(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144038
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及び液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
B41J2/14 303
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044877
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】下里 正志
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF93
2C057AG45
2C057AP02
2C057AP22
2C057AP25
2C057AQ10
2C057BA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】加工性の高い液体吐出ヘッド及び液体吐出装置を提供する。
【解決手段】一実施形態にかかる液体吐出ヘッドは、ベースと、圧電体と、天板と、オリフィスプレートと、を備える。ベースは、エンジニアリングセラミクスで構成される。圧電体は、前記ベースの第1方向の一方側に配されるとともに、圧電性セラミクスで構成され、圧力室を構成する複数の溝を有する。天板は、前記圧電体の第1方向の一方側に配されマシナブルセラミクスで構成される。オリフィスプレートは、前記圧電体及び天板の前記第1方向とは異なる第2方向における一方側の端面に対向配置される。オリフィスプレートは、前記圧力室に連通するノズルを有する。前記ベースの前記オリフィスプレート側の端部は、前記天板及び前記圧電体の前記端面よりも、前記オリフィスプレートから退避した位置に配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジニアリングセラミクスで構成されるベースと、
前記ベースの第1方向の一方側に配されるとともに、圧電性セラミクスで構成され、圧力室を構成する複数の溝を有する圧電体と、
前記圧電体の第1方向の一方側に配されマシナブルセラミクスで構成される天板と、
前記圧電体及び前記天板の前記第1方向とは異なる第2方向における一方側の端面に対向配置され、前記圧力室に連通するノズルを有するオリフィスプレートと、
を備え、
前記ベースの前記オリフィスプレート側の端部は、前記天板及び前記圧電体の前記端面よりも、前記オリフィスプレートから退避した位置に配置される、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記マシナブルセラミクスの熱膨張率が、前記エンジニアリングセラミクスの熱膨張率と前記圧電性セラミクスの熱膨張率の間の値である、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記圧電体はPZT、及びKNNの少なくともいずれかを含み、
前記マシナブルセラミクスは、マセライト、マコール、及びホトベール、の少なくともいずれかを含み、
前記エンジニアリングセラミクスは、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディライト、フォルステライト、及びステアタイト、の少なくともいずれかを含む、
請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに対向する位置に印刷媒体を支持する支持部と、
を備える、液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液体吐出ヘッド及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シェアモードシェアードウォール方式のインクジェットヘッド等の液体吐出ヘッドにおいて、圧力室を構成する溝を複数有する圧電部材に、底板と、溝の一方を塞ぐ天板と、を積層して接合する構成が知られている。例えばインクジェットヘッドにおいて、圧電性セラミクスで構成された圧電部材と底板と天板とを重ねて接合した積層体の端面にオリフィスプレートを接合する。底板や天板は、オリフィスプレートと接合される接合面を構成するため、同じく接合面を構成する圧電部材と同一面を形成する必要がある。したがって、底板及び天板と圧電部材とは、加工特性が近いことが望ましい。一方で、底板を圧電性セラミクスで構成すると、必要な強度を確保することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、加工性の良い液体吐出ヘッド及び液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態にかかる液体吐出ヘッドは、ベースと、圧電体と、天板と、オリフィスプレートと、を備える。ベースは、エンジニアリングセラミクスで構成される。圧電体は、前記ベースの第1方向の一方側に配されるとともに、圧電性セラミクスで構成され、圧力室を構成する複数の溝を有する。天板は、前記圧電体の第1方向の一方側に配されマシナブルセラミクスで構成される。オリフィスプレートは、前記圧電体及び前記天板の前記第1方向とは異なる第2方向における一方側の端面に対向配置される。オリフィスプレートは、前記圧力室に連通するノズルを有する。前記ベースの前記オリフィスプレート側の端部は、前記天板及び前記圧電体の前記端面よりも、前記オリフィスプレートから退避した位置に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態にかかるインクジェットヘッドの一部を破断して示す斜視図。
【
図3】同インクジェットヘッドの形状及び動作の説明図。
【
図4】同インクジェットヘッドの製造方法を示す説明図。
【
図5】マシナブルセラミクスの例と熱膨張係数を示す表。
【
図6】マシナブルセラミクスの材料の例と反り量を示す説明図。
【
図7】同インクジェットヘッドを用いた第2実施形態にかかるインクジェットプリンタの構成を示す説明図。
【
図8】他の実施形態にかかるインクジェットヘッドの製造方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、第1実施形態に係る液体吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッド10の構成について、
図1乃至
図3を参照して説明する。
図1は、第1実施形態にかかるインクジェットヘッドの一部を破断して示す斜視図であり、
図2は同インクジェットヘッドの断面図である。
図3はインクジェットヘッドの形状及び動作の説明図である。各図において説明のため、適宜構成を拡大、縮小または省略して示している。図中X,Y,Zは互いに直交する3方向を示す。例えばZ軸は第1方向、Y軸は第2方向、X軸は第3方向に沿う。
【0008】
本実施形態のインクジェットヘッド10は、例えば、いわゆるシェアモードシェアウォール方式のインクジェットヘッドである。
【0009】
図1乃至
図3に示すように、インクジェットヘッド10は、ベース20と、圧電体30と、天板40と、カバー50と、オリフィスプレート60と、を備える。
【0010】
ベース20は例えば矩形の板状に構成される。ベース20の積層方向である第1方向の一方の主面に、圧電体30が配置される。また、ベース20の一方の主面の所定の領域には、配線パターンが形成されている。一例として、一方の主面上の一方側の領域21に圧電体30が配置され、他方側の領域22に、配線パターンが形成される。ベース20の上面において、配線パターンにFPCなどで駆動回路が接続される。ベース20の所定箇所にはインクが流通可能なインク口23が形成される。インク口23はベース20を第1方向に沿う厚さ方向において貫通する貫通孔であり、共通室39にインクを流入する流入口、あるいは共通室39からインクを排出する排出口となる。
【0011】
一例として、ベース20は、ノズル61の並び方向に沿う長手方向において、圧電体30の寸法よりも大きく構成される。ベース20の積層方向での一方側の主面上であって、ノズル61の並び方向及び積層方向と直交する第2方向の一方側の領域に、圧電体30が配置され、接合される。ベース20の第2方向における一方側の端面24において、ノズルの並び方向である第3方向の両端部の圧電体30が配されていない部位は、圧電体30が配される第3方向中央部よりも、第2方向の一方側に突出している。すなわち、ベース20の第2方向の一方側の端面24は、少なくとも圧電体30が配される部位を含む中央の所定の領域は、両端部よりも、第2方向の他方側に退避している。また、第2方向の一方側の端面24は、少なくとも圧電体30が積層配置される部位を含む中央の所定の領域において、圧電体30や天板40の第2方向一方側の端面よりも、第2方向他方側に退避する。なお、ベース20の両端部の端面は、圧電体30や天板40と同一面に配置されていてもよい。
【0012】
ベース20は、エンジニアリングセラミクスで構成される。ベース20は、圧電体30を構成する圧電部材よりも硬く、剛性の強い材料で構成される。例えばベース20を構成するエンジニアリングセラミクスの熱膨張率は、圧電体30を構成する圧電材料よりも大きい。ベース20を構成するエンジニアリングセラミクスとして、例えばアルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディライト、フォルステライト、ステアタイト、等を用いる。
【0013】
圧電体30は、ベース20の一方側に配され、接着剤層によりベース20に接着接合される。圧電体30は、積層方向の分極方向が相反する2枚の圧電部材31,32が積層され、接着材層により接着接合される。例えば接着剤としては、加熱接着により硬化する熱接着剤が用いられる。圧電体30は、例えば切断加工により所定の形状及び大きさに形成され、ノズル61の並び方向である第3方向に長い方形の板状に形成される。圧電体30は第3方向に直交する断面形状が台形状に構成される。圧電体30は、第2方向における一方側の端面がオリフィスプレート60に対向する接合面を構成し、接合面と反対側の側面、すなわち第2方向における他方側の端面は、溝33の延出方向である第2方向に対して傾斜するテーパ面を構成する。すなわち圧電体30の一方の側面は、溝33の底面からベース20の主面に至るテーパ面を有する。圧電体30を構成する圧電材料として、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系、または無鉛のKNN(ニオブ酸ナトリウムカリウム)系等の圧電性セラミクス材料が用いられる。
【0014】
圧電体30は、複数の溝33を有する。溝33は圧電体30の第2方向に沿って延出し、第3方向において複数並んで配列される。各溝33はそれぞれ長手方向が第2方向に沿う細長い形状である。溝33は、オリフィスプレート60が配される第2方向の一端側と天板40が配される第1方向の一方側に開口する有底のスリットである。第3方向において並ぶ複数の溝33は互いに平行に形成されている。
【0015】
複数の溝33は、交互に配される第1の溝331と第2の溝332とで構成される。第1の溝331はノズル61及び共通室39に連通する圧力室37を構成する。第2の溝332は閉塞されたダミー室38を構成する。
【0016】
圧電体30の、隣接する溝33の間に形成される壁状の部分が、圧力発生手段の駆動部となる積層圧電素子34を構成する。圧電体30には、第1方向において積層圧電素子34と溝33とが交互に複数並んで配置される。複数の積層圧電素子34は溝33の底部を構成する圧電部材32によって、互いに連続する。各積層圧電素子34は積層方向の分極方向が相反する一対の圧電素子部341,342が積層されて構成される。
【0017】
圧電体30の、各溝33で構成される圧力室37の内面や、傾斜面部において、電極36が形成されている。電極36は、溝33の内面から傾斜面部を通って導出され、ベース20の上面の配線パターンに接続される。
【0018】
電極36は、例えば、真空蒸着法や無電解ニッケルメッキ法等の手法で形成される。電極36は例えば配線パターンと同時に真空蒸着法や無電解メッキ法等の手法で形成されていてもよい。電極36の材料はニッケル、金、銅等の導電性材料で構成される。電極36は、2種以上の導電性の膜を積層して構成されても良い。
【0019】
天板40は、例えば方形の板状部材に構成される。天板40は、圧電体30の積層方向一方側の表面に対向配置され、溝33の一方側の開口を塞ぐ。天板40は、マシナブルセラミクスで構成される。
【0020】
天板40のオリフィスプレート60側の端面は、後述するように、圧電体30のオリフィスプレート60側の端面と同時に切断・研磨加工され、面一に構成されている。天板40及び圧電体30は、ベース20よりもオリフィスプレート60側、すなわち第2方向の一方側に突出している。言い換えると、ベース20は、天板40及び圧電体30が積層されて構成された圧電構造体80よりも、オリフィスプレート60から離れるように、第2方向において他方側に退避している。すなわち、インクジェットヘッド10において、ベース20の端面が、圧電体30及び天板40の端面よりも、第2方向の他方側に配置される。なおベース20の端面は、ベース20の底面と直交していても、直交していなくてもよく、圧電体30及び天板40で構成される接合面81に平行であっても、平行でなくてもよい。例えばベース20の端面は傾斜または湾曲していても良い。
【0021】
図5は、主なマシナブルセラミクスの熱膨張率を示す表である。
図5に示すように、マセライトHSPは9.8×10
-6/K、マコールは9.3×10
-6/K、マセライトSPは9.2×10
-6/K、ホトベールは7.8×10
-6/K、ホトエースLは6.1×10
-6/K、マセライトETは5.8×10
-6/K、マセライトBTは4.5×10
-6/K、マセライトPNは4.2×10
-6/Kである。
例えば、本実施形態において天板40は、熱膨張率4~10×10
-6/Kの間となる材料で構成される。具体的には、天板40を構成するマシナブルセラミクスとして、マセライト、マコール、あるいはホトベール、を用いる。
【0022】
天板40は、ベース20上に接合された圧電体30上に重ねて接合されている。より好ましくは、天板40を構成する材料として、熱膨張率が、ベース20を構成するエンジニアリングセラミクスの熱膨張率と、圧電性セラミクスの熱膨張率の間の値となる、マシナブルセラミクスを用いる。例えば、圧電体30をPZTとし、ベース20をアルミナとした場合には、2×10-6/K以上7.2×10-6/K以下の熱膨張率を選定する。
【0023】
図6は、圧電体30をPZTとし、ベース20をアルミナで構成し、天板40の材料を、PZT、熱膨張率の異なる2種のマセライト(ET・SP)の3種とし、圧電体30と120℃前後の温度で熱接合した組立体の、反り量を示す表である。
図6に示すように、アルミナの熱膨張率は7.2×10
-6/K、PZTの熱膨張率は2×10
-6/K、マセライトSPの熱膨張率は9.2×10
-6/K、マセライトETの熱膨張率が5.8×10
-6/Kである。反り量は、天板40をマセライトETで構成した場合に、PZT及びマセライトSPと比較して小さい。圧電体30とベース20の材料によって反り量は異なるので、天板40の材料を適宜選択し、例えば、組立体の反りがより小さくなる材料を選択すればよい。
【0024】
カバー50は、天板40の積層方向一方側に対向配置される矩形状のカバープレート51と、カバープレート51の側縁からベース20に向けて延びるカバーフレーム52と、を一体に備える。カバー50はカバープレート51が天板40上に配され、カバーフレーム52の端部がベース20の一方側に接合される。カバー50は、圧電体30が配されるベース20の所定領域を覆うとともに、圧電体30の側方に共通室39を構成する。共通室39は、ベース20に形成されるインク口23及び圧電体30の複数の圧力室37に、連通する。
【0025】
オリフィスプレート60は、厚さ10~100μm程度の方形の板状に構成される。オリフィスプレート60は、圧電体30及び天板40によって構成される積層構造物の一方側の側面である接合面に接合される。オリフィスプレート60には、厚さ方向に貫通する複数のノズル61が形成されている。ノズル61は、1個おきに配置された複数の圧力室37に対応する位置にそれぞれ設けられている。すなわち、オリフィスプレート60は、圧力室37に連通するノズル61を有するとともに、ダミー室38の側方の開口を塞ぐ。
【0026】
なお、オリフィスプレート60とベース20の端面との間には、所定の隙間が形成されている。
【0027】
図4は、インクジェットヘッド10の製造方法を示す説明図である。ここで、一例として、2つのインクジェットヘッド10を構成する2つの圧電構造体80を一体に構成してから2分割する例を示す。本実施形態にかかるインクジェットヘッド10の製造方法は、圧電体形成処理と、接着処理と、台形加工処理と、溝加工処理と、電極加工処理と、天板接着処理と、を備える。
【0028】
まず、予め板厚方向に分極された2枚の板状の圧電部材を分極方向が互い違いになるよう積層し、その積層体を所望の幅及び長さにカットして、2つの圧電体30が一体に連続する圧電体パーツ300を形成する(圧電体形成処理)。
【0029】
圧電体接着処理として、2つのベース20が連続した板状部材であるベースパーツ200に、圧電体パーツ300を接着剤等で隙間なく貼り付ける(Act11)。なおベースパーツ200は、板状のベース20が2枚分、第3方向の両端において接続され、第3方向の中央部に、長手方向が第3方向に沿うとともに厚さ方向に貫通するスリット201が形成されている。スリット201は、第2方向である幅方向において段差の幅の2倍の幅を有し、後の分割工程によって2つのベース20に分割された際に、圧電体30との段差を形成する。
【0030】
続いて、台形加工処理として、ベースパーツ200を、電極36が引き出せるように台形に加工する(Act12)。さらに、溝加工処理として、圧電体パーツ300を備えるベースパーツ200の表面に、ダイシングソーやスライサー等を使用した機械加工により、複数の溝33を形成する(Act13)。
【0031】
さらに、電極加工処理として、真空蒸着法等により電極36や配線パターン等の導電膜を形成する(Act13)。メッキにより電極を形成したのち、エッチングやレーザーパターニングで不要な電極を取り除き、圧力室とベース端部をつなぐ所望の電極配線を形成する。
【0032】
続いて、天板接着処理として圧電体パーツ300の上面に、2つの天板40が一体に連続した天板パーツ400を被せ、接着剤層を介して加熱接着する(Act14)。
【0033】
この後、分割処理として、ベースパーツ200、圧電体パーツ300、及び天板パーツ400が積層されて接合された圧電構造体パーツ800を、ダイシング加工により2分割することで、2つの圧電構造体80が完成する(Act15)。なお、分割時の切断面はノズル接合面81となる。ノズル接合面81は、基準となるベース20の底面と直角または略直角となる。切断加工だけでは直角度が不十分な場合、あるいは、面粗さが粗い場合には、さらに切断面を研磨加工してもよい(Act16)。
【0034】
以上により構成された個々の圧電構造体80は、天板40及び圧電体30の端面によって構成される接合面81を有する。圧電構造体80において、ベース20の端面24は、天板40及び圧電体30の側面で構成される接合面81よりも、第2方向においてオリフィスプレート60が配される位置から離れた位置に、配置される。言い換えると、オリフィスプレート60を接合する接合面81は、天板40及び圧電体30の側面によって形成され、ベース20の表面を含まない。
【0035】
そして、天板40及び圧電体30の側面に、オリフィスプレート60を接着して取り付ける。このとき、圧力室37を構成する第1の溝331にノズル61が対向して配されるとともに、ダミー室38を構成する第2の溝332が閉塞される。
【0036】
さらに、圧電構造体80の一方側から、カバー50を被せ、カバー50のカバーフレーム52の端面をベース20の表面に接着して取り付ける。以上により、
図1に示すインクジェットヘッド10が完成する。
【0037】
以上のように構成されたインクジェットヘッド10において、静止状態から一旦圧力室を開いてインクを流入させ、その後圧力室を縮小させてインクを加圧して吐出させる。具体的には、
図3に示すように、ノズル61から材料を吐出する駆動時には、駆動回路によりベース20上2形成された配線パターンを介して駆動素子に駆動電圧を印加することで、駆動する圧力室37内の電極36と、両隣のダミー室38の電極36に電位差を与える。すると、積層圧電素子34の一対の圧電素子部341,342は互いに逆向きに変形し、両圧電素子の変形により、駆動素子が屈曲変形する。一例として、まず駆動する圧力室37を開く方向に変形させ圧力室37内を負圧にすることで、インクを圧力室37内に導く(インク流入)。続いて、圧力室37を閉じる方向に変形させ、圧力室37内を加圧することで(インク加圧)、ノズル61からインク滴を吐出させ、基準電位に戻す(インク柱切断)。
【0038】
本実施形態によれば、加工性の良いインクジェットヘッド10を提供できる。ノズル61を有するオリフィスプレート60の接合面となる圧力室の壁は、マシナブルセラミクスと圧電体とで構成されるため、容易に加工可能で、オリフィスプレート60が接合される接合面を機械加工により同一面にすることが可能となる。すなわち、同様な加工特性を有する圧電体30と天板40とによって接合面を構成するため、加工条件が容易になり、オリフィスプレート60を正確に、漏れなく接合させることができる。また、ベース20の材料を無鉛材料とすることで、環境に適したインクジェットヘッド10を提供できる。
【0039】
例えば本実施形態で用いた3種の材料ではアルミナが非常に硬く、加工条件も異なるため、同時加工を行うと加工面が粗くなり、あるいはチッピングやバリが多い等、加工が困難である。例えば、加工性が異なる材料では加工時に段差が生じやすい。すなわち、柔らかい材料が接着層を介して刃物から逃げ、加工後に元に戻り、柔らかい材料の層が突出する場合があり、あるいは、柔らかい材料が多く加工され、固い材料の層が突出する場合もある。例えば研磨処理を施した場合にあっても、当該研磨処理において研磨量の差からも段差が生じ、段差を無くすことは困難である。このように、オリフィスプレート60と接合される接合面に段差ができると、オリフィスプレート60を接合した際に隙間が生じやすくなる。これに対し、本実施形態においては、天板40と圧電体30に加工特性の近い材料を用い、これらのパーツによって接合面を形成することにより、接合面に大きな段差が生じにくく、オリフィスプレート60を隙間なく接合することができる。また、ベース20の端面24を接合面81から退避させることで、ベース20の加工性に関する材料選定の制約を外すことができ、ベース20の材料選定において強度を確保しやすくなることから、インクジェットヘッド10の薄型化・小型化が可能となる。
【0040】
また、上記実施形態において、例えばマシナブルセラミクスとし、熱膨張率を4~10×10-6/Kの間で選択することにより、接合後の反りや変形を防止することができる。したがって、熱硬化性の接着剤を用いても接合後の反りや変形を防止することができ、分断加工の際に固定しやすく、加工が容易となる。
【0041】
さらに、上記実施形態において、マシナブルセラミクスの熱膨張率を適宜、組立体の反りが最小となるよう選択することで、機械加工時の装置への吸着などが可能となり、より加工性の高い構成を実現することができる。例えば、天板40の材料を、圧電体30の熱膨張率とベース20の熱膨張率との間の材料をとして選定することで、組立体の反りを低減することができる。
【0042】
また、例えば製造工程において、接合後にベースに段差を形成する方法の場合には、反りが多いと、アルミナを切除するために、反りの分、多くのPZTを削ることとなり、オリフィスプレートの接合面が小さくなる原因となるが、上記実施形態においては反りが小さい構成とすることにより、PZTの削り量を少なくして、オリフィスプレートの接合面を確保しやすい。
【0043】
[第2実施形態]
以下、液体吐出装置としてのインクジェットプリンタ100について、
図7を参照して説明する。インクジェットプリンタ100は、第1実施形態にかかるインクジェットヘッド10を用いたプリンタである。
【0044】
インクジェットプリンタ100は、所定の搬送経路に沿って例えば印刷媒体である用紙Pを搬送しながら画像形成等の各種処理を行う装置である。インクジェット記録装置1は、筐体110と、用紙供給部としての給紙カセット111と、排出部としての排紙トレイ112と、支持部としての保持ローラ(ドラム)113と、搬送装置114と、反転装置118と、を備える。
【0045】
筐体110はインクジェットプリンタ100の外郭を構成する。給紙カセット111は、筐体110の内部に設けられる。排紙トレイ112は、筐体110上部に設けられる。保持ローラ(ドラム)113は、用紙Pを外面上に保持して回転する。搬送装置114は、給紙カセット111から保持ローラ113の外周を通って排紙トレイ112に至って形成される所定の搬送路Aに沿って用紙Pを搬送する。反転装置118は、保持ローラ113から剥離された用紙Pの表裏面を反転させて再び保持ローラ113の表面上に供給する。
【0046】
搬送装置114は、搬送路Aに沿って設けられた複数のガイド部材121~125や複数の搬送用ローラ126~131を備えている。搬送用ローラとして、ピックアップローラや、給紙ローラ対、レジストローラ対、分離ローラ対、搬送ローラ対、排出ローラ対が設けられている。これらの搬送用ローラ126~131は搬送用モータに駆動されて回転することで、用紙Pを搬送路Aに沿って下流側に送る。
【0047】
搬送路Aには用紙の搬送状況を監視するためのセンサSなどが各所に配置されている。
【0048】
保持ローラ113は、その表面上に用紙Pを保持した状態で回転することにより用紙Pを搬送する。保持ローラ113はインクジェットヘッド10に対向する位置に印刷媒体である用紙Pを支持する。ここでは、保持ローラ113は、
図12中時計回りに回転することにより用紙Pを外周に沿って時計回りに搬送する。
【0049】
保持ローラ113の外周部分において上流側から下流側に向かって順番に、保持装置115と、画像形成装置116と、除電剥離装置117と、クリーニング装置119と、が設けられている。
【0050】
保持装置115は、押圧ローラ115aと帯電ローラ115bとを備えている。押圧ローラ115aは保持ローラ113の外面に押圧する。帯電ローラ115bは電力が供給されることで用紙Pを保持ローラ113の外面に吸着させる方向の静電気力を発生(帯電)する。この静電気力により用紙Pが保持ローラ113に吸着される。
【0051】
画像形成装置116は、保持ローラ113の外面に対向配置された複数(4色)のインクジェットヘッド10として、ここではシアン、マゼンダ、イェロー、ブラックの4色にそれぞれ対応する4つのインクジェットヘッド10を備える。4つのインクジェットヘッド10は、所定のピッチで設けられたノズル61から、用紙Pにインクを吐出して保持ローラ113の外面に保持された用紙Pに画像を形成する。各インクジェットヘッド10として、第1実施形態にて説明したインクジェットヘッド10を用いる。
【0052】
除電剥離装置117は、用紙Pを除電する除電ローラと、用紙Pを保持ローラ113から剥離する剥離爪と、を備える。
【0053】
クリーニング装置119は、保持ローラ113に接触した状態で回転することにより保持ローラ113を清浄するクリーニング部材を備える。
【0054】
反転装置118は、保持ローラ113から剥離された用紙Pを反転させて再び保持ローラ113の表面上に供給する。反転装置118は、例えば用紙Pを前後方向逆にスイッチバックさせる所定の反転経路に沿って用紙Pを案内して搬送することにより用紙Pを反転させる。
【0055】
この他、インクジェットプリンタ100は、コントローラであるCPU(中央制御装置)と、各種のプログラムなどを記憶しているROMと、各種の可変データや画像データなどを一時的に記憶しているRAMと、外部からのデータを入力したり、外部へデータを出力したりする、I/F(インターフェイス)と、を備える。
【0056】
例えばユーザーがプリンタに対して印刷を指示すると、インクジェットプリンタ100のCPUはインクジェットヘッド10に対して印字信号を駆動回路に出力する。これによりインクジェットヘッド10が駆動され、用紙Pに画像が形成される。
【0057】
以上の様に構成されたインクジェットプリンタ100においても上記第1実施形態と同様の効果を得られる。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0059】
例えば上記実施形態においては、インクジェットヘッド10の製造方法として、予めベースパーツ200に段差を構成するスリットを形成した例を示したがこれに限られるものではない。例えば
図8に示すように、ベースパーツ200は予めスリットを有さず、全長において連続した板状に構成されていてもよい。この場合には、ベースパーツ200の第2方向中央部の表側に圧電体パーツ300を貼付けた後、ベースパーツ200の裏側から所定幅で所定深さまで研磨し、ベースパーツ200と圧電体パーツ300の一部を削ることで、ベースパーツ200の厚み以上の深さを有する溝83を形成する。その後、当該溝83の幅方向の中央を通るラインCにて、圧電構造体パーツ800を2つに切断することで、接合面81からベース20の端面24が退避する段差を有する圧電構造体80が2つ形成される。
【0060】
例えばインクヘットヘッド10の具体的な構成や、流路の形状、ベース20、圧電体30、天板40、カバー50、オリフィスプレート60、を含む各種部品の構成や位置関係は上述した例に限られるものではなく、適宜変更可能である。また、ノズル61や圧力室37の配列も上記に限られるものではない。たとえばノズル61を2列以上配列してもよい。また複数の圧力室37の間に、ダミー室38を2つ以上配置してもよい。
【0061】
例えば、吐出する液体は印字用のインクに限られるものではなく、例えばプリント配線基板の配線パターンを形成するための導電性粒子を含む液体を吐出する装置等であっても良い。
【0062】
また、上記実施形態において、インクジェットヘッド10は、インクジェット記録装置1等の液体吐出装置に用いられる例を示したが、これに限られるものではなく、例えば3Dプリンタ、産業用の製造機械、医療用途にも用いることが可能であり、小型軽量化及び低コスト化が可能である。
【0063】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、加工性の良い液体吐出ヘッド及び液体吐出装置を提供できる。
【0064】
この他、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1…インクジェット記録装置(液体吐出装置)、10…インクジェットヘッド(液体吐出吐出ヘッド)、20…ベース、30…圧電体、33…溝、331…第1の溝、332…第2の溝、34…積層圧電素子、37…圧力室、38…ダミー室、39…共通室、40…天板、50…カバー、60…オリフィスプレート、61…ノズル、80…圧電構造体、81…接合面。