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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144351
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】あと施工アンカー及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
E04B1/41 503F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045302
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】窪田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】成願 正彦
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 透
(72)【発明者】
【氏名】野村 展生
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AB17
2E125AF01
2E125BA16
2E125BE07
(57)【要約】
【課題】取付物が取り付けられていない状態でもアンカーの設置状態を安定させることができ、施工作業の自由度を高め、施工性を向上することができる。
【解決手段】基端側に雄ねじ部21が形成され、先端側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部22を介して略円柱状の円柱部23が形成され、円柱部23の外周面231の少なくとも一部に凹凸形状が設けられているヘッド2と、先端からスリット31が切り込まれて拡開羽根32が周方向に複数設けられ、ヘッド2の先端に向かって拡開羽根32がテーパ部22に乗り上げることにより拡開羽根32が拡開される拡開スリーブ3と、先端から基端側に向かって雄ねじ部21に螺合可能な雌ねじ部41が形成され、雌ねじ部41と雄ねじ部21の螺着により先端側の拡開スリーブ3の拡開羽根32の拡開状態を保持する雌ねじ体4を備えるあと施工アンカー1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端側に雄ねじ部が形成され、先端側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部を介して略円柱状の円柱部が形成され、前記円柱部の外周面の少なくとも一部に凹凸形状が設けられているヘッドと、
先端からスリットが切り込まれて拡開羽根が周方向に複数設けられ、前記ヘッドの先端に向かって前記拡開羽根が前記テーパ部に乗り上げることにより前記拡開羽根が拡開される拡開スリーブと、
先端から基端側に向かって前記雄ねじ部に螺合可能な雌ねじ部が形成され、前記雌ねじ部と前記雄ねじ部の螺着により先端側の前記拡開スリーブの前記拡開羽根の拡開状態を保持する雌ねじ体とを備えることを特徴とするあと施工アンカー。
【請求項2】
前記拡開スリーブと、前記雌ねじ体が別体であり、
前記雌ねじ体の先端面が前記拡開スリーブの基端面に当接することにより前記拡開羽根の拡開状態を保持することを特徴とする請求項1記載のあと施工アンカー。
【請求項3】
前記雌ねじ体が略筒状であり、基端から先端側に向かって取付ボルトに螺合可能な別の雌ねじ部が前記雌ねじ部と同軸状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のあと施工アンカー。
【請求項4】
前記ヘッドの前記円柱部の外周面に、外方に突出する回り止め突部が穿孔の孔壁に圧接可能に設けられていることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のあと施工アンカー。
【請求項5】
前記ヘッドの前記テーパ部の外周面が内側に弧状にへこむR面で形成されていることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のあと施工アンカー。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載のあと施工アンカーの施工方法であって、
孔底に近い部分に拡径された拡底部を形成するようにしてコンクリートに穿孔を形成する第1工程と、
前記ヘッドの前記雄ねじ部に前記拡開スリーブ、前記雌ねじ体が順に外挿され、前記雄ねじ部に前記雌ねじ体の前記雌ねじ部の先端付近が螺合された状態で、前記あと施工アンカーを前記穿孔に挿入し、前記ヘッドの先端が前記穿孔の孔底に到達するまで前記あと施工アンカーを打ち込む第2工程と、
前記雌ねじ体を螺入して前記拡開スリーブを前記穿孔の孔底側に移動させ、前記拡開スリーブの前記拡開羽根を前記テーパ部に乗り上げさせて前記拡開羽根を前記拡底部で拡開させる第3工程を備えることを特徴とするあと施工アンカーの施工方法。
【請求項7】
請求項1~5の何れかに記載のあと施工アンカーの施工方法であって、
孔底に近い部分に拡径された拡底部を形成するようにしてコンクリートに穿孔を形成する第1工程と、
前記ヘッドの前記雄ねじ部に前記雄ねじ体とは別体の前記拡開スリーブが外挿された状態で、前記ヘッド及び前記拡開スリーブを前記穿孔に挿入し、前記拡開スリーブを打込棒で打込んで前記拡開羽根を前記拡底部で拡開させる第2工程と、
前記雌ねじ体を前記穿孔に挿入し、前記ヘッドの前記雄ねじ部に前記雌ねじ体の前記雌ねじ部を螺入して前記雌ねじ体の先端面を前記拡開スリーブの基端面に当接させ、前記拡開羽根の拡開状態を保持する第3工程を備えることを特徴とするあと施工アンカーの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンクリートに、孔底に近い部分を拡径するようにして穿孔を形成し、アンカーの先端を穿孔の拡底部で拡開させる所謂アンダーカット式のあと施工アンカー及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートに対して、孔底に近い部分に拡径するようにして穿孔を形成し、アンカーの先端を穿孔の拡底部で拡開させるようにしてコンクリートに設置されるアンダーカット式のあと施工アンカーが知られている。アンダーカット式アンカーは、スリーブの拡張片をコンクリートの穿孔壁に圧接させて摩擦定着によって定着力を得るものではなく、予め形成された穿孔の拡底部に沿うようにスリーブの拡開羽根を開かせ、拡底部に拡開羽根を定置するものであるため、コンクリートに金属が食い付くことが出来ないような高強度コンクリートでも確実に高い定着力を発揮することができる。
【0003】
このようなアンダーカット式アンカーとして特許文献1のアンカーがある。このアンカーは、先端部に拡径部、他端部にボルト部が形成され、拡径部の外周面がテーパ状に形成された軸体と、先端部に拡開羽根が形成され、軸体に外挿されるスリーブとから構成され、スリーブを軸体の拡径部側に打ち込むことにより、穿孔の拡底部に沿ってスリーブの拡開羽根を拡開させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-132901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のような、外周面がテーパ状の拡径部112が先端部に、ボルト部113が他端部に形成された軸体111と、拡開羽根115が先端部に形成されたスリーブ114とから構成されるアンカー110をコンクリート120に設置する場合、アンカー110の打ち込み後、直ぐに取付物130をボルト部113に外挿配置し、その外側からボルト部113にナット140を締め付けるナット締めを行えば、スリーブ114の拡開羽根115は穿孔121の拡底部122から動くことができなくなるため、アンカー110はコンクリート120に安定して固定される(図11(a)参照)。
【0006】
しかしながら、アンカー110の打ち込みから取付物130の取り付けまでにある程度時間が空く場合には、スリーブ114の拡開羽根115にスプリングバックが発生して、スリーブ114が徐々に抜けて出て来てしまう(図11(b)、(c)参照)。即ち、この種のアンカーの施工工程では、アンカーの打ち込みと取付物の取り付けとの間に時間を空けることができないため、施工作業の自由度が低く、施工性に劣るという問題がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、取付物が取り付けられていない状態でもアンカーの設置状態を安定させることができ、施工作業の自由度を高め、施工性を向上することができるあと施工アンカー及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のあと施工アンカーは、基端側に雄ねじ部が形成され、先端側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部を介して略円柱状の円柱部が形成され、前記円柱部の外周面の少なくとも一部に凹凸形状が設けられているヘッドと、先端からスリットが切り込まれて拡開羽根が周方向に複数設けられ、前記ヘッドの先端に向かって前記拡開羽根が前記テーパ部に乗り上げることにより前記拡開羽根が拡開される拡開スリーブと、先端から基端側に向かって前記雄ねじ部に螺合可能な雌ねじ部が形成され、前記雌ねじ部と前記雄ねじ部の螺着により先端側の前記拡開スリーブの前記拡開羽根の拡開状態を保持する雌ねじ体とを備えることを特徴とする。
これによれば、穿孔の孔壁への凹凸形状の引っ掛けでヘッドの共回りを防止しながら、ヘッドの雄ねじ部に雌ねじ体の雌ねじ部を螺入し、螺着することにより、拡開スリーブの拡開羽根の拡開状態を保持し、安定させることができる。即ち、取付物が取り付けられていない状態でもヘッドの雄ねじ部に雌ねじ体の雌ねじ部を螺入した後にはあと施工アンカーに引抜方向の力が作用したときヘッドはますます拡開羽根を開かせようとしてしまうので、あと施工アンカーの設置状態を安定させておくことができる。従って、あと施工アンカーの設置からある程度時間を空けて取付物の取り付けを行う施工工程等も可能となり、施工作業の自由度を高め、施工性を向上することができる。
【0009】
本発明のあと施工アンカーは、前記拡開スリーブと、前記雌ねじ体が別体であり、前記雌ねじ体の先端面が前記拡開スリーブの基端面に当接することにより前記拡開羽根の拡開状態を保持することを特徴とする。
これによれば、拡開スリーブと雌ねじ体を別体とすることにより、雌ねじ体を回転させることによってヘッドに螺入する際に、雌ねじ体と別体となっている拡開スリーブの基端面が、ヘッドの雌ねじ体への螺合進入に伴って雌ねじ体の先端面に押され、拡開スリーブの拡開羽根がスリットを介して開く。この際、拡開スリーブの基端面は雌ねじ体の先端面と安定的に密着しながら両者が別体であることによって、拡開スリーブの拡開羽根のスリットを介しての拡開変形が雌ねじ体の剛性に阻害されることなく、拡開羽根がヘッドのテーパ部に乗り上げてスムーズに拡開することができる。また、拡開スリーブと雌ねじ体を別体としておいても、拡開スリーブは雌ねじ体とこれに螺入されたヘッドの先端部に挟まれた位置でテーパ部に乗り上げて拡開している為、拡開スリーブのスプリングバックで孔口側に後退することができず、拡開スリーブの拡開羽根の拡開状態の安定性は阻害されない。
【0010】
本発明のあと施工アンカーは、前記雌ねじ体が略筒状であり、基端から先端側に向かって取付ボルトに螺合可能な別の雌ねじ部が前記雌ねじ部と同軸状に形成されていることを特徴とする。
これによれば、雌ねじ体を基端から先端側に向かって別の雌ねじ部が形成された略筒状とすることにより、あと施工アンカーを設置した状態において、コンクリート壁面等の設置面から突出するボルト等の突出物を無くし、突出物が他の施工作業の邪魔になることを無くすことができる。また、取付物の厚さに応じて、任意の長さの取付ボルトを別の雌ねじ部に螺合して使用することができ、多様な取付物の厚さに対応することができ、汎用性に優れる。
【0011】
本発明のあと施工アンカーは、前記ヘッドの前記円柱部の外周面に、外方に突出する回り止め突部が穿孔の孔壁に圧接可能に設けられていることを特徴とする。
これによれば、回り止め突部の穿孔の孔壁への圧接により、ヘッドの共回りをより確実に防止し、ヘッドの雄ねじ部に雌ねじ体の雌ねじ部をより確実に螺入することができる。
【0012】
本発明のあと施工アンカーは、前記ヘッドの前記テーパ部の外周面が内側に弧状にへこむR面で形成されていることを特徴とする。より好適には、拡開羽根の先端部の内面を、先端側に向かって広がるように傾斜する傾斜面とする構成とするとよい。
これによれば、拡大スリーブの拡開羽根がテーパ部の外周面に引っ掛かることを防止し、弧状にへこむR面に倣うように拡開羽根をスムーズに拡開させることができる。更には、拡開羽根の先端部の内面を、先端側に向かって広がるように傾斜する傾斜面とする構成とすると、拡開羽根を弧状にへこむR面により倣うように移動させることが可能となり、より一層スムーズに拡開羽根を拡開させることができる。
【0013】
本発明のあと施工アンカーの施工方法は、本発明のあと施工アンカーを施工する方法であって、孔底に近い部分に拡径された拡底部を形成するようにしてコンクリートに穿孔を形成する第1工程と、前記ヘッドの前記雄ねじ部に前記拡開スリーブ、前記雌ねじ体が順に外挿され、前記雄ねじ部に前記雌ねじ体の前記雌ねじ部の先端付近が螺合された状態で、前記あと施工アンカーを前記穿孔に挿入し、前記ヘッドの先端が前記穿孔の孔底に到達するまで前記あと施工アンカーを打ち込む第2工程と、前記雌ねじ体を螺入して前記拡開スリーブを前記穿孔の孔底側に移動させ、前記拡開スリーブの前記拡開羽根を前記テーパ部に乗り上げさせて前記拡開羽根を前記拡底部で拡開させる第3工程を備えることを特徴とする。
これによれば、ヘッド、拡開スリーブ、雌ねじ体から構成されるあと施工アンカーの状態で穿孔に挿入し、この状態から既に雄ねじ部に螺合されている雌ねじ体を螺入してインパクトレンチ等の電動回転工具による機械施工で拡開羽根を拡開させることが施工性良く行うことができる。また、施工時に雌ねじ体の雌ねじ部を穿孔内でヘッドの雄ねじ部に位置合わせして引っ掛け、螺合する等の高い精度が必要となる作業を減らすことができ、施工性を改善することができる。
【0014】
本発明のあと施工アンカーの施工方法は、本発明のあと施工アンカーを施工する方法であって、孔底に近い部分に拡径された拡底部を形成するようにしてコンクリートに穿孔を形成する第1工程と、前記ヘッドの前記雄ねじ部に前記雄ねじ体とは別体の前記拡開スリーブが外挿された状態で、前記ヘッド及び前記拡開スリーブを前記穿孔に挿入し、前記拡開スリーブを打込棒で打込んで前記拡開羽根を前記拡底部で拡開させる第2工程と、前記雌ねじ体を前記穿孔に挿入し、前記ヘッドの前記雄ねじ部に前記雌ねじ体の前記雌ねじ部を螺入して前記雌ねじ体の先端面を前記拡開スリーブの基端面に当接させ、前記拡開羽根の拡開状態を保持する第3工程を備えることを特徴とする。
これによれば、あと施工アンカーの拡開作業の為に電動工具などを用いずとも、広く用いられている打込棒を使用して人力で施工することができ、より多様な施工環境で施工することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、取付物が取り付けられていない状態でもあと施工アンカーの設置状態を安定させることができ、あと施工アンカーの施工作業の自由度を高め、施工性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は本発明に実施形態のあと施工アンカーの正面図、(b)は同図(a)のA-A矢視図、(c)は同図(a)のあと施工アンカーの縦断面図。
図2】(a)は実施形態のあと施工アンカーにおける雌ねじ体の左側面図、(b)は同図(a)の雌ねじ体の正面図、(c)は実施形態のあと施工アンカーにおける拡開スリーブの正面図、(d)は実施形態のあと施工アンカーにおけるヘッドの正面図、(e)は同図(d)のヘッドの右側面図。
図3】実施形態のあと施工アンカーにおけるヘッド、拡開スリーブ及び雌ねじ体と、あと施工アンカーの打設用治具の斜視説明図。
図4】(a)~(d)は実施形態のあと施工アンカーの施工方法の第1例における前半工程の工程説明図。
図5】(a)~(e)は実施形態のあと施工アンカーの施工方法の第1例における後半工程の工程説明図。
図6】(a)は実施形態のあと施工アンカーで取付物を取り付けた状態の一部断面説明図、(b)はその断面説明図。
図7】(a)~(c)は実施形態のあと施工アンカーの施工方法の第2例における前半工程の工程説明図。
図8】(a)~(d)は実施形態のあと施工アンカーの施工方法の第2例における後半工程の工程説明図。
図9】(a)は変形例のヘッドの正面図、(b)はその右側面図。
図10】(a)は変形例のあと施工アンカーで雌ねじ体を分離した状態の正面図、(b)はその縦断面図。
図11】(a)は従来例のあと施工アンカーをコンクリートに打ち込んで取付物を取り付けた状態の破断説明図、(b)は従来例のあと施工アンカーをコンクリートに打ち込んだ状態の破断説明図、(c)は同図(b)の状態からスプリングバックが生じてスリーブが抜け出てきた状態の破断説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔実施形態のあと施工アンカー〕
本発明による実施形態のあと施工アンカー1は、図1図3に示すように、基端側に雄ねじ部21が形成され、先端側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部22を介して略円柱状の円柱部23が形成されているヘッド2と、非拡開状態においてヘッド2のテーパ部22より基端側の部分、図示例では雄ねじ部21に外挿された拡開スリーブ3と、先端から基端側に向かってヘッド2の雄ねじ部21に螺合可能な雌ねじ部41が形成されている雌ねじ体4を備える。
【0018】
ヘッド2は、そのテーパ部22の外周面221が内側に僅かに弧状にへこむR面となるように形成されており、若干内側に湾曲する湾曲面になっている。また、ヘッド2の円柱部23の外周面231の少なくとも一部には凹凸形状が設けられており、本実施形態では、ヘッド2の円柱部23の外周面231の先端近傍に、周方向に間隔を開けて複数の回り止め溝232、図示例では周方向に等間隔を開けて4個の回り止め溝232が形成されている。図示例の回り止め溝232はヘッド2の先端側に向かって内方に傾くように傾斜して切り込まれている。
【0019】
4箇所の回り止め溝232のうち、対向する2箇所の回り止め溝232・232にはそれぞれ回り止め羽根233・233が嵌着されており、回り止め羽根233・233はヘッド2の円柱部23の外周面231から外方に突出するように設けられている。図示例の回り止め羽根233は略三角形の板状になっており、略三角形に切り込まれた回り止め溝232の形状と幅に略倣って形成されている。本実施形態の回り止め羽根233・233はヘッド2の円柱部23の外周面231から外方に突出する回り止め突部に相当し、コンクリート等に形成される穿孔の孔壁に圧接可能に設けられている。
【0020】
拡開スリーブ3は、略筒状であり、先端からスリット31が切り込まれて拡開羽根32が周方向に複数設けられている。本実施形態における拡開スリーブ3は、基端環部33の先端側に周方向に環状溝34が形成されており、環状溝34が形成された部分は薄肉部になっている。そして、この薄肉部の先端側に拡開羽根32が設けられ、基端環部33の先端側に薄肉部を介して拡開羽根32が形成されている。拡開羽根32を区画する各々のスリット31は、先端から環状溝34まで延び、基端環部33の先端面に達するように形成されている。また、それぞれの拡開羽根32の先端部の内面は、先端側に向かって広がるように傾斜する傾斜面321になっており、周方向に並ぶ拡開羽根32の全体では、先端側に向かって内径が広がるように内面取りされて傾斜面321が形成されている。
【0021】
拡開スリーブ3は、ヘッド2のテーパ部22より基端側の部分に外挿された状態からヘッド2の先端側に押し出し或いは打ち込み等で移動されると、ヘッド2の先端に向かって拡開羽根32がテーパ部22に乗り上げ、この乗り上げにより拡開羽根32が拡開されて拡開状態となる。この際、ヘッド2のテーパ部22における内側に弧状にへこむR面の外周面221と、拡開羽根32の先端部の傾斜面321とにより、拡開羽根32を非常にスムーズに外周面221に沿って移動させ、拡開させることができる。
【0022】
雌ねじ体4は、本実施形態では拡開スリーブ3と別体になっており、全体に亘って略筒状で形成され、図示例では円筒状になっている。雌ねじ体4には、先端から基端側に向かってヘッド2の雄ねじ部21に螺合可能な雌ねじ部41が形成されていると共に、基端から先端側に向かって取付ボルトに螺合可能な別の雌ねじ部42が雌ねじ部41と同軸状に形成されている。雌ねじ体4における雌ねじ部41の基端と別の雌ねじ部42の先端との間は、ねじ溝のない縮径部43になっており、縮径部43で取付ボルトの螺入量を規制可能になっている。
【0023】
雌ねじ体4は、雌ねじ部41とヘッド2の雄ねじ部21の螺着により、先端側の拡開スリーブ3の拡開羽根32の拡開状態を保持可能になっており、本実施形態では、雌ねじ体41の先端面が拡開スリーブ3の基端面に当接することにより、拡開羽根32の拡開状態を保持可能になっている(図5(d)、(e)参照)。また、雌ねじ体4の基端部における周方向の2箇所には、打設用治具を係合して取り付けるための係合溝44が形成されている。
【0024】
次に、本実施形態のあと施工アンカー1の施工方法の第1例について説明する。第1例の施工方法では、先ず、コンクリート61に壁面62からドリル71でストレートの穿孔63mを形成した後、専用の拡底工具72を穿孔63mに挿入して孔底65に近い部分を拡径し、拡底部64を有する穿孔63をコンクリート61に形成する(図4(a)、(b)参照)。
【0025】
その後、ヘッド2の雄ねじ部21に拡開スリーブ3、雌ねじ体4が順に外挿され、雄ねじ部21に雌ねじ体4の雌ねじ部41の先端付近が螺合された状態で、あと施工アンカー1を穿孔63に挿入し、ヘッド2の先端が穿孔63の孔底65に到達するまであと施工アンカー1を打ち込む(図4(c)、(d)、図5(a)参照)。この打ち込み完了後には、あと施工アンカー1の雌ねじ体4の係合溝44付近はコンクリート61の壁面62から突出した状態となる。このとき、ヘッド2の一方の回り止め羽根233の先端から対向する他方の回り止め羽根233の先端まで長さを穿孔径よりも極僅かに大きく設定することにより、回り止め羽根233・233を穿孔63の孔底65付近の孔壁66に食いつかせ、後述する雌ねじ体4を回転させる際に確実に回り止めすることが可能となる。
【0026】
そして、打設用治具51の軸方向に延びる係合突条52・52を雌ねじ体4の係合溝44・44に係合すると共に、インパクトレンチ等の電動回転工具54を打設用治具51のチャック53に取り付け、電動回転工具54の回転動作により雌ねじ体4を回転させる(図5(b)、(c)参照)。雌ねじ体4を回転させると、共回りが防止されたヘッド2の雄ねじ部21に雌ねじ体4の雌ねじ部41がねじ込まれ、螺入されていき、雌ねじ体41の穿孔63の孔底65側への移動に伴って雌ねじ体4の先端面が基端面に当接する拡開スリーブ3も雌ねじ体4に押されるようにして穿孔63の孔底65側に移動する。この拡開スリーブ3の移動により、拡開スリーブ3の拡開羽根32がヘッド2のテーパ部22に乗り上がり、スリット31を介して分割された拡開羽根32が穿孔63の拡底部64において拡底部64の形状に略倣うように拡開される(図5(d)参照)。
【0027】
このように、あと施工アンカー1をコンクリート61に埋設し、設置した状態では、雌ねじ体4の雌ねじ部41とヘッド2の雄ねじ部21がねじ結合によって一体化されているため、雌ねじ体4の先端面が基端面に当接されている拡開スリーブ3の拡開羽根32は、拡底部64の拡開状態から動くことができない。即ち、雌ねじ体4が穿孔63から抜け出ようとするとヘッド2を雌ねじ体4側に引くことになり、拡開羽根32は拡底部64の外側に広がって元の非拡開状態の形状に戻ることができない(図5(e)の太線矢印参照)。従って、拡開羽根32が窄まってあと施工アンカー1が穿孔63から抜け出てしまう危険性が無く、あと施工アンカー1はコンクリート61に安定して固定設置される。
【0028】
その後、雌ねじ体4の別の雌ねじ部42に取付ボルト81を螺入、螺着すると共に、取付ボルト81に外挿し且つコンクリート61の壁面62に沿わせるように取付物82を配置し、取付物82の外側からワッシャー83を介して緩み止めナット等のナット84を取付ボルト81に螺合し、締め付けることにより、取付物82がコンクリート61に取り付けられる(図5(e)、図6参照)。
【0029】
次に、本実施形態のあと施工アンカー1の施工方法の第2例について説明する。第2例の施工方法では、先ず、第1例と同様の工程により、孔底65に近い部分に拡径された拡底部64を有する穿孔63をコンクリート61に形成し、形成した穿孔63に、ヘッド2の雄ねじ部21に雄ねじ体4とは別体の拡開スリーブ3が外挿された状態で、ヘッド2及び非拡開状態の拡開スリーブ3を挿入する(図7(a)参照)。
【0030】
更に、少なくとも先端部がヘッド2の雄ねじ部21が入り込み自在な筒状に形成された打込棒73を拡開スリーブ3の基端面に当てて、ハンマー74等で穿孔63の孔底65側に拡開スリーブ3を打ち込んでいく。拡開スリーブ3を打ち込むと、先ずヘッド2の先端が孔底65に達し、ヘッド2の一方の回り止め羽根233の先端から対向する他方の回り止め羽根233の先端まで長さを穿孔径よりも僅かに大きく設定することにより、回り止め羽根233・233を孔底65付近の孔壁66に食いつかせた状態にし、回り止め防止可能な構造とすることが可能となる。さらに拡開スリーブ3の打ち込みを続けると、拡開スリーブ3の拡開羽根32がヘッド2のテーパ部22に乗り上がり、拡開羽根32が穿孔63の拡底部64において拡底部64の形状に略倣うように拡開される(図7(b)、(c)参照)。
【0031】
打込棒73を回収した後、穿孔63に雌ねじ体4を挿入し、打設用治具51の軸方向に延びる係合突条52・52を雌ねじ体4の係合溝44・44に係合して第1例と同様に雌ねじ体4を回転させ、ヘッド2の雄ねじ部21に雌ねじ体4の雌ねじ部41を螺入して雌ねじ体4の先端面を拡開スリーブ3の基端面に当接させ、拡開羽根32の拡開状態を保持する(図8(a)~(c)参照)。即ち、第1例で施工した場合と同様に、雌ねじ体4が穿孔63から抜け出ようとするとヘッド2を雌ねじ体4側に引くことになり、拡開羽根32は拡底部64の外側に広がって元の非拡開状態の形状に戻ることができない(図8(c)の太線矢印参照)。従って、拡開羽根32が窄まってあと施工アンカー1が穿孔63から抜け出てしまう危険性が無く、あと施工アンカー1はコンクリート61に安定して固定設置される。
【0032】
その後、第1例と同様に、雌ねじ体4の別の雌ねじ部42に取付ボルト81を螺入、螺着すると共に、取付ボルト81に外挿し且つコンクリート61の壁面62に沿わせるように取付物82を配置し、取付物82の外側からワッシャー83を介して緩み止めナット等のナット84を取付ボルト81に螺合し、締め付けることにより、取付物82がコンクリート61に取り付けられる(図8(d)、図6参照)。
【0033】
本実施形態のあと施工アンカー1によれば、例えばコンクリート61の穿孔63の孔壁66への凹凸形状の引っ掛けでヘッド2の共回りを防止しながら、ヘッド2の雄ねじ部21に雌ねじ体4の雌ねじ部41を螺入し、螺着することにより、拡開スリーブ3の拡開羽根32の拡開状態を保持し、安定させることができる。即ち、取付物82が取り付けられていない状態でもヘッド2の雄ねじ部21に雌ねじ体4の雌ねじ部41を螺入した後にはあと施工アンカー1に引抜方向の力が作用したときヘッド2はますます拡開羽根32を開かせようとしてしまうので、あと施工アンカー1の設置状態を安定させておくことができる。従って、あと施工アンカー1の設置からある程度時間を空けて取付物82の取り付けを行う施工工程等も可能となり、施工作業の自由度を高め、施工性を向上することができる。
【0034】
また、拡開スリーブ3と雌ねじ体4を別体とすることにより、雌ねじ体4を回転させることによってヘッド2に螺入する際に、雌ねじ体4と別体となっている拡開スリーブ3の基端面が、ヘッド2の雌ねじ体4への螺合進入に伴って雌ねじ体4の先端面に押され、拡開スリーブ3の拡開羽根32がスリット31を介して開く。この際、拡開スリーブ3の基端面は雌ねじ体4の先端面と安定的に密着しながら両者が別体であることによって、拡開スリーブ3の拡開羽根32のスリット31を介しての拡開変形が雌ねじ体4の剛性に阻害されることなく、拡開羽根32がヘッド2のテーパ部221に乗り上げてスムーズに拡開することができる。また、拡開スリーブ3は雌ねじ体4とこれに螺入されたヘッド4の先端部に挟まれた位置でテーパ部221に乗り上げて拡開している為、拡開スリーブ3のスプリングバックで孔口側に後退することができず、拡開スリーブ3の拡開羽根32の拡開状態の安定性は阻害されない。
【0035】
また、雌ねじ体4を基端から先端側に向かって別の雌ねじ部42が形成された略筒状とすることにより、あと施工アンカー1を設置した状態において、コンクリート壁面62から突出するボルト等の突出物を無くし、突出物が他の施工作業の邪魔になることを無くすことができる。また、取付物82の厚さに応じて、任意の長さの取付ボルト81を別の雌ねじ部42に螺合して使用することができ、多様な取付物82の厚さに対応することができ、汎用性に優れる。
【0036】
また、回り止め突部に相当する回り止め羽根233・233を穿孔63の孔壁66に圧接する構成により、ヘッド2の共回りをより確実に防止し、ヘッド2の雄ねじ部21に対して雌ねじ体4の雌ねじ部41をより確実に螺入することができる。
【0037】
また、ヘッド2のテーパ部22における内側に弧状にへこむR面の外周面221と、拡開羽根32の先端部の傾斜面321とにより、拡開羽根32を非常にスムーズにテーパ部22の外周面221に倣うように移動させ、よりスムーズに拡開させることができる。
【0038】
また、第1例の施工方法によれば、ヘッド2、拡開スリーブ3、雌ねじ体4から構成されるあと施工アンカー1の状態で穿孔63に挿入し、この状態から既に雄ねじ部21に螺合されている雌ねじ体4を螺入してインパクトレンチ等の電動回転工具による機械施工で拡開羽根32を拡開させることが施工性良く行うことができる。また、施工時に雌ねじ体4の雌ねじ部41を穿孔63内でヘッド2の雄ねじ部21に位置合わせして引っ掛け、螺合する等の高い精度が必要となる作業を減らすことができ、施工性を改善することができる。また、第2例の施工方法によれば、広く用いられている打込棒73を使用して施工することができ、より多様な施工環境で施工することが可能となる。
【0039】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態、各例の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や下記の更なる変形例も含まれる。
【0040】
例えば上記実施形態におけるあと施工アンカー1のヘッド2は、テーパ部22の外周面221を内側に僅かに弧状にへこむR面となるように形成したが、図9の変形例のヘッド2aのように、テーパ部22aの外周面221aを直線状に傾斜する傾斜面とすることも可能である。また、コンクリートの強度、穿孔径によっては、ヘッド2、2aの回り止め溝232自体を円柱部23の外周面231の少なくとも一部に設けられる凹凸形状とし、この凹凸形状によるヘッド先端の角、即ち回り止め溝232の角を孔壁66に引っ掛けるようにして共回りを防止してもよい。
【0041】
また、上述の第2例の施工方法のように打撃式施工を行う場合には、全長に亘って略筒状の雌ねじ体4に代え、図10に示すボルトタイプの雌ねじ体4bを用いてあと施工アンカー1bを構成することも可能である。雌ねじ体4bは、略円柱形の基部45bに先端から基端側に向かってヘッド2の雄ねじ部21に螺合可能な雌ねじ部41bが所定長で形成されており、基部45bから基端側に向かって雄ねじ部46bが突出して形成されている。あと施工アンカー1bにおいても、雌ねじ部41bとヘッド2の雄ねじ部21との螺着により先端側の拡開スリーブ3の拡開羽根32の拡開状態を保持することが可能である。あと施工アンカー1bを施工する際には、例えば図8(a)の状態で設置されたヘッド2の雄ねじ部21に、雌ねじ体4bを回転させて雌ねじ部41bを螺入することにより施工する。
【0042】
また、本発明のあと施工アンカーには、拡開スリーブ3と雌ねじ体4を別体ではなく、一体的な部材で構成したものも含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、例えばコンクリートに、孔底に近い部分を拡径するようにして穿孔を形成し、アンカーの先端を穿孔の拡底部で拡開させるアンダーカット式のあと施工アンカーとして利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1、1b…あと施工アンカー 2、2a…ヘッド 21…雄ねじ部 22、22a…テーパ部 221、221a…外周面 23…円柱部 231…外周面 232…回り止め溝 233…回り止め羽根 3…拡開スリーブ 31…スリット 32…拡開羽根 321…傾斜面 33…基端環部 34…環状溝 4、4b…雌ねじ体 41、41b…雌ねじ部 42…別の雌ねじ部 43…縮径部 44…係合溝 45b…基部 46b…雄ねじ部 51…打設用治具 52…係合突条 53…チャック 54…電動回転工具 61…コンクリート 62…壁面 63、63m…穿孔 64…拡底部 65…孔底 66…孔壁 71…ドリル 72…拡底工具 73…打込棒 74…ハンマー 81…取付ボルト 82…取付物 83…ワッシャー 84…ナット 110…アンカー 111…軸体 112…拡径部 113…ボルト部 114…スリーブ 115…拡開羽根 120…コンクリート 121…穿孔 122…拡底部 130…取付物 140…ナット
図1
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