(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144001
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/76 20060101AFI20220926BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20220926BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20220926BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
F16C33/76 A
F16C19/38
F16J15/10 T
F16J15/10 L
F16C43/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044827
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 栄翔
【テーマコード(参考)】
3J040
3J117
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J040AA18
3J040BA03
3J040EA16
3J040EA22
3J040FA05
3J040HA30
3J117AA05
3J117DA01
3J117DA02
3J117DB04
3J117HA04
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA25
3J216BA30
3J216CA01
3J216CB06
3J216CB13
3J216CC70
3J216DA01
3J216GA01
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701EA49
3J701EA70
3J701FA60
3J701GA03
3J701XB33
(57)【要約】
【課題】1対の内輪の突き合わせ部の密封性を確保でき、かつ、アキシアル隙間の保証を行うことができる、転がり軸受装置の構造を実現する。
【解決手段】突き合わせ部32の径方向外側に設けられた1対の溝内面33bを有するアリ溝状のシール保持溝33に、外径側シール部35と内径側シール部36とを有するシール部材20を装着し、外径側シール部35をシール保持溝33の外側に配置し、内径側シール部36をシール保持溝33の内側に配置する。外径側シール部35の軸方向両側部の内周面を1対の内輪18a、18bの外周面に当接させ、内径側シール部36を構成する1対の傾斜外面38を1対の溝内面33bに対して当接させる。内径側シール部36の内周面とシール保持溝33の溝底面33aとの間に、径方向隙間40を設ける。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に単列の内輪軌道をそれぞれ有する1対の内輪と、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数の転動体と、
前記1対の内輪同士の突き合わせ部を密封するシール部材と、
前記1対の内輪を連結する連結環と、を備え、
前記1対の内輪は、前記突き合わせ部の径方向外側に、径方向外側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜した1対の溝内面を備えた、アリ溝状のシール保持溝を有し、
前記シール部材は、弾性材製で、全体として円環形状をなし、前記シール保持溝の外側に配置される外径側シール部と、前記シール保持溝の内側に配置され、かつ、径方向外側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜した1対の傾斜外面を備えた、前記外径側シール部とは異なる断面形状を有する内径側シール部と、をそれぞれ有し、
前記シール部材は、前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面を、前記1対の内輪のそれぞれの外周面に当接させ、かつ、前記1対の傾斜外面のそれぞれを、前記1対の溝内面のそれぞれに当接させており、前記内径側シール部の内周面と前記シール保持溝の溝底面との間に、径方向隙間を有する、
転がり軸受装置。
【請求項2】
前記内径側シール部は、内周面に、シール凹溝を有する、請求項1に記載した転がり軸受装置。
【請求項3】
前記シール部材の硬度は、Hs85以上Hs95以下である、請求項1~2のうちのいずれか1項に記載した転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を回転自在に支持するために、ハブユニット軸受と呼ばれる転がり軸受装置が使用されている。
図5及び
図6は、トラックやバスなどの重量が嵩む車両の車輪(駆動輪)を、回転自在に支持しかつ回転駆動するために用いられる転がり軸受装置の1例として、特開2008-75837号公報(特許文献1)に記載された構造を示している。
【0003】
転がり軸受装置100は、車軸管101の周囲にハブ輪102を回転自在に支持する。車軸管101の内側には、駆動軸103が挿通されている。駆動軸103の端部にはフランジ104が備えられており、該フランジ104には、ハブ輪102が固定されている。ハブ輪102には、駆動輪105及び制動用回転体106がそれぞれ固定されている。このような構成により、駆動輪105及び制動用回転体106を車軸管101に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸103からのトルクを駆動輪105及び制動用回転体106に伝達可能としている。
【0004】
転がり軸受装置100は、
図6に示すように、複列円すいころ軸受であり、使用状態で回転する外輪107と、使用状態で回転しない1対の内輪108a、108bと、複数個の転動体109a、109bと、シール部材110と、連結環111とを備える。
なお、転がり軸受装置100に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる
図6の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる
図6の右側である。
【0005】
外輪107は、内周面に複列の外輪軌道112a、112bを有している。外輪107は、ハブ輪102に締り嵌めで内嵌されている。
【0006】
1対の内輪108a、108bのそれぞれは、外周面に単列の内輪軌道113a、113bを有している。1対の内輪108a、108bは、互いに対向する小径側端面同士を突き合わせた状態で、車軸管101に外嵌されている。
【0007】
転動体109a、109bは、円すいころであり、外輪軌道112a、112bと内輪軌道113a、113bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。
【0008】
シール部材110は、Oリングから構成されており、1対の内輪108a、108b同士の突き合わせ部114の径方向内側に配置されている。シール部材110は、突き合わせ部114を通じて、車軸管101の内部に存在するデフオイルや、泥水などの異物が、転がり軸受装置100の内部空間に侵入することを防止する。
【0009】
車軸管101の周囲にハブ輪102を回転自在に支持するための転がり軸受装置100にあっては、車軸管101に対する転がり軸受装置100の着脱を可能とするために、1対の内輪108a、108bを、車軸管101に対して隙間嵌めで外嵌している。また、車軸管101の内部空間は、図示しないデフケースの内部空間と連通しているため、内輪108a、108bの内周面と車軸管101の外周面との間に存在する隙間には、デフオイルが侵入する可能性がある。また、泥水が、外部から内輪108a、108bの内周面と車軸管101の外周面との間に存在する隙間に流れ込む可能性もある。そこで、シール部材110を、突き合わせ部114の径方向内側に配置して、デフオイルや泥水などの異物が、転がり軸受装置100の内部空間に侵入することを防止している。
【0010】
連結環111は、全体が円環状で、U字状の断面形状を有している。連結環111は、円筒状の繋ぎ部115と、外向鍔状の1対の係止部116とを有する。連結環111は、繋ぎ部115によりシール部材110を径方向内側から覆った状態で、1対の係止部116のそれぞれを、1対の内輪108a、108bのそれぞれの内周面に備えられた係止凹溝117a、117bに係止している。これにより、連結環111は、1対の内輪108a、108bを軸方向に連結している。そして、転がり軸受装置100を車軸管101に組み付ける際に内輪108a、108bに作用する摩擦によって、1対の内輪108a、108bが互いに分離したり、軸方向外側に配置された内輪108aと車軸管101との衝突によって、該内輪108aが車軸管101から軸方向に抜け出したりするのを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特開2008-75837号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置100には、次のような面で、さらなる改良の余地がある。
【0013】
従来構造の転がり軸受装置100は、突き合わせ部114の密封性を十分に確保するために、1対の内輪108a、108bの小径側端面同士の間で、Oリングにより構成されるシール部材110をある程度押し潰す必要がある。ただし、シール部材110を押し潰すには、相応の力が必要になるため、転がり軸受装置100を車両に組み付ける以前に、1対の内輪108a、108bを連結環111により連結した状態では、シール部材110の弾力に起因して、突き合わせ部114に隙間を生じる可能性がある。このため、従来から知られている測定方法により、アキシアル隙間を保証することが難しくなる。
【0014】
具体的には、複列転がり軸受のアキシアル隙間は、
図7に示すような方法により測定することが知られている。先ず、
図7の(A)に示すように、1対の内輪108x、108yの小径側端面同士を突き合わせるとともに、1対の内輪108x、108yの周囲に転動体109x、109yを配置した状態で、一方の内輪108x(又は108y)を下側に向けかつ他方の内輪108y(又は108x)を上側に向けて基準面118に載置する。そして、基準面118から上側に配置された内輪108y(又は108x)の大径側端面までの軸方向高さを、ダイヤルゲージなどの変位計119により測定し、該測定値を基準値とする(ダイヤルを0にセットする)。
【0015】
次に、
図7の(B)に示すように、片側列の転動体109x及び内輪108xを外輪107xに対して組み付けた状態で、内輪108xを上側に向けて基準面118に載置する。そして、基準面118から内輪108xの大径側端面までの軸方向高さ(Hout)を変位計119により測定する。同様に、図示は省略するが、他側列の転動体109y及び内輪108yを外輪107xに対して組み付けた状態で、内輪108yを上側に向けて基準面118に載置する。そして、基準面118から内輪108yの大径側端面までの軸方向高さ(Hin)を変位計119により測定する。最後に、2つの軸方向寸法(Hin ,Hout)を合計し、合計値[-(Hin+Hout)]をアキシアル隙間とする。
【0016】
以上説明したようなアキシアル隙間の測定方法では、
図7の(A)に示すように、1対の内輪108x、108yの小径側端面同士を突き合わせた状態での、基準面118から上側に配置された内輪108y(又は108x)の大径側端面までの軸方向高さを基準値として利用している。このため、従来構造の転がり軸受装置100のように、シール部材110の弾力に起因して、突き合わせ部114に隙間を生じると、アキシアル隙間を正確に測定することが困難になり、アキシアル隙間を保証できなくなる。
【0017】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、1対の内輪同士の突き合わせ部の密封性を確保でき、かつ、アキシアル隙間の保証を行うことができる、転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置は、外輪と、1対の内輪と、複数の転動体と、シール部材と、連結環とを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記1対の内輪は、外周面に単列の内輪軌道をそれぞれ有する。
前記転動体は、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置される。
前記シール部材は、前記1対の内輪同士の突き合わせ部を密封する。
前記連結環は、前記1対の内輪を連結する。
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記1対の内輪は、前記突き合わせ部の径方向外側に、径方向外側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜した1対の溝内面を備えたアリ溝状のシール保持溝を有する。
前記シール部材は、弾性材製で、全体として円環形状をなし、前記シール保持溝の外側に配置される外径側シール部と、前記シール保持溝の内側に配置され、かつ、径方向外側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜した1対の傾斜外面を備えた、前記外径側シール部とは異なる断面形状を有する内径側シール部と、を有する。
前記シール部材は、前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面を、前記1対の内輪のそれぞれの外周面に当接させ、かつ、前記1対の傾斜外面のそれぞれを、前記1対の溝内面のそれぞれに当接させており、前記内径側シール部の内周面と前記シール保持溝の溝底面との間に、径方向隙間を有する。
【0019】
本発明の転がり軸受装置の一態様では、前記内径側シール部を、内周面に、シール凹溝を有するものとすることができる。
【0020】
本発明の転がり軸受装置の一態様では、前記シール部材の硬度を、Hs85以上Hs95以下(Hs90±5)とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、1対の内輪同士の突き合わせ部の密封性を確保でき、かつ、アキシアル隙間の保証を行うことができる、転がり軸受装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置を示す、断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置を取り出して示す、部分断面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第2例を示す、
図3に相当する図である。
【
図5】
図5は、従来構造の転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置を示す、断面図である。
【
図6】
図6は、従来構造の転がり軸受装置を取り出して示す、部分断面図である。
【
図7】
図7(A)及び
図7(B)は、従来から知られているアキシアル隙間の測定方法を工程順に説明するために示す、断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図3を用いて説明する。本例では、本発明の転がり軸受装置を、トラックやバスなどの重量が嵩む大型車両用の駆動輪支持装置に適用している。
【0024】
〔駆動輪支持装置の全体構成〕
駆動輪支持装置1は、
図1に全体構成を示すように、転がり軸受装置2と、車軸管3と、ハブ輪4と、駆動軸5とを備える。駆動輪支持装置1は、トラックの後輪などの駆動輪6及び制動用回転体7を回転自在に支持するとともに、駆動輪6及び制動用回転体7に駆動トルクを伝達するものであり、全浮動型の構成を有する。
【0025】
なお、駆動輪支持装置1に関して、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図1の左側であり、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、
図1の右側である。
【0026】
転がり軸受装置2は、車軸管3の軸方向外側の端部の周囲に、ハブ輪4を回転自在に支持している。転がり軸受装置2は、車軸管3の外周面とハブ輪4の内周面との間に配置されている。
【0027】
車軸管3は、アクスルハウジングとも呼ばれており、円筒形状を有し、軸方向内側の端部が図示しないデフケースにつながっている。このため、車軸管3は、使用時にも回転しない。車軸管3の内部空間は、デフケースの内部空間に連通している。車軸管3は、外周面の軸方向外側部に、円筒面状の円筒面部8を有する。また、車軸管3は、外周面のうち、円筒面部8の軸方向内側に隣接する部分に軸方向外側を向いた段差面9を有し、円筒面部8の軸方向外側に隣接する部分に、円筒面部8よりも小径の雄ねじ部10を有する。雄ねじ部10には、転がり軸受装置2に予圧を付与するためのナット11が螺合されている。
【0028】
駆動軸5は、アクスルシャフトとも呼ばれており、中実状で、車軸管3の内側に挿通されている。駆動軸5は、車軸管3と同軸に配置されている。駆動軸5の軸方向内側の端部は、図示しないデファレンシャルギヤに連結されている。このため、駆動軸5は、使用時に回転する。駆動軸5は、車軸管3から突出した軸方向外側の端部に、外向フランジ状のフランジ12を備えている。フランジ12には、複数本のボルト13によりハブ輪4が固定されている。
【0029】
ハブ輪4は、円環形状を有している。ハブ輪4は、内周面に円筒面状の嵌合面14を有しており、外周面の軸方向中間部に回転フランジ15を有している。回転フランジ15には、ハブボルトやスタッドなどの結合部材16により、駆動輪6が固定されている。ハブ輪4の軸方向内側には、制動用回転体7がボルト13により固定されている。
【0030】
駆動輪支持装置1は、上記構成により、駆動輪6及び制動用回転体7を車軸管3に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸5からのトルクを駆動輪6及び制動用回転体7に伝達可能としている。また、全浮動型の駆動輪支持装置1においては、車両の荷重は、駆動軸5によっては支承されず、車軸管3によって支承される。駆動軸5は、トルクの伝達のみを負担する。
【0031】
以下、本例の転がり軸受装置2の具体的な構造について、
図2及び
図3を参照して説明する。
なお、転がり軸受装置2に関して、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図2及び
図3の左側であり、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、
図2及び
図3の右側である。
【0032】
〈転がり軸受装置〉
転がり軸受装置2は、背面組み合わせ型の複列円すいころ軸受であり、外輪回転型である。転がり軸受装置2は、使用状態で回転する外輪17と、使用状態で回転しない1対の内輪18a、18bと、複数個の転動体19a、19bと、シール部材20と、連結環21とを備える。
【0033】
《外輪》
外輪17は、たとえば軸受鋼製で、円環形状を有している。外輪17は、外周面に円筒面を有しており、内周面に円すい凹面状の複列の外輪軌道22a、22bを有している。外輪17は、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、ハブ輪4の内周面に備えられた嵌合面14に対し締り嵌めで内嵌固定される。このため、外輪17は、ハブ輪4とともに回転する。
【0034】
《内輪》
1対の内輪18a、18bのそれぞれは、たとえば軸受鋼製で、円環形状を有している。1対の内輪18a、18bのそれぞれは、外周面の軸方向中間部に、円すい凸面状の単列の内輪軌道23a、23bを有している。1対の内輪18a、18bのそれぞれは、内輪軌道23a、23bの軸方向両側に、大鍔部24a、24bと小鍔部25a、25bとを有する。このため、1対の内輪18a、18bのそれぞれは、大鍔部24a、24bを備えた大径側端部の外径が、小鍔部25a、25bを備えた小径側端部の外径よりも大きくなっている。
【0035】
1対の内輪18a、18bのそれぞれは、小径側端部の内周面に、略三角形状の断面形状を有する、係止凹溝26a、26bを有している。係止凹溝26a、26bのそれぞれは、内輪18a、18bの内周面にのみ開口しており、内輪18a、18bの全周にわたり備えられている。内輪18a、18bの内周面は、軸方向に関して係止凹溝26a、26bから大径側端面側に外れた部分に、円筒面状の小径面部27a、27bを有しており、軸方向に関して係止凹溝26a、26bから小径側端面側に外れた部分に、小径面部27a、27bよりも内径の大きい、円筒面状の大径面部28a、28bを有している。
【0036】
1対の内輪18a、18bは、互いの小径側端面同士を突き合せた状態で、外輪17の径方向内側に、外輪17と同軸に配置されている。1対の内輪軌道23a、23bは、複列の外輪軌道22a、22bと径方向に対向する位置に、複列に配置されている。
【0037】
1対の内輪18a、18bは、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、車軸管3の外周面に備えられた円筒面部8に対し隙間嵌めで外嵌されている。また、1対の内輪18a、18bは、車軸管3の外周面に備えられた段差面9とナット11との間に、軸方向に挟持されている。これにより、転がり軸受装置2には、所定の予圧が付与される。たとえば、転がり軸受装置2のアキシアル方向の内部隙間が、ゼロ又は若干量の正もしくは負の値になるように、ナット11の螺合量(螺合位置)を設定している。
【0038】
本例では、1対の内輪18a、18bは、同一部材によって構成されており、軸方向に関して反対向きに配置されている。このため、1対の内輪18a、18bは、軸方向に関する向きが反対である点を除いて、各部の形状及び寸法は互いに同じである。ただし、本発明を実施する場合に、1対の内輪として、各部の形状及び寸法が互いに異なる部材を使用することもできる。
【0039】
図3に示すように、1対の内輪18a、18bのうち、軸方向外側に配置された内輪18aは、軸方向内側の端面である小径側端面に、第1突き合わせ面29aと、第1環状凹溝30aとをそれぞれ有する。
【0040】
第1突き合わせ面29aは、内輪18aの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面であり、内輪18aの軸方向内側の端面の径方向内側半部に備えられている。
【0041】
第1環状凹溝30aは、第1突き合わせ面29aよりも径方向外側に位置しており、内輪18aの軸方向内側の端面の径方向外側半部に備えられている。第1環状凹溝30aは、内輪18aの外周面及び軸方向内側の端面のそれぞれに開口しており、略台形状の断面形状を有している。図示の例では、第1環状凹溝30aの外周面である径方向底面は、円筒面と、該円筒面の軸方向内側に配置された、軸方向内側に向かうほど外径が小さくなったテーパ面とから構成されている。
【0042】
第1環状凹溝30aの軸方向側面である軸方向底面は、内輪18aの中心軸に直交する仮想平面に対して傾斜した円すい筒面である。具体的には、第1環状凹溝30aの軸方向底面は、径方向外側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に傾斜している。図示の例では、第1環状凹溝30aの軸方向底面は、内輪18aの中心軸に対して45°程度傾斜している。第1環状凹溝30aの径方向底面と軸方向底面とは、断面円弧状の隅角部を介してつながっている。
【0043】
軸方向外側に配置された内輪18aは、第1環状凹溝30aを形成することで、軸方向内側の端部の径方向外側部に、三角形状の断面形状を有する第1突条部31aを備える。第1突条部31aの内周面は、第1環状凹溝30aの軸方向底面から構成される。
【0044】
1対の内輪18a、18bのうち、軸方向内側に配置された内輪18bは、軸方向外側の端面である小径側端面に、第2突き合わせ面29bと、第2環状凹溝30bとをそれぞれ有する。
【0045】
第2突き合わせ面29bは、内輪18bの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面であり、内輪18bの軸方向外側の端面の径方向内側半部に備えられている。第2突き合わせ面29bの外径寸法及び内径寸法は、第1突き合わせ面29aの外径寸法及び内径寸法と同じである。
【0046】
第2環状凹溝30bは、第2突き合わせ面29bよりも径方向外側に位置しており、内輪18bの軸方向外側の端面の径方向外側半部に備えられている。第2環状凹溝30bは、内輪18bの外周面及び軸方向外側の端面のそれぞれに開口しており、略台形状の断面形状を有している。第2環状凹溝30bの外周面である径方向底面は、円筒面と、該円筒面の軸方向外側に配置された、軸方向外側に向かうほど外径が小さくなったテーパ面とから構成されている。
【0047】
第2環状凹溝30bの軸方向側面である軸方向底面は、内輪18bの中心軸に直交する仮想平面に対して傾斜した円すい筒面である。具体的には、第2環状凹溝30bの軸方向底面は、径方向外側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に傾斜している。図示の例では、第2環状凹溝30bの軸方向底面は、内輪18bの中心軸に対して45°程度傾斜している。第2環状凹溝30bの径方向深さ及び軸方向深さは、第1環状凹溝30aの径方向深さ及び軸方向深さと同じである。第2環状凹溝30bの径方向底面と軸方向底面とは、断面円弧状の隅角部を介してつながっている。なお、本発明を実施する場合に、第1環状凹溝の径方向深さ及び軸方向深さと、第2環状凹溝の径方向深さ及び軸方向深さとを、互いに異ならせることもできる。また、第1環状凹溝及び第2環状凹溝のそれぞれの径方向底面は、円筒面又はテーパ面のみから構成することもできるし、その他の母線形状を有する面から構成しても良い。
【0048】
軸方向内側に配置された内輪18bは、第2環状凹溝30bを形成することで、軸方向外側の端部の径方向外側部に、三角形状の断面形状を有する第2突条部31bを備える。第2突条部31bの内周面は、第2環状凹溝30bの軸方向底面から構成される。
【0049】
転がり軸受装置2は、軸方向外側に配置された内輪18aの第1突き合わせ面29aと、軸方向内側に配置された内輪18bの第2突き合わせ面29bとを、面接触させるように軸方向に突き合わせることで、突き合わせ部32を構成している。また、突き合わせ部32を構成した状態で、第1環状凹溝30aと第2環状凹溝30bとが軸方向につながり、径方向外側にのみ開口するシール保持溝33が形成される。このため、1対の内輪18a、18bは、内輪18a、18bを軸方向に跨ぐように、シール保持溝33を有している。
【0050】
シール保持溝33は、略等脚台形状の断面形状を有するアリ溝状に構成されており、突き合わせ部32の径方向外側に配置されている。シール保持溝33は、第1環状凹溝30aの径方向底面及び第2環状凹溝30bの径方向底面から構成される、溝底面33aを有する。また、シール保持溝33は、第1環状凹溝30aの軸方向底面及び第2環状凹溝30bの軸方向底面から構成される、1対の溝内面33bを有する。1対の溝内面33bは、径方向外側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜している。
【0051】
《転動体》
複数個の転動体19a、19bのそれぞれは、円すいころであり、たとえば軸受鋼製又はセラミック製である。複数個の転動体19a、19bのそれぞれは、外輪軌道22a、22bと内輪軌道23a、23bとの間に、保持器34a、34bにより転動自在に保持された状態で配置されている。また、軸方向外側列の転動体19aのそれぞれは、軸方向外側の端面の一部を大鍔部24aに接触対向させ、かつ、軸方向内側の端面の一部を小鍔部25aに近接対向させている。軸方向内側列の転動体19bのそれぞれは、軸方向内側の端面の一部を大鍔部24bに接触対向させ、かつ、軸方向外側の端面の一部を小鍔部25bに近接対向させている。
【0052】
《シール部材》
シール部材20は、1対の内輪18a、18b同士の突き合わせ部32を密封するためのもので、突き合わせ部32の径方向外側に配置されている。
【0053】
図3に示すように、本例の転がり軸受装置2においては、シール部材20の断面輪郭形状を、特開2008-75837号公報に記載されたような円形状ではなく、径方向中間部がくびれた略8字形状としている。
【0054】
シール部材20は、弾性材製で、全体として円環形状に構成されている。シール部材20は、シール保持溝33への装着前に、円環形状をある程度保持できるように、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR、高硬度ニトリル)などの、硬度がHs85以上Hs95以下(HS90±5)の材料製としている。本例では、シール部材20の硬度を、Hs90程度としている。
【0055】
シール部材20は、外径側シール部35と、内径側シール部36とを備える。
【0056】
外径側シール部35は、シール部材20の径方向外側半部を構成し、略矩形状の断面形状を有している。外径側シール部35は、シール部材20をシール保持溝33に装着した状態で、シール保持溝33の外側に配置されている。別な言い方をすれば、外径側シール部35は、シール保持溝33から径方向外側にはみ出している。
【0057】
外径側シール部35の軸方向幅は、シール保持溝33の開口部の軸方向幅よりも大きい。また、外径側シール部35は、軸方向両側部のそれぞれに、円筒面状の内周面を有している。外径側シール部35は、シール部材20をシール保持溝33に装着した状態で、軸方向両側部のそれぞれの内周面を、1対の内輪18a、18bの小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面に対して全周にわたり当接(面接触)させている。これにより、シール部材20の径方向の位置決めを図るとともに、シール保持溝33の開口部を全周にわたり蓋している。
【0058】
本例では、外径側シール部35の径方向幅を、シール保持溝33の径方向幅及び内径側シール部36の径方向幅のそれぞれとほぼ同じとし、ある程度の厚みを持たせている。これにより、外径側シール部35に捩れが生じることを防止している。外径側シール部35は、外周面の軸方向両側部に、面取り部を有している。
【0059】
内径側シール部36は、シール部材20の径方向内側半部を構成し、シール保持溝33の断面形状とほぼ同じ略等脚台形状の断面形状を有している。内径側シール部36は、シール部材20をシール保持溝33に装着した状態で、シール保持溝33の内側に配置されている。具体的には、内径側シール部36は、シール保持溝33の内側に、がたつきなく保持されている。
【0060】
内径側シール部36は、円筒面状の内周面37を有している。また、内径側シール部36は、軸方向両側に、径方向外側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜した、円すい筒面状の1対の傾斜外面38を有している。このため、内径側シール部36の軸方向幅は、径方向外側に向かうほど小さくなる。内径側シール部36のうちで軸方向幅が最も大きくなった部分の軸方向幅は、外径側シール部35の軸方向幅とほぼ同じである。シール部材20の中心軸に対する傾斜外面38の傾斜角度は、内輪18a、18bの中心軸に対する溝内面33bの傾斜角度よりも少しだけ小さい。図示の例では、傾斜外面38は、シール部材20の中心軸に対して40°程度傾斜している。1対の傾斜外面38のそれぞれと内周面37とは、直接接続されておらず、面取り部を介して接続されている。
【0061】
シール部材20の自由状態で、1対の傾斜外面38同士の軸方向間隔は、1対の内輪18a、18bを連結環21により連結した状態における1対の溝内面33b同士の軸方向間隔よりも、少なくとも傾斜外面38の一部分において少しだけ大きい。図示の例では、傾斜外面38の径方向内側部における1対の傾斜外面38同士の軸方向間隔が、1対の溝内面33b同士の軸方向間隔よりも少しだけ大きい。傾斜外面38の径方向外側部から径方向中間部における1対の傾斜外面38同士の軸方向間隔は、1対の溝内面33b同士の軸方向間隔よりも少しだけ小さい。
【0062】
内径側シール部36は、シール部材20をシール保持溝33に装着した状態で、内径側シール部36の1対の傾斜外面38(図示の例では径方向内側部)を、シール保持溝33の1対の溝内面33bのそれぞれに全周にわたり当接させている。本例では、1対の傾斜外面38のそれぞれを1対の溝内面33bのそれぞれに当接させた状態で、1対の傾斜外面38(内径側シール部36)が軸方向及び径方向にわずかに弾性変形する。
【0063】
シール部材20は、外径側シール部35の断面形状と内径側シール部36の断面形状とを互いに異ならせている。これにより、シール部材20を径方向に関して内外反転した状態、すなわち、外径側シール部35を径方向内側に向け、かつ、内径側シール部36を径方向外側に向けた状態で、シール部材20をシール保持溝33に対し装着不能となるようにしている。具体的には、外径側シール部35を、シール保持溝33の内側に配置できないようにしている。
【0064】
シール部材20には、軸方向両側部のうちで、外径側シール部35と内径側シール部36との径方向間部分(径方向中間部)に、断面三角形状の係合凹溝39a、39bが設けられている。
【0065】
本例のシール部材20は、シール保持溝33に装着した状態で、外径側シール部35の軸方向両側部のそれぞれの内周面が、1対の内輪18a、18bの小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面に径方向に当接(面接触)し、かつ、内径側シール部36の1対の傾斜外面38のそれぞれが、シール保持溝33の1対の溝内面33bのそれぞれに当接する。別の言い方をすれば、本例のシール部材20は、シール保持溝33に装着した状態で、係合凹溝39a、39bに対して、第1突条部31a及び第2突条部31bのそれぞれが径方向及び軸方向のがたつきなく係合する。これにより、シール部材20の1対の内輪18a、18bに対する位置決めが図られる。すなわち、シール部材20が、1対の内輪18a、18bに対して径方向及び軸方向のそれぞれに移動することが防止される。
【0066】
シール部材20の位置決めを図った状態で、内径側シール部36の内周面37と、シール保持溝33の溝底面33aとの間には、微小隙間である径方向隙間40が全周にわたり形成される。本例では、溝底面33aを、それぞれが円筒面とテーパ面とからなる第1環状凹溝30aの径方向底面及び第2環状凹溝30bの径方向底面から構成しているため、径方向隙間40は、軸方向に関して一定ではなく、軸方向中央部において最も大きくなっている。
【0067】
本例では、シール部材20を装着した状態で、外径側シール部35の軸方向両側部のそれぞれの内周面を、小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面に全周にわたり当接させ、かつ、1対の傾斜外面38のそれぞれを、1対の溝内面33bのそれぞれに全周にわたり当接させている。このため、本例の転がり軸受装置2によれば、車軸管3の内部に存在するデフオイルや、外部空間からの泥水などの異物が、車軸管3の外周面と内輪18a、18bの内周面との間の隙間に侵入した後、突き合わせ部32を通じて、転がり軸受装置2の内部空間に侵入することを防止できる。したがって、転がり軸受装置2の内部に封入したグリースの劣化などを防止できる。
【0068】
《連結環》
連結環21は、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結するためのもので、金属板製である。連結環21は、全体が円環状で、略U字形の断面形状を有している。連結環21は、軸方向中間部に円筒形状を有する繋ぎ部41を有しており、軸方向両側の端部に、それぞれが略L字形の断面形状を有する1対の係止部42a、42bを有している。
【0069】
連結環21は、1対の内輪18a、18bを軸方向に跨ぐようにして、1対の内輪18a、18bに内嵌されている。そして、連結環21は、1対の係止部42a、42bのそれぞれを、1対の内輪18a、18bのそれぞれの内周面に備えられた係止凹溝26a、26bに対し係止している。具体的には、軸方向外側の係止部42aの外面を、軸方向外側の内輪18aの係止凹溝26aの内面に対し軸方向のがたつきなく当接させる。かつ、軸方向内側の係止部42bの外面を、軸方向内側の内輪18bの係止凹溝26bの内面に対し軸方向のがたつきなく当接させる。これにより、連結環21は、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結している。したがって、本例の転がり軸受装置2によれば、転がり軸受装置2を車軸管3に組み付ける際に内輪18a、18bに作用する摩擦によって、1対の内輪18a、18bが互いに分離したり、軸方向外側に配置された内輪18aと車軸管3との衝突によって、該内輪18aが車軸管3から軸方向に抜け出したりすることを防止できる。
【0070】
繋ぎ部41は、軸方向にわたり外径寸法及び内径寸法が一定であり、連結環21の自由状態で、大径面部28a、28bの内径寸法と同じか又は該内径寸法よりもわずかに大きい外径寸法を有する。このため、連結環21を、1対の内輪18a、18bに装着(内嵌)した状態で、繋ぎ部41の外周面は大径面部28a、28bの内周面に対して接触している。
【0071】
《密封装置》
図1及び
図2に示すように、本例の転がり軸受装置2は、外輪17の内周面と1対の内輪18a、18bの外周面との間に存在する内部空間の軸方向両側の開口部を塞ぐために、1対の密封装置43a、43bをさらに備える。一方の密封装置43aは、外輪17の内周面の軸方向外側部と、軸方向外側に配置された内輪18aを構成する大鍔部24aの外周面との間に配置されている。他方の密封装置43bは、外輪17の内周面の軸方向内側部と、軸方向内側に配置された内輪18bを構成する大鍔部24bの外周面との間に配置されている。このような密封装置43a、43bにより、転がり軸受装置2の内部空間に封入したグリースが外部空間に漏洩することを防止するとともに、外部空間に存在する泥水などの異物が内部空間に侵入することを防止している。
【0072】
以上のような本例の転がり軸受装置2によれば、1対の内輪18a、18b同士の突き合わせ部32の密封性を確保でき、かつ、アキシアル隙間の保証を行うことができる。
すなわち、本例では、突き合わせ部32の径方向外側に備えられたシール保持溝33にシール部材20を装着した状態で、外径側シール部35の軸方向両側部のそれぞれの内周面を、1対の内輪18a、18bの小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面に当接させ、かつ、内径側シール部36の1対の傾斜外面38のそれぞれを、シール保持溝33の1対の溝内面33bのそれぞれに当接させている。このため、シール部材20により、突き合わせ部32の密封性を確保できる。
【0073】
しかも、本例の構造によれば、1対の傾斜外面38のそれぞれをわずかに弾性変形させるだけで、突き合わせ部32の密封性を確保することが可能であり、特開2008-75837号公報に記載された従来構造のように、突き合わせ部の密封性を確保するために、シール部材を押し潰し、シール部材を大きく弾性変形させる必要がない。このため、1対の傾斜外面38と1対の溝内面33bとの接触圧力(面圧)が高くなることを防止できる。したがって、本例の構造によれば、シール部材20から1対の内輪18a、18bに作用する軸方向に向いた弾力(分力)を十分に小さくできる。この結果、突き合わせ部32に隙間が生じることを防止できる。
【0074】
また、本例では、内径側シール部36の内周面37と、シール保持溝33の溝底面33aとの間に、径方向隙間40を形成している。このため、シール部材20の一部(径方向内側部)が、突き合わせ部32に挟み込まれることを防止できる。また、本例では、シール保持溝33の溝底面33aを、それぞれが円筒面とテーパ面とからなる第1環状凹溝30aの径方向底面及び第2環状凹溝30bの径方向底面から構成しているため、突き合わせ部32から内周面37までの径方向距離(径方向隙間40の大きさ)を大きく確保できる。したがって、シール部材20の一部が、突き合わせ部32に挟み込まれることを有効に防止できる。
【0075】
この結果、本例の転がり軸受装置2によれば、前記
図7に示したような従来から知れている測定方法により、アキシアル隙間を測定すべく、1対の内輪18a、18bを連結環21により連結した状態においても、シール部材20の弾力や、シール部材20が突き合わせ部32に挟みこまれることに起因して、突き合わせ部32に隙間が生じることを防止できる。したがって、本例の転がり軸受装置2は、従来から知られている測定方法により、アキシアル隙間の基準値の測定を正確に行うことができる。したがって、アキシアル隙間を正確に測定でき、アキシアル隙間を保証することが可能になる。また、これにより、転がり軸受装置2に対して、適切な予圧を付与することも可能になる。
【0076】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図4を用いて説明する。
【0077】
本例の転がり軸受装置2aは、1対の内輪18a、18b同士の突き合わせ部32を密封するためのシール部材20aの構造のみが、実施の形態の第1例の構造とは異なる。
【0078】
本例のシール部材20aは、シール部材20aをシール保持溝33に装着した状態で、シール保持溝33の外側に配置された外径側シール部35と、シール保持溝33の内側に配置された内径側シール部36aとからなる。外径側シール部35の構造は、実施の形態の第1例のシール部材20を構成する外径側シール部35の構造と同じである。
【0079】
内径側シール部36aは、軸方向両側に、径方向外側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜した、円すい筒面状の1対の傾斜外面38を有する。また、内径側シール部36aの内周面37aは、円筒面状ではなく、軸方向中間部に、径方向外側に向けて凹んだシール凹溝44を全周にわたり有している。シール凹溝44は、略等脚台形状の断面形状を有している。これにより、内径側シール部36aは、シール凹溝44の軸方向両側部に、それぞれがヒレ状(薄肉)の1対のリップ部45を設けている。シール凹溝44は、突き合わせ部32の径方向外側に位置している。1対のリップ部45のそれぞれは、突き合わせ部32から軸方向に外れた部分に位置している。本発明を実施する場合に、シール凹溝の断面形状は、台形状に限らず、三角形状、半円形状など、その他の形状を採用することもできる。また、内径側シール部の内周面に形成するシール凹溝は、1つに限らず、複数形成することもできる。
【0080】
以上のような本例では、内径側シール部36aの内周面37aの軸方向中間部に、シール凹溝44を形成し、内径側シール部36の軸方向両側部にヒレ状のリップ部45を設けているため、1対の傾斜外面38のそれぞれを弾性変形しやすくすることができる。このため、1対の傾斜外面38と1対の溝内面33bとの接触圧力を、実施の形態の第1例の構造に比べてさらに低くすることができる。また、内径側シール部36aの内周面37aにシール凹溝44を形成しているため、シール凹溝44の底面と溝底面33aとの間に形成される径方向隙間40aを大きくできる。したがって、シール部材20aの一部が、突き合わせ部32に挟み込まれることを有効に防止できる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0081】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0082】
本発明を実施する場合に、シール部材を構成する外径側シール部及び内径側シール部のそれぞれの形状は、実施の形態の各例で示した形状に限定されず、適宜変更することができる。また、本発明を実施する場合に、連結環の構造についても、実施の形態の各例の構造に限定されず、適宜変更することができる。さらに、本発明の転がり軸受装置は、駆動輪支持装置に限らず、各種機械装置の回転支持部に組み込んで使用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 駆動輪支持装置
2、2a 転がり軸受装置
3 車軸管
4 ハブ輪
5 駆動軸
6 駆動輪
7 制動用回転体
8 円筒面部
9 段差面
10 雄ねじ部
11 ナット
12 フランジ
13 ボルト
14 嵌合面
15 回転フランジ
16 結合部材
17 外輪
18a、18b 内輪
19a、19b 転動体
20、20a シール部材
21、21a 連結環
22a、22b 外輪軌道
23a、23b 内輪軌道
24a、24b 大鍔部
25a、25b 小鍔部
26a、26b 係止凹溝
27a、27b 小径面部
28a、28b 大径面部
29a 第1突き合わせ面
29b 第2突き合わせ面
30a 第1環状凹溝
30b 第2環状凹溝
31a 第1突条部
31b 第2突条部
32 突き合わせ部
33 シール保持溝
33a 溝底面
33b 溝内面
34a、34b 保持器
35 外径側シール部
36、36a 内径側シール部
37、37a 内周面
38 傾斜外面
39a、39b 係合凹溝
40、40a 径方向隙間
41 繋ぎ部
42a、42b 係止部
43a、43b 密封装置
44 シール凹溝
100 転がり軸受装置
101 車軸管
102 ハブ輪
103 駆動軸
104 フランジ
105 駆動輪
106 制動用回転体
107、107x 外輪
108a、108b、108x、108y 内輪
109a、109b、109x、109y 転動体
110 シール部材
111 連結環
112a、112b 外輪軌道
113a、113b 内輪軌道
114 突き合わせ部
115 繋ぎ部
116 係止部
117a、117b 係止凹溝
118 基準面
119 変位計