤滑油の大部分は、内部空間内に到達して、凹部の内面、すなわち側壁の内周面や凹部の底面に衝突する。凹部の内面に衝突した潤滑油は、内部空間内で衝突を繰り返したり、渦流を発生させたりする。
【0010】
このため、内部空間内で潤滑油の流速を効果的に低下させることができる。よって、凹部の外に飛び散る潤滑油の流速を低下させたり、凹部の外に潤滑油が飛び散ること自体を抑えたりすることができる。また、凹部の外に飛び散った潤滑油の流速が低下すれば、その潤滑油が貯油室の油面に落下する際の衝撃を抑えることができるので、貯油室に溜まっている潤滑油が飛び散ることも抑えることができる。これにより、貯油室の上方において冷媒ガス中に潤滑油が混入することを抑えることができ、ひいては外部に流出する冷媒ガスにおけるオイルレートの上昇を抑えることができる。
【0011】
他方、凹部は、貯油室を区画する壁面に筒状の側壁を突設させることにより形成されている。このため、凹部を形成するために、貯油室を区画する壁を厚肉化する必要がなく、圧縮機の大型化や重量増加を避けることができる。
【0012】
したがって、本発明の圧縮機によれば、圧縮機の大型化や重量増加を避けつつ、外部に流出する冷媒ガス中のオイルレートの上昇を抑えることができる。
【0013】
本発明の圧縮機では、ハウジングがシェルと区画壁とを有し、シェルが圧縮機構と油分離器とを収容するとともに、区画壁が圧縮機構と油分離器とを区画する構成とすることが好ましい。そして、区画壁とシェルの内壁面とにより貯油室が区画され、貯油室を区画する区画壁と貯油室を区画するシェルの内壁面とのうちの一方に、凹部が形成されている構成とすることが好ましい。貯油室を区画する区画壁やシェルの内壁面であれば、壁面から筒状の側壁を突設させることが容易であり、凹部の形成が容易になる。
【0014】
本発明の圧縮機では、側壁はシェルの内壁面に形成され、シェルの外壁面には、側壁と対応する位置に、油分離器から離れる方向に外壁面から突出する凸部が形成され、この凸部には凹部の底面が形成されていることが好ましい。この場合には、凹部の開口から凹部の底面までの距離、すなわち凹部の深さを深くすることに容易に対応できるので、潤滑油の流速を低下させ易い。
【0015】
本発明の圧縮機では、油分離器は、内部空間に向かって筒状に延び、内部に排出孔が形成されたノズル部を有することが好ましい。そして、このノズル部の排出孔は内部空間に到達していることが好ましい。この場合には、ノズル部の排出孔から確実に凹部の内部空間内に潤滑油を排出させることができる。また、ノズル部内を通過する際の抵抗により潤滑油の流速が低下するので、排出孔から排出される潤滑油の流速を低下させることができ、凹部の外に飛び散ったりする潤滑油の流速をさらに低下させることができる。
【0016】
本発明の圧縮機では、凹部の内部空間は円形断面を有し、内部空間の内径は凹部の底面に向かって徐々に縮小していることが好ましい。内部空間が円形断面であれば、凹部の形成が容易である。また、内部空間が底面に向かって縮小していれば、ダイカストなどの鋳抜きで凹部を形成する場合の離型性が向上し、金型の耐久性向上にも寄与する。
【0017】
本発明の圧縮機では、凹部の内部空間と貯油室とは、側壁に設けられたスリットを介して連通していることが好ましい。この場合には、凹部内の潤滑油をスリットを介して貯油室に排出することができるので、スリットを通過する際の抵抗により潤滑油の流速を低下させることができる。また、スリットからの排出量分だけ、凹部の開口から飛び散る潤滑油の量を減らすことができる。
【0018】
本発明の圧縮機では、凹部には、排出孔から排出された潤滑油が衝突するように凹部の内面から突出する突起が形成されていることが好ましい。この場合には、突起に衝突する際の衝撃により潤滑油の流速が低下するので、凹部の外に飛び散ったりする潤滑油の流速をさらに低下させることができる。
【発明の効果】
【0019】
したがって、本発明によれば、圧縮機の大型化や重量増加を避けつつ、外部に流出する冷媒ガス中のオイルレートの上昇を抑えることができる圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施例1の圧縮機を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1の圧縮機に係り、
図1のA-A線矢視断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1の圧縮機に係り、
図1のB-B線矢視断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1の圧縮機に係り、要部を拡大した要部拡大断面図である。
【
図5】
図5は、実施例2の圧縮機に係り、要部を拡大した要部拡大断面図である。
【
図6】
図6は、実施例3の圧縮機に係り、要部を拡大した要部拡大断面図である。
【
図7】
図7は、実施例4の圧縮機に係り、凹部の側壁の断面図である。
【
図8】
図8は、実施例5の圧縮機に係り、凹部の側壁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。実施例の圧縮機はベーン型圧縮機であり、いずれも図示しない車両に搭載されて車両の冷凍回路を構成する。
【0022】
(実施例1)
図1~
図4に示すように、実施例1の圧縮機のハウジング1は、フロントハウジング2と、リヤアサイドプレート3と、ブロック4と、シェル5とを有している。本実施例では、
図1に示すように、
図1の左側であるフロントハウジング2側を圧縮機の前側、
図1の右側であるシェル5側を圧縮機の後側として、圧縮機の前後方向を規定し、
図1の上下を圧縮機の上下方向と規定している。
図2以降では、
図1に対応して圧縮機の上下方向を規定している。これらの各方向は説明の便宜上のための一例であり、圧縮機は、搭載される車両等に対応して、その姿勢が適宜変更される。
【0023】
フロントハウジング2、リヤサイドプレート3、ブロック4及びシェル5は、アルミニウム合金などの金属製であり、ダイカスト法などの鋳造法により製造されている。リヤサイドプレート3は本発明の区画壁に相当する。
【0024】
フロントハウジング2は、略円盤状の本体部21と、本体部21と一体をなすシリンダ部22とを有している。シリンダ部22は、本体部21の外周縁から後方に向かって円筒状に延びている。シェル5は、前端に開口を有する有底筒状をなし、円板状の底壁部51と、底壁部51と一体をなす周壁部52とを有している。周壁部52は、底壁部51の外周縁から前方に向かって円筒状に延びている。リヤサイドプレート3は、略円盤状をなし、シェル5の後部に配置されている。ブロック4は、リヤサイドプレート3の後面に固定されている。シェル5は、リヤサイドプレート3及びブロック4を収容した状態で、フロントハウジング2と接合されている。すなわち、フロントハウジング2は、シェル5の開口を塞ぐようにシェル5に固定されている。フロントハウジング2のシリンダ部22はシェル5内に収容されている。
【0025】
本体部21は軸孔21aを有し、またリヤサイドプレート3は軸孔3aを有している。軸孔21a及び軸孔3aに駆動軸6が回転可能に保持されている。本体部21と駆動軸6との間にはリップシール型の軸封装置7が設けられている。駆動軸6の駆動軸心Oの方向は圧縮機の前後方向と平行である。駆動軸6の前端はフロントハウジング2から突出し、その先端には図示しない電磁クラッチ又はプーリが固定される。電磁クラッチ又はプーリには車両のエンジン又はモータにより駆動力が伝達されるようになっている。また、本体部21には、連通路21bが形成されている。連通路21bは、本体部21内を傾斜しつつ前後方向に延びて、軸封装置7と後述する吸入室12とを連通させている。
【0026】
図2及び
図3に示すように、シリンダ部22の内周面22aは、駆動軸心Oに直交する断面において楕円形をなしている。シリンダ部22内には、ロータ8が配置されている。ロータ8は駆動軸6に固定されており、駆動軸6と一体回転する。ロータ8の外周面には放射状に延びる複数のベーン溝8aが形成されている。各ベーン溝8aは、断面円形状の丸孔部と、丸孔部から径方向外方に延びてロータ8の外周面に開口する断面矩形状の矩形孔部とを有している。複数のベーン溝8a内の各々には、複数のベーン9の各々が出没可能に収納されている。各ベーン9の底部と各ベーン溝8aとの間は背圧室10とされている。各背圧室10には、後述する貯油室19の潤滑油が供給される。隣り合う2枚のベーン9、ロータ8の外周面、シリンダ部22の内周面22a、本体部21の後面及びリヤサイドプレート3の前面によって、圧縮室11が形成されている。シリンダ部22、駆動軸6、ロータ8及びベーン9等が本発明の圧縮機構を構成している。
【0027】
図1及び
図2に示すように、シリンダ部22の前部には、シリンダ部22の外周面から凹む第1凹部22bが形成されている。第1凹部22bは、シリンダ部22の周方向全周に亘って環状に延びている。第1凹部22bと周壁部52とにより吸入室12が区画されている。吸入室12は、シリンダ部22を径方向に貫通する2個の吸入口22cにより、圧縮室11と連通されている。また、吸入室12は、周壁部52に形成された流入口13に通じている。流入口13は、図示しない配管によって、図示しない蒸発器と接続されている。
【0028】
図1及び
図3に示すように、シリンダ部22の後部には、シリンダ部22の外周面から凹む2個の第2凹部22dが形成されている。各第2凹部22dと周壁部52とにより吐出弁室14がそれぞれ区画されている。各吐出弁室14は、シリンダ部22を径方向に貫通する吐出口22eにより、圧縮室11とそれぞれ連通されている。また、各吐出弁室14には、吐出口22eを開閉する吐出弁15と、吐出弁15のリフト量を規制するリテーナ16とがそれぞれ設けられている。
【0029】
図1に示すように、シェル5の底壁部51及び周壁部52と、リヤサイドプレート3と、ブロック4とにより吐出室17が区画されている。吐出室17の上部は、周壁部52に形成された流出口18に通じている。流出口18は、図示しない配管によって、図示しない凝縮器と接続されている。吐出室17の下部には、貯油室19が形成されている。この貯油室19とは、圧縮機の運転中に、吐出室17内において潤滑油が貯留される領域のことをいう。
【0030】
吐出室17内には油分離器60が収容されている。油分離器60はブロック4に設けられている。油分離器60は、圧縮機構で圧縮された冷媒ガス中に含まれる潤滑油を遠心分離する。油分離器60は、略円筒状の空間である油分離室60aを有している。油分離室60aの一端(上端)は開口して吐出室17の上部に通じており、上端側には円筒状の油分離筒61が固定されている。油分離室60aの下端は下壁62で塞がれている。油分離室60aを区画する後壁63の下端部には排出孔60bが形成されている。排出孔60bは、底壁部51に向かって開口している。排出孔60bの中心軸Cと駆動軸心Oとは平行である。排出孔60bは、油分離室60aと吐出室17の下部側とを連通している。
【0031】
図1に示すように、リヤサイドプレート3及びブロック4には圧縮冷媒通路34aが形成されている。圧縮冷媒通路34aは、吐出弁室14と油分離室60aとを連通させる。また、リヤサイドプレート3の後面とブロック4の前面との間には、駆動軸6の後端の周囲に中間室20が形成されている。リヤサイドプレート3には、第1油通路3b及び第2油通路3cが形成されている。第1油通路3bの一端はリヤサイドプレート3の下面に開口して、貯油室19に通じている。第1油通路3bの他端はリヤサイドプレート3の後面に開口して、中間室20に通じている。第2油通路3cの一端はリヤサイドプレート3の後面に開口して、中間室20に通じている。第2油通路3cの他端はリヤサイドプレート3の前面に開口して、複数の背圧室10の各々に通じている。
【0032】
この圧縮機では、貯油室19を区画する壁面であるシェル5の内壁面に、有底筒状の凹部70が形成されている。詳しくは、シェル5の底壁部51の前面である内壁面51aに凹部70が形成されている。凹部70は、内壁面51aから油分離器60に向けて突設される円筒状の側壁71を有している。側壁71は、内壁面51aから油分離器60の後壁63の近傍まで延びている。
【0033】
凹部70は、円形(真円形)断面の内部空間70aを有している。内部空間70aの内径は、凹部70の底面72に向かって徐々に縮小している。すなわち、内部空間70aは、底面72に向かって縮径した円錐台形状とされている。排出孔60bは内部空間70aに向けて開口している。凹部70は、排出孔60bの中心軸Cと同一の中心軸Cを有している。また、内部空間70aを区画する凹部70の内面、すなわち、側壁71の内周面及び底面72は、いずれも微小な凹凸を有する鋳肌面とされている。
【0034】
以上のように構成されたこの圧縮機では、エンジン等によって駆動軸6が駆動されると、ロータ8が駆動軸6と同期回転する。これにより、各圧縮室11は容積を変化させつつ、吸入行程、圧縮行程及び吐出行程を行う。このため、蒸発器を経た低圧の冷媒ガスは、流入口13から吸入室12に吸入され、吸入口22cを経て、吸入行程にある圧縮室11に吸入される。そして、冷媒ガスは、圧縮行程で圧縮されて高圧となり、さらに吐出行程で圧縮室11から吐出口22eを経て吐出弁室14に吐出される。こうして、高圧の冷媒ガスは、吐出弁室14から圧縮冷媒通路34aを通って油分離室60a内に流入し、油分離器60において内部に含まれる潤滑油が遠心分離される。分離された潤滑油は油分離室60a内から排出孔60bを経て吐出室17の下部に排出され、貯油室19内に貯留される。一方、潤滑油が分離された高圧の冷媒ガスは油分離室60aから吐出室17の上部に吐出され、流出口18から凝縮器に向けて吐出される。
【0035】
この間、この圧縮機では、貯油室19内に貯留された潤滑油が背圧室10に供給される。具体的には、貯油室19の潤滑油は、第1油通路3b、中間室20及び第2油通路3cを通って背圧室10に供給される。複数の背圧室10の各々は、駆動軸6の回転に伴って、第2油通路3cと対向している状態と、第2油通路3cと対向していない状態とを繰り返す。複数の背圧室10の各々には、第2油通路3cと対向している状態のときに、第2油通路3cから潤滑油が供給される。
【0036】
さて、この圧縮機では、貯油室19を区画する底壁部51の内壁面51aに、有底筒状の凹部70が形成されている。この凹部70は、底壁部51の内壁面51aから油分離器60に向けて筒状に延びる側壁71を有している。そして、油分離器60の排出孔60bは、凹部70の内部空間70aに向けて開口している。しかも、排出孔60bと内部空間70aとは同一の中心軸Cを有する。
【0037】
この構成により、排出孔60bから排出され潤滑油の大部分は、内部空間70a内に到達して、凹部70の側壁71の内周面や凹部70の底面72に衝突する。凹部70の内面に衝突した潤滑油は、内部空間70a内で衝突を繰り返したり、渦流を発生させたりする。このため、内部空間70a内で潤滑油の流速を効果的に低下させることができる。また、凹部70の内面は微小な凹凸を有する鋳肌面とされているので、凹部70内を流通する潤滑油の流通抵抗が高くなり、これによっても潤滑油の流速が低下する。
【0038】
よって、凹部70の外に飛び散る潤滑油の流速を低下させたり、凹部70の外に潤滑油が飛び散ること自体を抑えたりすることができる。また、凹部70の外に飛び散った潤滑油の流速が低下すれば、その潤滑油が貯油室19の油面に落下する際の衝撃を抑えることができるので、貯油室19に溜まっている潤滑油が飛び散ることも抑えることができる。これにより、貯油室19の上方、すなわち吐出室17の上部において冷媒ガス中に潤滑油が混入することを抑えることができ、ひいては流出口18から外部に流出する冷媒ガスにおけるオイルレートの上昇を抑えることができる。
【0039】
他方、凹部70は、貯油室19を区画する底壁部51の内壁面51aに筒状の側壁71を突設させることにより形成されている。このため、凹部70を形成するために底壁部51を厚肉化する必要がなく、圧縮機の大型化や重量増加を避けることができる。
【0040】
したがって、この圧縮機によれば、圧縮機の大型化や重量増加を避けつつ、外部に流出する冷媒ガス中のオイルレートの上昇を抑えることができる。
【0041】
この圧縮機では、圧縮機構と油分離器60とを収容するとともに貯油室19を区画するシェル5の底壁部51に凹部70が形成されている。この場合、円板状の底壁部51に筒状の側壁71を突設させることが容易であり、凹部70の形成が容易になる。
【0042】
この圧縮機では、凹部70の内部空間70aは円形断面を有し、しかも内部空間70aの内径は凹部70の底面72に向かって徐々に縮小している。内部空間70aが円形断面であれば、凹部70の形成が容易である。また、内部空間70aの内径が底面72に向かって縮小していれば、ダイカストなどの鋳抜きで凹部70を形成する場合の離型性が向上し、金型の耐久性向上にも寄与する。
【0043】
(実施例2)
図5に示すように、実施例2の圧縮機では、油分離器60が、内部に排出孔60bが形成されたノズル部64を有している。ノズル部64は、実施例1の排出孔60bと同様、油分離器60の後壁63の下端部に形成されている。ノズル部64は、後壁63の後壁面63aから凹部70の内部空間70aに向かって円筒状に延びている。
【0044】
ノズル部64の排出孔60bは内部空間70aに到達している。ノズル部64の先端は、内部空間70aの深さの少なくとも1/10程度の距離分だけ、凹部70の開口から奥に入った位置まで延びているのがよい。この圧縮機では、ノズル部64の先端は、内部空間70aの深さの1/3程度の距離分だけ、凹部70の開口から奥に入った位置まで延びている。排出孔60bの中心軸Cは、駆動軸心Oと平行であり、かつ内部空間70aの中心軸Cと一致する。また、ノズル部64の外径は、凹部70の開口の内径、すなわち内部空間70aの最大内径の40~80%程度とするのがよく、50~70%程度とするのがより好適である。この圧縮機では70%程度とされている。なお、ノズル部64の外径と凹部70の開口の内径は、組付けのズレや振動によるノズル部64と凹部70との干渉を抑制することを加味して決められる。
【0045】
この場合には、ノズル部64の排出孔60bから確実に凹部70の内部空間70a内に潤滑油を排出させることができる。また、ノズル部64内を通過する際の抵抗により潤滑油の流速が低下するので、排出孔60bから排出される潤滑油の流速を低下させることができる。さらに、凹部70の開口から凹部70の外へ飛び散る潤滑油は、凹部70の側壁71の内周面とノズル部64の外周面との間の隙間を通ることになるので、この隙間を通過する際の抵抗により潤滑油の流速がさらに低下する。よって、凹部70の外に飛び散ったりする潤滑油の流速をさらに低下させることができる。
【0046】
この圧縮機における他の構成は実施例1の圧縮機と同様であり、また、この圧縮機における他の作用効果は実施例1の圧縮機と同様である。
【0047】
(実施例3)
図6に示すように、実施例3の圧縮機では、シェル5の底壁部51の外壁面51bに凸部73が形成されている。凸部73は、凹部70の側壁71と対応する位置に形成されている。凸部73は、油分離器60から離れる方向に外壁面51bから突出する円筒状の短側壁74と、短側壁74を塞ぐ底壁75とを有している。短側壁74は、底壁部51の内壁面51aから油分離器60に向けて突出する側壁71よりも短い。凹部70の円錐台形状の内部空間70aは凸部73内まで延びており、凸部73内に凹部70の底面72が形成されている。
【0048】
この場合には、凹部70の開口から凹部70の底面72までの距離、すなわち凹部70の深さを深くすることに容易に対応できるので、潤滑油の流速を低下させ易い。
【0049】
また、この圧縮機は、実施例2の圧縮機と同様、油分離器60がノズル部64を有しており、実施例2の圧縮機と同様の作用効果を奏する。
【0050】
この圧縮機における他の構成は実施例1の圧縮機と同様であり、また、この圧縮機における他の作用は実施例1の圧縮機と同様である。
【0051】
(実施例4)
図7に示すように、実施例4の圧縮機では、凹部70の側壁71に複数のスリット76が形成されている。凹部70の内部空間70aと貯油室19とは、スリット76を介して連通されている。スリット76の数や位置は限定されないが、この圧縮機では、2個のスリット76が形成されている。各スリット76は、周方向に180度離れて配置されている。各スリット76は、この圧縮機が車両に搭載された状態において、内部空間70aの高さ方向の中心又は中心の近傍に位置しているとよい。各スリット76は、凹部70の中心軸Cと平行に、側壁71の全体に延びている。
【0052】
この場合には、凹部70内の潤滑油をスリット76を介して貯油室19に排出することができるので、スリット76を通過する際の抵抗により潤滑油の流速を低下させることができる。また、スリット76からの排出量分だけ、凹部70の開口から飛び散る潤滑油の量を減らすことができる。
【0053】
この圧縮機における他の構成は実施例1の圧縮機と同様であり、また、この圧縮機における他の作用は実施例1の圧縮機と同様である。
【0054】
(実施例5)
図8に示すように、実施例5の圧縮機では、凹部70には、排出孔60bから排出された潤滑油が衝突するように、凹部70の側壁71の内周面から突出する複数の突起77が形成されている。突起77は、略三角形の断面形状を有している。突起77の数や位置は限定されないが、この圧縮機では4個の突起77が形成されている。各突起77は、周方向に等間隔で90度ずつ離れて配置されており、凹部70の内部空間70aは十字形状とされている。各突起77は、凹部70の中心軸Cと平行に、側壁71の全体に延びている。
【0055】
この場合には、突起76に衝突する際の衝撃により潤滑油の流速が低下するので、凹部70の外に飛び散ったりする潤滑油の流速をさらに低下させることができる。また、十字形状と複雑な内部空間70a内を通過する際の抵抗によっても潤滑油の流速がさらに低下する。
【0056】
この圧縮機における他の構成は実施例1の圧縮機と同様であり、また、この圧縮機における他の作用は実施例1の圧縮機と同様である。
【0057】
以上において、本発明を実施例1~5に即して説明したが、本発明は上記実施例1~5に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0058】
例えば、実施例1~5の圧縮機では、凹部70をシェル5の底壁部51に形成しているが、これに限らず、貯油室19を区画する区画壁としてのリヤサイドプレート3に凹部70を形成してもよい。また、実施例1~5の圧縮機では、凹部70の内部空間70aの断面形状を真円形状としているが、これに限らず、内部空間70aの断面形状を楕円形状としたり、矩形状としたりしてもよい。
【0059】
また、上記実施例1~5では、圧縮機構がベーン式であるが、本発明の圧縮機では、スクロール式、斜板式等、他の形式の圧縮機構を採用することも可能である。
【0060】
また、実施例1~5の各構成を適宜組み合わせることによって、圧縮機を形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は車両用空調装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…ハウジング
2…フロントハウジング
3…リヤサイドプレート(区画壁)
4…ブロック
5…シェル
17…吐出室
19…貯油室
60…油分離器
60b…排出孔
70…凹部
70a…内部空間
71…側壁
72…底面
64…ノズル部
73…凸部
76…スリット
77…突起