(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143923
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】繊維分散液
(51)【国際特許分類】
D21H 13/24 20060101AFI20220926BHJP
D21H 17/36 20060101ALI20220926BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20220926BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20220926BHJP
C09K 23/42 20220101ALI20220926BHJP
【FI】
D21H13/24
D21H17/36
C08L67/02
C08L71/02
B01F17/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044712
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 篤弥
【テーマコード(参考)】
4D077
4J002
4L055
【Fターム(参考)】
4D077AA05
4D077AC05
4D077BA01
4D077BA02
4D077BA04
4D077CA12
4D077DD04Y
4D077DD32Y
4D077DD33Y
4D077DD45Y
4J002AB012
4J002BE062
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF081
4J002CH023
4J002CL012
4J002CL032
4J002CL062
4J002FA041
4J002FA042
4J002FD313
4J002GK01
4J002HA07
4L055AF33
4L055AF35
4L055AG88
4L055AH29
4L055AH33
4L055EA30
4L055EA32
4L055FA09
4L055FA23
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は繊維凝集体が非常に発生し難く、非常に高い均一性を有する湿式不織布製品を得られるポリエステル繊維とポリエステル以外の繊維を含むポリエステル複合繊維分散液を提供することにある。
【解決手段】ポリエステル繊維とポリエステル以外の繊維を含む繊維分散液において、プロピレンオキサイド(PO)ユニットの分子量が1450以上、2750以下であり、かつエチレンオキサイド(EO)/POのモル比が2.5/1以上、5.3/1以下のEO/POブロックコポリマーを含むことを特徴とする繊維分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維とポリエステル以外の繊維を含む繊維分散液において、プロピレンオキサイド(PO)ユニットの分子量が1450以上、2750以下であり、かつエチレンオキサイド(EO)/POのモル比が2.5/1以上、5.3/1以下のEO/POブロックコポリマーを含むことを特徴とする繊維分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維をシート状に加工する方法として、抄紙技術を用いて水中に分散させた繊維をシート化する湿式抄紙法が知られている。湿式抄紙法により製造された繊維シートは湿式不織布と呼ばれ、不織布の中でも緻密で均一性が高い特徴を有することから、近年ではリチウムイオン電池やアルミニウム電解コンデンサ等の電気化学素子の部材であるセパレータや海水を淡水化する逆浸透膜の基材等、緻密で均一性が高いことを要求される不織布の応用分野に利用されている。湿式不織布はセルロース繊維等の天然繊維やポリエステル繊維等の合成繊維を単独又は組み合わせることで製造される。
【0003】
ポリエステル繊維は、比較的安価で、比較的耐熱性が高く、吸水が少ない等の優れた特徴を有しており、湿式不織布の原料繊維として広く利用されている。しかしながら、ポリエステル繊維は表面が疎水性であり、親水性のセルロース繊維に比べて水中での分散性が著しく劣る。そのため、湿式不織布用ポリエステル繊維の表面には、親水性を向上させる目的で、油剤と言われる界面活性剤を吸着せしめている。油剤としては、ノニオン系のアルキル・ポリオキシエチレンエーテル、アニオン系のアルキル・ポリオキシエチレンエーテル硫酸塩などが用いられる。
【0004】
特に、ポリエステル繊維とポリエステル繊維以外の合成繊維を複合して湿式不織布を製造する場合、ポリエステル繊維とポリエステル繊維以外の繊維では、異なる油剤を使用している場合が多い。そのため、ポリエステル繊維とポリエステル繊維以外の繊維の双方を含む繊維分散液中では、同種の繊維同士が凝集し、繊維凝集体が発生しやすい問題がある。生じた繊維凝集体は水中に再分散され難く、特に、繊維凝集体が水面に浮遊するようになると、得られる湿式不織布に繊維凝集体がそのまま混入し、繊維の分布が不均一となり、地合の整ったシートを得ることが難しくなる。地合が崩れると不織布強度の低下やピンホール発生の原因となり、製品の性能が著しく低下する。
【0005】
これらの問題に対し、脂肪族カルボン酸とノニオン性界面活性剤であるポリプロピレングリコールをポリエステル繊維を含む繊維分散液に添加し、油剤をミセル化することで繊維の分散安定性を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、ノニオン性界面活性剤であるエチレンオキサイド(EO)/プロピレンオキサイド(PO)ブロックコポリマー(商品名:プルロニック(ビーエーエスエフの登録商標)L-62、旭電化工業(現社名:ADEKA))を繊維分散に使用し、ポリエステル繊維の表面状態を改質することで繊維分散性を向上させる技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、非常に高い均一性を要求される製品の製造に適用するには、特許文献1及び2の技術による繊維凝集体の発生抑制は、未だ不十分な水準に留まっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-005420号公報
【特許文献2】特公昭48-016442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、繊維凝集体が非常に発生し難く、非常に高い均一性を有する湿式不織布を得られるポリエステル繊維とポリエステル繊維以外の繊維を含む繊維分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、下記手段によって解決することができる。
【0009】
ポリエステル繊維とポリエステル以外の繊維を含む繊維分散液において、プロピレンオキサイド(PO)ユニットの分子量が1450以上、2750以下であり、かつエチレンオキサイド(EO)/POのモル比が2.5/1以上、5.3/1以下のEO/POブロックコポリマーを含むことを特徴とする繊維分散液。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、ポリエステル繊維とポリエステル繊維以外の繊維を含む繊維分散液であって、繊維凝集体が非常に発生し難い繊維分散液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ポリエステル繊維とポリエステル繊維以外の繊維を含む繊維分散液(本発明において、「ポリエステル繊維とポリエステル繊維以外の繊維を含む繊維分散液」を、「ポリエステル複合繊維分散液」と略記する場合がある)において、POユニットの分子量が1450以上、2750以下であり、かつEO/POのモル比が2.5/1以上、5.3/1以下のEO/POブロックコポリマーを含むことを特徴とする繊維分散液である。この特徴により、繊維凝集体が非常に発生し難いと言う有利な効果を得ることができる。
【0012】
本発明者は、ポリエステル複合繊維分散液において、繊維凝集体が発生する条件を詳細に検討し、繊維凝集体を発生させないためには、水を主成分とする媒体中に繊維を投入した際に、媒体が繊維の表面を速やかに濡らすこと、繊維同士の二次的な凝集を抑制することが必要であることを見出し、これら2つの条件の双方を具備する界面活性剤として、POユニットの分子量が1450以上、2750以下であり、かつPO/EOのモル比が2.5/1以上5.3/1以下のEO/POブロックコポリマーが有効であることを見出した。
【0013】
本発明において、均一なシートを得やすくなる観点から、ポリエステル複合繊維分散液中の繊維濃度は0.01質量%以上、0.5質量%以下であることが好ましい。分散させるポリエステル繊維の繊維径、ポリエステル繊維以外の繊維の繊維径、及び、繊維に占めるポリエステル繊維の割合に特に制限はないが、繊維径が5μm以下のポリエステル繊維を用いる場合には、特に繊維凝集体が発生しやすいことから、本発明を利用することの意義が大きい。
【0014】
本発明において、ポリエステル複合繊維分散液に含まれるポリエステル繊維に制限はなく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。
【0015】
本発明において、ポリエステル複合繊維分散液に含まれるポリエステル繊維以外の繊維に特に制限はなく、例えば木材パルプ、麻パルプ、リンター、エスパルト、レーヨン、溶剤紡糸セルロース、微小繊維状セルロース、アクリル、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、ポリアミドが挙げられる。ポリアミドには、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドがある。脂肪族ポリアミドとしてはナイロン6及びナイロン66などが挙げられる。また、芯鞘型複合繊維のような複数の繊維材質から成る繊維を含んでも良い。
【0016】
溶剤紡糸セルロース繊維とは、パルプを原料とし、このパルプを溶解することができる溶剤に溶解させ、濾過して不純物を除去した後、乾式紡糸方法又は湿式紡糸方法によって紡糸することで得られる繊維である。溶剤としては、例えば、N-メチルモルフォリン-N-オキサイド、N-メチルピペリジン-N-オキサイド、各種のイオン液体などが挙げられる。
【0017】
本発明において、ポリエステル複合繊維分散液に含まれるEO/POブロックコポリマーはノニオン性界面活性剤であり、(EO)n1(PO)m(EO)n2構造が含まれ、式中、n1及びn2はEO単位の質量平均重合度であり、mはPO単位の質量平均重合度であり、EO/POの割合及びEO/POブロックコポリマー全体の分子量に基づいて計算される。EO/POブロックコポリマーにおけるEO/POのモル比は(n1+n2)/mで示される。EOユニットが親水性を示し、POユニットが疎水性を示す。
【0018】
本発明に用いるEO/POブロックコポリマーは、POユニットの分子量が1450以上、2750以下であり、より好ましくは1750以上、2250以下である。また、EO/POのモル比は2.5/1以上、5.3/1以下であり、より好ましくは4.0/1以上、5.0/1以下である。POユニットの分子量が1450未満であると、ポリエステル繊維表面へのEO/POブロックコポリマーの吸着が弱まり、分散が不十分になる。分子量が2750を超えると、EO/POブロックコポリマー分子同士の相互作用が強くなり、繊維に軟凝集を引き起こす。モル比が2.5/1未満であると、親水基が少なく、ポリエステル繊維の水を主成分とする媒体中への親和性を向上させる効果が弱くなる。モル比が5.3/1を超えると、疎水基の比率が少ないためポリエステル繊維への吸着が弱まり、ポリエステル繊維の水を主成分とする媒体中への親和性が低下し、分散が不十分になる。
【0019】
プロピレンオキサイド(PO)ユニットの分子量が1450以上、2750以下であり、かつエチレンオキサイド(EO)/POのモル比が2.5/1以上、5.3/1以下のEO/POブロックコポリマーは、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、ADEKA製アデカ(登録商標)プルロニック(登録商標)F-68、F-88、Sigma-Aldrich製Kolliphor(登録商標)P188 micro、日油製プロノン(登録商標)#188、#238、ビーエーエスエフ製コリフォール(登録商標)P188 Bio等が挙げられる。
【0020】
ポリエステル繊維に対するEO/POブロックコポリマーの添加量は、ポリエステル繊維の繊維径にもよるが、好ましくはポリエステル繊維1kgあたり1~15gであり、より好ましくは6g~10gである。添加量がポリエステル繊維1kgあたり1g未満であると、EO/POブロックコポリマーを添加したことの効果が得られない場合がある。添加量がポリエステル繊維1kgあたり15gを超えると、繊維分散液が泡立ちしやすくなる場合がある。
【0021】
本発明のポリエステル複合繊維分散液は、湿式抄紙法での不織布の製造に適している。湿式抄紙法では、抄紙機を使用し、不織布を得る。抄紙機は、繊維を水中に分散させた分散液を面に展開し、ワイヤーの裏面から脱水してシート化するワイヤーパート、湿紙、すなわちワイヤーパートにて形成された、大量の水分を含むシートを乾燥させるドライヤーパート、それらを繋ぐ搬送パートにより構成される。ワイヤーパートの形式としては長網、短網、円網などが例示される。2個以上のワイヤーを同時使用し、2層以上の多層構造の不織布を製造することもできる。ドライヤーパートとしては、表面に熱風や乾燥空気を吹き付けて乾燥するエアドライヤー、加熱した金属製円筒の表面に湿紙を接触させることで加熱乾燥するシリンダードライヤー、赤外線により湿紙を加熱する赤外線ドライヤー等の乾燥装置が用いられる。湿式抄紙法による不織布製造においては、繊維の分散性を均一にするため等の目的で、繊維分散液に分散剤、粘剤、消泡剤等の各種添加剤を添加する場合がある。本発明は、そのうち特定の分散剤により非常に良好な繊維の分散性を実現する技術に関する。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1
1リットルの水に、POユニットの分子量が1750、EO/POのモル比が5/1のEO/POブロックコポリマーを0.004g(後記のPET繊維の総量に対して1質量%)添加し、ブレンダーミキサーを用いて均一に攪拌した。次に、0.1dt×3mmの延伸PET繊維を20質量部、全芳香族ポリアミドパルプを50質量部、1.7dt×5mm芯鞘複合型PET繊維を20質量部、微小繊維状セルロースを10質量部添加し2分攪拌することで、繊維濃度0.1質量%の繊維分散液を得た。攪拌後5分間静置して分散安定性を観察した。
【0024】
実施例2
実施例1のEO/POブロックコポリマーの代わりに、POユニットの分子量が2250、EO/POのモル比が5/1のEO/POブロックコポリマーを用いた以外は実施例1と同様にして繊維分散液の調製、分散安定性の観察を行った。
【0025】
比較例1
実施例1のEO/POブロックコポリマーの代わりに、POユニットの分子量が3250、EO/POのモル比が5.5/1のEO/POブロックコポリマーを用いた以外は実施例1と同様にして繊維分散液の調製、分散安定性の観察を行った。
【0026】
比較例2
実施例1のEO/POブロックコポリマーの代わりに、POユニットの分子量が950、EO/POのモル比が16/17(0.94/1)のEO/POブロックコポリマーを用いた以外は実施例1と同様にして繊維分散液の調製、分散安定性の観察を行った。
【0027】
比較例3
実施例1のEO/POブロックコポリマーの代わりに、POユニットの分子量が1750、EO/POのモル比が5/7(0.71/1)のEO/POブロックコポリマーを用いた以外は実施例1と同様にして繊維分散液の調製、分散安定性の観察を行った。
【0028】
比較例4
実施例1のEO/POブロックコポリマーの代わりに、HLB=19.2のポリエチレングリコールジスアセテートを用いた以外は実施例1と同様にして繊維分散液の調製、分散安定性の観察を行った。
【0029】
比較例5
実施例1のEO/POブロックコポリマーの代わりに、HLB=8.1のポリエチレングリコールラウリルエーテルを用いた以外は実施例1と同様にして繊維分散液の調製、分散安定性の観察を行った。
【0030】
比較例6
実施例1のEO/POブロックコポリマーの代わりに、HLB=9.7のポリエチレングリコールラウリルエーテルを主成分としたノニオン性界面活性剤を用いた以外は実施例1と同様にして繊維分散液の調製、分散安定性の観察を行った。
【0031】
上記実施例及び比較例により作製した繊維分散液について、分散安定性を目視により、評価し、その結果を表1に示した。
【0032】
分散安定性の評価基準
○:繊維分散液中の繊維が繊維凝集体を形成せず、液中に均一に分布。
△:繊維分散液中の繊維が繊維凝集体を形成して液面へ浮き、繊維凝集体の底面が液高の半分を超えない。
×:繊維分散液中の繊維が繊維凝集体を形成して液面へ浮き、繊維凝集体の底面が液高の半分を超える。
【0033】
【0034】
表1に示した通り、ポリエステル繊維分散時にPOユニットの分子量が1750以上、2250以下であり、かつEO/POのモル比が5/1のEO/POブロックコポリマーを含む実施例1及び2の繊維分散液は、EO/POブロックコポリマーのPOユニット分子量が2750を超え、かつEO/POのモル比が5.3/1を超えるEO/POブロックコポリマーを含む比較例1、EO/POブロックコポリマーのPOユニットの分子量が1450未満、かつEO/POのモル比が2.5/1未満のEO/POブロックコポリマーを含む比較例2、EO/POブロックコポリマーのモル比が2.5/1未満である比較例3、EO/POブロックコポリマー以外のノニオン性界面活性剤を含む、比較例4~6の繊維分散液と比較して、繊維の分散安定性に優れる。