(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144311
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】受信装置、受信装置の制御方法及びメモリコントローラ
(51)【国際特許分類】
H03L 7/08 20060101AFI20220926BHJP
H03L 7/07 20060101ALI20220926BHJP
H04L 7/033 20060101ALI20220926BHJP
H03L 7/087 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
H03L7/08 107
H03L7/07
H04L7/033
H03L7/087
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045253
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永光 正知
【テーマコード(参考)】
5J106
5K047
【Fターム(参考)】
5J106AA04
5J106CC01
5J106CC30
5J106CC35
5J106CC41
5J106CC52
5J106DD32
5J106FF09
5J106GG01
5J106HH03
5J106KK08
5J106KK25
5K047AA01
5K047KK02
(57)【要約】
【課題】 キャリブレーションによってPLL回路の高周波特性を改善することにより受信性能を向上させる。
【解決手段】 実施形態の受信装置は、供給された電流に応じて発振クロックを生成する電流制御発振器と、前記電流制御発振器が生成した発振クロックと受信信号との位相検出結果を求める位相検出器と、前記位相検出結果の積分値に基づく電流を生成して当該生成した電流を前記電流制御発振器に供給する積分パスと、前記位相検出結果に基づく電流を生成して当該生成した電流を前記電流制御発振器に供給するデジタル電流変換器を有する比例パスと、を含むPLL回路を有し、前記PLL回路の出力を用いて前記受信信号からクロック及びデータを再生するクロックデータ再生回路と、前記電流制御発振器の周波数-電流特性に応じて、前記デジタル電流変換器が生成する電流を調整するコントローラと、を具備する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給された電流に応じて発振クロックを生成する電流制御発振器と、前記電流制御発振器が生成した発振クロックと受信信号との位相検出結果を求める位相検出器と、前記位相検出結果の積分値に基づく電流を生成して当該生成した電流を前記電流制御発振器に供給する積分パスと、前記位相検出結果に基づく電流を生成して当該生成した電流を前記電流制御発振器に供給するデジタル電流変換器を有する比例パスと、を含むPLL回路を有し、前記PLL回路の出力を用いて前記受信信号からクロック及びデータを再生するクロックデータ再生回路と、
前記電流制御発振器の周波数-電流特性に応じて、前記デジタル電流変換器が生成する電流を調整するコントローラと、
を具備する受信装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記電流制御発振器の周波数-電流特性の値と前記デジタル電流変換器が生成する電流との積が、前記電流制御発振器の周波数-電流特性の理想値と前記デジタル電流変換器が生成する電流の理想値との積に一致するように、前記デジタル電流変換器が生成する電流を補正する、
請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記電流制御発振器の周波数-電流特性の値と前記電流制御発振器の周波数-電流特性の理想値との比に基づいて、前記デジタル電流変換器が生成する電流を補正する、
請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項4】
前記積分パスは、前記位相検出結果の積分値に基づく電圧を発生するレギュレータと前記レギュレータの出力に基づく電流を生成する第1の電流源とを含む電圧電流変換回路を有する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の受信装置。
【請求項5】
前記第1の電流源と前記デジタル電流変換器の電流を生成する第2の電流源とは共通のミラー回路により構成され、
前記コントローラは、前記レギュレータの設定値を制御しながら前記発振クロックの周波数を検出することで、前記電流制御発振器の周波数-電流特性の値を求める、
請求項4に記載の受信装置。
【請求項6】
PLL回路を有するクロックデータ再生回路を含む受信装置の制御方法であって、前記PLL回路は供給された電流に応じて発振クロックを生成する電流制御発振器と、前記電流制御発振器が生成した発振クロックと受信信号との位相検出結果を求める位相検出器と、前記位相検出結果の積分値に基づく電圧を電流に変換して前記電流制御発振器に供給する電圧電流変換回路を含む積分パスと、前記位相検出結果に基づく電流を生成して当該生成した電流を前記電流制御発振器に供給するデジタル電流変換器を有する比例パスと、を含み、
前記電流制御発振器に供給する電流を変化させて前記電流制御発振器からの発振クロックの周波数を目標周波数に調整し、
前記PLL回路の比例パスに含まれるデジタル電流変換器が生成する電流を前記電流制御発振器の周波数-電流特性に応じて調整し、
前記電圧電流変換回路に印加する電圧を変化させて前記電流制御発振器の周波数-電圧特性を調整し、
前記デジタル電流変換器が生成する電流及び前記電流制御発振器の周波数-電圧特性の調整後、前記電流制御発振器に供給する電流を変化させて前記PLL回路の発振クロックの周波数を目標周波数に調整する、
受信装置の制御方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1つに記載の受信装置を含むインタフェース回路と、
前記受信装置によって受信したホストからの信号に基づいて、1つ以上のメモリチップに対する書き込み及び読み出しを制御する制御回路と、
を具備するメモリコントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、受信装置、受信装置の制御方法及びメモリコントローラに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、NAND型不揮発性メモリ(NAND型FLASH(登録商標)メモリ)等の半導体記憶装置においては、3次元構造化により、微細化、大容量化が図られている。このような半導体記憶装置の大容量化に伴い、ホストとメモリコントローラとの間で送受するデータの伝送レートを高くすることが求められる。
【0003】
このようなデバイス間のインタフェースとして、高速シリアル伝送に適したCDR(Clock Data Recovery(クロックデータ再生回路)) が採用されることがある。CDRはPLL (phase-locked loop)回路を用いて受信信号からクロックを再生し、再生したクロックタイミングで受信信号に含まれるデータをラッチする。
【0004】
受信信号にジッタが生じたとしても確実なデータ抽出を可能にするために、CDRは十分に高いジッタトレランス特性を有する必要がある。このためには、PLL回路は、高い追従性を満足する良好な高周波特性を備える必要がある。
【0005】
しかしながら、PLL回路は、特性のばらつきによって高周波特性が悪化することがあるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本実施形態は、受信性能を向上させることができる受信装置、受信装置の制御方法及びメモリコントローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の受信装置は、供給された電流に応じて発振クロックを生成する電流制御発振器と、前記電流制御発振器が生成した発振クロックと受信信号との位相検出結果を求める位相検出器と、前記位相検出結果の積分値に基づく電流を生成して当該生成した電流を前記電流制御発振器に供給する積分パスと、前記位相検出結果に基づく電流を生成して当該生成した電流を前記電流制御発振器に供給するデジタル電流変換器を有する比例パスと、を含むPLL回路を有し、前記PLL回路の出力を用いて前記受信信号からクロック及びデータを再生するクロックデータ再生回路と、前記電流制御発振器の周波数-電流特性に応じて、前記デジタル電流変換器が生成する電流を調整するコントローラと、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る受信装置を含むメモリシステムを示すブロック図。
【
図2】
図1中のメモリコントローラの具体的な構成の一例を示すブロック図。
【
図3】
図2中の受信回路20の具体的な構成の一例を示すブロック図。
【
図4】
図3のCDR30中に構成されるPLL回路の一例を示すブロック図。
【
図5】横軸に周波数をとり縦軸にジッタトレランスをとって、PLL回路の特性に基づくCDRの周波数特性を示すグラフ。
【
図6】
図4に示したPLL回路の具体的な構成の一例を示す回路図。
【
図7】本実施形態におけるキャリブレーションを説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
本実施形態は、PLL回路を構成する比例パスのキャリブレーションにより、PLL回路の高周波特性を改善することで、CDRジッタトレランス性能を向上させるものである。
【0012】
図1は本実施形態に係る受信装置を含むメモリシステムを示すブロック図である。また、
図2は
図1中のメモリコントローラの具体的な構成の一例を示すブロック図である。
【0013】
本実施形態のメモリシステム1は、メモリコントローラ3と4つのメモリチップ4A~4D(以下、4つのメモリチップ4A~4Dを区別する必要がない場合には代表してメモリチップ4という)を備える。なお、メモリチップ4の個数は4に限定されるものではなく、1つ以上の任意の個数のメモリチップを採用することができる。
【0014】
メモリシステム1は、ホスト2と接続可能である。ホスト2は、例えば、パーソナルコンピュータ、携帯端末、車載装置、サーバなどの電子機器である。ホスト2はプロセッサとしての中央処理装置(CPU)2aと、ROM(図示せず)、DRAM2bを有する。メモリシステム1は、ホスト2からのリクエストに応じて、ホスト2からのユーザデータ(以下、単にデータという)を各メモリチップ4に記憶したり、各メモリチップ4に記憶されたデータを読み出してホスト2へ出力したりする。具体的には、メモリシステム1は、ホスト2からの書き込みリクエストに応じて各メモリチップ4へデータを書き込み、ホスト2からの読み出しリクエストに応じてデータを各メモリチップ4から読み出すことができる。
【0015】
メモリシステム1は、メモリコントローラ3と複数のメモリチップ4とが1つのパッケージとして構成されるUFS(Universal Flash Storage)デバイス等であってもよいし、SSD(Solid State Drive)等であってもよい。
図1では、メモリシステム1は、ホスト2と接続された状態として示してある。
【0016】
メモリチップ4は、データを不揮発に記憶するNAND型フラッシュメモリ等により構成された半導体記憶装置である。
図1に示すように、メモリコントローラ3と各メモリチップ4とはNANDバスを介して接続される。メモリコントローラ3は、ホスト2からの書き込みリクエストに従ってメモリチップ4へのデータの書き込みを制御する。また、メモリコントローラ3は、ホスト2からの読み出しリクエストに従ってメモリチップ4からのデータの読み出しを制御する。メモリコントローラ3は、ホスト2からのリクエストでなく自発的に、メモリチップ4に対するデータの書き込み及び読み出しを制御することがある。
【0017】
図2において、メモリコントローラ3は、CPU11、ROM12、RAM(Random Access Memory)13、ECC(Error Check and Correct)回路14、ホストインタフェース(I/F)15、及びメモリI/F16を備える。CPU11、ROM12、RAM13、ECC回路14、ホストI/F15及びメモリI/F16は、互いに内部バス19により接続される。
【0018】
ホストI/F15は、本実施形態に係る受信装置を含む受信回路20及び送信回路18を有している。受信回路20は、ホスト2からのデータを受信し、受信したデータに含まれるリクエストや書き込みデータなどを内部バス19に出力する。また、ホストI/F15の送信回路18は、メモリチップ4から読み出されたユーザデータや、CPU11からの応答などをホスト2へ送信する。なお、ホスト2においても、ホストI/F15の受信回路20及び送信回路18に対応する図示しない受信回路及び送信回路を備えたI/Fを有している。
【0019】
ホスト2とホストI/F15の受信回路20及び送信回路18との間は、所定のインタフェースを介して接続される。例えば、このインタフェースとしては、eMMC(embedded Multi Media Card)のパラレルインタフェース、PCIe(Peripheral Component Interconnect-Express)のシリアル拡張インタフェース、M-PHYの高速シリアルインタフェース等の各種インタフェースが採用される。
【0020】
メモリI/F16は、CPU11の指示に基づいてユーザデータ等を各メモリチップ4へ書き込む処理及び各メモリチップ4から読み出す処理を制御する。
【0021】
CPU11は、メモリコントローラ3を統括的に制御する。CPU11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等である。CPU11は、ホストからホストI/F15経由でリクエストを受けた場合に、そのリクエストに従った制御を行う。例えば、CPU11は、ホストからのリクエストに従って、各メモリチップ4へのユーザデータの書き込みをメモリI/F16へ指示する。また、CPU11は、ホストからのリクエストに従って、各メモリチップ4からのユーザデータの読み出しを、メモリI/F16へ指示する。
【0022】
CPU11は、RAM13に格納されるユーザデータに対して、各メモリチップ4上の格納領域(以下、メモリ領域という)を決定する。ユーザデータは、内部バス19経由でRAM13に格納される。CPU11は、メモリ領域の決定を、例えば、書き込み単位であるページ単位のデータ、すなわちページデータ、に対して実施する。
【0023】
CPU11は、書き込み先の各メモリチップ4上のメモリ領域を決定する。メモリチップ4のメモリ領域には物理アドレスが割当てられている。CPU11は、データの書き込み先のメモリ領域を、物理アドレスを用いて管理する。CPU11は、決定したメモリ領域の物理アドレスを指定してユーザデータをメモリチップ4へ書き込むようメモリI/F16へ指示する。CPU11は、ユーザデータの論理アドレス(ホストが管理する論理アドレス)と、そのユーザデータが書き込まれた物理アドレスとの対応を管理する。CPU11は、論理アドレスを含む読み出しリクエストをホストから受信した場合は、論理アドレスに対応する物理アドレスを特定し、物理アドレスを指定してユーザデータの読み出しをメモリI/F16へ指示する。
【0024】
ECC回路14は、RAM13に格納されたユーザデータを符号化して符号語を生成する。また、ECC回路14は、各メモリチップ4から読み出された符号語を復号する。
RAM13は、ホストから受信したユーザデータを各メモリチップ4へ記憶するまでに一時格納したり、各メモリチップ4から読み出したデータをホストへ送信したりするまでに一時格納する。RAM13は、例えば、SRAM(Static Random Access Memory)やDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの汎用メモリである。
【0025】
図2では、メモリコントローラ3が、ECC回路14とメモリI/F16をそれぞれ備える構成例を示した。しかし、ECC回路14がメモリI/F16に内蔵されていてもよい。また、ECC回路14が、各メモリチップ4に内蔵されていてもよい。
【0026】
ホスト2から書き込みリクエストを受信した場合、メモリコントローラ3は次のように動作する。CPU11は、書き込みデータをRAM13に一時記憶させる。CPU11は、RAM13に格納されたデータを読み出し、ECC回路14に入力する。ECC回路14は、入力されたデータを符号化し、符号語をメモリI/F16に提供する。メモリI/F16は、入力された符号語を各メモリチップ4に書き込む。
【0027】
ホスト2から読み出しリクエストを受信した場合、メモリコントローラ3は次のように動作する。メモリI/F16は、各メモリチップ4から読み出した符号語をECC回路14に提供する。ECC回路14は、入力された符号語を復号し、復号されたデータをRAM13に格納する。CPU11は、RAM13に格納されたデータを、ホストI/F15を介してホスト2に送信する。
【0028】
(受信回路)
図3は
図2中の受信回路20の具体的な構成の一例を示すブロック図である。
【0029】
受信回路20は、ホスト2からの送信データを受信する。イコライザ21は、受信したデータを波形整形してサンプラ22に出力する。サンプラ22は、イコライザ21からの受信データからデータを抽出して図示しない後段の回路に出力する。サンプラ22は、CDR30から後述する検出クロックを受信し、この検出クロックを用いてデータの抽出を行う。サンプラ22は、CDR30からの検出クロックに基づいて、受信データのエッジを検出するためのエッジ検出パルスを発生してCDR30に出力する。
【0030】
CDR30は、エッジ検出パルスに基づいて受信データのクロックを再生し、検出クロックをサンプラ22に出力すると共に再生クロックをCDRコントローラ23に出力する。CDRコントローラ23は、再生クロックに基づいて、CDR30を制御するための各種制御信号等を発生してCDR30に出力する。なお、CDR30には、基準クロック生成回路29から基準信号も与えられる。基準信号は、ある周波数のクロックであり、送信回路18内でも使用される。このため、基準クロック生成回路29は、送信回路18内に設けられてもよい。
【0031】
(PLL回路)
図4は
図3のCDR30の各構成のうち主にPLL回路部分の一例を示すブロック図である。すなわち、CDR30はPLL回路を備える。
【0032】
CDR30中のPLL回路は、起動直後から周波数が一旦ロックするまでの間、位相周波数検出器(以下、PFDという)41を用いてクロックを再生し、周波数が一旦ロックした後は、位相検出器であるバンバンPD(以下、BBPDという)31を用いてクロックを再生する。BBPD31は、後述するように、周波数差の検出ができないことから、起動直後においては、ロックまでの時間を短縮するために、周波数差及び位相差を検出可能なPFD41が用いられる。
【0033】
起動直後においては、PFD41が動作する。PFD41は、基準クロック生成回路29から基準信号が与えられ、後述する分周器(以下、PDIVという)38の出力クロックとの周波数差及び位相差を検出して検出結果をPFD用チャージポンプ(以下、CPPFDという)42に出力する。CPPFD42は、基準信号とPDIV38の出力ロックとの周波数差及び位相差の検出結果に応じた電圧を発生する。CPPFD42から出力された出力は、ある周波数特性を有するLPF(ローパスフィルタ)34を通過した後、電圧電流変換回路(以下、VICという)35に供給される。
【0034】
VIC35は、与えられた電圧を電流に変換して電流制御発振器(以下、ICOという)36に出力する。ICO36は、例えばリングオシレータにより構成することができる。ICO36は、入力された電流に応じた周波数で発振し、発振クロックをレベルシフタ(以下、L/Sという)37に出力する。L/S37は、ICO36からの発振クロックのレベルを調整し、レベルを調整した発振クロックをPDIV38に供給する。PDIV38は、L/S37からの発振クロックを分周したクロックを出力する。PDIV38からの出力クロックは、PFD41にフィードバックされると共に、再生クロックとしてCDRコントローラ23にも出力される。
【0035】
再生クロックの周波数が基準信号の周波数よりも高い場合あるいは再生クロックの位相が基準信号の位相よりも早い場合、PFD41の検出結果は周波数が高いか又は位相が早い(進んでいる)ことを示すアーリーとなり、CPPFD42は、再生クロック周波数を低下させるためのマイナス(負)の電流を出力する。また、再生クロックの周波数が基準信号の周波数よりも低い場合あるいは再生クロックの位相が基準信号の位相よりも遅い場合、PFD41の検出結果は周波数が低いか又は位相が遅いことを示すレイトとなり、CPPFD42は、再生クロック周波数を高くさせるためのプラス(正)の電流を出力する。この結果、PFD41、CPPFD42、LPF34、VIC35、ICO36、L/S37及びPDIV38のループにより、ICO36の発振クロックの周波数は、基準信号の周波数に収束する。
【0036】
ロック後においては、PFD41に代わりBBPD31が動作する。L/S37はICO36の発振クロックをそのままPDIV38に出力すると共に、ICO36の発振クロックを基準として位相を(例えばある周期(一例では90°)ずつ)ずらした複数のクロックを検出クロックとして、サンプラ22に出力する。サンプラ22は、検出クロックに基づくエッジ検出パルスを発生してCDR30のBBPD31に与える。BBPD31は、エッジ検出パルスを用いて受信データのエッジの向きを検出する。即ち、BBPD31は、ICO36の発振クロックを基準としてある周期ずつずらした複数の位相において受信データのエッジの向きを判定することにより、発振クロックの位相が受信データの位相よりも進んでいるか遅れているかの位相検出結果を得る。BBPD31は、受信データの位相が発振クロックの位相よりも進んでいる場合にはアーリー、遅れている場合にはレイトの位相検出結果を出力する。
【0037】
BBPD31の出力は、比例パス及び積分パスの2つの経路を経由して、ICO36の発振出力の制御に用いられる。比例パスは、BBPD31、デジタル電流変換器(以下、DICという)32及びICO36により構成される。DIC32は、BBPD31からのアーリー及びレイトによって、ICO36に供給する電流量を段階的に切換える。DIC32は、ICO36に供給する電流量を高速に切換えることが可能である。即ち、比例パスは、高周波数領域における周波数制御に適している。
【0038】
BBPD31の出力によりICO36の発振クロックを制御する場合には、LPF34を構成する抵抗は短絡される。抵抗の短絡によりLPF34を構成するコンデンサには、充放電電流に応じて電荷が蓄積され、コンデンサの端子電圧は充放電電流の積分値に応じたものとなる。即ち、積分パスは、BBPD31、BBPD用チャージポンプ(以下、CPPDという)33、CPPD33の出力を積分するコンデンサ、VIC35及びICO36により構成される。CPPD33は、BBPD31からのアーリーとレイトに応じ、それぞれマイナスの電流とプラスの電流を出力する。この電流は、LPF34において積分された電圧となり、VIC35において、電流値に変換されてICO36に供給される。即ち、積分パスは、時間積分により過去の位相差を蓄積した結果に基づいてICO36を制御して、位相差を0にするように動作する。従って、積分パスは、低周波数領域における周波数制御に適している。このように、比例パスと積分パスとを組み合わせることで、PLL回路は、高速動作を可能にしつつ正確な周波数制御により、受信データに対応する検出クロック及び再生クロックを得ることが可能である。
また、CDR30には、LPF設定回路39及び電圧生成回路40が設けられている。LPF設定回路39は、電圧生成回路40からの電圧をLPF34に印加することで、VIC35の入力電圧をある電圧に設定するようになっている。
【0039】
(課題及び課題を解決するための手法)
図5は横軸に周波数をとり縦軸にジッタトレランスをとって、PLL回路の特性に基づくCDRの周波数特性を示すグラフである。
図5において、破線はジッタの振幅を時間の関数としてグラフ化したジッタトラックの特性を示し、実線はジッタトレランスの特性を示している。
【0040】
図5の実線に示すように、周波数が比較的低い領域においては、十分に高いジッタトレランスが得られることが分かる。周波数が比較的高くなると、ジッタトレランスは低下する。入力周波数に対してCDR(PLL回路)が追従できる周波数をωとすると、一般的には、PLL回路は、ω-3dBの周波数領域での追従が可能なように設計される。
【0041】
このPLL回路の設計値ωPHは、下記(1)式で表すことができる。
ωPH≒ωー3DB≒KBBPD×KICO×Idic …(1)
なお、KBBPD、KICO及びIdicは、それぞれ、PLL回路の比例パス上のBBPD31のゲイン、ICO36のゲイン(Δ周波数/Δ電流)及びDIC32が発生する電流である。
【0042】
ところが、PLL回路の比例パスの特性は様々な影響によってばらつくことがあり、ωPHの値が変動してPLL回路の高周波特性及び追従性がばらつき、CDRにおいて期待するジッタトレランス特性が得られるなくなることがあるという課題がある。
【0043】
そこで、本実施形態においては、PLL回路の比例パスのばらつきを補正するためのキャリブレーションの実施を可能にする。なお、BBPD31のゲインKBBPDの調整は極めて困難であることから、本実施形態においては、測定したKICO×Idicが理想値となるように、キャリブレーションを実施する。特に、本実施形態においては、調整容易なDIC32の電流制御(Idicの制御)により、PLL回路のキャリブレーションを実施する。
【0044】
(具体回路)
図6は
図4に示したPLL回路の具体的な構成の一例を示す回路図である。
【0045】
CPPFD42は、電源電位となるラインに接続された電流源I1と、この電流源I1からの電流を外部に出力するためのスイッチS1と、基準電位を与えるグランドラインに接続された電流源I2と、この電流源I2により外部から電流を引込むためのスイッチS2とを含んで構成される。PFD41は、CPPFD42に含まれる2つのスイッチS1,S2を制御するように構成されている。なお、PFD41は、レイトによってスイッチS1をオンにする。また、PFD41は、アーリーによってスイッチS2をオンにする。
【0046】
また、CPPD33も、CPPFD42と同様の構成を有している。CPPD33は、電源電位となるラインに接続された電流源I3と、電流源I3からの電流を外部に出力するためのスイッチS3と、グランドラインに接続された電流源I4と、電流源I4により外部から電流を引込むためのスイッチS4とを含んで構成される。BBPD31は、CPPD33に含まれる2つのスイッチS3,S4を制御するように構成されている。なお、BBPD31は、レイトによってスイッチS3をオンにし、スイッチS4をオフにする。また、BBPD31は、アーリーによってスイッチS4をオンにし、スイッチS3をオフにする。
【0047】
LPF34は、抵抗R1及びコンデンサC1を含んで構成される。抵抗R1及びコンデンサC1は、CPPFD42の出力端及びCPPD33の出力端(以下、ノードAという)とグランドラインとの間に直列接続される。抵抗R1には並列にスイッチS5が設けられ、スイッチS5がオンになると、ノードAは、直接コンデンサC1に接続される。スイッチS5は、CDRコントローラ23からの切換え信号SS1により制御される。スイッチS5は、PFD41の出力を利用して発振クロックを制御する場合にはオフであり、BBPD31の出力を利用して発振クロックを制御する場合にはオンである。
【0048】
VIC35は、レギュレータを構成するオペアンプ35aと、オペアンプ35aの出力に基づく電流を発生する電流源(トランジスタTvic)を含んで構成される。このオペアンプ35aの正極性入力端にはノードAの電圧が印加される。また、オペアンプ35aの正極性入力端には抵抗R1を介してLPF設定回路39が接続される。LPF設定回路39は、電圧生成回路40が発生する電圧を用いて、オペアンプ35aの正極性入力端の電圧をある電圧に設定することができるように構成されている。電圧生成回路40は、所定の電圧を発生してLPF設定回路39に供給する。
【0049】
オペアンプ35aの出力端は、ミラー回路43に含まれるPMOSトランジスタMTのゲートに接続される。トランジスタMTは、ソースが電源ラインVDDに接続され、ドレインが調整回路44に接続されると共に、オペアンプ35aの負極性入力端にも接続される。調整回路44は、トランジスタMTのドレインとグランドラインとの間に接続された電流源Igenと、電流源Igenに並列接続された可変抵抗Rgenとを含む。オペアンプ35aは、正極性入力端に供給される電圧と、負極性入力端に供給される抵抗Rgenにより発生する電圧降下分との差に基づいてトランジスタMTを駆動する。これにより、トランジスタMTは、オペアンプ35aの正極性入力端に与えられる電圧に応じて変化するドレイン電流を発生する。
【0050】
PMOSトランジスタTvic、PMOSトランジスタTdic及びPMOSトランジスタTdiccは、トランジスタMTと共にミラー回路43に含まれる。トランジスタTvic,Tdic,Tdiccは、ソースが電源ラインVDDに接続され、ゲートは、トランジスタMTのゲートに共通接続される。
【0051】
トランジスタTvicのドレインはICO36に接続される。トランジスタTvicにより、オペアンプ35aの出力に応じた電流がICO36に供給される。
【0052】
トランジスタTdicのドレインは、スイッチS7を介してICO36に接続される。トランジスタTdiccのドレインは、スイッチS8を介してICO36に接続される。トランジスタTdic,Tdicc及びスイッチS7,S8によりDIC32が構成される。スイッチS7は、BBPD31からのレイトに対応した信号PDUPによりオン・オフが制御され、スイッチS8は、BBPD31からのアーリーに対応した信号PDDNによりオン・オフが制御される。
【0053】
本実施形態においては、CDRコントローラ23は、DIC32の特性を変更可能である。例えば、トランジスタTdic,Tdiccとして、サイズが異なる複数のトランジスタを用意し、CDRコントローラ23によって動作させるトランジスタを選択可能とすることにより、オペアンプ35aの出力電圧が変化しない場合でも、DIC32からICO36に供給する電流量(Idic)を変化させることが可能である。
【0054】
(PLL動作)
起動直後からロック状態になるまでの間、スイッチS5はオフであり,PFD41が動作する。PFD41は、基準信号と、PDIV38の出力クロックとの周波数差及び位相差に基づいて、スイッチS1,S2を制御する。即ち、出力クロックの周波数が基準信号の周波数よりも低いか又は出力クロックの位相が基準信号の位相よりも遅い場合には、PFD41は、レイトの検出結果を得てスイッチS1をオンにし電流源I1からプラスの電流をLPF34に供給する。また、出力クロックの周波数が基準信号の周波数よりも低いか又は出力クロックの位相が基準信号の位相よりも遅い場合には、PFD41は、アーリーの検出結果を得てスイッチS2をオンに電流源I2によりLPF34にマイナスの電流を供給する。
【0055】
即ち、発振クロックの周波数が基準信号の周波数よりも低いか又は発振クロック位相が基準信号位相より遅れている場合には、抵抗R1による電圧昇圧があり、オペアンプ35aの正極性入力端に供給される電圧が、LPF設定回路39により設定される電圧より高くなる。逆に、発振クロックの周波数が基準信号の周波数よりも高いか又は発振クロック位相が基準信号位相より進んでいる場合には、抵抗R1による電圧降圧があり、オペアンプ35aの正極性入力端に供給される電圧が、LPF設定回路39により設定される電圧より低くなる。
【0056】
オペアンプ35aの出力電圧は、正極性入力端に印加される電圧に応じて変化する。トランジスタMTのドレイン電流は、オペアンプ35aの出力電圧に応じて増減する。トランジスタMTと共にミラー回路43を構成するトランジスタTvicのドレイン電流もトランジスタMTのドレイン電流と同様に変化する。トランジスタTvicのドレイン電流がICO36に供給される。ICO36は、このドレイン電流に応じた周波数の発振クロックを発生する。ICO36の発振クロックがL/S37及びPDIV38を介してPFD41にフィードバックされて、ICO36の発振クロックの周波数は基準信号の周波数に収束する。
【0057】
(積分パス)
ロック後には、スイッチS5はオンとなり、BBPD31が動作する。BBPD31は、L/S37からの検出クロックに基づくエッジ検出パルスに基づいて、スイッチS3,S4を制御する。即ち、BBPD31は、出力クロックの位相が受信データの位相よりも遅い場合には、位相検出結果としてレイトを発生する。この場合には、BBPD31は、スイッチS3をオンにして電流源I3からの電流を、スイッチS5を介してコンデンサC1に供給する。また、BBPD31は、出力クロックの位相が受信データの位相よりも早い場合には、位相検出結果としてアーリーを発生する。この場合には、BBPD31は、スイッチS4をオンにしてコンデンサC1の電荷を電流源I4により引き抜く。
【0058】
即ち、発振クロック位相が受信データの位相より遅れている場合には、コンデンサC1の端子電圧が大きくなって、オペアンプ35aの正極性入力端に供給される電圧が高くなる。逆に、発振クロック位相が受信データの位相より進んでいる場合には、コンデンサC1の端子電圧が小さくなって、オペアンプ35aの正極性入力端に供給される電圧が低くなる。
【0059】
前述したように、オペアンプ35aの出力電圧は、正極性入力端に印加される電圧に応じて変化し、この変化に応じて、トランジスタMTのドレイン電流が増減する。トランジスタMTのドレイン電流の増減に応じてトランジスタTvicのドレイン電流も増減し、ICO36に供給される電流も増減する。この結果、ICO36の発振クロックの周波数が変化し、結果的にICO36の発振クロックの周波数は受信データのクロックの周波数に一致する。
【0060】
(比例パス)
積分パスでは、CPPD33によるアーリーに基づく電流量とレイトに基づく電流量の時間積分に応じてICO36の発振クロックの周波数が制御される。このため、周波数制御の追従速度は比較的低速である。そこで、高周波数領域での周波数制御が可能な比例パスが採用される。
【0061】
BBPD31からのアーリーの位相検出結果はスイッチS8に与えられ、レイトの位相検出結果はスイッチS7に与えられる。スイッチS7は、レイトが生じるまではオフであり、レイトが生じるとオンとなる。また、スイッチS8は、アーリーが生じるまではオンであり、アーリーが生じるとオフとなる。従って、アーリー又はレイトが生じるまでは、スイッチS8のみがオンであり、トランジスタTdiccのドレイン電流IdiccがICO36に供給される。アーリーが発生すると、スイッチS7,S8がオフとなり、DIC32からは電流がICO36に供給されない。レイトが発生すると、スイッチS7、S8がオンとなり、トランジスタTdicのドレイン電流Idicと,トランジスタTdiccのドレイン電流IdiccとがICO36に供給される。なお、ドレイン電流Idicの電流値Idicとドレイン電流Idiccの電流値Idiccとは、アーリー、レイト信号による位相シフト量が等しくなるよう、等しい値(Idic=Idicc)になっている。
【0062】
これにより、レイトの発生時には、ICO36の発振クロックの周波数は高くなり、アーリーの発生時には、ICO36の発振クロックの周波数は低くなる。スイッチS7,S8は、アーリー、レイトの発生に応じて瞬時に動作することから、ICO36の発振クロックの周波数の制御は、極めて高速に行われる。即ち、比例パスにおける周波数制御の追従速度は極めて高速である。
【0063】
本実施形態においては、CDRコントローラ23は、CDR30中の電流源Igenの電流量の制御、抵抗Rgenの抵抗値の制御、トランジスタTdic,Tdiccによる電流Idicの制御、LPF設定回路39の制御及びスイッチS5のオン・オフ制御を行うことができるように構成されている。
【0064】
(キャリブレーション)
次に、
図7及び
図8を参照して本実施形態におけるキャリブレーション制御について説明する。
図7は本実施形態におけるキャリブレーションを説明するためのフローチャートである。また、
図8はIdicの調整を説明するためのグラフである。
【0065】
ICO36のゲイン(Δ周波数/Δ電流)は、素子のばらつきや温度環境の変化等の様々な影響によって変動する。そこで、本実施形態においては、上記(1)式のωPHを理想値とするために、DIC32が供給する電流値を調整する。なお、DIC32が供給する電流値を調整する
図7のキャリブレーション処理は、受信回路20の電源投入直後において1回のみ実施してもよく、起動後のあるタイミング、例えば、周期的に実施してもよい。
【0066】
図7に示すように、A1において、受信回路20に電源が投入されると、CDRコントローラ23は、各部の初期設定を行う。次に、CDRコントローラ23は、A2において、周波数キャリブレーションを実施する。周波数キャリブレーションにおいて、CDRコントローラ23は、先ずLPF設定回路39を制御して、オペアンプ35aの正極性入力端に、電源ラインVDDに供給される電圧VDDの1/2の電圧を印加する。これにより、オペアンプ35aの出力の可変範囲は最大となる。オペアンプ35aの出力に応じてトランジスタMTが駆動されて、ミラー回路43を構成するトランジスタTvic,Tdiccのドレイン電流が流れる。
【0067】
これらのドレイン電流がICO36に供給され、ICO36は、電流周波数変換により、供給された電流に応じた周波数の発振クロックを発生する。この発振クロックは、L/S37を介してPDIV38に供給される。PDIV38は、L/S37からの発振クロックを分周してCDRコントローラ23に再生クロックとして出力する。CDRコントローラ23は、基準周波数の基準クロックが入力されており(図示省略)、この基準クロックを用いて再生クロックの周波数を求めることができる。
【0068】
CDRコントローラ23は、電流源Igenを制御して電流源Igenの電流量を調整する。電流源Igenの電流量が変化すると、抵抗Rgenの電圧降下量が変化する。オペアンプ35aの出力電圧は、抵抗Rgenの電圧降下量に対応したものである。即ち、電流源Igenの電流量を調整することによって、トランジスタTvic,Tdic,Tdiccのドレイン電流を調整して、ICO36の発振クロックの周波数を調整することができる。CDRコントローラ23は、再生クロックの周波数を監視しながら電流源Igenを制御することにより、ICO36の発振クロックの周波数を目標周波数に調整する。
【0069】
次に、CDRコントローラ23は、帯域幅キャリブレーションを実施する(A3)。この帯域幅キャリブレーションは、CDR30のPLL回路の高周波特性を改善するものであり、上記(1)式のωPHを理想値とするためのキャリブレーションを意味する。
【0070】
CDRコントローラ23は、先ず、キャリブレーション可能な範囲を最大とするために、LPF設定回路39を制御して、オペアンプ35aの正極性入力端に、VDD/2の電圧を印加する。この状態で、CDRコントローラ23は、電流源Igenを制御して、その電流量を変化させる。例えば、CDRコントローラ23は、電流源Igenの電流量をΔ100μA変化させる。これにより、ICO36の発振クロックの周波数も変化する。なお、電流源Igenの電流量をΔ100μAだけ変化させる例を説明するが、電流量の変化量はこれに限定されるものではない。電流源Igenの電流量の変化量は、電流量の変化に対して発振クロックの周波数が比較的リニアに変化する範囲であって、且つ発振クロックの周波数の変化が誤差の範囲にならない値に設定すればよい。
【0071】
CDRコントローラ23は、再生クロックの周波数を監視しながら電流源Igenを制御することで、ICO36の電流周波数変換における単位電流当たりに変化する周波数の割合を示すKICO=Δ周波数/Δ電流を求める。
なお、キャリブレーション時には、BBPD31からは、アーリー及びレイトのいずれの位相検出結果も出力されない。従って、この場合には、スイッチS8のみがオンであり、DIC32からICO36に供給される電流は電流Idiccである。なお、Idicc=Idicであるので、以下の説明では、キャリブレーション時においてDIC32から供給される電流はIdicであるものとして説明する。
【0072】
本実施形態においては、CDRコントローラ23は、測定したKICOが予め設定されている理想値KICO(ideal)からずれた場合には、KICO×Idicが理想値となるように、DIC32の電流Idicを変化させるように調整を行う。即ち、Idicとして予め設定されている理想値をIdic(ideal)とすると、CDRコントローラ23は、KICO×IdicがKICO(ideal)×Idic(ideal)の値と一致するように、トランジスタTdic,Tdiccによるドレイン電流を増減させる。即ち、CDRコントローラ23は、ICO36の周波数/電流特性であるKICOに基づいて、DIC32が発生する電流を調整する。
【0073】
図8は横軸に{KICO/KICO(ideal)}をとり、縦軸に(KICO×Idic)/{KICO×Idic(ideal)}をとって、電流源Igenの電流量を変化させた場合におけるこれらの割合の関係を、黒丸印によって示している。
【0074】
{KICO/KICO(ideal)}は、理想値KICO(ideal)に対する測定したKICOの割合を示している。また、KICO×Idicは、DIC32による実際のドレイン電流IdicによるICO36の発振クロック位相の変化量に相当する。また、KICO×Idic(ideal)は、DIC32による理想値のドレイン電流Idic(ideal)によるICO36の発振クロック位相の変化量に相当する。
【0075】
図8の黒丸印の結果を近似する特性曲線を求めると、下記(2)式が得られる。
図8の曲線は(2)式の特性曲線を示している。
(KICO×Idic)/{KICO×Idic(ideal)}={KICO/KICO(ideal)}
1/2 (2)
即ち、
図8の曲線は、電流源Igenの電流の変化によりKICOが理想値KICO(ideal)から変化した場合に、Idicによる位相変化量が理想値Idic(ideal)による位相変化量に対してどの程度変化したかを示している。
図8に示すように、{KICO/KICO(ideal)}が低下するほど(KICO×Idic)/{KICO×Idic(ideal)}(=Idic/Idic(ideal))も低下し、{KICO/KICO(ideal)}が増加するほど(KICO×Idic)/{KICO×Idic(ideal)}(=Idic/Idic(ideal))も増加する。
【0076】
この(2)式を変形して、下記(3)式が得られる。
Idic/Idic(ideal)={KICO/KICO(ideal)}1/2 (3)
KICO×IdicをKICO(ideal)×Idic(ideal)に一致させるためには、Idic/Idic(ideal)に上記(3)式の右辺の逆数を掛ければよい。即ち、Idic/Idic(ideal)の補正値は、上記(4)式で与えられる。
Idic/Idic(ideal)=1/{KICO/KICO(ideal)}1/2 (4)
CDRコントローラ23は、電流源Igenの電流量をΔ100μAだけ変化させて求めた{KICO/KICO(ideal)}を用いて、DIC32のドレイン電流を1/{KICO/KICO(ideal)}1/2倍変化させる。
【0077】
なお、
図8の各白丸印は、各黒丸印の値について上記(4)式による補正を適用した場合の値を示している。
図8の白丸印に示すように、これらの値は、上限許容値及び下限許容値内の範囲値となっている。なお、
図8の上限許容値及び下限許容値は、CDRの帯域の設計ターゲットとして規定された値を示している。
【0078】
図7に示すように、A3の帯域幅キャリブレーションの次に、CDRコントローラ23はKVCOキャリブレーションを実施する(A4)。KVCOキャリブレーションにおいては、CDRコントローラ23は、先ず、LPF設定回路39を制御して、オペアンプ35aの正極性入力端に、VDD/2の電圧を印加する。この状態で、CDRコントローラ23は、ICO36の発振クロックの周波数を監視し、発振クロックの周波数が目標周波数となるまで、電流源Igenの電流量を変化させる。CDRコントローラ23は、ICO36の発振クロックの周波数が目標周波数に到達すると、LPF設定回路39を制御して、オペアンプ35aの正極性入力端に印加する電圧をΔVだけ変化させる。そうすると、ICO36の発振クロックの周波数が変化する。CDRコントローラ23は、発振クロックの周波数の変化分であるΔFを求め、ΔF/ΔV=KVCOとして求める。次に、CDRコントローラ23は、求めたKVCOが理想値のKVCO(ideal)となるように、抵抗Rgenの抵抗値を変化させる。
【0079】
なお、抵抗Rgenの抵抗値をRgenとすると、KVCOは、1/Rgenに比例する。そこで、CDRコントローラ23は、下記(5)式に従って、抵抗Rgenの抵抗値の初期値Rgen(def)に対する補正量を決定すればよい。
Rgen=KVCO/KVCO(ideal)×(Rgen(def)) (5)
こうして、KVCOキャリブレーションが終了すると、CDRコントローラ23は、A3,A4において求めたDIC32の理想のドレイン電流と抵抗Rgenの理想の抵抗値とをPLL回路に設定する(A5)。これによって、ICO36の発振クロックの周波数は、目標周波数からずれる。そこで、A2と同様の周波数キャリブレーションにより、CDRコントローラ23は、電流源Igenの電流量を変化させて、ICO36の周波数を目標周波数に一致させる(A6)。
【0080】
このように、本実施形態においては、PLL回路の高周波特性を決定するωPHが理想値となるように、PLL回路の比例パスの高周波特性を改善するための帯域幅キャリブレーションを実施していることから、PLL回路の特性のばらつきに拘わらず、CDRのジッタトレランスを改善することが可能である。
【0081】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0082】
1…メモリシステム、2…ホスト、3…メモリコントローラ、4…メモリチップ、11…CPU、12…ROM、13…RAM、14…ECC回路、15…ホストI/F、16…メモリI/F、18…送信回路、19…内部バス、20…受信回路、21…イコライザ、22…サンプラ、23…コントローラ、、30…CDR、31…BBPD、32…DIC、33…CPPD、34…LPF、35…VIC、35a…オペアンプ、36…ICO、37…L/S、38…PDIV、39…LPF設定回路、40…電圧生成回路、41…PFD、42…CPPFD、Igen…電流源、Tdic,Tdicc…トランジスタ、Rgen…抵抗。