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特開2022-144113ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144113
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20220926BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20220926BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K7/14
C08G69/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044981
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土井 悠
(72)【発明者】
【氏名】牧口 航
(72)【発明者】
【氏名】西野 浩平
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
【テーマコード(参考)】
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4J001DA01
4J001EB36
4J001EB37
4J001EC08
4J001EC14
4J001EE76D
4J001FB03
4J001FC06
4J001FD05
4J001GA12
4J001GB12
4J001GB16
4J001GC05
4J001JA04
4J001JA07
4J001JB02
4J001JB06
4J001JB07
4J001JB21
4J002CL031
4J002DD057
4J002DD067
4J002DD077
4J002DD087
4J002DG047
4J002DL006
4J002EG047
4J002EG077
4J002EG107
4J002GK00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】酸性基を有する収束剤または表面処理剤によって処理されたガラス繊維を添加したときの流動性の低下を抑制し得るポリアミド樹脂組成を提供すること。
【解決手段】ポリアミド樹脂と、表面処理剤または収束剤を含むガラス繊維と、を含むポリアミド樹脂組成物。前記表面処理剤または収束剤は、酸性基を有し、前記ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂であって、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含み、前記ジアミンに由来する成分単位(b)は、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満の、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して20質量%以上80質量%以下のポリアミド樹脂と、
ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して15質量%以上70質量%以下の、表面処理剤または収束剤を含むガラス繊維と、を含み、
前記表面処理剤または収束剤は、酸性基を有し、
前記ポリアミド樹脂は、
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂であって、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含み、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)は、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下の、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満の、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)と、
を含む、
ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記表面処理剤または収束剤が有する前記酸性基は、カルボキシ基、酸無水物基、またはエステル基である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂は、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して15モル%以上45モル%未満の、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)を含む、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)は、直鎖状のアルキレンジアミンまたは分岐鎖状のアルキレンジアミンに由来する成分単位を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記直鎖状のアルキレンジアミンまたは分岐鎖状のアルキレンジアミンは、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、および2-メチル-1,8-オクタンジアミンからなる群から選択されるジアミンである、
請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸は、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸である、
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
車載部材用の樹脂組成物である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む、
ポリアミド成形体。
【請求項9】
車載部材である、
請求項8に記載のポリアミド成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂組成物は、成形加工性、機械的物性および耐薬品性に優れていることから、衣料用、産業資材用、自動車、電気・電子用および工業用などの種々の部品の材料として広く用いられている。
【0003】
これらの用途に用いるポリアミド樹脂組成物には、それぞれの用途に応じた特性を発現するため、様々な添加物が添加される。たとえば、ポリアミド樹脂組成物の耐衝撃性や剛性を高めるため、ガラス繊維などの強化材を配合することは公知である。
【0004】
上記ガラス繊維は、ポリアミド樹脂への分散性を高めるなどの目的のため、収束剤や表面処理剤による処理をされていることもある。たとえば、特許文献1には、20~60質量%の不飽和ジカルボン酸またはカルボン酸無水物、20~75質量%のアクリル酸メチル、および5~20質量%のメタクリル酸メチルが共重合してなる共重合化合物と、アミノシランと、ポリウレタン樹脂とを含有し、重量平均分子量が10000~60000であるガラス繊維集束剤が記載されている。特許文献1には、上記集束剤は、ガラス繊維を添加したポリアミド樹脂の機械的強度(特には引張強度)を高め得ると記載されている。
【0005】
また、ポリアミド樹脂の原料を変更してポリアミド樹脂の物性を変化させる試みが行われている。たとえば、特許文献2および特許文献3には、ジアミン成分とジカルボン酸成分とを重縮合させることによるポリアミドの製造に用いるジアミン成分として、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを用いたポリアミド樹脂が記載されている。特許文献2には、当該文献に記載されたポリアミド樹脂は透明性が高いと記載されており、特許文献3には、当該文献に記載されたポリアミド樹脂はガラス転移点が高く、結晶化能力が向上していると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-231452号公報
【特許文献2】特開昭49-55796号公報
【特許文献3】特開2017-75303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引用文献1に記載の収束剤は、不飽和ジカルボン酸またはカルボン酸無水物に由来するカルボキシル基を有する。そして、本発明者らの新たな知見によると、上記カルボキシル基を有する収束剤により処理されたガラス繊維をポリアミド樹脂組成物に添加すると、ポリアミド樹脂組成物の流動性が低下してしまうことがあった。上記の流動性の低下は、他の酸性基を有する収束剤または表面処理剤によって処理されたガラス繊維をポリアミド樹脂組成物に添加したときにもみられた。
【0008】
これらの事情に鑑み、本発明は、酸性基を有する収束剤または表面処理剤によって処理されたガラス繊維を添加したときの流動性の低下を抑制し得るポリアミド樹脂組成物、および当該ポリアミド樹脂組成物を含むポリアミド成形体を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に関するポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して20質量%以上80質量%以下のポリアミド樹脂と、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して15質量%以上70質量%以下の、表面処理剤または収束剤を含むガラス繊維と、を含む。前記表面処理剤または収束剤は、酸性基を有し、前記ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂であって、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含み、前記ジアミンに由来する成分単位(b)は、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下の、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満の、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)と、を含む。
【0010】
本発明の他の実施形態に関するポリアミド成形体は、前記ポリアミド樹脂組成物を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸性基を有する収束剤または表面処理剤によって処理されたガラス繊維を添加したときの流動性の低下を抑制し得るポリアミド樹脂組成物、および当該ポリアミド樹脂組成物を含むポリアミド成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.第1の実施形態
本発明の第1の実施形態は、ポリアミド樹脂組成物に関する。
【0013】
上記ポリアミド樹脂組成物は、樹脂成分の主成分がポリアミド樹脂である樹脂組成物である。主成分であるとは、樹脂成分のうちポリアミド樹脂が占める割合が50質量%以上であることを意味する。樹脂成分のうちポリアミド樹脂が占める割合は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。樹脂成分のうちポリアミド樹脂が占める割合の上限は特に限定されないが、100質量%以下とすることができ、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0014】
上記ポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂の割合は、上記ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して20質量%以上80質量%であることが好ましい。
【0015】
1-1.ポリアミド樹脂
上記ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂であり得る。このとき、ポリアミド樹脂の融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)を上記範囲とするため、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含むことが好ましく、ジアミンに由来する成分単位(b)は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下の、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、上記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満の、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b1)と、を含むことが好ましい。
【0016】
[ジカルボン酸に由来する成分単位(a)]
ポリアミド樹脂が、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)として、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含むと、融点(Tm)および結晶性を十分に高めることができる。
【0017】
芳香族ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸およびそれらのエステルが含まれる。脂環式ジカルボン酸の例には、シクロヘキサンジカルボン酸およびそのエステルが含まれる。中でも、結晶性が高く、耐熱性が高いポリアミド樹脂を得る観点などから、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位を含むことが好ましく、テレフタル酸に由来する成分単位を含むことがより好ましい。
【0018】
芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位(好ましくは芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位、より好ましくはテレフタル酸に由来する成分単位)の含有量は、特に限定されないが、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して50モル%以上100モル%以下であることが好ましい。上記成分単位の含有量が50モル%以上であると、ポリアミド樹脂の結晶性を高めやすい。上記成分単位の含有量は、同様の観点から、70モル%以上100モル%以下であることがより好ましい。
【0019】
本実施形態において、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸に由来する成分単位(a1)を含むことが好ましい。これらの成分単位(a1)は、たとえばイソフタル酸とは異なり、ポリアミドの結晶性を高めることができる。これらの成分単位(a1)の含有量は、ポリアミド樹脂の結晶性を確保する観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して20モル%より多く100モル%以下とする。ポリアミド樹脂の結晶性をより高める観点から、これらの成分単位(a1)の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して45モル%以上100モル%以下であることが好ましく、50モル%以上99モル%以下であることがより好ましく、80モル%より多く99モル%以下であることがさらに好ましく、90モル%より多く99モル%以下であることが特に好ましい。
【0020】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分単位(a1)以外の芳香族カルボン酸成分単位(a2)または炭素原子数4以上20以下の脂肪族ジカルボン酸成分単位(a3)を含んでいてもよい。ただし、樹脂の結晶性を損なわないようにする観点からは、イソフタル酸に由来する成分単位やアジピン酸以外の炭素原子数4以上18以下の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は少ないこと、具体的にはジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0021】
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位(a2)の例には、イソフタル酸、および2-メチルテレフタル酸に由来する成分単位などが含まれる。これらの中でも、イソフタル酸に由来する成分単位が好ましい。これらの成分単位(a2)の含有量は、ポリアミド樹脂の結晶性を確保する観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して1モル%以上50モル%以下であることが好ましく、1モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、1モル%以上10モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以上5モル%以下であることが特に好ましい。
【0022】
脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位(a3)は、炭素原子数4以上20以下のアルキレン基を有する脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位であり、炭素原子数6以上12以下のアルキレン基を有する脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であることが好ましい。上記脂肪族ジカルボン酸の例には、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸成分単位などが含まれる。これらの中でも、アジピン酸およびセバシン酸が好ましい。これらの成分単位(a3)の含有量は、ポリアミド樹脂の結晶性を確保する観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して0モル%以上40モル%以下であることが好ましく、0モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、1モル%以上10モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以上5モル%以下であることが特に好ましい。
【0023】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、上述した成分単位(a1)、成分単位(a2)、および成分単位(a3)の外に、少量のトリメリット酸またはピロメリット酸のような三塩基性以上の多価カルボン酸成分単位をさらに含有していてもよい。このような多価カルボン酸成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して、0モル%以上5モル%以下とすることができる。
【0024】
[ジアミンに由来する成分単位(b)]
ポリアミド樹脂が、ジアミンに由来する成分単位(b)として、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)に加えて、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)を含むと、ガラス転移温度(Tg)を十分に高めることができる。
【0025】
すなわち、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)は、非直線性の構造を有するため、ポリアミド樹脂の分子鎖の運動性を低下させる。そのため、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)は、当該成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を、当該成分単位(b2)を有さないポリアミド樹脂よりも高くし得る。また、これにより、当該成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂は、高温・高湿純環境下においても高い機械的強度を有し、かつこの高い機械的強度を長時間にわたって維持できると考えられる。
【0026】
さらには、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)は、当該成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂の融点(Tm)を、当該成分単位(b2)を有さないポリアミド樹脂よりも適度に低下させ得る。これにより、当該成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂は、射出成型時の流動性が高く、かつ成形加工性が高い。
【0027】
ところで、本発明者らの知見によれば、酸性基を有する収束剤または表面処理剤によって処理されたガラス繊維を添加したときの流動性の低下は、ポリエステル樹脂組成物の溶融地に上記収束剤または表面処理剤が有する酸性基がポリエステル樹脂のアミノ末端と反応してしまうことにより生じると考えられる。つまり、上記反応は、ポリエステル樹脂とガラス繊維とを、上記収束剤または表面処理剤を介して結合させてしまい、ポリエステル樹脂のみかけの分子量を大きくしてしまう。そして、上記みかけの分子量の増大により、ポリエステル樹脂組成物の流動性が低くなると考えられる。これに対し、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)は、ポリエステル樹脂の分子鎖を屈曲させて適度に立体障害を生じさせ、上記収束剤または表面処理剤が有する酸性基とポリエステル樹脂のアミノ末端との反応を阻害する。これにより、ポリエステル樹脂のみかけの分子量の増大を抑制して、酸性基を有する収束剤または表面処理剤を用いたときのポリエステル樹脂組成物の流動性の低下が抑制されると考えられる。
【0028】
また、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)は、ポリエステル樹脂の分子鎖を屈曲させて、ポリエステル樹脂組成物の内部への水分の浸入を抑制する。これにより、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)は、ポリエステル樹脂を加水分解しにくくさせる。これにより、ポリエステル樹脂組成物の成形体の、特には高温・高湿潤環境下における機械的強度(特には引張強度)の低下を抑制すると考えられる。
【0029】
また、上記ポリアミド樹脂は、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)による結晶性を有するため、射出成型時の流動性および機械的強度が高い。さらには、上記ポリアミド樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が高いため高温域でも高い機械的強度を有し、かつこれらの高い機械的強度を保持しやすいものと考えられる。
【0030】
成分単位(b1)の原料となる炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンの炭素原子数は、樹脂のTgを低下させにくくする観点から、4以上10以下であることがより好ましい。
【0031】
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンは、直鎖状のアルキレンジアミンを含んでもよいし、分岐鎖状のアルキレンジアミンを含んでもよい。樹脂の結晶性を高める観点からは、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンは、直鎖状のアルキレンジアミンを含むことが好ましい。すなわち、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位は、直鎖状のアルキレンジアミンに由来する成分単位を含むことが好ましい。
【0032】
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、および1,10-デカンジアミンなどを含む直鎖状のアルキレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、および2-メチル-1,8-オクタンジアミンなどを含む分岐鎖状のアルキレンジアミンが含まれる。これらの中でも、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、および2-メチル-1,8-オクタンジアミンが好ましく、1,6-ジアミノヘキサンおよび1,10-デカンジアミンが好ましい。これらのアルキレンジアミンは、1種であってもよいし、2種以上あってもよい。
【0033】
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下であることが好ましい。上記含有量が50モル%より多いと、ポリアミド樹脂の結晶性を十分に高めて、樹脂の射出成型時の流動性や機械的強度をより高めることができる。上記含有量が90モル%以下であると、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)の含有量を高めることができる。これにより、ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高めて、高温域における機械的強度を高め、かつポリアミド樹脂の(Tm)を適度に下げて、成形加工性を高めることができる。
【0034】
一方で、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満であることが好ましい。上記含有量が10モル%以下であると、ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高めて、高温域における機械的強度を高め、かつポリアミド樹脂の(Tm)を適度に下げて、成形加工性を高めることができる。上記含有量が50モル%未満であると、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)の含有量を高めることができる。これにより、ポリアミド樹脂の結晶性を十分に高めて成形体の機械的強度をより高めることができるほか、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)によるポリアミド樹脂そのものの流動性の低下を抑制することができる。
【0035】
上記観点から、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下であることが好ましく、55モル%以上85モル%以下であることがより好ましく、60モル%以上80モル%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
また、上記観点から、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満であることが好ましく、15モル%以上45モル%未満であることがより好ましく、20モル%以上40モル%以下であることがさらに好ましく、20モル%以上38モル%以下であることがさらに好ましく、20モル%以上33モル%以下であることが特に好ましい。
【0037】
ジアミンに由来する成分単位(b)は、本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミンに由来する成分単位(b3)をさらに含んでもよい。他のジアミンの例には、芳香族ジアミンや脂環式ジアミンが含まれる。他のジアミンに由来する成分単位(b3)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%以下でありうる。
【0038】
ポリアミド樹脂は、コンパウンドや成形時の熱安定性を高めたり、機械的強度をより高めたりする観点から、少なくとも一部の分子の末端基が末端封止剤で封止されていてもよい。末端封止剤は、例えば分子末端がカルボキシル基の場合は、モノアミンであることが好ましく、分子末端がアミノ基である場合は、モノカルボン酸であることが好ましい。
【0039】
モノアミンの例には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、およびブチルアミンなどを含む脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、およびジシクロヘキシルアミンなどを含む脂環式モノアミン、ならびに、アニリン、およびトルイジンなどを含む芳香族モノアミンなどが含まれる。モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸およびリノ-ル酸などを含む炭素原子数2以上30以下の脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸およびフェニル酢酸などを含む芳香族モノカルボン酸、ならびにシクロヘキサンカルボン酸などを含む脂環式モノカルボン酸が含まれる。芳香族モノカルボン酸および脂環式モノカルボン酸は、環状構造部分に置換基を有していてもよい。
【0040】
[物性]
上記ポリアミド樹脂は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)を280℃以上330℃以下とすることができ、かつDSCで測定されるガラス転移温度(Tg)が135℃以上180℃以下とすることができる。
【0041】
上記ポリアミド樹脂の融点(Tm)が280℃以上であると、ポリアミド樹脂組成物や成形体の高温域における機械的強度や耐熱性などが損なわれにくく、330℃以下であると、成形温度を過剰に高くする必要がないため、ポリアミド樹脂組成物の成形加工性が良好となりやすい。上記観点から、ポリアミド樹脂の融点(Tm)は、290℃以上330℃以下であることがより好ましく、300℃以上330℃以下であることがさらに好ましい。
【0042】
上記ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)が135℃以上であると、ポリアミド樹脂組成物や成形体の耐熱性が損なわれにくく、同時に高温域における機械的強度をより高くすることができる。上記ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)が180℃以下であると、ポリアミド樹脂組成物の成形加工性が良好となりやすい。上記観点から、上記ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、140℃以上170℃以下であることがより好ましい。
【0043】
上記ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)は、10mJ/mg以上であることが好ましい。上記ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)が10mJ/mg以上であると、結晶性を有するため、射出成型時の流動性や機械的強度を高めやすい。上記ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)は、同様の観点から、15mJ/mg以上であることがより好ましく、20mJ/mg以上であることがさらに好ましい。なお、上記ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)の上限値は、特に制限されないが、成形加工性を損なわないようにする観点では、90mJ/mgでありうる。
【0044】
なお、ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定することができる。
【0045】
具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、360℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで360℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)を結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。融解熱量(ΔH)は、JIS K7122に準じて、1度目の昇温過程での結晶化の吸熱ピークの面積から求める。
【0046】
上記ポリアミド樹脂の融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)および融解熱量(ΔH)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の構造、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量や炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有比、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンの炭素原子数によって調整することができる。
【0047】
また、上記ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)を高くする場合、成分単位(b2)の含有量や含有比(ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対する成分単位(b2)の比率)は低くすることが好ましい。一方、上記ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高くし、融点(Tm)を低くする場合、例えば成分単位(b2)の含有量や含有比(ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対する成分単位(b2)の比率)は高くすることが好ましい。
【0048】
上記ポリアミド樹脂の、温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は、0.6dl/g以上1.5dl/g以下であることが好ましい。上記ポリアミド樹脂の極限粘度[η]が0.6dl/g以上であると、成形体の機械的強度(靱性など)を十分に高めやすく、1.5dl/g以下であると、樹脂組成物の成形時の流動性が損なわれにくい。上記ポリアミド樹脂の極限粘度[η]は、同様の観点から、0.8dl/g以上1.2dl/g以下であることがより好ましい。極限粘度[η]は、上記ポリアミド樹脂の末端封止量などによって調整することができる。
【0049】
上記ポリアミド樹脂の極限粘度は、JIS K6810-1977に準拠して測定することができる。
具体的には、上記ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解して試料溶液とする。この試料溶液の流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して、25±0.05℃の条件下で測定し、得られた値を下記式に当てはめて算出することができる。
[η]=ηSP/[C(1+0.205ηSP)]
【0050】
上記式において、各代数または変数は、以下を表す。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
【0051】
ηSPは、以下の式によって求められる。
ηSP=(t-t0)/t0
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0052】
上記ポリアミド樹脂の末端アミノ基量は、10mmol/kg以上150mmol/kg以下であることが好ましく、15mmol/kg以上130mmol/kg以下であることがより好ましく、20mmol/kg以上100mmol/kg以下であることがさらに好ましい。ポリアミド樹脂の末端アミノ基量が150mmol/kg以上であると、酸性基を有する表面処理剤または収束剤によって処理されたガラス繊維を添加したときの流動性の低下が生じやすいため、上記ポリアミド樹脂を用いることによる流動性の低下の抑制効果が顕著である。上記ポリアミド樹脂の末端アミノ基量が150mmol/kg以下であると、樹脂組成物の流動性を十分に確保することができる。
【0053】
上記末端アミノ基量は、以下の方法にて測定された値である。1gのポリアミド樹脂を35mLのフェノールに溶解させ、2mLのメタノールを混合し、試料溶液とする。そして、チモールブルーを指示薬として、当該試料溶液に対して0.01規定のHCl水溶液を使用した滴定を実施し、末端アミノ基量([NH]、単位:mmol/kg)を特定する。
【0054】
[製造方法]
ポリアミド樹脂は、例えば前述のジカルボン酸と、前述のジアミンとを均一溶液中で重縮合させて製造することができる。具体的には、ジカルボン酸とジアミンとを、国際公開第03/085029号に記載されているように触媒の存在下で加熱することにより低次縮合物を得て、次いでこの低次縮合物の溶融物にせん断応力を付与して重縮合させることで製造することができる。
【0055】
ポリアミド樹脂の極限粘度を調整する観点などから、反応系に前述の末端封止剤を添加してもよい。末端封止剤の添加量により、ポリアミド樹脂の極限粘度[η](または分子量)を調整することができる。
【0056】
末端封止剤は、ジカルボン酸とジアミンとの反応系に添加される。添加量はジカルボン酸の合計量1モルに対して、0.07モル以下であることが好ましく、0.05モル以下であることがより好ましい。
【0057】
1-2.ガラス繊維
上記ポリアミド繊維は、ガラス繊維を含む。
【0058】
上記ガラス繊維の種類は、樹脂の強化用に用いるものなら特に限定されず、チョップドストランドでもよいし、より短繊維長のミルドファイバーなどでもよい。また、上記ガラス繊維の断面形状は、円形でもよいし、楕円形、長円形などの非円形でもよい。
【0059】
上記ガラス繊維の平均繊維長は、樹脂組成物の成形性を高め、および得られる成形体の機械的強度や耐熱性を高める観点から、たとえば1μm以上20mm以下、好ましくは5μm以上10mm以下とし得る。また、上記ガラス繊維のアスペクト比は、例えば5以上2000以下、好ましくは30以上600以下とし得る。
【0060】
ガラス繊維の平均繊維長と平均繊維径は、以下の方法により測定することができる。
1)樹脂組成物を、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液(0.1/0.9体積%)に溶解させた後、濾過して得られる濾過物を採取する。
2)前記1)で得られた濾過物を水に分散させ、光学顕微鏡(倍率:50倍)で任意の300本それぞれの繊維長(Li)と繊維径(di)を計測する。繊維長がLiである繊維の本数をqiとし、次式に基づいて重量平均長さ(Lw)を算出し、これをガラス繊維の平均繊維長とする。
重量平均長さ(Lw)=(Σqi×Li)/(Σqi×Li)
同様に、繊維径がDiである繊維の本数をriとし、次式に基づいて重量平均径(Dw)を算出し、これをガラス繊維の平均繊維径とする。
重量平均径(Dw)=(Σri×Di)/(Σri×Di)
【0061】
上記ガラス繊維の含有量は、特に制限されないが、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、例えば15質量%以上70質量%以下とすることができ、15質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
上記ガラス繊維は、表面処理剤または収束剤を含む。
【0063】
上記表面処理剤または収束剤は、ポリアミド樹脂組成物に配合されるガラス繊維に用いられる公知の表面処理剤または収束剤であればよい。ただし、上記表面処理剤または収束剤は、酸性基を有する。上記酸性基の例には、カルボキシ基、酸無水物基、エステル基およびスルホン酸基を含む。これらのうち、カルボキシ基、酸無水物基、およびエステル基が好ましく、カルボキシ基および酸無水物基がより好ましい。上記エステル基は、カルボン酸エステルに由来する官能基であってもよい。
【0064】
酸性基を有する表面処理剤の例には、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物などの酸無水物基を含むシランカップリング剤などが含まれる。
【0065】
酸性基を有する収束剤の例には、不飽和カルボン酸の単独重合体もしくは共重合体、または不飽和カルボン酸もしくはその無水物と不飽和モノマーとの共重合体、を含む収束剤が含まれる。
【0066】
上記不飽和カルボン酸の例には、アクリル酸、メタクリル酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸およびマレイン酸などが含まれる。上記不飽和カルボン酸の無水物の例には、無水マレイン酸、無水イタコン酸、および無水ドデセニルコハク酸などが含まれる。これらのうち、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸および無水マレイン酸が好ましい。
【0067】
上記不飽和モノマーの例には、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メチルスチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、およびビニルエーテルなどが含まれる。これらのうち、アクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルが好ましく、アクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルの双方を含むことがより好ましい。
【0068】
収束剤が上記不飽和カルボン酸もしくはその無水物と不飽和モノマーとの共重合体を含むとき、上記共重合体の全質量に対する上記不飽和カルボン酸もしくはその無水物の割合は、20質量%以上60質量%以下であることが好ましい。上記割合が20質量%以上であると、酸性基(カルボキシ基)によるポリアミド樹脂との化学的な相互作用を高めることによる、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度の向上効果が顕著である。上記割合が60質量%以下であると、共重合体の分子量(鎖長)を大きくしてポリアミド樹脂との物理的な相互作用を高めることによる、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度の向上効果が顕著である。
【0069】
上記単独重合体または共重合体は、ウレタン樹脂およびエポキシ樹脂などの他の樹脂と組み合わせて用いてもよい。
【0070】
(製造方法)
上記表面処理剤または収束剤を含むガラス繊維は、たとえば、ガラス繊維の製造工程中に、上記表面処理剤または収束剤を、ローラー型アプリケーターなどの公知の方法を用いて繊維ストランドに塗布(付与)し、乾燥させて反応させることにより、得ることができる。
【0071】
上記表面処理剤または収束剤の付着量は、100質量部のガラス繊維に対して、固形分率で0.2質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上2質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上2質量部以下であることがさらに好ましい。上記付着量が0.2質量部以上であると、ガラス繊維の集束性がより向上する。また、上記付着量が2質量部以下であると、樹脂組成物の熱安定性がより向上する。
【0072】
1-3.他の成分
上記ポリアミド樹脂組成物は、公知の他の成分を含んでもよい。
【0073】
他の成分の例には、ガラス繊維以外の強化材、結晶核剤、滑剤、難燃剤、耐腐食性向上剤、ドリップ防止剤、イオン捕捉剤、エラストマー(ゴム)、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類およびリン類など)、耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類、ハロゲン化銅およびヨウ素化合物など)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類およびオギザニリド類など)、他の重合体(ポリオレフィン類、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂およびLCP)などが含まれる。中でも、本発明の樹脂組成物は、成形体の機械的強度を高める観点からは、強化材をさらに含むことが好ましい。
【0074】
上記ガラス繊維以外の強化材の例には、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバーおよびカットファイバーなどの繊維状強化材、ならびに粒状強化材が含まれる。
【0075】
結晶核剤は、成形体の結晶化度を高め得る。結晶核剤の例には、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム、トリス(p-t-ブチル安息香酸)アルミニウム、およびステアリン酸塩などを含む金属塩系化合物、ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、およびビス(4-エチルベンジリデン)ソルビトールなどを含むソルビトール系化合物、ならびに、タルク、炭酸カルシウム、およびハイドロタルサイトなどを含む無機物などが含まれる。これらのうち、成形体の結晶化度をより高める観点から、タルクが好ましい。これらの結晶核剤は、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
結晶核剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上3質量部以下であることがより好ましい。結晶核剤の含有量が上記範囲内であると、成形体の結晶化度を十分に高めやすく、十分な機械的強度が得られやすい。
【0077】
滑剤は、ポリアミド樹脂組成物の射出流動性を高め、かつ、得られる成形体の外観を良好にする。滑剤は、オキシカルボン酸金属塩および高級脂肪酸金属塩などの脂肪酸金属塩とすることができる。
【0078】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成するオキシカルボン酸は、脂肪族オキシカルボン酸であってもよく、芳香族オキシカルボン酸であってもよい。上記脂肪族オキシカルボン酸の例には、α-ヒドロキシミリスチン酸、α-ヒドロキシパルミチン酸、α-ヒドロキシステアリン酸、α-ヒドロキシエイコサン酸、α-ヒドロキシドコサン酸、α-ヒドロキシテトラエイコサン酸、α-ヒドロキシヘキサエイコサン酸、α-ヒドロキシオクタエイコサン酸、α-ヒドロキシトリアコンタン酸、β-ヒドロキシミリスチン酸、10-ヒドロキシデカン酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、およびリシノール酸などの炭素原子数10以上30以下の脂肪族のオキシカルボン酸が含まれる。上記芳香族オキシカルボン酸の例には、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、およびトロバ酸などが含まれる。
【0079】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成する金属の例には、リチウムなどのアルカリ金属、ならびにマグネシウム、カルシウムおよびバリウムなどのアルカリ土類金属が含まれる。
【0080】
これらのうち、上記オキシカルボン酸金属塩は、12-ヒドロキシステアリン酸の金属塩であることが好ましく、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムおよび12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムがより好ましい。
【0081】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する高級脂肪酸の例は、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ベヘン酸、およびモンタン酸などの炭素原子数15以上30以下の高級脂肪酸が含まれる。
【0082】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する金属の例には、カルシウム、マグネシウム、バリウム、リチウム、アルミニウム、亜鉛、ナトリウム、およびカリウムなどが含まれる。
【0083】
これらのうち、上記高級脂肪酸金属塩は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、ベヘン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、およびモンタン酸カルシウムなどであることが好ましい。
【0084】
滑剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.01質量%以上1.3質量%以下であることが好ましい。滑剤の含有量が0.01質量%以上であると、成形時の流動性が高まりやすく、得られる成形品の外観性が高まりやすい。滑剤の含有量が1.3質量%以下であると、滑剤の分解によるガスが成形時に発生し難く、製品の外観が良好になりやすい。
【0085】
1-4.製造方法
上記ポリアミド樹脂組成物は、前述のポリアミド樹脂、および必要に応じて他の成分を、公知の樹脂混練方法、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、またはタンブラーブレンダーで混合する方法、あるいは混合後、さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー、またはバンバリーミキサーで溶融混練した後、造粒または粉砕する方法で製造することができる。
【0086】
2.樹脂組成物の用途
本発明の樹脂組成物は、圧縮成形法、射出成形法、押出成形法などの公知の成形法で成形することにより、各種ポリアミド成形体として用いられる。
【0087】
本発明の樹脂組成物の成形体は、各種用途に用いることができる。そのような用途の例には、ラジエータグリル、リアスポイラー、ホイールカバー、ホイールキャップ、カウルベント・グリル、エアアウトレット・ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、サンルーフ、サンルーフ・レール、フェンダーおよびバックドアなどの自動車用外装部品、シリンダーヘッド・カバー、エンジンマウント、エアインテーク・マニホールド、スロットルボディ、エアインテーク・パイプ、ラジエータタンク、ラジエータサポート、ウォーターポンプ、ウォーターポンプ・インレット、ウォーターポンプ・アウトレット、サーモスタットハウジング、クーリングファン、ファンシュラウド、オイルパン、オイルフィルター・ハウジング、オイルフィラー・キャップ、オイルレベル・ゲージ、オイルポンプ、タイミング・ベルト、タイミング・ベルトカバーおよびエンジン・カバーなどの自動車用エンジンルーム内部品、フューエルキャップ、フューエルフィラー・チューブ、自動車用燃料タンク、フューエルセンダー・モジュール、フューエルカットオフ・バルブ、クイックコネクタ、キャニスター、フューエルデリバリー・パイプおよびフューエルフィラーネックなどの自動車用燃料系部品、シフトレバー・ハウジングおよびプロペラシャフトなどの自動車用駆動系部品、スタビライザーバー・リンケージロッド、エンジンマウントブラケットなどの自動車用シャシー部品、ウインドーレギュレータ、ドアロック、ドアハンドル、アウトサイド・ドアミラー・ステー、ワイパーおよびその部品、アクセルペダル、ペダル・モジュール、継手、樹脂ネジ、ナット、ブッシュ、シールリング、軸受、ベアリングリテーナー、ギアおよびアクチュエーターなどの自動車用機能部品、ワイヤーハーネス・コネクター、リレーブロック、センサーハウジング、ヒューズ部品、エンキャプシュレーション、イグニッションコイルおよびディストリビューター・キャップなどの自動車用エレクトロニクス部品、汎用機器(刈り払い機、芝刈り機およびチェーンソー)用燃料タンクなどの汎用機器用燃料系部品、コネクタおよびLEDリフレクタなどの電気電子部品、建材部品、産業用機器部品、ならびに、小型筐体(パソコンや携帯電話などの筐体を含む)、外装成形品などの各種筐体または外装部品が含まれる。
【0088】
中でも、本発明の樹脂組成物は、高温・高湿環境下でも機械的強度の低下が少ないため、車載部材、とくに不凍液が流れるチューブなどの高温高湿環境下での使用に適している。その他、本発明の樹脂組成物は、自動車用エレクトロニクス部品、電気電子部品、産業用機器部品、および電気機器の筐体または外装部品などの電気機器の部品に好適に用いることができる。
【実施例0089】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0090】
なお、以下の実験において、ポリアミド樹脂の融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)、極限粘度、融解熱量および末端アミノ基量は、以下の方法により測定した。
【0091】
(融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg))
ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定した。
【0092】
具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱した。樹脂を完全融解させるために、360℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却した。30℃で5分間置いた後、10℃/minで360℃まで2度目の加熱を行った。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)を結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とした。融解熱量(ΔH)は、JIS K7122に準じて、1度目の昇温過程での結晶化の吸熱ピークの面積から求めた。
【0093】
(極限粘度[η])
ポリアミド樹脂の極限粘度[η]は、ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させ、得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、「数式:[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))」に基づき算出した。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t0)/t0
【0094】
(融解熱量(ΔH))
ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)は、JIS K 7122(2012年)に準じて、1回目の昇温過程での結晶化の発熱ピークの面積から求めた。
【0095】
(末端アミノ基の量)
1gのポリアミド樹脂を35mLのフェノールに溶解させ、2mLのメタノールを混合し、試料溶液とした。そして、チモールブルーを指示薬として、当該試料溶液に対して0.01規定のHCl水溶液を使用した滴定を実施し、末端アミノ基量([NH]、単位:mmol/kg)を特定した。
【0096】
1.材料の合成/用意
1-1.ポリアミド樹脂の合成
(合成例1)
テレフタル酸259.5g(1561.7ミリモル)、1,6-ジアミノヘキサン128.1g(1102.0ミリモル)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン67.2g(472.3ミリモル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.37gおよび蒸留水81.8gを内容量1Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.0MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して、低次縮合物を抜き出した。その後、この低次縮合物を室温まで冷却後、低次縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。
【0097】
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて215℃まで昇温させた。その後、1時間30分反応させて、室温まで降温させた。
【0098】
その後、得られたプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂1を得た。
【0099】
得られたポリアミド樹脂1の極限粘度[η]は0.9dl/g、融点(Tm)は323℃、ガラス転移温度(Tg)は154℃、融解熱量(ΔH)は51mJ/mg、末端アミノ基の量は23mmol/kgであった。
【0100】
(合成例2)
オートクレーブに入れた1,6-ジアミノヘキサンの量を118.9g(1023.1ミリモル)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの量を78.4g(551.1ミリモル)とした以外は合成例1と同様にして、ポリアミド樹脂2を得た。ポリアミド樹脂2の極限粘度[η]は0.9dl/g、融点(Tm)は320℃、ガラス転移温度(Tg)は156℃、融解熱量(ΔH)は48mJ/mg、末端アミノ基の量は25mmol/kgであった。
【0101】
(合成例3)
オートクレーブに入れた1,6-ジアミノヘキサンの量を109.9g(944.5ミリモル)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの量を89.5g(629.7ミリモル)とした以外は合成例1と同様にして、ポリアミド樹脂3を得た。ポリアミド樹脂3の極限粘度[η]は0.9dl/g、融点(Tm)は305℃、ガラス転移温度(Tg)は166℃、融解熱量(ΔH)は35mJ/mg、末端アミノ基の量は25mmol/kgであった。
【0102】
(合成例4)
オートクレーブに入れた1,6-ヘキサンジアミンの量を280g(2410ミリモル)、テレフタル酸の量を277.4g(1670ミリモル)、イソフタル酸の量を119.6g(720ミリモル)とし、安息香酸を3.66g(30ミリモル)添加し、次亜リン酸ナトリウム一水和物の量を5.7g、蒸留水の量を545gとした以外は合成例1と同様にして、ポリアミド樹脂4を得た。ポリアミド樹脂4の極限粘度は1.0dl/g、融点(Tm)は330℃、ガラス転移温度(Tg)は125℃、融解熱量(ΔH)は50J/g、末端アミノ基の量は25mmol/kgであった。
【0103】
1-2.ガラス繊維
・酸変性により表面改質されたガラス繊維(オーウェンスコーニング社製:FT-2A)
【0104】
1-3.滑剤
モンタン酸ナトリウム(クラリアント社製、LICOMONT NAV101「LICOMONT」は同社の登録商標))
【0105】
1-4.結晶核剤
・タルク
【0106】
2.ポリアミド樹脂組成物の調製
上記の材料を、表1に示す組成比(単位は質量部)でタンブラーブレンダーにて混合し、30mmφのベント式二軸スクリュー押出機を用いて300~335℃のシリンダー温度条件で溶融混練した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
【0107】
3.評価
得られたポリアミド樹脂組成物を、以下の基準で評価した。
【0108】
3-1.流動長
それぞれのポリアミド樹脂組成物を、幅10mm、厚み0.5mmのバーフロー金型を使用して以下の条件で射出し、金型内のポリアミド樹脂組成物の流動長(mm)を測定した。なお、流動長が長いほど射出流動性が良好であることを示す。
成型機:東芝機械株式会社製、EC75N-2A
射出設定圧力:2000kg/cm
成型機シリンダー温度:335℃
金型温度:160℃
【0109】
3-2.ガラス繊維の配合前後における流動長の維持率
ガラス繊維を配合したポリアミド樹脂組成物の上記流動長と、ガラス繊維を配合しなかった以外は添加剤の配合量を同量としたポリアミド樹脂組成物の上記流動長と、を比較して、ガラス繊維の配合前後における流動長の維持率を算出した。
【0110】
3-3.引張強度(初期)
それぞれのポリアミド樹脂組成物を以下の条件で射出成形して、厚み3.2mmのASTM-1(ダンベル片)の試験片を作製した。
成型機:住友重機械工業株式会社社製、SE50DU
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:ポリアミド樹脂のガラス転移温度+20℃
作製した試験片を、ASTMD638に準拠し、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、ASTMD638に準拠して、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で引張試験を行い、引張強度を測定した。
【0111】
3-4.引張強度(高湿処理後)
上記試験片を、温度121℃、2気圧、100%RH条件で500時間放置した。その後、試験片を23℃まで放冷し、ASTMD638に準拠して、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で引張試験を行い、引張強度を測定した。
【0112】
3-5.引張強度の保持率
初期の引張強度と高湿処理後の引張強度とを比較して、初期の引張強度に対する高湿処理後の引張強度の割合(保持率)を算出した。
【0113】
調製したポリアミド樹脂組成物の組成、流動長、流動長の維持率、引張強度(初期)、引張強度(高湿処理後)および引張強度の保持率を、表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
表1から明らかなように、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂は、酸性基を有する表面処理剤または収束剤を含むガラス繊維の配合による流動性の低下を抑制できる。また、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂は、高温・高湿環境下における機械的強度の低下を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、酸性基を有する収束剤または表面処理剤によって処理されたガラス繊維を添加することによる機械的強度の向上と、流動性の低下の抑制を両立することができる。そのため、本発明は、各種用途へのポリアミド樹脂の適用可能性を広げ、ポリアミド樹脂のさらなる普及に寄与すると期待される。