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特開2022-143972ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法及びジルコニウム元素含有金属酸化物分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143972
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法及びジルコニウム元素含有金属酸化物分散液
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20220926BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C01G25/02
B01J13/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044789
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】家田 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】袋井 克平
(72)【発明者】
【氏名】森田 考則
(72)【発明者】
【氏名】緒方 宏宣
【テーマコード(参考)】
4G048
4G065
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD10
4G048AE06
4G065AA07
4G065AB11X
4G065BB06
4G065CA11
4G065DA05
4G065DA09
4G065EA03
4G065EA04
4G065FA02
4G065FA10
(57)【要約】
【課題】高濃度でも高い透明性を有し、かつ低粘度のジルコニウム元素含有金属酸化物の分散液を提供する。
【解決手段】ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液を製造する方法であって、該製造方法は、ジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーを加熱して水熱反応を行う工程を含み、該水熱反応工程における加熱は、90℃/時以上の昇温速度で行うことを特徴とするジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液を製造する方法であって、
該製造方法は、金属元素含有化合物としてジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーを加熱して水熱反応を行う工程を含み、
該水熱反応工程における加熱は、90℃/時以上の昇温速度で行う
ことを特徴とするジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法。
【請求項2】
前記スラリーは有機酸を含むことを特徴とする請求項1に記載のジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法。
【請求項3】
前記スラリーは、金属元素含有化合物としてジルコニウム元素含有化合物のみを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法。
【請求項4】
48重量%の水分散液とした場合の、波長550nmの光の透過率が70%以上であり、かつ粘度が25mPa・s以下であることを特徴とするジルコニウム元素含有金属酸化物分散液。
【請求項5】
ジルコニウム元素含有金属酸化物の平均一次粒子径が3~20nmであることを特徴とする請求項4に記載のジルコニウム元素含有金属酸化物分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法及びジルコニウム元素含有金属酸化物分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的強度をはじめとする樹脂の特性の向上や新たな特性の付与を目的として金属酸化物を樹脂に配合した組成物が電子部品材料や光学材料等として使用されている。樹脂に配合される金属酸化物の中でも、樹脂を高屈折率化することができる酸化ジルコニウムは光学材料用途向けの樹脂組成物において多く使用されている。酸化ジルコニウムを樹脂に配合する場合、分散液として樹脂に配合することが多く、酸化ジルコニウムの分散液には高い透明性を有することや、更には高濃度でも低粘度であることが求められる。このため、そのような酸化ジルコニウム分散液やその製造方法が種々提案されている(特許文献1~6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5397829号公報
【特許文献2】特開2010-150066号公報
【特許文献3】特開2020-33195号公報
【特許文献4】特開2020-33194号公報
【特許文献5】特開2020-33195号公報
【特許文献6】特開2020-33196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり酸化ジルコニウム等のジルコニウム元素含有金属酸化物の分散液は光学材料用途等の様々な分野で使用される有用な材料である。一般にジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の透明性はジルコニウム元素含有金属酸化物の一次粒子径に依存することが分かっており、一次粒子径の小さいジルコニウム元素含有金属酸化物を用いることで光学材料用途に求められる透明性の高い分散液を得ることができる。しかし一次粒子径の小さいジルコニウム元素含有金属酸化物は比表面積が大きく、分散液の状態では粘度が高くなってしまい、分散液の濃度が高い場合には特に粘度を低くすることが困難である。特に樹脂に配合して用いるジルコニウム元素含有金属酸化物の分散液には粘度が低いことが求められ、高濃度でも高い透明性を有し、かつ低粘度の分散液の開発が求められている。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、高濃度でも高い透明性を有し、かつ低粘度のジルコニウム元素含有金属酸化物の分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高濃度でも高い透明性を有し、かつ低粘度のジルコニウム元素含有金属酸化物の分散液を製造する方法について検討し、ジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーを水熱反応する工程を含む製造方法を用いてジルコニウム元素含有金属酸化物の分散液を製造する際に、水熱反応時の加熱の昇温速度を所定の速度以上とすると、得られるジルコニウム元素含有金属酸化物の分散液が高濃度にした場合でも高い透明性を有し、かつ低粘度の分散液となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液を製造する方法であって、該製造方法は、金属元素含有化合物としてジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーを加熱して水熱反応を行う工程を含み、該水熱反応工程における加熱は、90℃/時以上の昇温速度で行うことを特徴とするジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法である。
【0008】
上記スラリーは有機酸を含むことが好ましい。
【0009】
上記スラリーは、金属元素含有化合物としてジルコニウム元素含有化合物のみを含むことが好ましい。
【0010】
本発明はまた、48重量%の水分散液とした場合の、波長550nmの光の透過率が70%以上であり、かつ粘度が25mPa・s以下であることを特徴とするジルコニウム元素含有金属酸化物分散液でもある。
【0011】
上記ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液は、ジルコニウム元素含有金属酸化物の平均一次粒子径が3~20nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法は、高濃度でも高い透明性を有し、かつ低粘度のジルコニウム元素含有金属酸化物の分散液を複雑な工程を行うことなく製造できる優れた方法である。
本発明のジルコニウム元素含有金属酸化物分散液は、高濃度でも高い透明性を有し、かつ低粘度であることから、光学材料用途をはじめとする各種用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0014】
1.ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法
本発明のジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法は、ジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーを加熱して水熱反応を行う工程において、水熱反応の加熱の昇温速度を90℃/時以上とすることを特徴とする。
本発明の製造方法は、従来の酸化ジルコニウムの製造方法に対して工程を追加することなく、高濃度でも高い透明性を有し、かつ低粘度のジルコニウム元素含有金属酸化物分散液を製造することができる有用な方法である。また本発明の製造方法は水熱反応の加熱の昇温速度が速いことで、所定の温度に達するまでの時間が短縮されることから、使用する熱エネルギーを従来より減らすことができる点でも有利である。
昇温速度は90℃/時以上であればよいが、100℃/時以上であることが好ましい。より好ましくは、110℃/時以上であり、更に好ましくは120℃/時以上である。昇温速度には特に上限はないが、製造設備の関係上、通常、250℃/時以下である。
本発明の製造方法においては、昇温開始から所定の温度に達するまでの温度上昇幅をそれに要した時間で割った平均の昇温速度が90℃/時以上であれば、昇温速度は一定でなくてもよいが、高濃度でもより高い透明性を有し、かつ低粘度のジルコニウム元素含有金属酸化物分散液を製造する点から、昇温開始から所定の温度に達するまでの時間を均等に5つに区分した場合の区分毎の昇温速度のばらつきが45%以内であることが好ましい。より好ましくは、20%以内である。
【0015】
上記水熱反応を行う温度は、170~230℃であることが好ましい。このような温度で行うことで水熱反応をより十分に進めることができ、より水分散性が高く透明性の高い分散液を得ることができる。水熱反応を行う温度は、より好ましくは175~220℃であり、更に好ましくは、180~210℃である。
また水熱反応を行う時間は、水熱反応をより十分に進めることと、製造の効率とを考えると60~600分であることが好ましい。より好ましくは、100~360分であり、更に好ましくは、150~300分である。
【0016】
上記ジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーに含まれるジルコニウム元素含有化合物は、ジルコニウム化合物を含む原料を水中で塩基性化合物と反応させて得られる中和物であることが好ましい。
したがって、本発明のジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の製造方法は、ジルコニウム化合物を含む原料を水中で塩基性化合物と反応させてジルコニウム元素を含有する中和物を含むスラリーを得る工程と、該ジルコニウム元素を含有する中和物であるジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーを用いて上記水熱反応工程を行う製造方法であることが好ましい。
【0017】
上記ジルコニウム化合物を含む原料を水中で塩基性化合物と反応させてジルコニウム元素を含有する中和物を含むスラリーを得る工程は、塩基性化合物を除く原料を水溶液又は水分散液とし、そこに塩基性化合物を添加して中和物を得てもよく、塩基性化合物水溶液に塩基性化合物を除く原料を添加して中和物を得てもよく、塩基性化合物を除く原料と塩基性化合物とを共に水中に徐々に添加して中和物を得てもよいが、これらの中でも塩基性化合物を除く原料と塩基性化合物とを共に水中に徐々に添加して中和物を得ることが好ましい。このようにすることで、より粒子径の揃った粒子を製造することができる。この場合、塩基性化合物を除く原料を水溶液又は水分散液とし、また塩基性化合物も水溶液としたうえで、水中に徐々に添加することが反応をより均一に進行させる点から好ましい。
【0018】
上記水溶液または水分散液に使用する水は特に限定はされず、純水、イオン交換水、蒸留水、工業用水、水道水等が挙げられるが、反応を阻害しない範囲で、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、等の水に溶解あるいは混和する化合物を含んでも良い。
上記水熱反応工程に供するジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーの溶媒の具体例も同様である。
【0019】
上記ジルコニウム化合物を含む原料の水溶液または水分散液におけるジルコニウム化合物の濃度は特に制限されないが、希薄すぎると次工程の排水量が多くなりすぎ、濃厚であれば中和物を含むスラリーの粘度が高く、攪拌や送液などスラリーの取り扱いが困難になることが考えられるため、0.2~5モル/Lであることが好ましい。より好ましくは、0.5~3モル/Lである。
【0020】
上記ジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーの製造に原料として用いるジルコニウム化合物としては、水酸化物、酸化水酸化物、塩化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩、リン酸塩、蓚酸塩、酪酸塩、セレン酸塩、ヨウ素酸塩、フッ化物、オキシ塩化物等が挙げられる。これらの中でも、製造上好適な水溶性ジルコニウム化合物である、オキシ塩化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等が好ましい。
【0021】
上記ジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーの製造に用いられる原料は、ジルコニウム化合物を含むものであれば、その他の金属元素の化合物を含むものであってもよい。
その他の金属元素としては、セリウム、イットリウム等が挙げられる。
その他の金属元素の化合物としては、上記ジルコニウム化合物と同様の化合物が挙げられる。
【0022】
上記原料がジルコニウム化合物とともにその他の金属元素の化合物も含む場合、その他の金属元素の化合物の含有量は、ジルコニウム化合物が含むジルコニウム元素1モルに対して、その他の金属元素の化合物が含むその他の金属元素が0.01~1モルとなる量であることが好ましい。より好ましくは、0.015~0.5モルとなる量であり、更に好ましくは、0.02~0.2モルとなる量である。
【0023】
上記ジルコニウム化合物を含む原料の中和に用いられる塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムカリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、亜硫酸リチウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、蓚酸リチウム、蓚酸ナトリウム、蓚酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、ギ酸リチウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、リチウムフェノキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、リン酸リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三アンモニウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジエチルアミン、ヒドラジン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0024】
上記塩基性化合物の使用量は特に限定されるものではなく、中和生成物が得られればよいが、通常、原料に含まれるジルコニウムを含む全ての金属元素の合計1モルに対して、0.1~10モルであることが好ましい。
【0025】
上記ジルコニウム元素含有化合物を含むスラリー中における金属元素含有化合物の割合は0.1~20重量%であることが好ましい。このような割合であると、スラリー中の金属元素含有化合物の割合が少なすぎず、かつ、スラリーの粘度が適切であるため、水熱反応を十分に進行させ、十分な量のジルコニウム元素含有金属酸化物分散液を得ることができる。また後述する、ジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーをろ過、洗浄する工程を行う場合、スラリー中の金属元素含有化合物の割合がこのような範囲であると、十分な洗浄を行うことができ、水熱反応工程を経て得られる分散液を高濃度での透明性により優れ、またより低粘度のものとすることができる。スラリー中における金属元素含有化合物の割合はより好ましくは、0.2~17重量%であり、更に好ましくは、0.5~15重量%である。
ここでスラリー中における金属元素含有化合物とは、スラリーが金属元素含有化合物としてジルコニウム元素含有化合物のみを含む場合はジルコニウム元素含有化合物を意味し、その他の金属元素含有化合物も含む場合は、ジルコニウム元素含有化合物及びその他の金属元素含有化合物を意味する。
【0026】
本発明の製造方法において、水熱反応に供されるジルコニウム元素含有化合物を含むスラリーは、有機酸を含むことが好ましい。有機酸を含むことで、スラリーが酸解膠され、粒子を静電的相互作用によって反発させることより、製造される分散液が高い透明性を有するものとなる。
したがって本発明の製造方法は、水熱反応工程の前にスラリーに有機酸を添加する工程を含むことが好ましい。本発明の製造方法が、ジルコニウム化合物を含む原料を水中で塩基性化合物と反応させてジルコニウム元素を含有する中和物を含むスラリーを得る工程を含む場合、該スラリーを得る工程の後にスラリーに有機酸を添加する工程を含むことが好ましい。
【0027】
上記有機酸としては特に制限されないが、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸やその塩;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸等の多塩基酸やその塩;乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸等のヒドロキシカルボン酸やその塩等の1種又は2種以上を用いることができる。
有機酸の塩としてナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩やバリウム塩などのアルカリ土類金属塩、およびマグネシウム塩が挙げられる。
【0028】
上記有機酸の使用量は、スラリーに含まれる金属元素含有化合物1モルに対して、0.5~10モルであることが好ましい。このような割合で用いることで、得られるジルコニウム元素含有金属酸化物分散液が高濃度での透明性により優れたものとなる。一方、使用量が多すぎてもその効果は得られない。そのため有機酸の使用量は、より好ましくは、金属元素含有化合物1モルに対して、1~5モルであり、更に好ましくは、1~3モルである。
【0029】
本発明の製造方法は、ジルコニウム化合物を含む原料を水中で塩基性化合物と反応させてジルコニウム元素を含有する中和物を含むスラリーを得る工程の後、該スラリーをろ過する工程や、ろ過した後のスラリーを洗浄する工程を含むことが好ましい。
例えば、原料に含まれるジルコニウム化合物としてオキシ塩化ジルコニウムを用い、塩基性化合物として水酸化カリウムを用いて中和物を含むスラリーを得る工程を行うと、得られるスラリー中には塩化カリウムが副生塩として含まれる。水熱反応工程の前にスラリーをろ過する工程や、ろ過した後のスラリーを洗浄する工程を行って副生塩を除去することで、水熱反応によって得られる分散液をより分散性に優れ、高濃度でも透明性の高い分散液とすることができる。
ジルコニウム元素を含有する中和物を含むスラリーをろ過する工程や、ろ過した後のスラリーを洗浄する工程は、スラリーに有機酸を添加する工程の前に行うことが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法は、水熱処理工程の後、得られたジルコニウム元素含有金属酸化物分散液を洗浄する工程を含んでいてもよい。洗浄する方法は特に制限されず、限外濾過膜を用いた濾過、イオン交換樹脂によるイオン交換、半透膜を用いた透析等を用いることができるが、これらの中でも限外濾過膜を用いた濾過が好ましい。限外濾過膜を用いた濾過により分散液中に含まれる残存副生塩を除くとともに分散液を濃縮してより高い濃度の分散液とすることができる。
また必要に応じて、限外濾過膜を用いた濾過により濃縮した分散液に溶媒を添加し、再度限外濾過膜を用いた濾過を行うことを繰り返すことで残存副生塩をより十分に除くことができる。
【0031】
本発明の製造方法は、上述した各工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、原料粉末を水に溶解させ水溶液を調製する工程、超音波等で分散性を高める工程、分散液中のジルコニウム元素含有金属酸化物を粉砕する工程、分散液のpHを調整する工程、分散液の温度を調整する工程、分散液をさらに脱塩する工程、分散液の用途に応じ分散剤などを追加で添加する工程等が挙げられる。
【0032】
本発明の製造方法は、酸化ジルコニウムに限らず、ジルコニウム元素と他の金属元素とを含む複合酸化物の製造にも用いることができる製造方法であるが、高い濃度でも高い透明性を有し、かつ低粘度であって光学材料用途に適した酸化ジルコニウム分散液の製造に特に適した方法であるため、本発明の製造方法が、金属元素含有化合物としてジルコニウム元素含有化合物のみを含むスラリーを用いて水熱反応工程を行う製造方法であることは本発明の製造方法の好適な実施形態の1つである。
【0033】
2.ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液
本発明はまた、48重量%の水分散液とした場合の、波長550nmの光透過率が70%以上であり、かつ粘度が25mPa・s以下であることを特徴とするジルコニウム元素含有金属酸化物分散液でもある。
上述したとおり、一般にジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の透明性はジルコニウム元素含有金属酸化物の一次粒子径に依存するため、高い透明性の分散液を得るためには一次粒子径の小さいジルコニウム元素含有金属酸化物を用いることが好ましい。しかし一方で一次粒子径の小さいジルコニウム元素含有金属酸化物は凝集しやすいため、樹脂に配合する場合には樹脂中でジルコニウム元素含有金属酸化物を十分に分散させるために多くの分散剤を使用しなければならない。一般に分散剤は屈折率が低いため、結果的に樹脂組成物の屈折率を向上させることが困難になる。これに対し本発明のジルコニウム元素含有金属酸化物分散液は、高濃度の水分散液とした場合にも高い透明性を有し、かつ低粘度の水分散液であるため、樹脂に配合する場合にも多量の分散剤を使用する必要がなく、光学材料用途等の各種用途に好適に用いることができる。
ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液を48重量%の水分散液とした場合の、波長550nmの光透過率は、72%以上であることが好ましい。より好ましくは、75%以上であり、更に好ましくは、78%以上である。
また、48重量%の水分散液とした場合の粘度は23mPa・s以下であることが好ましい。
ジルコニウム元素含有金属酸化物の水分散液の光透過率、粘度は後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0034】
上記ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液は、該分散液に含まれるジルコニウム元素含有金属酸化物の平均一次粒子径が3~20nmであることが好ましい。このような平均一次粒子径のジルコニウム元素含有金属酸化物を用いると、樹脂組成物を高屈折率化するためにジルコニウム元素含有金属酸化物分散液を配合した場合に、樹脂中でジルコニウム元素含有金属酸化物を分散させるために配合する分散剤の量をより少なくすることができるため、樹脂組成物をより高屈折率にすることができる。
ジルコニウム元素含有金属酸化物の平均一次粒子径は、より好ましくは3~18nmであり、更に好ましくは3~15nmである。
ジルコニウム元素含有金属酸化物の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡を用いて、ランダムに選択した200個の一次粒子の粒子径を測定し、その一次粒子径の平均を算出するという方法によって測定することができる。
【0035】
上記ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液は、ジルコニウム元素とともにそれ以外の金属元素を含むものであってもよいが、上記のように高い透明性と低い粘度を有する酸化ジルコニウム分散液は光学材料用途に適したものであるため、ジルコニウム元素含有金属酸化物分散液が金属元素としてジルコニウム元素のみを含む酸化ジルコニウム分散液であることは本発明の好適な実施形態の1つである。
【実施例0036】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0037】
実施例、比較例の酸化ジルコニウム水分散液の透過率、粘度は以下のようにして測定した。
<透過率測定>
光路長が10mmのガラス製角セルにジルコニウム元素含有金属酸化物分散液を入れ、このセルを日本電色工業(株)製 曇り度計「NDH 4000」の試料室内にセットし、透過率を測定した。
<粘度測定>
(株)エー・アンド・デイ製 音叉振動式粘度計「SV-1H」を用い、室温環境下でジルコニウム元素含有金属酸化物分散液の粘度を測定した。
【0038】
実施例1
0.22Lのイオン交換水を張った反応容器中に0.6モル/Lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液0.24Lと、1.7モル/Lの水酸化カリウム水溶液0.18Lとを同時に注ぎ込み、水酸化ジルコニウムスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、酢酸104.7g(スラリーに含まれるジルコニウム1モル部に対し1.3モル部)を加え、攪拌することでスラリー中の水酸化ジルコニウム含有率が10重量%のスラリー(酸化ジルコニウム前駆体スラリー)を1.5L得た。
得られた酸化ジルコニウム前駆体スラリーを圧力容器に注ぎ、室温から180℃/時の昇温速度で加熱し、200℃で3時間水熱処理反応を行った。その結果、薄い半透明な酸化ジルコニウム水分散液を得た。この分散液を限外濾過膜にて洗浄し、酸化ジルコニウム含有率30重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は87.9%であり、粘度は5.7mPa・sであった。限外濾過膜を用いてこの水分散液の濃縮をさらに進め、酸化ジルコニウム含有率48重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は84.1%、粘度は20.4mPa・sであった。
【0039】
実施例2
実施例1と同様にして得た水酸化ジルコニウム含有率が10重量%のスラリー(酸化ジルコニウム前駆体スラリー)を圧力容器に注ぎ、室温から165℃/時の昇温速度で加熱し、200℃で3時間水熱処理反応を行った。その結果、薄い半透明な酸化ジルコニウム水分散液を得た。この分散液を限外濾過膜にて洗浄し、酸化ジルコニウム含有率30重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は86.4%であり、粘度は4.6mPa・sであった。限外濾過膜を用いてこの水分散液の濃縮をさらに進め、酸化ジルコニウム含有率48重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は83.1%、粘度は17.4mPa・sであった。
【0040】
実施例3
実施例1と同様にして得た水酸化ジルコニウム含有率が10重量%のスラリー(酸化ジルコニウム前駆体スラリー)を圧力容器に注ぎ、室温から113℃/時の昇温速度で加熱し、200℃で3時間水熱処理反応を行った。その結果、薄い半透明な酸化ジルコニウム水分散液を得た。この分散液を限外濾過膜にて洗浄し、酸化ジルコニウム含有率30重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は80.7%であり、粘度は6.0mPa・sであった。限外濾過膜を用いてこの水分散液の濃縮をさらに進め、酸化ジルコニウム含有率48重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は76.1%、粘度は21.1mPa・sであった。
【0041】
実施例4
実施例1と同様にして得た水酸化ジルコニウム含有率が10重量%のスラリー(酸化ジルコニウム前駆体スラリー)を圧力容器に注ぎ、室温から96℃/時の昇温速度で加熱し、200℃で3時間水熱処理反応を行った。その結果、薄い半透明な酸化ジルコニウム水分散液を得た。この分散液を限外濾過膜にて洗浄し、酸化ジルコニウム含有率30重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は78.5%であり、粘度は5.7mPa・sであった。限外濾過膜を用いてこの水分散液の濃縮をさらに進め、酸化ジルコニウム含有率48重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は72.8%、粘度は24.5mPa・sであった。
【0042】
比較例1
実施例1と同様にして得た水酸化ジルコニウム含有率が10重量%のスラリー(酸化ジルコニウム前駆体スラリー)1.5Lを圧力容器に注ぎ、室温から75℃の昇温速度で加熱し、200℃で3時間水熱処理反応を行った。その結果、半透明な酸化ジルコニウム水分散液を得た。この分散液を限外濾過膜にて洗浄し、酸化ジルコニウム含有率30重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は73.6%であり、粘度は5.9mPa・sであった。限外濾過膜を用いてこの水分散液の脱塩をさらに進め、酸化ジルコニウム含有率48重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は66.4%、粘度は30.1mPa・sであった。
【0043】
比較例2
実施例1と同様にして得た水酸化ジルコニウム含有率が10重量%のスラリー(酸化ジルコニウム前駆体スラリー)1.5Lを圧力容器に注ぎ、室温から80℃の昇温速度で加熱し、200℃で3時間水熱処理反応を行った。その結果、半透明な酸化ジルコニウム水分散液を得た。この分散液を限外濾過膜にて洗浄し、酸化ジルコニウム含有率30重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は75.4%であり、粘度は5.5mPa・sであった。限外濾過膜を用いてこの水分散液の脱塩をさらに進め、酸化ジルコニウム含有率48重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この水分散液の波長550nmの光の透過率は69.0%、粘度は29.2mPa・sであった。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示したとおり、本発明の製造方法に該当する昇温速度で水熱反応工程を行って製造した実施例1~4の酸化ジルコニウム分散液は、本発明の製造方法に該当しない昇温速度で水熱反応工程を行って製造した比較例1、2の酸化ジルコニウム分散液に比べて、通常濃度に加え、高濃度でも高い透明性を有していることが確認された。また、通常濃度での粘度は実施例1~4の酸化ジルコニウム分散液と比較例1、2の酸化ジルコニウム分散液とで同程度であるが、高濃度では実施例1~4の酸化ジルコニウム分散液に比べ比較例1、2の酸化ジルコニウム分散液の増粘が大きいことが確認された。この結果から本発明の製造方法で製造することの効果が確認された。