IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 高周波熱錬株式会社の特許一覧

特開2022-143928高周波焼入処理の冷却工程の評価方法
<>
  • 特開-高周波焼入処理の冷却工程の評価方法 図1
  • 特開-高周波焼入処理の冷却工程の評価方法 図2
  • 特開-高周波焼入処理の冷却工程の評価方法 図3
  • 特開-高周波焼入処理の冷却工程の評価方法 図4
  • 特開-高周波焼入処理の冷却工程の評価方法 図5
  • 特開-高周波焼入処理の冷却工程の評価方法 図6
  • 特開-高周波焼入処理の冷却工程の評価方法 図7
  • 特開-高周波焼入処理の冷却工程の評価方法 図8
  • 特開-高周波焼入処理の冷却工程の評価方法 図9
  • 特開-高周波焼入処理の冷却工程の評価方法 図10
  • 特開-高周波焼入処理の冷却工程の評価方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143928
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】高周波焼入処理の冷却工程の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/10 20060101AFI20220926BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20220926BHJP
   C21D 9/32 20060101ALI20220926BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20220926BHJP
   C21D 1/667 20060101ALI20220926BHJP
   C21D 9/30 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C21D1/10 D
C21D9/00 A
C21D9/32 A
C21D1/00 120
C21D1/10 A
C21D1/667
C21D9/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044719
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100157901
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 達哲
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(74)【代理人】
【識別番号】100197538
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 功
(74)【代理人】
【識別番号】100176751
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 耕平
(72)【発明者】
【氏名】井戸原 修
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大志
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲ガイ▼
【テーマコード(参考)】
4K034
4K042
【Fターム(参考)】
4K034AA02
4K034BA10
4K034DA08
4K034DB03
4K034FA01
4K034FA05
4K034FA08
4K034FB03
4K042AA14
4K042AA16
4K042AA18
4K042AA25
4K042BA03
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA03
4K042DD01
4K042DD02
4K042DD04
4K042DD05
4K042DE02
4K042DF02
(57)【要約】
【課題】ワークの形状が複雑であっても冷却の均一化を図ることができる高周波焼入処理の冷却工程の評価方法を提供する。
【解決手段】高周波焼入処理の冷却工程の評価方法は、ワークの所定部位に圧力センサーシートを貼付する工程と、前記ワークに対して冷却媒体を噴射しつつ、前記圧力センサーシートにより前記冷却媒体の圧力分布を測定する工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの所定部位に圧力センサーシートを貼付する工程と、
前記ワークに対して冷却媒体を噴射しつつ、前記圧力センサーシートにより前記冷却媒体の圧力分布を測定する工程と、
を備えた高周波焼入処理の冷却工程の評価方法。
【請求項2】
前記所定部位は、少なくとも冷却媒体が噴射されるワークの面である請求項1に記載の高周波焼入処理の冷却工程の評価方法。
【請求項3】
前記所定部位は、冷却媒体が噴射される方向と反対の方向に突出する前記ワークの凸部の突出面、又は、冷却媒体が噴射される方向と同じ方向に凹んでいる凹部の底面の少なくとも一方である請求項1に記載の高周波焼入処理の冷却工程の評価方法。
【請求項4】
前記冷却媒体の噴射は、複数の噴射孔が周期的に配列された冷却ジャケットの前記複数の噴射孔を介して行い、
前記圧力センサーシートの圧力センサー素子の配列周期は、前記複数の噴射孔の配列周期以下である請求項1~3のいずれか1つに記載の高周波焼入処理の冷却工程の評価方法。
【請求項5】
前記冷却媒体は、冷却液である請求項1~4のいずれか1つに記載の高周波焼入処理の冷却工程の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高周波焼入処理の冷却工程の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱部と冷却部によりワークを高周波焼入処理する高周波焼入装置が存在する。冷却部は、例えば、ワークの周囲から冷却液を噴射することにより、ワークを冷却する。この場合、冷却液をワークに均一に噴射するために、ワークを囲み、冷却液を分散させる冷却ジャケットが用いられる。
【0003】
ワークの高周波焼入処理予定領域に均一な高周波焼入処理を施すためには、高周波焼入処理予定領域を均一に冷却することが好ましい。ワークが円柱形等の単純な形状であり、高周波焼入処理予定領域が円柱形の側面であれば、冷却液をワークに対して均一に噴射することにより、高周波焼入処理予定領域を均一に冷却することが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭51-146274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ワークの形状が複雑であると、冷却液を均一に噴射しても高周波焼入処理予定領域が均一に冷却されるとは限らない。この場合は、ワークの形状に合わせた冷却ジャケットを作製し用いるが、ワークの形状に対応させた冷却ジャケットを作製しても、高周波焼入処理予定領域が均一に冷却されるかどうかは、実際にワークに対して高周波焼入処理を施し、高周波焼入処理後のワークからサンプルを採取して評価しないと判明しない。また、仮に高周波焼入処理が不均一であったとしても、それが冷却液の不均一性に起因するものか否かを確定することは困難であり、冷却ジャケットの再作製も試行錯誤にならざるを得ない。このため、形状が複雑なワークの高周波焼入処理は、特に、準備に多大な時間を要することが多く、初期コストも高い。
【0006】
実施形態の目的は、ワークの形状が複雑であっても冷却の均一化を図ることができる高周波焼入処理の冷却工程の評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る高周波焼入処理の冷却工程の評価方法は、ワークの所定部位に圧力センサーシートを貼付する工程と、前記ワークに対して冷却媒体を噴射しつつ、前記圧力センサーシートにより前記冷却媒体の圧力分布を測定する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、ワークの形状が複雑であっても冷却の均一化を図ることができる高周波焼入処理の冷却工程の評価方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は第1の実施形態に係る評価方法を示す斜視図であり、図1(b)はその部分断面図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る評価方法を示す分解斜視図である。
図3図3は、横軸に位置をとり縦軸に圧力をとって第1の実施形態における圧力分布の測定結果の一例を示すグラフである。
図4図4は、第1の実施形態におけるワーク上の冷却液の状態を示す部分断面図である。
図5図5(a)は第2の実施形態に係る評価方法を示す斜視図であり、図5(b)はその部分断面図である。
図6図6は、第3の実施形態に係る評価方法を示す部分断面図である。
図7図7(a)は、第4の実施形態に係る評価方法を示す上面図であり、(b)はその部分断面図である。
図8図8(a)は、第5の実施形態に係る評価方法を示す上面図であり、(b)はその部分断面図である。
図9図9(a)は、第6の実施形態に係る評価方法を示す上面図であり、(b)はその部分断面図である。
図10図10(a)は第7の実施形態において用いる冷却ジャケットの噴射面を示す展開図であり、(b)は本実施形態において用いる圧力センサーシートを示す平面図である。
図11図11(a)~(h)は、冷却ジャケットに構成されている噴射面における目詰まりした噴射孔の分布と冷却液の圧力分布との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態の高周波焼入処理は、加熱工程と冷却工程を有する。冷却工程においては、ワークに冷却液(例えば、水)を噴射して冷却する。本実施形態は、高周波焼入処理の冷却工程において、ワークの表面における冷却液の圧力分布を測定することにより、冷却工程を評価する方法である。なお、ここでいう「高周波焼入処理」とは、高周波焼入れ、焼なまし(焼鈍)、焼戻し等の総称であり、加熱工程だけでなく冷却工程も高周波焼入処理に含まれる。
【0011】
図1(a)は本実施形態に係る評価方法を示す斜視図であり、(b)はその部分断面図である。
図2は、第1の実施形態に係る評価方法を示す分解斜視図である。
図3は、横軸に位置をとり縦軸に圧力をとって本実施形態における圧力分布の測定結果の一例を示すグラフである。
図4は、本実施形態におけるワーク上の冷却液の状態を示す部分断面図である。
【0012】
図1(a)及び(b)に示すように、本実施形態において使用するワーク100は、例えば電車の車輪となる部材である。ワーク100においては、中央部から周辺部に向かって、ボス部101、板部102、リム部103及びフランジ104が設けられている。ボス部101には貫通孔101aが形成されている。ワーク100は鋼材により一体的に形成されている。
【0013】
ワーク100が電車の車輪として使用されるときには、貫通孔101aには車軸(図示せず)が挿通する。リム部103の外周面103aはレール(図示せず)が接触する踏面である。フランジ104の上面104aもレールと接触する。リム部103の外周面103a及びフランジ104の上面104aは相互に接し、且つ、相互に交差している。
【0014】
リム部103の外周面103a及びフランジ104の上面104aは高周波焼入処理予定領域110であり、所定の深さまで高周波焼入処理される。但し、本実施形態においては、後述するようにワーク100に圧力センサーシート10を貼付して冷却液の圧力分布を測定するため、ワーク100を高周波焼入処理しない。したがって、ワーク100の高周波焼入処理予定領域110に高周波焼入処理が施されて電車の車輪となることはない。なお、冷却工程の評価の後、ワーク100から圧力センサーシート10を取り外して、ワーク100に高周波焼入処理を施してもよい。この場合は、ワーク100は電車の車輪となる。また、ワーク100として、電車の車輪と同じ又は類似の形状のダミーワークを用いてもよい。ダミーワークは、例えば、樹脂の成形品であってもよい。本明細書においては、このようなダミーワークも「ワーク」に含まれる。
【0015】
本実施形態においては、ワーク100のリム部103の外周面103a及びフランジ104の上面104aに、1枚の圧力センサーシート10を貼付する。圧力センサーシート10においては、複数の圧力センサー素子が2次元的に配置されている。複数の圧力センサー素子は、例えば行列状又は千鳥状に周期的に配列されている。各圧力センサー素子は、圧力を測定し、その結果を電気信号として出力する。圧力センサーシート10は、センサコネクタ(図示せず)を介して、コンピュータ(図示せず)に有線又は無線により接続されている。圧力センサーシート10は、各圧力センサー素子の測定結果を所定の周波数で出力することができ、例えば、毎秒100回出力することができる。圧力センサーシート10は、屈曲可能である。
【0016】
圧力センサーシート10は、リム部103の外周面103aに貼付された第1部分11と、フランジ104の上面104aに貼付された第2部分12との間で屈曲させる。すなわち、圧力センサーシート10においては、第1部分11と第2部分12との境界線が屈曲線13となっている。本明細書において、「屈曲」とは、折れまがることをいう。圧力センサーシート10の表面における第1部分11から第2部分12に向かう線に沿った曲率は、屈曲線13の近傍のみで大きな値をとり、屈曲線13以外の部分ではゼロに近い値をとる。
【0017】
一方、図2に示すように、冷却ジャケット50を準備する。冷却ジャケット50の形状は、例えば、ワーク100を囲む形状である。冷却ジャケット50には、冷却液を噴射するための噴射孔61が設けられた噴射面60が構成されている。
冷却ジャケット50の形状は、例えば、円筒形である。但し、冷却ジャケット50の形状は円筒形には限定されず、ワークの形状に対応した形状としてもよい。噴射面60には複数の噴射孔61が形成されている。
【0018】
以下、噴射孔61の配列の一例を説明する。複数の噴射孔61は周期的に配列されている。例えば、噴射面60の中心軸が延びる方向(以下、「軸方向」ともいう)に沿って一列に配列された噴射孔61が列62を構成し、複数の列62が噴射面60の周方向に沿って周期的に配列されている。また、隣り合う列62間においては、軸方向における噴射孔61の位置が、軸方向における噴射孔61の配列周期の半分だけずれている。
【0019】
次に、噴射面60に囲まれた空間にワーク100を挿入する。このとき、ワーク100は自転させてもよく、自転させなくてもよい。ワークに実際に高周波焼入処理を施すときは、加熱工程及び冷却工程において、ワークを自転させることが多い。本実施形態において、ワーク100を自転させるときは、センサコネクタ(図示せず)はワーク100に固定し、センサコネクタとコンピュータ(図示せず)とは無線により接続することが好ましい。
【0020】
次に、噴射面60の噴射孔61を介して、ワーク100に対して冷却液を噴射する。噴射面60の内面からは、冷却液が略均一に噴射される。そして、圧力センサーシート10が冷却液の圧力分布を測定する。これにより、ワーク100の表面における圧力センサーシート10が貼付された領域、すなわち、高周波焼入処理予定領域110の一部について、冷却液の圧力分布を測定することができる。
【0021】
例えば、図3に示すように、冷却液の圧力が屈曲線13の近傍において低くなったとする。この場合は、図4に示すように、リム部103の外周面103aとフランジ104の上面104aとの境界線105の近傍で、冷却液70が溜まり部70aを形成し、境界線105の近傍において、噴射孔61から噴射された直後の冷却液の接触が阻害されて、冷却効率が低下している可能性が考えられる。このため、ワーク100における境界線105の近傍の部分106において、高周波焼入処理が不十分となる可能性がある。この場合の対策としては、例えば、噴射孔61の配置や冷却液が噴射される角度を調節して、境界線105の近傍に十分な冷却液が当たるようにすることが考えられる。
【0022】
本実施形態によれば、ワーク100の形状が複雑であっても、ワーク100の高周波焼入処理予定領域110において、噴射された冷却液の圧力分布を直接測定することができる。これにより、焼入不良の原因が冷却液の噴射の不均一性にあるのか否かを判断することができる。また、冷却液の噴射が不均一であった場合に、圧力分布の測定結果を参考にして、冷却ジャケットを効率よく設計することができる。
【0023】
なお、本実施形態においては、ワークの例として電車の車輪を示したが、ワークはこれには限定されない。例えば、ワークは、歯車、自動車のクランクシャフト、等速ジョイントであってもよい。ワークの形状が複雑である方が、本実施形態の効果が大きい。後述する他の実施形態についても、同様である。
【0024】
また、本実施形態においては、ワークに噴射して冷却するものとして冷却液(例えば、水)を示したが、冷却するものはこれには限定されない。冷却するものとしては、冷却気体(例えば、窒素)であってもよく、冷却固体(例えば、固体二酸化炭素)であってもよい。なお、本実施形態においては、冷却液と冷却気体と冷却固定を包含する概念を「冷却媒体」という。後述する他の実施形態についても、同様である。
【0025】
<第2の実施形態>
図5(a)は本実施形態に係る評価方法を示す斜視図であり、(b)はその部分断面図である。
【0026】
図5(a)及び(b)に示すように、本実施形態において使用するワーク100は、第1の実施形態と同様である。本実施形態においては、ワーク100のリム部103の外周面103aに圧力センサーシート21を貼付し、フランジ104の上面104aに、圧力センサーシート22を貼付する。すなわち、外周面103aと上面104aに別の圧力センサーシートを貼付し、境界線105において圧力センサーシートを屈曲させない。圧力センサーシート21及び22の構成は、第1の実施形態における圧力センサーシート10と同様である。但し、圧力センサーシート21及び22は屈曲不能であってもよく、湾曲不能であってもよい。
【0027】
本実施形態における上記以外の冷却工程の評価方法は、第1の実施形態と同様である。すなわち、ワーク100に対して冷却液を噴射しつつ、圧力センサーシート21及び22により冷却液の圧力分布を測定する。本実施形態によれば、ワーク100の形状が複雑であっても、圧力センサーシートを屈曲させる必要がないため、圧力センサーシートの選択の自由度が高い。また、屈曲させることにより圧力センサーシートを破損することがない。本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0028】
なお、本実施形態では、ワークの第1面に第1の圧力センサーシートを貼付すると共に、ワークの第2面に第2の圧力センサーシートを貼付する態様、すなわち、2面に、各々圧力センサーシートを貼り付ける態様で説明したが、3面以上に、各々圧力センサーシートを貼り付ける態様で実施してもよい。
【0029】
<第3の実施形態>
図6は、本実施形態に係る評価方法を示す部分断面図である。
図6に示すように、本実施形態において使用するワーク200においては、表面に湾曲した領域201が存在する。この湾曲した領域201が高周波焼入処理予定領域210であり、所定の深さまで高周波焼入れされる。本明細書において、「湾曲」とは、弓形にまがることをいう。
【0030】
本実施形態においては、ワーク200の領域201に圧力センサーシート30を貼付すると共に、圧力センサーシート30を領域201に沿って湾曲させる。圧力センサーシート30は可撓性を有し、ある程度湾曲させることができる。圧力センサーシート30の表面において、図6に示す断面に沿った曲率は、略均一な値をとる。
【0031】
本実施形態における上記以外の冷却工程の評価方法は、第1の実施形態と同様である。すなわち、ワーク200に対して冷却液を噴射しつつ、圧力センサーシート30により冷却液の圧力分布を測定する。本実施形態によれば、ワーク200の湾曲した領域201について、空間的に連続した圧力分布を取得することができる。本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0032】
<第4の実施形態>
図7(a)は、本実施形態に係る評価方法を示す上面図であり、(b)はその部分断面図である。
図7(a)及び(b)に示すように、本実施形態において使用するワーク300は、例えば歯車となる部材である。ワーク300においては、その外周面に、凸部301及び凹部302が交互に複数形成されている。ワーク300においては、外周面に沿った領域が、高周波焼入予定領域310である。
【0033】
本実施形態においては、ワーク300の外周面のうち、凸部301の突出面を構成する領域301aに、圧力センサーシート34を貼付する。そして、第1の実施形態と同様な方法により、冷却液の圧力分布を測定する。すなわち、冷却ジャケットからワーク300に対して冷却液を噴射しつつ、圧力センサーシート34により冷却液の圧力分布を測定する。本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0034】
<第5の実施形態>
図8(a)は、第5の実施形態に係る評価方法を示す上面図であり、(b)はその部分断面図である。
図8(a)及び(b)に示すように、本実施形態において使用するワーク300は、第4の実施形態と同様である。
【0035】
本実施形態においては、ワーク300の外周面のうち、凹部302の底面を構成する領域302aに、圧力センサーシート35を貼付する。そして、第1の実施形態と同様な方法により、冷却液の圧力分布を測定する。すなわち、冷却ジャケットからワーク300に対して冷却液を噴射しつつ、圧力センサーシート35により冷却液の圧力分布を測定する。本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0036】
<第6の実施形態>
図9(a)は、第6の実施形態に係る評価方法を示す上面図であり、(b)はその部分断面図である。
図9(a)及び(b)に示すように、本実施形態において使用するワーク300は、第4の実施形態と同様である。
【0037】
本実施形態においては、ワーク300の外周面のうち、凸部301の突出面を構成する領域301aに圧力センサーシート34を貼付し、凹部302の底面を構成する領域302aに圧力センサーシート35を貼付する。そして、第1の実施形態と同様な方法により、冷却液の圧力分布を測定する。すなわち、冷却ジャケットからワーク300に対して冷却液を噴射しつつ、圧力センサーシート34及び35により冷却液の圧力分布を測定する。本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0038】
第4~第6の実施形態に係る評価方法においては、ワーク300として、歯車となる部材を使用する。ワーク300のような周縁部に凸部301及び凹部302が交互に複数形成されている部材の場合、圧力センサーシートを貼付する所定部位は、冷却媒体が噴射される方向と反対の方向に突出するワーク300の凸部301の突出面を構成する領域301a、又は、冷却媒体が噴射される方向と同じ方向に凹んでいる凹部302の底面を構成する領域302aのうち、少なくとも一方であることが好ましい。また、ワーク300の外周面のうち、凸部301と凹部302の境界面となる領域、すなわち、ワーク300の径方向に延びる領域についても、冷却媒体の圧力分布を測定してもよい。
【0039】
このように、ワーク300における圧力センサーシートを貼る所定部位を、冷却媒体が噴射される方向と反対の方向に突出する凸部301の突出面を構成する領域301aとすることで、ワーク300の外周面のうち、冷却媒体の圧力が最も高いと予想される領域の圧力分布を測定することができる。また、圧力センサーシートを貼る所定部位を、冷却媒体が噴射される方向と同じ方向に凹んでいる凹部302の底面を構成する領域302aとすることで、ワーク300の外周面のうち、冷却媒体の圧力が最も低いと予想される領域の圧力分布を測定することができる。更に、領域301a及び領域302aの双方に圧力センサーシートを貼付することにより、冷却媒体の圧力が最も高いと予想される領域及び圧力が最も低いと予想される領域の双方において、同時に圧力分布を測定することができる。これにより、ワーク300の外周面における冷却媒体の圧力の高低差を測定することができ、ワーク300の冷却工程をより高精度に評価することができる。
【0040】
<第7の実施形態>
本実施形態は、冷却液の圧力分布を測定することにより、冷却ジャケットの状態が冷却液の圧力分布に及ぼす影響を評価する方法である。冷却対象としては、前述の第1及び第2の実施形態における車輪形状のワーク100を用いてもよく、第3の実施形態における湾曲したワーク200を用いてもよく、第4~第6の実施形態における歯車形状のワーク300を用いてもよく、単純な円柱形状のワークを用いてもよい。
図10(a)は本実施形態において用いる冷却ジャケットの噴射面を示す展開図であり、(b)は本実施形態において用いる圧力センサーシートを示す平面図である。
【0041】
図10(a)に示すように、噴射面60においては、複数の噴射孔61が周期的に配列されている。例えば、噴射面60の軸方向に沿って一列に配列された複数の噴射孔61が1つの列62を構成し、複数の列62が噴射面60の周方向に沿って周期的に配列されている。また、隣り合う列62間においては、軸方向における噴射孔61の位置が、軸方向における噴射孔61の配列周期の半分だけずれている。噴射面60の軸方向における噴射孔61の配列周期を61Cとし、噴射面60の周方向における噴射孔61の配列周期を61Sとする。
【0042】
図10(b)に示すように、本実施形態において使用する圧力センサーシート40においては、複数の圧力センサー素子41が行列状に配列されている。前述の第1の実施形態と同様に、ワークを冷却ジャケットの内部に配置した場合に、噴射面60の軸方向における圧力センサー素子41の配列周期を41Cとし、噴射面60の周方向における圧力センサー素子41の配列周期を41Sとする。
【0043】
本実施形態においては、噴射面60の軸方向における圧力センサー素子41の配列周期41Cは、噴射孔61の配列周期61Cの配列周期以下(図10では半分以下)であり、噴射面60の周方向における圧力センサー素子41の配列周期41Sは噴射孔61の配列周期61Sの配列周期以下(図10では半分以下)である。すなわち、41C≦61C(図10では41C≦61C/2)、41S≦61S(図10では41S≦61S/2)である。
【0044】
これにより、圧力センサーシート40の空間分解能が噴射孔61の配列周期よりも精細になり、条件によっては、個々の噴射孔61に対応する圧力分布を識別できるようになる。この結果、例えば、噴射孔61の目詰まりを検出可能となる。このとき、ワーク100の周方向の一部のみに圧力センサーシートを貼付しても、ワーク100を自転させつつ圧力の測定値を所定の時間間隔で出力すれば、全周の圧力分布を取得することができる。
【0045】
また、ワーク100を自転させずに一定の時間範囲で測定を継続すれば、特定の領域における圧力の経時変化を取得することができる。これにより、例えば、ワーク100の表面上における冷却液の挙動を推定することができる。
【0046】
本実施形態における上記以外の冷却工程の評価方法は、第1の実施形態と同様である。すなわち、ワーク100に対して冷却液を噴射しつつ、圧力センサーシート40により冷却液の圧力分布を測定する。本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0047】
<試験例>
次に、第7の実施形態の効果を示す試験例について説明する。
本試験例は、冷却ジャケットの噴射孔の目詰まりを検出する試験例である。
本試験例においては、冷却ジャケット50に構成されている噴射面60におけるいくつかの噴射孔61を故意に目詰まりさせて、冷却液の圧力分布を測定した。
図11(a)~(h)は、冷却ジャケットに構成されている噴射面における目詰まりした噴射孔の分布と冷却液の圧力分布との関係を示す図である。
【0048】
図11(a)~(d)は冷却ジャケットの噴射面を示す図である。図11(a)~(d)の上下方向は噴射面60の軸方向に相当し、左右方向は周方向に相当する。図中の上下方向に延びる破線は列62を表しており、実在する形状等を表す線ではない。また、「×」の図形は、故意に目詰まりさせた噴射孔61xを表している。図11(e)~(h)は圧力分布を示す図である。図11(e)~(h)においては、色が白い領域ほど圧力が高いことを表している。図11(e)~(h)中の上下方向に延びる短い線分は、図11(a)~(d)に示す列62を表す破線に対応している。図11(a)~(h)は、縮尺を相互に合わせてある。
【0049】
図11(a)に示す噴射面60においては、全ての噴射孔61を正常に開口させている。すなわち、全ての噴射孔61から冷却液が噴射される。この場合、図11(e)に示すように、冷却液の圧力分布は、多少のゆらぎは認められるものの、全体として均一である。
【0050】
図11(b)に示す噴射面60においては、1つの噴射孔61xを故意に詰まらせている。詰まらせた噴射孔61xからは冷却液が噴射されない。この場合、図11(f)に示すように、周囲よりも圧力が低い領域75が認められた。領域75は、詰まらせた噴射孔61xに対応すると推定される。
【0051】
図11(c)に示す噴射面60においては、軸方向に連続して配列された6つの噴射孔61xを故意に詰まらせている。この場合、図11(g)に示すように、周囲よりも圧力が低い領域76が認められた。領域76の長手方向は軸方向であった。領域76は、詰まらせた噴射孔61xに対応すると推定される。
【0052】
図11(d)に示す噴射面60においては、軸方向及び周方向の双方に対して傾斜した斜め方向に沿って一列に配列された4つの噴射孔61xを故意に詰まらせている。この場合、図11(h)に示すように、周囲よりも圧力が低い領域77が認められた。領域77の長手方向は軸方向及び周方向に双方に対して傾斜した斜め方向であった。領域77は、詰まらせた噴射孔61xに対応すると推定される。
【0053】
このように、本試験例によれば、冷却液の圧力分布に基づいて噴射孔61の目詰まりを検出できた。特に、図11(c)及び(d)に示すように、連続して配列された複数個の噴射孔61が目詰まりしたときは、高い精度で検出できた。この結果、冷却ジャケットを取外さなくても、噴射孔61の目詰まりを検出することができる。また、噴射孔61の数が多い場合や直径が小さい場合のように、目視で噴射孔61の目詰まりを検出することが困難な場合であっても、噴射孔61の目詰まりを容易に検出することができる。
【0054】
以上の実施形態で説明したように、本実施形態に係る高周波焼入処理の冷却工程の評価方法では、ワークの所定部位に圧力センサーシートを貼付する工程と、ワークに対して冷却媒体を噴射しつつ、圧力センサーシートにより前記冷却媒体の圧力分布を測定する工程と、を備える。
このような手段を用いることで、ワークの形状が複雑であっても冷却の均一化を図ることができる。
【0055】
また、高周波焼入処理では、冷却工程において、ワークをマルテンサイトが形成される冷却速度で急冷する必要があり、上記のような噴射孔61の目詰まりが発生すると、当該冷却速度の達成が難しくなる可能性がある。従って、本実施形態に係る高周波焼入処理の冷却工程の評価方法を、当該高周波焼入処理に適用することで、当該高周波焼入処理の安定化を図ることができるため、より好適である。
【0056】
高周波焼入処理は、例えば、高周波誘導加高周波焼入処理であり、高周波誘導加熱装置においては、ワークを加熱する加熱部とワークを冷却するための冷却液を噴射する冷却部があり、加熱部と冷却部が一体になったものや分離したものがある。
【0057】
ワークにおける上述の圧力センサーシートが貼付される所定部位は、少なくとも冷却媒体が噴射されるワークの面であることが好ましい。圧力センサーシートを貼付する所定部位を少なくとも冷却媒体が噴射されるワークの面とすることで、より確実に、冷却媒体の噴射を評価することができるため好ましい。
【0058】
前述の各実施形態は、本発明を具現化した例であり、本発明はこれらの実施形態には限定されない。例えば、前述の各実施形態において、いくつかの構成要素を追加、削除又は変更したものも本発明に含まれる。また、前述の実施形態は、相互に組み合わせて実施してもよい。例えば、第1~第6の実施形態のうち2つ以上の実施形態を組み合わせることにより、より複雑な形状のワークについて、冷却液の圧力分布を取得することができる。また、第1~第6の実施形態のうちの少なくとも1つと第7の実施形態を組み合わせることにより、複雑な形状のワークにおける圧力分布に対して、冷却ジャケットの個々の噴射孔が及ぼす影響を評価できる。
【0059】
また、第1の実施形態では、ワークにおける相互に接し且つ相互に交差する第1面及び第2面に1枚の圧力センサーシートを貼付すると共に、圧力センサーシートを第1面に貼付された第1部分と前記第2面に貼付された第2部分との間で屈曲させる態様、すなわち、連続した2面間で、1枚の圧力センサーシートを貼り付けて、当該2面間で屈曲させる態様で説明したが、コ字状の形状のような連続した3面間で、1枚の圧力センサーシートを貼り付けて、当該3面間で屈曲させる態様で実施してもよい。
【0060】
また、第2の実施形態では、ワークの第1面に第1の圧力センサーシートを貼付すると共に、ワークの第2面に第2の圧力センサーシートを貼付する態様、すなわち、2面に、各々圧力センサーシートを貼り付ける態様で説明したが、3面以上に、各々圧力センサーシートを貼り付ける態様で実施してもよい。
【符号の説明】
【0061】
10:圧力センサーシート
11:第1部分
12:第2部分
13:屈曲線
21、22、30、31、32、34、35、40:圧力センサーシート
41:圧力センサー素子
41C:軸方向における圧力センサー素子の配列周期
41S:周方向における圧力センサー素子の配列周期
50:冷却ジャケット
60:噴射面
61:噴射孔
61C:軸方向における噴射孔の配列周期
61S:周方向における噴射孔の配列周期
61x:目詰まりさせた噴射孔
62:列
70:冷却液
70a:溜まり部
75、76、77:領域
100:ワーク
101:ボス部
101a:貫通孔
102:板部(凹部)
102a:上面(底面)
103:リム部(凸部)
103a:外周面
103b:上面
104:フランジ
104a:上面
105:境界線
106:部分
110:高周波焼入処理予定領域
200:ワーク
201:湾曲した領域
210:熱処理予定領域
300:ワーク
301:凸部
301a:凸部の突出面となる領域
302:凹部
302a:凹部の底面となる領域
310:熱処理予定領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11