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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144196
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/067 20060101AFI20220926BHJP
   F16H 57/022 20120101ALI20220926BHJP
   F16C 19/08 20060101ALI20220926BHJP
   F16C 25/08 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
F16C35/067
F16H57/022
F16C19/08
F16C25/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045095
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 武
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】坂野 友哉
(72)【発明者】
【氏名】蓮見 隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】大板 慎司
【テーマコード(参考)】
3J012
3J063
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J012AB06
3J012BB01
3J012CB10
3J012DB07
3J012DB13
3J012FB10
3J063AA02
3J063AC04
3J063BB14
3J063CD42
3J117AA01
3J117AA10
3J117CA04
3J117CA06
3J117DA01
3J117DA02
3J117DB10
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA52
3J701AA62
3J701FA35
3J701GA01
(57)【要約】
【課題】ケースの支持面における摩耗を低減することが可能でありながら、コストアップを抑えることが可能な車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】本自動変速機は、ミッションケース9と、第3軸を中心として、ミッションケース9に対して回転自在に支持される出力軸60と、ミッションケース9と出力軸60との間に介在されるボールベアリング20とを備える。ミッションケース9には、外輪22の外周面22bに当接して支持する支持面9aが形成されており、軸方向においてボール23の少なくとも一部と重なるように、支持面9aに溝部9bが形成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の駆動力を伝動して車輪を駆動する車両用駆動装置において、
ケースと、
回転軸を中心として、前記ケースに対して回転自在に支持される回転部材と、
内輪と外輪とそれらの間で転動する転動体とを有し、前記ケースと前記回転部材との間に介在されるベアリングと、を備え、
前記ケースは、
前記外輪の外周面に当接して支持する支持面と、
径方向から視て前記回転軸の軸方向において前記転動体の少なくとも一部と重なるように、前記支持面に溝状に形成された溝部と、を有する、
車両用駆動装置。
【請求項2】
前記ベアリングは、前記転動体がボールであるボールベアリングであり、
前記外輪は、前記ボールを転動させつつ前記軸方向に対して支持する転動溝を有し、
前記溝部は、前記径方向から視て前記軸方向において前記外輪の転動溝の最も深い位置と重なるように形成されている、
請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記駆動源により駆動される第1軸部材と、
前記第1軸部材の駆動力を伝達する駆動伝達部と、
前記駆動伝達部により伝達される駆動力により駆動される第2軸部材と、を備え、
前記回転部材は、前記第2軸部材であり、
前記溝部は、前記軸方向から視て円弧状であり、かつその円弧状における両端に対する中央が前記回転軸に対して前記第1軸部材が位置する側となるように配置されている、
請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の駆動力を伝動して車輪を駆動する車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動変速機やハイブリッド駆動装置など、駆動源の駆動力を伝動して車輪を駆動する車両用駆動装置にあっては、入力軸、回転軸、カウンタシャフトなどの回転軸がケースに対して回転自在に支持されており、それら回転軸とケースとの間にはボールベアリングやローラベアリングなどのベアリングが介在されている。このようなベアリングは、内輪と外輪とそれらの間で転動するボールやローラなどの転動体を有して構成されているが、回転軸の回転時において、転動体が外輪を内側から押圧するため、外輪が変形して部分的に膨らみ、かつその膨らんだ部分が回転方向に移動するため、外輪を支持するケースの支持面が摩耗する虞がある。特にベアリングの外輪が鉄材料等の硬い材料で、ケースがアルミ材料等の軟らかい材料である場合に支持面の摩耗が生じやすい。そのため、ベアリングの外輪とケースの支持面との間に摩耗防止スリーブを設けたものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-131975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のように摩耗防止スリーブを設けることは、部品点数の増加や製造工程の増加を招き、コストアップを招いてしまう。また、上述のような摩耗を防止するためには、外輪に潤滑用の被膜を形成すること、多数のボールベアリングを並設して各ベアリングの荷重を減らすこと、外輪の肉厚を厚くして変形を小さくすること、等も考えられるが、いずれもコストアップを招いてしまう。
【0005】
そこで本発明は、ケースの支持面における摩耗を低減することが可能でありながら、コストアップを抑えることが可能な車両用駆動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
駆動源の駆動力を伝動して車輪を駆動する車両用駆動装置において、
ケースと、
回転軸を中心として、前記ケースに対して回転自在に支持される回転部材と、
内輪と外輪とそれらの間で転動する転動体とを有し、前記ケースと前記回転部材との間に介在されるベアリングと、を備え、
前記ケースは、
前記外輪の外周面に当接して支持する支持面と、
径方向から視て前記回転軸の軸方向において前記転動体の少なくとも一部と重なるように、前記支持面に溝状に形成された溝部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、ケースの支持面における摩耗を低減することができるものでありながら、支持面に溝部を加工するだけの簡単な製造工程で足りるので、部品点数の増加も招くことなく、コストアップを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施の形態に係る自動変速機を示すスケルトン図。
図2】本自動変速機の係合表。
図3】第1の実施の形態に係る自動変速機における出力軸及びそれを支持するボールベアリングを示す部分断面図。
図4】本自動変速機の各軸の配置関係を示す軸方向視図。
図5】前進の非無段モードにおいてボールベアリングに作用する力を示す図。
図6】前進の無段モードにおいてボールベアリングに作用する力を示す図。
図7】第2の実施の形態に係るボールベアリング及び溝部を示す部分断面図。
図8】第3の実施の形態に係るボールベアリング及び溝部を示す部分断面図。
図9】第4の実施の形態に係るボールベアリング及び溝部を示す部分断面図。
図10】第5の実施の形態に係るボールベアリング及び溝部を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1の実施の形態>
以下、第1の実施の形態に係る車両用駆動装置の一例である自動変速機1を図1乃至図6を用いて説明する。なお、本明細書中で駆動連結とは、互いの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、それら回転要素が一体的に回転するように連結された状態、あるいはそれら回転要素がクラッチ等を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いる。
【0010】
[自動変速機の概略構成]
まず、本実施の形態に係る自動変速機1の概略構成について図1に沿って説明する。自動変速機1は、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプで構成され、駆動源としてのエンジン16の駆動力を伝達して左右の前輪である車輪91L,91Rを駆動する。この自動変速機1は、エンジン16に駆動連結されたトルクコンバータ17と、トルクコンバータ17に駆動連結された入力軸2と、前後進切換え装置3と、無段変速機構4と、減速ギヤ機構5と、出力軸60を有する出力ギヤ部6と、カウンタシャフト部7と、ディファレンシャル装置8と、これらを収容するケースであるミッションケース9及びハウジングケース9H(図3参照)と、機械式オイルポンプ(MOP)18と、不図示の電動オイルポンプとを備えている。
【0011】
また、自動変速機1は、エンジン16により駆動される第1軸部材としての入力軸2と、車輪91L,91Rに回転を出力する第2軸部材(回転部材)としての出力軸60と、を連結する動力伝達経路a1,a2とを備えている。動力伝達経路a1,a2としては、後述する噛合式クラッチD1及びブレーキB1が介在され、入力軸2と出力軸60とを前進時及び後進時に連結可能な第1の動力伝達経路a1と、入力軸2と出力軸60とを第1の動力伝達経路a1とは別の経路で前進時に連結可能な第2の動力伝達経路a2とが設けられている。また、自動変速機1は、第1軸AX1~第5軸AX5までの互いに平行な軸を備えている。なお、本実施の形態においては、第1の動力伝達経路a1にある減速ギヤ機構5が入力軸2の駆動力を出力軸60に伝達する駆動伝達部を構成し、第2の動力伝達経路a2にある無段変速機構4が入力軸2の駆動力を出力軸60に伝達する駆動伝達部を構成している。
【0012】
第1軸AX1は、エンジン16の出力軸(クランク軸)と同軸になっている。この第1軸AX1上には、その出力軸に連結される自動変速機1の入力軸1A、トルクコンバータ17、入力軸2、前後進切換え装置3、無段変速機構4のプライマリプーリ41が配置され、具体的に、前後進切換え装置3のプラネタリギヤDPと第1のクラッチC1とブレーキB1とが同軸上に配置されている。
【0013】
また、第2軸AX2上には、減速ギヤ機構5が配置されている。第3軸AX3(回転軸)上には、無段変速機構4のセカンダリプーリ42、第2のクラッチC2、出力ギヤ部6が配置されている。第4軸AX4上には、カウンタシャフト部7が配置されている。第5軸AX5上には、ディファレンシャル装置8、それぞれ左右の車輪91L,91Rに駆動連結された左右のドライブシャフト81L,81Rが配置されている。
【0014】
エンジン16の出力軸に連結される自動変速機1の入力軸1Aは、トルクコンバータ17を介して入力軸2に連結されている。前後進切換え装置3は、入力軸2に駆動連結されたえプラネタリギヤDPと、ブレーキB1と、第1のクラッチC1とを備え、車両の走行方向により回転方向を切り換えて伝達する。入力軸2は、プラネタリギヤDPの内周側を通って無段変速機構4のプライマリプーリ41に接続されていると共に、プラネタリギヤDPのキャリヤCRに接続されている。プラネタリギヤDPは、サンギヤS、リングギヤR、サンギヤSに噛合するピニオンP1及びリングギヤRに噛合するピニオンP2を回転自在に支持するキャリヤCRを有している所謂ダブルピニオンプラネタリギヤで構成されている。このうちのリングギヤRは、ブレーキB1によりミッションケース9に対して回転を係止自在に構成されている。また、サンギヤSは中空軸30に直接的に連結され、キャリヤCRは第1のクラッチC1を介して中空軸30に接続され、中空軸30は正逆回転出力ギヤ31に連結されている。なお、中空軸30は、第1のクラッチC1のクラッチドラム32にも連結されており、これら正逆回転出力ギヤ31と、中空軸30と、クラッチドラム32とが一体となって回転する。
【0015】
第1のクラッチC1は、係合時に車両の前進方向の回転を伝達させる経路を形成し、ブレーキB1は、係合時に車両の後進方向の回転を伝達させる経路を形成する。正逆回転出力ギヤ31は、減速ギヤ機構5の入力ギヤ51に噛合している。ブレーキB1は、第1の動力伝達経路a1に介在され、油圧が供給されることにより入力軸1Aからの回転を逆転させて動力伝達を接続するためのものである。
【0016】
減速ギヤ機構5は、第2軸AX2上に配置される第1の回転軸50と、第1の回転軸50に設けられる入力ギヤ51と、第1の回転軸50に設けられ第1の動力伝達経路a1に介在される噛合式クラッチ(シンクロメッシュ機構付き噛合式クラッチ)D1と、第1の回転軸50に対して相対回転可能な中空軸からなる第2の回転軸53及び出力ギヤ56とを備えている。入力ギヤ51は、第1の回転軸50の一方側に一体的に固定され連結されている。第2の回転軸53は、第1の回転軸50の他方側の外周側に、例えばニードルベアリング(不図示)により相対回転自在に支持されている。即ち、第2の回転軸53は、第1の回転軸50と軸方向に重なる二重軸として配置されている。第2の回転軸53には、出力ギヤ56が一体的に固定されて連結されている。出力ギヤ56は、出力ギヤ部6の入力ギヤ61に噛合されている。
【0017】
噛合式クラッチD1は、ドライブギヤ52と、ドリブンギヤ55と、シンクロメッシュ機構S1(シンクロナイザ)と、スリーブ57と、シフトフォーク58と、付勢ばね59と、を備えており、第1の回転軸50と第2の回転軸53とを係脱可能である。噛合式クラッチD1は、第1の動力伝達経路a1に介在され、油圧が供給されることにより動力伝達を接続する。
【0018】
ドライブギヤ52は、入力ギヤ51よりも小径で、第1の回転軸50の一方側に一体的に固定されて連結されている。ドリブンギヤ55は、ドライブギヤ52と同径、かつ出力ギヤ56よりも小径で、第2の回転軸53に一体的に固定されて連結されている。シンクロメッシュ機構S1は、ドリブンギヤ55のドライブギヤ52側に配設され、ドライブギヤ52とドリブンギヤ55とを嵌合する際に回転を同期させる同期機構として作用する。なお、シンクロメッシュ機構S1としては、公知あるいは新規の適宜な機構を適用することができるので、詳細な説明は省略する。
【0019】
スリーブ57は、内周面に歯面が形成され、ドライブギヤ52とドリブンギヤ55との外周側に軸方向に移動可能に配設されている。スリーブ57は、不図示の油圧サーボにより駆動されるシフトフォーク58により軸方向に移動駆動されることで、ドライブギヤ52だけに噛合する位置と、ドライブギヤ52及びドリブンギヤ55に跨って両方に噛合する位置とにスライド駆動される。これにより、ドライブギヤ52とドリブンギヤ55とは、解放状態(切離し状態)又は係合状態(駆動連結状態)に切換自在にされる。
【0020】
付勢ばね59は、ドライブギヤ52とドリブンギヤ55とが解放状態になる方向にシフトフォーク58に付勢力を与える。このため、不図示の油圧サーボに係合圧が供給されると、ドライブギヤ52とドリブンギヤ55とを係合状態にするように、油圧サーボが付勢ばね59の付勢力に抗してシフトフォーク58を移動させる。また、油圧サーボの係合圧が排出されると、ドライブギヤ52とドリブンギヤ55とを解放状態にするように、付勢ばね59がシフトフォーク58を移動させる。
【0021】
無段変速機構4は、変速比を連続的に変更可能であり、本実施の形態ではベルト式無段変速機構を採用している。無段変速機構4は、入力軸2に接続されたプライマリプーリ41と、セカンダリプーリ42と、該プライマリプーリ41及び該セカンダリプーリ42に巻き掛けられた無端状のベルト43とを備えて構成されている。プライマリプーリ41は、それぞれが対向する円錐状に形成された壁面を有し、入力軸2に対して軸方向移動不能に固定された固定シーブ41aと、入力軸2に対して軸方向移動可能に支持された可動シーブ41bとを有しており、これら固定シーブ41aと可動シーブ41bとによって形成された断面V字状となる溝部によりベルト43を挟持している。
【0022】
同様に、セカンダリプーリ42は、それぞれが対向する円錐状に形成された壁面を有し、中心軸44に対して軸方向移動不能に固定された固定シーブ42aと、中心軸44に対して軸方向移動可能に支持された可動シーブ42bとを有しており、これら固定シーブ42aと可動シーブ42bとによって形成された断面V字状となる溝部によりベルト43を挟持している。これらプライマリプーリ41の固定シーブ41aとセカンダリプーリ42の固定シーブ42aとは、ベルト43に対して軸方向反対側となるように配置されている。
【0023】
また、プライマリプーリ41の可動シーブ41bの背面側には、油圧サーボ45が配置されており、セカンダリプーリ42の可動シーブ42bの背面側には、油圧サーボ46が配置されている。油圧サーボ45には、不図示のプライマリ圧コントロールバルブからプライマリ圧が作動油圧として供給され、油圧サーボ46には、不図示のセカンダリ圧コントロールバルブからセカンダリ圧が作動油圧として供給される。そして、これら油圧サーボ45,46は、各作動油圧が供給されることにより負荷トルクに対応するベルト挟圧力を発生させると共に、変速比を変更又は固定するための挟圧力を発生させるように構成されている。
【0024】
セカンダリプーリ42の中心軸44は、第2のクラッチC2のクラッチドラム47に駆動連結されており、第2のクラッチC2を介して、出力ギヤ部6の出力軸60に接続されている。即ち、第2のクラッチC2は、第2の動力伝達経路a2に介在されている。出力ギヤ部6は、出力軸60と、該出力軸60の一端側に固定されて連結された入力ギヤ61と、該出力軸60の他端側に固定されて連結されたカウンタギヤ62と、を有して構成されており、カウンタギヤ62は、カウンタシャフト部7のドリブンギヤ71に噛合されている。
【0025】
カウンタシャフト部7は、カウンタシャフト70と、該カウンタシャフト70に固定されて連結されたドリブンギヤ71と、カウンタシャフト70に固定されて連結されたドライブギヤ72と、を有して構成されており、ドライブギヤ72は、ディファレンシャル装置8のデフリングギヤ80に噛合されている。
【0026】
ディファレンシャル装置8は、デフリングギヤ80の回転をそれぞれ左右のドライブシャフト81L,81Rにそれらの差回転を吸収しつつ伝達するように構成されており、左右のドライブシャフト81L,81Rは、それぞれ左右の車輪91L,91Rに連結されている。なお、デフリングギヤ80がドライブギヤ72に噛合し、ドリブンギヤ71がカウンタギヤ62に噛合していることから、出力ギヤ部6の出力軸60、カウンタシャフト部7のカウンタシャフト70、ディファレンシャル装置8は、左右のドライブシャフト81L,81Rを介して車輪と駆動連結されており、常に車輪に連動していることになる。即ち、出力軸60は、車輪に駆動連結されている。
【0027】
一方、機械式オイルポンプ18は、入力軸2に駆動連結され、エンジン16の駆動力により駆動されることで、各種の油圧の元圧を生成して不図示の油圧制御装置に供給可能である。なお、不図示の電動オイルポンプは、機械式オイルポンプ18とは独立して電動で駆動可能であり、エンジン16の停止時において油圧制御装置に油圧を供給することが可能である。
【0028】
以上のように構成された自動変速機1は、図1のスケルトン図に示す第1のクラッチC1、第2のクラッチC2、噛合式クラッチD1及びブレーキB1が、図2の係合表に示す組み合わせで係脱されることにより、前進の非無段モード、前進の無段モード、後進の非無段モードが達成される。前進の非無段モードにおいて自動変速機1は、第1のクラッチC1及び噛合式クラッチD1を係合状態にして入力軸2と出力軸60とを第1の動力伝達経路a1により接続して回転伝達する。前進の無段モードにおいて自動変速機1は、第2のクラッチC2を係合状態にして入力軸2と出力軸60とを第2の動力伝達経路a2により接続して回転伝達する。後進の非無段モードにおいて自動変速機1は、噛合式クラッチD1及びブレーキB1を係合状態にして入力軸2と出力軸60とを第1の動力伝達経路a1により接続して回転伝達する。なお、本実施の形態では、前進又は後進の非無段モードは、駆動力を第1の動力伝達経路a1により回転伝達する前進1速段又は後進1速段であるが、これに限らず、多段変速を行うものであってもよい。
【0029】
[出力軸60及びボールベアリング20の構成]
続いて、本第1の実施の形態における自動変速機1の出力軸60及びボールベアリング20が配置された部分の構成について図3を用いて説明する。上述したセカンダリプーリ42から延びる中心軸44には、第2のクラッチC2のクラッチドラム47がスプライン係合される形で支持されており、つまり第2のクラッチC2が中心軸44の外周側に支持されている。
【0030】
また、中心軸44の先端側の外周側にはニードルベアリング111が配置され、そのニードルベアリング111の外周側に出力軸60が中心軸44に対して回転自在に配置されている。上述したように出力軸60の一端側には入力ギヤ61が固定されており、出力軸60の他端側にはカウンタギヤ62が一体に形成される形で固定されている。また、出力軸60の他端部分には、トルクコンバータ17を収納するハウジングケース9Hとの間にボールベアリング110が配置され、出力軸60はハウジングケース9Hに対して回転自在に支持されている。なお、ボールベアリング110とカウンタギヤ62との軸方向の間にはパーキング機構のパーキングギヤ63が配置されている。そして、出力軸60の外周側にあって、軸方向における入力ギヤ61とカウンタギヤ62との間には、ボールベアリング20が、ミッションケース9との間に介在されるように配置されている。
【0031】
詳細には、ボールベアリング20は、内輪21と、外輪22と、それらの径方向の間に配置される転動体としての複数のボール23と、ボール23の間隔を維持する不図示の保持器とを有して構成されている。内輪21にはボール23が転動する転動溝21aが形成されており、外輪22にもボール23が転動する転動溝22aが形成されており、これらの転動溝21a及び転動溝22aにボール23が挟持されつつ転動するため、内輪21と外輪22とは相対回転自在にかつ軸方向に移動不能に構成されている。内輪21は、出力軸60に対して圧入され、かつ入力ギヤ61と共にナット65によって軸方向に締結されることで一体的に固定されている。また、外輪22は、ミッションケース9に形成された内周面である支持面9aに、公差分の余裕をもたせて嵌合されている。換言すると、ミッションケース9には、外輪22の外周面22bに当接して指示する支持面9aが形成されている。
【0032】
そして、ミッションケース9の支持面9aには、径方向から視て軸方向において、ボール23と少なくとも一部が重なるように、好ましくは外輪22の転動溝22aの最も深い位置である頂点V(即ち外輪22の径方向の肉厚が最も薄い位置)と重なるように、溝状に溝部9bが形成されている。本第1の実施の形態においては、具体的に、溝部9bの軸方向(幅方向)の中央と、外輪22の転動溝22aの最も深い位置である頂点Vとが、径方向から視て軸方向において同じ位置となるように配置されている。
【0033】
この溝部9bは、詳しくは後述するように、本実施の形態では支持面9aの約半周分の長さで形成されている。また、支持面9aに溝状に形成され、支持面9aが外輪22の外周面22bに当接しているため、この溝部9bは外輪22の外周面22bで閉じられた略密閉空間となっている。なお、本実施の形態におけるボールベアリング20は、ボール23が複列となるものを用いており、溝部9bも軸方向の2か所に設けられているが、ボール23が単列となるもので、溝部9bも軸方向の1か所に設けられているものであっても構わない。
【0034】
本実施の形態に係る自動変速機1においては、出力軸60が回転された場合に、ボール23が転動して外輪22に対して周方向に移動し、その際に外輪22を外径側に部分的に膨らませ、さらに外輪22が支持面9aに対して公差分の余裕をもって嵌合しているために外輪22が僅かに回転移動し、つまり膨らませた部分を支持面9aに対して周方向に移動させることになる。しかしながら、上述のようにミッションケース9の支持面9aに溝部9bが形成されていることで、外輪22の膨らんだ部分が溝部9bによって圧接し難くなる。そのため、例えばアルミダイキャスト等により形成されたミッションケース9の支持面9aを、例えば硬い鋼鉄製の外輪22の膨らみの移動によって削ってしまうことが低減される。そして、この溝部9bは、アルミ製であるミッションケース9の支持面9aを切削するだけの簡易な工程で足りるので、例えばスリーブを外輪22の外側に配置したり、外輪22の外周面に被膜を形成したり、さらに多くのベアリングを並設したり、外輪22の肉厚を厚くしたりする場合に比して、部品点数の増加や製鋼工程の増加の観点でも有利であり、僅かにコストアップするとしてもコストアップを抑えることができる。
【0035】
[溝部の周方向の形成位置について]
ついで、上記ミッションケース9の支持面9aに形成する溝部9bの、支持面9aにおける周方向の形成位置について図4乃至図6を用いて説明する。
【0036】
上述したように、本実施の形態に係る自動変速機1は、第1軸AX1~第5軸AX5を備えており、図4に示すように、自動変速機1を車両に搭載した状態で、第1軸AX1の上方に第2軸AX2が配置され、その第2軸AX2の略水平方向の位置に第3軸AX3が配置されている。また、第3軸AX3に対して第2軸AX2と反対側でやや下方に第4軸AX4が配置され、それら第3軸AX3及び第4軸AX4の下方に第5軸AX5が配置されている。
【0037】
前進の非無段モード(即ち前進1速段)では、上述したようにエンジン16からの駆動力が自動変速機1に入力されると、その駆動力は、第1軸AX1上にある前後進切換え装置3から(図1参照)、第2軸AX2上にある減速ギヤ機構5を介して、第3軸AX3上にある出力軸60に伝達され、さらに、出力軸60から第4軸AX4上にあるカウンタシャフト70を介して、第5軸AX5上にあるディファレンシャル装置8に伝達されて車輪91L,91Rに出力される。
【0038】
この際は、図5に示すように、減速ギヤ機構5の出力ギヤ56と出力軸60の入力ギヤ61との噛合部分Xには(図1参照)、半径方向力Frx1と接線力Ftx1が作用する。また、出力軸60の入力ギヤ61とカウンタシャフト70のドリブンギヤ71との噛合部分Yには(図1参照)、半径方向力Fry1と接線力Fty1が作用する。さらに、無段変速機構4は第2のクラッチC-2が解放されているため駆動力を伝達していない状態であるが、エンジン16の駆動回転によってプライマリプーリ41が回転され、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42とベルト43との間でスリップが生じないように油圧サーボ45及び油圧サーボ46に油圧が供給され、ベルト43がそれら両プーリによって挟持されているため、ベルト43にテンション(張力)が付与されており、出力軸60にはベルト張力Fv1が作用する。従って、出力軸60には、これらの力を合わせた合力F1が作用し、出力軸60を支持するボールベアリング20にも、この合力F1が作用する。なお、非駆動時には(コースト状態では)、噛合部分X,Yに作用する力が逆向きになるため、合力F1の向きも逆になるが、駆動時ほどの駆動力が作用しないため、本明細書では説明を省略する。
【0039】
また、前進の無段モードでは、上述したようにエンジン16からの駆動力が自動変速機1に入力されると、その駆動力は、第1軸AX1上にあるプライマリプーリ41から(図1参照)、ベルト43を介して第3軸AX3上にあるセカンダリプーリ42及び出力軸60に伝達され、さらに、出力軸60から第4軸AX4上にあるカウンタシャフト70を介して、第5軸AX5上にあるディファレンシャル装置8に伝達されて車輪91L,91Rに出力される。
【0040】
この際は、減速ギヤ機構5を用いないため、図6に示すように、上記噛合部分X(図5参照)には力が作用せず、上記噛合部分Yに半径方向力Fry2と接線力Fty2が作用する。さらに、無段変速機構4は、エンジン16の駆動力を伝達するため、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42とベルト43との間でスリップが生じないように油圧サーボ45及び油圧サーボ46に上記非無段モードよりも大きな油圧が供給され、ベルト43がそれら両プーリによって挟持されているため、ベルト43に大きなテンション(張力)が付与され、出力軸60にはベルト張力Fv2が作用する。従って、出力軸60には、これらの力を合わせた合力F2が作用し、出力軸60を支持するボールベアリング20にも、この合力F2が作用する。
【0041】
このように、前進の非無段モードでは合力F1がボールベアリング20に作用し、前進の無段モードでは合力F2がボールベアリング20に作用するが、これらの合力F1,F2の向きは、何れも第1軸AX1の方向に向いており、ボールベアリング20における外輪22の膨らみが生じるとしても、第3軸AX3よりも第1軸AX1の側である。そこで、ミッションケース9の支持面9aに形成する溝部9bは、合力F1,F2が作用する部分を含み、かつ安全マージンを考慮した範囲に形成されていればよく、本実施の形態では、軸方向から視て約半周となる円弧状で第3軸AX3に対して第1軸AX1がある側に形成されている。換言すると、第1軸AX1と第3軸AX3とを結ぶ仮想線L1と、第3軸AX3を通りかつ仮想線L1と直交する仮想線L2と、を想定した場合、溝部9bの一端9cと他端9dとの中央9bct(つまり溝部9bの両端の中央9bct)が、仮想線L2よりも第1軸AX1の側にあればよい。
【0042】
以上のように、溝部9bは、ミッションケース9の支持面9aにおける一部にだけ形成されているので、例えば周方向に一周するように溝部を形成する場合に比して、製造工程を短縮化することができ、さらに、溝として削る体積も小さくなるので、ミッションケース9の支持面9aがある部分の強度の低下も小さくすることができる。
【0043】
ところで、本実施の形態においては、ミッションケース9の支持面9aに溝部9bを形成したが、外輪22の外周面22bに溝部を形成することも考えられる。しかしながら、外輪22の材質は例えば高炭素クロム鋼等であり、一方のミッションケース9の材質はアルミニウム等であるため、外輪22の方がミッションケース9よりも剛性が高い。そのため、外輪22に溝部を形成する場合とミッションケース9に溝部9bを形成する場合とを比較すると、ミッションケース9に溝部9bを形成する場合の加工の方が簡易であり、特に溝部が同形状で考えると、ミッションケース9に溝部9bを形成した場合の方が剛性の低下の影響が小さいという利点がある。即ち、外輪22の剛性が低下した場合、変形量が大きくなってボールベアリング20の歪み量が大きくなり、ノイズが増大する虞があるが、ミッションケース9に溝部9bを形成しても剛性の低下の影響が小さくて済むので、ノイズの発生の影響も小さくなる。そして、外輪22に溝部を形成する場合は、外輪22の回転方向の位置が移動することがあるため、溝部を全周に形成する必要があるが、ミッションケース9に溝部9bを形成する場合は、上述したように周方向の一部で足りるため、全周に形成する場合よりも、加工が簡易であり、剛性の低下も小さくできる。
【0044】
<第2の実施の形態>
ついで、上記第1の実施の形態を一部変更した第2の実施の形態について図7を用いて説明する。なお、本第2の実施の形態の説明においては、上記第1の実施の形態と同様な部分に同符号を用い、その説明を省略する。
【0045】
本第2の実施の形態においては、上記第1の実施の形態に比して、図7に示すようにミッションケース9の支持面9aに形成する溝部9bの軸方向の位置を変更したものである。上記第1の実施の形態においては、ボールベアリング20の外輪22には、ボール23の中心から外径方向に真っ直ぐに頂点Vに向かってラジアル荷重が発生するものを想定しており、頂点Vと溝部9bの軸方向の中央とが径方向から視て軸方向に同じ位置となるように配置されているものを説明した。しかしながら、複列のボールベアリング20においては、2つのボール23から外輪22が外径方向のラジアル荷重を受けた際、特に外輪22の肉厚が薄いと、矢印FAに示すように、軸方向における2つのボール23の間に応力集中が生じ、外輪22の膨らむ部分が2つの頂点Vよりも中央側に寄ってしまう。
【0046】
そこで、本第2の実施の形態においては、ボール23の中心23ctと頂点Vとを通る仮想線L23に対して、溝部9bの軸方向の中央9bctの位置(中央9bctを通り、かつ仮想線L23と平行な仮想線L9b)が、軸方向における2つのボール23の間、つまり2つのボール23の軸方向中央に向けて内側にオフセットするように配置したものである。これにより、2つのボール23から荷重を受けた外輪22が最も膨らむ位置に対応して2つの溝部9bを配置することができ、さらに外輪22がミッションケース9の支持面9aを削ってしまうことの低減を図ることができる。なお、溝部9bのボール23に対するオフセット量は、基本的に外輪22の肉厚と応力集中の大きさとの関係によって決まる。
【0047】
なお、これ以外の第2の実施の形態における構成、作用、及び効果は、上記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0048】
<第3の実施の形態>
ついで、上記第1及び第2の実施の形態を一部変更した第3の実施の形態について図8を用いて説明する。なお、本第3の実施の形態の説明においては、上記第1及び第2の実施の形態と同様な部分に同符号を用い、その説明を省略する。
【0049】
本第3の実施の形態においても、上記第1及び第2の実施の形態に比して、図8に示すように、ミッションケース9の支持面9aに形成する溝部9bの軸方向の位置を変更したものである。本第3の実施の形態においては、例えばカウンタギヤ62とドリブンギヤ71とがはすば歯車で構成されている場合、矢印FBに示すように、ボールベアリング20にスラスト力を受ける。すると、2つのボール23から外輪22が外径方向のラジアル荷重を受けた際、スラスト力との合力によって、外輪22の膨らむ部分が2つの頂点Vよりもスラスト力を受ける方向に寄ってしまう。なお、このスラスト力は、前進の駆動走行時が後進の駆動走行時や前進の非駆動走行時などに比べて、スラスト力が発生する時間が長く、かつスラスト力も大きいので、前進の駆動走行時に生じるスラスト力を想定している。
【0050】
そこで、本第3の実施の形態においては、ボール23の中心23ctと頂点Vとを通る仮想線L23に対して、溝部9bの軸方向の中央9bctの位置が、スラスト力を受ける方向にオフセットするように配置したものである。これにより、2つのボール23から荷重を受けた外輪22が最も膨らむ位置に対応して2つの溝部9bを配置することができ、さらに外輪22がミッションケース9の支持面9aを削ってしまうことの低減を図ることができる。なお、溝部9bのボール23に対するオフセット量は、基本的にスラスト力の大きさ(例えばエンジンの出力性能)によって決まる。
【0051】
なお、これ以外の第3の実施の形態における構成、作用、及び効果は、上記第1及び第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0052】
<第4の実施の形態>
ついで、上記第1乃至第3の実施の形態を一部変更した第4の実施の形態について図9を用いて説明する。なお、本第4の実施の形態の説明においては、上記第1乃至第3の実施の形態と同様な部分に同符号を用い、その説明を省略する。
【0053】
本第4の実施の形態においても、上記第1乃至第3の実施の形態に比して、図9に示すように、ミッションケース9の支持面9aに形成する溝部9bの軸方向の位置を変更したものである。本第4の実施の形態においては、第2の実施の形態で説明した応力集中と第3の実施の形態で説明したスラスト力とが、矢印FCに示すように、外輪22に作用する場合のものである。すると、2つのボール23から外輪22が外径方向のラジアル荷重を受けた際、外輪22の膨らむ部分が2つの頂点Vよりも、応力集中の分で2つのボール23の軸方向中央に向けて内側に、かつスラスト力の分でスラスト力を受ける方向に寄ってしまう。
【0054】
そこで、本第4の実施の形態においては、ボール23の中心23ctと頂点Vとを通る仮想線L23に対して、溝部9bの軸方向の中央9bctの位置が、2つのボール23の軸方向中央に向けて内側に、かつスラスト力を受ける方向にオフセットするように配置したものである。これにより、2つのボール23から荷重を受けた外輪22が最も膨らむ位置に対応して2つの溝部9bを配置することができ、さらに外輪22がミッションケース9の支持面9aを削ってしまうことの低減を図ることができる。なお、溝部9bのボール23に対するオフセット量は、基本的に外輪22の肉厚と応力集中の大きさとスラスト力の大きさ(例えばエンジンの出力性能)との関係によって決まる。
【0055】
なお、これ以外の第4の実施の形態における構成、作用、及び効果は、上記第1乃至第3の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0056】
<第5の実施の形態>
ついで、上記第1の実施の形態を一部変更した第5の実施の形態について図10を用いて説明する。なお、本第5の実施の形態の説明においては、上記第1の実施の形態と同様な部分に同符号を用い、その説明を省略する。
【0057】
本第5の実施の形態においては、上記第1の実施の形態に比して、図10に示すように、ボールベアリング20を複列のアンギュラボールベアリングで構成したものである。このボールベアリング20は、ボール23が内輪21の転動溝21aに当接して転動する位置の中心と、ボール23が外輪22の転動溝22aに当接して転動する位置の中心と、を径方向に対して傾斜させたもので、ボール23の中心23ctを通り、かつこれら転動する位置の中心を通る仮想線L23が径方向に対して傾斜していることになる。
【0058】
なお、このアンギュラボールベアリングにおいては、内輪21の2つのボール23の間の肉厚と、内輪21の2つのボール23の外側の肉厚とが異なり、換言すると、2つのボール23の間にある内輪21の外周面21bよりも、2つのボール23の外側にある内輪21の外周面21cの方が外径側に位置する。また、外輪22の2つのボール23の間の肉厚と、外輪22の2つのボール23の外側の肉厚とが異なり、換言すると、2つのボール23の間にある外輪22の内周面22cよりも、2つのボール23の外側にある外輪22の内周面22dの方が外径側に位置する。
【0059】
従って、本第5の実施の形態においては、ボール23から作用するラジアル荷重が、矢印FDに示すように、上記仮想線L23の方向に向けて外輪22に作用する場合のものである。すると、2つのボール23から外輪22が外径方向のラジアル荷重を受けた際、外輪22の膨らむ部分が、ボール23の転動する位置が傾斜している分で、2つのボール23の中心23ctの径方向よりも軸方向中央に向けて内側に寄ってしまう。
【0060】
そこで、本第5の実施の形態においては、ボール23の中心23ctと転動する位置の中心とを通る仮想線L23に、溝部9bの軸方向の中央9bctの位置が重なるように配置し、換言すると、ボール23の中心23ctの外径方向に対して、溝部9bの軸方向の中央9bctの位置が、2つのボール23の軸方向中央に向けて内側にオフセットするように配置したものである。これにより、2つのボール23から荷重を受けた外輪22が最も膨らむ位置に対応して2つの溝部9bを配置することができ、さらに外輪22がミッションケース9の支持面9aを削ってしまうことの低減を図ることができる。なお、溝部9bのボール23に対するオフセット量は、基本的にボール23が内輪21及び外輪22を転動する位置の径方向に対する傾斜角度によって決まる。
【0061】
なお、これ以外の第5の実施の形態における構成、作用、及び効果は、上記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0062】
<他の実施の形態の可能性>
なお、以上説明した第1乃至第5実施の形態においては、出力軸60を回転自在に支持するベアリングとしてボールベアリングであるものを説明したが、これに限らず、例えばローラベアリング等であってもよいし、テーパードローラベアリングであってもよく、特に転動体によって外輪に膨らみが生じやすいベアリングであれば、どのようなベアリングであってもよい。また、このように転動体がローラである場合、径方向から視て軸方向においてローラの幅よりも溝部の幅が大きくかつ完全にオーバーラップしている方が好ましいが、軸方向に少なくとも一部と重なっていれば、外輪の膨らみを逃がすスペースがあるので、ある程度の効果を得ることができる。
【0063】
また、第1乃至第5の実施の形態においては、ベアリングが出力軸60を回転自在に支持するものを説明したが、これに限らず、例えば入力軸、カウンタシャフト、プーリの入力軸や出力軸、モータの出力軸、オイルポンプの駆動軸等、どのような回転部材を支持するものであってもよい。
【0064】
また、第1乃至第5の実施の形態においては、ミッションケース9のベアリングの支持面9aに周方向の一部に円弧状に溝部9bを形成するものを説明したが、これに限らず、全周に溝部9bを形成しても構わない。
【0065】
また、第1乃至第5の実施の形態においては、車両用駆動装置として、エンジン16の駆動回転を変速して車輪91L,91Rに伝動する自動変速機であるものを説明したが、これに限らず、ハイブリッド駆動装置やモータの駆動力を伝動するEV用変速機であっても構わない。また、自動変速機であっても、有段変速式や無段変速機式であってもよい。さらに、駆動源の出力軸が車両の進行方向に対して横置きとなるFFタイプに限らず、駆動源の出力軸が車両の進行方向に対して縦置きとなる例えばFR(フロントエンジン・リヤドライブ)タイプであってもよいし、センターデフにより前後輪に駆動力を分配する四輪駆動方式のものであってもよいし、つまりどのような車両用駆動装置であってもよい。
【0066】
また、第1乃至第5の実施の形態において説明した構成及び作用の特徴は、それら実施の形態同士でどのように組み合わせてもよく、それらの組合せでそれら特徴の効果を奏する。特に第5の実施の形態におけるアンギュラボールベアリングにおいて、第2乃至第4の実施の形態のように、応力集中やスラスト力が作用する場合に、それに対応して溝部9bの位置を適宜な位置に配置することが考えられる。
【符号の説明】
【0067】
1…車両用駆動装置(自動変速機)/2…第1軸部材(入力軸)/4…駆動伝達部(無段変速機構)/5…駆動伝達部(減速ギヤ機構)/9…ケース(ミッションケース)/9a…支持面/9b…溝部/9bct…中央/16…駆動源(エンジン)/20…ベアリング(ボールベアリング)/21…内輪/22…外輪/22b…外周面/23…転動体、ボール/23a…転動溝/60…回転部材、第2軸部材(出力軸)/90L,90R…車輪/AX3…回転軸(第3軸)/V…転動溝の最も深い位置
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