(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144284
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ドアホールシール
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
B60J5/00 501E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045209
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】沖野 文人
(72)【発明者】
【氏名】江盛 真一郎
(57)【要約】
【課題】部材の当接によるドアホールシールの伸びを最小限とする。
【解決手段】ドアインナーパネル(D1)に取り付けられるドアホールシール(1)であって、ドアホール(D2)を車内側から塞ぐ第1シート(10)と、第1シート(10)の車内側に接着された第2シート(20)と、を備え、第2シート(20)の車内側の面は、第1シート(10)の車内側の面よりも、所定の部材(D3)に対して滑りやすい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアのドアインナーパネルに形成されたドアホールに取り付けられるドアホールシールであって、
前記ドアホールを車内側から塞ぐ第1シートと、
前記第1シートの車内側に接着された第2シートと、を備え、
前記第2シートの車内側の面は、前記第2シートに車内側から当接する、前記ドアの一部である所定の部材に対する摩擦係数が、前記第1シートの車内側の面よりも小さいことを特徴とするドアホールシール。
【請求項2】
前記第2シートの一部に、前記所定の部材に当接する部分を含む、前記第1シートに対する相対位置を移動可能な移動領域が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のドアホールシール。
【請求項3】
前記移動領域には、周縁の一部に、前記第2シートにおいて前記第1シートと接着する固定領域と接続する接続部が形成されていることを特徴とする、請求項2に記載のドアホールシール。
【請求項4】
前記移動領域は、前記周縁において、前記接続部以外の少なくとも一部が、前記固定領域と遊離可能に接続していることを特徴とする、請求項3に記載のドアホールシール。
【請求項5】
前記第1シートは、発泡弾性体により形成されており、前記第2シートは、合成樹脂により形成されていることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載のドアホールシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドアホールシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のドアのドアインナーパネルに形成された、作業用等の開口部であるドアホールを塞ぐために、ドアホールシールが使用されている。例えば、特許文献1には、ドアインナーパネルの車内側にシート本体部が合成樹脂フィルムを介して取り付けられるドアホールシールが開示されている。また、特許文献2には、樹脂製シートとシート状発泡弾性材とを備えた自動車用ドアホールシール材が開示されており、当該樹脂製シートには、衝撃吸収部材の突出方向先端側に対応する部分に貫通孔が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-2094号公報
【特許文献2】特開2018-58402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の合成樹脂フィルムおよび特許文献2の樹脂製シートはいずれも、ドアホールシールに車内側から接触する部材に接触するものではない。また、特許文献2では、樹脂製シートに衝撃吸収部材が接触しないように貫通孔を設けている。
【0005】
しかしながら、シート状発泡弾性材に衝撃吸収部材が接触すると、接触部分を起点として、シート状発泡弾性材が伸びる。このときの伸びる量によっては、ドアホールシールとドアインナーパネルとの溶着部に負荷がかかり、溶着部の位置がずれてしまう虞がある。特許文献2では、シート状発泡弾性材の一部を弛ませることでこのような問題を低減しているが、弛ませる製造工程を追加で要するため、製造コストが増加してしまう。
【0006】
本発明の一態様は、ドアホールシールに部材が当接することによるドアホールシールの伸びを最小限とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るドアホールシールは、車両のドアのドアインナーパネルに形成されたドアホールに取り付けられるドアホールシールであって、前記ドアホールを車内側から塞ぐ第1シートと、前記第1シートの車内側に接着された第2シートと、を備え、前記第2シートの車内側の面は、前記第2シートに車内側から当接する、前記ドアの一部である所定の部材に対する摩擦係数が、前記第1シートの車内側の面よりも小さい。
【0008】
前記の構成によれば、第2シートは第1シートの車内側に接着される。そして、第2シートは第1シートよりも、車内側から当接する所定の部材に対する摩擦係数が小さい。これにより、所定の部材が第2シートに当接したときに、所定の部材がドアホールシールに対して当接する当接位置が滑って移動しやすい。したがって、所定の部材とドアホールシールとの当接位置を、ドアホールシールの第1シートの伸び量が最小限となる位置とすることができる。これにより、ドアホールシールに所定の部材が当接することによる、ドアホールシールの第1シートの伸びを最小限とすることができる。
【0009】
本発明の一態様に係るドアホールシールは、前記第2シートの一部に、前記所定の部材に当接する部分を含む、前記第1シートに対する相対位置を移動可能な移動領域が形成されていてもよい。
【0010】
前記の構成によれば、第2シートは、所定の部材に当接する部分に移動領域が形成されている。移動領域は、所定の部材が当接することで、第1シートに対する相対位置が移動可能である。そのため、所定の部材がドアホールシールに当接すると、第2シートの車内側の面が滑って所定の部材の当接位置が移動し、さらに、第2シートの移動領域も移動する。したがって、所定の部材のドアホールシールとの当接位置が、第1シートの伸び量が最小限となる位置に、より移動しやすくなる。
【0011】
本発明の一態様に係るドアホールシールは、前記移動領域には、周縁の一部に、前記第2シートにおいて前記第1シートと接着する固定領域と接続する接続部が形成されていてもよい。
【0012】
前記の構成によれば、移動領域は、周縁の一部が固定領域と接続している。このとき、移動領域の周縁において、接続部を基点として移動領域がめくれ上がることが可能となる。これにより、第2シートに、第1シートに対する相対位置が移動可能な移動領域を形成できる。
【0013】
本発明の一態様に係るドアホールシールは、前記移動領域は、前記周縁において、前記接続部以外の少なくとも一部が、前記固定領域と遊離可能に接続していてもよい。
【0014】
前記の構成によれば、ドアに所定の部材を取り付ける前の状態において、移動領域の周縁は、接続部に加え、他の部分も固定領域と接続している。したがって、重力等によって移動領域が意図せず移動してしまうことを防止できる。そして、所定の部材が移動領域に当接すると、移動領域の周縁において固定領域と接続した部分が遊離し、移動領域が第1シートに対して相対位置を移動可能な状態とすることができる。
【0015】
本発明の一態様に係るドアホールシールは、前記第1シートは、発泡弾性体により形成されており、前記第2シートは、合成樹脂により形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、ドアホールシールに部材が当接することによるドアホールシールの伸びを最小限とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係るドアホールシールが取り付けられたドアインナーパネルの車内側の構造を示す図である。
【
図2】
図1に示すドアホールシールに形成される移動領域周りを示す拡大図である。
【
図3】
図1に示すドアホールシールのA-A線矢視断面図であって、ドアトリムが車内側から取り付けられる前後の状態を示す断面図である。
【
図4】一実施形態の変形例に係るドアホールシールの一部を示す図である。
【
図5】一実施例において、ドアインナーパネルの車内側から見た場合における、第1シートの移動量を評価した位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<ドアホールシールの概要および取り付け例>
図1を参照して、本発明の一実施形態に係るドアホールシール1の概要および取り付け例について説明する。なお、
図1の例において、紙面向かって上側が鉛直上側、下側が鉛直下側、右側がフロント側(車両の前側)、左側がリヤ側(車両の後側)、手前側が車内側(車両の内側)、奥側が車外側(車両の外側)に、それぞれ対応している。また、
図1は、フロントドアDを車内側から見た図である。ただし、これはドアホールシール1が車両に取り付けられる方向を制限するものではなく、ドアホールシール1は、車両に対していかなる方向となるように取り付けられてもよい。
【0019】
フロントドアDは、車両のドアの一例であり、車両のフロントドア用開口部(図示せず)に開閉可能に取り付けられている。フロントドアDは、ドアアウターパネル(図示せず)およびドアインナーパネルD1を備え、ドアインナーパネルD1にはドアホールD2が形成されている。ドアホールD2は、例えばフロントドアDの内部に配置された各種部品を組付けするために、作業者が手または工具等を入れるための開口部である。なお、
図1に示すフロントドアDの形成態様はあくまで一例である。
【0020】
ドアインナーパネルD1の車内側の面には、ドアホールシール1が取り付けられている。ドアホールシール1は、ドアホールD2を車内側から塞ぐことで、フロントドアDの内部に浸入した雨水等が、ドアホールD2から車内に浸入するのを防止する。
【0021】
ドアホールシール1は、
図1に示すように、第1シート10と第2シート20とを備えている。第2シート20は、第1シート10の車内側の面に、接着部22(固定領域)にて接着される。ドアホールシール1は、ドアインナーパネルD1の車内側の面に接着することで、ドアホールD2を塞ぐように取り付けられている。
【0022】
ドアインナーパネルD1には、ドアホールシール1とドアインナーパネルD1との接着部であるブチルラインBが形成されている。第2シート20は、第1シート10の外形を内包するように、第1シート10の車内側に接着される。ドアホールシール1は、第2シート20の車外側の面における、第1シート10と重なる部分よりも外側の周縁部分により、ブチルラインBに接着する。なお、本明細書において「接着」は、「粘着」、「圧着」、「溶着」等の概念を含む。
【0023】
なお、上述したドアホールシール1の取り付けはあくまで一例である。例えば、ドアホールシール1が取り付けられる車両のドアは
図1の例に示すフロントドアDに限定されず、およそ車両のドアであればどのような種類のドアであってもよい。したがって、ドアホールシール1は、例えばリアドアまたはスライドドアに取り付けられてもよい。また、ドアホールシール1の取り付け対象となる車両についても、ハードトップ車およびコンバーチブル車をはじめとする任意の種類の車両が取り付け対象となる。
【0024】
<ドアホールシールの材料>
ドアホールシール1は、防水性および防音性を備えていることが好ましい。ドアホールシール1の防水性および防音性は主に、第1シート10および第2シート20の材料により調整できる。
【0025】
第1シート10の材料の例としては、エラストマーおよびエラストマーを含む複合体が挙げられる。エラストマーの例としては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等のゴムおよび熱可塑性エラストマー(Thermoplastic Elastomer:TPE)が挙げられ、TPEの例としては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(Thermoplastic Olefinic Elastomer:TPO)が挙げられる。
【0026】
また、第1シート10は、上述のようなエラストマーまたはエラストマーを含む複合体を発泡させた発泡弾性体であることが好ましい。このような構成によれば、第1シート10は、高い防音性および防水性を備えることができる。
【0027】
このような材料により形成される第1シート10は、表面が比較的滑りにくく形成される。そうすると、第1シート10の車内側の面に、フロントドアDの一部である所定の部材が当接して押し付けられる場合、第1シート10が変形により過剰に伸びてしまう虞がある。以下、前記所定の部材として、フロントドアDに車内側から取り付けられるドアトリムD3を例として説明する(
図3参照)。
【0028】
第1シート10は、ドアトリムD3に当接する当接部分を伸び基点として伸びることがある。第1シート10の車内側の面は滑りにくく形成されているため、第1シート10は、当接部分を略そのまま伸び基点として伸びてしまう。伸び基点がブチルラインBの位置に近い場合、ドアトリムD3が押し付けられた部位での第1シート10が、ブチルラインBを引き込みながら伸びる。そのため、ドアホールシール1とブチルラインBとの接着位置の移動量が大きくなってしまう。
【0029】
第1シート10の伸び量が大きくなるほど、ドアホールシール1がブチルラインBに接着する部分が、伸び基点に向けて引っ張られる力が強くなる。当該引っ張られる力は、ドアホールシール1におけるブチルラインBとの接着部分の位置がずれてしまう原因となる。ドアホールシール1におけるブチルラインBとの接着部分がずれると、ドアホールシール1の防音性および/または防水性が低下する虞がある。
【0030】
ここで、ドアホールシール1においてドアトリムD3と当接する部分が、第1シート10の表面よりも滑りやすく形成されていれば、前記伸び基点は、第1シート10の伸びが最小限となる位置に移動しやすい。ドアトリムD3が第1シート10に押し付けられるに従って、ドアトリムD3が第1シート10を押し付ける位置が、滑って移動できるためである。これにより、ドアホールシール1にドアトリムD3が当接することによる、第1シート10の伸びを最小限とすることができる。本実施形態に係るドアホールシール1は、第1シート10の車内側に接着された第2シート20を備えている。
【0031】
第2シート20は、車内側の面が、第1シート10の車内側の面よりも滑りやすく形成されている。言い換えれば、第2シート20の車内側の面は、フロントドアDの一部であって、第2シート20に車内側から当接する所定の部材(ドアトリムD3)に対する摩擦係数が、第1シート10の車内側の面よりも小さい。
【0032】
第2シート20の材料の例としては、合成樹脂が挙げられ、合成樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の例としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PVA(ポリビニルアルコール)およびABS(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン)等が挙げられる。第2シート20がこのような材料で形成されていれば、第2シート20の車内側の面を容易に滑りやすく形成できる。なお、第2シート20の材料は、第1シート10の車内側の面よりも摩擦係数が少なく形成される限りにおいて、特に限定されない。
【0033】
このような第2シート20によれば、ドアトリムD3が第2シート20に当接して押し付けられたときに、ドアトリムD3が第1シート10を押し付ける位置が滑って移動しやすい。したがって、ドアトリムD3によって伸びる第1シート10における伸び基点の位置を、第1シート10の伸び量が最小限となる位置とすることができる。したがって、ドアホールシール1におけるブチルラインBとの接着部分がずれにくい。また、当該接着部分のずれを低減するために、第1シート10の一部をあらかじめ弛ませておく等の工程が不要となる。
【0034】
このような、前記接着部分のずれを防止する効果は、ドアトリムD3が第1シート10に、ブチルラインBに近い位置で当接する場合に、特に顕著である。
【0035】
ドアホールシール1において、第2シート20は、第1シート10の車内側の略全面を覆うように、大きさおよび第1シート10へ接着する位置が設定されている。しかしながら、第2シート20は、第1シート10におけるドアトリムD3の当接位置の少なくとも1つを覆っていればよい。
【0036】
また、第2シート20に車内側から当接する所定の部材は、ドアトリムD3に限られない。フロントドアDの構造によって、フロントドアDの一部であり、第2シート20に車内側から当接するあらゆる部材が、所定の部材として意図される。
【0037】
ドアホールシール1は、第1シート10の車内側の面に第2シート20を接着することで製造できる。第1シート10および第2シート20はそれぞれ、公知の方法により製造してよい。また、第1シート10および/または第2シート20には、ワイヤー等を挿通するための、スリット等の開口部を形成してもよい。
【0038】
<スカート部>
第2シート20には、スカート部21(移動領域)が形成されている。このように、本発明の一実施形態に係るドアホールシールは、第2シートにスカート部が形成されていることが好ましい。スカート部21について、
図2および
図3を用いて詳細に説明する。
【0039】
図2は、
図1における紙面向かって右側のスカート部21周辺を示す拡大図であって、スカート部21がめくれた状態を示す。また、
図3は、
図1に示すA-A線矢視断面図であって、符号301は、ドアトリムD3が取り付けられる直前の状態を示し、符号302は、ドアトリムD3が取り付けられた状態を示す。
図3の例において、紙面向かって上側が鉛直上側、下側が鉛直下側、右側が車内側、左側が車外側、手前側がリヤ側、奥側がフロント側に、それぞれ対応している。
【0040】
図3に示すように、フロントドアDにおいて、ドアインナーパネルD1の車内側には、フロントドアDの一部を構成するドアトリムD3が取り付けられる。ドアトリムD3は、車外側の面に凹凸が形成されている。ドアトリムD3の車外側の面において車外側に突出する部分の少なくとも一部は、ドアホールシール1の車内側の面に当接する。
【0041】
第2シート20において、スカート部21が形成されている領域は、ドアトリムD3が車内側から当接する部分を含むことが好ましい。第2シート20は、スカート部21が形成される移動領域と、第1シート10と接着する領域である接着部22とが形成され置得る。接着部22は、第1シート10に対する相対位置が固定された、固定領域ということができる。なお、第2シート20は、接着部22により囲まれる領域が、スカート部21となる部分を除いて切り抜かれて形成されている。
【0042】
図2に示すように、スカート部21は、第2シート20の一部がスカート状となるように、スカート部21以外の領域が切り抜かれることで形成されている。本実施形態において、スカート部21は外形が矩形状である。スカート部21の周縁は、遊離部21aと接続部21bとを含む。遊離部21aは、スカート部21の周縁において、鉛直上側の1辺以外の、接着部22と接続していない3辺である。遊離部21aは、第2シート20の切り抜かれた切断部分に対応する。
【0043】
接続部21bは、スカート部21の周縁において、接着部22と接続する鉛直上側の1辺である。すなわち、接続部21bは、スカート部21の周縁の一部であって、切り抜かれていない1辺であるといえる。スカート部21は、接続部21bを境界として、第2シート20からめくれ上がることが可能である。言い換えれば、スカート部21には、周縁の一部に、接着部22と接続する接続部21bが形成されており、接続部21bは、前記周縁における直線状の部分である。
【0044】
図3に示すように、スカート部21は、ドアトリムD3が車内側から当接すると、第1シート10とドアトリムD3とに挟まれる。ドアトリムD3の、スカート部21への当接部分がさらに車内側に押し込まれると、スカート部21が当該当接部分に押し付けられてめくれ上がる。
図3の符号301に示す当接位置Xは、ドアトリムD3をフロントドアDに取り付けるときに、ドアトリムD3が最初にドアホールシール1に当接する位置を示す。このとき、仮にドアホールシール1が第2シート20を備えていなければ、第1シート10は、当接位置Xを伸び基点として伸びて、ドアトリムD3の車内側の面に沿った形状に変形する。
【0045】
しかしながら、ドアホールシール1は、第2シート20を備えている。そのため、ドアトリムD3がさらに車外側に押し込まれると、ドアトリムD3のドアホールシール1に対する当接位置は、当接位置Xから当接位置Yに移動する。これは、スカート部21が、第1シート10に対して滑りながらめくれ上がるためである。これにより、ドアトリムD3のドアホールシール1に対する当接位置が、第1シート10の伸びが最小限となる位置に移動できる。
【0046】
このように、第2シート20にスカート部21が形成されていれば、ドアトリムD3のドアホールシール1に対する当接位置が移動しやすくなる。ドアトリムD3は、第2シート20の車内側の面を滑るだけでなく、ドアトリムD3が押し付けられた第2シート20のスカート部21も、第1シート10に対して滑って移動できるためである。
【0047】
また、スカート部21は、第2シート20の一部を切り抜く時に、接着部22の内側の一部を残しておくことで、製造工程を大きく増加させることなく容易に形成できる。このように、スカート部21は容易かつ低コストに形成可能でありながら、ドアトリムD3が押し付けられることによる第1シート10の伸びを効果的に低減できる。
【0048】
なお、本実施形態では第2シート20の一部を切り抜くことで、スカート部21を形成している。しかしながら、スカート部21の形成方法はこれに限られない。例えば、第1シート10において、ドアトリムD3に押し付けられる各位置に個別に第2シート20を接着してもよい。このとき、第2シート20の鉛直上側に位置する1辺のみを第1シート10に接着すれば、第2シート20はスカート部21と同様に機能できる。この場合、第2シート20において、第1シート10に接着された部分が第2シート20の固定領域であり、それ以外の部分が移動領域であるといえる。
【0049】
<変形例>
本実施形態に係るドアホールシール1には、様々なバリエーションが想定される。
図1および
図4を参照して、ドアホールシール1の一変形例について説明する。
【0050】
(ミシン目)
図1に示すドアホールシール1において、紙面向かって左側にもスカート部21が形成されている。このスカート部21には、第2シート20の周縁に形成される接着部22側の1辺に、ミシン目22cが形成されている。また、スカート部21は、ミシン目22cが形成される1辺と対向する1辺が、第2シート20の周縁に形成される接着部22とは独立して形成される接着部22により、第1シート10と接着している。この場合、スカート部21における接続部21bは、スカート部の周縁の一部であって、独立して形成される接着部22を囲む領域であるといえる。
【0051】
ミシン目22cは、スカート部21が第2シート20周縁の接着部22から容易に遊離可能なように形成されている。ここで、「容易に遊離可能」とは、スカート部21にドアトリムD3が当接して押し付けられた場合に、押し付ける力によってミシン目21cが破れることで、容易に接着部22から遊離できる状態を示す。このように、スカート部21は、周縁において、接続部21b以外の少なくとも一部が、接着部22と遊離可能に接続していてもよい。
【0052】
このような構成によれば、フロントドアDにドアトリムD3を取り付ける前の状態において、スカート部21の周縁は、接続部21bに加え、ミシン目21cが形成される部分も、接着部22と接続している。したがって、重力等によってスカート部21が意図せずめくれてしまうことを防止できる。そして、ドアトリムD3がスカート部21に当接して押し付けられると、スカート部21の周縁において、接着部22と接続したミシン目21cが遊離する。これにより、スカート部21はめくれることができる状態になり、第1シート10に対して相対位置を移動できる。
【0053】
(ミシン目のバリエーション)
さらに、
図4を参照してスカート部21の別の変形例を示す。
図4に示すように、本変形例に係るドアホールシール1-2は、スカート部21とは異なる構成のスカート部21-2を備えている。
図4の例において、紙面向かって上側が鉛直上側、下側が鉛直下側、右側がフロント側、左側がリヤ側、手前側が車内側、奥側が車外側に、それぞれ対応している。
【0054】
ドアホールシール1-2において、第2シート20-2は、第1シート10の車内側の面に接着部22-2により接着している。第2シート20-2では、スカート部21-2は、スカート部21-2とする領域の鉛直上側および鉛直下側の領域が切り抜かれることで形成されている。第2シート20-2における切り抜かれた部分が、スカート部21-2の遊離部21-2aに対応する。そして、スカート部21-2のリヤ側の1辺は、接続部21-2bとして、接着部22-2に接続している。
【0055】
また、スカート部21-2のフロント側の1辺には、ミシン目21-2cが形成されている。
図4に示すように、スカート部21-2の周縁において、ミシン目21-2cが形成される1辺は、接続部21-2bを構成する1辺よりも短く形成されることが好ましい。これによれば、ミシン目21-2cが、ドアトリムD3からの力によって破れやすくなる。
【0056】
また、スカート部21-2の周縁は、遊離部21-2aが形成されていなくてもよい。すなわち、スカート部21-2の周縁は、接続部21-2b以外の部分が全てミシン目21-2cにより構成されていてもよい。この場合、ドアトリムD3がスカート部21-2に当接して押し付ける力がかからない限り、スカート部21-2が意図せずめくれてしまうことを確実に防止できる。また、フロントドアDの製造等の作業中に、遊離部21-2aに作業者の手がひっかかる等により、ミシン目21-2cが意図せず破れてしまうことを防止できる。
【0057】
また、スカート部21-2の周縁に形成される「容易に遊離可能」な部分は、ミシン目21-2cに限られない。例えば、スカート部21-2の周縁において、接続部21-2b以外の一部が、剥がれやすいテープ等により仮固定されていてもよい。
【0058】
また、スカート部21-2は多角形状に形成されているが、スカート部の外形はこれに限られない。スカート部の周縁における遊離部は、曲線状に形成されていてもよく、直線および曲線が混在する形状として形成されてもよい。このような構成によれば、ドアトリムD3の車外側に突出する部分の位置および形状に合わせて、最適な形状のスカート部を形成できる。
【実施例0059】
本発明の一実施例および比較例に係るドアホールシールについて、ドアトリムD3を取り付ける前後の、第2シート20がブチルラインBに接着する接着位置の移動量を比較する比較実験を行った。
【0060】
実施例に係るドアホールシールは、
図1に示すドアホールシール1であって、第2シート20としてポリエチレン製シートを備えるものである。また、比較例に係るドアホールシールは、ドアホールシール1とは異なり、車内側の面に第2シート20を備えず、車外側の面に第2シート20と同様のポリエチレン製シートを備えるものである。第1シート10は、実施例および比較例に係るドアホールシールのいずれにおいても、EPDMを発泡させて形成した発泡弾性体シートを用いた。実施例または比較例に係るドアホールシールはいずれも、ポリエチレン製シートにおいて第1シートの外側に位置する部分が、ドアインナーパネルD1に形成されたブチルラインBに接着している。
【0061】
本比較実験では、各ドアホールシールをそれぞれ、ドアホールD2を覆うようにドアインナーパネルD1に接着し、さらにドアトリムD3を取り付けた。ドアトリムD3取り付け後、48時間常温にてフロントドアDを静置した。その後、ドアトリムD3をフロントドアDから取り外し、各ドアホールシールのポリエチレン製シートにおける、ブチルラインBに接着する位置の移動量(ミリメートル)を評価した。
【0062】
図5は、ドアインナーパネルD1の一部を車内側から見た図である。
図5では、各ドアホールシールに対してドアトリムD3が当接する位置を当接位置Xとして示している。また、移動量の評価は、評価位置P1からP9までの各位置でそれぞれ行った。評価位置P1からP9に示す矢印はそれぞれ、ポリエチレン製シートのブチルラインBに対する接着位置が移動する方向、または移動し得る方向を示す。本実施例に係るドアホールシール1では、当接位置Xに対応する位置に、スカート部21がそれぞれ形成されている。
【0063】
以下の表1に、評価位置P1からP9の各位置における接着位置の移動量を示す。なお、表1では、移動量が5mm以上となった部分を白抜き文字で示している。
【0064】
【0065】
表1に示すように、比較例に係るドアホールシールでは、評価位置P2、P5、P6において移動量が5mmを超えており、当接位置Xの近傍において接着位置の大きなずれが確認された。一方、実施例に係るドアホールシール1では、いずれの評価位置であっても、接着位置の移動量を2mm以下に低減できていた。
【0066】
以上の結果から、第2シート20を第1シート10の車内側の面に備えるドアホールシール1であれば、ドアトリムD3により第1シート10が伸びる量が最小限となり、第2シート20とブチルラインBとの接着位置のずれを低減できることが示された。
【0067】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態または実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。