(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144043
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】積層成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 25/08 20060101AFI20220926BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20220926BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220926BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220926BHJP
C09J 167/00 20060101ALI20220926BHJP
C08G 63/91 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B32B25/08
B32B27/28 102
B32B27/00 D
B32B27/36
C09J167/00
C08G63/91
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044883
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 翔平
【テーマコード(参考)】
4F100
4J029
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AK24A
4F100AK41A
4F100AK41C
4F100AK41J
4F100AK54A
4F100AK54J
4F100AK69B
4F100AL02A
4F100AL06A
4F100AL07A
4F100AL09A
4F100AL09J
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA06A
4F100CB03A
4F100EH202
4F100GB15
4F100JA07A
4F100JD02B
4F100JL11
4J029AB07
4J029AC03
4J029AC05
4J029AD06
4J029AE03
4J029BA05
4J029BF25
4J029CB06A
4J029HA01
4J029HB01
4J029KH01
4J040ED041
(57)【要約】
【課題】変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層とガスバリア性樹脂層とを含む積層成形体であって、接着性と、溶剤耐久性とを満足する積層成形体を提供する。
【解決手段】少なくとも、変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層とガスバリア性樹脂層とを含む積層成形体であって、該変性ポリエステル系エラストマーは、芳香族ポリエステルを含有するハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有するソフトセグメントとからなるポリエステルポリエーテルブロック共重合体よりなるポリエステル系エラストマーを、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性してなる変性ポリエステル系エラストマーであり、かつ、該変性ポリエステル系エラストマーにおけるポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が36~53質量%である、積層成形体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層とガスバリア性樹脂層とを含む積層成形体であって、
該変性ポリエステル系エラストマーは、芳香族ポリエステルを含有するハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有するソフトセグメントとからなるポリエステルポリエーテルブロック共重合体よりなるポリエステル系エラストマーを、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性してなる変性ポリエステル系エラストマーであり、かつ、該変性ポリエステル系エラストマーにおけるポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が36~53質量%である、積層成形体。
【請求項2】
前記接着樹脂層が、前記変性ポリエステル系エラストマーを前記接着樹脂層の構成成分全体に対し、50質量%以上含む接着樹脂層である、請求項1に記載の積層成形体。
【請求項3】
前記ガスバリア性樹脂層がエチレン・ビニルアルコール共重合体を主成分とする樹脂層である、請求項1又は2に記載の積層成形体。
【請求項4】
更にポリエステル系樹脂層を有する積層成形体であって、前記ガスバリア性樹脂層と該ポリエステル樹脂層との間に前記接着樹脂層を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層とガスバリア性樹脂層とを含む積層成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・ビニルアルコール共重合体やポリアミド系樹脂に代表されるガスバリア性樹脂とポリオレフィン系樹脂とを用いた積層成形体は、その優れた機械特性、食品用途における安全性、水蒸気や酸素等の気体遮蔽性から、食品包装分野ではフィルム、ボトル、カップなどの容器等に、非食品分野では、工業用配管やホース、飲料・薬品搬送用チューブ、自動車部品等に、幅広く使用されている。このような積層成形体に、香気保存性や、剛性、耐熱性、耐寒性、表面印刷性などを付与したい場合、ポリオレフィン系樹脂の代わりにポリエステル系樹脂を用いたり、あるいはこの積層体に更にポリエステル系樹脂層が積層されたりする。
【0003】
エチレン・ビニルアルコール共重合体やポリアミド系樹脂は、ポリエステル系樹脂との接着性に乏しいため、それらを積層するために接着性樹脂組成物よりなる接着層を設ける技術が知られている。
例えば、特許文献1には、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が58~73重量%である変性ポリエステル系エラストマーからなる接着性樹脂組成物が記載されている。
【0004】
一方で、内容物が油性である食品包装や、使用環境下で薬品や溶剤に接触するような工業用ホース、薬品搬送用チューブ、自動車部品等では、それを構成する積層成形体の各樹脂層界面に油、薬品や溶剤が移行し、剥離が生じるという問題がある。また、長期間溶剤に晒される用途では、接着性樹脂組成物よりなる接着層が、溶剤により膨潤・変形し、積層成形体の変形や脆化が起こる場合がある。このため、溶剤耐久性に優れた接着性樹脂組成物が求められる。
特許文献2には、特定のメルトフローレートと密度を有する変性ポリエチレンと未変性ポリエチレンとを含む組成物よりなる接着層が、初期接着強度及び溶剤耐久性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-155135号公報
【特許文献2】特開2003-73506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の接着性樹脂組成物は、後掲の比較例3~5に示すように接着性に優れるものの、溶剤耐久性に改善の余地がある。特許文献2に記載の接着性樹脂組成物は、後掲の比較例6に示すように溶剤耐久性に優れるものの、接着性が不十分である。
【0007】
本発明は、変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層とガスバリア性樹脂層とを含む積層成形体であって、接着性と溶剤耐久性とを満足する積層成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体を不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性してなる変性ポリエステル系エラストマーであって、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを特定の割合で含有する変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層とガスバリア性樹脂層とを含む積層成形体が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 少なくとも、変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層とガスバリア性樹脂層とを含む積層成形体であって、該変性ポリエステル系エラストマーは、芳香族ポリエステルを含有するハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有するソフトセグメントとからなるポリエステルポリエーテルブロック共重合体よりなるポリエステル系エラストマーを、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性してなる変性ポリエステル系エラストマーであり、かつ、該変性ポリエステル系エラストマーにおけるポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が36~53質量%である、積層成形体。
【0010】
[2] 前記接着樹脂層が、前記変性ポリエステル系エラストマーを前記接着樹脂層の構成成分全体に対し、50質量%以上含む接着樹脂層である、[1]に記載の積層成形体。
【0011】
[3] 前記ガスバリア性樹脂層がエチレン・ビニルアルコール共重合体を主成分とする樹脂層である、[1]又は[2]に記載の積層成形体。
【0012】
[4] 更にポリエステル系樹脂層を有する積層成形体であって、前記ガスバリア性樹脂層と該ポリエステル樹脂層との間に前記接着樹脂層を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の積層成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層とガスバリア性樹脂層とを含む積層成形体であって、高い接着性と優れた溶剤耐久性を兼ね備える積層成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0015】
本発明において、樹脂の密度、融点、硬度、メルトフローレート(MFR)、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率は、以下のようにして測定された値である。
【0016】
<密度>
密度は、JIS K7112に準拠して、水中置換法で測定される。
【0017】
<融点>
融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される。具体的には、一旦300℃まで温度を上げて熱履歴を消去した後、10℃/分の降温速度で40℃まで温度を降下させ、再び昇温速度10℃/分にて昇温して測定した際の、吸熱ピークトップの温度を融点とする。単位は℃である。
【0018】
<硬度>
JIS K6253(D硬度)に準拠して、デュロメーターにより測定されるJIS-D硬度である。
【0019】
<MFR>
後述のポリエステル系エラストマーおよび変性ポリエステル系エラストマーのMFR(メルトフローレート)は、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定される。測定に際して、ポリエステル系エラストマーおよび変性ポリエステル系エラストマーを、ペレット状態で100℃、4時間で真空乾燥し、含有水分を除去する。
変性ポリエチレンのMFRは、JIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定される。
【0020】
<変性ポリエステル系エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率>
変性ポリエステル系エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率は、試料を重クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール混合溶媒に溶かし、核磁気共鳴装置(Bruker社製 AVANCE400分光計)を用いて、室温で1HNMRスペクトルを測定し、その水素スペクトルの化学シフトに基づいて算出される。
2種類以上の変性ポリエステル系エラストマーを用いる場合は、各変性ポリエステル系エラストマーを対象試料とし、各々上記と同様に測定してポリアルキレンエーテルグリコールセグメント含有率を算出し、各変性ポリエステル系エラストマーの配合質量比により比例計算で算出することもできる。
なお、理論上、変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率と、変性前のポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率とは、同じ値となる。即ち、変性前と変性後でポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率に変化はないとみなすことができる。
【0021】
本発明の積層成形体は、少なくとも、変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層とガスバリア性樹脂層とを含む積層成形体であって、該変性ポリエステル系エラストマーは、芳香族ポリエステルを含有するハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有するソフトセグメントとからなるポリエステルポリエーテルブロック共重合体よりなるポリエステル系エラストマーを、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性してなる変性ポリエステル系エラストマーであり、かつ、該変性ポリエステル系エラストマーにおけるポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が36~53質量%であることを特徴とする。
以下において、本発明に係る接着樹脂層に含まれる変性ポリエステル系エラストマーを「本発明の変性ポリエステル系エラストマー」と称し、変性前のポリエステル系エラストマーを単に「ポリエステル系エラストマー」又は「成分(A)」と称す場合がある。
また、ポリエステル系エラストマーの変性に用いる不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体を「成分(B)」、変性処理に用いるラジカル発生剤を「成分(C)」と称す場合がある。
【0022】
本発明の変性ポリエステル系エラストマーは、芳香族ポリエステルを含有するハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有するソフトセグメントとからなるポリエステルポリエーテルブロック共重合体であるポリエステル系エラストマーを不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性することで得られるものである。
【0023】
本発明における変性とは、ポリエステル系エラストマーの不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体によるグラフト変性、末端変性及びエステル交換反応による変性、分解反応による変性等をいう。具体的に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が結合している部位としては、末端官能基やアルキル鎖部分が考えられ、特に末端カルボキシル基、末端水酸基及びポリアルキレンエーテルグリコールセグメントのエーテル結合に対してα位やβ位の炭素原子が挙げられる。特に、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントのエーテル結合に対してα位に多く結合しているものと推定される。
【0024】
ポリエステル系エラストマーを不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性すると、通常、ポリエステル系エラストマーにより変性された変性ポリエステル系エラストマーと、未変性のポリエステル系エラストマー、変性に用いた不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体や後述のラジカル発生剤などを含む組成物としての変性ポリエステル系エラストマーが得られる。本発明の変性ポリエステル系エラストマーとは、このように変性反応により得られた、未変性ポリエステル系エラストマーや不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体等の残留物を含む変性ポリエステル系エラストマー組成物を意味する。
なお、本発明の変性ポリエステル系エラストマーとしては、本発明で規定されるポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率、好ましくは更に後述の好適な酸変性率を満たす限り、ポリエステル系エラストマーの変性により得られた変性ポリエステル系エラストマーと未変性ポリエステル系エラストマーとを混合したものを用いてもよい。
【0025】
[メカニズム]
本発明に係る接着樹脂層は、変性ポリエステル系エラストマーを含むため、ガスバリア性樹脂層、特に、エチレン・ビニルアルコール共重合体やポリアミド系樹脂との接着性を十分なものとすることができる。また、本発明の変性ポリエステル系エラストマーはポリエステルが主骨格であるため、ポリエステル系樹脂との相溶性が高く、密着性が高い。
また、本発明の変性ポリエステル系エラストマーにおけるポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が36~53質量%であることで、接着性と溶剤耐久性を両立させることができる。これは、変性ポリエステル系エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメントに、変性により不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が多く結合しているためと推定されることによる。即ち、変性ポリエステル系エラストマーがポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを36質量%以上と十分量含有していれば、変性度(変性ポリエステル系エラストマーに含まれる不飽和カルボン酸成分の含有率)が高くなり、ガスバリア性樹脂との接着性を十分満足することができる。一方、変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメント含有率が53質量%以下で残りの部分に十分量の高結晶性のハードセグメントを含むことにより、変性ポリエステル系エラストマーとしての結晶性が高くなる結果、溶剤耐久性が優れたものとなる。
【0026】
[ポリエステル系エラストマー]
本発明に係るポリエステル系エラストマーは、芳香族ポリエステルを含有するハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールを含有するソフトセグメントとからなるポリエステルポリエーテルブロック共重合体である。
本発明に係るポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率は、後述の変性ポリエステル系エラストマーと同様の理由から、36~53質量%、好ましくは38~50質量%である。
変性ポリエステル系エラストマーと同様、2種以上のポリエステル系エラストマーを用いる場合、一部のポリエステル系エラストマーがポリアルキレンエーテルグリコールセグメント含有率35~53質量%を外れるものであっても、全体としてのポリアルキレンエーテルグリコールセグメント含有率が36~53質量%の範囲内であればよい。
【0027】
また、ポリエステル系エラストマーは、密度が1.00~1.35g/cm3のものが好ましく、1.05~1.30g/cm3のものがより好ましく、1.10~1.25g/cm3のものが更に好ましい。密度は、ポリアルキレンエーテルグリコール含有率と相関し、ポリアルキレンエーテルグリコール含有率が高くなると密度が低くなる。即ち、密度を上記範囲の下限以上とすることで溶剤耐久性が低下することを抑制しやすくなり、上記範囲の上限以下とすることでガスバリア性樹脂と接着性を良好にしやすくなる。
【0028】
また、ポリエステル系エラストマーは、融点が145~245℃のものが好ましく、160~230℃のものがより好ましく、175~215℃のものが更に好ましい。融点を、上記範囲の下限以上とすることで使用環境下での耐熱性が低下することを抑制しやすくなり、上記範囲の上限以下とすることでエチレン・ビニルアルコール共重合体等の高温で熱劣化してしまうガスバリア性樹脂との共押出成形性を良好にしやすくなる。
【0029】
また、ポリエステル系エラストマーのD硬度(JIS-D硬度)は、10~80であることが好ましく、20~70であることがより好ましく、40~60であることが更に好ましい。JIS-D硬度が、上記範囲の下限以上であると、溶剤耐久性が優れる傾向にあり、上記範囲の上限以下であるとフィルムやチューブ等の積層成形体とした場合に求められる柔軟性を維持しやすい傾向にある。
【0030】
加えて、ポリエステル系エラストマーのJIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定されるMFRは、0.5~300g/10分であることが好ましく、1~150g/10分であることがより好ましく、2~75g/10分であることが更に好ましい。ポリエステル系エラストマーのMFRが上記範囲の上限以下であることで溶融張力を高め成形時のドローダウンを抑制しやすく、上記範囲の下限以上とすることでは流動性の不足により発生する偏肉などの成形性悪化を抑制しやすくなる。
【0031】
芳香族ポリエステルを含有するハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールを含有するソフトセグメントとからなるポリエステル系エラストマーは、通常、i)炭素原子数2~12の脂肪族及び/又は脂環式ジオールと、ii)芳香族ジカルボン酸及び/又はそのアルキルエステル、及びiii)数平均分子量が400~6,000のポリアルキレンエーテルグリコールとを原料とし、エステル化反応又はエステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合させて得ることができる。
【0032】
i)炭素原子数2~12の脂肪族及び/又は脂環式ジオールとしては、ポリエステルの原料、特にポリエステル系エラストマーの原料として通常用いられるものが使用できる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールが挙げられ、中でも1,4-ブタンジオール、エチレングリコールが好ましく、特に1,4-ブタンジオールが好ましい。これらのジオールは、1種又は2種以上の混合物を使用することができる。
【0033】
ii)芳香族ジカルボン酸としては、ポリエステルの原料、特にポリエステル系エラストマーの原料として一般的に用いられているものが使用でき、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。これらの中では、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸が好適である。また、これらのジカルボン酸は2種以上を併用してもよい。芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルを用いる場合は、上記のジカルボン酸のジメチルエステルやジエチルエステル等が用いられる。好ましいものは、ジメチルテレフタレート及び2,6-ジメチルナフタレートである。
【0034】
iii)ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2及び1,3-プロピレンエーテル)グリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンエーテル)グリコール、ポリ(デカメチレンエーテル)グリコールが挙げられる。これらのうちでも、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールがとりわけ好適に用いられる。
【0035】
ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、通常、数平均分子量が400~6,000のものが使用され、600~4,000のものが好ましく、900~3,000のものがより好ましい。数平均分子量が上記範囲の下限以上であることで、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性度を所望の範囲に制御しやすくなり、十分な接着性を発現しやすくなる傾向にある。一方、数平均分子量が上記範囲の上限以下であることで、系内での相分離を抑制でき、得られるポリマーの物性の低下を抑えられる傾向となる。なお、ここでいう「数平均分子量」とは、核磁気共鳴(NMR)分析で測定されたものである。
ポリアルキレンエーテルグリコールは、ポリエステル系エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が、36~53質量%、好ましくは38~50質量%となるように用いられる。
【0036】
また、ポリエステル系エラストマーには、上記の成分以外に3官能性のトリオールやトリカルボン酸又はそれらのエステルを少量共重合させてもよく、さらにアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそのジアルキルエステルも共重合成分として使用してもよい。
【0037】
ポリエステル系エラストマーとしては市販品を用いてもよく、市販品としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製「テファブロック(登録商標)」、東洋紡株式会社製「ペルプレン(登録商標)」、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル(登録商標)」が挙げられる。
【0038】
ポリエステル系エラストマーは、1種であってもよく、単量体組成や物性等の異なるものの2種以上が、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性に供されてもよい。
前述の通り、2種以上のポリエステル系エラストマーを用いる場合、一部のポリエステル系エラストマーがポリアルキレンエーテルグリコールセグメント含有率35~53質量%を外れるものであっても、全体としてのポリアルキレンエーテルグリコールセグメント含有率が36~53質量%の範囲内であればよい。
【0039】
[不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体]
ポリエステル系エラストマーの変性に用いる不飽和カルボン酸としては、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸が好ましく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、これらの不飽和カルボン酸の酸無水物、カルボン酸エステルが例示され、更には、酸ハロゲン化物、アミド、イミド等の誘導体であってもよい。これらの誘導体の中では、酸無水物が好ましい。
【0040】
不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体としては、これらの中では、特にマレイン酸及び/又はその無水物が好適である。また、これらの化合物を複数併用してもよい。更には、ビニルトリメトキシシラン等のいわゆるビニルシラン類を不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体とともに併用することもできる。
【0041】
[ラジカル発生剤]
ポリエステル系エラストマーを不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性処理するに際し、ラジカル反応を行うために通常ラジカル発生剤が用いられる。
ラジカル発生剤としては、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、ヒドロパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類等が挙げられる。これらのうちで、ジアシルパーオキサイド類としては、ジベンゾイルパーオキサイドや2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましく用いられる。これらのラジカル発生剤は、ポリエステル系エラストマーの種類や、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の種類や、変性条件に応じて適宜選択すればよく、また2種以上を併用してもよい。ラジカル発生剤は有機溶剤等に溶解して加えることもできる。
【0042】
[変性ポリエステルエラストマーの製造方法]
本発明の変性ポリエステル系エラストマーは、公知のいかなる方法を用いて製造して良く、溶融混練反応法、溶液反応法、懸濁分散反応法を使用することができるが、通常は溶融混練反応法が好ましい。
【0043】
溶融混練反応法よる場合は、前記の成分(A)~(C)を所定の配合比にて均一に混合した後に溶融混練すれば良い。混合には、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等が使用され、溶融混練には通常、単軸又は二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダーミキサー等を使用することができる。
溶融混練は、樹脂が熱劣化しないように、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上で、通常300℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下の範囲で行われる。
【0044】
変性に用いる成分(B)の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の配合量は、成分(A)のポリエステル系エラストマーの合計100質質量部に対し、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の配合量を上記下限以上とすることで、十分な変性が実施しやすく、上記上限以下とすることで、経済的であるだけでなく、変性に寄与しなかった不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が不純物として働き、接着性を低下させることを抑止しやすくなる。
【0045】
成分(C)のラジカル発生剤の配合量は、成分(A)のポリエステル系エラストマーの合計100質量部に対し、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上で、通常4質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。ラジカル発生剤の配合量が上記下限以上であることで、変性反応を十分に起こしやすく、上記下限以下であることで、成分(A)の低分子量化(粘度低下)の促進により材料強度が著しく低下することを抑制できる。即ち、この変性反応においては、成分(A)に成分(B)である不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が付加するグラフト重合反応が主として起こるが、分解反応も起こり、分解により、得られる変性物は、分子量が低下して材料強度が低くなる。ラジカル発生剤の使用量が多過ぎると、グラフト重合反応も起こり易いが、同時にこのような分子量低下につながる分解反応も起こり易くなるため、好ましくない。
【0046】
この変性反応により得られた生成物は、本発明の変性ポリエステルエラストマーとして、後述の如く、そのまま接着性樹脂層の成形に供することができる。
【0047】
[変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率]
本発明の変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率は、36~53質量%である。変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が36~53質量%であることで、これを接着樹脂層として用いた場合に、接着性と溶剤耐久性とを満足することができる。変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が上記範囲の上限を超える場合、結晶性が低下して溶剤耐久性が劣る傾向となる。変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が上記範囲の下限未満の場合には、低温耐衝撃性や、エチレン・ビニルアルコール共重合体やポリアミド系樹脂への接着性が低下する傾向となる。このような観点から本発明の変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率の下限は、好ましくは38質量%以上である。一方、本発明の変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率の上限は、好ましくは50質量%以下である。
【0048】
ここで、変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率とは、変性ポリエステル系エラストマー全体としてのポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率である。即ち、例えば2種以上の変性ポリエステル系エラストマーを混合して用いる場合、そのうちの1種がポリアルキレンエーテルグリコールセグメント含有率36~53質量%から外れるものであっても、混合物としての変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメント含有率が35~53質量%の範囲に入るものであればよい。
【0049】
[変性ポリエステル系エラストマーの酸変性率]
本発明の変性ポリエステル系エラストマーは、ポリエステル系エラストマーに対して上述の好適な配合量で不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体とラジカル発生剤を用いて製造されたものであればよく、その酸変性率には特に制限はないが、0.01~8であることが好ましい。酸変性率が上記範囲の下限以上であれば、ガスバリア性樹脂層との十分な接着性が得られる。酸変性率が上記範囲の上限以下であれば、不飽和カルボン酸及び/その誘導体による変色を抑制することが可能である。酸変性率の下限は0.1以上がより好ましく、0.15以上であることが更に好ましく、0.16以上であることが特に好ましい。酸変性率の上限は4以下であることがより好ましく、0.8以下であることが更に好ましい。
なお、変性ポリエステル系エラストマーの酸変性率は、後述の実施例の項に記載の方法で測定、算出される。
【0050】
[接着樹脂層]
本発明に係る接着樹脂層は、本発明の変性ポリエステル系エラストマーを接着樹脂層の構成成分全体に対して好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上含有する。変性ポリエステル系エラストマーの含有率が上記下限以上であれば、ガスバリア性樹脂層との接着性、溶剤耐久性を十分に高めることができる。なお、変性ポリエステル系エラストマーの含有率の上限には特に制限はなく、100質量%であってもよい。
【0051】
本発明に係る接着樹脂層には、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、本発明の変性ポリエステル系エラストマー以外に、目的に応じた任意の成分(以下、その他の成分という場合がある)を配合することができる。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0052】
その他の成分としては、具体的には、本発明の変性ポリエステル系エラストマー以外の樹脂成分やゴム成分(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びポリメチルメタクリレート系樹脂等のアクリル/メタクリル系樹脂等)、耐熱安定剤、耐候安定剤(酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等)、難燃剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、充填剤(無機および/または有機フィラー等)、加工助剤、パラフィンオイル等の可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、相溶化剤、触媒残渣の中和剤、カーボンブラック、着色剤(顔料、染料等)、防曇剤、架橋剤、架橋助剤、鎖長延長剤、分散剤、抗菌剤、抗ウィルス剤、蛍光増白剤等の各種添加物を添加することができる。中でも、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系、芳香族アミン系等の各種酸化防止剤の少なくとも1種を添加することが好ましい。これら酸化防止剤を用いる場合のその含有率は限定されないが、接着樹脂層を構成する全成分に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上であり、また、通常5質量%以下、好ましくは2質量%以下である。
【0053】
[ガスバリア性樹脂層]
本発明に係るガスバリア性樹脂層は、エチレン・ビニルアルコール共重合体を主成分とする樹脂層であることが好ましい。エチレン・ビニルアルコール共重合体は、アルコールの存在下、エチレン・酢酸ビニル共重合体をケン化して製造される。ガスバリア性樹脂層を構成するエチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレン含有率が好ましくは15~65モル%、より好ましくは20~50モル%のエチレン・酢酸ビニル共重合体を、そのケン化度が好ましくは50%以上、より好ましくは90%以上になるようにケン化したものが好ましく用いられる。
このようなエチレン・ビニルアルコール共重合体の市販品としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製「ソアノール(登録商標)」、株式会社クラレ製「エバール(登録商標)」、長春集団製「エバシン」が挙げられる。
【0054】
ガスバリア性樹脂層はエチレン・ビニルアルコール共重合体の1種のみを含むものであってもよく、ケン化度や単量体組成等の異なるものを2種以上含むものであってもよいが、ガスバリア性樹脂層は、エチレン・ビニルアルコール共重合体を主成分として通常50質量%以上、特に65~100質量%、とりわけ75~100質量%含むことが好ましい。ガスバリア性樹脂層中のエチレン・ビニルアルコール共重合体含有率が上記下限以上であれば、優れたガスバリア性が得られる。
【0055】
ガスバリア性樹脂層に含まれていてもよいエチレン・ビニルアルコール共重合体以外の成分としては特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル/メタクリル系樹脂等の樹脂成分や、耐熱安定剤、耐候安定剤(酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等)、難燃剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、充填剤(無機および/または有機フィラー等)、加工助剤、パラフィンオイル等の可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、相溶化剤、触媒残渣の中和剤、着色剤(顔料、染料等)等の各種添加物が挙げられる。
【0056】
[ポリエステル系樹脂層]
本発明の積層成形体は、香気保存性、剛性、耐熱性、耐寒性、表面印刷性等の機能性を付与するために、更にポリエステル系樹脂の層を含んでいてもよい。前記ポリエステル系樹脂は、多価カルボン酸とポリアルコールを脱水縮合して製造され、例えば、ジカルボン酸とジオールとを重縮合して得られるものが挙げられる。
【0057】
上記カルボン酸としては特に限定されないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル-4,4-ジカルボン酸、ナフタレン-1,4-または2,6-ジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフテル酸などの脂環族ジカルボン酸が挙げられる。
【0058】
上記ジオールとしては特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂環族グリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、ビスフェノールAなどの芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0059】
上記ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、共重合体PET、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキシンテレフタレート、ポリエステル系エラストマーが挙げられる。これらポリエスエル系樹脂は、単独で用いることもできるが、複数のポリエステル系樹脂との混合物であってもよい。
【0060】
[その他の層]
本発明の積層成形体は、更に上記以外のその他の層を有していてもよい。その他の層としては、上記接着樹脂層、ガスバリア性樹脂層、ポリエステル系樹脂層の構成樹脂以外の樹脂からなる層や以下に示す基材層が挙げられる。
【0061】
その他の樹脂からなる層を構成する樹脂は限定されず、具体的には、前記した接着樹脂層におけるその他の成分として挙げた樹脂、ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、およびポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられるが、好ましくは本発明の変性ポリエステル系エラストマーとの共押出し性に優れる観点からポリオレフィン系樹脂やポリアミド系樹脂である。
【0062】
また、本発明の変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層は、接着性及び溶剤耐久性に優れているので、この接着樹脂層を介して、金属及び/または樹脂シート等の基材層と張り合わせることもできる。
【0063】
基材層の形態は、フィルムやシートに限定されず、織布、不織布のような形状であってもよい。また、基材層は、単層構造であっても複層構造であってもよい。複層構造の基材の作成方法としては、特に限定されるものではなく、共押フィルム法、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、ホットメルトラミネート法、押出ラミネート法、サーマルラミネート法等が挙げられる。
【0064】
本発明の積層成形体には、本発明の変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層、ガスバリア性樹脂層、ポリエステル系樹脂層、その他の樹脂の層、上記金属等からなる基材層以外にも、任意の層を設けることができる。
【0065】
[積層成形体]
本発明の積層成形体は、本発明の変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層と、ガスバリア性樹脂層とを含む積層成形体であり、2層または3層以上に積層された積層成形体とすることが好ましい。中でも、エチレン・ビニルアルコール共重合体を主成分とするガスバリア性樹脂層と、必要に応じて前述のポリエステル系樹脂層を有することが好ましい。とりわけポリエステル系樹脂層、本発明の変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層、ガスバリア性樹脂層の順に積層された積層成形体が好適に用いられる。この場合、例えば、ポリエステル系樹脂層/接着樹脂層/ガスバリア性樹脂層/接着樹脂層/ポリエステル系樹脂層のように、一部の層を2層以上積層した積層成形体とすることもできる。
【0066】
本発明の積層成形体は、更に、前述のその他の樹脂及び/または金属の層を有する、3層または4層以上に積層された積層成形体とすることもできる。
本発明の積層成形体の形態としては、積層フィルム、積層シート、積層チューブ等が挙げられる。ここで、「フィルム」と「シート」は何れも面状の成形体を意味し、同義である。
【0067】
本発明の積層成形体の全体厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜調整することができる。本発明の積層成形体の全体厚みは、好ましくは20μm以上、より好ましくは50μm以上で、100μm以上が更に好ましく、また、好ましくは10mm以下、より好ましくは6mm以下で、1mm以下が更に好ましい。厚みが上記範囲内であることで、皺や亀裂などが無い積層成形体の製造が容易となる。
【0068】
本発明の変性ポリエステル系エラストマーを含む接着樹脂層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上で、10μm以上が更に好ましく、また、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5mm以下で、0.1mm以下が更に好ましい。
ガスバリア性樹脂層の厚みは、一般的には0.002~1mmである。
ポリエステル系樹脂層の厚みは、一般的には0.01~3mmである。
【0069】
[積層成形体の製造方法]
本発明の積層成形体を製造する方法としては、従来より公知の種々の手法を採用することができる。例えば、押出機で溶融させた、個々の溶融樹脂を多層ダイスに供給し、ダイスの中で積層する共押出手法によるインフレーションフィルム、キャストフィルム、シート、チューブ、パイプ、ボトルや、溶融した個々の樹脂を同一金型内に逐次的に射出する、共射出成形であってもよく、また、未延伸の試験管状のパリソン等の共押出積層を行ってもよい。
【実施例0070】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0071】
〔原材料〕
以下の実施例及び比較例において積層成形体の製造に用いた原材料は以下の通りである。
【0072】
[接着樹脂層]
<成分(A)>
A-1:ポリエステル系エラストマー
ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、数平均分子量1,000のポリテトラメチレンエーテルグリコールをソフトセグメントとする、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体であって、該共重合体中のポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有率が45質量%のポリエステル系エラストマー(密度:1.16g/cm3、融点:189.9℃、JIS-D硬度:43、MFR:21g/10分)を用いた。
A-2:ポリエステル系エラストマー
ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、数平均分子量1,000のポリテトラメチレンエーテルグリコールをソフトセグメントとする、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体であって、該共重合体中のポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有率が32質量%のポリエステル系エラストマー(密度:1.20g/cm3、融点:205.1℃、JIS-D硬度:54、MFR:22g/10分)を用いた。
A′-1:ポリエステル系エラストマー
ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、数平均分子量2,000のポリテトラメチレンエーテルグリコールをソフトセグメントとする、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体であって、該共重合体中のポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有率が73質量%のポリエステル系エラストマー(密度:1.07g/cm3、融点:160.1℃、JIS-D硬度:24、MFR:20g/10分)を用いた。
A′-2:ポリエステル系エラストマー
ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、数平均分子量2,000のポリテトラメチレンエーテルグリコールをソフトセグメントとする、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体であって、該共重合体中のポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有率が64質量%のポリエステル系エラストマー(密度:1.10g/cm3、融点:186.1℃、JIS-D硬度:31、MFR:21g/10分)を用いた。
A′-3:ポリエステル系エラストマー
ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、数平均分子量1,000のポリテトラメチレンエーテルグリコールをソフトセグメントとする、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体であって、該共重合体中のポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有率が61質量%のポリエステル系エラストマー(密度:1.10g/cm3、融点:160.6℃、JIS-D硬度:38、MFR:17g/10分)を用いた。
A′-4:ポリエステル系エラストマー
ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、数平均分子量1,000のポリテトラメチレンエーテルグリコールをソフトセグメントとする、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体であって、該共重合体中のポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有率が20質量%のポリエステル系エラストマー(密度:1.26g/cm3、融点:220.0℃、JIS-D硬度:60、MFR:60g/10分)を用いた。
【0073】
<成分(B)>
B:不飽和カルボン酸無水物
和光純薬工業株式会社製「無水マレイン酸(試薬特級)」(粒径5~10mm)を、粒径1mm以下となるように小型ミキサーを用いて粉砕したものを用いた。
【0074】
<成分(C)>
C:ベンゾイルパーオキサイド
日本油脂株式会社製「ナイパー(登録商標)BMTK-40」を用いた。
【0075】
<添加剤>
X:BASF社製フェノール系酸化防止剤「Irganox1010(登録商標)」を用いた。
【0076】
[変性ポリエステル系エラストマーを含有しない接着樹脂層]
酸変性ポリエチレン
三菱ケミカル株式会社社製「モディック(登録商標)H501E」(MFR:0.8g/10分、密度:0.92g/cm3)を用いた。
【0077】
[ガスバリア性樹脂層]
エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)
株式会社クラレ製「エバール(登録商標)L171B」を用いた。
【0078】
[ポリエステル系樹脂]
三菱ケミカル株式会社「テファブロック(登録商標)B1921」を用いた。
【0079】
〔評価方法〕
実施例及び比較例において、物性評価は、以下に示す方法によって行った。
【0080】
[ポリエステル系エラストマー及び変性ポリエステル系エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメント含有率]
ポリエステル系エラストマー及び変性ポリエステル系エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコール含有率は、前述の方法に従って測定した。
【0081】
[酸変性率]
酸変性率は、赤外分光測定装置(JASCOFT/IR610、日本分光株式会社製)で測定した際の、変性ポリエステル系エラストマー中における不飽和カルボン酸成分の含有率である。酸変性率は、変性ポリエステル系エラストマーのペレットを230℃で厚さ20~50μmのシート状にプレス成形したサンプル中の、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体特有の吸収(1900~1600cm-1)とハードセグメント中の芳香環特有の吸収(1000~800cm-1)の比を測定することにより求めた。
【0082】
[膨潤度の測定]
得られた変性ポリエステル系エラストマー又は比較の酸変性ポリエチレンを溶融温度240℃、金型温度40℃にて射出成形し、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの試験片を得た後、イソオクタン/トルエンを等量(体積)配合した混合液に60℃で168時間浸漬し、下式により膨潤度(%)を算出した。
膨潤度(%)=[{W1-W0}/W0]× 100
浸漬前の試験片重量:W0(g)
浸漬後の試験片重量:W1(g)
膨潤度が40%以下であれば、積層成形体の変形や脆化を抑えることができ実用可能と評価した。
【0083】
[積層成形体の接着強度の測定]
一般に積層体の層間強度が2N/15mm以上あれば実用に足る強度であると考えられる。
<溶剤浸漬前の接着強度>
各例で得られた5層フィルムを成形方向と平行に幅15mmの短冊状に切り出して試験片とし、23℃の恒温雰囲気下にて、速度300mm/minでTピール剥離試験を行い、接着強度を測定した。ここで、実施例1~3及び比較例1~5の接着強度は、エチレン・ビニルアルコール共重合体層と接着樹脂層との界面における接着強度である。比較例6の接着強度は、ポリエステル系樹脂層と接着樹脂層との界面における接着強度である。
<溶剤浸漬後の接着強度>
各例で得られた5層フィルムについて、上記と同様にして作製した短冊状試験片を、イソオクタン/トルエンを等量(体積)配合した混合液に60℃で168時間浸漬し、取り出し後5分以内に、23℃の恒温雰囲気下にて、速度300mm/minでTピール剥離試験を行い、接着強度を測定した。上記と同じく、実施例1~3及び比較例1~5の接着強度は、エチレン・ビニルアルコール共重合体層と接着樹脂層との界面における接着強度である。比較例6の接着強度は、ポリエステル系樹脂層と接着樹脂層との界面における接着強度である。
【0084】
[実施例1]
<変性ポリエステルエラストマーの製造>
表1の通り、ポリエステル系エラストマーA-1を100質量部、Bを0.5質量部、Cを0.1質量部、Xを0.1質量部用い、これらをドライブレンドして混合し、二軸押出機(日本製鋼社製、TEX25αIII、D=25mmφ、L/D=53)を用いて設定温度180~240℃、スクリュー回転数200~400rpm、押出量15~30kg/hで溶融混練し、ストランドカットによりペレット状の変性ポリエステルエラストマーを得た。
この変性ポリエステル系エラストマーについて、膨潤度の測定を行った。
【0085】
<積層成形体の製造>
幅320mmの4種5層マルチマニホールド型Tダイスを有する多層フィルム成形機(株式会社プラ技研)を用い、ポリエステル系樹脂層/変性ポリエステル系エラストマーよりなる接着樹脂層/エチレン・ビニルアルコール共重合体層/変性ポリエステル系エラストマーよりなる接着樹脂層/ポリエステル系樹脂層の積層成形体として、5層フィルムを作製した。Tダイスの温度を250℃に設定し、成形速度10m/min.、キャストロール温度30℃、各層の厚みが140μm/40μm/40μm/40μm/140μmの総厚み400μmのフィルムを得た。
得られた5層フィルムについて、接着強度の測定を行った。
【0086】
上記の測定結果を表1に示す。
【0087】
[実施例2~3、比較例1~5]
変性ポリエステル系エラストマーの製造において、表1に記載の配合したこと以外は実施例1と同様に変性ポリエステルエラストマーを得、同様に積層成形体を製造し、それぞれ測定を行った。結果を表1に示す。
【0088】
[比較例6]
接着樹脂層に変性ポリエステル系エラストマーの代りに酸変性ポリエチレンの「モディックH501E」を用いたこと以外は実施例1と同様に積層成形体を製造し、接着強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0089】
【0090】
表1より、本発明の変性ポリエステル系エラストマーの具体例である実施例1~3は、エチレン・ビニルアルコール共重合体及びポリエステル系樹脂層に対して、高い接着性を示しつつ、良好な溶剤耐久性を示すことが分かる。
これに対して、変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメント含有率が本発明の規定範囲よりも低い比較例1,2では、酸変性率も低く、接着性も溶剤耐久性も劣る。
変性ポリエステル系エラストマーのポリアルキレンエーテルグリコールセグメント含有率が本発明の規定範囲よりも高い比較例3~5では、溶剤耐久性が劣る。
酸変性ポリエチレンを用いた比較例6は、接着性が得られない。