(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144306
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】モデリング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20220926BHJP
G06T 17/20 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H01L21/66 W
G06T17/20 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045246
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 慎平
(72)【発明者】
【氏名】塚田 弘志
(72)【発明者】
【氏名】芳野 公則
(72)【発明者】
【氏名】谷崎 広幸
【テーマコード(参考)】
4M106
5B080
【Fターム(参考)】
4M106AB08
4M106CA48
4M106DJ19
4M106DJ20
5B080AA18
(57)【要約】
【課題】計測精度の低下を抑制しつつパラメータの数を低減することが可能な、モデリング方法を提供する。
【解決手段】モデリング方法は、積層構造を有する構造体に設けられた被形状計測対象を境界線によって形状近似するモデリング方法であって、被形状計測対象の計測値に対して標準偏差を公差として与え、公差内に収束するように計算境界線を配置することによって、被形状計測対象の形状を表現する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被形状計測対象を境界線によって形状近似するモデリング方法であって、
前記被形状計測対象の計測値に対して所定の公差を与え、前記公差内に収束するように計算境界線を配置することによって、前記被形状計測対象の形状を表現することを特徴とする、モデリング方法。
【請求項2】
前記公差は、前記計測値に対する標準偏差であることを特徴とする、請求項1に記載のモデリング方法。
【請求項3】
被形状計測対象を材料界面の基準に分割して近似領域を設定することと、
前記近似領域を規定する分割面の位置が異なる1つ以上の分割パターンを設定することと、
前記被形状計測対象の計測値に対して所定の公差を与え、数式を用いた形状モデルによって前記公差内に収まるように被形状計測対象を形状近似することと、
近似を行った全ての前記分割パターンの中から最小の次元数で表現可能なパターンを選択することと、
前記次元数が最小となる前記数式によって前記被形状計測対象の形状を表現することと、
を特徴とする、モデリング方法。
【請求項4】
前記近似領域に対して最小次数から多項式近似を行い、前記被形状計測対象の前記計測値と多項式近似によって算出された近似値との残差が前記公差を超えた場合、前記次数を1だけ増加させて多項式近似を繰り返し、すべての計測位置について前記残差が前記公差を下回った時点での多項式の次数を部分多項式次数とし、前記分割パターンを構成する前記近似領域の前記部分多項式次数を合算して前記分割パターンの形状表現次数とし、多項式近似を行った前記分割パターンから前記形状表現次数が最小となる前記分割パターンに含まれる多項式を用いて前記被形状計測対象の形状を表現する、請求項3に記載のモデリング方法。
【請求項5】
全ての前記分割パターンの中から、多項式近似を行う前記分割パターンを任意に選択できることを特徴とする、請求項3、または、請求項4に記載のモデリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、モデリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板上の成膜部位に形成された深孔・深溝の深さや側壁などの3次元形状を、断面SEM(Scanning Electron Microscopy)や多波長光計測装置等で計測した結果を表現する手法として、多項式近似が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態は、計測精度の低下を抑制しつつパラメータの数を低減することが可能な、モデリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態のモデリング方法は、被形状計測対象を境界線によって形状近似するモデリング方法であって、前記被形状計測対象の計測値に対して所定の公差を与え、前記公差内に収束するように計算境界線を配置することによって、前記被形状計測対象の形状を表現することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】3次元構造のNANDメモリのメモリセルアレイを有する半導体記憶装置の一部領域の断面図。
【
図2】メモリホールを形成する工程について説明する概略断面図。
【
図3】メモリホールの形成手順の一例を説明するフローチャート。
【
図4】実施形態における3次元形状のモデリング方法の一例を説明するフローチャート。
【
図5】実施形態の方法で算出した近似多項式のプロファイルの一例を説明する図。
【
図6】実施形態の方法で算出した近似多項式のプロファイルの一例を説明する図。
【
図7】比較例における近似多項式のプロファイルの一例を説明する図。
【
図8】メモリホールの形成手順の一例を説明する別のフローチャート。
【
図9】ある特定の加工段階における測長値のプロファイルの一例を説明する図。
【
図10】
図9に示す測長値に対し、近似多項式の収束範囲としての設定する境界領域の一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
(第1実施形態)
(1.モデリング対象となる三次元形状)
本実施形態は、積層構造を有する構造体に設けられた深孔・深溝の深さや側壁などの3次元形状を、多項式近似によりモデリングする際に適用可能である。例えば、3次元構造のNANDメモリのメモリセルアレイを有する半導体記憶装置のメモリホールの加工形状のモデリングに、本実施形態によるモデリング方法を用いることができる。
【0008】
図1は、3次元構造のNANDメモリのメモリセルアレイを有する半導体記憶装置の一部領域の断面図である。
図1には、メモリセルアレイと周辺回路領域の一部領域を図示している。以下の説明では、半導体基板71表面と平行な平面にあって、ビット線BLの延伸する方向をx方向とする。また、半導体基板71表面と平行かつx方向と直交する方向をy方向とする。また、半導体基板71表面と直交する方向をz方向とする。本実施形態では、メモリ回路が形成されるメモリ領域600が半導体基板上に設けられており、メモリ領域600の周辺の半導体基板71上に、周辺回路が形成される周辺回路領域500が設けられている。すなわち、Z方向からみた場合に、メモリ領域600と周辺回路領域500とは、互いに重ならないように配置されている。
【0009】
図1に示すように、p型ウェル領域(P-well)上に複数のNANDストリングNSが形成されている。すなわち、p型ウェル領域上には、セレクトゲート線SGSとして機能する複数の配線層633、ワード線WLiとして機能する複数の配線層632、およびセレクトゲート線SGDとして機能する複数の配線層631が積層されている。なお、
図1においては、ワード線WLiとして機能する配線層632が8層積層された構造を示しているが、半導体記憶装置のメモリセルアレイにおいては、48層、64層、96層など更に多層の配線層632が積層されていてもよい。
【0010】
そして、これらの配線層633、632、631を貫通してp型ウェル領域に達するメモリホール634が形成されている。メモリホール634の側面には、ブロック絶縁膜635、電荷蓄積膜636、およびゲート絶縁膜637が順次形成され、更にメモリホール634内に半導体柱638が埋め込まれている。半導体柱638は、例えばポリシリコンからなり、NANDストリングNSに含まれるメモリセルトランジスタMT並びに選択トランジスタST1及びST2の動作時にチャネルが形成される領域として機能する。
【0011】
各NANDストリングNSにおいて、p型ウェル領域上に選択トランジスタST2、複数のメモリセルトランジスタMT、及び選択トランジスタST1が形成されている。半導体638よりも上側には、ビット線BLとして機能する配線層が形成される。半導体柱638の上端には、半導体柱638とビット線BLとを接続するコンタクトプラグ639が形成されている。
【0012】
さらに、p型ウェル領域の表面内には、n+型不純物拡散層およびp+型不純物拡散層が形成されている。n+型不純物拡散層上にはコンタクトプラグ640が形成され、コンタクトプラグ640上には、ソース線SLとして機能する配線層が形成される。
【0013】
以上の
図1に示した構成が、
図1の紙面の奥行き方向(y方向)に複数配列されており、奥行き方向に一列に並ぶ複数のNANDストリングの集合によって、1つのストリングユニットSUが形成される。
【0014】
一方、周辺回路領域500には、入出力回路など周辺回路に含まれる各回路が形成される。例えば、前述した入出力回路は、インバータなどの論理ゲートが多段に組み合せられた構成である。従って、周辺回路領域500には、論理ゲートを構成するMOSトランジスタが多数形成される。これらの多数のMOSトランジスタは、周辺回路領域500内の半導体基板71上に形成される。
図1には、これらのMOSトランジスタのうちの1つを示している。なお、
図1は不揮発性メモリの断面構造を模式的に示すものであり、
図1に示されるMOSトランジスタ100の大きさ、及び、MOSトランジスタ101を構成する要素間の比率は、実際の大きさや比率とは異なる。
【0015】
周辺回路を構成するMOSトランジスタ100は、半導体基板71上に、ゲート絶縁膜を介してゲート配線110が形成されている。ゲート配線110は、例えば、MOSトランジスタの動作に適した不純物が注入されたポリシリコン膜である。ゲート配線110のX方向右側と左側の半導体基板中には、ドレイン領域120とソース領域130とが形成されている。例えば、MOSトランジスタ100がn型のMOSトランジスタ(NMOSトランジスタ)である場合、ドレイン領域120とソース領域130には、例えば、ヒ素(As)やリン(P)などの不純物が半導体基板71中に注入され、所定の深さまで拡散されている。
【0016】
ゲート配線110より上層には、絶縁層を介してゲート配線110に電位を供給するための金属配線113が形成されている。ゲート配線110上には、コンタクト領域としてのゲート電極111が形成されている。ゲート電極111の上側には、金属配線113とゲート電極110とを電気的に接続するための、コンタクトプラグ112が形成されている。すなわち、金属配線113の電位が、コンタクトプラグ112介してゲート電極111からゲート配線110に供給される。
【0017】
ドレイン領域120より上層には、絶縁層を介してドレイン領域120に電位を供給するための金属配線123が形成されている。ドレイン領域120上には、コンタクト領域としてのドレイン電極121が形成されている。ドレイン電極121の上側には、金属配線123とドレイン電極121とを電気的に接続するためのコンタクトプラグ122が形成されている。すなわち、金属配線123の電位が、コンタクトプラグ122介してドレイン電極121からドレイン領域120に供給される。
【0018】
ソース領域130より上層には、絶縁層を介してソース領域130に電位を供給するための金属配線133が形成されている。ソース領域130上には、コンタクト領域としてのソース電極131が形成されている。ソース電極131の上側には、金属配線133とソース電極131とを電気的に接続するためのコンタクトプラグ132が形成されている。すなわち、金属配線133の電位が、コンタクトプラグ132介してソース電極131からソース領域130に供給される。
【0019】
ビット線BL、ソース線SL、金属配線131~133のように、金属材料で形成される配線層は、NANDストリングNSを形成後、これより上層に形成される。通常、金属材料で形成される配線層は、絶縁膜を挟んで複数層形成される。
図1の例では、ML1、ML2、ML3の3層の配線層が設けられている場合を示している。ビット線BL、ソース線SL、金属配線131~133は、これらの配線層のうちの1つ以上の層に形成される。例えば、
図1では、下から一層目の配線層ML1に金属配線131~133とソース線SLが形成されており、下から二層目の配線層ML2にビット線BLが形成されている場合を示している。なお、最上層の配線層ML3には、例えば、電源電圧を伝達する配線などが形成されている。
【0020】
次に、
図1に示すような構造を有する半導体記憶装置における、メモリホール634の形成方法について、
図2を用いて説明する。
図2は、メモリホールを形成する工程について説明する概略断面図である。メモリホール634は、例えば、複数の工程を経て形成される。
図2には、メモリホール634を形成するための複数の工程における断面図を、時間的な順序に従って、左から右に並べて示している。
【0021】
まず、最初の工程(工程1)において、半導体基板71上に、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜とが交互に堆積され、半導体基板71表面の全面にON積層膜72が形成される。
図12において、実線は、シリコン窒化膜に対応し、実線に隣接した空白がシリコン酸化膜に対応する。ON積層膜72におけるシリコン窒化膜は、後の工程で導電帯膜(例えば、タングステン膜)に置換され、配線層631、配線層632、及び、配線層633となる。ON積層膜72におけるシリコン酸化膜は、上述の配線層間の絶縁膜となる。
【0022】
続く工程(工程2)において、ON積層膜72の表面に、エッチングマスク膜73が堆積される。エッチングマスク膜73は、例えば、アモルファスカーボン膜などが用いられる。そして、次の工程(工程3)において、メモリホールを形成する領域に位置するエッチングマスク膜73が除去され、エッチングマスク膜73に開口部が形成される。
【0023】
続く工程(工程4~工程6)において、エッチングマスク膜73をマスクとして用いるドライエッチングにより、エッチングマスク膜73の開口部の下部に形成されたON積層膜72が除去される。メモリホール634は、例えば直径が100nm程度で深さが数μmと高アスペクト比の孔である。従って、メモリホール634を形成する過程において、最適なエッチング条件が変化し得る。そこで、メモリホール634を形成する過程において、複数段階でエッチング条件の変更が行われる。例えば、予め定められた各段階が終了した時点では、エッチングが一旦中断され、孔の加工状態(エッチングマスク膜73の残膜厚、ON積層膜72のエッチング深さ、及び、断面形状など)が計測される。そして、計測された加工状態に応じて、エッチング条件を調整して、次の段階のエッチングを行う。
図2においては、ある段階の終了時点における断面を工程4に示し、工程4より後の段階の終了時点における断面を工程5として示している。なお、メモリホール形成のためのエッチングにおいて加工状態の計測とエッチング条件の調整をするための「段階」がさらに多く定められていてもよい。各段階が終了する都度、加工状態の計測が行われ、次の段階のエッチング条件の調整にフィードバックされる。また、加工状態の計測結果によっては、次の段階のエッチング条件が変更されないこともあり得る。
【0024】
図2においては、工程5より後の段階の終了時点における断面を工程6として示している。工程6において、エッチングマスク膜73の開口部の下部に形成されたON積層膜72が全て除去され、メモリホールの形成が完了する。なお、
図2においては、エッチングマスク膜73の残膜厚をTm、ON積層膜72のエッチング深さをTh、エッチングマスク膜73表面から加工した孔の底部までの深さをTaと示している。すなわち、Tm+Th=Taの関係にある。
【0025】
実施形態のモデリング方法は、加工完了時におけるメモリホール634の3次元形状のモデリングに適用することができる。
図3は、メモリホールの形成手順の一例を説明するフローチャートである。
【0026】
まず、半導体基板71上に、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜とを交互に堆積され、ON積層膜72が形成される(ステップS1)。続いて、ON積層膜72の表面に、ハードマスク材料としてのアモルファスカーボンが堆積され、エッチングマスク膜73が成膜される(ステップS2)。次に、メモリホールを形成する領域のエッチングマスク膜73が除去され、エッチングマスク膜73に開口部(メモリホールパターン)が形成される(ステップS3)。
【0027】
続いて、ON積層膜72のドライエッチング(異方性エッチング)が行われる(ステップS4)。上述のように、ON積層膜72は膜厚が厚く、かつ、メモリホールの径は小さいため、高アスペクト比の孔を形成しなければならない。従って、エッチングは複数の段階に分けて行われる。エッチング中は、エッチングの終了を判断するために、開口部の底部に半導体基板71が露出したか否かの検知(終点検知)が行われる(ステップS5)。半導体基板71が検知されない場合(ステップS5、NO)、ステップS4に戻りエッチングが継続される。一方、終点検知において半導体基板71が検知された場合(ステップS5、YES)、エッチングによって形成された孔が、ON積層膜72を貫通したとみなし、エッチングが停止される。続いて、孔の加工状態が計測され、計測結果に基づき形状モデリングが行われ(ステップS6)、メモリホールの形成を終了する。
(2.形状モデリング方法)
次に、実施形態における形状モデリング方法について、
図4を用いて説明する。
図4は、実施形態における3次元形状のモデリング方法の一例を説明するフローチャートである。すなわち、
図4に示す一連の手順は、
図3のステップS6における形状モデリングに適用することができる。以下、
図2の工程6に示す加工孔を一例として、実施形態における形状モデリング方法を説明する。
【0028】
まず、孔の加工状態の測定結果から、形状モデリングに必要なデータ(測長値)を設定する(ステップS11)。ステップS11では、例えば、孔の半径(以下、ホール半径と示す)や、エッチングマスク膜73の残膜厚(=Tm)、ON積層膜72のエッチング深さ(=Th)が、測長値として設定される。ホール半径は、異なる深さにおいて計測された複数の測長値が設定される。
【0029】
次に、形状モデリングにおいて、多項式近似を行う範囲の分割パターンを設定する(ステップS12)。分割パターンは、例えば、形状モデリングの対象となる三次元形状に含まれる材料の界面に基づいて設定される。
図2の工程6に示す加工孔は、積層された複数の膜を貫通して形成されている。具体的には、加工孔は、(1)エッチングマスク膜73とON積層膜72との界面、(2)ON積層膜72におけるシリコン酸化膜とシリコン窒化膜の界面、を貫通して形成されている。
【0030】
本実施形態においては、加工孔全体を1つの多項式で表すパターン1(近似領域数M=1)と、エッチングマスク膜73とON積層膜72との界面によって多項式近似を行う範囲を2つに分割するパターン2(近似領域数M=2)とが設定される。この場合、分割パターン数N=2となる。
【0031】
分割パターン数Nは2に限られない。例えば、加工孔全体を1つの多項式で表し、界面を考慮しない場合、パターン1(近似領域数M=1)のみが設定される。この場合、分割パターン数N=1となる。
【0032】
また、分割パターン数Nは3以上であってもよい。例えば、ON積層膜72を下部分と上部分とに仮想的に分割する場合(ON積層膜72の中間部を界面として定義する場合)、加工孔全体を1つの多項式で表すパターン1(近似領域数M=1)と、エッチングマスク膜73と、ON積層膜72とのそれぞれを多項式で表すパターン2(近似領域数M=2)と、エッチングマスク膜73およびON積層膜72の上部分と、ON積層膜72の下部分とのそれぞれを多項式で表すパターン3(近似領域数M=2)と、エッチングマスク膜73と、ON積層膜72の上部分と、ON積層膜72の下部分とのそれぞれを多項式で表すパターン4(近似領域数M=3)とが設定される。この場合、分割パターン数N=4となる。
【0033】
さらに、例えば、(2)ON積層膜72に含まれるシリコン酸化膜およびシリコン窒化膜のそれぞれの界面おいて多項式近似を行う範囲を分割してもよい。すなわち、例えば、ON積層膜72に含まれる複数層のシリコン酸化膜およびシリコン窒化膜に対して(例えば交互に堆積された3層のシリコン酸化膜および3層のシリコン窒化膜ごとに)界面を定義して、それぞれの界面おいて多項式近似を行う範囲を分割してもよい。
【0034】
1つの多項式で近似を行う範囲を近似領域と呼ぶ。本実施形態におけるパターン1は、加工孔全体を1つの多項式で表すパターンであり、近似領域数M=1である。パターン1の近似領域は、エッチングマスク膜73の上面からON積層膜72の下面までの範囲を含む。すなわち、
図2において、当該近似領域はTaの範囲で示される。本実施形態におけるパターン2は、近似領域数M=2である。パターン2の1つ目の近似領域は、エッチングマスク膜73の上面からエッチングマスク膜73とON積層膜72との界面までの範囲を含む。パターン2の2つ目の近似領域は、エッチングマスク膜73とON積層膜72との界面からON積層膜72の下面までの範囲を含む。すなわち、
図2において、パターン2の1つ目の近似領域はTmの範囲で示され、2つ目の近似領域はThの範囲で示される。
【0035】
続いて、多項式による近似値と測長値との許容誤差を設定する(ステップS13)。実施形態では、測長値の標準偏差(σ)を公差(許容誤差)として設定する。例えば、x本のメモリホールの平均的な形状をモデリングする場合、測長値を計測した深さごとに、x個の測長値の標準偏差(σ)を算出し、この値を許容誤差として設定する。すなわち、許容誤差は、深さごとに異なる値が設定されることがあり得る。
【0036】
次に、ステップS13で設定した複数の分割パターンのそれぞれについて、多項式近似を行う(ステップS14~S24)。まず、多項式近似を行う分割パターン(=i)として、パターン1を設定する(ステップS14)。次に、設定したパターンにおいて、多項式を生成する近似領域(=j)を設定する(ステップS15)。続いて、生成される多項式の次数(=j)として1を設定する(ステップS16)。選択された近似領域内に含まれるホール半径の測長値を、設定された次数の多項式でフィッティングし、各項の係数を算出する(ステップS17)。
【0037】
続いて、測長値と、該測長値と同じ深さにおける、ステップS17で求めた多項式により算出される近似値との差分を算出する(ステップS18)。当該近似領域内の全ての測長値に関し、近似値との差分がステップS13にて設定された許容誤差(例えば、標準偏差σ)未満である場合(ステップS18、YES)、当該近似領域についての多項式フィッティングを完了する。一方、測長値との差分が許容誤差を超える近似値がある場合(ステップS18、NO)、多項式の次数を1増加させた後(ステップS19)、ステップS17に戻って多項式フィッティングを再度実行する。
【0038】
対象の近似領域についての多項式フィッティングが完了すると、該近似領域に関する近似多項式の次数を決定する(ステップS20)。近似多項式の算出が完了した近似領域の数jが設定した分割パターンにおける近似領域数Mに達していない場合、すなわち、設定した分割パターンにおいて近似多項式の算出がなされていない近似領域がある場合(ステップS21、No)は、次の近似領域をセットした後(ステップS22)、ステップS16に戻り、該近似領域に対して多項式フィッティングを再度実行する。
【0039】
近似多項式の算出が完了した近似領域の数jが対象の分割パターンにおける近似領域数Mに達した場合、すなわち、対象の分割パターンにおいて含まれるすべての近似領域について近似多項式の算出が完了している場合(ステップS21、YES)、ステップS12で設定した分割パターンについて、近似多項式の算出が終了したか否かを判定する(ステップS23)。近似多項式の算出がなされていない分割パターンがある場合(ステップS23、No)、次の分割パターンをセットした後(ステップS24)、ステップS15に戻り、該分割パターンに含まれるすべての近似領域に対して多項式フィッティングを実行する。
【0040】
一方、全ての分割パターンについて近似多項式の算出が完了した場合(ステップS23、YES)、分割パターンごとに次数(計算パラメータ数)を算出する(ステップS25)。計算パラメータ数は、対象のパターンに含まれるすべての近似領域における近似多項式のパラメータ数の和である。例えば、パターン1の場合、近似領域数は1であるので、算出される近似多項式は1つである。従って、パターン1の計算パラメータ数は、ステップS20で決定された近似多項式の次数に定数項の1を足した値となる。なお、近似領域の分け方が複数存在する分割パターンについては、それぞれの分け方ごとに計算パラメータ数を算出する。そして、一番計算パラメータ数が少ない分け方を、当該分割パターンにおける計算パラメータ数とする。
【0041】
図5、6は、実施形態の方法で算出した近似多項式のプロファイルの一例を説明する図である。
図5は、実測形状プロファイルと、実施形態の近似多項式算出方法におけるパターン1に対応する近似多項式によって表される近似形状プロファイルの一例を示している。
図6は、実測形状プロファイルと、実施形態の近似多項式算出方法におけるパターン2に対応する近似多項式によって表される近似形状プロファイルの一例を示している。また、
図7は、比較例における近似多項式によって表される近似形状プロファイルの一例を説明する図である。
図5~
図7は、横軸をホール半径とし縦軸を深さとする、形状プロファイルを示す図であり、実線は測長値を示している。
図5、6において、測長値の左側に示されている破線は、測長値から公差(例えば、標準偏差σ)を減じた境界線(下限)である。また、測長値の右側に示されている破線は、測長値に公差(例えば、標準偏差σ)を加算した境界線(上限)である。
【0042】
図5は、実測形状プロファイルとともに、実施形態の近似多項式算出方法におけるパターン1に対応する近似多項式によって表される近似形状プロファイルを示している。
図5において、二点鎖線が近似形状プロファイルに対応し、当該近似形状プロファイルは実施形態の方法で算出した近似多項式によって表される。実施形態の近似多項式算出方法におけるパターン1は、エッチングマスク膜73の上面からON積層膜72の下面まで、全ての範囲を1つの近似領域として近似多項式を算出している。従って、
図5の近似形状プロファイルは、1種類の近似多項式で表される。例えば、
図5の近似形状プロファイルを表すための近似多項式の次数は13であり、計算パラメータ数は14である。
【0043】
計算パラメータが算出されていない分割パターンがある場合、ステップS14に戻り次のパターンを選択する。そして、選択した分割パターンについて、ステップS15~S20の一連の手順を実行する。上述の一例では、ステップS21において、パターン1についての計算パラメータ数が算出されると、ステップS15に戻り、パターン2について近似多項式と計算パラメータ数の算出を実行する。
【0044】
パターン2は、近似領域数=2であるので、2つの近似領域のそれぞれについて、ステップS16~ステップS20の手順を実行し、近似多項式を算出する。
【0045】
図6は、実測形状プロファイルとともに、実施形態の近似多項式算出方法におけるパターン2に対応する近似多項式によって表される近似形状プロファイルを示している。
図6において、疎破線は、1つ目の近似領域(エッチングマスク膜73の上面からエッチングマスク膜73とON積層膜72との界面までの範囲)について、実施形態の方法で算出した近似多項式によって表される近似形状プロファイルを示している。また、三点鎖線は、2つ目の近似領域(エッチングマスク膜73とON積層膜72との界面からON積層膜72の下面までの範囲)について、実施形態の方法で算出した近似多項式によって表される近似形状プロファイルを示している。例えば、1つ目の近似領域で算出された近似多項式の次数は6であり、2つ目の近似領域で算出された近似多項式の次数は5である。この場合、
図6の近似形状プロファイルを表すための近似多項式の計算パラメータ数は、(6+1)+(5+1)=13となる。
【0046】
全ての分割パターンについて計算パラメータの算出が完了すると、最小計算パラメータ数を決定する(ステップS22)。すなわち、各分割パターンについて近似形状プロファイルを得るために算出した近似多項式の計算パラメータ数のうち、最も数が小さいものを最小計算パラメータ数とする。上述の一例の場合、パターン1について算出された近似多項式の計算パラメータ数が14であり、パターン2について算出された近似多項式の計算パラメータ数が13であるので、最小計算パラメータ数は13となる。以上のステップS11からステップS22の手順を実行することにより、対象とする孔の3次元形状のモデリングが実行される。
【0047】
これに対して比較例では、
図7に示すように、全測長値の平均誤差(例えば、0.3nm)を許容誤差として設定し、許容誤差範囲内に収束する条件で近似多項式を算出する。
図7において、疎破線が許容誤差を示し、実線が当該許容誤差範囲内に収束する条件で算出された近似多項式によって表される近似形状プロファイルを示している。上述のパターン2と同じように、エッチングマスク膜73とON積層膜72との界面で孔を分割し、2つの近似領域のそれぞれについて近似多項式を算出した場合、例えば、1つ目の近似領域における近似多項式の次数が11、2つ目の近似領域における近似多項式の次数が15となり、計算パラメータ数は、(11+1)+(15+1)=28となる。
【0048】
実施形態のモデリング方法は、比較例のモデリング方法よりも計算パラメータ数を少なくすることができる。多項式によるモデリングの際、孔の形状が複雑であるほど、近似に必要なパラメータ数、すなわち多項式の次数が増加してしまう。パラメータ数が増加すると、パラメータコリレーションに起因して計算結果が間違った値に収束してしまうなど、計測精度が悪化する可能性がある。故に、多項式近似を用いて形状をモデリングする際には、計算パラメータ数が少ないほうが好ましい。
【0049】
このように、実施形態のモデリング方法によれば、測長値の標準偏差を公差として設定し、公差内に収束させることで近似多項式を算出している。測長値の誤差は、深さ位置によって変動するため、標準偏差を許容範囲とすることで、変動の大きな位置では許容範囲を大きく変動の小さな位置では許容範囲を小さくすることができる。故に、許容誤差を固定値としてモデリングを行う場合に比べ、計測精度の低下を防ぎつつ、計算パラメータ数を低減することができる。
【0050】
また、実施形態では、積層膜を貫通する孔の形状をモデリングする際に、任意の膜の界面で近似領域を設定し、近似領域ごとに近似多項式を生成することができる。全ての界面で近似領域を設定することも可能であるし、測長値の変化量が小さい領域は近似領域を設定せずに同じ近似領域に属するように設定することも可能である。例えば、ON積層膜72を構成するシリコン酸化膜とシリコン窒化膜は、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜との界面で領域を分割せず、同一の近似領域として設定可能である。近似領域を設定する界面位置を変化させて複数の分割パターンを設定し、分割パターンごとに計算パラメータ数を算出することで、計算パラメータ数が最小となる最適な分割パターンを選択することができる。なお、上述では、公差として標準偏差(σ)を用いているが、3σなど、他の統計値を用いてもよい。
【0051】
実施形態のモデリング方法は、上述のように、加工が完了した孔(メモリホール)の形状モデリングに適用できるだけでなく、他の様々な形状のモデリングに用いることができる。例えば、加工途中における特定の加工段階の孔の形状モデリングにも用いることができる。
【0052】
図8は、メモリホールの形成手順の一例を説明する別のフローチャートである。
図8に示すフローチャートは、
図3に示すフローチャートにおいて、終点検知後(ステップS5、YES)の後に行っていた加工形状計測及び形状モデリング(ステップS6)の手順を、エッチング(ステップS4)終了後、終点検知前に行う点が異なっている。例えば、
図2の工程4や工程5に示すような加工孔の形状に対しても、実施形態のモデリング方法を適用することができる。
【0053】
例えば、
図2の工程5に示すような加工孔の形状を実施形態のモデリング方法を用いて表す場合、
図9に示すような測長値に対し、
図10に示すように、測長値に対して公差を許容誤差とする境界領域を設定し、
図4に示す手順を実行することにより、近似多項式を算出することができる。
図9は、ある特定の加工段階における測長値のプロファイルの一例を説明する図である。また、
図10は、
図9に示す測長値に対し、近似多項式の収束範囲としての設定する境界領域の一例を説明する図である。
【0054】
このように、実施形態のモデリング方法は、上述のように半導体記憶装置の製造におけるエッチング工程(特に、メモリホールなどアスペクト比の大きい孔を形成するエッチング工程)の検査(加工形状のモデリング)に適用できるだけでなく、他の様々な場面に用いることができる。例えば、製品の製造に先立って、エッチング条件の最適化にも適用することができる。エッチングの各段階が終了した際に、実施形態のモデリング方法を用い形状プロファイルを計測することで、エッチングの各段階における最適なパラメータ(エッチング条件)を決定することができる。これにより、製品を製造する際最適なプロセス条件で加工を行うことができるので、加工精度が向上し、製品歩留まりの向上に寄与することができる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、一例として示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
71…半導体基板、72…ON積層膜、73…エッチングマスク膜、631、632、633…配線層、634…メモリホール、