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特開2022-144205多層輸送体及び多層輸送体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144205
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】多層輸送体及び多層輸送体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/10 20060101AFI20220926BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20220926BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 8/04 20060101ALI20220926BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220926BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20220926BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 9/107 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
A61K9/10
A61K47/44
A61K47/14
A61K8/04
A61Q19/00
A61Q19/10
A61Q1/00
A61K9/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045112
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】520229552
【氏名又は名称】エリジオンサイエンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517001000
【氏名又は名称】株式会社マジェスティ
(74)【代理人】
【識別番号】100141427
【弁理士】
【氏名又は名称】飯村 重樹
(72)【発明者】
【氏名】河原 清章
(72)【発明者】
【氏名】河原 和哉
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩美
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA17
4C076AA18
4C076AA95
4C076DD45
4C076DD46
4C076EE51
4C076FF63
4C083AA081
4C083AA082
4C083AA121
4C083AA122
4C083AC331
4C083AC332
4C083AC421
4C083AC422
4C083BB01
4C083BB11
4C083CC02
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC07
4C083CC11
4C083CC23
4C083DD39
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】有用成分の破壊や漏出が抑制されかつ粒径制御が適切に施された高品質な多層輸送体及び多層輸送体の製造方法を提供する。
【解決手段】多層輸送体は、親水性の有用成分と界面活性剤とを混合して任意の回転数で撹拌してW/Oエマルションを調製することにより平均粒径100nmとされた固相が油相中に分散したS/Oエマルションを減圧蒸留して得られる。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の有用成分と界面活性剤とを混合して任意の回転数で撹拌してW/Oエマルションを調製することにより平均粒径100nmとされた固相が油相中に分散したS/Oエマルションを減圧蒸留して得られる、多層輸送体。
【請求項2】
前記有用成分と前記界面活性剤とを10分あたり22000回転~30000回転の回転数で攪拌して前記W/Oエマルションを調製する、請求項1に記載の多層輸送体。
【請求項3】
前記S/Oエマルションをエバポレータで減圧蒸留する、請求項1または2に記載の多層輸送体。
【請求項4】
40℃以下に加熱された前記S/Oエマルションを-20℃で冷却しながら前記エバポレータで吸引して減圧蒸留する、請求項3に記載の多層輸送体。
【請求項5】
前記油相が、植物油、動物油、中性脂質及び長鎖脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも一である、請求項1~4のいずれか1項に記載の多層輸送体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の多層輸送体を水相に分散したS/O/Wエマルションを減圧蒸留して得られる、多層輸送体。
【請求項7】
親水性の有用成分と界面活性剤とを混合して任意の回転数で撹拌してW/Oエマルションを調製する第1工程と、
該第1工程で調製した前記W/Oエマルションによって平均粒径100nmとされた固相を得る第2工程と、
該第2工程で得た前記固相を油相に分散してS/Oエマルションを調製する第3工程と、
該第3工程で調製した前記S/Oエマルションを減圧蒸留する第4工程と、
を備える多層輸送体の製造方法。
【請求項8】
親水性の有用成分と界面活性剤とを混合して任意の回転数で撹拌してW/Oエマルションを調製する第1工程と、
該第1工程で調製した前記W/Oエマルションによって平均粒径100nmとされた固相を得る第2工程と、
該第2工程で得た前記固相を油相に分散してS/Oエマルションを調製する第3工程と、
該第3工程で調製した前記S/Oエマルションを減圧蒸留する第4工程と、
該第4工程で得た生成物と界面活性剤とを混合して前記生成物を水相に分散してS/O/Wエマルションを調製する第5工程と、
該第5工程で調製した前記S/O/Wエマルションを減圧蒸留する第6工程と、
を備える多層輸送体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層輸送体及び多層輸送体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
親水性の有用成分を輸送する輸送体としては、一般的に、界面活性剤で被覆された有用成分を油相に分散させたS/Oエマルションから得られた多層輸送体、あるいはS/Oエマルションを水相に分散させたS/O/Wエマルションから得られた多層輸送体が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
この種の多層輸送体は、親水性の有用成分が油相に可溶化されることによって有用成分の漏出が抑制されることから、エマルション製剤やリポソームに比べて、加水分解に対して安定しており、熱安定性に優れ、かつ室温での長期保存が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2011/004552公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の多層輸送体は、多層輸送体を得る過程において、有用成分が熱によって破壊される不具合や、界面活性剤から有用成分が漏出する不具合や、多層輸送体の粒径にバラツキが発生するといった不具合が発生することが知られている。
【0006】
特に、S/Oエマルションから得られた多層輸送体の場合は、S/Oエマルションを得るW/Oエマルションを微細化することが困難であることから、多層輸送体の粒径の平均が100nm~200nmと広範に亘るバラツキが発生することが懸念される。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有用成分の破壊や漏出が抑制されかつ粒径制御が適切に施された高品質な多層輸送体及び多層輸送体の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る多層輸送体は、親水性の有用成分と界面活性剤とを混合して任意の回転数で撹拌してW/Oエマルションを調製することにより平均粒径100nmとされた固相が油相中に分散したS/Oエマルションを減圧蒸留して得られるものである。
【0009】
一般的に、S/O型の製剤技術は、有用成分を容易に皮膚や体内に浸透させることができる製剤技術として認識されており、医療分野のみならず、美容分野への利用も広がっているところである。
【0010】
この種の製剤技術によって生成された多層輸送体は、有用成分を皮膚や体内に浸透させて有用成分による作用を適正に発揮させる観点からは、その粒径がなるべく小さくかつ均質化されていることが好ましい。
【0011】
本発明者らは、日々の鋭意研究や試行錯誤の結果、有用成分と界面活性剤とを任意の回転数で撹拌してW/Oエマルションを調製し、かつS/Oエマルションを減圧蒸留することで、良好な多層輸送体を生成することができることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0012】
このように、有用成分と界面活性剤とを任意の回転数で撹拌してW/Oエマルションを調製し、かつS/Oエマルションを減圧蒸留することによって、有用成分の破壊や漏出が抑制され、かつ粒径制御が適切に施された高品質な多層輸送体を得ることができる。
【0013】
この多層輸送体は、有用成分と界面活性剤とを10分あたり22000回転~30000回転の回転数で攪拌してW/Oエマルションを調製することによって得られるものである。
【0014】
さらに、多層輸送体は、S/Oエマルションをエバポレータで減圧蒸留することによって得られるものであり、特に、40℃以下に加熱されたS/Oエマルションを-20℃で冷却しながらエバポレータで吸引して減圧蒸留することによって得られるものである。
【0015】
一方、この多層輸送体の油相は、植物油、動物油、中性脂質及び長鎖脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも一であってもよい。
【0016】
上記目的を達成するための本発明に係る多層輸送体は、S/Oエマルションを減圧蒸留して得られる多層輸送体を水相に分散したS/O/Wエマルションを減圧蒸留して得られるものである。
【0017】
上記目的を達成するための本発明に係る多層輸送体の製造方法は、親水性の有用成分と界面活性剤とを混合して任意の回転数で撹拌してW/Oエマルションを調製する第1工程と、第1工程で調製したW/Oエマルションによって平均粒径100nmとされた固相を得る第2工程と、第2工程で得た固相を油相に分散してS/Oエマルションを調製する第3工程と、第3工程で調製したS/Oエマルションを減圧蒸留する第4工程とを備えるものである。
【0018】
上記目的を達成するための本発明に係る多層輸送体の製造方法は、親水性の有用成分と界面活性剤とを混合して任意の回転数で撹拌してW/Oエマルションを調製する第1工程と、第1工程で調製したW/Oエマルションによって平均粒径100nmとされた固相を得る第2工程と、第2工程で得た固相を油相に分散してS/Oエマルションを調製する第3工程と、第3工程で調製したS/Oエマルションを減圧蒸留する第4工程と、第4工程で得た生成物と界面活性剤とを混合して生成物を水相に分散してS/O/Wエマルションを調製する第5工程と、第5工程で調製したS/O/Wエマルションを減圧蒸留する第6工程とを備えるものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、有用成分の破壊や漏出が抑制され、かつ粒径制御が適切に施された高品質な多層輸送体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施の形態に係る多層輸送体の構成の概略を説明する図である。
図2】同じく、本実施の形態に係る多層輸送体の製造方法を説明するフローチャートである。
図3】同じく、本実施の形態に係る多層輸送体の製造方法を説明するブロック図である。
図4】本発明の第2実施の形態に係る多層輸送体の構成の概略を説明する図である。
図5】同じく、本実施の形態に係る多層輸送体の製造方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、図1図5に基づいて、本発明の実施の形態に係る多層輸送体について説明する。
【0022】
(第1実施の形態)
まず、図1図3に基づいて、第1実施の形態に係る多層輸送体について説明する。
【0023】
図1は、多層輸送体の構成の概略を説明する図である。図示のように、多層輸送体1は、固相10及びこの固相10を被覆する油相20によって生成される。
【0024】
この多層輸送体1は、本実施の形態では、皮膚外用剤に用いられるものであって、皮膚外用剤の形態としては、例えば乳液、クリーム、化粧水、美容液、ジェル、パック、洗顔料、石鹸、メーキャップ化粧料等の皮膚用化粧料に属する形態であれば好適に用いられる。
【0025】
固相10は、本実施の形態では、有用成分11及びこの有用成分11と混合された界面活性剤12によって生成される。
【0026】
有用成分11は、本実施の形態では、皮膚用化粧料を組成する親水性の成分であって、生理活性を有する成分であれば特に限定されるものではないが、生理活性の機能の発揮を目的として配合される成分であることが好ましい。
【0027】
特に、生理活性の機能を有するものの、その配合量や配合方法等の観点から、その生理活性の発揮を目的として配合されていないものは、本実施の形態の有用成分11には含まれない。
【0028】
界面活性剤12は、本実施の形態では、皮膚外用剤に用いられるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤あるいは胆汁酸塩等を用いることができる。
【0029】
非イオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、デカグリセリンエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油及び硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルチミン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖混合脂肪酸エステル)等が好ましい。
【0030】
これらの非イオン性界面活性剤から一種類を選択して用いる、あるいは二種類以上を選択して用いることができる。
【0031】
これらの非イオン性界面活性剤としては、エルカ酸やオレイン酸等の不飽和脂肪酸を原料とするエステル化合物が好適であり、より好ましくは、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖混合脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0032】
さらに、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油及び硬化ヒマシ油からなる群から選択される一種類あるいは二種類以上を用いることができる。
【0033】
陰イオン性界面活性剤としては、アルキル酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸塩またはリン酸エステル塩等を挙げることができる。
【0034】
陽イオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、自アルキルメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩またはアミン塩類等を挙げることができる。
【0035】
両性界面活性剤としては、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタインまたはアルキルアミンオキシド等を挙げることができる。
【0036】
これらの界面活性剤12は、一種類あるいは二種類以上を選択して用いることができる。
【0037】
界面活性剤12の配合量は、本発明の効果が発揮される範囲内において適宜設定されるものであって、例えば、有用成分11と界面活性剤12との重量比(有用成分:界面活性剤)を1:0.5~1:100とすることが好ましく、この場合、有用成分11の経皮吸収性を高めることができる。
【0038】
有用成分11の経皮吸収性を更に高める観点からは、有用成分11と界面活性剤12との重量比(有用成分:界面活性剤)を1:0.5~1:50とすることがより好ましく、1:0.5~1:30とすることが更に好ましい。
【0039】
界面活性剤12は、本実施の形態では、HLB価10以下という疎水性の高いものを用いることが好ましい。
【0040】
油相20は、本実施の形態では、皮膚外用剤に用いられるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、植物油、動物油、中性脂質(モノ置換、ジ置換またはトリ置換のグリセリド)、長鎖脂肪酸エステル、合成油脂、ステロール誘導体等を用いることができる。
【0041】
具体的には、大豆油、綿実油、菜種油、ゴマ油、コーン油、落花生油、サフラワー油、サンフラワー油、オリーブ油、ナタネ油、シソ油、ウイキョウ油、カカオ油、ケイヒ油、ハッカ油、ベルガモット油等の植物油;牛脂、豚油、魚油等の動物油;中鎖脂肪酸トリグリセリド、トリオレイン、トリリノレイン、トリパルミチン、トリステアリン、トリミリスチン、トリアラキドニン等の中性脂質;アゾン等の合成脂質;コレステリルオレエート、コレステリルリノレート、コレステリルミリステート、コレステリルパルミデート、コレステリルアラキデート等のステロール誘導体;ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸セチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル等の長鎖脂肪酸エステル;乳酸エチル、乳酸セチル等の乳酸エステル;クエン酸トリエチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル等の多価カルボン酸エステル;2-エチルヘキサン酸セチル等のその他のカルボン酸のエステル;ワセリン、パラフィンスクワラン等の炭化水素類;シリコン類等を挙げることができる。
【0042】
これらの油相20は、一種類を選択して用いてもよいし、二種類以上を選択して混合して用いてもよい。
【0043】
好適には、大豆油、綿実油、菜種油、ゴマ油、コーン油、落花生油、サフラワー油、サンフラワー油、オリーブ油、ナタネ油及びシソ油からなる群から選択される一種類あるいは二種類以上を用いることができる。
【0044】
特に好適には、トリグリセリドやこれを主成分とする植物油を用い、実用的には大豆油が好ましく、特に、高度に精製されて純度が高められた大豆油が好ましい。
【0045】
一方、中性脂質または長鎖脂肪酸エステルも好適に用いることができ、より好ましくは長鎖脂肪酸エステル、さらに好ましくはミリスチン酸イソプロピル(IPM)も用いることができる。
【0046】
次に、本実施の形態に係る多層輸送体1の製造方法について説明する。
【0047】
図2は、多層輸送体1の製造方法を説明するフローチャートである。図示のように、まず、ステップS1において、有用成分11を含む水相と界面活性剤12を含む油相とを混合して撹拌して、有用成分11を含む水相を油相に分散させて、W/Oエマルションを調製する(第1工程)。
【0048】
本実施の形態では、ホモジュナイザによる高速撹拌、プロペラミキサによる撹拌あるいはディスパによる撹拌によって水相と油相とが混合される。
【0049】
S/Oエマルションの平均粒径を100nmとして均質化する観点からは、W/Oエマルションの粒子はなるべく小さくかつ均質化することが好ましいことから、本実施の形態では、水相と油相とを20分間で18000回転~20000回転の回転数で撹拌、より好ましくは、10分間で22000回転~30000回転の回転数で撹拌する。
【0050】
続いて、ステップS2において、第1工程で調製したW/Oエマルションから水相及び油相を除去して、固相10を得る(第2工程)。水相及び油相の除去は、本実施の形態では、凍結乾燥あるいは減圧乾燥によって除去する。
【0051】
その後、ステップS3において、第2工程で得た固相10を油相に分散して、S/Oエマルションを調製する(第3工程)。油相への分散は、本実施の形態では、ホモジュナイザによる高速撹拌、プロペラミキサによる撹拌あるいはディスパによる撹拌によって実施される。
【0052】
さらに、必要に応じて、撹拌とともに超音波を照射して分散を実施することもできる。
【0053】
続いて、ステップS4において、第3工程で調製したS/Oエマルションを減圧蒸留して、多層輸送体1を得る(第4工程)。S/Oエマルションの減圧蒸留は、本実施の形態では、ロータリエバポレータで実施する。
【0054】
図3は、ロータリエバポレータでS/Oエマルションを減圧蒸留する場合の概略を説明する図である。図示のように、ロータリエバポレータ100のウォータバス101内で軸線Cに沿って回転するフラスコ102内にS/Oエマルションを投入して、S/Oエマルションを40℃以下、本実施の形態では39.5℃に加熱する。
【0055】
S/Oエマルションを39.5℃に加熱した後、真空ポンプ103でフラスコ102内を減圧するとともに冷却管104を介してS/Oエマルションを-10℃、好ましくは-20℃で冷却しながら吸引する。
【0056】
このように、本実施の形態では、ロータリエバポレータ100で最大で60℃の温度差、好ましくは59.5℃の温度差でS/Oエマルションを減圧蒸留することによって得られた多層輸送体1が、回収部105に回収される。
【0057】
S/Oエマルションの加熱を40℃以下、好ましくは39.5℃とすることによって、有用成分11にデオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)といったタンパク質が含有される場合に、これらのタンパク質が熱分解されてしまうことが抑制される。
【0058】
このような工程を経ることによって、有用成分11の破壊や漏出が抑制され、かつ粒径制御が適切に施された高品質な多層輸送体1を得ることができる。
【0059】
しかも、第1工程において、水相と油相とが任意の時間(例えば10分間)で任意の回転数(22000回転~30000回転)で撹拌されることによって、W/Oエマルションの粒子が小さくかつ均質に調製されることから、S/Oエマルションを減圧蒸留する時間が2時間以内(例えば1.5時間)に大幅に短縮される。
【0060】
(第2実施の形態)
次に、図4及び図5に基づいて、本発明の第2実施の形態に係る多層輸送体について説明する。
【0061】
なお、図4及び図5において、第1実施の形態と同様の構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0062】
図4は、多層輸送体の構成の概略を説明する図である。図示のように、多層輸送体2は、多層輸送体1及びこの多層輸送体1を被覆する、界面活性剤が含まれた水相30によって生成される。
【0063】
この多層輸送体2は、本実施の形態では、皮膚外用剤に用いられるものであって、皮膚外用剤の形態としては、例えば乳液、クリーム、化粧水、美容液、ジェル、パック、洗顔料、石鹸、メーキャップ化粧料等の皮膚用化粧料に属する形態であれば好適に用いられる。
【0064】
水相30は、本実施の形態では、皮膚外用剤に用いられるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、純水、精製水、蒸留水、生理食塩水、緩衝液等を用いることができる。
【0065】
図5は、多層輸送体2の製造方法を説明するフローチャートである。図示のように、ステップS5において、ステップS1~S4で得られた生成物である多層輸送体1を水相30に分散して、S/O/Wエマルションを調製する(第5工程)。
【0066】
続いて、ステップS6において、第5工程で調製したS/O/Wエマルションを減圧蒸留して、多層輸送体2を得る(第6工程)。S/O/Wエマルションの減圧蒸留は、本実施の形態では、図3で示したようなロータリエバポレータ100で実施する。
【0067】
このような工程を経ることによって、有用成分11の漏出が抑制され、かつ粒径制御が適切に施された高品質な多層輸送体2を得ることができる。
【0068】
なお、本発明は上記第1実施の形態及び第2実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0069】
上記各実施の形態では、多層輸送体1、2が対象となる部位に塗布されて使用される皮膚外用剤に用いられる場合を説明したが、皮膚外用剤に限られるものではなく、例えば錠剤あるいはカプセル剤等の剤形を採って経口摂取されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1、2 多層輸送体(生成物)
10 固相
11 有用成分
12 界面活性剤
20 油相
30 水相
100 ロータリエバポレータ(エバポレータ)
図1
図2
図3
図4
図5