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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144104
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】物質導入装置及び物質導入ユニット
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220926BHJP
   C12N 15/87 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N15/87 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044965
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100211395
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】中野 優
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA24
4B029BB11
(57)【要約】
【課題】エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術の有用性を向上させる、物質導入装置及び物質導入ユニットを提供する。
【解決手段】本開示に係る物質導入装置は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する物質導入装置であって、物質導入ユニットと、電圧印加部と、を備える。物質導入ユニットは、細胞及び物質を含む細胞懸濁液を収容可能な収容空間を区画する、導電性材料で形成された袋状の収容部と、収容部を対向した位置で挟み込み可能な第1電極及び第2電極からなるセット電極が、収容部の外面に沿う第1方向に間隔を空けて複数配置されて構成される電極群と、を備える。電圧印加部は、電極群のセット電極それぞれの第1電極と第2電極との間に電圧を印加する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する物質導入装置であって、
物質導入ユニットと、
電圧印加部と、を備え、
前記物質導入ユニットは、
前記細胞及び前記物質を含む細胞懸濁液を収容可能な収容空間を区画する、導電性材料で形成された袋状の収容部と、
前記収容部を対向した位置で挟み込み可能な第1電極及び第2電極からなるセット電極が、前記収容部の外面に沿う第1方向に間隔を空けて複数配置されて構成される電極群と、を備え、
前記電圧印加部は、前記電極群の前記セット電極それぞれの前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する、物質導入装置。
【請求項2】
前記収容部の外面うち隣接する前記セット電極の間の露出部分は、絶縁材料で覆われている、請求項1に記載の物質導入装置。
【請求項3】
前記電圧印加部は、前記第1電極と前記第2電極との距離が近づくように、前記第1電極と前記第2電極とを加圧して電圧を印加する通電部を備える、請求項1又は2に記載の物質導入装置。
【請求項4】
前記通電部は、前記収容部の外面に沿って前記第1方向に移動し、前記第1方向に間隔を空けて配置されている前記セット電極に順次接触可能である、請求項3に記載の物質導入装置。
【請求項5】
前記通電部は、ローラを備える、請求項4に記載の物質導入装置。
【請求項6】
前記収容部及び前記電極群を挟んで対向して配置されている規制部を更に備え、
前記規制部は、一のセット電極の前記第1電極と前記第2電極とが前記通電部により加圧された場合に、前記第1方向の他の位置で、前記収容部及び他のセット電極が前記規制部の対向する方向で所定の距離以上に離れないように、前記収容部又は前記他のセット電極と接触して前記収容部の変形を規制する、請求項3から5のいずれか一項に記載の物質導入装置。
【請求項7】
前記収容部と流路で接続される補助収容部を更に備え、
前記補助収容部は、前記第1電極と前記第2電極とが前記通電部により加圧された場合に、前記収容部から前記流路を介して流出した細胞懸濁液を収容する、請求項3から5のいずれか一項に記載の物質導入装置。
【請求項8】
前記物質導入ユニットは、前記物質導入装置から取り外し可能である、請求項1から7のいずれか一項に記載の物質導入装置。
【請求項9】
エレクトロポレーションによる細胞への物質の導入に用いられる物質導入ユニットであって、
前記細胞及び前記物質を含む細胞懸濁液を収容可能な収容空間を区画する、導電性材料で形成された袋状の収容部と、
前記収容部を対向した位置で挟み込み可能な第1電極及び第2電極からなるセット電極が、前記収容部の外面に沿う第1方向に間隔を空けて複数配置されて構成される電極群と、を備える、物質導入ユニット。
【請求項10】
前記収容部の外面うち隣接する前記セット電極の間の露出部分は、絶縁材料で覆われている、請求項9に記載の物質導入ユニット。
【請求項11】
前記収容部は、前記電極群により挟み込まれる上面及び下面以外の側面に、前記細胞懸濁液を前記収容空間に注入可能、又は、前記収容空間から放出可能な、1つ以上のポートを備える、請求項9又は10に記載の物質導入ユニット。
【請求項12】
前記1つ以上のポートは、
前記細胞懸濁液を前記収容空間に注入する方向に前記細胞懸濁液の流れを規定する注入ポートと、
前記細胞懸濁液を前記収容空間から放出する方向に前記細胞懸濁液の流れを規定する放出ポートと、
を含む、請求項11に記載の物質導入ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物質導入装置及び物質導入ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレクトロポレーションによりDNA等の物質を導入した細胞を大量に獲得する技術が知られている。例えば、特許文献1には、エレクトロポレーションを実施するためのウェルを複数備えたエレクトロポレーション装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-14916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の装置では、エレクトロポレーションを実施するためのウェル又はキュベット等の容器の数を増やすことで、1回の処理対象とする細胞懸濁液の総量を増やすことができる反面、複数の容器のそれぞれに、細胞懸濁液を添加し、エレクトロポレーション実施後に、それぞれの容器から導入済み細胞懸濁液を回収する必要があった。そのため、エレクトロポレーションの実施に伴う操作又は作業が煩雑になってしまう。したがって、エレクトロポレーションを実施する細胞懸濁液の総量を変更した場合であっても、細胞懸濁液の総量に応じて操作又は作業が煩雑にならないようにすることで、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術の有用性の向上が求められている。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術の有用性を向上させる、物質導入装置及び物質導入ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する物質導入装置であって、物質導入ユニットと、電圧印加部と、を備え、前記物質導入ユニットは、前記細胞及び前記物質を含む細胞懸濁液を収容可能な収容空間を区画する、導電性材料で形成された袋状の収容部と、前記収容部を対向した位置で挟み込み可能な第1電極及び第2電極からなるセット電極が、前記収容部の外面に沿う第1方向に間隔を空けて複数配置されて構成される電極群と、を備え、前記電圧印加部は、前記電極群の前記セット電極それぞれの前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する、物質導入装置。
【0007】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置では、前記収容部の外面うち隣接する前記セット電極の間の露出部分は、絶縁材料で覆われていることが好ましい。
【0008】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置では、前記電圧印加部は、前記第1電極と前記第2電極との距離が近づくように、前記第1電極と前記第2電極とを加圧して電圧を印加する通電部を備えることが好ましい。
【0009】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置では、前記通電部は、前記収容部の外面に沿って前記第1方向に移動し、前記第1方向に間隔を空けて配置されている前記セット電極に順次接触可能であることが好ましい。
【0010】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置では、前記通電部は、ローラを備えることが好ましい。
【0011】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置は、前記収容部及び前記電極群を挟んで対向して配置されている規制部を更に備え、前記規制部は、一のセット電極の前記第1電極と前記第2電極とが前記通電部により加圧された場合に、前記第1方向の他の位置で、前記収容部及び他のセット電極が前記規制部の対向する方向で所定の距離以上に離れないように、前記収容部又は前記他のセット電極と接触して前記収容部の変形を規制することが好ましい。
【0012】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置は、前記収容部と流路で接続される補助収容部を更に備え、前記補助収容部は、前記第1電極と前記第2電極とが前記通電部により加圧された場合に、前記収容部から前記流路を介して流出した細胞懸濁液を収容することが好ましい。
【0013】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置では、前記物質導入ユニットは、前記物質導入装置から取り外し可能であることが好ましい。
【0014】
本開示の一実施形態に係る物質導入ユニットは、エレクトロポレーションによる細胞への物質の導入に用いられる物質導入ユニットであって、前記細胞及び前記物質を含む細胞懸濁液を収容可能な収容空間を区画する、導電性材料で形成された袋状の収容部と、前記収容部を対向した位置で挟み込み可能な第1電極及び第2電極からなるセット電極が、前記収容部の外面に沿う第1方向に間隔を空けて複数配置されて構成される電極群と、を備える。
【0015】
本開示の一実施形態に係る物質導入ユニットでは、前記収容部の外面うち隣接する前記セット電極の間の露出部分は、絶縁材料で覆われていることが好ましい。
【0016】
本開示の一実施形態に係る物質導入ユニットでは、前記収容部は、前記電極群により挟み込まれる上面及び下面以外の側面に、前記細胞懸濁液を前記収容空間に注入可能、又は、前記収容空間から放出可能な、1つ以上のポートを備えることが好ましい。
【0017】
本開示の一実施形態に係る物質導入ユニットでは、前記1つ以上のポートは、前記細胞懸濁液を前記収容空間に注入する方向に前記細胞懸濁液の流れを規定する注入ポートと、前記細胞懸濁液を前記収容空間から放出する方向に前記細胞懸濁液の流れを規定する放出ポートと、を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本開示に係る物質導入装置及び物質導入ユニットによれば、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術の有用性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施形態に係る物質導入装置の概略構成を示す、概略図である。
図2】第1の実施形態に係る物質導入装置の側面図である。
図3】第2の実施形態に係る物質導入装置の側面図である。
図4】第3の実施形態に係る物質導入装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施形態に係る物質導入装置1について、図面を参照して説明する。
【0021】
各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0022】
本開示の実施形態に係る物質導入装置1は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する。エレクトロポレーションは、細胞及び細胞に導入する物質を含む細胞懸濁液に電気パルス等を印加することにより、細胞の細胞膜に穴をあけ、物質を細胞内に導入する方法である。エレクトロポレーションは、電気穿孔法とも呼ばれる。本実施形態では、細胞懸濁液は、例えば、動物細胞又は大腸菌等の細胞と、遺伝子、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、核酸、タンパク質、低分子化合物、脂質分子、又はリポソーム等の物質とを、緩衝液(バッファ)に懸濁させたものである。
【0023】
(第1の実施形態)
はじめに、図1及び図2を参照して、本開示の第1の実施形態に係る物質導入装置1Aについて説明する。図1は、第1の実施形態に係る物質導入装置1Aの概略構成を示す、概略図である。図2は、第1の実施形態に係る物質導入装置1Aの側面図である。図1に示されるように、物質導入装置1Aは、物質導入ユニット2と、電圧印加部3と、保持部4と、制御部5とを備えている。
【0024】
物質導入ユニット2は、エレクトロポレーションによる細胞への物質の導入に用いられる。物質導入ユニット2は、電極群と、収容部23と、ポート24と、を備えている。電極群は、複数のセット電極20により構成されている。セット電極20は、収容部23を対向した位置で挟み込み可能な第1電極21及び第2電極22からなる。セット電極20は、収容部23の外面に沿う第1方向に間隔を空けて複数(本実施形態では4つのセット電極20A~20D)配置されている。具体的には、セット電極20Aは、第1電極21A及び第2電極22Aからなる。セット電極20Bは、第1電極21B及び第2電極22Bからなる。セット電極20Cは、第1電極21C及び第2電極22Cからなる。セット電極20Dは、第1電極21D及び第2電極22Dからなる。以下、セット電極20の第1電極21及び第2電極が収容部23を挟んで対向する対向方向を、単に「対向方向」と記載する場合がある。以降の説明において、セット電極20A~20Dを特に区別しない場合、単に、セット電極20と総称する。
【0025】
物質導入ユニット2は、物質導入装置1Aから取り外し可能である。より具体的には、図1に示されるように、物質導入ユニット2は、物質導入装置1Aの保持部4に取り付けられることで、物質導入装置1Aに固定される。これにより、エレクトロポレーション実施後、物質導入ユニット2を、物質導入装置1Aから取り外して、エレクトロポレーションにより細胞に物質が導入された導入済みの細胞懸濁液が収容された容器として持ち運ぶことができる。しかしながら、物質導入ユニット2は、物質導入装置1Aと一体として形成されていてもよく、物質導入装置1Aから取り外し可能でなくてもよい。
【0026】
第1電極21A~21Dは、それぞれ板状の電極である。第1電極21A~21Dは、収容部23の、対向方向における一方側の面である上面23Aにおいて第1方向に間隔を空けて並べて配置されている。第1方向は、収容部23の外面に沿う方向であり、本実施形態では、対向方向と直交する一方向(図1の矢印参照)としている。第1電極21A~21Dは、例えば、収容部23の上面23Aに接着固定されている。以降の説明において、第1電極21A~21Dを特に区別しない場合、単に、第1電極21と総称する。第1電極21は、例えば、金属又は導電性ポリマー等、通電可能な材料で形成される。本実施形態の物質導入ユニット2において、全て同じ形状(本実施形態では同一の矩形板状)の4つの第1電極21A~21Dが、収容部23の上面23Aにおいて第1方向に等しい間隔で並べて配置されている。ただし、第1電極21の数は4つに限られず、2以上の任意の自然数とされてもよい。また、第1電極21A~21Dは、それぞれ同一の形状でなくてもよく、異なる大きさであってもよい。さらに、収容部23の上面23Aに第1電極21A~21Dが配置される間隔は、等しくなくてもよい。
【0027】
第2電極22A~22Dは、それぞれ板状の電極である。第2電極22A~22Dは、収容部23の、対向方向における他方側の面である下面23Bにおいて第1方向に間隔を空けて並べて配置されている。第2電極22A~22Dは、例えば、収容部23の下面23Bに接着固定されている。以降の説明において、第2電極22A~22Dを特に区別しない場合、単に、第2電極22と総称する。第2電極22は、例えば、金属又は導電性ポリマー等、通電可能な材料で形成される。本実施形態の物質導入ユニット2において、全て同じ形状(本実施形態では同一の矩形板状)の4つの第2電極22A~22Dが、収容部23の下面23Bにおいて第1方向に等しい間隔で並べて配置されている。ただし、第2電極22の数は4つに限られず、2以上の任意の自然数とされてもよい。また、第2電極22A~22Dは、それぞれ同一の形状でなくてもよく、異なる大きさであってもよい。さらに、収容部23の下面23Bに第2電極22A~22Dが配置される間隔は、等しくなくてもよい。
【0028】
複数の第2電極22のそれぞれは、複数の第1電極21のいずれかと収容部23を挟んで対向している。本実施形態では、図2に示されるように、第2電極22Aが第1電極21Aと収容部23を挟んで対向して配置され、セット電極20Aを構成している。第2電極22Bが第1電極21Bと収容部23を挟んで対向して配置され、セット電極20Bを構成している。第2電極22Cが第1電極21Cと収容部23を挟んで対向して配置され、セット電極20Cを構成している。そして、第2電極22Dが第1電極21Dと収容部23を挟んで対向して配置され、セット電極20Dを構成している。本実施形態では、第1電極21A~21Dと第2電極22A~22Dとが全て同じ形状であって、対向方向に沿って見た平面視で、互いに重複している。ただし、第2電極22が収容部23を挟んで第1電極21と対向することは、第1電極21と第2電極22とが対向方向に沿って見た平面視で完全に重なっていることに限られず、第1電極21及び第2電極22の少なくとも一部が重なっていることも含まれる。また、第1電極21の数と第2電極22の数が異なっていてもよい。つまり、各セット電極20は、収容部23を対向した位置で挟み込み可能な、少なくとも1つの第1電極21と、少なくとも1つの第2電極22と、で構成されていればよい。
【0029】
再び図1を参照して、収容部23は、細胞と細胞に導入する物質とを含む細胞懸濁液を収容するように構成されている。具体的に、収容部23は、細胞懸濁液を収容可能な収容空間23Dを区画している。収容部23は、導電性ポリマー等の導電性材料で形成された袋状の容器である。収容部23は、可撓性を有する。導電性材料は、第1電極21及び第2電極22により挟み込まれることで収容部23の形状が変形するように、第1電極21及び第2電極22の材料よりも柔らかい材料とされる。収容部23の容量は、1回のエレクトロポレーションで処理される細胞懸濁液の量に応じて任意に定められるが、例えば、100ミリリットルである。
【0030】
収容部23の外面としての上面23A及び下面23Bのうち、隣接するセット電極20の間の露出部分は、絶縁材料で覆われていることが好ましい。具体的に、収容部23の上面23Aのうち隣接する第1電極21の間の露出部分は、絶縁材料で覆われていることが好ましい。収容部23の上面23Aは、複数の第1電極21が設置された部分以外の全域を絶縁材料で覆われていることがより好ましい。また、収容部23の下面23Bのうち隣接する第2電極22の間の露出部分は、絶縁材料で覆われていることが好ましい。また、収容部23の下面23Bは、複数の第2電極22が設置された部分以外の全域を絶縁材料で覆われていることがより好ましい。本実施形態では、例えば、収容部23の上面23A及び下面23Bの、第1電極21又は第2電極22が設置された部分以外の部分には、例えばプラスチック、ガラス、シリコン、又はクォーツ等の絶縁材料が張り付けられている。これにより、第1電極21及び第2電極22が設置された部分以外に電圧が印加されることで、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液に電圧が印加され、意図せずに収容部23の収容空間23Dでエレクトロポレーションが実施されることを未然に防ぐことができる。
【0031】
ポート24は、細胞懸濁液を収容部23の収容空間23Dに注入可能、又は収容部23の収容空間23Dから放出可能な筒状部材である。ポート24は、電極群により挟み込まれる収容部23の上面23A及び下面23B以外の側面23Cに設けられる。これにより、ポート24が、エレクトロポレーション実施の際に妨げとなりにくい。また、ポート24が、通電部32A及び32Bが収容部23の上面23A及び下面23Bに沿って第1方向に移動する際に妨げとなりにくい。ポート24は、例えば、開閉式のバルブを備える。かかる場合、ポート24のバルブが開かれることで、収容部23の収容空間23Dへの細胞懸濁液の注入、或いは収容部23の収容空間23Dからの細胞懸濁液の放出が可能となる。
【0032】
ポート24には、注入ポート24Aと、放出ポート24Bと、が含まれていてもよい。注入ポート24A及び放出ポート24Bは、それぞれ逆止弁等を備え、内部を流れる細胞懸濁液の流れを規定する。注入ポート24Aは、細胞懸濁液を収容部23の収容空間23Dに注入する方向に細胞懸濁液の流れを規定する。注入ポート24Aは、エレクトロポレーションが行われる前の細胞懸濁液が収容されている導入前バッグ10と送液チューブで接続されてもよい。放出ポート24Bは、細胞懸濁液を収容部23の収容空間23Dから放出する方向に細胞懸濁液の流れを規定する。放出ポート24Bは、エレクトロポレーションが行われた後の細胞懸濁液が収容される導入済みバッグ11と送液チューブで接続されてもよい。これにより、収容部23の収容空間23Dへの細胞懸濁液の注入及び放出が容易になり、物質導入ユニット2の利便性が更に向上する。本実施形態では、注入ポート24A及び放出ポート24Bは、収容部23の側面23Cのうち、対向方向に沿って見た平面視で、上面23Aに対して同一方向に位置するように、収容部23に設けられている。なお、本実施形態では、細胞及び細胞に導入する物質が予め緩衝液(バッファ)に懸濁された細胞懸濁液が使用されるものとして説明するが、この限りではない。例えば、細胞を含む細胞懸濁液と、細胞に導入する物質とが、収容部23の収容空間23Dに流し込まれるタイミングで混合されてもよく、或いは、別々のタイミングで収容部23の収容空間23Dに流し込まれ、収容部23の収容空間23Dで混合されてもよい。
【0033】
電圧印加部3は、セット電極20A~20Dそれぞれの第1電極21A~21Dと第2電極22A~22Dとの間に電圧を印加する。すなわち、電圧印加部3は、セット電極20ごとに、第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する。換言すれば、電圧印加部3は、複数の第1電極21A~21Dのうちいずれか1つの第1電極21と、複数の第2電極22A~22Dのうち第1電極21と対向する第2電極22との間に電圧を印加する。電圧印加部3は、電源部31と、通電部32A及び32Bとを備える。電源部31と通電部32A及び32Bとは、図1に実線で示されるように、導線等により電力供給可能に接続されている。電源部31は、例えば、蓄電池又は乾電池等であってよい。また、電源部31は、例えば、外部電源より電力供給を受けるためのアダプタ等を備え、外部電源から電力供給を受け付ける構成であってもよい。
【0034】
通電部32A及び32Bは、それぞれ、各セット電極20の第1電極21及び第2電極22と接触して、第1電極21及び第2電極22を電源部31と通電可能に接続する。図1に示される例では、通電部32Aが第1電極21Aに接触し、通電部32Bが第2電極22Aに接触している。これにより、電圧印加部3が第1電極21A及び第2電極22Aの間に所定の電圧を印加することで、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液に電圧が印加され、エレクトロポレーションにより細胞に物質が導入される。
【0035】
物質導入装置1Aにおいて、通電部32A及び32Bがそれぞれ接触する第1電極21及び第2電極22は変更可能である。例えば、物質導入装置1Aは、通電部32A及び通電部32Bが接触する第1電極21及び第2電極22を、第1電極21A及び第2電極22A、第1電極21B及び第2電極22B、第1電極21C及び第2電極22C、第1電極21D及び第2電極22Dの順に変更して、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液に電圧を印加してもよい。換言すれば、本実施形態の物質導入装置1Aでは、通電部32A及び通電部32Bが、第1方向に間隔を空けて配置されている複数(本実施形態では4つ)のセット電極20に順次接触可能である。これにより、複数のセット電極20A~20Dそれぞれに順次電圧が印加される。このように、物質導入装置1Aは、第1電極21A~21D及び第2電極22A~22Dを備え、個別に電圧を印加することで、第1電極21A~21D及び第2電極22A~22Dがそれぞれ1枚の電極であった場合に比べて、電極面の大きさが小さくなるため、1回の電圧印加のために消費する電力を抑制することができる。
【0036】
通電部32A及び32Bは、それぞれ、各セット電極20の第1電極21と第2電極22との距離が近づくように、第1電極21と第2電極22とを加圧して、電圧を印加してもよい。これにより、電圧印加部3は、電圧を印加する際に、通電部32A及び32Bにより第1電極21及び第2電極22を加圧することで、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液を攪拌することができる。これにより、電圧印加部3は、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液の細胞に、より均一に電圧を印加することができる。
【0037】
通電部32A及び32Bは、収容部23の外面に沿って第1方向に移動可能であってもよい。具体的に、通電部32A及び32Bは、それぞれ収容部23の上面23A及び下面23Bに沿って第1方向に移動可能であってもよい。例えば、通電部32A及び32Bが、第1方向に沿って延びたレールに移動可能に取り付けられていてもよい。通電部32A及び32Bが第1方向に移動可能であることで、電圧印加部3は、第1方向に並ぶ第1電極21A~21D及び第2電極22A~22Dに対して、順番に電圧を印加することができる。このように、電圧印加部3は、収容部23に対して電圧を印加する位置を変えることで、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液に対して印加される電圧の偏りを少なくし、より均一に電圧を印加することができる。
【0038】
通電部32A及び32Bは、ローラを備えていてもよい。具体的には、図1に示されるように、通電部32A及び32Bが、収容部23の上面23A及び下面23Bに沿って第1方向に移動可能なローラであって、表面を導電性材料で覆われたローラを備えていてもよい。これにより、通電部32A及び32Bが、収容部23の上面23A及び下面23Bに沿って第1方向に移動する際に、電圧印加部3は、各セット電極20の通電部32A及び32Bが第1電極21及び第2電極22と接触しているときに電圧を印加する。また、通電部32A及び32Bが、隣接するセット電極20の間で収容部23の上面23A及び下面23Bと接触しているときは、通電部32A及び32Bが、収容部23を対向した位置で挟み込み圧力を加えて、収容部23を扱くことができる。したがって、電圧印加部3は、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液に対して、攪拌と電圧印加とを繰り返すことで、細胞懸濁液において細胞の沈殿等により細胞の分布が不均一になることを防ぎ、より均一に細胞への物質の導入を行うことができる。上述した通電部32A及び32Bのローラは、第1方向に回動しながら移動可能であってもよい。このようにすれば、通電部32A及び32Bが第1方向に移動する際の、第1電極21及び第2電極22との摺動摩擦を小さくすることができ、通電部32A及び32B、並びに、第1電極21及び第2電極22の破損等を抑制することができる。
【0039】
保持部4は、物質導入ユニット2を保持する。本実施形態では、保持部4は、第1保持部材41と、第2保持部材42と、を備える。保持部4において、第1保持部材41及び第2保持部材42の一方は、収容部23の上面23A及び下面23Bの一方を支持する。これにより、物質導入ユニット2は、保持部4に保持される。本実施形態では、第2保持部材42が、物質導入ユニット2を、収容部23の下面23B側から支持するように構成されている。すなわち、本実施形態では、物質導入ユニット2は、保持部4の第2保持部材42により支持されることにより、保持部4に保持される。具体的には、保持部4は、第1保持部材41により、収容部23の上面23Aを押圧し、第2保持部材42により、収容部23の下面23Bを押圧して、物質導入ユニット2を挟み込むことができる。ただし、保持部4は、物質導入ユニット2を保持可能な任意の構造とされてもよい。保持部4は、例えばプラスチック、ガラス、シリコン、又はクォーツ等の絶縁材料で形成される。
【0040】
制御部5は、例えば、メモリ51とプロセッサ52とを含む。制御部5として、例えば、エレクトロポレータ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、又はタブレット端末等のコンピュータが使用されてもよい。
【0041】
メモリ51は、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリ等である。メモリ51は、例えば主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。メモリ51は、物質導入装置1の動作に用いられる任意の情報を記憶する。例えば、メモリ51は、システムプログラム、アプリケーションプログラム、又は組み込みソフトウェア等を記憶する。
【0042】
プロセッサ52は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用のプロセッサ等であってもよい。プロセッサ52は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用回路を含んでもよい。
【0043】
制御部5は、図1に破線で示されるように、電圧印加部3と、有線又は無線により通信可能に接続されている。これによって、制御部5は、物質導入装置1の機能を実現させるために、電圧印加部3等の構成要素を制御する。具体的には、制御部5は、通電部32A及び32Bを第1方向に移動させ、通電部32A及び32Bにより各セット電極20の第1電極21及び第2電極22を加圧し、電源部31を制御して、各セット電極20の第1電極21及び第2電極22の間に所定の電圧を印加させることができる。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、図3を参照して、本開示の第2の実施形態に係る物質導入装置1Bについて説明する。図3は、第2の実施形態に係る物質導入装置1Bの側面図である。第2の実施形態では、物質導入装置1Bが規制部6を更に備えている点で、第1の実施形態における物質導入装置1Aと異なっている。以下に、第1の実施形態と異なる点を中心に第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成を有する部位には同じ符号を付す。
【0045】
図3に示されるように、物質導入装置1Bは、物質導入ユニット2、電圧印加部3、保持部4及び制御部5に加えて、規制部6を備えている。
【0046】
規制部6は、収容部23及び電極群(本実施形態では第1電極21A~21D及び第2電極22A~22D)を挟んで対向して配置されている。規制部6は、一のセット電極20の第1電極21及び第2電極22が通電部32A及び32Bにより加圧された場合に、第1方向の他の位置で、収容部23及び他のセット電極20が規制部6の対向する方向で所定の距離以上に離れないように、収容部23の又は他のセット電極20と接触して収容部23の変形を規制する。より具体的に、本実施形態の規制部6は、収容部23及び電極群(本実施形態では第1電極21A~21D及び第2電極22A~22D)を挟んで対向して配置されている2つの板状部材61A及び61Bを含む。2つの板状部材61A及び61Bは、収容部23の上面23A及び下面23Bのそれぞれと対向している。板状部材61A及び61Bは、収容部23の上面23A及び下面23Bと略等しい大きさとされてもよい。例えば、板状部材61A及び61Bは、それぞれ保持部4の第1保持部材41及び第2保持部材42に取り付けられてもよい。以降の説明において、板状部材61A及び61Bを特に区別しない場合、単に、板状部材61と総称する。本実施形態では、2つの板状部材61A及び61Bが、収容部23又はセット電極20と接触することで、収容部23の変形を規制するが、規制部6の構成は、本実施形態の構成に限定されない。したがって、規制部6のうち、収容部23又はセット電極20と接触する部材は、板状部材でなくてもよい。
【0047】
規制部6は、各セット電極20の第1電極21と第2電極22とが通電部32A及び32Bにより加圧された場合に、収容部23の上面23Aと下面23Bとの距離が所定の距離以上に離れないように、上面23A及び下面23Bのそれぞれを押さえる。図3に示される例では、通電部32A及び32Bが第1電極21A及び第2電極22Aを加圧することで、収容部23に、第1電極21B及び第2電極22Bの近傍で膨らみが生じている。規制部6は、この収容部23の膨らみを外側から押さえることで、通電部32A及び32Bにより加圧された第1電極21及び第2電極22の間に位置する細胞懸濁液が過度に周囲に移動することを抑制し、電圧印加部3により、所望の量の細胞懸濁液に電圧を印加することを可能にする。
【0048】
(第3の実施形態)
次に、図4を参照して、本開示の第3の実施形態に係る物質導入装置1Cについて説明する。図4は、第3の実施形態に係る物質導入装置1Cの側面図である。第3の実施形態では、物質導入装置1Cが補助収容部7を更に備えている点で、第1の実施形態における物質導入装置1Aと異なっている。以下に、第1の実施形態と異なる点を中心に第3の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成を有する部位には同じ符号を付す。また、物質導入装置1A~1Cを特に区別しない場合、単に、物質導入装置1と総称する。
【0049】
図4に示されるように、物質導入装置1Cは、物質導入ユニット2、電圧印加部3、保持部4及び制御部5に加えて、補助収容部7を備えている。
【0050】
補助収容部7は、その内部に細胞及び物質を含む細胞懸濁液を収容可能な収容空間7Aを区画する。補助収容部7は、収容部23と流路71で接続される。例えば、補助収容部7は、送液チューブなどの流路71で、収容部23に設けられたポート24に送液可能に接続されてもよい。かかる場合、ポート24は、細胞懸濁液が収容部23の収容空間23Dと補助収容部7の収容空間7Aとの間を双方向に移動することを許容するポートとされる。
【0051】
補助収容部7は、各セット電極20の第1電極21と第2電極22とが通電部32A及び32Bにより加圧された場合に、収容部23から流路71を介して流出した細胞懸濁液を収容する。その結果、収容部23において、通電部32A及び32Bにより加圧された部分以外の部分が膨らむことを抑えることができる。図4に示される例では、通電部32A及び32Bが第1電極21A及び第2電極22Aを加圧しているが、補助収容部7が収容部23から流路71を介して流出した細胞懸濁液を収容することで、収容部23の他の部分では、膨らみが生じていない。これにより、物質導入装置1Cは、収容部23が膨らむことで、収容部23が破損することを未然に防ぐことができる。さらに、通電部32A及び32Bによる第1電極21A及び第2電極22Aへの加圧が終了後、補助収容部7の収容空間7Aに収容された細胞懸濁液を収容部23の収容空間23Dに戻すことで、収容部23の収容空間23Dの細胞懸濁液が攪拌される。これにより、次回の電圧印加時に、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液に、より均一に電圧を印加することが可能になる。補助収容部7の収容空間7Aに収容された細胞懸濁液を収容部23の収容空間23Dに戻しやすくするために、補助収容部7はシリンジとされてもよい。あるいは、補助収容部7の収容空間7Aに収容された細胞懸濁液を収容部23に戻しやすくするために、補助収容部7は収容部23よりも高い位置に配置されてもよい。
【0052】
以上述べたように、本開示に係る物質導入装置1は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する物質導入装置1であって、物質導入ユニット2と、電圧印加部3と、を備える。物質導入ユニット2は、細胞及び物質を含む細胞懸濁液を収容可能な収容空間23Dを区画する、導電性材料で形成された袋状の収容部23と、収容部23を対向した位置で挟み込み可能な第1電極21及び第2電極22からなるセット電極20が、収容部23の外面に沿う第1方向に間隔を空けて複数配置されて構成される電極群と、を備える。電圧印加部3は、電極群のセット電極20それぞれの第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する。かかる構成によれば、物質導入装置1は、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液の総量を変更した場合であっても、同様の操作によりエレクトロポレーションを実施可能にすることができる。これにより、1回のエレクトロポレーションの処理対象とする細胞懸濁液の総量を増やしても、エレクトロポレーションの実施に伴う操作又は作業が煩雑になりにくい。さらに、物質導入装置1が、第1電極21A~21D及び第2電極22A~22Dを備え、個別に電圧を印加可能であることで、第1電極21A~21D及び第2電極22A~22Dがそれぞれ1枚の電極であった場合に比べて、電極面の大きさが小さくなるため、1回の電圧印加に必要な電力を抑制することができ、ひいては、電圧印加部3の小型化が可能になる。したがって、物質導入装置1は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術の有用性を向上させることができる。
【0053】
本開示に係る物質導入装置1では、収容部23の外面うち隣接するセット電極20の間の露出部分は、絶縁材料で覆われていることが好ましい。かかる構成によれば、物質導入装置1は、第1電極21及び第2電極22が設置された部分以外に電圧が印加されることで、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液に電圧が印加され、意図せずに収容部23の収容空間23Dでエレクトロポレーションが実施されることを未然に防ぐことができる。
【0054】
本開示に係る物質導入装置1では、電圧印加部3は、各セット電極20の第1電極21と第2電極22との距離が近づくように、第1電極21と第2電極22とを加圧して電圧を印加する通電部32を備えることが好ましい。かかる構成によれば、物質導入装置1は、各セット電極20の第1電極21及び第2電極22に電圧を印加する際に、第1電極21及び第2電極22を加圧することで、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液を攪拌することができる。これにより、物質導入装置1は、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液に、より均一に電圧を印加することができる。
【0055】
本開示に係る物質導入装置1では、通電部32は、収容部23の外面に沿って第1方向に移動し、第1方向に間隔を空けて配置されているセット電極20に順次接触可能であることが好ましい。かかる構成によれば、物質導入装置1Aは、収容部23における電圧を印加する位置を変えることで、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液に対して印加される電圧の偏りを少なくし、より均一に電圧を印加することができる。
【0056】
本開示に係る物質導入装置1では、通電部32は、ローラを備えることが好ましい。かかる構成によれば、通電部32A及び32Bが第1方向に移動する際の、第1電極21及び第2電極22との摺動摩擦を小さくすることができ、通電部32A及び32B、並びに、第1電極21及び第2電極22の破損等を抑制することができる。
【0057】
本開示の第2の実施形態に係る物質導入装置1Bは、収容部23及び電極群を挟んで対向して配置されている規制部6を更に備え、規制部6は、一のセット電極20の第1電極21と第2電極22とが通電部32により加圧された場合に、第1方向の他の位置で、収容部23及び他のセット電極20が規制部6の対向する方向で所定の距離以上に離れないように、収容部23又は他のセット電極20と接触して収容部23の変形を規制することが好ましい。かかる構成によれば、物質導入装置1Bは、電圧印加部3により各セット電極20の第1電極21及び第2電極22を加圧して電圧を印加する際に、規制部6により収容部23の他の部分の膨らみを抑えることで、各セット電極20の第1電極21及び第2電極22の間に位置する細胞懸濁液が過度に周囲に移動することを抑制し、所望の量の細胞懸濁液に電圧を印加することができる。
【0058】
本開示の第3の実施形態に係る物質導入装置1Cは、収容部23と流路71で接続される補助収容部7を更に備え、補助収容部7は、第1電極21と第2電極22とが通電部32により加圧された場合に、収容部23から流路71を介して流出した細胞懸濁液を収容することが好ましい。かかる構成によれば、物質導入装置1Cは、電圧印加部3により各セット電極20の第1電極21及び第2電極22を加圧して電圧を印加する際に、補助収容部7に収容部23から流路71を介して流出した細胞懸濁液を収容することで、収容部23が膨らむことを抑制し、収容部23が破損することを未然に防ぐことができる。
【0059】
本開示に係る物質導入装置1では、物質導入ユニット2は、物質導入装置1から取り外し可能であることが好ましい。かかる構成によれば、エレクトロポレーション実施後、物質導入ユニット2を、物質導入装置1から取り外して、導入済みの細胞懸濁液が収容された容器として持ち運ぶことができる。
【0060】
本開示に係る物質導入ユニット2は、エレクトロポレーションによる細胞への物質の導入に用いられる物質導入ユニット2であって、細胞及び物質を含む細胞懸濁液を収容可能な収容空間を区画する、導電性材料で形成された袋状の収容部23と、収容部23を対向した位置で挟み込み可能な第1電極21及び第2電極22からなるセット電極20が、収容部23の外面に沿う第1方向に間隔を空けて複数配置されて構成される電極群と、を備える。かかる構成によれば、物質導入ユニット2は、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液の総量を変更した場合であっても、同様の操作によりエレクトロポレーションを実施可能にすることができる。これにより、1回のエレクトロポレーションの処理対象とする細胞懸濁液の総量を増やしても、エレクトロポレーションの実施に伴う操作又は作業が煩雑になりにくい。さらに、物質導入ユニット2が、第1電極21A~21D及び第2電極22A~22Dを備え、個別に電圧を印加可能であることで、第1電極21A~21D及び第2電極22A~22Dがそれぞれ1枚の電極であった場合に比べて、電極面の大きさが小さくなるため、1回の電圧印加に必要な電力を抑制することができる。したがって、物質導入ユニット2は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術の有用性を向上させることができる。
【0061】
本開示に係る物質導入ユニット2では、収容部23の外面うち隣接するセット電極20の間の露出部分は、絶縁材料で覆われていることが好ましい。かかる構成によれば、物質導入ユニット2は、第1電極21及び第2電極22が設置された部分以外に電圧が印加されることで、収容部23の収容空間23Dに収容された細胞懸濁液に電圧が印加され、意図せずに収容部23の収容空間23Dでエレクトロポレーションが実施されることを未然に防ぐことができる。
【0062】
本開示に係る物質導入ユニット2では、収容部23は、電極群により挟み込まれる上面23A及び下面23B以外の側面23Cに、細胞懸濁液を収容部23の収容空間23Dに注入可能、又は、収容部23の収容空間23Dから放出可能な、1つ以上のポート24を備えることが好ましい。かかる構成によれば、ポート24が、エレクトロポレーションの妨げとなりにくい。
【0063】
本開示に係る物質導入ユニット2では、1つ以上のポート24は、細胞懸濁液を収容部23の収容空間23Dに注入する方向に細胞懸濁液の流れを規定する注入ポート24Aと、細胞懸濁液を収容部23の収容空間23Dから放出する方向に細胞懸濁液の流れを規定する放出ポート24Bと、を含むことが好ましい。かかる構成によれば、収容部23の収容空間23Dへの細胞懸濁液の注入及び放出が容易になり、物質導入ユニット2の利便性が更に向上する。
【0064】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが可能であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段又は各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0065】
例えば、上述した実施形態において、物質導入装置1が制御部5を備え、制御部5により電圧印加部3の電源部31及び通電部32が制御されるものとして説明された。しかしながら、物質導入装置1は、制御部5を備えずに、人間により、電源部31及び通電部32が制御されてもよい。これにより、物質導入装置1の製造コストを抑え、物質導入装置1を安価で提供することができる。
【符号の説明】
【0066】
1(1A、1B、1C) 物質導入装置
2 物質導入ユニット
20(20A、20B、20C、20D) セット電極
21(21A、21B、21C、21D) 第1電極
22(22A、22B、22C、22D) 第2電極
23 収容部
23A 上面
23B 下面
23C 側面
23D 収容空間
24 ポート
24A 注入ポート
24B 放出ポート
3 電圧印加部
31 電源部
32(32A、32B) 通電部
4 保持部
41 第1保持部材
42 第2保持部材
5 制御部
51 メモリ
52 プロセッサ
6 規制部
61(61A、61B) 板状部材
7 補助収容部
7A 収容空間
71 流路
10 導入前バッグ
11 導入済みバッグ
図1
図2
図3
図4