(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144085
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】分析装置及び分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220926BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20220926BHJP
G01N 21/27 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
G01N33/543 541Z
G01N35/00 D
G01N21/27 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044933
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】糸長 誠
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅之
【テーマコード(参考)】
2G058
2G059
【Fターム(参考)】
2G058AA09
2G058CC03
2G058GA02
2G058GD01
2G059AA02
2G059AA05
2G059AA10
2G059BB12
2G059BB14
2G059CC16
2G059EE02
2G059GG01
(57)【要約】
【課題】検出対象物質を標識する微粒子の凝集の程度を定量的に評価することができる分析装置を提供する。
【解決手段】制御部9は反応領域を複数の単位区画に分割する。制御部9は、微粒子が存在しない単位区画の実測集計値と、単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と、2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の実測集計値との第1の配列データを作成する。制御部9は、確率理論による確率分布に基づき、第1の配列データと最も近似する、微粒子が存在しない単位区画の理論的集計値と、単微粒子が存在する単位区画の理論的集計値と、2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の理論的集計値との第2の配列データを作成する。制御部9は、第1の配列データと第2の配列データとの定量的な差分を、第1の配列データに基づいて反応領域内の微粒子の個数を演算した計数値で除算して凝集度を算出する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識となる微粒子と結合した検出対象物質が複数固定された反応領域を有する試料分析用ディスクにレーザ光を照射し、前記反応領域からの反射光の受光レベルを検出して受光レベル信号を生成する光ピックアップと、
前記受光レベル信号の波形から、単独で存在している単微粒子を示す単パルス状波形と、隣接する微粒子が干渉距離以内に近接する、整数である2個からn個の近接微粒子を示す(n-1)種類の近接パルス状波形をそれぞれ検出して各検出値を生成するパルス検出回路と、
前記反応領域内の前記微粒子の凝集の程度を示す凝集度を算出する凝集度生成部と、
を備え、
前記凝集度生成部は、
前記反応領域を複数の単位区画に分割し、
前記各検出値に基づいて、前記単パルス状波形が検出された単位区画の個数と、前記(n-1)種類の種類ごとに前記近接パルス状波形が検出された単位区画の個数とを個別に集計して、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と、前記2個からn個の近接微粒子が存在する単位区画の各実測集計値とを生成し、
前記反応領域内の全ての前記単位区画の個数から、前記単パルス状波形が検出された単位区画の個数と、前記(n-1)種類の種類ごとに前記近接パルス状波形が検出された単位区画の個数とを減算することにより、前記単パルス状波形と前記近接パルス状波形とのいずれも検出されなかった単位区画の個数を演算して、前記微粒子が存在しない単位区画の実測集計値を生成し、
前記微粒子が存在しない単位区画の実測集計値と、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と、前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の実測集計値との第1の配列データを作成し、
確率理論による確率分布に基づく理論的集計値の配列データであって、前記第1の配列データと最も近似する、前記微粒子が存在しない単位区画の理論的集計値と、前記単微粒子が存在する単位区画の理論的集計値と、前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の理論的集計値との第2の配列データを作成または選択し、
前記第1の配列データと前記第2の配列データとの定量的な差分を、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の実測集計値とに基づいて前記反応領域内の前記微粒子の個数を演算した計数値で除算する
分析装置。
【請求項2】
前記理論的集計値を算出する際の前記確率分布にポアソン分布を用いる請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記凝集度生成部は、前記反応領域を、3個の近接微粒子が収まる大きさを有する単位区画に分割する請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項4】
光ピックアップが、標識となる微粒子と結合した検出対象物質が複数固定された反応領域を有する試料分析用ディスクにレーザ光を照射し、
前記光ピックアップが、前記反応領域からの反射光の受光レベルを検出して受光レベル信号を生成し、
パルス検出回路が、前記受光レベル信号の波形から、単独で存在している単微粒子を示す単パルス状波形と、隣接する微粒子が干渉距離以内に近接する、整数である2個からn個の近接微粒子を示す(n-1)種類の近接パルス状波形をそれぞれ検出して各検出値を生成し、
前記各検出値を取得する制御部が、
前記反応領域を複数の単位区画に分割し、
前記各検出値に基づいて、前記単パルス状波形が検出された単位区画の個数と、前記(n-1)種類の種類ごとに前記近接パルス状波形が検出された単位区画の個数とを個別に集計して、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と、前記2個からn個の近接微粒子が存在する単位区画の各実測集計値とを生成し、
前記反応領域内の全ての前記単位区画の個数から、前記単パルス状波形が検出された単位区画の個数と、前記(n-1)種類の種類ごとに前記近接パルス状波形が検出された単位区画の個数とを減算することにより、前記単パルス状波形と前記近接パルス状波形とのいずれも検出されなかった単位区画の個数を演算して、前記微粒子が存在しない単位区画の実測集計値を生成し、
前記微粒子が存在しない単位区画の実測集計値と、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と、前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の実測集計値との第1の配列データを作成し、
確率理論による確率分布に基づく理論的集計値の配列データであって、前記第1の配列データと最も近似する、前記微粒子が存在しない単位区画の理論的集計値と、前記単微粒子が存在する単位区画の理論的集計値と、前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の理論的集計値との第2の配列データを作成または選択し、
前記第1の配列データと前記第2の配列データとの定量的な差分を、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の実測集計値とに基づいて前記反応領域内の前記微粒子の個数を演算した計数値で除算することにより、前記微粒子の凝集の程度を示す凝集度を算出する
分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原または抗体等の生体物質を分析するための分析装置及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光ディスクに固定された生体物質を検出対象物質として計数する分析装置が記載されている。光ディスクには複数の抗体が固定されている。検出対象物質である抗原が抗体と結合することによって、検出対象物質は光ディスクに固定されている。各抗原には、抗原よりも大きい、ナノビーズと称される微粒子が標識として結合している。分析装置は、光ディスクにレーザ光を照射し、光ディスクからの反射光に基づいてナノビーズの個数を検出することによって、検出対象物質を間接的に計数する。
【0003】
ナノビーズで標識された複数の検出対象物質は、光ディスク上に個々の検出対象物質が他の検出対象物質と十分に離れた状態で固定されているとは限らない。2つまたはそれ以上のナノビーズが極めて近い距離で近接した状態(接触した状態を含む)で光ディスク上に固定されることがある。2つまたはそれ以上のナノビーズが近接していると、反射光の受光レベルを示す受光レベル信号が光学的に互いに干渉する。特許文献1に記載の分析装置は、2つまたはそれ以上のナノビーズが近接して受光レベル信号が互いに干渉しても、ナノビーズを正しく計数するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ディスクの表面を所定の面積の単位区画に分割すると、各単位区画内に、ナノビーズが結合した検出対象物質が固定されている数(即ち、ナノビーズの個数)は、理論的には確率理論による確率分布に従う。従って、本来であれば、各単位区画内のナノビーズの個数(0個、1個、2個…)の分布は、光ディスク上に配置したウェルに検出対象物質を含む試料液を注入して検出対象物質を光ディスクに固定するときの、試料液中の検出対象物質の濃度に依存する。
【0006】
しかしながら、実際には、各単位区画内のナノビーズの個数の分布は、確率理論に反して試料液中の検出対象物質の濃度に正確には依存しない。これは、ナノビーズは凝集しやすい性質を有するため、単位区画内に凝集した状態の2つまたはそれ以上のナノビーズが存在することがあるからである。
【0007】
また、光ディスク上に、検体またはビーズを固定する処理(アッセイ)を実施中に発生するノイズ(以後、アッセイノイズと呼ぶ)を誤ってナノビーズとして計数することもある。例えば、洗浄液または試薬に含まれる塩またはそのほかの成分の析出によるもの、アッセイ処理中に試薬を注入するためのピペットチップが光ディスクに触れ、ビーズがはがれることによるものがアッセイノイズとなることがある。さらに、試薬に含まれる様々なノイズ成分(タンパク質の塊等)が光ディスクに付着し、信号として検出されることがアッセイノイズとなることがある。これらのアッセイノイズが誤ってナノビーズとして計数されることがある。
【0008】
よって、特許文献1に記載の分析装置によってナノビーズ(検出対象物質)を計数すると、凝集したナノビーズまたはアッセイノイズを計数して、検出対象物質を正しく計数できないことがある。
【0009】
検出対象物質を標識する微粒子の凝集の程度を定量的に評価することができれば、微粒子の品質を向上させたり、凝集を抑制するための方法の開発に貢献できたりする。そこで、微粒子の凝集の程度を定量的に評価することができる分析装置及び分析方法の登場が望まれる。本発明は、検出対象物質を標識する微粒子の凝集の程度を定量的に評価することができる分析装置及び分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、標識となる微粒子と結合した検出対象物質が複数固定された反応領域を有する試料分析用ディスクにレーザ光を照射し、前記反応領域からの反射光の受光レベルを検出して受光レベル信号を生成する光ピックアップと、前記受光レベル信号の波形から、単独で存在している単微粒子を示す単パルス状波形と、隣接する微粒子が干渉距離以内に近接する、整数である2個からn個の近接微粒子を示す(n-1)種類の近接パルス状波形をそれぞれ検出して各検出値を生成するパルス検出回路と、前記反応領域内の前記微粒子の凝集の程度を示す凝集度を算出する凝集度生成部とを備える分析装置を提供する。
【0011】
前記凝集度生成部は、前記反応領域を複数の単位区画に分割し、前記各検出値に基づいて、前記単パルス状波形が検出された単位区画の個数と、前記(n-1)種類の種類ごとに前記近接パルス状波形が検出された単位区画の個数とを個別に集計して、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と、前記2個からn個の近接微粒子が存在する単位区画の各実測集計値とを生成し、前記反応領域内の全ての前記単位区画の個数から、前記単パルス状波形が検出された単位区画の個数と、前記(n-1)種類の種類ごとに前記近接パルス状波形が検出された単位区画の個数とを減算することにより、前記単パルス状波形と前記近接パルス状波形とのいずれも検出されなかった単位区画の個数を演算して、前記微粒子が存在しない単位区画の実測集計値を生成する。
【0012】
さらに、前記凝集度生成部は、前記微粒子が存在しない単位区画の実測集計値と、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と、前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の実測集計値との第1の配列データを作成し、確率理論による確率分布に基づく理論的集計値の配列データであって、前記第1の配列データと最も近似する、前記微粒子が存在しない単位区画の理論的集計値と、前記単微粒子が存在する単位区画の理論的集計値と、前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の理論的集計値との第2の配列データを作成または選択し、前記第1の配列データと前記第2の配列データとの定量的な差分を、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の実測集計値とに基づいて前記反応領域内の前記微粒子の個数を演算した計数値で除算する。
【0013】
本発明は、光ピックアップが、標識となる微粒子と結合した検出対象物質が複数固定された反応領域を有する試料分析用ディスクにレーザ光を照射し、前記光ピックアップが、前記反応領域からの反射光の受光レベルを検出して受光レベル信号を生成し、パルス検出回路が、前記受光レベル信号の波形から、単独で存在している単微粒子を示す単パルス状波形と、隣接する微粒子が干渉距離以内に近接する、整数である2個からn個の近接微粒子を示す(n-1)種類の近接パルス状波形をそれぞれ検出して各検出値を生成し、前記各検出値を取得する制御部が、前記反応領域を複数の単位区画に分割し、前記各検出値に基づいて、前記単パルス状波形が検出された単位区画の個数と、前記(n-1)種類の種類ごとに前記近接パルス状波形が検出された単位区画の個数とを個別に集計して、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と、前記2個からn個の近接微粒子が存在する単位区画の各実測集計値とを生成し、前記反応領域内の全ての前記単位区画の個数から、前記単パルス状波形が検出された単位区画の個数と、前記(n-1)種類の種類ごとに前記近接パルス状波形が検出された単位区画の個数とを減算することにより、前記単パルス状波形と前記近接パルス状波形とのいずれも検出されなかった単位区画の個数を演算して、前記微粒子が存在しない単位区画の実測集計値を生成し、前記微粒子が存在しない単位区画の実測集計値と、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と、前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の実測集計値との第1の配列データを作成し、確率理論による確率分布に基づく理論的集計値の配列データであって、前記第1の配列データと最も近似する、前記微粒子が存在しない単位区画の理論的集計値と、前記単微粒子が存在する単位区画の理論的集計値と、前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の理論的集計値との第2の配列データを作成または選択し、前記第1の配列データと前記第2の配列データとの定量的な差分を、前記単微粒子が存在する単位区画の実測集計値と前記2個からn個までの近接微粒子が存在する単位区画の実測集計値とに基づいて前記反応領域内の前記微粒子の個数を演算した計数値で除算することにより、前記微粒子の凝集の程度を示す凝集度を算出する分析方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分析装置及び分析方法によれば、検出対象物質を標識する微粒子の凝集の程度を定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、検出対象物質捕捉ユニットをカートリッジ側から見た平面図である。
【
図2】
図2は、検出対象物質捕捉ユニットを試料分析用ディスク側から見た平面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す検出対象物質捕捉ユニットをA-A線で切断した断面図である。
【
図4】
図4は、カートリッジを試料分析用ディスクから取り外した状態を示す断面図である。
【
図5】
図5は、試料分析用ディスクを破断した状態で示す、試料分析用ディスクの表面に形成されているスパイラル状の凹部と凸部を部分的に示す拡大斜視図である。
【
図6】
図6は、検出対象物質捕捉ユニットに設けられているウェル内の試料分析用ディスクの表面を概念的に示す平面図である。
【
図7A】
図7Aは、ウェルの底面の凸部及び凹部に抗体を固定した状態を示す部分拡大断面図である。
【
図7B】
図7Bは、抗体に検出対象物質が結合した状態を示す部分拡大断面図である。
【
図7C】
図7Cは、検出対象物質に微粒子が結合した状態を示す部分拡大断面図である。
【
図8】
図8は、ウェル内の凹部に複数の微粒子が捕捉されている状態を概念的に示す平面図である。
【
図9】
図9は、第1~第3実施形態の分析装置を示す構成図である。
【
図10】
図10は、単微粒子、2連微粒子、3連微粒子の受光レベル信号の波形の一例を示す波形図である。
【
図11】
図11は、反応領域をメッシュ状の複数の単位区画に分割した状態を示す部分拡大平面図である。
【
図12】
図12は、機能的構成として微粒子計数部を備える第1実施形態の分析装置の制御部を示すブロック図である。
【
図13】
図13は、第1実施形態の分析装置が実行する処理、及び第1実施形態の分析方法を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、微粒子なし、単微粒子、2連微粒子、3連微粒子の実測集計値と理論的集計値の配列データを示す図である。
【
図15】
図15は、検出対象物質のサンプル濃度と、各サンプル濃度で得られる実測集計値に基づく微粒子の計数値、及び各サンプル濃度における理論的集計値に基づく微粒子の計数値との関係を示す図である。
【
図16】
図16は、機能的構成として凝集度生成部を備える第2実施形態の分析装置の制御部を示すブロック図である。
【
図17】
図17は、第2実施形態の分析装置が実行する処理、及び第2実施形態の分析方法を示すフローチャートである。
【
図18】
図18は、微粒子の計数値と凝集度との関係をプロットした一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、第1及び第2実施形態の分析装置及び分析方法について、添付図面を参照して説明する。第1及び第2実施形態の分析装置の構成及び動作を説明する前に、
図1~
図6を用いて、第1及び第2実施形態の分析装置によって分析される光ディスクであって、検出対象物質が表面に固定されている試料分析用ディスクをどのように作製するのかを説明する。
【0017】
[検出対象物質捕捉ユニットの構成]
図1は、検出対象物質が表面に固定されている試料分析用ディスク70を作製するための検出対象物質捕捉ユニット60(以下、捕捉ユニット60)をカートリッジ80側から見た状態を示している。
図2は捕捉ユニット60を試料分析用ディスク70側から見た状態を示している。
図3は、捕捉ユニット60を
図1のA-A線で切断した断面を示している。
図4は、カートリッジ80を試料分析用ディスク70から取り外した状態を示している。
【0018】
図1~
図4に示すように、捕捉ユニット60は、試料分析用ディスク70、カートリッジ80及びシール部材90を備える。試料分析用ディスク70は、例えば、ブルーレイディスク(BD)、DVD、コンパクトディスク(CD)等の光ディスクと同等の円盤形状を有する。試料分析用ディスク70は、例えば、一般的に光ディスクに用いられるポリカーボネート樹脂またはシクロオレフィンポリマー等の樹脂材料で形成されている。なお、試料分析用ディスク70は、上記の光ディスクに限定されるものではなく、他の形態であってもよく、他の所定の規格に準拠した光ディスクを用いることもできる。
【0019】
図5は、試料分析用ディスク70の表面の部分的な拡大図である。
図5に示すように、試料分析用ディスク70の表面には、1本の凸部73と1本の凹部74とが互いに隣接した状態で内周部から外周部に向かってスパイラル状に形成されている。凸部73は光ディスクのランドに相当し、凹部74は光ディスクのグルーブに相当する。
【0020】
スパイラル状に形成された互いに隣接する凸部73及び凹部74の半径方向の各位置における1周が1つのトラックである。即ち、周方向のある位置でレーザ光の照射による凹部74の走査を開始して試料分析用ディスク70が360度回転し、レーザ光が半径方向の位置はずれているものの周方向の同じ位置に至るまでが1つのトラックである。凹部74の半径方向のピッチに相当するトラックピッチは例えば320nmである。
【0021】
図2~
図4に示すように、試料分析用ディスク70は、中心部に形成された中心孔71と、外周部に形成された切欠き72とを有する。切欠き72は試料分析用ディスク70の基準位置を識別するための基準位置識別部である。基準位置識別部を切欠き72以外で形成してもよい。
【0022】
図1に示すように、カートリッジ80は、周方向に形成された複数の円筒状の貫通孔81を有する。複数の貫通孔81は、それぞれの中心が同一円周上に位置するように等間隔に形成されている。
図1~
図4に示すように、カートリッジ80は、中心部に形成された凸部82と、外周部に形成された凸部83とを有する。凸部82を試料分析用ディスク70の中心孔71に挿入し、凸部83を切欠き72に挿入することにより、試料分析用ディスク70にカートリッジ80が位置決めされて両者が一体化される。
【0023】
図3に示すように、シール部材90はカートリッジ80と試料分析用ディスク70との間に配置されている。シール部材90は例えばシリコーンゴム等の弾性変形部材で作製したリング状のパッキンである。シール部材90は各貫通孔81の周囲に配置されている。試料分析用ディスク70にカートリッジ80を取り付けると、シール部材90は、試料分析用ディスク70の表面に形成された凹部74を埋めるように弾性変形する。
【0024】
図1及び
図3に示すように、試料分析用ディスク70にカートリッジ80を取り付けた状態で、捕捉ユニット60は、貫通孔81とシール部材90と試料分析用ディスク70の表面とで形成される円筒状の複数のウェル61を有する。貫通孔81及びシール部材90の内周面はウェル61の内周面を構成し、試料分析用ディスク70の表面はウェル61の底面を構成する。ウェル61は試料液または緩衝液等の溶液を溜めるための容器として機能する。シール部材90によって試料分析用ディスク70の表面にカートリッジ80が密着することによって、ウェル61から溶液が漏れることはほとんどない。
【0025】
図1に示す捕捉ユニット60は8個のウェル61を備えるが、ウェル61は少なくとも1つあればよく、ウェル61の個数は限定されない。
【0026】
図6は、ウェル61内の試料分析用ディスク70の表面を概念的に示している。各ウェル61の底面には、試料分析用ディスク70に形成されている全てのトラックのうちの一部のトラックであり、周方向に部分的な複数のトラックが存在している。各ウェル61の底面の複数のトラックは、厳密にはほぼ円弧状である。
図6は凸部73及び凹部74を拡大して図示しており、各ウェル61内には2万本程度のトラックが存在する。
【0027】
[反応領域の形成方法]
オペレータは、以上のように構成される捕捉ユニット60を用い、抗体62(
図7A参照)を含む緩衝液をウェル61に注入してインキュベートする。すると、
図7Aに示すように、抗体62は、ウェル61の底面の凸部73及び凹部74に固定される。オペレータは、緩衝液を排出してウェル61内を洗浄し、抗原である検出対象物質63(
図7B参照)を含む試料液をウェル61に注入してインキュベートする。すると、
図7Bに示すように、検出対象物質63は、抗体62との抗原抗体反応によって抗体62と特異的に結合する。
【0028】
検出対象物質63は抗原または抗体等の任意の生体物質であり、典型的にはエクソソームである。エクソソームは血液等の体液に存在する。血液を試料とすれば、試料液は血液を含む液体である。エクソソームの大きさは100nm程度である。
【0029】
オペレータは、試料液を排出してウェル61内を洗浄し、標識となる微粒子64(
図7C参照)を含む緩衝液をウェル61に注入してインキュベートする。微粒子64はナノビーズと称されることがある。微粒子64の表面には、検出対象物質63との抗原抗体反応によって特異的に結合する抗体65が固定されている。すると、
図7Cに示すように、微粒子64は検出対象物質63と結合した状態で凹部74に捕捉される。微粒子64の大きさは200nm程度である。
【0030】
なお、
図7Bにおいて、凸部73に固定されている抗体62に検出対象物質63が結合することがあるが、ウェル61内を洗浄することによって凸部73上の検出対象物質63は大方除去される。よって、
図7Cにおいて、ほとんどの微粒子64は凹部74に捕捉される。
【0031】
図8は、ウェル61内の凹部74に複数の微粒子64が捕捉されている状態を示している。複数の微粒子64は、複数のトラックに大方分散して固定されているものの、2つまたはそれ以上の微粒子64が極めて近い距離で近接または接触した状態で凹部74に固定されることがある。
【0032】
オペレータは、微粒子64を含む緩衝液を排出してウェル61内を洗浄する。その後、
図4に示すように、オペレータは、カートリッジ80及びシール部材90を試料分析用ディスク70から取り外す。試料分析用ディスク70の表面には、ウェル61の位置に対応して、検出対象物質63と結合した状態の複数の微粒子64が捕捉されている反応領域66が形成される。
図1に示す捕捉ユニット60を用いることにより、試料分析用ディスク70の表面には、反応領域66が8か所形成される。試料分析用ディスク70は、乾燥の後に、第1及び第2実施形態の分析装置である
図9に示す分析装置100によって分析される。
【0033】
[分析装置の構成及び動作]
図9に示すように、分析装置100は、ターンテーブル1、クランパ2、ターンテーブル駆動部3、ターンテーブル駆動回路4、光ピックアップ駆動回路5、基準位置検出センサ6、ガイド軸7、パルス検出回路8、制御部9、記憶部10、表示部11、光ピックアップ20を備える。ターンテーブル駆動部3は、スピンドルモータによって構成することができる。
【0034】
パルス検出回路8は、一例としてFPGA(Field Programmable Gate Array)である集積回路で構成されている。パルス検出回路8は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)で構成されていてもよく、マイクロプロセッサで構成されていてもよい。制御部9は、CPU(Central Processing Unit)で構成されている。パルス検出回路8と制御部9とが一体化されていてもよい。
【0035】
ターンテーブル1上には、試料分析用ディスク70が、反応領域66が下向きになるように載置されている。クランパ2は、ターンテーブル1に接近または離隔する方向に駆動される。ターンテーブル1上に試料分析用ディスク70が載置された状態でクランパ2がターンテーブル1に接近する方向に駆動されると、試料分析用ディスク70はターンテーブル1とクランパ2とによって保持される。
【0036】
ターンテーブル駆動部3は、ターンテーブル1を試料分析用ディスク70及びクランパ2と共に、回転軸C1回りに回転させる。ターンテーブル駆動回路4は、制御部9による制御に基づき、ターンテーブル駆動部3によるターンテーブル1の回転を制御する。例えば、ターンテーブル駆動回路4は、ターンテーブル1が試料分析用ディスク70及びクランパ2と共に一定の線速度で回転するようターンテーブル駆動部3を制御する。
【0037】
基準位置検出センサ6は試料分析用ディスク70の外周部近傍に配置されている。基準位置検出センサ6は、例えばフォトリフレクタ等の反射型の光センサである。基準位置検出センサ6は、試料分析用ディスク70が回転している状態で試料分析用ディスク70の外周部に検出光6aを照射し、試料分析用ディスク70からの反射光を受光する。
【0038】
基準位置検出センサ6は試料分析用ディスク70の切欠き72を検出して基準位置検出信号Spを生成して、制御部9に供給する。基準位置検出信号Spは、試料分析用ディスク70の1回転ごとにロー(またはハイ)となるパルス信号である。回転している試料分析用ディスク70の切欠き72が基準位置検出センサ6の下方に位置し、検出光6aが切欠き72によって非反射状態となると、ハイからローに立ち下がり、切欠き72が基準位置検出センサ6の下方を過ぎて検出光6aが反射状態となると、ローからハイへと立ち上がる。制御部9に、基準位置検出センサ6が生成するパルス信号とは逆極性のパルス信号が供給されてもよい。
【0039】
基準位置検出センサ6として透過型の光センサであるフォトインタラプタを用いてもよい。この場合、基準位置検出センサ6は、検出光6aが切欠き72を通過するとローからハイへと立ち上がり、検出光6aが試料分析用ディスク70で遮断されるとハイからローに立ち下がる基準位置検出信号Spを生成する。この場合においても、制御部9に、基準位置検出センサ6が生成するパルス信号とは逆極性のパルス信号が供給されてもよい。
【0040】
制御部9は、基準位置検出信号Spに基づいて、試料分析用ディスク70の回転周期及びトラックごとに基準位置を検出する。
【0041】
ガイド軸7は、試料分析用ディスク70と平行に、かつ、試料分析用ディスク70の半径方向に沿って配置されている。試料分析用ディスク70の半径方向は、ターンテーブル1の回転軸C1に直交する方向である。光ピックアップ20はガイド軸7に支持されている。光ピックアップ駆動回路5は、制御部9による制御に基づき、光ピックアップ20をガイド軸7に沿って試料分析用ディスク70の半径方向に移動させる。光ピックアップ20は対物レンズ21を有する。光ピックアップ駆動回路5は、試料分析用ディスク70に照射するレーザ光20aをフォーカス制御するために対物レンズ21を試料分析用ディスク70に接近または離隔する方向に移動させる。
【0042】
光ピックアップ駆動回路5は、レーザ光20aを試料分析用ディスク70の凹部74に照射せるようトラッキング制御する。試料分析用ディスク70がターンテーブル1によって一定の線速度で回転し、レーザ光20aが凹部74にトラッキング制御されながら照射されるので、スパイラル状の凹部74は内周部から外周部に向かってレーザ光20aによって走査される。
【0043】
光ピックアップ20は、試料分析用ディスク70からのレーザ光20aの反射光を受光する。光ピックアップ20は、反射光の受光レベルを検出して受光レベル信号Srを生成して、パルス検出回路8に供給する。
【0044】
パルス検出回路8は、反応領域66からの反射光の受光レベルを検出した受光レベル信号Srの波形に基づいて、他の微粒子64と光学的に干渉する干渉距離以内に近接せず単独で存在している微粒子64と、2つまたはそれ以上の微粒子64が干渉距離以内に近接している微粒子64とを検出する。3つ以上の微粒子64が干渉距離以内に近接している状態は、3つ以上の微粒子64における隣接する2つの微粒子64が干渉距離以内に近接している状態である。また、2つまたはそれ以上の微粒子64が近接している状態には、2つまたはそれ以上の微粒子64が互いに接触している状態が含まれる。
【0045】
他の微粒子64と干渉距離以内に近接せず単独で存在している微粒子64を単微粒子と称することとする。単微粒子を単ビーズと称することがある。2つの微粒子64が干渉距離以内に近接している近接微粒子を2連微粒子、3つの微粒子64が干渉距離以内に近接している近接微粒子を3連微粒子と称することとする。2つまたはそれ以上の近接微粒子を近接ビーズ、2連微粒子及び3連微粒子をそれぞれ2連ビーズ及び3連ビーズと称することがある。
【0046】
図10は、単ビーズ、2連ビーズ、3連ビーズの受光レベル信号Srの波形の一例を示している。受光レベル信号Srは、レーザ光20aが微粒子64に照射されていない状態では、ほぼレベルVmの一定値である。レーザ光20aが単ビーズに照射されると、受光レベル信号Srには、振幅方向として下に凸のパルス状波形である単ビーズ波形Sr1(単パルス状波形)が現れる。単ビーズ波形Sr1は、レベルが、レベルVmから振幅の極小値の位置である極値点PV1まで低下し、その後、レベルVmに戻る波形である。極値点PV1は、パルスの振幅の例えば半値であるレベルVthより十分に小さいレベルVbを有する。
【0047】
パルス検出回路8は、受光レベル信号Srに現れる単ビーズ波形Sr1に基づいて、凹部74に捕捉されている単ビーズを検出する。パルス検出回路8は、単ビーズを検出するときに、レベルVthから極値点PV1までの時間Td1と、極値点PV1からレベルVthまでの時間Tu1とがほぼ同じ時間であるという条件を加えて、単ビーズであるか否かを判定してもよい。
【0048】
レーザ光20aが2連ビーズに照射されると、受光レベル信号Srには2連ビーズ波形Sr2(2連の近接パルス状波形)が現れる。2連ビーズ波形Sr2は、レベルが、レベルVmから極値点PV1まで低下した後に極値点PM1まで上昇し、再び極値点PV2まで低下し、その後、レベルVmに戻る波形である。極値点PM1はレベルVthより十分に小さいレベルを有する。極値点PV2はレベルVbを有する。
【0049】
パルス検出回路8は、受光レベル信号Srに現れる2連ビーズ波形Sr2に基づいて、凹部74に捕捉されている2連ビーズを検出する。パルス検出回路8は、2連ビーズを検出するとき、次の条件を加えて2連ビーズであるか否かを判定してもよい。レベルVthから極値点PV1までの時間Td1と、極値点PV2からレベルVthまでの時間Tu2とがほぼ同じ時間である。さらに、極値点PV1から極値点PM1までの時間Tu1と、極値点PM1から極値点PV2までの時間Td2とがほぼ同じ時間である。
【0050】
レーザ光20aが3連ビーズに照射されると、受光レベル信号Srには3連ビーズ波形Sr3(3連の近接パルス状波形)が現れる。3連ビーズ波形Sr3は、レベルが、レベルVmから極値点PV1まで低下した後に極値点PM1まで上昇し、再び極値点PV3まで低下し、さらに極値点PM2まで上昇して極値点PV2まで低下し、その後、レベルVmに戻る波形である。極値点PM1及びPM2はレベルVthより十分に小さいレベルを有する。極値点PV3はレベルVbを有する。
【0051】
パルス検出回路8は、受光レベル信号Srに現れる3連ビーズ波形Sr3に基づいて、凹部74に捕捉されている3連ビーズを検出する。パルス検出回路8は、3連ビーズを検出するとき、次の条件を加えて3連ビーズであるか否かを判定してもよい。レベルVthから極値点PV1までの時間Td1と、極値点PV2からレベルVthまでの時間Tu2とがほぼ同じ時間である。極値点PV1から極値点PM1までの時間Tu1と、極値点PM1から極値点PV3までの時間Td2とがほぼ同じ時間である。さらに、極値点PV3から極値点PM2までの時間Tu3と、極値点PM2から極値点PV2までの時間Td3とがほぼ同じ時間である。
【0052】
パルス検出回路8は、2連ビーズ及び3連ビーズを検出するのと同様の検出方法で4連またはそれ以上の近接ビーズを検出してもよい。nを2以上の整数として、パルス検出回路8は最大でn連ビーズを検出する。パルス検出回路8は、(n-1)種類の近接パルス状波形を検出し、単パルス状波形と(n-1)種類の近接パルス状波形とを互いに区別する。現実的には、4連またはそれ以上の近接ビーズはほとんど存在しないので、パルス検出回路8は、最大数nを3として、単ビーズと2連ビーズ及び3連ビーズを検出すれば十分である。
【0053】
パルス検出回路8は、単ビーズからn連ビーズまでの各検出値を制御部9に供給する。nを3とすれば、パルス検出回路8は、各反応領域66における各トラックがレーザ光20aによって走査されるときに、単ビーズを検出すれば単ビーズを検出したことを示す第1の検出値を、2連ビーズを検出すれば2連ビーズを検出したことを示す第2の検出値を、3連ビーズを検出すれば3連ビーズを検出したことを示す第3の検出値を制御部9に供給する。
【0054】
図11に示すように、制御部9は、反応領域66をメッシュ状の複数の単位区画Ucに分割し、単位区画Ucごとにパルス検出回路8から供給される検出値を取得する。制御部9は、基準位置検出信号Spに基づいて反応領域66内の周方向の位置を認識しており、光ピックアップ駆動回路5によるトラッキング制御によってレーザ光20aが走査しているトラックを認識しているから、反応領域66を複数の単位区画Ucに分割することができる。
【0055】
図11に示す例では、単位区画Ucは、半径方向の長さが1トラックの凹部74の幅を含む長さを有し、周方向の長さが3連ビーズが収まる程度の長さを有する。単位区画Ucの大きさはこれに限定されず、半径方向の長さが2トラックの凹部74の幅を含む長さを有してもよいし、周方向の長さが4連ビーズまたはそれ以上の近接ビーズが収まる程度の周方向の長さを有してもよい。
【0056】
[第1実施形態の分析装置及び分析方法]
第1実施形態は、検出対象物質63を標識する微粒子64の凝集及びアッセイノイズの影響を回避しながら、単ビーズと2連ビーズからn連ビーズとを、従来よりも正しく計数することができる分析装置及び分析方法を提供することを目的とする。
【0057】
図12に示すように、第1実施形態の分析装置100における制御部9は、機能的な構成として微粒子計数部901を備える。微粒子計数部901は、実集計値配列データ作成部91、理論的集計値配列データ作成部92、理論的集計値決定部93、計数値生成部94、計数値出力部95を有する。
【0058】
図13に示すフローチャートを用いて、制御部9(微粒子計数部901)が実行する具体的な処理を説明する。制御部9は、処理を開始すると、ステップS1にて、パルス検出回路8より単ビーズ及びn連までの近接ビーズの各検出値を取得する。制御部9は、ステップS2にて、1つの反応領域66において、単ビーズからn連ビーズまでの単位区画Ucの実測集計値C1~Cnを演算する。
【0059】
実測集計値C1は、1つの反応領域66内の全ての単位区画Ucの個数Mのうちの、単ビーズが検出された単位区画Ucの個数である。実測集計値C2は、単位区画Ucの個数Mのうちの、2連ビーズが検出された単位区画Ucの個数である。実測集計値C3は、単位区画Ucの個数Mのうちの、3連ビーズが検出された単位区画Ucの個数である。このように、制御部9は、単ビーズが検出された単位区画Ucからn連ビーズが検出された単位区画Ucまで、単位区画Ucの個数を個別に集計する。
【0060】
制御部9は、ステップS3にて、ビーズ(微粒子64)が存在しない単位区画の実測集計値C0を演算する。実測集計値C0は、単位区画Ucの個数Mのうちの、微粒子64が存在しない単位区画Ucの個数である。kを1~nの変数とすれば、実測集計値C0は、個数Mから実測集計値C1~Cnの合計値を減算したM-Σ(Ck)で求められる。制御部9は、ステップS4にて、実測集計値C0~Cnの配列データ(第1の配列データ)を作成する。ステップS1~S4の処理は、実集計値配列データ作成部91で実行される。
【0061】
制御部9は、ステップS2~S4と並行して、ステップS5~S7の処理を実行する。制御部9は、ステップS5にて、単位区画Uc内のビーズ(微粒子64)の密度λを所定の値に設定する。制御部9は、ステップS6にて、ポアソン分布の理論による確率分布に基づき、ビーズが存在しない単位区画Ucと、単ビーズからn連ビーズまでの単位区画Ucの理論的集計値P0~Pnを演算する。ポアソン分布の理論は典型的な確率理論の例である。
【0062】
具体的には、制御部9は、次のポアソン分布の理論による式(1)に基づき、理論的集計値P0~Pnを演算する。ここでは、kは0~nの変数である。eは自然対数の底(ネイピア数)である。
Pk(λ)=M×λk×e-λ/k! …(1)
【0063】
制御部9は、ステップS7にて、理論的集計値P0~Pnの配列データ(第2の配列データ)を作成する。ステップS5~S7の処理は、理論的集計値配列データ作成部92で実行される。
【0064】
制御部9は、ステップS8にて、実測集計値C0~Cnの配列データと、理論的集計値P0~Pnの配列データとの誤差を演算する。一例として、制御部9は、次の式(2)を用いて差分Diffを定量化する。
Diff=(Σk(|Pk(λ)-Ck|2))1/2 …(2)
【0065】
制御部9は、ステップS9にて、差分Diffが最小となる密度λが求められたか否かを判定する。ステップS8及びS9の処理は、理論的集計値決定部93で実行される。差分Diffが最小となる密度λが求められていなければ(NO)、制御部9は、処理をステップS5に戻す。ステップS8の処理を1回実行したのみでは差分Diffが最小となる密度λが求められない。
【0066】
そこで、制御部9は、ステップS5にて新たに密度λの値を設定し、再びステップS5~S8の処理を実行する。例えば、制御部9は、最初に、0に近い極めて小さな値を密度λに設定し、密度λの値を徐々に大きくしていけばよい。理論的集計値決定部93は、差分Diffが最小となる密度λが求められていなければ、新たに密度λの値を設定して、新たに密度λの値を用いて理論的集計値P0~Pnを演算するよう理論的集計値配列データ作成部92を制御する。
【0067】
制御部9が、密度λの値を更新しながらステップS5~S8の処理を繰り返すことにより、差分Diffが最小となる密度λが求められる。ステップS9にて差分Diffが最小となる密度λが求められていれば(YES)、制御部9は、ステップS10にて、差分Diffが最小となる密度λを密度λfixと決定する。ステップS10の処理は、理論的集計値決定部93で実行される。
【0068】
制御部9は、ステップS11にて、密度λfixとしたときの理論的集計値P0~Pnに基づき、1つの反応領域66内のビーズ(微粒子64)の個数(集計個数)を演算してビーズ計数値Vbcを生成する。ステップS11の処理は、計数値生成部94で実行される。
【0069】
ビーズ計数値Vbcは次の式(3)で表される。理論的集計値P0は微粒子64が存在しない単位区画Ucの理論的集計値であるので、式(3)で得られるビーズ計数値Vbcは理論的集計値P1~Pnに基づく集計個数と等価である。
Vbc=Σk(k×Pk(λfix)) …(3)
【0070】
制御部9は、ステップS12にて、ビーズ計数値Vbcを出力して処理を終了させる。ステップS12の処理は、計数値出力部95で実行される。制御部9は、ビーズ計数値Vbcを記憶部10に供給して記憶部10に記憶させる。
図13では図示していないが、制御部9は、オペレータがビーズ計数値Vbcを確認できるよう、ビーズ計数値Vbcを表示部11に表示する。
【0071】
図13は、1つの反応領域66におけるビーズ計数値Vbcの生成及び出力の処理を示している。試料分析用ディスク70に複数の反応領域66を形成した場合には、制御部9は反応領域66ごとに
図13に示す処理を実行する。記憶部10は反応領域66ごとのビーズ計数値Vbcを記憶する。表示部11は反応領域66ごとのビーズ計数値Vbcを表示する。
【0072】
次に、具体例を説明する。ウェル61の直径を6mm、単位区画Ucの大きさを320nm×600nm、1つの反応領域66における単位区画Ucの個数Mを1.47×108個として、1つの反応領域66における実測集計値C0~Cnを求めたところ、以下の値が得られた。実測集計値C0が9.1×107個、実測集計値C1が3.2×107個、実測集計値C2が1.8×107個、実測集計値C3が6.9×106個であった。
【0073】
差分Diffが最小となる密度λfixは0.4566と求められた。このときの理論的集計値P0~Pnは、理論的集計値P0が9.1×107個、理論的集計値P1が3.2×107個、理論的集計値P2が1.8×107個、理論的集計値P3が6.9×106個であった。
【0074】
よって、実測集計値C0~Cnと理論的集計値P0~Pnの配列データは、
図14に示すとおりとなる。このときの、式(2)に基づく差分Diffは14489226.89である。
図14に示すように、単ビーズでは、実測集計値C1は理論的集計値P1より少なく、2連ビーズ及び3連ビーズでは、実測集計値C2及びC3はそれぞれ理論的集計値P2及びP3より多い。
【0075】
2連ビーズ及び3連ビーズで実測集計値C2及びC3がそれぞれ理論的集計値P2及びP3より多いのは、微粒子64の凝集及びアッセイノイズの影響によるものと考えられる。単ビーズで実測集計値C1が理論的集計値P1より少ないのは、本来単ビーズが検出されるべき単位区画Ucにおいて2連ビーズまたは3連ビーズが検出されているからである。
【0076】
制御部9(計数値生成部94)は、実測集計値C1~Cnに基づいてビーズ計数値Vbcを生成する代わりに、実測集計値C0~Cnと最も近似する理論的集計値P0~Pnにおける理論的集計値P1~Pnに基づいてビーズ計数値Vbcを生成する。よって、分析装置100によれば、検出対象物質63を標識する微粒子64の凝集及びアッセイノイズの影響を回避しながら、反応領域66に固定されている微粒子64を従来よりも正しく計数することができる。
【0077】
分析装置100によれば、他の微粒子64と光学的に干渉する干渉距離以内に近接せず単独で存在している微粒子64と、互いに干渉距離以内に近接する2つまたはそれ以上の微粒子64とを、従来よりも正しく計数することができる。
【0078】
図15は、ウェル61に注入する試料液中の検出対象物質63の濃度(サンプル濃度)を、濃度0、1、2、4、8と上昇させたときに、各濃度で得られる実測集計値C1~Cnに基づくビーズ計数値Vbcと、理論的集計値P1~Pnに基づくビーズ計数値Vbcを示している。濃度の単位はa.u.である。濃度0とは、希釈液のみで検出対象物質63を含まない状態である。
【0079】
なお、
図15に示すサンプル濃度は、上記の具体例におけるサンプル濃度の1/100程度の濃度である。よって、ビーズ計数値Vbcは上記の具体例で計算されるビーズ計数値Vbcと比較して格段に小さい。
【0080】
横軸のサンプル濃度をx、縦軸のビーズ計数値Vbcをyとすると、実測集計値C1~Cnに基づいて得られるビーズ計数値Vbcの近似直線は、式(4)で表される。理論的集計値P1~Pnに基づいて得られるビーズ計数値Vbcの近似直線は、式(5)で表される。
y=60637x+31165 …(4)
y=49815x+17469 …(5)
【0081】
式(4)で表される近似直線の直線性を示す値R2は0.9981であり、式(5)で表される近似直線の直線性を示す値R2は0.9983である。直線性を示す値R2は1に近い値であることが好ましい。制御部9が、実測集計値C1~Cnの代わりに理論的集計値P1~Pnに基づいてビーズ計数値Vbcを生成することにより、サンプル濃度を変化させたときの直線性が改善される。
【0082】
濃度0のときのビーズ計数値Vbcは、バックグラウンドノイズを示す。
図15において、理論的集計値P1~Pnに基づいてビーズ計数値Vbcを生成すると、実測集計値C1~Cnに基づいてビーズ計数値Vbcを生成するのと比較して、バックグラウンドノイズは56%程度低減している。式(5)の近似直線の傾きは、式(4)の近似直線の傾きと比較して82%に低減している。しかしながら、バックグラウンドノイズが大きく低減していることから、分析装置100はS/N比が良好で、ノイズの影響を受けにくい。
【0083】
[第2実施形態の分析装置及び分析方法]
第2実施形態は、検出対象物質63を標識する微粒子64の凝集の程度を定量的に評価することができる分析装置及び分析方法を提供することを目的とする。
【0084】
図16に示すように、第2実施形態の分析装置100における制御部9は、機能的な構成として凝集度生成部902を備える。凝集度生成部902において、微粒子計数部901と同一部分には同一符号を付し、その説明を省略することがある。凝集度生成部902は、計数値生成部94及び計数値出力部95の代わりに、凝集度演算部96及び凝集度出力部97を有する。
【0085】
図17に示すフローチャートを用いて、制御部9(凝集度生成部902)が実行する具体的な処理を説明する。
図17において、
図13に示す処理と同一部分には同一符号を付し、その説明を省略することがある。
【0086】
制御部9(凝集度演算部96)は、ステップS10にて、差分Diffが最小となる密度λを密度λfixと決定したら、ステップS21にて、微粒子64の凝集の程度を示す凝集度を演算する。凝集度演算部96は次の式(6)を用いて、微粒子64の凝集の程度を示す凝集度Aggを算出する。式(6)において、Diff(λfix)は密度λfixにおける差分Diffである。
Agg=Diff(λfix)/Σk(k×Ck)
=(Σk(|Pk(λfix)-Ck|2))1/2/Σk(k×Ck) …(6)
【0087】
式(6)より分かるように、凝集度Aggは、実測集計値C0~Cnの配列データと理論的集計値P0~Pnの配列データとの定量的な差分Diff(λfix)を、実測集計値C0~Cnに基づく微粒子64の計数値で除算した値である。実測集計値C0~Cnに基づく微粒子64の計数値は、単ビーズが存在する単位区画の実測集計値C1と、2個からn個までの近接ビーズが存在する単位区画の実測集計値C2~Cnとに基づいて反応領域66内の微粒子64の個数を演算した計数値である。
【0088】
制御部9(凝集度出力部97)は、ステップS22にて、凝集度Aggを出力して処理を終了させる。制御部9は、凝集度Aggを記憶部10に供給して記憶部10に記憶させる。
図17では図示していないが、制御部9は、オペレータが凝集度Aggを確認できるよう、凝集度Aggを表示部11に表示する。
【0089】
図17は、1つの反応領域66における凝集度Aggの生成及び出力の処理を示している。試料分析用ディスク70に複数の反応領域66を形成した場合には、制御部9は反応領域66ごとに
図17に示す処理を実行する。記憶部10は反応領域66ごとの凝集度Aggを記憶する。表示部11は反応領域66ごとの凝集度Aggを表示する。
【0090】
図14に示す具体例において、凝集度Aggを式(6)に基づいて計算すると、凝集度Aggは0.1695となる。
【0091】
ところで、凝集度Aggは、表面に抗体65が固定されている微粒子64を作製する工程のばらつきによってその値が変化する。即ち、微粒子64を作製するときのロットによって凝集度Aggの値がばらつくことがある。そこで、制御部9は、微粒子64を作製するときのロットを識別するロット識別番号に凝集度Aggを対応させて記憶部10に記憶させるのがよい。表示部11は、ロット識別番号に対応させて凝集度Aggを表示するのがよい。
【0092】
このようにすれば、凝集度Aggをできるだけ小さくするよう、微粒子64を作製する工程を改善することができる。また、微粒子64の購入先が複数存在する場合に、凝集度Aggの小さい微粒子64を作製する購入先を選択することができる。
【0093】
図18は、横軸にビーズ計数値Vbcとし、縦軸を凝集度Aggとして、ロットが異なる微粒子64を用いて試料分析用ディスク70を分析したときのビーズ計数値Vbcと凝集度Aggとの関係をプロットした一例を示している。例えば、凝集度Aggが0.08以下であれば凝集度Aggは良好であり、凝集度Aggが0.08を超えれば凝集度Aggが良好でないと判定できる。
【0094】
制御部9は、凝集度Aggが良好であるか否かの判定結果を記憶部10に記憶させてもよい。判定結果は、凝集度Aggが良好であるときに値“0”、凝集度Aggが良好でないときに値“1”である判定値とすることができる。制御部9は、凝集度Aggが良好であるか否かの判定値に基づき、表示部11に判定結果を表示してもよい。
【0095】
[第3実施形態の分析装置及び分析方法]
第3実施形態は、第1実施形態の目的及び第2実施形態の目的との双方を達成することを目的とする。
【0096】
制御部9は、計数値生成部94及び計数値出力部95と並列的に凝集度演算部96及び凝集度出力部97を備える。即ち、第3実施形態の分析装置100は、第1実施形態の微粒子計数部901と第2実施形態の凝集度生成部902との双方を備える構成である。第3実施形態の分析装置100は、ビーズ計数値Vbc及び凝集度Aggを記憶部10に記憶させ、表示部11に表示する。第3実施形態の分析方法は、ビーズ計数値Vbc及び凝集度Aggに基づいて試料分析用ディスク70を分析する。
【0097】
本発明は以上説明した第1~第3実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0098】
図12及び
図16の構成においては、制御部9(理論的集計値配列データ作成部92)が、理論的集計値P0~Pnを演算して配列データを作成している。密度λの値を異ならせたときの理論的集計値P0~Pnの複数セットの配列データを予め作成しておき、記憶部10に記憶しておいてもよい。この場合、理論的集計値決定部93は、記憶部10より読み出した複数セットの配列データから、実測集計値C0~Cnの配列データと最も近似する理論的集計値P0~Pnの配列データを選択する。
【符号の説明】
【0099】
8 パルス検出回路
9 制御部
10 記憶部
11 表示部
20 光ピックアップ
63 検出対象物質
64 微粒子
66 反応領域
70 試料分析用ディスク
73 凸部
74 凹部
91 実集計値配列データ作成部
92 理論的集計値配列データ作成部
93 理論的集計値決定部
94 計数値生成部
95 計数値出力部
96 凝集度演算部
97 凝集度出力部
100 分析装置
901 微粒子計数部
902 凝集度生成部