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  • 特開-抗血栓リポソーム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144013
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】抗血栓リポソーム
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20220926BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20220926BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 38/49 20060101ALN20220926BHJP
   A61K 47/68 20170101ALN20220926BHJP
【FI】
A61K9/127
A61P7/02
A61K45/00
A61K47/69
A61K47/26
A61K47/24
A61K39/395 L
A61K39/395 C
A61K38/49
A61K47/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044845
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】392035189
【氏名又は名称】橋本電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】橋本 正敏
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA95
4C076CC14
4C076CC41
4C076DD23
4C076DD23D
4C076DD26
4C076DD26Z
4C076DD63
4C076DD67
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF11
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084BA44
4C084CA18
4C084DC21
4C084MA24
4C084NA13
4C084ZA541
4C084ZA542
4C085AA21
4C085BB31
4C085CC22
4C085EE03
4C085GG02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】非局所的な血中薬剤濃度の増加を抑止しつつ血栓溶解性能乃至血栓肥大化抑止性能を向上可能な抗血栓リポソームを提供する。
【解決手段】抗血栓剤が封入されたリポソームからなる抗血栓リポソームであって、この抗血栓リポソームは、直径が約10μm-約300μmである巨大リポソーム(GUV)を含み、糖含有脂質薄膜水和法により作製されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗血栓剤が封入されたリポソームからなる抗血栓リポソームにおいて、この抗血栓リポソームは、直径が約10μm-約300μmである巨大リポソーム(GUV)を含むことを特徴とする抗血栓リポソーム。
【請求項2】
前記抗血栓リポソームは、糖含有脂質薄膜水和法により作製されている請求項1記載の抗血栓リポソーム。
【請求項3】
前記抗血栓剤は、血栓溶解剤を主成分とする請求項2記載の抗血栓リポソーム。
【請求項4】
前記抗血栓リポソームは、直径が約20μm-約200μmである巨大リポソーム(GUV)からなる請求項2記載の抗血栓リポソーム。
【請求項5】
前記抗血栓リポソームは、直径が約30μm-約150μmである巨大リポソーム(GUV)からなる請求項2記載の抗血栓リポソーム。
【請求項6】
前記抗血栓リポソームは、毛細血管の最大径よりも径大である巨大リポソーム(GUV)からなる請求項2記載の抗血栓リポソーム。
【請求項7】
前記抗血栓リポソームの表面は、アクロレイン化タンパク質と結合可能な抗アクロレイン抗体により修飾されている請求項1記載の抗血栓リポソーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血栓リポソームに関する。
【背景技術】
【0002】
血管系は、心臓から各臓器や生体組織へ血流を流すための動脈系と、各臓器や生体組織から心臓へ血流を流すための静脈系とに大別される。動脈の先端部は複数の細動脈に別れ、静脈の基端部は複数の細静脈に別れ、血流は細動脈から毛細血管を通じて細静脈へ流れる。毛細血管の内径は約7ミクロン程度であり、赤血球がすり抜けられる程度である。
【0003】
血栓は動脈血栓と静脈血栓とに区分される。血流速度が速い動脈で形成される動脈血栓は血小板とフィブリンとを主成分とする。他方、血流速度が遅い静脈で形成される静脈血栓の主成分は血小板及びフィブリンに加えて赤血球を含む。
【0004】
血栓を溶解乃至縮小させる血栓溶解剤が知られている。血栓溶解剤としては、たとえばプラスミノーゲン活性化因子(t-pa)がある。しかし、血栓溶解作用をもつこの種の血栓溶解剤は、内出血を促進するという副作用をもつ。このため、血中の最高血中濃度は所定の限界値をもつ。
【0005】
血管に注入された血栓溶解剤は肝臓組織やマクロフアージなどの生体反応により分解され、腎臓から排出される。このため、血栓溶解剤の血中濃度は一般に半日乃至一日程度の半減期をもつ。したがって、従来において血管に注入された血栓溶解剤の血栓溶解作用は注入直後に最も高く、時間の経過とともに低下する。
【0006】
薬剤の徐放作用及びターゲット部位への薬剤輸送作用の獲得を目的として薬剤をリポソームに封入する技術が知られている。脂質小胞又は脂質二重膜とも呼ばれるリポソームは、内部収容物質を血管中のターゲット部位まで輸送するキャリヤとして使用される。これにより、目的物質がたとえば血管内面のようなターゲット以外の部位に悪影響を与えるのを抑制することができる。
【0007】
リポソームには、単一の脂質層で構成される単層リポソームと、複数の脂質層で構成される多層リポソームとがあり、球状小胞の形状をもつ。従来において、DDSキャリヤとして用いる場合、サブミクロン未満の直径を有するリポソームを用いるのが一般的である。
【0008】
たとえば、特許文献1は、血栓溶解剤としてプラスミノーゲン活性化因子が封入されたリポソームの製造方法を開示する。また、特許文献2はリポソームのサイズ制御方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2-295933号公報
【特許文献2】特表2002-536316号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明は、非局所的な血中薬剤濃度の増加を抑止しつつ血栓溶解性能乃至血栓肥大化抑止性能を向上可能な抗血栓リポソームを提供することをその目的としている。
【0011】
この課題を解決するために、本発明者は、抗血栓リポソームとして、糖含有脂質薄膜水和法により作製された巨大リポソームを採用した。これにより、抗血栓リポソームとして優れた特性を得ることができる。糖の浸透圧作用によりこの巨大リポソームは、他の製法で作製されたリポソームと比べて格段に大きな径をもつことができる。
【0012】
第1に、大きな径をもつ巨大リポソームは、それよりも径小なリポソームと比べて、血管内における障害物とみなせる静止構造体である血栓により、その進行を妨げられ易くなる。1つの巨大リポソームが血栓に引っ掛かると、その後に血栓部位を通過する他の巨大リポソームも血栓やそれに引っ掛かった巨大リポソームによりその進行を妨げられる。結局、巨大リポソームからなる血栓溶解リポソームは血栓近傍に滞留することになる。
【0013】
血管内に注入された血栓溶解リポソームは種々の要因により所定の速度で壊れる。したがって、血栓近傍に滞留する巨大リポソームは血栓近傍にて壊れ、血栓近傍にて血栓溶解剤を血中に放出する。その結果、血管や臓器の他部位におけるたとえば内出血のような悪影響を抑止しつつ、所定の血栓の溶解性を確保することができる。
【0014】
第2に、糖含有脂質薄膜水和法により作製された巨大リポソームは、他の製法で作製されたリポソームと比べて相対的に壊れ易い特性をもつ。この特性は、血栓近傍に滞留する巨大リポソームから血栓溶解剤を放出させるのに非常に好都合である。糖含有脂質薄膜水和法により作製された巨大リポソームを血栓溶解リポソームとして用いる際のこの利点は、従来まだ認識されていなかった。
【0015】
第3に、糖含有脂質薄膜水和法によりリポソームを作製する時、巨大リポソームのような非常に径大なリポソームの他に種々の径のリポソームか作製される。言い換えれば、糖含有脂質薄膜水和法によりリポソームを作製する時、リポソームの径は広い分布をもつ。本発明者らは、糖含有脂質薄膜水和法により作製された巨大リポソームの径はその壊れやすさと相関をもつことを見いだした。巨大リポソームの径が大きいほどそれは壊れ易くなる。したがって、種々の径をもつ巨大リポソームが血管内に注入した場合、径大な巨大リポソームから順番に壊れる傾向が生じる。その結果、全ての巨大リポソームが同時期に壊れて血栓溶解剤の血中濃度が異常に増加することを防止できる。言い換えれば、糖含有脂質薄膜水和法により作製された血栓溶解リポソームはいわゆる徐放性をもつことができる。
【0016】
好適には、本発明の抗血栓リポソームの直径は、約10μm-約300μm、好適には約20μm-約200μm、さらに好適には約30μm-約150μmとされる。径の増加により、リポソームと血栓との結合性が改善される。しかし、径の増加により、リポソームの破損性も増大する。
【0017】
好適な態様において、抗血栓リポソームの表面は、アクロレイン化タンパク質と結合可能な結合物質により修飾される。これにより、リポソームと血栓との結合性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、血栓周囲の血流の流れを示す模式説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、血管内の血栓とリポソームとの結合性とリポソーム径との関係が図1を参照して説明される。図1は、血管1の所定部位にできた血栓2を示す模式断面図である。血栓2が血管1を狭窄するため、血流3は血栓2と血管1との間の隙間4を通じて流れる。
【0020】
次に、血栓近傍における血流3の速度変化が説明される。血流速度は流路断面積に比例する。したがって、血流速度は隙間4において他の部位と比べて増速される。たとえば、隙間4における流路断面積が血栓2が無い場合のそれと比べて半分となる時、隙間4における血流速度は他の部位と比べて2倍となる。
【0021】
次に、血栓近傍における血流3の静圧変化が説明される。血栓2は血管1内にノズルを形成するので、隙間4における静圧は他の部位と比べて低下する。
【0022】
次に、隙間4から出た血流3が形成する渦流が説明される。流体力学において知られているように、ノズルからでた血流3は強い渦流5を形成する。この渦流5は、血流3の速度エネルギーを圧力エネルギーに変換することにより、隙間4の直下流において血流3の静圧が隙間4から出た直後に元の静圧値近傍まで回復する過程にて発生する。
【0023】
次に、血栓2近傍の血流の流れ方向が説明される。血流3の進行方向は血栓3の外表面に沿ってほぼ湾曲して流れる。結局、血流2の静圧、流速、及び流れ方向は、血栓2の周囲において大きく変化し、この変化は脈拍とともにさらに時間的に変化することが理解される。
【0024】
次に、血栓2のリポソーム捕集率とリポソーム6の径との関係が説明される。既述されたように、血栓2の周囲において、脈動する血流3の速度、流れの方向、及び静圧が変化する。これらのパラメータがリポソーム6に与える影響は、リポソーム6の径によい大幅に変化する。
【0025】
血流3内のリポソーム6は血流3から力を受ける。大きなリポソーム6は大きな慣性をもつため、その速度、流れ方向は小さいリポソーム7と比べて変化しにくい。簡単に言えば、大きなリポソーム6は小さいリポソーム7と比べて相対的に高い直進性をもつ。
【0026】
言い換えれば、小さいリポソーム7は、隙間4が血栓2の周囲に形成する曲がった流路に沿って高速でこの隙間4をすり抜ける。これに対して、隙間4を流れる大きなリポソーム6は、その慣性質量により血栓2の表面に付着しやすくなる。さらに言えば、血栓2は、血流中に設置されたネットのように働く。このため、大きなリポソーム6は、小さいリポソーム7と比べて容易に血栓2に捕捉される。
【0027】
次に、この実施例において血栓溶解キャリヤとして採用される巨大リポソーム(GUV)が説明される。一般に、Giant unilamellar vesicle と呼ばれるこの巨大リポソームは、たとえば後述される糖含有脂質薄膜水和法により形成される。この巨大リポソームは、従来の薬剤キャリヤとして採用される単層又は多層リポソームと比べて格段に大きな直径をもつ。その結果、この巨大リポソームは従来の薬剤キャリヤ用のリポソームと比べて、上記した理由のため高い血栓付着性をもつ。
【0028】
ただし、この巨大リポソームの膜は、従来の薬剤キャリヤ用のリポソームと比べて破れやすいという欠点をもつ。しかしながら、本発明者らは、巨大リポソームのこの易破壊特性は、血栓溶解用リポソームとして逆に好適であることに気がついた。
【0029】
既述されたように、血流の流速、流れ方向、及び静圧は血栓2の周囲において大きく変化する。その結果、血栓2に付着した巨大リポソームは、たとえばサブミクロン以下の径をもつリポソームと比べて、これら血流の流速、流れ方向、及び静圧の空間的又は時間的な変化により、大きな剪断力を受ける。
【0030】
さらに説明すると、巨大リポソームの膜のうち血栓2に付着する付着部位は血栓2に保持される。他方、巨大リポソームの膜のうち血栓2に付着しない非付着部位、たとえば血栓2から最も離れた非付着部位は、血流から付勢されて上記付着部位を血栓2から剥離させようとする。
【0031】
したがって、巨大リポソームの膜には、小型のリポソームと比べて相対的に強い剪断力が働き、巨大リポソームの膨らんだ膜はこの剪断力により容易に壊れる。その結果、巨大リポソーム内に封入されたたとえば血栓溶解剤は血栓2の近傍にて血栓2の周囲に流れ出る。
【0032】
次に、巨大リポソームの膜強度が説明される。巨大リポソームの膜強度は、一般的にリポソームの径に逆の相関をもち、径が増加するほど膜強度は低下する。さらに、糖含有脂質薄膜水和法で作製された巨大リポソームでは、薄膜中の糖量により膜強度は変化する。一般的に巨大リポソームの膜強度は、糖量が多い程低下する。
【0033】
次に、食細胞の異物捕集率とリポソームの径との関係が説明される。マクロフアージや好中球のように食細胞の異物捕集率は異物の大きさに関係をもつ。一般に、食細胞の異物捕集率は異物が大きいほど増大する。結局、巨大リポソームが血栓に付着したり、それが血栓と血管との隙間の通過するのを妨げられて血栓近傍に滞留する時、食細胞も巨大リポソームの周囲に集まることになる。集まった食細胞は巨大リポソームを食べようとする。その結果、巨大リポソームの膜が破れると、巨大リポソーム内の血栓溶解剤が血中に流出する。以上の結果、リポソームの径を増大することにより、巨大リポソームは血栓表面又はその近傍において速やかに破れることが理解される。
【0034】
巨大リポソームを含む血栓溶解リポソームを血管に注入後、所定時間の経過を待ち、その後、巨大リポソームを破壊するための機械的刺激を血栓部位に与えることができる。この機械的刺激としては、たとえば超音波が有効である。巨大リポソームの易破壊性は機械的刺激による膜破壊に好都合である。
【0035】
巨大リポソームが血栓に付着すると、血管は血栓部位にて更に狭窄される。その結果、この部位にさらに巨大リポソームが集積しやすくなる。これにより、血栓溶解剤を血栓近傍に集積させることができる。
【0036】
好適には、血栓溶解剤が封入された巨大リポソームの粒径はたとえば10ー150μmというようにばらつきをもつ。この粒径ばらつきは、薬剤の徐放性を改善する。これは、粒径が大きい巨大リポソームが上記した各理由により、粒径が小さい巨大リポソームよりも壊れやすいためである。
【0037】
巨大リポソームの他の利点が説明される。体内又は臓器内の毛細血管の径は約10μm以下であり、一般的に巨大リポソームは毛細血管内には入らない。したがって、巨大リポソームは、動脈、細動脈、静脈、細静脈に滞留する。その結果、巨大リポソームの自然破壊又は強制破壊は、これら動脈、細動脈、静脈、細静脈中で生じる。このため、巨大リポソームに封入された血栓溶解剤は毛細血管の薄い壁面から体内や臓器内に流入することがなく、それによる体又は臓器への悪影響を回避することができる。
【0038】
その他、巨大リポソームの強度制御、血栓との付着性の増大、血管内壁面などの血栓以外の他の部位との付着性の低下などを目的として、巨大リポソームの膜の外表面に何らかの物質層をコーティングすることは可能である。
【0039】
たとえば、血栓溶解用リポソームの外表面に抗アクロレイン抗体を結合することが好適である。血栓には、アクロレイン化タンパク質(以下、単にアクロレインと称する)が特異的に存在することが知られている。したがって、リポソームの外表面に抗アクロレイン抗体を結合することにより、血栓溶解用リポソームを血栓に特異的に結合することが可能である。なお、血栓溶解用リポソームの表面を抗アクロレイン抗体により修飾することにより、血栓溶解用リポソームと血栓との結合性を改善するこの技術は、既述された巨大リポソームよりも径小な通常のリポソームでも採用されることができる。
【0040】
次に、巨大リポソームを用いた血栓溶解用リポソームの製造方法が以下に詳述される。使用した材料は以下の通りである。
・巨大リポソーム作製脂質及び糖:1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DOPC)、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoglycerol(DOPG)、N-(3-Maleimide-1-oxopropyl)-L-α-phosphatidylethanolamine(DOPE-MAL、架橋用マレイミド脂質)、フルクトース
・血栓溶解剤:プラスミノーゲンアクティベータ(tPA)溶解Phosphate Buffered Saline(PBS)
・血栓標的化抗体:抗アクロレイン抗体
・リポソーム-抗体架橋試薬:ジチオトレイトール(DTT)
【0041】
次に作製手順が説明される。まず、tPA封入巨大リポソームの製造方法が説明される。この巨大リポソームは糖含有脂質薄膜水和法により以下のように作製された。まず、DOPC 10μmol、DOPG 50μmol、DOPE-MAL 40μmolをジエチルエーテルに溶解し、フルクトース100μmolをメタノールに溶解した。この時、脂質含有ジエチルエーテル溶液と糖含有メタノール溶液の体積比が2:1の割合となるように試験管に混合した。混合した溶液を陰圧下でボルテックスをかけながらジエチルエーテル及びメタノールを完全に蒸発させ、糖含有脂質薄膜を形成した。次に、血栓溶解剤としてのtPAを溶解したPBS 2mLを糖含有脂質薄膜に添加して、5分間穏やかにボルテックスを行い(回転数300rpm)、tPA封入マレイミド修飾巨大リポソーム(脂質モル濃度50mM)を作製した。
【0042】
次に、抗アクロレイン抗体結合tPA封入巨大リポソームの作製手順が説明される。
抗アクロレイン抗体20gにDTTを最終濃度100mMとなるように添加混合し、37℃の恒温槽内で60分間反応し、抗体をスルフヒドリル(SH)基化した。次に、tPA封入巨大リポソームとSH基化抗体を混合後、室温で1時間反応してマレイミド基とSH基による架橋を行い、抗アクロレイン抗体結合tPA封入巨大リポソームを作製した。
【0043】
次に、巨大リポソームの径について考察する。上記製法で作製した巨大リポソームの径は、所定の最頻径長値を中心として所定のばらつきをもつ。脂質に比べて糖を増加すると最頻径長値は径大側にシフトする。これは、糖の浸透圧作用が増大することにより、リポソームの膨らみが増加するためと考えられる。糖の浸透圧作用によるリポソームの膜には、たとえば風船のように膨らむほど収縮しようとする力が働く。その結果、巨大リポソームの膨らみはそれが所定値となった時点で終了する。言い換えれば、糖の浸透圧による膜の膨張力と膨らんだ膜の弾性的な収縮力が均衡する時点で巨大リポソームの膨らみは飽和する。膜中の糖量を調整することにより、所望の最頻径長値を得ることができる。
【0044】
巨大リポソームは径小なリポソームよりも格段に血栓付近に滞留しやすい。さらに、上記製法で作製した巨大リポソームは、従来の提案されている血栓溶解リポソームと比べて相対的に破損し易いという優れた特徴をもつ。これは、風船の膜が膨らめば膨らむ程壊れ易くなることと似ている。さらに、食細胞は大きなリポソームを発見し易いこともその一因となる。結局、上記製法により作製された血栓溶解リポソームは、血栓付近に滞留し、かつ、速やかに血栓溶解剤を血栓に放出することができることが理解される。
【0045】
この明細書で言う糖含有脂質薄膜水和法で用いる糖含有脂質薄膜によるリポソーム作製方法は、巨大リポソームの製造法として公知の手法であって、脂質及び糖を溶媒に溶解して形成した溶液をたとえば回転させながら溶媒を蒸発させて作製される。脂質としては、たとえば1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine(DOPS)、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DOPE)などを採用することができ、糖としてはたとえばグルコース、ガラクトース、マンノースを採用することができる。溶媒としてはたとえばN-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N′-2-エタンスルホン酸(HEPES)緩衝液、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)緩衝液を採用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 血管
2 血栓
3 血流
4 隙間
5 渦流
6 巨大リポソーム
7 小さいリポソーム
図1