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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143901
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】回転電機用ステータ製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/04 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
H02K15/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044671
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 弘行
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛
(72)【発明者】
【氏名】西村 悠哉
(72)【発明者】
【氏名】池谷 岳則
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615PP01
5H615PP14
5H615QQ03
5H615SS17
(57)【要約】
【課題】コイル片同士の当接面に応じたレーザ照射位置を精度良く決定する。
【解決手段】ステータコイルのコイル片をステータコアに組み付ける組付工程と、組付工程の後に、コイル片の端部同士又はコイル片の端部とバスバーの端部とをレーザ溶接により接合する接合工程とを含み、接合工程は、接合対象の2つの端部同士を当接させるセット工程と、セット工程の後に、2つの端部を撮像した画像において、2つの端部同士の当接面に連続する非当接面に係る画像特徴を検出する画像認識工程と、画像認識工程の後に、画像認識した非当接面に係る画像特徴に基づいて、レーザ照射位置を決定する決定工程とを含む、回転電機用ステータ製造方法が開示される。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコイルのコイル片をステータコアに組み付ける組付工程と、
前記組付工程の後に、前記コイル片の端部同士又は前記コイル片の端部とバスバーの端部とをレーザ溶接により接合する接合工程とを含み、
前記接合工程は、
接合対象の2つの端部同士を当接させるセット工程と、
前記セット工程の後に、前記2つの端部を撮像した画像において、前記2つの端部同士の当接面に連続する非当接面に係る画像特徴を検出する画像認識工程と、
前記画像認識工程の後に、画像認識した前記非当接面に係る画像特徴に基づいて、レーザ照射位置を決定する決定工程とを含む、回転電機用ステータ製造方法。
【請求項2】
前記画像認識工程は、前記2つの端部のそれぞれにおける前記非当接面に係る画像特徴を検出する、請求項1に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項3】
前記決定工程は、前記画像における前記画像特徴のそれぞれに係る画素位置又はその近傍を通る直線に基づいて、前記レーザ照射位置を直線状に変化させる、請求項2に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項4】
前記画像は、前記非当接面に光軸が沿うように位置付けられたカメラにより撮像され、
前記画像特徴は、前記画像における前記非当接面に交差する方向に沿った輝度差のエッジを含む、請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項5】
前記セット工程は、治具により前記2つの端部を位置付けることを含み、
前記非当接面は、該非当接面に垂直な方向で、前記治具に隙間をもって対向する、請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用ステータ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つのコイル片を径方向で当接させてクランプ治具で固定し、当接させた2つのコイル片及びクランプ治具を撮像するステップと、撮像した画像においてクランプ治具の2つのクランプ面を画像認識するステップと、認識した2つのクランプ面の中心線を2つのコイル片の当接面として検出するステップと、検出した当接面に対応する位置で2つのコイル片をレーザ溶接する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-093293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、当接面とは不連続なクランプ面の画像認識結果に基づいてレーザ照射位置を決定していることから、コイル片の厚み(当接面に垂直な方向の厚み)の個体差等に起因して、接合する2つのコイル片の組ごとに、コイル片同士の当接面に精度良くレーザビームを照射することが難しい。
【0005】
そこで、1つの側面では、コイル片同士の当接面に応じたレーザ照射位置を精度良く決定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、ステータコイルのコイル片をステータコアに組み付ける組付工程と、
前記組付工程の後に、前記コイル片の端部同士又は前記コイル片の端部とバスバーの端部とをレーザ溶接により接合する接合工程とを含み、
前記接合工程は、
接合対象の2つの端部同士を当接させるセット工程と、
前記セット工程の後に、前記2つの端部を撮像した画像において、前記2つの端部同士の当接面に連続する非当接面に係る画像特徴を検出する画像認識工程と、
前記画像認識工程の後に、画像認識した前記非当接面に係る画像特徴に基づいて、レーザ照射位置を決定する決定工程とを含む、回転電機用ステータ製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本発明によれば、コイル片同士の当接面に応じたレーザ照射位置を精度良く決定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図2】ステータコアの単品状態の平面図である。
図3】ステータコアに組み付けられる1対のコイル片を模式的に示す図である。
図4】ステータのコイルエンド周辺の斜視図である。
図5】同相のコイル片の一部を抜き出して示す斜視図である。
図6】一のコイル片の概略正面図である。
図7】互いに接合されたコイル片の先端部及びその近傍を示す図である。
図8】溶接対象箇所を通る図7のラインA-Aに沿った断面図である。
図9】レーザ波長と各種材料の個体に対するレーザ吸収率との関係を示す図である。
図10】溶接中の吸収率の変化態様の説明図である。
図11A】グリーンレーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図である。
図11B】赤外レーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図である。
図12】本実施例によるグリーンレーザによる溶接方法の説明図である。
図13】モータのステータの製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
図14】画像認識工程及び照射位置決定工程の説明図である。
図15】先端部画像の説明図である。
図16】レーザ照射位置の移動軌跡の算出方法の説明図である。
図17】画像認識工程及び照射位置決定工程において処理装置により実現される処理の流れを示す概略的なフローチャートである。
図18】先端部のそれぞれの厚みに有意差がある場合の問題点の説明図である。
図19】他の溶接対象箇所への適用例を上面視で示す図である。
図20】他の溶接対象箇所への適用例を側面視で示す図である。
図21】他の溶接対象箇所への適用例に係る先端部画像の説明図である。
図22】更なる他の溶接対象箇所への適用例を示す図である。
図23】バスバーとコイル片との間の接合部を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。なお、本明細書において、「所定」とは、「予め規定された」という意味で用いられている。
【0010】
図1は、一実施例によるモータ1(回転電機の一例)の断面構造を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸12が図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)12が延在する方向を指し、径方向とは、回転軸12を中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸12から離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸12に向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸12まわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナーロータ型であり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、径方向外側がモータハウジング10に固定される。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸12を画成する。
【0015】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板から形成される。ロータコア32の内部には、永久磁石321が挿入される。永久磁石321の数や配列等は任意である。変形例では、ロータコア32は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。
【0016】
ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレート35A、35Bが取り付けられる。エンドプレート35A、35Bは、ロータコア32を支持する支持機能の他、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。
【0017】
ロータシャフト34は、図1に示すように、中空部34Aを有する。中空部34Aは、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。中空部34Aは、油路として機能してもよい。例えば、中空部34Aには、図1にて矢印R1で示すように、軸方向の一端側から油が供給され、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝って油が流れることで、ロータコア32を径方向内側から冷却できる。また、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝う油は、ロータシャフト34の両端部に形成される油穴341、342を通って径方向外側へと噴出され(矢印R5、R6)、コイルエンド220A、220Bの冷却に供されてもよい。
【0018】
なお、図1では、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、溶接により接合されるステータコイル24(後述)を有する限り、任意である。従って、例えば、ロータシャフト34は、中空部34Aを有さなくてもよいし、中空部34Aよりも有意に内径の小さい中空部を有してもよい。また、図1では、特定の冷却方法が開示されているが、モータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、中空部34A内に挿入される油導入管が設けられてもよいし、モータハウジング10内の油路から径方向外側からコイルエンド220A、220Bに向けて油が滴下されてもよい。
【0019】
また、図1では、ロータ30がステータ21の内側に配されたインナーロータ型のモータ1であるが、他の形態のモータに適用されてもよい。例えば、ステータ21の外側にロータ30が同心に配されたアウターロータ型のモータや、ステータ21の外側及び内側の双方にロータ30が配されたデュアルロータ型のモータ等に適用されてもよい。
【0020】
次に、図2以降を参照して、ステータ21に関する構成を詳説する。
【0021】
図2は、ステータコア22の単品状態の平面図である。図3は、ステータコア22に組み付けられる1対のコイル片52を模式的に示す図である。図3では、ステータコア22の径方向内側を展開した状態で、1対のコイル片52とスロット220との関係が示される。また、図3では、ステータコア22が点線で示され、スロット220の一部については図示が省略されている。図4は、ステータ21のコイルエンド220A周辺の斜視図である。図5は、同相のコイル片の一部を抜き出して示す斜視図である。
【0022】
ステータ21は、ステータコア22と、ステータコイル24とを含む。
【0023】
ステータコア22は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるが、変形例では、ステータコア22は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。なお、ステータコア22は、周方向で分割される分割コアにより形成されてもよいし、周方向で分割されない形態であってもよい。ステータコア22の径方向内側には、ステータコイル24が巻回される複数のスロット220が形成される。具体的には、ステータコア22は、図2に示すように、円環状のバックヨーク22Aと、バックヨーク22Aから径方向内側に向かって延びる複数のティース22Bとを含み、周方向で複数のティース22B間にスロット220が形成される。スロット220の数は任意であるが、本実施例では、一例として、48個である。
【0024】
ステータコイル24は、U相コイル、V相コイル、及びW相コイル(以下、U、V、Wを区別しない場合は「相コイル」と称する)を含む。各相コイルの基端は、入力端子(図示せず)に接続されており、各相コイルの末端は、他の相コイルの末端に接続されてモータ1の中性点を形成する。すなわち、ステータコイル24は、スター結線される。ただし、ステータコイル24の結線態様は、必要とするモータ特性等に応じて、適宜、変更してもよく、例えば、ステータコイル24は、スター結線に代えて、デルタ結線されてもよい。
【0025】
各相コイルは、複数のコイル片52を接合して構成される。図6は、一のコイル片52の概略正面図である。コイル片52は、相コイルを、組み付けやすい単位(例えば2つのスロット220に挿入される単位)で分割したセグメントコイルの形態である。コイル片52は、断面略矩形の線状導体(平角線)60を、絶縁被膜62で被覆してなる。本実施例では、線状導体60は、一例として、銅により形成される。ただし、変形例では、線状導体60は、鉄のような他の導体材料により形成されてもよい。
【0026】
コイル片52は、ステータコア22に組み付ける前の段階では、一対の直進部50と、当該一対の直進部50を連結する連結部54と、を有した略U字状に成形されてよい。コイル片52をステータコア22に組み付ける際、一対の直進部50は、それぞれ、スロット220に挿入される(図3参照)。これにより、連結部54は、図3に示すように、ステータコア22の軸方向他端側において、複数のティース22B(及びそれに伴い複数のスロット220)を跨ぐように周方向に延びる。連結部54が跨ぐスロット220の数は、任意であるが、図3では3つである。また、直進部50は、スロット220に挿入された後は、図6において、二点鎖線で示すように、その途中で周方向に屈曲される。これにより、直進部50は、スロット220内において軸方向に延びる脚部56と、ステータコア22の軸方向一端側において周方向に延びる渡り部58と、になる。
【0027】
なお、図6では、一対の直進部50は、互いに離れる方向に屈曲するが、これに限られない。例えば、一対の直進部50は、互いに近づく方向に屈曲されてもよい。また、ステータコイル24は、3相の相コイルの末端同士を連結して中性点を形成するための中性点用コイル片等も有することがある。
【0028】
一つのスロット220には、図6に示すコイル片52の脚部56が複数、径方向に並んで挿入される。従って、ステータコア22の軸方向一端側には、周方向に延びる渡り部58が複数、径方向に並ぶ。図3及び図5に示すように、一つのスロット220から飛び出て周方向第1側(例えば時計回りの向き)に延びる一のコイル片52の渡り部58は、他のスロット220から飛び出て周方向第2側(例えば反時計回りの向き)に延びる他の一のコイル片52の渡り部58に接合される。
【0029】
本実施例では、一例として、1つのスロット220に6つのコイル片52が組み付けられる。以下では、径方向で最も外側のコイル片52から順に、第1ターン、第2ターン、第3ターンとも称する。この場合、第1ターンのコイル片52と第2ターンのコイル片52とは、後述の接合工程により先端部40同士が接合され、第3ターンのコイル片52と第4ターンのコイル片52とは、後述の接合工程により先端部40同士が接合され、第5ターンのコイル片52と第6ターンのコイル片52とは、後述の接合工程により先端部40同士が接合される。
【0030】
ここで、コイル片52は、上述したとおり、絶縁被膜62で被覆されているが、先端部40だけは、当該絶縁被膜62が除去される。これは、先端部40にて他のコイル片52との電気的接続を確保するためである。また、図5及び図6に示すように、コイル片52の先端部40のうち、最終的に軸方向外側端面42、すなわち、コイル片52の幅方向一端面(軸方向外側端面42)を、軸方向外側に凸の円弧面としている。
【0031】
図7は、互いに接合されたコイル片52の先端部40及びその近傍を示す図である。なお、図7には、溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が模式的に示される。図8は、溶接対象箇所90を通る図7のラインA-Aに沿った断面図である。
【0032】
コイル片52の先端部40を接合する際には、一のコイル片52と他の一のコイル片52は、それぞれの先端部40が、図7に示すビュー(当接面401に対して垂直な方向視)でC字状をなす態様で、突き合わせられる。この際、互いに接合される2つの先端部40を、それぞれの円弧面(軸方向外側端面42)の中心軸が一致するように、その厚み方向に重ねて接合されてよい。このように中心軸を合わせて重ねることで、屈曲角度αが比較的大きい場合や小さい場合でも、互いに接合される2つの先端部40の軸方向外側のラインが一致し、適切に、重ね合わせることができる。
【0033】
この場合、溶接対象箇所90は、範囲D1及び範囲D2に示すように、当接面401に沿って直線状に延在する。すなわち、溶接対象箇所90は、レーザビーム110の照射側から視て(図7及び図8の矢印W参照)、範囲D2の幅で、範囲D1にわたり直線状に延在する。なお、当接面401とは、一のコイル片52と他の一のコイル片52のそれぞれにおいて互いに径方向に対向する表面のうちの、径方向に当接し合う表面を指す。
【0034】
ここで、本実施例では、コイル片52の先端部40を接合する際の接合方法としては、溶接が利用される。そして、本実施例では、溶接方法としては、TIG溶接に代表されるアーク溶接ではなく、レーザビーム源を熱源とするレーザ溶接が採用される。TIG溶接に代えて、レーザ溶接を用いることで、コイルエンド220A、220Bの軸方向の長さを低減できる。すなわち、TIG溶接の場合は、当接させるコイル片の先端部同士を軸方向外側に屈曲させて軸方向に延在させる必要があるのに対して、レーザ溶接の場合は、かかる屈曲の必要性がなく、図7に示すように、当接させるコイル片52の先端部40同士を周方向に延在させた状態で溶接を実現できる。これにより、当接させるコイル片52の先端部40同士を軸方向外側に屈曲させて軸方向に延在させる場合に比べて、コイルエンド220A、220Bの軸方向の長さを低減できる。
【0035】
レーザ溶接では、図5に模式的に示すように、当接された2つの先端部40における溶接対象箇所90に溶接用のレーザビーム110を当てる。なお、レーザビーム110の照射方向(伝搬方向)は、軸方向に略平行であり、当接された2つの先端部40の軸方向外側端面42に、軸方向外側から向かう方向である。レーザ溶接の場合は、局所的に加熱できるため、先端部40及びその近傍のみを加熱することができ、絶縁被膜62の損傷(炭化)等を効果的に低減できる。その結果、適切な絶縁性能を維持したまま、複数のコイル片52を電気的に接続できる。
【0036】
溶接対象箇所90の周方向の範囲D1は、図7に示すように、2つのコイル片52の先端部40同士の当接部分における軸方向外側端面42の周方向の全範囲D0のうちの、両端を除く部分である。両端は、軸方向外側端面42の凸の円弧面に起因して、十分な溶接深さ(図7の寸法L1参照)を確保し難いためである。溶接対象箇所90の周方向の範囲D1は、コイル片52間での必要な接合面積や必要な溶接強度等が確保されるように適合されてよい。
【0037】
溶接対象箇所90の径方向の範囲D2は、図8に示すように、2つのコイル片52の先端部40同士の当接面401を中心とする。溶接対象箇所90の径方向の範囲D2は、レーザビーム110の径(ビーム径)に対応してよい。すなわち、レーザビーム110は、照射位置が径方向に実質的に変化することなく周方向に沿って直線的に変化する態様で、照射される。更に換言すると、レーザビーム110は、照射位置が当接面401に対して平行な直線状に変化するように移動される。これにより、例えばループ状(螺旋状)やジグザク状(蛇行)等に照射位置を変化させる場合に比べて、効率的に、直線状の溶接対象箇所90にレーザビーム110を照射できる。
【0038】
図9は、レーザ波長と各種材料の個体に対するレーザ吸収率(以下、単に「吸収率」とも称する)との関係を示す図である。図9では、横軸に波長λを取り、縦軸に吸収率を取り、銅(Cu)、アルミ(Al)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の各種材料の個体に係る特性が示される。
【0039】
ところで、レーザ溶接で一般的に用いられる赤外レーザ(波長が1064nmのレーザ)は、図9にてλ2=1.06μmの点線との交点の黒丸で示すように、コイル片52の線状導体60の材料である銅に対して吸収率が約10%と低い。すなわち、赤外レーザの場合、レーザビーム110の大部分は、コイル片52で反射してしまい、吸収されない。このため、接合対象のコイル片52間での必要な接合面積を得るためには比較的大きい入熱量が必要となり、熱影響が大きく、溶接が不安定となるおそれがある。
【0040】
この点を鑑み、本実施例では、赤外レーザに代えて、グリーンレーザを利用する。なお、グリーンレーザとは、波長が532nmのレーザ、すなわちSHG(Second Harmonic Generation:第2高調波)レーザのみならず、532nmに近い波長のレーザをも含む概念である。なお、変形例では、グリーンレーザの範疇に属さない0.6μm以下の波長のレーザが利用されてもよい。グリーンレーザに係る波長は、例えばYAGレーザやYVO4レーザで生み出された基本波長を酸化物単結晶(例えば、LBO:リチウムトリボレート)に通して変換することで得られる。
【0041】
グリーンレーザの場合、図9にてλ1=0.532μmの点線との交点の黒丸で示すように、コイル片52の線状導体60の材料である銅に対して吸収率が約50%と高い。従って、本実施例によれば、赤外レーザを利用する場合に比べて、少ない入熱量で、コイル片52間での必要な接合面積を確保することが可能となる。
【0042】
なお、赤外レーザに比べてグリーンレーザの方が吸収率が高くなるという特性は、図9に示すように、銅の場合において顕著であるが、銅のみならず、他の金属材料の多くにおいて確認できる。従って、コイル片52の線状導体60の材料が銅以外の場合でもグリーンレーザによる溶接が実現されてもよい。
【0043】
図10は、溶接中の吸収率の変化態様の説明図である。図10では、横軸にレーザパワー密度を取り、縦軸に銅のレーザ吸収率を取り、グリーンレーザの場合の特性100Gと、赤外レーザの場合の特性100Rとが示される。
【0044】
図10では、グリーンレーザの場合と赤外レーザの場合における銅の溶融が開始するポイントP1、P2が示されるとともに、キーホールが形成されるポイントP3が示される。図10にポイントP1、P2にて示すように、赤外レーザに比べてグリーンレーザの方が、小さいレーザパワー密度で銅の溶融を開始させることができることが分かる。また、上述した吸収率の相違に起因して、赤外レーザに比べてグリーンレーザの方が、キーホールが形成されるポイントP3での吸収率と照射開始時の吸収率(すなわちレーザパワー密度が0のときの吸収率)との差が小さいことが分かる。具体的には、赤外レーザの場合、溶接中の吸収率の変化が約80%であるのに対して、グリーンレーザの場合、溶接中の吸収率の変化が約40%となり、約半分である。
【0045】
このように、赤外レーザの場合、溶接中の吸収率の変化(落差)が約80%と比較的大きいため、キーホールが不安定となり溶接深さや溶接幅のバラツキや溶融池の乱れ(例えば、スパッタ等)が生じやすい。これに対して、グリーンレーザの場合、溶接中の吸収率の変化(落差)が約40%と比較的小さいため、キーホールが不安定となり難く、また、溶接深さや溶接幅のバラツキや溶融池の乱れ(例えばスパッタ等)が生じ難い。なお、スパッタとは、レーザ等を照射することにより飛散する金属粒等である。
【0046】
なお、赤外レーザの場合、上述のように吸収率が低いため、ビーム径を比較的小さくする(例えばφ0.075mm)ことで、吸収率の低さを補うことが一般的である。この点も、キーホールが不安定となる要因となる。なお、図11Bは、赤外レーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図であり、1100は、溶接ビードを示し、1102は、溶融池を示し、1104は、キーホールを示す。また、矢印R1116は、ガス抜けの態様を模式的に示す。また、矢印R110は、ビーム径が小さいことに起因して赤外レーザの照射位置が移動される様子を模式的に示す。このように、赤外レーザの場合、上述のように吸収率が低くビーム径を比較的大きくすることが難しいことに起因して、必要な溶融幅を得るために蛇行を含んだ比較的長い照射位置の移動軌跡(連続的な照射時間)が必要となる傾向がある。
【0047】
他方、グリーンレーザの場合、上述のように吸収率が比較的高いため、ビーム径を比較的大きくする(例えばφ0.1mm以上)ことが可能であり、キーホールを大きくして安定化することができる。これにより、ガス抜けが良好となり、スパッタ等の発生を効果的に低減できる。なお、図11Aは、グリーンレーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図であり、符号の意義は図11Bを参照して上述したとおりである。グリーンレーザの場合、図11Aから、ビーム径の拡大に起因してキーホールが安定化しガス抜けが良好となる様子がイメージとして容易に理解できる。また、グリーンレーザの場合、赤外レーザの場合とは対照的に、上述のように吸収率が比較的高くビーム径を比較的大きくすることが可能であることから、必要な溶融幅(図8に示す溶接対象箇所90の径方向の範囲D2参照)を得るために必要な照射位置の移動軌跡(照射時間)を比較的短く(小さく)できる。
【0048】
図12は、本実施例によるグリーンレーザによる溶接方法の説明図である。図12では、横軸に時間を取り、縦軸にレーザ出力を取り、溶接の際のレーザ出力の時系列波形を模式的に示す。
【0049】
本実施例では、図12に示すように、レーザ出力3.8kWでグリーンレーザのパルス照射により溶接を実現する。図12では、10msecだけレーザ出力3.8kWとなるようにレーザ発振器のパルス発振が実現され、インターバル100msec後に、再び、10msecだけレーザ出力3.8kWとなるようにレーザ発振器のパルス発振が実現される。以下では、このようにして一回のパルス発振により可能なパルス照射(10msecのパルス照射)の1回分を、「1パス」とも称する。なお、図12では、1パス目(N=1)から3パス目(N=3)の照射がパルス波形130Gで示され、Nは、Nパス目かを表す(以下、図18においても同様)。また、図12には、比較用として、赤外レーザの場合のパルス照射に係るパルス波形130Rが併せて示される。
【0050】
ここで、グリーンレーザの場合、レーザ発振器の出力が低く(例えば連続的な照射時は最大で400W)、深い溶け込みを確保するために必要な高出力(例えばレーザ出力3.0kW以上の高出力)を得ることが難しい。すなわち、グリーンレーザは、上述のように酸化物単結晶のような波長変換結晶を通して生成されるので、波長変換結晶を通る際に出力が低下する。このため、グリーンレーザのレーザビームを連続的に照射しようとすると、深い溶け込みを確保するために必要な高出力を得ることができない。
【0051】
この点、本実施例では、上述のように、深い溶け込みを確保するために必要な高出力(例えばレーザ出力3.0kW以上の高出力)を、グリーンレーザのパルス照射により確保する。これは、連続的な照射の場合は例えば最大で400Wしか出力できない場合でも、パルス照射であれば、例えば3.0kW以上の高出力が可能となるためである。このようにして、パルス照射は、ピークパワーを上げるための連続エネルギを蓄積してパルス発振することで実現される。一の溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が比較的広い場合、当該一の溶接対象箇所に対して、複数回のパルス発振が実現されてよい。すなわち、当該一の溶接対象箇所に対して、比較的高いレーザ出力(例えばレーザ出力3.0kW以上)による2パス以上の照射が実行されてよい。これにより、上述の溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が比較的広い場合でも、溶接対象箇所90の全体にわたり深い溶け込みを確保しやすくなり、高い品質の溶接を実現できる。
【0052】
なお、図12では、インターバルが特定の値100msecであるが、インターバルは、任意であり、必要な高出力が確保される範囲内で最小化されてよい。また、図12では、レーザ出力は特定の値3.8kWであるが、レーザ出力は、3.0kW以上であれば、必要な溶接深さが確保される範囲内で適宜変更されてよい。
【0053】
図12では、赤外レーザの場合として、レーザ出力2.3kWで、比較的長い時間である130msec間、連続的に照射される際のパルス波形130Rが併せて示される。赤外レーザの場合は、グリーンレーザとは異なり、比較的高いレーザ出力(2.3kW)で連続的な照射が可能である。ただし、上述したように、赤外レーザの場合、必要な溶融幅を得るために蛇行を含んだ比較的長い照射位置の移動軌跡(連続的な照射時間)が必要となり、この場合、入熱量は、約312Jであり、図12に示すグリーンレーザの場合の入熱量である約80J(2パスの場合)に対して、有意に大きくなる。
【0054】
このようにして、本実施例によれば、グリーンレーザを利用することで、赤外レーザを利用する場合に比べて、コイル片52の線状導体60の材料(本例では銅)に対して高い吸収率を有するレーザビームによる溶接が可能となる。これにより、必要な溶融幅(図8に示す溶接対象箇所90の径方向の範囲D2参照)を得るために必要な照射位置の移動軌跡(時間)を比較的短く(小さく)できる。すなわち、比較的大きいビーム径による1回のパルス発振あたりの、増加されたキーホールに起因して、必要な溶融幅を得るために必要なパルス発振回数を比較的少なくできる。この結果、比較的少ない入熱量で、コイル片52間での必要な接合面積を確保することが可能となる。
【0055】
また、本実施例によれば、一の溶接対象箇所に対して2パス以上のグリーンレーザの照射を実行することが可能であり、この場合、溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が比較的広い場合でも、溶接対象箇所90の全体にわたり深い溶け込みを確保しやすくなり、高い品質の溶接を実現できる。
【0056】
次に、図13以降を参照して、モータ1のステータ21の製造方法を説明しつつ、画像認識によるレーザ照射位置決定方法の好ましい例について説明する。
【0057】
図13は、モータ1のステータ21の製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
【0058】
まず、本製造方法は、図6を参照して上述したようなコイル片52をステータコア22に組み付ける組付工程(ステップS150)を含む。
【0059】
ついで、本製造方法は、組付工程後に、各対となるコイル片52のそれぞれの先端部40同士が径方向に当接するようにセットするセット工程(ステップS152)を含む。
【0060】
セット工程が完了すると、図7に示すように、各対となるコイル片52のそれぞれの先端部40同士は、径方向に当接し合う。セット工程では、治具200(図15参照)を用いて、このような当接状態が実現かつ維持されてよい。
【0061】
ついで、本製造方法は、2つの先端部40を撮像した画像(以下、「先端部画像G40」と称する)において、2つの先端部40同士の当接面401に連続する非当接面403(図7図15参照)に係る画像特徴を検出する画像認識工程(ステップS154)を含む。なお、当接面401に連続する非当接面403は、当接面401が線状導体60における表面であることから、同様に、線状導体60における表面となる。非当接面403は、基本的には、当接面401と同一面内に延在する。
【0062】
非当接面403に係る画像特徴は、非当接面403に直角な方向に沿って先端部画像G40上に現れる輝度差に関する特徴であってよい。本実施例では、非当接面403に係る画像特徴は、非当接面403に直角な方向に沿って先端部画像G40上に現れる輝度差に起因して検出可能なエッジである。このようなエッジの検出(抽出)方法は、任意であり、例えばSobel(ソーベル)フィルタ等が利用されてもよい。画像認識工程の更なる詳細は、後述する。
【0063】
ついで、本製造方法は、画像認識した非当接面403に係るエッジに基づいて、レーザビーム110のレーザ照射位置を決定する照射位置決定工程(ステップS156)を含む。照射位置決定工程では、今回の溶接対象箇所90に対するレーザビーム110のレーザ照射位置の移動軌跡(時系列の変化軌跡)が決定されてよい。例えば、溶接対象箇所90が2パス以上の照射によりカバーされる場合、パスごとのレーザ照射位置の移動軌跡が決定されてよい。照射位置決定工程の更なる詳細は、後述する。
【0064】
ついで、本製造方法は、セット工程後に、上述したように溶接対象箇所90にレーザビーム110を照射する照射工程(ステップS158)を含む。なお、セット工程と照射工程は、1つ以上の所定数の溶接対象箇所90ごとにセットで実行されてもよいし、一のステータ21に係るすべての溶接対象箇所90に対して、一括的に実行されてもよい。なお、本製造方法は、このような照射工程後に、適宜、必要な各種の工程を行うことで、ステータ21を完成させて終了してよい。
【0065】
次に、図14から図17を参照して、図13に示した画像認識工程(ステップS154)及び照射位置決定工程(ステップS156)の更なる詳細を説明する。
【0066】
図14は、画像認識工程及び照射位置決定工程の説明図であり、画像認識工程及び照射位置決定工程で用いられる構成要素を、接合される2つのコイル片52の側面視とともに模式的に示す図である。図15は、先端部画像G40の説明図であり、先端部画像G40の一例を概略的に示す図である。図15には、説明用にエッジ検出領域が点線の囲み部Q1、Q2で示されている。図16は、レーザ照射位置の移動軌跡の算出方法の説明図であり、図15に示す先端部画像G40に、レーザ照射位置の移動軌跡に沿った基準直線L16を一点鎖線で模式的に示す図である。図17は、画像認識工程及び照射位置決定工程において処理装置1400により実現される処理の流れを示す概略的なフローチャートである。
【0067】
本実施例では、画像認識工程及び照射位置決定工程を実現する構成要素は、処理装置1400と、カメラ1402と、レーザ照射装置1404とを含む。
【0068】
処理装置1400は、例えばマイクロコンピュータのようなコンピュータである。なお、以下で説明する処理装置1400の機能は、複数のコンピュータにより実現されてもよいし、外部のサーバコンピュータと協動して実現されてもよい。
【0069】
カメラ1402は、先端部画像G40を生成する。カメラ1402は、図14に模式的に示すように、2つの先端部40の当接面401及び非当接面403を含む部分を、レーザビーム110の照射側から視た(図14の矢印W参照)方向で撮像する。この場合、カメラ1402は、好ましくは、2つの先端部40の当接面401及び非当接面403に光軸が沿うように位置付けられる。この場合、カメラ1402の光軸は、当接面401に略平行となる。ここで、略平行とは、10度程度の誤差を許容する概念である。また、この場合、カメラ1402は、その光軸が、例えば当接面401に実質的に含まれるように、位置付けられてよい。なお、カメラ1402は、位置付けられた位置に固定されてもよいし、位置付けられる位置を変化させながら複数の組の先端部40に係る先端部画像G40を取得してもよい。
【0070】
なお、カメラ1402は、先端部画像G40における必要な輝度を確保するために、照明用の光源(図示せず)を備えてもよい。この場合、光源は、先端部画像G40に係る領域を照明するように配置されてよい。なお、光源は、カメラ1402と一体でなくてもよい。
【0071】
レーザ照射装置1404は、上述したレーザビーム110を照射する装置である。なお、レーザビーム110は、例えば光学的に走査されることで、レーザ照射位置を変化させることができる。
【0072】
本実施例では、処理装置1400は、カメラ1402からの先端部画像G40に基づいて、図17に示す各種処理を実行することで、上述した画像認識工程及び照射位置決定工程を実現してよい。
【0073】
図17に示す各種処理は、溶接対象箇所90ごとに実行されてよい。ただし、先端部画像G40は、複数の溶接対象箇所90に対して共通に取得されてもよい。
【0074】
具体的には、処理装置1400は、まず、今回の処理対象の一の溶接対象箇所90を撮像して得られた先端部画像G40をカメラ1402から取得する(ステップS1700)。
【0075】
ついで、処理装置1400は、ステップS1700で取得した先端部画像G40に対してエッジ検出処理を実行する(ステップS1702)。エッジ検出処理は、先端部画像G40全体に対して実行されてもよいし、所定領域に対してのみ実行されてもよい。図15に示す例では、エッジ検出処理は、Y方向(当接面401に垂直な方向)に沿ったエッジを検出する。
【0076】
ところで、各コイル片52の先端部40は、上述したように絶縁被膜62が除去されているので、光を反射しやすい。従って、先端部画像G40における先端部40に係る画素領域は、比較的高い輝度の画素値を有する。
【0077】
他方、コイル片52の先端部40以外の部位の像や、コイル片52以外の物体に係る像は、先端部画像G40における比較的低い画素値を有する。このような特徴を利用することで、非当接面403に係るエッジを精度良く検出できる。
【0078】
具体的には、先端部画像G40において、先端部40の像の画素値と、Y方向で先端部40に隣接する画素領域の画素値との間には、比較的急峻な輝度変化が生じる。従って、例えば図15の囲み部Q1、Q2において、このような比較的急峻な輝度変化に起因したエッジを検出することで、非当接面403に係るエッジを精度良く検出できる。なお、非当接面403は、当接面401と同様、X方向に延在するので、比較的急峻な輝度変化が生じる画素位置は、X方向に直線状に連続する傾向となる。従って、非当接面403に係るエッジ検出には、かかる傾向が利用されてもよい。
【0079】
なお、当接面401に係るエッジは、このような非当接面403に係るエッジとは異なり、精度良く検出することが難しい。これは、先端部画像G40において、当接面401に係るX方向の区間では、当接する2つの先端部40の像がY方向に連続することから、当接面401のY方向の位置で比較的急峻な輝度変化が生じないためである。
【0080】
ところで、本実施例では、図15に模試的に示すように、コイル片52の非当接面403は、セット工程で用いられる治具200に隙間Δ1をもって径方向(先端部画像G40におけるY方向)に対向する。この場合、隙間Δ1の領域には光が当たり難くなり、暗くなる。これにより、先端部画像G40における非当接面403のエッジが更に明確になり、高い精度検出可能となる。換言すると、非当接面403における治具200に径方向に隙間Δ1をもって対向する部分(図15の囲み部Q1、Q2参照)のエッジを検出することで、非当接面403に係るエッジを精度良く検出できる。
【0081】
なお、本実施例では、治具200は、セット工程において、2つの先端部40を、上述した当接状態に位置付けかつ維持するように機能し、第1治具201と、第2治具202とを含む。第1治具201は、2つの先端部40を径方向に挟む態様で径方向に沿って相対移動可能であり、セット工程において、2つの先端部40を径方向に当接させかつ当該当接状態で維持するように機能してよい。第2治具202は、2つの先端部40の他の自由度を拘束してもよい。
【0082】
本ステップS1702において、処理装置1400は、好ましくは、2つの先端部40のそれぞれの非当接面403に係るエッジを検出する。この場合、X方向の離れた2つの非当接面403に係るエッジが検出されることになるので、後述する基準直線L16の算出精度を効果的に高めることができる。なお、基準直線L16は、後述するように、先端部画像G40における当接面401に沿うように算出される直線であり、算出された基準直線L16が、先端部画像G40における当接面401に一致するほど算出精度が高い。
【0083】
ついで、処理装置1400は、ステップS1702で得たエッジに基づいて、基準直線L16を算出する(ステップS1704)。基準直線L16の算出方法は、ステップS1702で得たエッジを利用する限り任意である。例えば、一方の先端部40に係るエッジ(非当接面403に係るエッジ)が複数の座標値で検出され、他方の先端部40に係るエッジ(非当接面403に係るエッジ)が複数の座標値で検出された場合、処理装置1400は、これらの複数の座標値からの距離(誤差)が最も小さい近似直線を、基準直線L16として算出してもよい。また、一方の先端部40に係るエッジ(非当接面403に係るエッジ)が一の座標値で検出され、他方の先端部40に係るエッジ(非当接面403に係るエッジ)が一の座標値で検出された場合、処理装置1400は、2つの座標値を結ぶ直線を、基準直線L16として算出してもよい。図16には、一方の先端部40に係るエッジの位置1601と、他方の先端部40に係るエッジの位置1602とを結んだ直線が、基準直線L16として、模式的に一点鎖線で示されている。このようにして、非当接面403のエッジを利用することで、当接面401に沿った基準直線L16を精度良く算出できる。
【0084】
ところで、基準直線L16は、一方の先端部40の非当接面403に係るエッジ(非当接面403に係るエッジ)が複数の座標値のみから算出することも可能である。この場合も、非当接面403の周方向の範囲が比較的広い場合は、基準直線L16を精度良く算出できる。しかしながら、2つの先端部40のそれぞれの非当接面403に係るエッジから基準直線L16を算出する場合、軸方向(矢印Wに対応)に視て、周方向で当接面401を挟む2つのエッジから基準直線L16が算出されることから、基準直線L16を安定的に精度良く算出できる。
【0085】
ついで、処理装置1400は、ステップS1704で得た基準直線L16に基づいて、当該基準直線L16に沿ったレーザビーム110の照射位置(図8に示す範囲D2の位置)を決定する(ステップS1706)。具体的には、処理装置1400は、レーザビーム110の照射位置が基準直線L16上で変化するように、レーザビーム110の照射位置の移動軌跡を決定する。なお、溶接対象箇所90の範囲D1(図7参照)の両端(周方向の両端)は、治具200の位置を基準として決定されてよい。
【0086】
このようにして図17に示す各種処理によれば、2つの先端部40を捕捉した先端部画像G40に基づいて、2つの先端部40間の当接面401に沿った基準直線L16を精度良く検出できる。これにより、当接面401に沿ったレーザビーム110の照射位置の移動軌跡を精度良く決定できる。この結果、2つの先端部40間の溶接部の信頼性を効果的に高めることができる。
【0087】
ところで、本実施例では、上述したように、当接面401に連続する非当接面403に係るエッジを検出し、検出したエッジに基づいて、基準直線L16を算出しているが、これに対照的な比較例として、当接面401とは逆側(径方向で逆側)の非当接面404に係るエッジを検出し、検出したエッジに基づいて、基準直線L16’(図18参照)を算出方法が考えられうる(例えば特許文献1参照)。非当接面404に係るエッジも、治具200(例えば第1治具201)との境界で輝度変化が比較的急峻になりうることから、精度良く検出可能である。このような比較例の場合、例えば、非当接面404に係るエッジからそれぞれ算出した直線L17に基づいて、それぞれの直線L17に平行でかつそれぞれの直線L17から等距離(径方向の距離)の直線を、基準直線L16’として算出できる。
【0088】
しかしながら、“発明が解決しようとする課題”の欄で説明したように、このような比較例では、コイル片52の厚み(当接面401に垂直な方向の厚み)の個体差等に起因して、精度良く基準直線L16’を算出することが難しい。例えば、図16に示すように先端部40のそれぞれの厚みをt1、t2とすると、厚みt1が厚みt2と完全に一致する場合(図16参照)は、精度良く基準直線L16’を算出できるものの、図18に示すように厚みt1、t2間に有意差がある場合、基準直線L16’の算出精度が悪くなる。このような厚みt1、t2の間の有意差は、絶縁被膜62を除去する際に生じうる。この結果、算出される基準直線L16’は、厚みt1、t2の差の約半分の誤差で、当接面401に対して径方向にずれることになる。なお、このような誤差は、接合部の信頼性を高める上で無くなる方が望ましい。
【0089】
この点、本実施例によれば、上述したように、当接面401に連続する非当接面403に係るエッジを検出し、検出したエッジに基づいて、基準直線L16を算出するので、厚みt1、t2間に有意差がある場合でも、かかる有意差に影響を受けることなく、精度の高い基準直線L16を算出できる。
【0090】
なお、本実施例においても、非当接面404に係るエッジが検出されてもよく、この場合、非当接面404に係るエッジは、非当接面403に係るエッジを検出する際に利用されてもよい。例えば、非当接面404に係るエッジと非当接面403に係るエッジとは略平行となるので、かかる傾向を利用して、非当接面403に係るエッジの検出精度を高めることとしてもよい。
【0091】
次に、図19から図21を参照して、他の溶接対象箇所90Aへの適用例について説明する。
【0092】
図19及び図20は、他の溶接対象箇所90Aを説明する図であり、図19は、上面視であり、図20は、側面視である。図19及び図20には、溶接対象箇所90Aが溶接開先位置1800で示されている。なお、ここでは、説明用に、図20を側面視として、図20に示すように上下方向を定義するが、実際の搭載状態では、上下方向が図示の方向と異なってもよい
溶接対象箇所90Aは、被溶接ワークW1と被溶接ワークW2との間に設定される。なお、被溶接ワークW1及び被溶接ワークW2は、上述したコイル片52のような、ステータ21用のコイル片であってもよい。あるいは、被溶接ワークW1及び被溶接ワークW2のいずれか一方は、後述するバスバーの端部(図23の端部80、81参照)であってもよい。
本例では、被溶接ワークW1と被溶接ワークW2とは、被溶接ワークW1の先端部40Bの上面に被溶接ワークW2の先端部40Cの下面が上下方向に当接する態様で、接合される。被溶接ワークW1の幅方向の寸法d1は、被溶接ワークW2の幅方向の寸法d2よりも有意に小さい。この場合、図19に示すように、被溶接ワークW1と被溶接ワークW2とは、被溶接ワークW2の幅方向の両端部が被溶接ワークW1の幅方向の両端部から露出する態様で交差されてよい。
【0093】
このような溶接対象箇所90Aに対しても、本実施例による画像認識によるレーザ照射位置決定方法が適用可能である。具体的には、まず、図19のQ3部を撮像して得られる図21に示すような先端部画像G41に基づいて、被溶接ワークW2の先端部40Cにおける非当接面405(当接面402に連続する非当接面405)のエッジが検出される。この場合、非当接面405のエッジは、X方向の急峻な輝度差に基づくエッジとして検出可能であり、好ましくは、図21にて囲み部Q5、Q6で示すように、被溶接ワークW1の両側で検出される。そして、2つ以上のエッジの座標値に基づいて基準直線L17を算出することで、当接面402に沿った基準直線L17を精度良く算出できる。この結果、当接面402に沿ったレーザビーム110の照射位置を精度良く決定できる。
【0094】
このように、本実施例による画像認識によるレーザ照射位置決定方法は、多様な形態の被溶接ワーク間の接合に適用可能であり、具体的には、溶接対象箇所が設定される当接面に対して連続する非当接面を有する場合に適用可能である。例えば、図22に示す溶接対象箇所90Bでは、被溶接ワークW3と被溶接ワークW4とは、被溶接ワークW3に被溶接ワークW4のL字状の先端部が当接する態様で、接合される。この場合も、当接面402Bに連続する非当接面405Bが形成されるので(囲み部Q7、Q8参照)、同様に、非当接面405Bのエッジを検出することで、当接面402Bに沿ったレーザビーム110の照射位置を精度良く決定できる。
【0095】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施例の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0096】
例えば、上述した実施例では、図6に示すように軸方向外側端面42が凸の円弧面に加工された先端部40を有するコイル片52同士を、図7に示すように径方向に当接させることで、溶接対象箇所90を形成しているが、これに限られない。例えば、このような加工がなされていない先端部40(すなわち径方向に視て軸方向外側端面42が直線状に延びて先端面につながる構成)を有するコイル片同士を径方向に当接させることで、溶接対象箇所90を形成してもよい。この場合、コイル片同士は、先端部40(加工がなされていない先端部40)同士が径方向に視てX字状に交差する態様又は径方向に視てC字状又はL字状をなす態様で、径方向に当接されてもよい。
【0097】
また、上述した実施例は、コイル片52の先端部40同士の接合に関するが、コイル片52の先端部40と、バスバーの端部との間の接合にも適用可能である。この場合、バスバーの端部に接合されるコイル片52の先端部40は、動力線や中性点を形成する渡り部の先端部であってよい。
【0098】
例えば、図23には、端子台70に保持されるバスバーの端部80、81とコイル片52Aの先端部40Aとが互いに接合される。なお、この場合、端子台70に保持されるバスバーの一部は、端子台70内において3相の外部端子71に電気的に接続される。このようなバスバーの端部80、81とコイル片52Aの先端部40Aとの間の接合部に対しても、溶接対象箇所が設定される当接面に対して連続する非当接面を有する場合に、本実施例による画像認識によるレーザ照射位置決定方法が適用されてよい。なお、この場合、溶接対象箇所は、バスバーの端部80、81とコイル片52Aの先端部40Aのそれぞれの先端面に現れる当接面の縁部に設定されてもよい。なお、図23において、L方向は軸方向に対応し、R方向は、径方向に対応し、R1側は径方向内側に対応し、R2側は径方向外側に対応する。なお、図23では、バスバーの端部80、81とコイル片52Aの先端部40Aは、径方向又は軸方向に視て完全に重なる態様で当接されているが、特定の方向(例えば周方向)に視てX字状に交差する態様又はC字状又はL字状をなす態様で、特定の方向に当接されてもよい。この場合、溶接対象箇所は、当接面の軸方向外側の縁部に沿って直線状に設定されてよい。
【符号の説明】
【0099】
1・・・モータ(回転電機)、24・・・ステータコイル、52・・・コイル片、40・・・先端部(端部)、22・・・ステータコア、80、81・・・バスバーの端部、110・・・レーザビーム、401、402・・・当接面、403、405・・・非当接面、G40、G41・・・先端部画像(画像)、1402・・・カメラ、200・・・治具、Δ1・・・隙間
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