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特開2022-14402蛇腹機構、並びに多自由度鉗子及び長尺状装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014402
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】蛇腹機構、並びに多自由度鉗子及び長尺状装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/295 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
A61B17/295
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116722
(22)【出願日】2020-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076831
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 捷雄
(72)【発明者】
【氏名】藁品 大介
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160MM32
4C160NN07
4C160NN08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】蛇腹機構を用いた多自由度鉗子を提供する。
【解決手段】蛇腹機構3は、操作部側と作動部側の間に互いに重なり合う複数のリンク部材33を有する。複数のリンク部材は、各リンク部材のそれぞれに、操作部に接続させた一対のワイヤ10a、10bを通して揺動可能に連結している。各リンク部材の間にその揺動を阻止するロック機構が設けられている。このロック機構によって、各リンク部材に対するロックを、複数のを操作部で操作することで解除して各リンク部材を順次揺動させて湾曲させ、操作部を操作してワイヤを元位置に戻すことで各リンク部材をロック機構で再ロックさせる。
【効果】長尺状装置の作動部と共に、直線状にした蛇腹機構を体内の狭路へ挿入させる際に、作動部や蛇腹機構が周囲の身体組織に接触して思わぬ方向へ湾曲することを防止する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部を手元側に有し且つ作動部を先端側に有する長尺状装置で用いられる蛇腹機構であって、
前記操作部側と前記作動部側の間に互いに重なり合う複数のリンク部材を有し、前記複数のリンク部材は、前記各リンク部材のそれぞれに前記操作部に接続している一対のワイヤを通して揺動可能に連結しており、
前記各リンク部材の間に配置され、前記複数のリンク部材の揺動を阻止するロック機構を更に有し、
前記ロック機構は、前記各リンク部材に対するロックを、前記一対のワイヤを前記操作部で操作することで解除して前記各リンク部材を順次揺動させて湾曲させ、前記操作部を操作して前記ワイヤを元位置に戻すことで前記各リンク部材を前記ロック機構で再ロックさせるように構成されている蛇腹機構。
【請求項2】
前記リンク部材は、
前記操作部側に位置する後端部側のリンク部材と、
前記作動部側に位置する先端部側のリンク部材と、
前記後端部側のリンク部材と前記先端部側のリンク部材との間に設けられる複数の中間部のリンク部材と、を有し、
前記一対のワイヤが前記先端部側のリンク部材に連結してあると共に、前記ロック機構は少なくとも前記中間部の各リンク部材に設けられている請求項1に記載の蛇腹機構。
【請求項3】
前記ロック機構は、前記中間部の各リンク部材に設けられ、
前記中間部の各リンク部材の先端側に位置する面の内部に設けたところの一端部に開口部を有するスライド部材収容部と、
前記スライド部材収容部内において前記一対のワイヤに挟持されつつスライド可能に設けられたスライド部材と、
前記スライド部材の両端部側を挟持する一対のワイヤと、
前記先端側のスライド部材を収容したリンク部材の後端側に位置するリンク部材に設けられ、前記スライド部材のスライド動作によって前記開口部から進退動作を行う前記スライド部材を係止及び解離する係合孔を設けた重合部と、を有する請求項1または請求項2に記載の蛇腹機構。
【請求項4】
前記ロック機構はさらに、前記スライド部材を前記係合孔側へ付勢する弾性部材を有する、請求項3に記載の蛇腹機構。
【請求項5】
前記各中間部のリンク部材は、
中心部の軸方向に駆動力伝達部材を挿通させる中心孔と、
前記中心孔を挟んでワイヤを挿通させる複数のワイヤ挿通孔と、
一端部側に設けられた一対の係合凸部を有する傾斜部及び幅狭平坦部と、
他端部側に設けられた一対の係合凹部を有する幅広平坦部と、
内部に前記ワイヤ挿通孔に通したワイヤに挟持されて当該ワイヤの軸方向と交差する方向にスライド可能に前記スライド部材を収容する一端部側に開口部を有するスライド部材収容部とを有し、
前記傾斜部側で前記スライド部材収容部の前記開口部側には、隣接する一方の中間部のリンク部材の重合部を収容する重合部収容部が設けられ、
前記幅広平坦部側には隣接する他方の中間部のリンク部材の重合部収容部に収容される重合部が設けられ、
さらに前記重合部には隣接する前記他方の中間部のリンク部材のスライド部材収容部内に収容された前記スライド部材の係合孔が設けられ、
前記係合凸部は隣接する前記一方の中間部のリンク部材の前記係合凹部に係合し、
前記係合凹部には隣接する前記他方の中間部のリンク部材の前記係合凸部が係合している、請求項3または請求項4に記載の蛇腹機構。
【請求項6】
前記スライド部材は平板状であり、
前記スライド部材には、両端部にそれぞれ複数のワイヤを挿通させるワイヤ挿通孔が形成されていると共に、中心部軸方向に前記作動部に通じる駆動力伝達部材を通す中心孔が形成されている、請求項3乃至5のいずれか1項に記載の蛇腹機構。
【請求項7】
前記スライド部材は平板状であり、
前記スライド部材には、両端部にそれぞれ複数のワイヤを安定した位置で当接できる複数のワイヤ当接部が形成されていると共に、中心部軸方向に前記作動部に通じる駆動力伝達部材を通す中心孔が形成されている、請求項3乃至6のいずれか1項に記載の蛇腹機構。
【請求項8】
前記スライド部材は、前記弾性部材によりそのスライド方向の一方向へスライド付勢されている請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛇腹機構。
【請求項9】
一方向にのみ湾曲可能である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の蛇腹機構。
【請求項10】
多自由度鉗子であって、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の蛇腹機構を有し、
前記蛇腹機構の後端部側が、多自由度鉗子の操作部に接続されたシャフトの先端部に取り付けられており、
前記蛇腹機構の先端部側が、手術動作を行う作動部に接続させている多自由度鉗子。
【請求項11】
多自由度鉗子であって、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の蛇腹機構を有し、
前記蛇腹駆動機構の前記ワイヤをウォームギアとウォームホイールで操作するように構成されている多自由度鉗子。
【請求項12】
長尺状装置であって、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の蛇腹機構を有し、
前記蛇腹機構の後端部側が前記長尺状装置の前記操作部側に接続し、前記蛇腹機構の先端部側が前記長尺状装置の前記作動部側に接続している長尺状装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のワイヤで相互に揺動可能に連結される複数のリンク部材を有し、前記複数のワイヤを操作することによって、前記複数のリンク部材を揺動させて湾曲部を形成する蛇腹機構、並びにこの蛇腹機構を用いた多自由度鉗子及び長尺状装置(その他の機器類)に関する。
【背景技術】
【0002】
多自由度鉗子は、低侵襲手術の一例である鏡視下手術で使用される医療用器具である。この多自由度鉗子の中には、下記特許文献1に記載されているように、患者の体内での組織の摘み、切断その他の所定動作を行う作動部が、蛇腹機構を介してシャフトの先端部に設けられると共に、シャフトの後端部側には作動部を操作する操作部が設けられているものが知られている。
【0003】
そして、この特許文献1には、複数のワイヤで相互に揺動可能に連結される複数のリンク部材を有し、前記複数のワイヤを操作することによって、前記複数のリンク部材を揺動させて湾曲部を形成する蛇腹機構が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第9717517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された蛇腹機構は、各リンク部材の揺動を規制する構成を有しないため、低侵襲手術時に蛇腹機構を直線状にして作動部と共に体内の狭路へ挿入させる際に、作動部や蛇腹機構が周囲の身体組織に接触して思わぬ方向へ湾曲して、体内の狭路へのスムーズな挿入を妨げられたり、或は体内組織が湾曲したリンク部材の間に挟まれて傷付いてしまったりするという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、それ自身を構成する各リンク部材の揺動をロックするロック機構を設けることにより、このロック機構によるロックが解除されない限り、リンク部材の揺動が阻止されるように構成した蛇腹機構、並びにこの蛇腹機構を用いた多自由度鉗子及びその他の機器類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本願発明の構成の一態様は以下の通りである。
【0008】
[1]操作部を手元側に有し且つ作動部を先端側に有する長尺状装置で用いられる蛇腹機構であって、前記操作部側と前記作動部側の間に互いに重なり合う複数のリンク部材を有し、前記複数のリンク部材は、前記各リンク部材のそれぞれに前記操作部に接続している一対のワイヤを通して揺動可能に連結しており、前記各リンク部材の間に配置され、前記複数のリンク部材の揺動を阻止するロック機構を更に有し、前記ロック機構は、前記各リンク部材に対するロックを、前記一対のワイヤを前記操作部で操作することで解除して前記各リンク部材を順次揺動させて湾曲させ、前記操作部を操作して前記ワイヤを元位置に戻すことで前記各リンク部材を前記ロック機構で再ロックさせるように構成されている蛇腹機構。
【0009】
[2]前記リンク部材は、前記操作部側に位置する後端部側のリンク部材と、前記作動部側に位置する先端部側のリンク部材と、前記後端部側のリンク部材と前記先端部側のリンク部材との間に設けられる複数の中間部のリンク部材と、を有し、前記一対のワイヤが前記先端部側のリンク部材に連結してあると共に、前記ロック機構は少なくとも前記中間部の各リンク部材に設けられている[1]の蛇腹機構。
【0010】
[3]前記ロック機構は、前記中間部の各リンク部材に設けられ、前記中間部の各リンク部材の先端側に位置する面の内部に設けたところの一端部に開口部を有するスライド部材収容部と、前記スライド部材収容部内において前記一対のワイヤに挟持されつつスライド可能に設けられたスライド部材と、前記スライド部材の両端部側を挟持する一対のワイヤと、前記先端側のスライド部材を収容したリンク部材の後端側に位置するリンク部材に設けられ、前記スライド部材のスライド動作によって前記開口部から進退動作を行う前記スライド部材を係止及び解離する係合孔を設けた重合部と、を有する[1]または[2]の蛇腹機構。
【0011】
[4]前記ロック機構はさらに、前記スライド部材を前記係合孔側へ付勢する弾性部材を有する、[3]の蛇腹機構。
【0012】
[5]前記各中間部のリンク部材は、中心部の軸方向に駆動力伝達部材を挿通させる中心孔と、前記中心孔を挟んでワイヤを挿通させる複数のワイヤ挿通孔と、一端部側に設けられた一対の係合凸部を有する傾斜部及び幅狭平坦部と、他端部側に設けられた一対の係合凹部を有する幅広平坦部と、内部に前記ワイヤ挿通孔に通したワイヤに挟持されて当該ワイヤの軸方向と交差する方向にスライド可能に前記スライド部材を収容する一端部側に開口部を有するスライド部材収容部とを有し、前記傾斜部側で前記スライド部材収容部の前記開口部側には、隣接する一方の中間部のリンク部材の重合部を収容する重合部収容部が設けられ、前記幅広平坦部側には隣接する他方の中間部のリンク部材の重合部収容部に収容される重合部が設けられ、さらに前記重合部には隣接する前記他方の中間部のリンク部材のスライド部材収容部内に収容された前記スライド部材の係合孔が設けられ、前記係合凸部は隣接する前記一方の中間部のリンク部材の前記係合凹部に係合し、前記係合凹部には隣接する前記他方の中間部のリンク部材の前記係合凸部が係合している、[3]または[4]の蛇腹機構。
【0013】
[6]前記スライド部材は平板状であり、前記スライド部材には、両端部にそれぞれ複数のワイヤを挿通させるワイヤ挿通孔が形成されていると共に、中心部軸方向に前記作動部に通じる駆動力伝達部材を通す中心孔が形成されている、[3]乃至[5]のいずれか1項に記載の蛇腹機構。
【0014】
[7]前記スライド部材は平板状であり、前記スライド部材には、両端部にそれぞれ複数のワイヤを安定した位置で当接できる複数のワイヤ当接部が形成されていると共に、中心部軸方向に前記作動部に通じる駆動力伝達部材を通す中心孔が形成されている、[3]乃至[6]のいずれか1項に記載の蛇腹機構。
【0015】
[8]前記スライド部材は、前記弾性部材によりそのスライド方向の一方向へスライド付勢されている[4]乃至[7]のいずれか1項に記載の蛇腹機構。
【0016】
[9]一方向にのみ湾曲可能である、[1]乃至[8]のいずれか1項に記載の蛇腹機構。
【0017】
[10]多自由度鉗子であって、[1]乃至[9]のいずれか1項に記載の蛇腹機構を有し、前記蛇腹機構の後端部側が、多自由度鉗子の操作部に接続されたシャフトの先端部に取り付けられており、前記蛇腹機構の先端部側が、手術動作を行う作動部に接続させている多自由度鉗子。
【0018】
[11]多自由度鉗子であって、[1]乃至[9]のいずれか1項に記載の蛇腹機構を有し、前記蛇腹駆動機構の前記ワイヤをウォームギアとウォームホイールで操作するように構成されている多自由度鉗子。
【0019】
[12]長尺状装置であって、[1]乃至[9]のいずれか1項に記載の蛇腹機構を有し、前記蛇腹機構の後端部側が前記長尺状装置の前記操作部側に接続し、前記蛇腹機構の先端部側が前記長尺状装置の前記作動部側に接続している長尺状装置。
【発明の効果】
【0020】
前記[1]に記載の蛇腹機構によれば、各リンク部材の揺動をロック・解除するロック機構を設けることにより、このロック機構によるロックが解除されない限り、外力が加えられても、リンク部材の揺動が阻止されるように成した蛇腹機構を提供することができる。
【0021】
前記[2]に記載の蛇腹機構によれば、中間部のリンク部材に設けたスライド部材がワイヤを操作して蛇腹機構を湾曲させる際に、先端部側のリンク部材が最初に揺動し、その後、中間部のリンク部材に設けたロック機構によるロックを解除して蛇腹機構を揺動させることができるものである。
【0022】
前記[3]に記載の蛇腹機構によれば、一方の中間部のリンク部材の重合部が隣接する他方の中間部のリンク部材の凹部と重なり合い、前記一方のリンク部材内に設けたスライド部材収容部内のスライド部材が、ワイヤの動きに応じて当該ワイヤと交差する方向にスライドすることによって他方のスライド部材の重合部に設けた係合部と係合、解離することによって、各リンク部材の直線状態の保持と揺動となされるものである。
【0023】
前記[4]に記載の蛇腹機構によれば、スライド部材のロック動作時の動きが弾性部材により一方向へ付勢されるため、確実にロックがなされるという効果を奏し得るものである。
【0024】
前記[5]に記載の蛇腹機構によれば、各リンク部材の揺動が傾斜部により確実になされると共に、一方のリンク部材に設けた突起部が隣接する他方のリンク部材に設けた凹部と係合することにより、揺動時における各リンク部材の位置ずれを防止できると共に、一方のリンク部材に設けた凹部に入り込んでいる重合部に設けた係合部によって、スライド部材が係止されるので、確実にロック動作がなされるものである。
【0025】
前記[6]に記載の蛇腹機構によれば、スライド部材の両端部に設けたワイヤ中心孔にそれぞれ複数のワイヤを当接させることができるものである。
【0026】
前記[7]に記載の蛇腹機構によれば、スライド部材の両端部に設けた当接部にそれぞれ複数のワイヤを当接させることができ、その際の組み付けが簡単である。
【0027】
前記[8]に記載の蛇腹機構によれば、スライド部材の係合部に対するロック及びロック解除動作が確実になるものである。
【0028】
前記[9]によれば、蛇腹機構は一方向のみ湾曲するので、構成が簡単になる上に、蛇腹機構が手術中に予期せぬ方向へ湾曲してしまうことを防止できるものである。
【0029】
前記[10]に記載の多自由度鉗子によれば、作動部が蛇腹機構の先端部でその軸方向に回転可能なので、身体内に挿入した鉗子片を様々な方向へ回転させることができた上で、ロック機構によるロックが解除されない限り、リンク部材の揺動が阻止されることにより、手術中に不必要に体内組織を傷つけることのない、より安全な鏡視下手術を行うことができるものである。
【0030】
前記[11]に記載の多自由度鉗子によれば、ワイヤを駆動させるのに、ウォームギアとウォームホイールを用いたことにより、蛇腹機構の揺動動作を安定させることができると共に、先端部側のリンク部材の予期しない揺動動作を制御することができる多自由度鉗子を提供できるものである。
【0031】
前記[12]に記載の発明によれば、蛇腹機構に各リンク部材の揺動をロックするロック機構を設けることにより、このロック機構によるロックが解除されない限り、リンク部材の揺動が阻止されるように成した長尺状装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施形態に係る蛇腹機構を用いた多自由度鉗子の全体斜視図である。
図2図1に示した多自由度鉗子の各部の構造及び機能を模式的に示す説明図である。
図3図1に示した多自由度鉗子の構成と動作を説明するもので、(a)は操作部の操作方法、(b)は蛇腹機構と作動部の動作内容を示している。
図4図3に示した蛇腹機構と作動部の部分の分解斜視図である。
図5図1に示した多自由度鉗子における作動部の動作の説明図であり、(a)は第1鉗子片と第2鉗子片が閉じた状態、(b)は第1鉗子片と第2鉗子片が開いた状態を示している。
図6図3に示した蛇腹機構の先端部側のリンク部材の構成を示すもので、(a)は斜視図、(b)は側断面図、(c)は底面図である。
図7図3に示した蛇腹機構の後端部側のリンク部材の構成を示すもので、(a)は斜視図、(b)は側断面図、(c)は平面図である。
図8図3に示した蛇腹機構の中間部のリンク部材の構成を示すもので、(a)は斜視図、(b)は側断面図、(c)は底面図である。
図9図3に示した蛇腹機構におけるスライド部材の構成を示すもので、(a)は斜視図、(b)は側断面図、(c)は底面図である。
図10図3に示した蛇腹機構におけるロック機構の動作を説明するもので、(a)はロック状態、(b)はロック解除状態を示している。
図11図3に示した蛇腹機構の動作を説明するもので、(a)は動作前の状態、(b)は先端部側のリンク部材が揺動した状態、(c)は先端部側のリンク部材に隣接する中間部のリンク部材が揺動した状態をそれぞれ示している。
図12図3に示した蛇腹機構が直線状を呈している状態の側断面図である。
図13図3に示した蛇腹機構の先端部側が湾曲した状態の側断面図である。
図14図9に示すスライド部材とは別の変形例を示し、(a)はその斜視図、(b)は側断面図、(c)は底面図である。
図15図9及び14に示すスライド部材とは別の変形例を示し、(a)はスライド部材の両端部に各ワイヤと係合する溝部を設けたもの、(b)はスライド部材の両端部に各ワイヤをと当接する凹部を設けたものを示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付した図面を参照して、本発明に係る蛇腹機構、並びにこの蛇腹機構を用いた多自由度鉗子の実施の形態を詳細に説明するが、本発明に係る蛇腹機構の用途は、多自由度鉗子に限定されない。それは、例えば内視鏡,手術用光源、カテーテル、探査子、解剖器具、ロボットの関節などの、操作部を手元側に有し且つ作動部を先端側に有する長尺状装置の蛇腹機構として用いることができる。
【0034】
[実施の形態1]
図面において、図1は、実施の形態1に係る蛇腹機構を用いた多自由度鉗子の斜視図であり、図2は、その多自由度鉗子の構成を模式的に示す図面である。図2は、図面を通じた構造と機能の理解を容易にするために、多自由度鉗子の構成部材を簡略化して表現してある。
【0035】
図1に示すように、多自由度鉗子1は、作動部2、蛇腹機構3、シャフト4、操作部5を有する。操作者(手術者)は、高精細カメラを搭載した内視鏡カメラと多自由度鉗子1とを患者の体内に挿入して鏡視下手術を行う。その際、操作者は、高精細カメラが撮影した患者の体内のリアルタイム画像を手術室内のモニタ画面に表示させつつ、多自由度鉗子1の操作部5を患者の体外で操作して、作動部2で行う所定の手術動作を遠隔操作して、多自由度鉗子1による鏡視下手術を実行する。また、操作者は、多自由度鉗子1のシャフト4を作動部2や蛇腹機構3と共に患者の体内に所定深さまで挿入して、作動部2を手術位置へ届かせる。操作者は、患者の体内にシャフト4、蛇腹機構3、及び作動部2を挿入した状態で、患者の体外に置かれた操作部5で蛇腹機構3や作動部2を手動操作する。
【0036】
(操作部)
図1図2に示すように、操作部5は、ケース状を呈した筐体5dとこの筐体5dに設置した蛇腹駆動機構Jと作動部駆動機構Sとを有する。蛇腹駆動機構Jは、筐体5d内に設けられたウォームギア12と、このウォームギア12に噛み合うウォームホイール13と、このウォームホイール13に軸心を共通にして懸架乃至接続するプーリ14と、を有する。蛇腹駆動機構Jには、ウォームギア12に連結されてそのダイヤル部分を筐体5d外に露出して設けられ、ウォームギア12を手動回転させる蛇腹機構駆動ダイヤル11を更に有する。
【0037】
作動部駆動機構Sは、筐体5dに固定させて取り付けられた第1指掛け部5bと、支軸aを支点に回転可能に設けられた第2指掛け部5cと、を有する。多自由度鉗子1には、シャフト4と蛇腹機構3との内部で、筐体5dから作動部2へ延在している駆動力伝達部材6が設けられており、駆動力伝達部材6によって、指掛け部5cの回転駆動力を作動部2へ伝達している。作動部駆動機構Sは、第2指掛け部5cの支点を超えた自由端側に支軸bを介して取り付けた連携部材24と、この連携部材24の自由端側に支軸cを介して前後動可能に取り付けられ且つ駆動力伝達部材6の一端部が取り付けられているスライド部材23と、駆動力伝達部材6を内部に挿通させて筐体5dにその一部を露出させて取り付けられた作動部回転駆動ダイヤル21と、駆動力伝達部材6へ回転駆動力を伝達する回転伝達装置22と、を有する。
【0038】
筐体5dの前部には中空のシャフト4が取り付けられ、その内部で、ワイヤ10a、10bと駆動力伝達部材6とが、先端部方向(作動部2側)へ伸びており、シャフト4の先端部に蛇腹機構3が取り付けられている。シャフト4は、ステンレスパイプ製で、直径が10mm程度である。ワイヤ10a,10bは、ステンレスの細線を撚り合わせて形成され、直径が0.5mm程度である。駆動力伝達部材6は、ステンレス製で直径1mm程度であり、図面では1本のロッドとして図示してあるが、例えば蛇腹機構3内に位置する部分だけを湾曲状態と直条状態を繰り返しても材質が劣化しない材料で構成することが望ましい。
【0039】
(蛇腹機構)
図2に示すように、蛇腹機構3は、シャフト4と作動部2の間に設けられており、内部に駆動力伝達部材6と、後端部側のリンク部材32と、先端部側のリンク部材31と、この先端部側のリンク部材31と後端部側のリンク部材32の間に互いに揺動可能に重なり合って設けられた中間部の複数のリンク部材33,33・・・とを有する。リンク部材31,32,33には、駆動力伝達部材6を挟む形で2本のワイヤ10a、10bがスライド可能に挿入されており、複数のリンク部材33は、一方向へ揺動して湾曲部を形成した後、元位置に戻れるように、互いに重なり合っている。なお、各中間部のリンク部材33,33・・・には、それぞれロック機構K,K・・・が設けられている(図4参照)。
【0040】
リンク部材のうち、後端部側のリンク部材32から説明する。図3~13では、蛇腹機構3に注目し、その構成及び動作を示してある。とくに図3(b)と図4及び図7に示すように、リンク部材32は、外径がシャフト4の先端部の外径と同じもので、概略円柱状を呈しており、その中心部軸方向を貫通して駆動力伝達部材6を通す貫通孔である中心孔32cと、この中心孔32cを挟んで当該中心孔32cと同一方向にワイヤ10a,10bを通す同じく貫通孔であるワイヤ挿通孔32a、32bが設けられている。図7に示すように、リンク部材32はさらに、一端部側に設けた円筒部4cの外周に設けられた一対の係合凸部4d,4dと、他端部側に設けた幅広平坦部32mと、幅広平坦部32mには、中心孔32cを挟んでワイヤ挿通孔32a,32bと直交する方向に設けられた係合凹部32d,32dと、幅広平坦部32mの半径方向の一端部側から係合凹部32d,32dと平行した位置に軸方向へ突出させて設けられた断面略変形三日月形状を呈した重合部32gと、を有する。重合部32gには、幅広平坦部32mと平行に設けられるスライド部材35(図4参照)の一端部をロック、解離する係合孔32kが設けられている。リンク部材32は、さらにとくに図3(b)と図4に示すように、円筒部4cをシャフト4の先端部4aに挿入させつつ、係合凸部4d,4dを当該シャフト4の先端部4aに設けた係止凹部4b,4bに挿入させることにより、当該シャフト4の先端部4aに非回転に固定されている。
【0041】
先端部側のリンク部材31は、図6に示すように、外径が後端部側のリンク部材32と同じ外径であり、外観上円柱状である。リンク部材31には、一端部側にその外周部から内側に向けて登り傾斜に設けられた傾斜部31nと、傾斜部31nに続いて設けられた幅狭平坦部31oと、この幅狭平坦部31oを設けた側の外周を削り取って設けた重合部収容部31hが設けられている。さらに、傾斜部31nと幅狭平坦部31oの境界部分からその中心部軸方向に設けられた駆動力伝達部材6を通す平面長円形状の中心孔31cと、中心孔31cを挟んで傾斜部31nと重合部収容部31hから軸方向に設けた同じく平面長円形状の一対のワイヤ挿通孔31a,31bと、がリンク部材31に設けられている。
【0042】
リンク部材31には、ワイヤ挿通孔31a,31bの側部の略中間部から半径方向に180度間隔で設けられ、ワイヤ挿通孔31a,31bと連通するワイヤ係止孔10d,10fが設けられている。リンク部材31は、更に、傾斜部31nと幅狭平坦部31oの境界部分に中心孔31cを挟んで外方向へ突出して設けられた一対の係合凸部31e,31eと、この係合凸部31e,31eを設けた側とは反対位置に中心孔31cに連通する収容部31qと、収容部31qに向けて外側から90度間隔に設けられた4個の雌ねじ孔31p,31p・・・とを有する。収容部31qには、後述する通り、作動部2の作動部本体2dが回転可能に挿入され、作動部本体2dが接続する。
【0043】
中間部のリンク部材33は、実施の形態では同じ構成のものが9個から11個が互いに軸方向に重ね合わされて蛇腹機構3を構成しているので、その中の一つのものを詳しく説明する。
【0044】
図8に示されたように、リンク部材33は、外径が後端部側のリンク部材32及び先端部側のリンク部材31と同じ外径を有する略円盤形状である。リンク部材33は、一端部側に外周から中央部に向けて上り傾斜に設けられた傾斜部33nと、この傾斜部33nに続いて設けられた幅狭平坦部33pと、この幅狭平坦部33pの側を軸方向に削って設けられた重合部収容部33hと、を有する。リンク部材33には、中心部軸方向を貫通して設けられた駆動力伝達部材6を通す平面長円形状の中心孔33cと、この中心孔33cを挟んで設けられた当該中心孔33cと同一方向にワイヤ10a,10bを通す同じく平面長円形状の貫通孔であるワイヤ挿通孔33a,33bと、が形成されている。リンク部材33は更に、傾斜部33nを設けた側に前記中心孔33cを挟んで前記ワイヤ挿通孔33a,33bと交差する方向に設けたところの先端部が丸みを帯びている一対の係合凸部33e,33eと、その他端部側に設けた幅広平坦部33mと、この幅広平坦部33mに前記中心孔33cを挟んで設けたワイヤ挿通孔33a,33bと直交する側に突設したところの先端を丸くした一対の係合凹部33d,33dと、重合部収容部33hの反対側となる位置に設けた重合部33gと、を有する。
【0045】
図10乃至図13に示されたように、リンク部材33は、更に、内部の中心孔33c及びワイヤ挿通孔33a,33bと直交する位置に前記幅広平坦部33mと平行に設けられ、重合部収容部33h側に開口部33tを有するスライド部材収容部33lと、このスライド部材収容部33lの開口部33tと対向する位置に重合部33gに設けた係合孔33kと、とくに図10に示されたように、スライド部材収容部33l内にその両端部のワイヤ当接部35c,35dをワイヤ10a,10bに挟まれてスライド可能に収容されたスライド部材35と、を有している。
【0046】
ロック機構Kは、ワイヤ10a,10bと、スライド部材収容部33l内にワイヤ10a,10bに挟まれてスライド可能に設けられたスライド部材35と、重合部33gに設けた係合孔33kと、を有している(図4参照)。
【0047】
スライド部材35は、図9に示すように、本体部35aの両側部にレール部35b,35bを突設して成る平面略矩形状を呈した平板状のもので、中央部に駆動力伝達部材6を挿通させる平面長円形状の中心孔35eと、この中心孔35eを挟んで両端部側に設けたそれぞれ凹状を呈した一対のワイヤ当接部35c,35dが設けられると共に、このワイヤ当接部35c,35dの両端部からそれぞれ一対の係合突起35f,35fと35g,35gと、を有する。
【0048】
スライド部材収容部33lの断面形状は、図9(c)に示すように、スライド部材35の底面形状と同じ形状でやや大きめに形成されており、スライド部材35がスライド部材収容部33l内をスムーズにスライドできるようになっている。重合部33g側に設けた係合孔33kもまた、スライド部材収容部33lの底面形状と同じ形状と同じ大きさを有している。したがって、図10に示されたように、スライド部材35のワイヤ当接部35c,35dがワイヤ10a,10bによって押されてスライド部材収容部33l内でワイヤ10a,10bと直交する方向へスライドした際には、重合部33gに設けた係合孔33kと係合或いは解離し、中間部のリンク部材33のロック及びロック解除がなされることになる。
【0049】
後端部側のリンク部材32に接する中間部のリンク部材33は、とくに図8図12及び図13に示すように、スライド部材収容部33l内にスライド部材35をスライド可能に収容しつつ、後端部側のリンク部材32に設けた重合部32gをその重合部収容部33hに受け入れ、各係合凸部33e,33eを後端部側のリンク部材32に設けた係合凹部32d,32dに揺動可能に係合させ、さらに、その幅狭平坦部33pを後端部側のリンク部材32の幅広平坦部32mに当接させた状態で後端部側のリンク部材32に重ね合わされている。
【0050】
後端部側のリンク部材32に重ね合わされた中間部のリンク部材33にさらに隣接する中間部のリンク部材33は、図8図12及び図13に示したように、スライド部材収容部33l内にスライド部材35をスライド可能に収容しつつ、後端部側のリンク部材32に重ね合わされた中間部のリンク部材33に設けた重合部33gをその重合部収容部33hに受け入れ、各係合凸部33e,33eを隣接する中間部のリンク部材33に設けた係合凹部33d,33dに揺動可能に係合させ、さらにその幅狭平坦部33pを隣接する他のリンク部材33の幅広平坦部33mに当接させた状態で重ね合わされている。その他の構成は、後端部側のリンク部材32に重ね合わされた中間部のリンク部材33の場合と同じである。
【0051】
以後、同様にして中間部の各リンク部材33,33・・・がその各中心孔33c,33c・・・と各ワイヤ挿通孔33a,33b・・・に駆動力伝達部材6とワイヤ10a,10bを挿通させつつ重ね合わされ、先端部側のリンク部材31に当接する中間部のリンク部材33は、その重合部33gを先端部側のリンク部材31に設けた重合部収容部31hに挿入させている。このようにして、後端部側のリンク部材32と先端部側のリンク部材31の間に複数(実施の形態では9個から11個)の中間部のリンク部材33,33・・・が駆動力伝達部材6とワイヤ10a,10bで連結され、先端部側のリンク部材31に設けたワイヤ係止孔10d,10fにその先端部に設けた連結部10c、10eに連結係止させたワイヤ10a,10bと、作動部2の作動部本体2dにその先端に設けた連結部6aを連結係止させた駆動力伝達部材6によって、全体としてバラバラになることなく蛇腹機構3が構成されている。
【0052】
以上説明したところから分かるように、蛇腹機構3はワイヤ10a,10bを操作することにより、その直条状態から、先端部側のリンク部材31と中間部の各リンク部材33がそれぞれに設けた傾斜部31nと傾斜部33nの側に揺動して湾曲部を形成し、また元の直条状態に戻すことができるが、重合部32g,33gがあることから、直条状態から重合部32g,33g方向へは揺動せず、この方向には湾曲部は形成されることはない。先端部側のリンク部材31と、各中間部の各リンク部材33が揺動する際には、先端部側のリンク部材31と中間部の各リンク部材33に設けた各傾斜部31n、33nは、隣接する中間部のリンク部材33の幅広平坦部33mに当接するが、各係合凸部31e,33eが隣接する中間部の各リンク部材33の係合凹部33dに嵌り込んでいるので、揺動時に位置ずれが生じることがない。このことは、後端部側のリンク部材32と隣接する中間部のリンク部材33の間でも同じである。また、その傾斜部31n,33n以外の方向から外力を受けた場合には、隣接する各リンク部材31,33の幅狭平坦部31o,33oと幅広平坦部32m,33mによって揺動を防止される。
【0053】
(作動部)
作動部2は、図4図5に示すように、蛇腹機構3の先端部側のリンク部材31に当該蛇腹機構3の軸方向へ回転可能に取り付けられた作動部本体2dと、この作動部本体2d内に当該作動部本体2の軸方向へスライド可能に取り付けられたカム部材2eと、このカム部材2eに対しその延長方向へ開閉可能に取り付けられた一対の鉗子片2b,2cと、を有する。
【0054】
作動部本体2dは、全体として先端部側のリンク部材31と同じ外径を有する円柱状である。作動部本体2dは、先端部側のリンク部材31の端部2qに周溝2jを有し、内部の中心部軸方向に駆動力伝達部材6を挿通させる中心孔2tとこの中心孔2tに続く内径の大きな収容部2rを有しており、この収容部2rに幅の狭いガイド溝2i,2iが180°間隔に収容部の入口側に向けて軸方向に設けられている。ガイド溝2i,2iに続いて、当該ガイド溝2i,2iより広い間隔を空けて一対の保持片部2s,2sが設けられ他端部に達している。この作動部本体2dに装着されるカム部材2eは、その一端部側に収容部2rにスライド可能に挿入される円筒部2mと、この円筒部2mに続く板状のカム部2oとで構成され、カム部2oにはその両側に互いにクロスさせてガイド溝2l,2kが設けられている。このカム部材2eはその円筒部2mを先端部側のリンク部材31の収容部31qに挿入させ、先端部側のリンク部材31に取り付けた複数の雌ねじ孔31p,31p,31p,31pにねじ2p,2p,2p,2pを周溝2jに係合させることによって抜け止めされつつ先端部側のリンク部材31に対してR5の方向へ回転可能に取り付けられている。
【0055】
一対の鉗子片2b,2cは、中央部に挿通孔2g,2gが設けられ、この挿通孔2g,2gを通した支持ピン2aをカム部材2eの保持片部2s,2sに設けた軸受孔2h,2hに軸支させることによりR6の方向へ開閉自在である。鉗子片2b,2cは、そのカム部材2e側にガイドピン部2f,2fが設けられ、このガイドピン部2f,2fをカム部材2eのカム部2oに設けたガイド溝2i,2i(一方のみ表示)に嵌入させている。
【0056】
(操作方法乃至動作)
次に、本発明に係る蛇腹機構3、並びに多自由型鉗子1の操作方法乃至動作について説明する。まず、多自由度鉗子1の操作部5と作動部2(図1乃至図3参照)から説明すると、操作者(手術者)は、操作部5の筐体5dを片手Hで持ち、作動部駆動機構Sの第1指掛け部5bに中指Mと薬指Nを掛け、親指Fをもう一方の第2指掛け部5cに掛ける。そして、人差し指Yを蛇腹駆動機構Jの蛇腹機構駆動ダイヤル11の側部に置く。この状態で第2指掛け部5cを親指FでR3の方向へ押したり引いたりすると、第2指掛け部5cは支軸aを支点にして矢印R3の方向に回転する。そこで第2指掛け部5cを押した際には、連携部材24を介してスライド部材23がR9の方向へスライドして駆動力伝達部材6が先端部側へ押し出され、引いた際には連携部材24とスライド部材23を介して駆動力伝達部材6が後端部側へ引き戻される。
【0057】
すると、駆動力伝達部材6が押し出された際には、共に作動部2内でR10の方向へスライドするカム部材2eを介して鉗子片2bと鉗子片2cがR6の方向へ開かれ、駆動力伝達部材6が引き戻された際には、カム部材2eを介して鉗子片2bと鉗子片2cがR6の方向へ閉じられることになる。したがって、身体の内部組織をこの操作部5の作動部駆動機構Sを介して鉗子片2bと鉗子片2cで体内組織を摘まんだり離したりして手術動作を行うことができる。
【0058】
次に、人差し指Yで作動部回転駆動ダイヤル21を矢印R2の方向へ回すと、その回転駆動力は、回転伝達装置22を介して回転駆動力を駆動力伝達部材6へ伝達し、この回転駆動力は作動部2に伝達されて当該作動部2はそれに取り付けたカム部材2eと鉗子片2b、2cと共に回転することができる。
【0059】
次に、蛇腹機構3を操作する場合には、人差し指Yを用いて蛇腹駆動機構Jの蛇腹機構駆動ダイヤル11を矢印R1の方向へ回転させると、この回転駆動力はウォームギア12、ウォームホイール13へ伝達され、このウォームホイール13と共に回転するプーリ14がR7とR8の方向へ回転することから、このプーリ14に接続乃至懸架されたワイヤ10aと10bが前後方向に移動する結果、蛇腹機構3の湾曲動作と直条状態が形成され、この蛇腹機構3の先端に取り付けた作動部2の揺動操作を行うことができるものである。
【0060】
この蛇腹機構3の湾曲動作についてさらに詳しく説明すると、蛇腹機構3は、とくに図11(a)と図12に示したような直条状態から一方の方向(図中下方向)には、上述したように、中央部のリンク部材33と後端部側のリンク部材32に設けた各重合部32g,33gによって揺動が抑えられる結果、ワイヤ10bをR13の側へ牽引し、その結果ワイヤ10aが矢印R12側へ送り出されても湾曲することがない。このことから、蛇腹機構駆動ダイヤル11は、蛇腹機構3の直条状態では停止している。したがって、蛇腹機構駆動ダイヤル11は、蛇腹機構3を一方向の湾曲方向に湾曲させ,元の直条状態に戻す場合のみ回転可能である。この蛇腹機構3の直条状態から、蛇腹機構駆動ダイヤル11をその回転が許容される方向へ回すと、図11(b)に示したようにR14の方向へワイヤ10aが引っ張られ、これに追随してワイヤ10bがR15の方向へ引っ張られることになる。
【0061】
そうすると、各ワイヤ10a,10bの各連結部10c,10eを連結した先端部側のリンク部材31がその係合凸部31e,31eを支点にして図中上方向へ揺動し、その傾斜部31nが隣接する中間部のリンク部材33の幅広平坦部33mに当接した際に、ワイヤ10bがその側部でスライド部材35を図中上方向へスライドさせるので、このスライド部材35と係合している先端部側のリンク部材31に対するロック状態が解除され、さらに湾曲することになる。このようにし先端部側のリンク部材31から順次揺動して各中間部のリンク部材33のロック状態が解除されて蛇腹機構3は一方向(図中上方向)へ湾曲して行くことになる。操作者が所望する角度まで蛇腹機構3を湾曲させたところで蛇腹機構駆動ダイヤル11に対する回転操作を停止すると、その時の揺動位置で蛇腹機構3は湾曲した状態で停止する。そうすると、この蛇腹機構3の先端部側に設けた作動部2が同じく揺動して所望する位置に湾曲して来ることになる。操作者は、その湾曲位置で蛇腹機構駆動ダイヤル11に対する回転操作を停止すると、作動部2もその位置で停止することから、操作者はその湾曲位置で上述したように鉗子片2bと鉗子片2cの開閉操作を行って、体内組織を摘む手術を進めることができる。
【0062】
この際に、本発明に係る蛇腹機構3のワイヤ10a,10bを操作するのにウォームギア12とウォームホイール13から成るウォーム機構を採用したことから、蛇腹機構駆動ダイヤル11に対する回転操作を中止するとワイヤ10a,10bはその位置で停止し、作動部2や蛇腹機構3に外力が加わっても、元位置に戻ることはなく安定した停止状態を保つことが可能である。蛇腹機構3の湾曲角度は、手術者が蛇腹機構3の直条状態から任意に選べるものであり、実施の形態のものは最大湾曲角度を90度としてあるが、この湾曲角度に限定されない。
【0063】
次に、操作者は蛇腹機構3をその所定の湾曲角度からさらに蛇腹機構3を湾曲させ、或は元位置に戻すことはできるが、蛇腹機構3を元位置に戻して行く際には、ワイヤ10a,10bが先ほどとは逆方向へ引っ張られる。その結果、今度はまず、先端部側のリンク部材31が元位置に戻りつつ、ワイヤ10aが各スライド部材35のワイヤ当接部35cを押して中間部の各リンク部材33を元位置に戻して行くので、スライド部材35が隣接する中間部のリンク部材33の重合部33gに設けた係合孔33kと係合して行く。そして、その結果、蛇腹機構3を最初の直条状態に戻した際には、すべての中間部のリンク部材33はスライド部材35により再ロックされることになる。
【0064】
実施の形態では、先端部側のリンク部材31にはロック機構は設けられていないが、蛇腹機構3の駆動系にウォームギア12とウォームホイール13によるウォームギア機構を設けたことにより、先端部側のリンク部材31はロック機構を設けなくとも、外力に対して抗湾曲性を保つことから、外力により容易には揺動してしまうことはない。しかし、この先端部側のリンク部材31にもスライド部材35その他によるロック機構を設けることは任意に選択することのできる事項である。
【0065】
(スライド部材の変形例)
次に、図14図15を参照して、スライド部材の変形例を説明する。実施の形態1では、図9に示すように、スライド部材35は、スライド方向の端部にワイヤ10a,10bに対するワイヤ当接部35c,35c・35d、35dが設けられ、この各ワイヤ当接部35c,35dの両端にスライド方向の係合突起35f,35f・35g,35gが設けられている。しかし、スライド部材35のワイヤ当接部35c、35dは、このような形態には限らない。図示は省略するが、スライド部材35の係合突起35f、35fの側に、スライド部材35を重合部33gに設けた係合孔33k方向に向けてスライド付勢させるコンプレッションスプリングや板バネなどの弾性部材を設け、スライド部材35を係合孔33kの方向へスライド付勢させる実施の形態を採用してもよい。
【0066】
[実施の形態2]
図14は、多自由度鉗子1において利用可能な別のスライド部材の例を示してある。スライド部材45は、本体部45aが平板状のもので、スライド方向の両端部に各ワイヤ10a,10bを挿通させるワイヤ挿通孔45c,45dが形成されていると共に、中心部軸方向に作動部2に通じる駆動力伝達部材6を通す中心孔45eが形成されている。スライド部材45は、実施の形態1のスライド部材35を置き換えて図4の蛇腹機構3に使用される。
【0067】
スライド部材45は、図9に示す中間部のリンク部材33のスライド部材収容部33lと、隣接する中間部のリンク部材33の重合部33gに設けた係合孔33kとが一直線に重なったスライド経路をスライド可能である。スライド部材45は、図中下端の係合突起45gを係合孔33kに挿入して隣接する中間部のリンク部材33の揺動を規制する。図中上端の突出部45f,45fと両側のレール部45b,45bは、上述したスライド部材35の対応する部分と同様に機能する。
【0068】
スライド部材45は、ワイヤ挿通孔45c,45dが長円形の開口として形成され、開口の上辺と下辺とで図12図13に示すワイヤ10a,10bの断面を挟み込んで、スライド部材45のスライド方向の両側で保持する。ワイヤ挿通孔45c,45dは、実施の形態1で示した中間部のリンク部材33の中心軸線に垂直な断面3d(図10)内でワイヤ10a,10bの断面をスライド方向の両側で保持する。このため、一対のワイヤ10a,10bからそれぞれスライド方向の両方向の駆動を受けることができる。したがって、一対のワイヤ10a,10bから大きな駆動力を取り出してスライド部材45のスライドの精度と応答性を高めることができる。
【0069】
ところで、図4に示すように、実施の形態1では、ワイヤ10a,10bを1本ずつ設けた実施の形態を説明した。図9に示すように、スライド部材35は、スライド方向の端部に1本のワイヤ10aに当接するU字型の凹所であるワイヤ当接部35cと、1本のワイヤ10bに当接するU字型の凹所であるワイヤ当接部35dを設けている。しかし、図2に示す一対のワイヤ10a,10bは、等しく制御される一対二組のワイヤ、並列な2本のワイヤ10a,10aと、ワイヤ10b,10bに置き換えてもよい。
【0070】
[実施の形態3]
図15(a)は、さらにスライド部材の他の実施の形態を示す。図面に示すように、スライド部材55は、本体部55aのスライド方向の端部に、2本のワイヤ10a,10aに対してそれぞれ係合するワイヤ当接部55c,55cを設けている。そして、ワイヤ当接部55c,55cの間には、スライド方向の係合突起55f,55fが設けられ、ワイヤ当接部55d,55dの間には、スライド方向の係合突起55g,55gが設けられている。
【0071】
[実施の形態4]
図15(b)はさらにスライド部材の他の実施の形態を示しており、スライド部材65は、本体部65aのスライド方向の両端部に、2本のワイヤ10a,10aとそれぞれ当接する切欠きであるワイヤ当接部65c,65cと、2本のワイヤ10b,10bにそれぞれ当接する切欠きであるワイヤ当接部65d,65dとを設けている。ワイヤ当接部65c,65cの間には、スライド方向の突出部65fが設けられ、ワイヤ当接部65d,65dの間には、スライド方向の係合突起65gが設けられている。
【0072】
なお、スライド部材55,65は、図8に示す中間部のリンク部材33のスライド部材収容部33lと、隣接する中間部のリンク部材33の重合部33gの係合孔33kとが一直線に重なったスライド経路をスライド可能であって、下端の係合突起55g,55gと係合突起65gを係合孔33kに挿入係合されて隣接する中間部のリンク部材33の揺動を規制する。上端の係合突起55f,55fと突出部65fと両側のレール部55b,55b・65b,65bは、上述したスライド部材35の対応する部分と同様に機能する。そして符号55eと65eは中心孔である。
【0073】
(その他の実施の形態)
実施の形態1では、蛇腹機構3が直線状態と湾曲状態との間で首振り動作する実施の形態を説明した。しかし、蛇腹機構3の首振り範囲は、一方向の大きな湾曲状態から同じ方向の小さな湾曲状態まででもよく、一方向の湾曲状態から反対方向の対称な湾曲状態まででもよい。
【0074】
実施の形態1では、蛇腹機構3の直線状態でのみロック機構Kによる中間部のリンク部材33の揺動の規制がなされる実施の形態を説明した。しかし、蛇腹機構3は、首振り角度範囲の中のどこでスライド部材35による中間部のリンク部材33の規制がなされてもよく、首振り角度範囲の一端のみならず、両端においてそれぞれスライド部材35による中間部のリンク部材33の規制がなされてもよい。
【0075】
実施の形態1では、作動部2として鏡視下手術において体内組織を把持するための把持鉗子を使用した形態を説明してある。しかしながら、多自由度鉗子の作動部(エンドエフェクタ)は任意に選択して変更可能である。本発明を利用する多自由度鉗子は、蛇腹機構を介してシャフトの先端に取り付けられた作動部の種類に応じて多くのバリエーションがある。作動部は、機械的な動作を行うものである必要はなく、例えば、照明装置や撮像装置であってもよい。
【0076】
また、患者の体内に挿入される作動部の鉗子形状は、作動部の用途に応じて多種多様である。作動部は、体内組織を把持するための把持鉗子以外に、組織を剥離するための剥離鉗子、組織を切断するためのハサミ鉗子、組織を縫合するための縫合鉗子、ニードルドライバ、電気メス、ヒータ、電極、ステイプラ、拡張器、薬品注入器、照明装置、撮像カメラ等、多様に設計され得る。また、蛇腹機構3の中心軸線上に配置された中心孔33cは、種々の機械的な駆動力伝達手段に加えて、モータや照明を作動させるための電線を配置してもよく、通信を行うための光ケーブル、映像を伝達するための光ケーブル、可撓性の内視鏡導光ケーブルを配置してもよい。
【0077】
実施の形態1では、先端部側のリンク部材31、後端部側のリンク部材、及び複数の中間部のリンク部材33をワイヤ10a、10aで連結した蛇腹機構3を説明した。しかし、蛇腹機構3において先端部側のリンク部材31、後端部側のリンク部材32、及び複数の中間部のリンク部材33を連結する方法は任意に選択して変更可能である。ボールジョイントを用いて各リンク部材を連結するもの、あるいは軸(ピン)を用いて隣接する円筒型の単位シェルを外周で連結する蛇腹型のものであってもよい。蛇腹機構3における複数の中間部のリンク部材33の連結個数は、図4に記載したものに限定されない。それは使用目的に応じて任意に増減できるものである。
【0078】
シャフト4、作動部2、先端部側のリンク部材31、後端部側のリンク部材32、及び複数の中間部のリンク部材33は、任意の生体適合性材料(ステンレス鋼;チタニウム、タンタル、任意の合金、ポリエチレンもしくはそのコポリマー、ポリエチレンテレフタレートもしくはそのコポリマー、ナイロン、シリコーン、ポリウレタン、フルオロポリマー、ポリ塩化ビニル等から製造され得る。ワイヤ10a,10bの材料は、ニッケルとチタニウムの合金、ステンレス鋼、その他の任意の合金、炭素繊維、ポリ塩化ビニル、ポリオキシエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリプロピレン、これらのコポリマー、ナイロン、シルク等が挙げられる。ワイヤ10a,10bは、接着剤、ろう付け、ハンダ付け、溶接などによって先端部側のリンク部材31に固定してもよい。スライド部材35の材料は、精密加工が可能で、軽量で、剛性が高く、摩擦係数の小さな樹脂材料が好ましく、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロン等が挙げられる。
【0079】
実施の形態1では、鏡視下手術に用いられる医療目的の多自由度鉗子における本発明の実施の形態を説明した。しかし、本発明の蛇腹機構は、段落[0035]で述べたもの以外にも、化学実験室、クリーンベンチ、工場等、医療目的以外の用途の手動操作マニュピレータ、ロボットハンドなどの操作部を手元側に有し且つ作動部を先端側に有する長尺状装置で実施することも可能である。
【0080】
実施の形態1では、多自由度鉗子の軸垂直断面において2本のワイヤが対向配置される実施の形態を説明した。しかし、多自由度鉗子の軸垂直断面に配置されるワイヤは3本以上であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、以上のように構成したので、その揺動動作(湾曲動作)を任意に制御できる蛇腹機構、並びにこの蛇腹機構を用いた多自由度鉗子、及びその他の長尺状装置の蛇腹機構として、好適に用いられるものである。
【符号の説明】
【0082】
1 多自由度鉗子
2 作動部
2b 鉗子片
2c 鉗子片
3 蛇腹機構
K ロック機構
4 シャフト
5 操作部
5d 筐体
J 蛇腹駆動機構
S 作動部駆動機構
6 駆動力伝達部材
10a ワイヤ
10b ワイヤ
11 蛇腹機構駆動ダイヤル
12 ウォームギア
13 ウォームホイール
14 プーリ
21 作動部回転駆動ダイヤル
22 回転伝達装置
23 スライド部材
24 連携部材
31 先端部側のリンク部材
32 後端部側のリンク部材
32g 重合部
32k 係合孔
33 中間部のリンク部材
33a,33b ワイヤ挿通孔
33c 中心孔
33d 係合凹部
33e 係合凸部
33g 重合部
33k 係合孔
33l スライド部材収容部
33m 幅広平坦部
33n 傾斜部
33p 幅狭平坦部
35,45,55,65 スライド部材
35c,55c,65c ワイヤ当接部
35d,55d,65d ワイヤ当接部
35e,45e,55e,65e 中心孔
35g,45g,55g,65g 係合突起
45c ワイヤ挿通孔
45d ワイヤ挿通孔
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