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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143909
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】酵母由来の可溶性食物繊維含有素材
(51)【国際特許分類】
   A23L 31/15 20160101AFI20220926BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20220926BHJP
【FI】
A23L31/15
A23L33/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044690
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福田 雄典
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD47
4B018MD81
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】酵母素材の可溶成分の食物繊維含量を高めた酵母由来組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】可溶化された食物繊維を、可溶性成分のうち50%以上含有する酵母由来組成物、及び酵母エキス抽出後の酵母菌体又は酵母菌体に夾雑酵素の少ないエンド型のβ1,3-グルカナーゼを作用させることで酵母由来の可溶性食物繊維を得る、酵母由来組成物の製造方法である。酵母菌体は、キャンディダ・ユティリス又はサッカロマイセス・セレビシエであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶化された食物繊維を含有する酵母由来組成物。
【請求項2】
可溶性成分のうち、食物繊維が50%以上であることを特徴とする請求項1の酵母由来組成物。
【請求項3】
酵母エキス抽出後の酵母菌体又は酵母菌体に夾雑酵素の少ないエンド型のβ1,3-グルカナーゼを作用させることを特徴とする請求項1又は2の酵母由来組成物の製造方法。
【請求項4】
酵母菌体がキャンディダ・ユティリス又はサッカロマイセス・セレビシエとする請求項3に記載の食物繊維が可溶化された酵母由来組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は酵母菌体に特定の酵素を作用させて得られる、食物繊維を可溶化した酵母素材に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母には核酸、アミノ酸およびペプチドなど豊富な呈味性成分や栄養成分が含まれており、その抽出物である酵母エキスは天然の調味料や健康食品、微生物用の培地など幅広い分野で用いられている。
酵母エキスの製造方法としては、抽出に使用する酵素や媒体などにより種々の方法が知られており、たとえば特許文献1または特許文献2または特許文献3が挙げられる。
【0003】
一方で、酵母菌体をそのまま利用する方法も知られており、例えば特許文献4または特許文献5が挙げられる。また酵母由来の食物繊維は健康食品として特許文献6のような利用も知られているが、酵母菌体にも食物繊維が含まれている。
【0004】
しかし、酵母菌体の食物繊維に着目して食品や健康食品に利用する場合、食物繊維は不溶性であることが課題となっていた。食物繊維を可溶化する場合、酸加水分解、酵素分解などがあげられるがその場合、食物繊維以外も可溶化されることや食物繊維が分解され消化性糖となることや異味を呈することなどが課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-508675
【特許文献2】特開2020-162465
【特許文献3】特開2020-103231
【特許文献4】特開2013-053083
【特許文献5】特開2018-157763
【特許文献6】特開2007-217435
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明の課題は、食品に添加した際に、添加した食品が持つ風味を変化させることなく食物繊維含量を高めることができ、さらに酵母素材の可溶成分の食物繊維含量を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、エキス分を洗浄除去した酵母菌体に対してエンド型のβ1,3-グルカナーゼを作用させることで、食物繊維を可溶化させることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)可溶化された食物繊維を含有する酵母由来組成物、
(2)可溶性成分のうち、食物繊維が50%以上であることを特徴とする酵母由来組成物、
(3)酵母エキス抽出後の酵母菌体又は酵母菌体に夾雑酵素の少ないエンド型のβ1,3-グルカナーゼを作用させることを特徴とする前記(1)又は(2)の酵母由来組成物の製造方法、
(4)酵母菌体がキャンディダ・ユティリス又はサッカロマイセス・セレビシエとする前記(3)の食物繊維が可溶化された酵母由来組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、従来は酵母菌体の食物繊維のみを可溶化することが難しかったが、酵母から水溶性食物繊維を含有する食品素材として用いることが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を具体的に説明する。
本発明でいう酵母は、主に酵母エキスの原料として用いられる酵母であり、具体的にはサッカロマイセス・セレビシエやキャンディダ・ユティリスなどが挙げられる。
【0011】
酵母菌体を得る方法は、酵母の一般的な培養方法で良い。特に産業用に培養されている方法であれば、制限なく採用することができる。本発明では、バッチ培養、連続培養などの方法にも制限はない。
【0012】
本発明では、酵母菌体として、好適に採用できるのは、酵母エキス抽出後の酵母菌体、すなわち酵母エキス抽出残渣が挙げられる。酵母エキス抽出後の酵母菌体とは具体的には、酵母に熱水、アルカリ性溶液、自己消化、機械的破砕、細胞壁溶解酵素、蛋白質分解酵素、リボヌクレアーゼ、またはデアミナーゼのいずれか一つ以上を用いて抽出処理することにより酵母エキスを抜いた後の酵母菌体である。このような酵母エキス抽出残渣は、一部、飼料、肥料等として活用されているが、多くは産業廃棄物となっている。本発明では、この酵母エキス抽出残渣を有効活用することができる。本発明では、酵母エキス抽出残渣であれば、特に制限なく使用することができる。市販されているものを使用しても良く。例えば、三菱商事ライフサイエンス(株)製の「KR酵母」が挙げられる。
このような酵母エキス抽出残渣は、一般的に、グルカン、マンナン、蛋白質および脂質を主要な成分とするものであるが、構造的にはグルカンおよびマンナンと他の成分が複合体となって強固に結合していることが推察される。
【0013】
また、本発明の酵母菌体として、酵母エキス抽出残渣以外に酵母エキスにすることのできない酵母菌体も挙げられる。例えばビール製造工程から排出された酵母菌体でも良い。なお、このような酵母エキス未抽出の酵母菌体から取得した酵母素材は、酵母エキス抽出後の酵母菌体から取得したものに比べると、相対的な蛋白質含量が低くなる。また、本発明の原料としては、酵母エキス未抽出の酵母菌体を用いても良い。
【0014】
本発明の酵母素材を取得する工程としては、酵母菌体にエンド型β1,3-グルカナーゼ作用させる。エンド型β1,3-グルカナーゼの作用方法は、特に限定されないが、エンド型β1,3-グルカナーゼの添加量、反応時間、条件等は、当業者が採用できる条件で良い。具体例としては、上述の酵母菌体に水を加えて約5~20%濃度に調整、懸濁した後に、エンド型β1,3-グルカナーゼを添加し、30℃にて1~6時間作用させる方法を例示できる。反応時間は酵素の添加量で適宜調整して良い。
【0015】
本発明で使用する前述の酵素は、エンド型β1,3-グルカナーゼである。具体的には、ストレプトマイセス属由来のβグルカナーゼ「デナチームGEL」(ナガセケムテックス社製)、Arthrobacter 属由来のβグルカナーゼ「Zymolyase」(三菱商事ライフサイエンス社製)等があり、中でも「デナチームGEL」が最も望ましい。エンド型β1,3-グルカナーゼが主活性の酵素製剤は、プロテアーゼやエンド型β1,3-グルカナーゼ以外のグルカナーゼを夾雑酵素として含んでおり、このような酵素製剤は、本発明では、食物繊維以外の成分が可溶化されることや、食物繊維が消化糖となり好ましくない。
【0016】
エンド型β1,3-グルカナーゼ反応後は、加熱処理により酵素を失活させた後に、乾燥処理を行い粉末状とする。酵素失活後は、遠心分離又は、膜処理などにより不溶成分を除去しても良い。不溶性成分を除去しない場合は、食物繊維以外にタンパク質なども含む酵母素材として利用することができ、不要性成分を除去した場合は、溶解性の食物繊維を多く含む酵母素材として利用することができる。
【0017】
このようにして得られて本発明の酵母素材は、そのまま、サプリメント等として経口摂取することができるが、飲食品に添加して使用することもできる。サプリメントとしての形態も特に限定されるものではなく、錠剤、カプセル、ソフトカプセル、栄養ドリンク状の形態をとることもできる。添加する飲食品に制限はなく、食物繊維量を多くさせたい飲食品に適宜添加することができる。本発明の酵母素材は、添加した飲食品の味質を変化させにくいため、飲食品の風味を保ったまま、食物繊維含量を豊富にすることができる。さらに、本発明品では段落番号0015に記載のように、不要性成分を除去しない場合、タンパク質等も豊富に含むため、食物繊維だけでなくタンパク質も増加させることができる。
【実施例0018】
以下、実施例により本願発明を具体的に説明する。
<実施例1>
特開2002-101846号公報実施例3に記載のキャンディダ・ユティリス酵母エキス製造方法において、エキス抽出後、遠心分離により除去された菌体残渣を取得し、原料の酵母菌体として用いた。
この酵母菌体100gを水に懸濁して1000gとした後、60℃、pH6.5に調整後、エンド型β1,3-グルカナーゼ製剤(ナガセケムテックス社製「デナチームGEL」)を3g加え、4時間作用させ、さらに121℃、10秒の加熱処理後にドラムドライヤー(カツラギ工業製)にて乾燥処理を行い95gの乾燥物を取得した。乾燥物中の可溶性成分は28gであった。酵素重量法で測定したところ可溶性成分のうちの食物繊維含量は66.5%であった。
【0019】
<実施例2>
実施例1記載の方法で、121℃、10秒の加熱処理前に、5000rpm、10分の遠心分離処理を実施し上清液即ち可溶性成分を785g得た。得られた上清液即ち可溶性成分を121℃、10秒の加熱処理後にスプレードライヤー(GEAジャパン製)にて乾燥処理を行い21gの乾燥物を取得した。酵素重量法で測定したところ可溶性成分のうちの食物繊維含量は59.5%であった。
【0020】
<比較例1>
実施例1において、エンド型β1,3-グルカナーゼを主剤とすし、プロテアーゼなども含む酵母製剤である「スミチームTG」(新日本化学工業社製)を同時に作用させた以外は実施例1と同様の処理を行い96gの乾燥物を取得した。乾燥物中の可溶成分は47gであった。酵素重量法で測定したところ可溶性分のうちの食物繊維含量は11.5%であった。
【0021】
<比較例2>
実施例2において、スミチームTGを同時に作用させた以外は実施例2と同様の処理を行い40gの乾燥物を取得した。酵素重量法で測定したところ可溶性分のうちの食物繊維含量は10.5%であった。
【0022】
<比較例3>
実施例2において、細胞壁溶解酵素を添加しないこと以外は同様に行った。可溶性食物繊維は0%であった。
【0023】
<比較例4>
市販のコーンポタージュ粉末袋(17g内包)に実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3で得られた粉末を3.4g加え更に熱湯を加えて100gとして、官能評価を実施した。
【0024】
比較例4で実施した結果を表1に示した。表1に示した通り、本発明を利用することで、食品の味に影響を与えることなく酵母由来の食物繊維を摂取することができる。
【0025】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0026】
食品に添加することで、酵母由来の水溶性食物繊維を素材の味に影響を与えることなく摂取することができる。たとえば健康食品、ハム・ソーセージやハンバーグなどの畜肉加工食品、蒲鉾などの水産加工食品、クッキーなどの菓子類、パン、麺、餃子の皮などの原料として用いることが出来る。