(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143865
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】汚染された土壌または地下水の浄化方法およびそれに用いる組成物
(51)【国際特許分類】
B09C 1/10 20060101AFI20220926BHJP
C02F 3/00 20060101ALI20220926BHJP
C02F 3/30 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B09C1/10 ZAB
C02F3/00 D
C02F3/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044613
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】今安 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】平井 恭正
(72)【発明者】
【氏名】森田 一太
【テーマコード(参考)】
4D004
4D027
4D040
【Fターム(参考)】
4D004AA41
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4D004CC01
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4D027CA00
4D040BB01
4D040BB51
(57)【要約】
【課題】揮発性有機化合物によって汚染された土壌または地下水を浄化する浄化方法を提供する。
【解決手段】本開示の浄化方法は、汚染された土壌または地下水に、微生物の栄養剤と、酸化鉄含有粉末とを加える添加工程と、添加工程後に実施する、嫌気性条件下での浄化工程および/または好気性条件下での浄化工程と、を備え、嫌気性条件下での浄化工程および/または好気性条件下での浄化工程において、微生物と前記酸化鉄含有粉末とによって揮発性有機化合物を浄化する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物によって汚染された土壌または地下水を浄化する浄化方法であって、
前記土壌または前記地下水に、微生物の栄養剤と、酸化鉄含有粉末とを加える添加工程と、
前記添加工程後に実施する、嫌気性条件下での浄化工程および/または好気性条件下での浄化工程と、を備え、
前記嫌気性条件下での浄化工程および/または好気性条件下での浄化工程において、微生物と前記酸化鉄含有粉末とによって前記揮発性有機化合物を浄化することを特徴とする、浄化方法。
【請求項2】
前記揮発性有機化合物が、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン、ジクロロメタン、1,3-ジクロロプロペン、ベンゼン、オルト-ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼンおよびパラ-ジクロロベンゼンのうちの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の浄化方法。
【請求項3】
前記嫌気性条件下での浄化工程および前記好気性条件下での浄化工程を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の浄化方法。
【請求項4】
前記好気性条件下での浄化工程を実施して、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン、ジクロロメタン、1,3-ジクロロプロペン、ベンゼン、オルト-ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼンおよびパラ-ジクロロベンゼンのうち少なくとも一種の揮発性有機化合物を浄化し、
その後、前記嫌気性条件下での浄化工程を実施して、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン、テトラクロロメタン、ジクロロメタンのうち少なくとも一種の揮発性有機化合物を浄化することを特徴とする、請求項3に記載の浄化方法。
【請求項5】
前記嫌気性条件下での浄化工程の後に、前記好気性条件下での浄化工程を実施することを特徴とする、請求項3に記載の浄化方法。
【請求項6】
前記嫌気性条件下での浄化工程を実施して、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン、テトラクロロメタン、ジクロロメタンのうち少なくとも一種の揮発性有機化合物を浄化し、
その後、前記好気性条件下での浄化工程を実施して、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン、ジクロロメタン、1,3-ジクロロプロペン、ベンゼン、オルト-ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼンおよびパラ-ジクロロベンゼンのうち少なくとも一種の揮発性有機化合物を浄化することを特徴とする、請求項5に記載の浄化方法。
【請求項7】
前記嫌気性条件下での浄化工程を実施して、前記土壌または前記地下水中のテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、およびクロロエチレンの濃度が所定の値以下であることを確認した後に、前記好気性条件下での浄化工程を実施することを特徴とする、請求項6に記載の浄化方法。
【請求項8】
前記嫌気性条件下での浄化工程を4週間以上実施する、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の浄化方法。
【請求項9】
前記好気性条件下での浄化工程において、前記土壌または前記地下水に酸素溶解水を加える、ことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の浄化方法。
【請求項10】
前記栄養剤は、炭化水素とアミノ酸を主成分とする、ことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の浄化方法。
【請求項11】
前記酸化鉄含有粉末の主成分が、四三酸化鉄である、ことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の浄化方法。
【請求項12】
微生物の栄養剤と酸化鉄含有粉末とを含む、揮発性有機化合物によって汚染された土壌または地下水の浄化に用いられる組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染された土壌または地下水の浄化方法およびそれに用いる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(以下VOCと称する場合がある)で汚染された土壌または地下水を浄化する技術として、バイオレメディエーションや鉄による還元反応を利用した技術などがある。
【0003】
バイオレメディエーションは、汚染された土壌または地下水に存在する天然の微生物に栄養剤を与え、その微生物によって有害物質を無害化する技術である。例えば、嫌気性条件下においてテトラクロロエチレンは、脱塩素化反応によって、ジクロロエチレン、クロロエチレン、エチレンまで分解される。
【0004】
この脱塩素化反応は、エチレン系VOC(テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレンの5物質)のみで起こり、エタン系・メタン系VOC(1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン(四塩化炭素)、ジクロロメタンの5物質)、その他VOC(1,3-ジクロロプロペン、ベンゼンの2物質)やジクロロベンゼン(オルト、メタ、パラの3種類の構造異性体)では脱塩素反応は生じないという課題があった(特定の有用菌が存在する場合を除く)。
【0005】
鉄による還元反応を利用する技術では、ゼロ価の鉄粉による還元分解によって、短期間に無害なエチレンまで分解することができる。しかし、鉄粉の還元反応は、反応の持続時間が短く、地中の汚染に到達する前に還元反応が終了し、実用上の浄化が困難であるという問題がある。
【0006】
特許文献1には、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌を浄化する微生物の栄養源となる難水溶性有機炭素源を含有する添加材と、鉄粉とを併用することで、鉄粉による揮発性有機化合物の還元分解効果を損なわず、揮発性有機化合物を分解する微生物を活性化することができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の技術では、嫌気性条件下で、バイオレメディエーションを実施しているので、エチレン系VOC以外の揮発性有機化合物を低減することができなかった。
【0009】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされた発明であり、揮発性有機化合物によって汚染された土壌または地下水を浄化する浄化方法および組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
<1> 本実施形態に係る浄化方法は、揮発性有機化合物によって汚染された土壌または地下水を浄化する浄化方法であって、前記土壌または前記地下水に、微生物の栄養剤と、酸化鉄含有粉末とを加える添加工程と、前記添加工程後に実施する、嫌気性条件下での浄化工程および/または好気性条件下での浄化工程と、を備え、前記嫌気性条件下での浄化工程および/または好気性条件下での浄化工程において、微生物と前記酸化鉄含有粉末とによって前記揮発性有機化合物を浄化することを特徴とする。
【0011】
<2> 上記<1>に記載の浄化方法は、前記揮発性有機化合物が、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン、ジクロロメタン、1,3-ジクロロプロペン、ベンゼン、オルト-ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼンおよびパラ-ジクロロベンゼンのうちの少なくとも1種であってもよい。
【0012】
<3> 上記<1>または<2>に記載の浄化方法は、前記嫌気性条件下での浄化工程および前記好気性条件下での浄化工程を備えてもよい。
【0013】
<4> 上記<3>に記載の浄化方法は、前記好気性条件下での浄化工程を実施して、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン、ジクロロメタン、1,3-ジクロロプロペン、ベンゼン、オルト-ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼンおよびパラ-ジクロロベンゼンのうち少なくとも一種の揮発性有機化合物を浄化し、
その後、前記嫌気性条件下での浄化工程を実施して、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン、テトラクロロメタン、ジクロロメタンのうち少なくとも一種の揮発性有機化合物を浄化することを特徴としてもよい。
【0014】
<5> 上記<3>に記載の浄化方法は、前記嫌気性条件下での浄化工程の後に、前記好気性条件下での浄化工程を実施してもよい。
【0015】
<6> 上記<5>に記載の浄化方法は、前記嫌気性条件下での浄化工程を実施して、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン、テトラクロロメタン、ジクロロメタンのうち少なくとも一種の揮発性有機化合物を浄化し、
その後、前記好気性条件下での浄化工程を実施して、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン、ジクロロメタン、1,3-ジクロロプロペン、ベンゼン、オルト-ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼンおよびパラ-ジクロロベンゼンのうち少なくとも一種の揮発性有機化合物を浄化してもよい。
【0016】
<7> 上記<6>に記載の浄化方法は、前記嫌気性条件下での浄化工程を実施して、前記土壌または前記地下水中のテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、およびクロロエチレンの濃度が所定の値以下であることを確認した後に、前記好気性条件下での浄化工程を実施してもよい。
【0017】
<8> 上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の浄化方法は、前記嫌気性条件下での浄化工程を4週間以上実施してもよい。
【0018】
<9> 上記<1>~<8>のいずれか1つに記載の浄化方法は、前記好気性条件下での浄化工程において、前記土壌または前記地下水に酸素溶解水を加えてもよい。
【0019】
<10> 上記<1>~<9>のいずれか1つに記載の浄化方法は、前記栄養剤は、炭化水素とアミノ酸を主成分としてもよい。
【0020】
<11> 上記<1>~<10>のいずれか1つに記載の浄化方法は、前記酸化鉄含有粉末の主成分が、四三酸化鉄であってもよい。
【0021】
<12> 本実施形態に係る揮発性有機化合物によって汚染された土壌または地下水の浄化に用いられる組成物は、微生物の栄養剤と酸化鉄含有粉末とを含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明の上記態様によれば、揮発性有機化合物によって汚染された土壌または地下水を浄化する浄化方法および組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<浄化方法>
本発明の実施形態に係る浄化方法は、揮発性有機化合物によって汚染された土壌または地下水を浄化する浄化方法であって、汚染された土壌または地下水に、微生物の栄養剤と、酸化鉄含有粉末とを加える添加工程と、添加工程後に実施する、嫌気性条件下での浄化工程および/または好気性条件下での浄化工程と、を備え、嫌気性条件下での浄化工程および/または好気性条件下での浄化工程において、微生物と酸化鉄含有粉末とによって前記揮発性有機化合物を浄化する。
また、本発明の実施形態に係る浄化方法は、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,3-ジクロロプロペン、ベンゼン、オルト-ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼンおよびパラ-ジクロロベンゼンのうちの少なくとも1種の揮発性有機化合物によって汚染された土壌または地下水を浄化する浄化方法であって、汚染された土壌または地下水に、微生物の栄養剤と、酸化鉄含有粉末と、を添加する添加工程と、添加工程後に、嫌気性条件下で、微生物および酸化鉄含有粉末によって揮発性有機化合物を浄化する嫌気性条件下での浄化工程と、添加工程後に、好気性環境下で、微生物および酸化鉄含有粉末によって揮発性有機化合物を浄化する好気性条件下での浄化工程と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0024】
「添加工程」
添加工程では、汚染された土壌または地下水に、微生物の栄養剤と、酸化鉄含有粉末と、を添加する。汚染された土壌または地下水には、微生物の栄養剤と酸化鉄含有粉末とを含む組成物の形で添加してもよい。
【0025】
(汚染された土壌または地下水)
汚染された土壌または地下水は、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン(四塩化炭素)、ジクロロメタン、1,3-ジクロロプロペン、ベンゼン、オルト-ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼンおよびパラ-ジクロロベンゼンのうちの少なくとも1種の揮発性有機化合物によって汚染された土壌または地下水である。特にエチレン系VOC(テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン)に加え、さらにエタン系・メタン系VOC(1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン(四塩化炭素)、ジクロロメタンの5物質)、およびその他VOC(1,3-ジクロロプロペン、ベンゼンの2物質)やジクロロベンゼン(オルト、メタ、パラの3種類の構造異性体)によって、汚染された土壌または地下水であれば、本実施形態に係る浄化方法の効果が大きいので好ましい。殺虫剤の成分として使用されることがあるようなジクロロベンゼンを含む汚染された土壌または地下水であれば、特に本実施形態に係る浄化方法の効果が大きい。ここで、ジクロロベンゼンは、オルト-ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼン、パラ-ジクロロベンゼンを含む。ジクロロベンゼンを含有し、複数の揮発性有機化合物で汚染された土壌としては、例えば、オルト-ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼン、パラ-ジクロロベンゼンのうち1種以上、エチレン系VOCのうち1種以上、およびエチレン系以外のVOC(エタン系・メタン系VOCおよびその他VOC)のうち1種以上で汚染された土壌または地下水が挙げられる。また、ジクロロベンゼンを含有し、複数の揮発性有機化合物で汚染された土壌の別の例としては、オルト-ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼン、パラ-ジクロロベンゼンのうち1種以上、かつ、エチレン系VOCまたはエチレン以外VOCのうち1種以上で汚染された土壌または地下水が挙げられる。多様な複合汚染が疑われる土壌・地下水に対して、上記15種の揮発性有機化合物が実際にどのように複合して含まれていたとしても、本発明の浄化方法は効果を発揮することができる。
【0026】
汚染された土壌または地下水は、土壌汚染対策法における地下水環境基準または地下水の水質汚濁に係る環境基準(以下、地下水基準という)の値を超過する揮発性有機化合物を含む。以下、揮発性有機化合物で汚染された土壌または地下水における各揮発性有機化合物の濃度を例示する。なお、地下水基準値が改正された場合は、本実施形態に係る浄化方法の地下水基準値はその改正後の地下水基準値に準拠する。
【0027】
テトラクロロエチレンで汚染された土壌の場合、例えば、日本工業規格K0125の5.1、5.2、5.3.1、5.4.1または5.5に定める方法を用いて、テトラクロロエチレンの濃度を測定した際に、テトラクロロエチレンの濃度が、検液1Lにつき0.01mg超である。テトラクロロエチレンで汚染された地下水の場合は、テトラクロロエチレンの濃度が0.01mg/L超である。
【0028】
トリクロロエチレンで汚染された土壌の場合、例えば、日本工業規格K0125の5.1、5.2、5.3.1、5.4.1または5.5に定める方法を用いて、トリクロロエチレンの濃度を測定した際に、トリクロロエチレンの濃度が、検液1Lにつき0.03mg超である。トリクロロエチレンで汚染された地下水の場合、トリクロロエチレンの濃度が、0.01mg/L超である。
【0029】
1,1-ジクロロエチレンで汚染された土壌の場合、例えば、日本工業規格K0125の5.1、5.2または5.3.2に定める方法を用いて、1,1-ジクロロエチレンの濃度を測定した際に、1,1-ジクロロエチレンの濃度が、検液1Lにつき0.1mg超である。1,1-ジクロロエチレンで汚染された地下水の場合、1,1-ジクロロエチレンの濃度が、0.1mg/L超である。
【0030】
1,2-ジクロロエチレンで汚染された土壌の場合、例えば、シス体では日本工業規格K0125の5.1、5.2または5.3.2に定める方法、トランス体では日本工業規格K0125の5.1、5.2または5.3.1に定める方法を用いて、1,2-ジクロロエチレンの濃度を測定した際に、1,2-ジクロロエチレンの濃度が、検液1Lにつき0.04mg超である。1,2-ジクロロエチレンで汚染された地下水の場合、1,2-ジクロロエチレンの濃度が、0.04mg/L超である。
【0031】
クロロエチレンで汚染された土壌の場合、例えば、平成9年3月環境庁告示第10号付表に掲げる方法を用いて、クロロエチレンの濃度を測定した際に、クロロエチレンの濃度が検液1Lにつき0.002mg超である。クロロエチレンで汚染された地下水の場合、クロロエチレンの濃度が、0.002mg/L超である。
【0032】
1,1,1-トリクロロエタンで汚染された土壌の場合、日本工業規格K0125の5.1、5.2、5.3.1、5.4.1または5.5に定める方法を用いて、1,1,1-トリクロロエタンの濃度を測定した際に、1,1,1-トリクロロエタンの濃度が検液1Lにつき1mg超である。1,1,1-トリクロロエタンで汚染された地下水の場合、1,1,1-トリクロロエタンの濃度が1mg/L超である。
【0033】
1,1,2-トリクロロエタンで汚染された土壌の場合、日本工業規格K0125の5.1、5.2、5.3.1、5.4.1または5.5に定める方法を用いて、1,1,2-トリクロロエタンの濃度を測定した際に、1,1,2-トリクロロエタンの濃度が検液1Lにつき0.006mg超である。1,1,2-トリクロロエタンで汚染された地下水の場合、1,1,2-トリクロロエタンの濃度が0.006mg/L超である。
【0034】
1,2-ジクロロエタンで汚染された土壌の場合、日本工業規格K0125の5.1、5.2、5.3.1または5.3.2に定める方法を用いて、1,2-ジクロロエタンの濃度を測定した際に、1,2-ジクロロエタンの濃度が検液1Lにつき0.004mg超である。1,2-ジクロロエタンで汚染された地下水の場合、1,2-ジクロロエタンの濃度が0.004mg/L超である。
【0035】
テトラクロロメタン(四塩化炭素)で汚染された土壌の場合、例えば、日本工業規格K0125の5.1、5.2、5.3.1、5.4.1または5.5に定める方法でテトラクロロメタン(四塩化炭素)の濃度を測定した際に、テトラクロロメタン(四塩化炭素)の濃度が検液1Lにつき0.002mg超である。テトラクロロメタン(四塩化炭素)で汚染された地下水の場合、テトラクロロメタン(四塩化炭素)の濃度が0.002mg/L超である。
【0036】
ジクロロメタンで汚染された土壌の場合、例えば、日本工業規格K0125の5.1、5.2または5.3.2に定める方法でジクロロメタンの濃度を測定した際に、ジクロロメタンの濃度が検液1Lにつき0.02mg超である。ジクロロメタンで汚染された地下水の場合、ジクロロメタンの濃度が0.02mg/L超である。
【0037】
1,3-ジクロロプロペンで汚染された土壌の場合、例えば、日本工業規格K0125の5.1、5.2または5.3.1に定める方法で、1,3-ジクロロプロペンの濃度を測定した際に、1,3-ジクロロプロペンの濃度が検液1Lにつき0.002mg超である。1,3-ジクロロプロペンで汚染された地下水の場合、1,3-ジクロロプロペンの濃度が0.002mg/L超である。
【0038】
ベンゼンで汚染された土壌の場合、例えば、日本工業規格K0125の5.1、5.2または5.3.2に定める方法で、ベンゼンの濃度を測定した際に、ベンゼンの濃度が、検液1Lにつき0.01mg超である。ベンゼンで汚染された地下水の場合、ベンゼンの濃度が、0.01mg/L超である。
【0039】
パラ-ジクロロベンゼンで汚染された土壌の場合、例えば、日本工業規格K0125の5.1、5.2または5.3.2に定める方法で、パラ-ジクロロベンゼンの濃度を測定した際に、パラ-ジクロロベンゼンの濃度が、検液1Lにつき0.2mg超である(水質の汚濁に係る地下水基準の要監視項目より)。パラ-ジクロロベンゼンで汚染された地下水のジクロロベンゼンの濃度が、0.2mg/L超であり、構造異性体であるオルト-ジクロロベンゼンとメタ-ジクロロベンゼンも同様とする。
【0040】
(微生物)
本実施形態に係る浄化方法の微生物としては、もともと汚染された土壌または汚染された地下水に生息している微生物が挙げられる。通常、嫌気性条件と好気性条件とでは、活動する微生物が異なるが、通性嫌気性微生物のように、好気性条件および通気性条件のどちらの条件で活動する微生物も、本実施形態にかかる浄化方法の効果を奏する限りは、揮発性有機化合物を分解する微生物に含まれる。
【0041】
(組成物)
汚染された土壌または地下水の浄化に用いられる組成物は、微生物の栄養剤と酸化鉄含有粉末とを含む。栄養剤と酸化鉄含有粉末のそれぞれの配合量は、後述するそれぞれの使用量を満たせばよく、土壌または地下水の汚染の程度に応じて適宜調整することができる。組成物の形態は、栄養剤と酸化鉄含有粉末を別々の包装体にしてもよく、それぞれを混合して一つの包装体にしてもよい。組成物は、粉末状でよいが、適当な大きさに造粒、成形してもよい。また、必要に応じて、土壌または地下水の浄化に用いられる通常の薬剤を組成物に配合してもよい。
【0042】
(微生物の栄養剤)
微生物の栄養剤は、揮発性有機化合物を分解する微生物を増殖させて活動を活性化するための栄養剤である。微生物の栄養剤は、微生物の栄養となるのであれば、その成分は特に限定されない。微生物の栄養剤は、例えば、食品添加物由来の炭化水素とアミノ酸を主成分とする栄養剤が好ましい。食品添加物由来である成分を用いることは、環境保全を目的とした土壌・地下水の浄化に用いることで人の健康被害の防止に繋がる。微生物の栄養剤は、汚染された土壌または地下水に均一に分散させるために水溶性の微生物の栄養剤が好ましい。このような条件を満たす微生物の栄養剤としては、例えば、日鉄エンジニアリング株式会社製NSバイオアクティ(登録商標)がある。微生物の栄養剤は、水溶液にして汚染された土壌または地下水に注入すると好ましい。
【0043】
汚染された土壌または地下水に配合する微生物の栄養剤の配合量は、汚染された土壌または地下水1Lに対し、0.20g以上である。微生物の栄養剤の配合量が0.20g以上であれば、微生物の活動を向上することができる。より好ましくは、微生物の栄養剤の配合量は、汚染された土壌または地下水1Lに対し、0.5g以上である。
【0044】
(酸化鉄含有粉末)
酸化鉄含有粉末を微生物の栄養剤と併用することで、微生物の活動をより活性化し、浄化性能を向上することができる。特に、容易には分解されないジクロロベンゼン(オルト、メタ、パラの3種類の構造異性体)存在下において、酸化鉄含有粉末と前述の微生物の栄養剤を用いることで、より高い浄化性能を得ることができる。酸化鉄含有粉末としては、例えば、石原産業株式会社製MT-V0などが挙げられる。
【0045】
汚染された土壌または地下水に配合する酸化鉄含有粉末の配合量は、汚染された土壌または地下水1Lに対し、0.5g以上である。酸化鉄含有粉末の配合量が0.5g以上であれば、浄化性能を向上することができる。より好ましくは、酸化鉄含有粉末の配合量は、汚染された土壌または地下水1Lに対し、2.5g以上である。さらに好ましくは、酸化鉄含有粉末の配合量は、汚染された土壌または地下水1Lに対し、25g以上である。
【0046】
酸化鉄含有粉末は、酸化鉄を含有する。酸化鉄を含有することで、浄化性能向上を補助することができる。酸化鉄含有粉末に含有される酸化鉄は、酸素と鉄とから構成されるのであれば、特に限定されない。例えば、酸化鉄としては、酸化第一鉄(FeO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、四三酸化鉄(Fe3O4)、水酸化第一鉄(Fe(OH)2)、水酸化第二鉄(Fe(OH)3)、オキシ水酸化鉄(FeO(OH))などが挙げられる。特に酸化鉄としては、四三酸化鉄(Fe3O4)が好ましい。
【0047】
酸化鉄含有粉末において、酸化鉄の含有量は、60質量%以上が好ましい。より好ましい酸化鉄の含有量は70質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上である。
【0048】
酸化鉄含有粉末は、さらにマンガン酸化物を含有することが好ましい。マンガン酸化物を含有することで酸化鉄の結晶を安定化させる効果があり、マンガン酸化物を含有しないと経時変化で酸化鉄の結晶が変質しやすい。従って、マンガン酸化物の含有は本実施形態に係る浄化方法の浄化性能がさらに向上する。マンガン酸化物としては、特に限定されず、例えば、MnO、Mn3O4、Mn2O3、MnO2、MnO3、Mn2O7などが挙げられる。酸化マンガンとしては、MnOが好ましい。また、例えばMnFe2O4などのマンガンと鉄の複合酸化物の形でマンガンを含んでいてもよい。
【0049】
酸化鉄含有粉末において、酸化マンガンの含有量は、0.2質量%以上3.0質量%以下が好ましい。より好ましい酸化マンガンの含有量は0.5質量%以上1.2質量%以下である。
【0050】
酸化鉄含有粉末の平均粒子径は、0.1μm~5μmが好ましい。この範囲であれば、汚染された土壌または地下水と混合しやすい。より好ましい酸化鉄含有粉末の平均粒子径は、0.2μm~2.5μmである。粒度が小さい方が土壌間隙に入り込み、地中での拡散性に優れ、効果を発揮する範囲が広がりやすい。平均粒子径は、レーザー錯乱式や電子顕微鏡観察による測定が望ましい。
【0051】
(微生物の栄養剤および酸化鉄含有粉末の添加方法)
本実施形態の添加工程において微生物の栄養剤および酸化鉄含有粉末を汚染された土壌または地下水へ分散させることで、微生物の栄養剤および酸化鉄含有粉末を汚染された土壌または地下水に添加する。微生物の栄養剤および酸化鉄含有粉末を汚染された土壌または地下水に分散する方法は特に限定されないが、公知の方法を採用することができる。例えば、注入井戸を作製し、微生物の栄養剤および酸化鉄を混合した分散水を注入することで、分散させてもよいし、土木機械などを用いて機械的に土壌または地下水と混合してもよい。
【0052】
「嫌気性条件下での浄化工程」
嫌気性条件下で、微生物によって揮発性有機化合物を浄化する。嫌気性条件とは、酸化還元電位が50mv未満を言う。土壌または地下水の酸化還元電位は、-500mV以上、50mV未満であることが好ましい。より好ましい土壌または地下水の酸化還元電位は、-200mV以上、-50mV未満である。酸化還元電位は、作用電極を白金電極とし比較電極を銀-塩化銀としたときの酸化還元電位である。通常、嫌気性条件下において、汚染された土壌または地下水中に存在する微生物が、エチレン系VOCが分解する。本実施形態に係る浄化方法では、微生物の栄養剤および酸化鉄含有粉末を汚染された土壌、汚染された地下水に添加させることで、エチレン系VOCに加えて、さらに、エタン・メタン系VOCおよびジクロロベンゼン(オルト、メタ、パラの3種類の構造異性体)などの分解を促進することができる。なお、テトラクロロメタン(四塩化炭素)とジクロロメタンは、嫌気性条件・好気性条件の何れの環境下でも分解することが可能である。
【0053】
嫌気性条件の形成方法は、特に限定されない。通常、地中は酸素濃度が低く、汚染された土壌、汚染された地下水は、嫌気性条件となる。より強い嫌気性条件にする場合、すなわち土壌または地下水の酸化還元電位を下げる場合は、微生物の栄養源となる有機物などを添加することで、調整することができる。
【0054】
嫌気性条件下での浄化工程の期間は、2週間以上とすることが好ましい。嫌気性条件下での浄化工程の期間が2週間以上であれば、微生物を活性化させることができる。より好ましい嫌気性条件下での浄化工程の期間は4週間以上である。嫌気性条件下での浄化工程の期間が4週間以上であれば、活性化した微生物によって、汚染された土壌または汚染された地下水中の揮発性有機化合物を地下水基準値以下まで低減することができる。
【0055】
嫌気性条件下での浄化工程において、汚染された土壌または汚染された地下水中のテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、およびクロロエチレンの濃度が所定の値以下となったことを確認した後、好気性条件下での浄化工程に移ることが好ましい。テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、およびクロロエチレンの濃度が所定の値以下となれば、微生物によって、嫌気性条件下で分解可能な揮発性有機化合物を十分に分解できたと判断できるためである。以下、各化合物の所定値について説明する。なお、テトラクロロメタン(四塩化炭素)とジクロロメタンは、嫌気性条件、好気性条件の何れの環境下でも分解することが可能である。
【0056】
テトラクロロエチレンで汚染された土壌の場合、例えば、テトラクロロエチレンの濃度が、検液1Lにつき0.01mg以下である。テトラクロロエチレンで汚染された地下水の場合は、テトラクロロエチレンの濃度が0.01mg/L以下である。
【0057】
トリクロロエチレンで汚染された土壌の場合、トリクロロエチレンの濃度が、検液1Lにつき0.03mg以下である。トリクロロエチレンで汚染された地下水の場合、トリクロロエチレンの濃度が、0.01mg/L以下である。
【0058】
1,1-ジクロロエチレンで汚染された土壌の場合、1,1-ジクロロエチレンの濃度が、検液1Lにつき0.1mg以下である。1,1-ジクロロエチレンで汚染された地下水の場合、1,1-ジクロロエチレンの濃度が、0.1mg/L以下である。
【0059】
1,2-ジクロロエチレンで汚染された土壌の場合、1,2-ジクロロエチレンの濃度が、検液1Lにつき0.04mg以下である。1,2-ジクロロエチレンで汚染された地下水の場合、1,2-ジクロロエチレンの濃度が、0.04mg/L以下である。
【0060】
クロロエチレンで汚染された土壌の場合、クロロエチレンの濃度が検液1Lにつき0.002mg以下である。クロロエチレンで汚染された地下水の場合、クロロエチレンの濃度が0.002mg/L以下である。
【0061】
嫌気性条件下での浄化工程において、汚染された土壌または汚染された地下水中のテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、およびクロロエチレンの濃度の観測方法は公知の方法を用いることができる。例えば、観測井戸を作製し、観測井戸から得られた地下水などを分析することで、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、およびクロロエチレンの濃度を観測することができる。
【0062】
汚染された土壌または地下水の酸化還元電位は、観測井戸から採取された地下水などを、採水し、その地下水を現場で測定することで観測することができる。
【0063】
「好気性条件下での浄化工程」
好気性条件下で、微生物によって揮発性有機化合物を浄化する。ここで、好気性条件とは、酸化還元電位が50mv以上を言う。汚染された土壌または地下水の酸化還元電位は、50mV以上500mV未満が好ましい。より好ましい酸化還元電位は、100mV以上300mV未満である。好気性条件下において、汚染された土壌または地下水中に存在する微生物によって、揮発性有機化合物を低減することができる。特に嫌気性条件下での浄化工程の後に、好気性条件下での浄化工程を実施することで、エタン・メタン系VOCなどのエチレン系VOC以外のVOCをより低減することができる。また、ジクロロベンゼン(オルト、メタ、パラの3種類の構造異性体)についても0.2mg/L以下に低減することができる。
【0064】
好気性条件の形成方法は、特に限定されない。例えば、注入井戸を作製し、溶存酸素濃度が30mg/L以上の酸素溶解水を1L/min以下で注入することで、好気性条件を作製してもよい。
【0065】
好気性条件下での浄化工程の期間は、2週間以上とすることが好ましい。好気性条件下での浄化工程の期間が2週間以上であれば、微生物を活性化させることができる。より好ましい好気性条件下での浄化工程の期間は4週間以上である。好気性条件下での浄化工程の期間が4週間以上であれば、活性化した微生物によって、汚染された土壌または地下水中の揮発性有機化合物を地下水基準値以下まで低減することができる。
【0066】
(微生物の栄養剤の有効性確認試験)
次に、微生物の栄養剤の影響を確認した有効性確認試験について説明する。
【0067】
有効性確認試験は以下の方法で行った。試験容器にジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、ジクロロベンゼン(オルト、メタ、パラの3種類の構造異性体)で地下水基準を超過するVOC複合汚染現場から採取した地下水4Lを加え、次に1.0g/Lとなるように日鉄エンジニアリング株式会社製NSバイオアクティVCを添加した。当該地下水にエチレン系VOCは検出がなく、試験でエチレン系VOCの低減可否を確認するため、表1の濃度となるように、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレンを試験開始直後の地下水に添加した。テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレンを添加後、好気性条件となるように、試験容器内の気層部分を酸素で置換し、スターラーで緩やかに攪拌した。試験開始直後、試験開始2週間後、試験開始5週間後、試験開始9週間後で、試験容器内の地下水を採取し、日本工業規格 K 0125 5.2に基づいて、各揮発性有機化合物の濃度について測定した。得られた結果を表1に示す。なお、表1中の各揮発性有機化合物の濃度の欄の「-」は、測定しなかったことを示す。また、地下水基準の欄の「-」は、地下水基準値がないことを示す。
【0068】
対照試験として、微生物の栄養剤を添加しないで、好気性条件のみで試験を行った。具体的には、試験容器に前述のVOC複合汚染現場から採取した地下水4Lを加え、表2の濃度となるように、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレンをさらに地下水に添加した。テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレンを添加後、好気性条件となるように、試験容器内を酸素に置換し、スターラーで緩やかに攪拌した。試験開始直後、試験開始9週間後で、試験容器内の地下水を採取し、日本工業規格 K 0125 5.2に基づいて、各揮発性有機化合物の濃度について測定した。得られた結果を表2に示す。なお、表2中の各揮発性有機化合物の濃度の欄の「-」は、測定しなかったことを示す。また、表2中の地下水基準の欄の「-」は、地下水基準値がないことを示す。
【0069】
【0070】
【0071】
表2に示す通り、微生物の栄養剤を添加せず、好気性条件で試験を行った場合、試験開始9週間後の地下水中のテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、ジクロロメタン、1,2ジクロロエタンなどの各揮発性有機化合物の濃度が開始直後と比較して減少した。これは、各揮発性有機化合物が揮発したためと考えられる。一方、表1に示す通り、微生物の栄養剤を添加して好気性条件とした場合(試験開始9週間後)も、同様に、地下水中のテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、ジクロロメタン、1,2ジクロロエタンなどの各揮発性有機化合物の濃度が減少していた。各揮発性有機化合物の減少量は、微生物の栄養剤を添加する場合と添加しない場合とで同程度であった。そのため、本試験では、微生物の栄養剤のみを添加することによる浄化能力の顕著な向上は確認できなかった。
【0072】
(酸化鉄含有粉末の有効性確認試験)
次に、酸化鉄含有粉末の有効性を確認するため、酸化鉄含有粉末の有効性確認試験を行った。試験容器に前述のVOC複合汚染現場から採取した地下水4Lを加え、次に25g/Lとなるように石原産業株式会社製MT-V0(四三酸化鉄を主成分とし、マンガン酸化物を含有している。平均粒子径は2.2μm。)を添加した。表3の濃度となるように、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレンをさらに地下水に添加した。テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレンを添加後、嫌気性条件となるように、試験容器内を地下水で満たした。テトラクロロエチレン添加直後、試験開始4週間で、試験容器内の地下水を採取し、日本工業規格 K 0125 5.2に基づいて、各揮発性有機化合物の濃度について測定した。得られた結果を表3に示す。なお、表3中の地下水基準の欄の「-」は、地下水基準値がないことを示す。
【0073】
【0074】
表3に示す通り、酸化鉄含有粉末の有効性確認試験の開始4週間後の地下水中のテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、オルト―ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼン、およびパラ-ジクロロベンゼンの濃度が試験開始直後と比較して減少した。この減少量は、酸化鉄含有粉末によって減少したと考えられる。特に酸化鉄含有粉末を地下水に添加することで、オルト―ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼン、およびパラ-ジクロロベンゼンを大きく減少できることが分かった。ただし、試験開始4週間後の、地下水中のシス-1,2ジクロロエチレン、ジクロロメタン、および1,2ジクロロエタンの濃度が地下水基準値以下となっていないことから、酸化鉄単体では、十分な浄化能力がないことが分かった。
【0075】
(微生物の栄養剤および酸化鉄含有粉末の併用による有効性確認試験)
次に、微生物の栄養剤および酸化鉄含有粉末の併用による有効性を確認するために、微生物の栄養剤および酸化鉄含有粉末の併用による有効性確認試験を行った。試験容器に前述のVOC複合汚染現場から採取した地下水4Lを加え、次に濃度が0.75g/Lとなるように日鉄エンジニアリング株式会社製NSバイオアクティVCを添加した。また、濃度が2.5g/Lとなるように石原産業株式会社製MT-V0を添加した。NSバイオアクティVCおよびMT-V0を添加後、容器内の気層部分をなくして嫌気性条件となるように、試験容器内を地下水で満たした(満水状態)。試験開始直後、試験開始4週間後、試験開始7週間後、試験開始12週間後、試験開始18週間後で、試験容器内の地下水を採取し、日本工業規格 K 0125 5.2に基づいて、各揮発性有機化合物の濃度について測定した。得られた結果を表4に示す。なお、嫌気性条件下で、微生物によってエチレン系VOCが減少することは、公知の事実であることから、この試験において、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレンは添加しなかった。なお、表4中の各揮発性有機化合物の濃度の欄の「-」は、測定しなかったことを示す。また、表4中の地下水基準の欄の「-」は、地下水基準値がないことを示す。表4中のNDは不検出であることを示す。
【0076】
【0077】
表4に示す通り、試験開始後18週後の地下水中のジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、オルト―ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼン、およびパラ-ジクロロベンゼンの濃度は減少した。そのため、微生物の栄養剤および酸化鉄含有粉末の併用には浄化能力があることが確認できた。
【0078】
(嫌気性条件下および好気性条件下での微生物の栄養剤および酸化鉄含有粉末の併用による有効性確認試験)
次に微生物の栄養剤および酸化鉄含有粉末を添加し、嫌気性条件および好気性条件で試験を行った。具体的には、試験容器に前述のVOC複合汚染現場から採取した地下水4Lを加え、次に濃度が1g/Lとなるように日鉄エンジニアリング株式会社製NSバイオアクティVCを添加した。また、濃度が25g/Lとなるように石原産業株式会社製MT-V0を添加した。NSバイオアクティVCおよびMT-V0を添加後、容器内の気層部分をなくして嫌気性条件となるように、試験容器内を地下水で満たした(満水状態)。試験開始41日後、好気性条件となるように、試験容器内を酸素に置換し、スターラーで緩やかに攪拌した。嫌気性条件開始直後、嫌気性条件開始4週間後、好気性条件開始4週間後、好気性条件開始8週間後、好気性条件開始15週間後で、試験容器内の地下水を採取し、日本工業規格 K 0125 5.2に基づいて、各揮発性有機化合物の濃度について測定した。得られた結果を表5に示す。また、同時に酸化還元電位は堀場社製ポータブルORP測定器を用いて測定した。なお、嫌気性条件下で、微生物によってエチレン系VOCが減少することは、公知の事実であることから、この試験において、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレンは添加しなかった。なお、表5中の各揮発性有機化合物の濃度の欄の「-」は、測定しなかったことを示す。また、表5中の地下水基準の欄の「-」は、地下水基準値がないことを示す。
【0079】
【0080】
表5に示す通り、嫌気性条件下での浄化工程開始4週間後、地下水中のジクロロメタンおよび1,2-ジクロロエタンが減少した。特にジクロロメタンは、酸化鉄含有粉末単独の場合よりも大きく減少した。このことから、酸化鉄含有粉末と微生物の栄養剤とを併用することで、併用しない場合よりも高い浄化性能が得られることが分かった。
【0081】
表5に示す通り、嫌気性条件下での浄化工程の終了後、好気性条件下での浄化工程4週間実施することで、地下水中のジクロロメタン、オルト―ジクロロベンゼン、メタ-ジクロロベンゼン、およびパラ-ジクロロベンゼンの濃度が地下水基準値以下に減少した。また、1、2-ジクロロエタンも好気性条件下での浄化工程に入った後、大きく減少し、かつ、好気性条件下での浄化工程の期間を長くするほど減少した。
好気性条件下での浄化工程のみでは十分な分解が困難であったVOCでも、一旦、嫌気性条件下での浄化工程下にすることで嫌気性条件下での浄化工程後の好気性条件下での浄化工程において分解されやすくなる。表1の実験結果および表5の実験結果を評価してみると、例えば、ジクロロベンゼンは元来好気性条件下で分解される物質だが、表1の好気性条件下での浄化工程のみ適用した場合より表5の嫌気性条件下での浄化工程後に好気性条件下での浄化工程を適用した場合の方が、より濃度が低下していることが分かる。これは、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタンについても同様であった。以上より、嫌気性条件下での浄化工程後に、好気性条件下での浄化工程を実施することで、嫌気性条件下での浄化工程単独または好気性条件下での浄化工程単独の場合よりも高い浄化性能を得ることができることが分かった。そして、表4の実験結果および表5の実験結果を評価してみると、表4の嫌気性条件下での浄化工程のみ適用した場合より表5の嫌気性条件下での浄化工程後に好気性条件下での浄化工程も適用した場合の方が、高い浄化性能を得ることができることが分かった。酸化鉄は、嫌気性条件と好気性条件を組み合わせた環境下で、汚染された土壌または地下水の浄化のために用いられることは知られていなかった。しかし、本発明者らが鋭意検討した結果、微生物の栄養剤と酸化鉄含有粉末とを汚染された土壌または地下水に添加した後、嫌気性条件環境下で微生物によって揮発性有機化合物を浄化する工程と、好気性条件環境下で微生物によって揮発性有機化合物を浄化する好気性条件下での浄化工程と、を行うことで、揮発性有機化合物に対して極めて高い浄化性能を得ることができることが分かった。
【0082】
以上、本実施形態に係る浄化方法について詳述した。本発明に係る浄化方法は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨に対して、種々の変形および変更が可能である。上述の実施形態に係る浄化方法では、嫌気性条件下での浄化工程の後に、好気性条件下での浄化工程を実施したが、好気性条件下での浄化工程を先に実施してもよい。また、上述の実施形態に係る浄化方法では、嫌気性条件下での浄化工程と好気性条件下での浄化工程とを1度ずつ実施したが、複数回実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本開示の浄化方法によれば、嫌気性条件下での浄化工程の対象であるエチレン系VOCまたはジクロロメタンまたはテトラクロロメタン(四塩化炭素)のうち1種類以上と、好気性条件下での浄化工程の対象であるエチレン系VOC以外のVOCのうち1種以上の複数種の揮発性有機化合物によって汚染された土壌または地下水を浄化することができるので、産業上の利用可能性が高い。