(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144363
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】バルブおよび緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/348 20060101AFI20220926BHJP
F16F 9/19 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
F16F9/348
F16F9/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045332
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】小林 義史
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069AA54
3J069CC13
3J069EE03
3J069EE28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】減衰力の低減が可能なバルブおよびこのバルブを利用した緩衝器を提供する。
【解決手段】本発明のバルブV1は、ポート2aと、ポート2aの出口端に連通される環状窓2cと、環状窓2cの内周側に設けられた内周弁座2dと、環状窓2cの外周弁座2eとを有する弁座部材2と、弁座部材2に積まれるとともに外周弁座2eに離着座して環状窓2cを開閉可能であって孔10aを有する第一弁体10と、環状窓2c内に軸方向移動可能に収容されて第一弁体10の弁座部材側面に当接すると孔10aを閉塞する第二弁体11と、環状窓2c内に収容されて第二弁体11を第一弁体側へ向けて付勢する第二弁体付勢部材S1と、第二弁体11の第一弁体10から離間方向への移動を規制する規制部2gと、第二弁体11が規制部2gに当接しても孔10aとポート2aとの連通を確保する連通路とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポートと、前記ポートの出口端に連通される環状窓と、前記環状窓の内周側に設けられた内周弁座と、前記環状窓の外周側に設けられた外周弁座とを有する弁座部材と、
環板状であって内周が固定された状態で弁座部材に積まれるとともに前記外周弁座に離着座して前記環状窓を開閉可能であって前記環状窓に臨んで絞り或いは絞りに通じる通路となる孔を有する第一弁体と、
環板状であって前記環状窓内に軸方向移動可能に収容されて前記第一弁体の弁座部材側面に当接すると前記孔を閉塞する第二弁体と、
前記環状窓内に収容されて前記第二弁体を前記第一弁体側へ向けて付勢する第二弁体付勢部材と、
前記第二弁体が前記第一弁体から所定距離以上離間すると前記第二弁体の前記第一弁体から離間方向への移動を規制する規制部と、
前記第二弁体が前記規制部に当接しても前記孔と前記ポートとの連通を確保する連通路とを備えた
ことを特徴とするバルブ。
【請求項2】
前記第一弁体を前記弁座部材側へ向けて付勢する第一弁体付勢部材を備え、
前記弁座部材を前記環状窓の軸方向に直交する方向から見て前記内周弁座は、前記外周弁座よりも高い
ことを特徴とする請求項1に記載のバルブ。
【請求項3】
前記第一弁体付勢部材は、
前記第一弁体の反弁座部材側に配置されるとともに内周側が前記弁座部材に対して不動に固定される弾性を有する環状板と、
環板状であって前記第一弁体と前記環状板との間に介装され、内径が前記第一弁体と前記環状板の内径よりも大径であるとともに前記第一弁体と前記環状板の外径よりも小径なリングとを有する
ことを特徴とする請求項2に記載のバルブ。
【請求項4】
環板状であって前記第一弁体の反弁座部材側に重ねられて前記孔に通じる前記絞りを有する絞り弁体を備えた
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のバルブ。
【請求項5】
前記第一弁体の外周或いは前記弁座部材の前記外周弁座に固定オリフィスが設けられている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のバルブ。
【請求項6】
前記環状窓の内周側面は、前記環状窓の軸心を中心とする円筒状面で形成されており、
前記第二弁体は、内周を前記円筒状面に摺接させており、前記円筒状面によって前記弁座部材に対する前記軸方向への移動が案内される
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のバルブ。
【請求項7】
前記第二弁体は、内周に1つ以上の切欠を有し、
前記連通路の一部または全部は、前記切欠によって形成される
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のバルブ。
【請求項8】
シリンダと、
前記シリンダ内に移動自在に挿入されるとともに前記シリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、
前記シリンダ内に挿入されて前記ピストンに連結されるピストンロッドと、
前記シリンダの外周側に配置されて内方にリザーバ室が形成される外筒と、
前記シリンダの端部に設けられて前記圧側室と前記リザーバ室とを仕切るバルブケースと、
前記ピストンの前記伸側室側に設けられて前記ピストンに設けられる圧側ポートを開閉するピストン側バルブと、
前記バルブケースの前記圧側室側に設けられて前記バルブケースに設けられる吸込ポートを開閉するケース側バルブと、
請求項1から7のいずれか一項に記載のバルブとを備え、
前記弁座部材が前記ピストンとされ、前記バルブが前記ピストンの前記圧側室側に配置されるか、
前記弁座部材が前記バルブケースとされ、前記バルブが前記バルブケースの前記リザーバ室側に配置されるか、
前記弁座部材が前記ピストンとされて前記バルブが前記ピストンの前記圧側室側に配置されるとともに、前記弁座部材が前記バルブケースとされて前記バルブが前記バルブケースの前記リザーバ室側に配置されている
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項9】
シリンダと、
前記シリンダ内に移動自在に挿入されるとともに前記シリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、
前記シリンダ内に挿入されて前記ピストンに連結されるピストンロッドと、
前記シリンダの外周側に配置されて内方にリザーバ室が形成される外筒と、
前記シリンダの端部に設けられて前記圧側室と前記リザーバ室とを仕切るバルブケースと、
前記ピストンの前記伸側室側に設けられて前記ピストンに設けられる圧側ポートを開閉するピストン側バルブと、
前記バルブケースの前記圧側室側に設けられて前記バルブケースに設けられる吸込ポートを開閉するケース側バルブと、
前記伸側室と前記リザーバ室とを連通する減衰通路と、
前記減衰通路に設けられて前記伸側室から前記リザーバ室へ向かう液体の流れに抵抗を与える可変減衰バルブと、
請求項1から7のいずれか一項に記載のバルブとを備え、
前記弁座部材が前記ピストンとされ、前記バルブが前記ピストンの前記圧側室側に配置されるか、
前記弁座部材が前記バルブケースとされ、前記バルブが前記バルブケースの前記リザーバ室側に配置されるか、
前記弁座部材が前記ピストンとされて前記バルブが前記ピストンの前記圧側室側に配置されるとともに、前記弁座部材が前記バルブケースとされて前記バルブが前記バルブケースの前記リザーバ室側に配置されている
ことを特徴とする緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブおよび緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バルブにあっては、たとえば、車両のサスペンションに利用される緩衝器のピストン部等に用いられ、緩衝器内に区画される作動室同士を連通するポートを備えた弁座部材と、弁座部材に積層されてポートを開閉するメインディスクとを備えたものが知られる。
【0003】
このようなバルブは、メインディスクの内周を固定支持してメインディスクの外周側の撓みを許容している。そして、メインディスクは、ポートの上流の圧力が開弁圧に達すると撓み、弁座部材のポートの外周に設けられた環状弁座から離座してポートを開放する。
【0004】
また、バルブは、メインディスクに穿ったオリフィス孔を備えており、緩衝器が伸縮する際の速度(ピストン速度)が極低速域にある場合には、メインディスクのポートの開放に先立ちオリフィス孔を通じて作動油の通過を許容する。よって、このようなバルブを備えた緩衝器では、ピストン速度に応じて車両の乗心地に適する減衰力を発揮できる。
【0005】
ここで、オリフィス孔が常時作動室同士を連通していると、緩衝器が伸長しても収縮しても作動油が同じオリフィス孔を通過するため、緩衝器の伸側の減衰力特性(ピストン速度に対する減衰力の特性)と圧側の減衰力特性を独立して設定し難くなる。
【0006】
そこで、メインディスクと弁座部材との間に、外径がメインディスクよりも小径の環状のサブディスクを介装して、サブディスクでオリフィス孔を開閉するバルブが開発されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0007】
このバルブでは、サブディスクの内周がリーフバルブとともに固定支持されておりサブディスクの外周側の撓みが許容されている。そして、サブディスクは、外径がリーフバルブの外径よりも小さいために環状弁座には着座せずに、リーフバルブの弁座部材側の面に離着してオリフィス孔を開閉する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-86966号公報(
図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記バルブでは、サブディスクでメインディスクのオリフィス孔を開閉するために、サブディスクの内周が固定されているため、サブディスクの撓み剛性が高くなって、サブディスクがオリフィス孔を開放してもサブディスクとメインディスクとの間の隙間が狭くなる。そのため、作動油がオリフィス孔を通過する際に生じる圧力損失の他に、サブディスクとメインディスクとの間を通過する際にも圧力損失が生じてしまい、緩衝器が極低速域で伸縮する際に発生する減衰力が大きくなってしまう。このように従来のバルブでは、オリフィス孔によって発生させる減衰力が大きくなるため、緩衝器を搭載した車体に振動を与えて搭乗者に不快感を与えて、車両における乗心地を損なってしまう。
【0010】
バルブがオリフィス孔によって発生する減衰力を小さくする方法として、サブディスクの板厚を薄くして撓み剛性を低くすることが考えられる。しかしながら、サブディスクの板厚を薄くすると、サブディスクが圧力を受けて撓んだ際やオリフィス孔を塞いだ状態でポート側から圧力を受けた際の変形量が大きくなってサブディスクの耐久性が悪化するので、このような方法の採用は難しい。
【0011】
そこで、本発明は、減衰力の低減が可能なバルブおよびこのバルブを利用した緩衝器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明のバルブは、ポートと、ポートの出口端に連通される環状窓と、環状窓の内周側に設けられた内周弁座と、前記環状窓の外周側に設けられた外周弁座とを有する弁座部材と、環板状であって内周が固定された状態で弁座部材に積まれるとともに前記外周弁座に離着座して前記環状窓を開閉可能であって前記環状窓に臨んで絞り或いは絞りに通じる通路となる孔を有する第一弁体と、環板状であって前記環状窓内に軸方向移動可能に収容されて前記第一弁体の弁座部材側面に当接すると前記孔を閉塞する第二弁体と、前記環状窓内に収容されて前記第二弁体を前記第一弁体側へ向けて付勢する第二弁体付勢部材と、前記第二弁体が前記第一弁体から所定距離以上離間すると前記第二弁体の前記第一弁体から離間方向への移動を規制する規制部と、前記第二弁体が前記規制部に当接しても前記孔と前記ポートとの連通を確保する連通路とを備えたことを特徴とする。
【0013】
このように構成されたバルブによれば、第二弁体の耐久性を向上しつつも孔の開放時に第二弁体が第一弁体から十分な隙間を開けて離間できるので、第二弁体が作動油の流れに無用な抵抗を与えず、絞りで発生する減衰力に第二弁体による余計な減衰力が付加されるのを抑制できる。
【0014】
また、バルブは、第一弁体を弁座部材側へ向けて付勢する第一弁体付勢部材を備え、弁座部材を環状窓の軸方向に直交する方向から見て内周弁座は、外周弁座よりも高くてもよい。このように構成されたバルブによれば、第一弁体が第二弁体側へ撓むのに対して、第二弁体も第二弁体付勢部材によって第一弁体側へ向けて付勢されるので、第二弁体が第一弁体のピストン側面に密着して孔を密に閉塞して、絞りを確実に片効きのオリフィスとして機能させ得る。
【0015】
さらに、バルブにおける付勢部材は、第一弁体の反弁座部材側に配置される弾性を有する環状板と、環板状であって第一弁体と環状板との間に介装され内径が第一弁体と環状板の内径よりも大径であるとともに第一弁体と環状板の外径よりも小径なリングとを有してもよい。このように構成されたバルブは、付勢部材の構造が簡素で軸方向長さも短くて済むので、緩衝器に適用しても緩衝器のストローク長を損なわないので、緩衝器の全長の長尺化も回避できる。なお、付勢部材は、弾性体で構成されてもよい。
【0016】
また、バルブは、環板状であって第一弁体の反弁座部材側に重ねられて孔に通じる絞りを有する絞り弁体を備えていてもよい。このように構成されたバルブによれば、組立作業が容易となり、常に一定の開口面積の絞りで減衰力発揮できる。
【0017】
さらに、バルブは、固定オリフィスを備える場合、緩衝器の伸縮両側の減衰力特性を独立に設定可能である。
【0018】
また、バルブでは、弁座部材における環状窓の内周側面は、環状窓の軸心を中心とする円筒状面で形成されており、第二弁体は、内周を円筒状面に摺接させており、円筒状面によって弁座部材に対する軸方向への移動が案内されてもよい。このように構成されたバルブによれば、第二弁体を弁座部材に組み付けるだけで、第二弁体を弁座部材に対して径方向にて位置決めして第一弁体の孔に軸方向に正対させるので、第二弁体の位置合わせをせずとも第二弁体が第一弁体に当接時に孔を閉塞し得る。
【0019】
さらに、バルブにおける第二弁体が内周に1つ以上の切欠を有し、連通路の一部または全部が切欠によって形成されてもよい。このように構成されたバルブによれば、第二弁体が第一弁体から離間する開弁初期から液体の流路を十分に確保でき、第二弁体による圧力損失を効果的に低減でき、より一層、効果的に減衰力を低減できる。
【0020】
また、本発明の緩衝器は、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるとともにシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、シリンダ内に挿入されてピストンに連結されるピストンロッドと、シリンダを覆ってシリンダとの間にリザーバ室を形成する外筒と、シリンダの端部に設けられて圧側室とリザーバ室とを仕切るバルブケースと、ピストンの伸側室側に設けられてピストンに設けられる圧側ポートを開閉するピストン側バルブと、バルブケースの圧側室側に設けられてバルブケースに設けられる吸込ポートを開閉するケース側バルブとを備え、ピストンの圧側室側に配置されるバルブとバルブケースのリザーバ室側に配置されるバルブの一方または両方を備える。
【0021】
このように構成された緩衝器では、異音の発生を抑制できるとともに、車両のサスペンションに利用すると車両における乗り心地を向上できる。
【0022】
さらに、緩衝器は、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるとともにシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、シリンダ内に挿入されてピストンに連結されるピストンロッドと、シリンダの外周に配置されて内方にリザーバ室が形成される外筒と、シリンダの端部に設けられて圧側室とリザーバ室とを仕切るバルブケースと、ピストンの伸側室側に設けられてピストンに設けられる圧側ポートを開閉するピストン側バルブと、バルブケースの圧側室側に設けられてバルブケースに設けられる吸込ポートを開閉するケース側バルブと、伸側室とリザーバ室とを連通する減衰通路と、減衰通路に設けられて伸側室からリザーバ室へ向かう液体の流れに抵抗を与える可変減衰バルブとを備え、ピストンの圧側室側に配置されるバルブとバルブケースのリザーバ室側に配置されるバルブの一方または両方を備える。
【0023】
このように構成された緩衝器では、無負荷状態でも絞りを確実に閉鎖でき、減衰力可変幅を大きくしつつも異音の発生を抑制でき、車両のサスペンションに利用すると車両における乗り心地を向上できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のバルブおよび緩衝器によれば、減衰力の低減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施の形態における緩衝器の断面図である。
【
図2】一実施の形態のバルブが適用されたピストンの拡大断面図である。
【
図3】一実施の形態のバルブにおける弁座部材を除いた構成部品の平面図である。
【
図4】一実施の形態のバルブが適用されたバルブケースの拡大断面図である。
【
図5】一実施の形態のバルブが適用されたバルブケースの拡大底面図である。
【
図6】一実施の形態における緩衝器の減衰力特性を示した図である。
【
図7】一実施の形態の第一変形例がバルブが適用されたピストンの拡大断面図である。
【
図8】一実施の形態の第二変形例における緩衝器の断面図である。
【
図9】一実施の形態の第二変形例における緩衝器の減衰力特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のバルブおよび緩衝器を図に基づいて説明する。一実施の形態におけるバルブV1,V2は、
図1に示すように、緩衝器Dのピストン部の伸側減衰バルブおよびベースバルブ部の圧側減衰バルブとして利用されている。
【0027】
以下、バルブV1,V2および緩衝器Dの各部について詳細に説明する。緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるとともにシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン2と、シリンダ1内に挿入されてピストン2に連結されるピストンロッド3と、シリンダ1を覆ってシリンダ1との間にリザーバ室Rを形成する外筒4と、シリンダ1の端部に設けられて圧側室R2とリザーバ室Rとを仕切るバルブケース5と、ピストン2の伸側室側に設けられてピストン2に設けられる圧側ポート2bを開閉するピストン側バルブ6と、バルブケース5の圧側室側に設けられてバルブケース5に設けられる吸込ポート5eを開閉するケース側バルブ20と、バルブとしてピストン部におけるバルブV1とベースバルブ部におけるバルブV2を備えている。
【0028】
シリンダ1は、筒状であって内部には、前述したようにピストン2が移動自在に挿入されており、ピストン2の
図1中上方に伸側室R1が、
図1中下方には圧側室R2がそれぞれ区画されている。伸側室R1と圧側室R2内には、液体として、具体的にはたとえば、作動油が充填されている。なお、液体としては、作動油の他にも、水、水溶液等を充填してもよい。
【0029】
また、シリンダ1は、外周側に配置される有底筒状の外筒4内に収容されており、シリンダ1と外筒4との間の環状隙間でリザーバ室Rが形成されている。このリザーバ室R内は、この場合、作動油と気体とが充填されており、液体を作動油とする場合、作動油の劣化を防止するため気体を窒素等といった不活性ガスとするとよい。
【0030】
そして、シリンダ1の
図1中下端には、バルブケース5が嵌合されて設けられており、圧側室R2とリザーバ室Rとが仕切られており、また、シリンダ1の
図1中上端には、ピストンロッド3を摺動自在に軸支するロッドガイド8が嵌合されている。このロッドガイド8は、外筒4の内周に嵌合され、外筒4の上端を加締めることで、ロッドガイド8の
図1中上方に積層されて外筒4、シリンダ1およびピストンロッド3のそれぞれの間をシールするシール部材9とともに外筒4に固定される。このようにロッドガイド8を外筒4に固定するとシリンダ1は、外筒4の底部に載置されたバルブケース5とロッドガイド8とで挟持され、シリンダ1もバルブケース5とともに外筒4内で固定される。なお、外筒4の上端開口端を加締める代わりに、上端開口部にキャップを螺着して、このキャップと外筒4の底部とで、前記シール部材9、ロッドガイド8、シリンダ1およびバルブケース5を挟持して、これら部材を外筒4内で固定してもよい。
【0031】
ピストン2は、環状であって
図1および
図2に示すように、バルブV1における弁座部材とされていてピストンロッド3の一端となる
図1中下端に固定されている。弁座部材としてのピストン2は、伸側室R1と圧側室R2とを連通するポートとしての伸側ポート2aと、圧側室R2と伸側室R1とを連通する圧側ポート2bを備えている。伸側ポート2aは、ピストン2に複数設けられており、それぞれピストン2に対してピストン2の中心を中心とする同一円周上に配置されている。そして、ピストン2は、
図2中下端である圧側室側端に伸側ポート2aの出口端に連通される環状凹部でなる環状窓2cを備えるとともに、同じく下端の環状窓2cの内周側に環状の内周弁座2dと環状窓2cの外周側に環状の外周弁座2eを備えている。なお、伸側ポート2aおよび圧側ポート2bのそれぞれの設置数は任意であり単数であってもよい。
【0032】
なお、
図2に示すように、ピストン2を横方向(ピストン2の軸方向に直交する方向)から見て、ピストン2の下端に設けた内周弁座2dと外周弁座2eの高さを比べると、内周弁座2dの方が外周弁座2eよりも高くなっている。
図2に示したところでは、内周弁座2dの下端は、外周弁座2eの下端よりも
図2中下方となる圧側室R2側へ位置しており、両者には高低差が付けられている。
【0033】
また、圧側ポート2bは、ピストン2に対して同一円周上であって伸側ポート2aよりも外周側に複数設けられていて、入口端となる下端開口は外周弁座2eよりも外周側に開口している。また、ピストン2は、各圧側ポート2bの出口端となる上端開口をそれぞれ独立に取り囲む花弁型弁座2fを備えており、各圧側ポート2bの出口端は互いに連通されずに独立してピストン2の上端に開口している。そして、伸側ポート2aの入口端は、花弁型弁座2fにおける圧側ポート2bを囲む部分と隣の圧側ポート2bを囲む部分との間を介して伸側室R1へ連通されている。
【0034】
さらに、ピストン2における環状窓2cの底部は、
図2に示すように、外周側が内周側よりも一段高くなった段付形状となっている。そして、環状窓2cの底部における外周側の一段高い部分で環状の規制部2gが形成されている。また、ピストン2における環状窓2cの内周側面は、
図2に示すように、環状窓2cの軸心を中心とする円筒状面2hとされている。
【0035】
ピストン2の
図2中上側である伸側室側には、環状板を複数枚積層して構成されたピストン側バルブ6が重ねられている。ピストン側バルブ6は、内周を固定端として外周側の撓みが許容されている。ピストン側バルブ6は、圧側室R2の圧力が伸側室R1の圧力より高くなり、圧側ポート2bを介して作用する圧側室R2の圧力を受けて撓んで花弁型弁座2fから離座して開弁すると圧側ポート2bを開放して圧側室R2と伸側室R1とを連通させる。反対に、ピストン側バルブ6は、伸側室R1の圧力が圧側室R2の圧力より高いと背面側から作用する伸側室R1によって押しつけられて花弁型弁座2fに密着し圧側ポート2bを閉塞して圧側室R2と伸側室R1との連通を遮断する。したがって、ピストン側バルブ6は、花弁型弁座2fに離着座して圧側ポート2bを開閉するチェックバルブとして機能する。
【0036】
他方、ピストン2の
図2中下側である圧側室側には、バルブV1が設けられている。バルブV1は、環板状であって内周が固定された状態でピストン2に積まれるとともに外周弁座2eに離着座して環状窓2cを開閉可能であって環状窓2cに臨む孔10aを有する第一弁体10と、環板状であって環状窓2c内に軸方向移動可能に収容されて第一弁体10の弁座部材側面に当接すると孔10aを閉塞する第二弁体11と、第一弁体10の反弁座部材側に重ねられて孔10aに通じる絞りとしてのオリフィス12aを有する絞り弁体としてのオリフィス弁体12と、第一弁体10をピストン2側へ向けて付勢する第一弁体付勢部材B1と、環状窓2c内に収容されて第二弁体11を第一弁体10側へ向けて付勢する第二弁体付勢部材S1と、第二弁体11が第一弁体10から所定距離以上離間すると第二弁体11の第一弁体10から離間方向への移動を規制する規制部2gと、第二弁体11が規制部2gに当接しても孔10aとポートとしての伸側ポート2aとの連通を確保する連通路とを備えている。
【0037】
第一弁体10は、前述の通り環板状であって、内周が弁座部材としてのピストン2に対して不動に固定されていて外周側のみの撓みが許容され、外周弁座2eに離着座して伸側ポート2aを開閉する。第一弁体10は、バルブV1の主弁体として機能する。また、本実施の形態では、
図3に示すように、第一弁体10は、環状窓2cに対向する位置に周方向に沿って配置される複数の孔10aを備える他、外周に切欠で形成される複数の固定オリフィス10bを備えている。したがって、第一弁体10は、外周弁座2eに着座した状態では、固定オリフィス10bを介して伸側ポート2aと圧側室R2とを連通させる。
【0038】
そして、第一弁体10のピストン側には、第二弁体11が配置されている。第二弁体11は、環状窓2c内に収容されるとともに環状窓2c内で軸方向へ移動できる。第二弁体11は、
図3に示すように、外径が外周弁座2eの内径よりも小径であって孔10aを開閉可能な径とされる環板状であって、内周をピストン2の環状窓2cにおける内周側の円筒状面2hに摺接させている。よって、第二弁体11は、環状窓2c内で環状窓2cの円筒状面2hによってピストン2に対して径方向に位置決めされて、第一弁体10の孔10aに軸方向で正対するとともに、円筒状面2hによってガイドされて軸ぶれせずに軸方向へ移動できる。また、環状窓2cの内周面が円筒状面2hとされているので、第二弁体11は、環状窓2c内において環状窓2cの内周面に邪魔されずに軸方向へ移動できる。
【0039】
そして、第二弁体11と環状窓2cの底部との間には、第二弁体付勢部材S1として環状のウェーブワッシャが介装されている。第二弁体付勢部材S1は、第二弁体11を第一弁体10側へ向けて付勢しており、圧力が作用しない無負荷状態では第二弁体11を第一弁体10へ当接させる。第二弁体11は、第一弁体10に当接すると、孔10aを閉塞する。なお、第二弁体付勢部材S1は、第二弁体11を第一弁体10側へ付勢して第一弁体10へ当接させ得る弾性体であればよく、コイルばね、皿ばね、ゴム等の弾性体とされてもよい。第二弁体付勢部材S1と第二弁体11とが径方向に相対移動できない状態で連結される場合、第二弁体11の内周を円筒状面2hに摺接させず、第二弁体付勢部材S1を円筒状面2hの外周に嵌合させてもよい。このようにしても第二弁体11は、ピストン2に対して径方向に位置決めされるため、第一弁体10の孔10aに正対して第一弁体10に当接時に孔10aを閉塞できる。
【0040】
また、第二弁体11の外径は、環状窓2cの底部における規制部2gの内径よりも大径に設定されている。よって、第二弁体11は、環状窓2c内を第一弁体10側へ移動して第一弁体10のピストン側面に当接すると孔10aを閉塞する。反対に第二弁体11が第一弁体10から離間して環状窓2c内で所定距離L以上ピストン2側へ移動すると、第二弁体11の外周が規制部2gに当接して第二弁体11のそれ以上のピストン2側への移動が規制される。
【0041】
なお、第二弁体11の内周には、
図3に示すように、複数の切欠11aが設けられている。よって、第二弁体11は、第一弁体10から離間した際に、外周だけでなく、内周側の切欠11aをも介して第二弁体11の
図2中上方側となるピストン2側の空間と
図2中下方側となる第一弁体10側の空間とを連通させる。
【0042】
そして、第二弁体11が第一弁体10から所定距離L以上離間すると、第二弁体11の外周が環状の規制部2gに当接する。このように第二弁体11が規制部2gに当接した状態では、第二弁体11の外周と環状窓2cの外周側面との間の流路面積が狭められるが、第二弁体11の内周の切欠11aを通じて伸側ポート2aの出口端と第二弁体11の第一弁体10側の空間とが連通される。よって、第二弁体11が規制部2gに当接しても伸側ポート2aから孔10aへ至る流路における流路面積が狭められることがない。このように、本実施の形態におけるバルブV1では、第二弁体11の内周の切欠11aは、第二弁体11が規制部2gに当接しても伸側ポート2aと孔10aとを連通させる連通路として機能する。なお、第二弁体11に連通路を形成する場合、連通路は、第二弁体11の内周に切欠11aを設ける以外にも第二弁体11の肉厚を貫通する孔で形成されてもよい。
【0043】
つづいて、本実施の形態の第一弁体10の反ピストン側には、オリフィス弁体12が設けられている。オリフィス弁体12は、外径が第一弁体10の外径と同径の環板状であって、内周が固定端とされて第一弁体10と共に外周の撓みが許容されている。また、オリフィス弁体12は、
図3に示すように、同一円周上に配置される四つの円弧状孔12bと、外周から開口してそれぞれ対応する円弧状孔12bに通じる四つのオリフィス12aとを備えている。
【0044】
なお、本実施の形態では、
図2に示すように、第一弁体10とオリフィス弁体12との間には、外径が第一弁体10の外径と同径の環板状のディスク13が介装されている。ディスク13は、
図3に示すように、内周が固定端とされて第一弁体10およびオリフィス弁体12と共に外周の撓みが許容されており、第一弁体10の孔10aとオリフィス弁体12の円弧状孔12bと対向するC型の切欠13aを備えている。よって、孔10aとオリフィス12aは、切欠13aおよび円弧状孔12bを介して連通されており、孔10aはオリフィス12aに通じる通路として機能している。そして、第二弁体11が孔10aを開放すると伸側室R1と圧側室R2は、孔10a、切欠13a、円弧状孔12bおよびオリフィス12aを通じて連通される。このように、ディスク13は、切欠13aを孔10aと円弧状孔12bとに対向させて両者を連通する役割を果たしており、第一弁体10とオリフィス弁体12の周方向相対的な位置によらず孔10aと円弧状孔12bの連通度合を大きくするために設けられている。第一弁体10の孔10aとオリフィス弁体12の円弧状孔12bとの連通度合が或る程度確保できる場合、ディスク13は廃止してもよい。
【0045】
第一弁体付勢部材B1は、
図2に示すように、第一弁体10の反ピストン側に配置されており、オリフィス弁体12の反ピストン側に積層されている。具体的には、第一弁体付勢部材B1は、第一弁体10の反ピストン側に配置される弾性を有する環状板14と、環板状であって第一弁体10と環状板14との間に介装されるリング15とを備えている。
【0046】
環状板14は、複数枚が積層されて設けられており、内周がピストン2に対して不動に固定されて外周側の撓みが許容されている。リング15は、内径が第一弁体10と環状板14の内径よりも大径であるとともに第一弁体10と環状板14の外径よりも小径とされており、本実施の形態では、
図3に示すように、オリフィス弁体12の反ピストン側に積層される環板状のリング保持環16に取り付けられている。リング保持環16は、第一弁体10と同径とされ、内周がピストン2に対して不動に固定されて外周側の撓みが許容されており、リング15が外周に溶接或いは接着によって取り付けられている。また、リング保持環16の反ピストン側には外径がリング15の内径よりも小径であって、リング15よりも薄肉の環状板でなるスペーサ17が介装されている。スペーサ17もまた内周が固定端とされて外周側の撓みが許容されている。
【0047】
さらに、第一弁体付勢部材B1の環状板14の反ピストン側には、環状であって環状板14の外径よりも外径が小径の間座18が重ねられている。そして、ピストン側バルブ6、ピストン2、第一弁体10、ディスク13、オリフィス弁体12、リング15が取り付けられたリング保持環16、スペーサ17、三枚の環状板14および間座18がピストンロッド3の下端に設けた小径部3aの外周に順番に組み付けられるとともに、小径部3aの先端に螺着されるピストンナット19によってピストンロッド3に固定される。ピストン側バルブ6、第一弁体10、ディスク13、オリフィス弁体12、リング保持環16、スペーサ17および環状板14は、ピストンナット19の小径部3aへの螺着によって固定されると、内周が固定されて外周の撓みが許容された状態でピストンロッド3に固定される。なお、第二弁体11および第二弁体付勢部材S1は、ピストン2をピストンロッド3の小径部3aの外周に組み付ける工程の前に予め環状窓2c内に収容してピストン2とともに組み付ければよい。
【0048】
なお、リング15とスペーサ17とでは横方向から見て高さが異なっているので、環状板14の外周が下方へ撓んでおり、環状板14に初期撓みが与えられている。このように初期撓みが与えられるので、環状板14は、第一弁体10をピストン側へ押しつける付勢力を発揮して第一弁体10を外周弁座2eへ着座させている。
【0049】
つまり、第一弁体付勢部材B1は、本実施の形態では、環状板14の弾発力で第一弁体10を付勢している。そして、第一弁体付勢部材B1は、この付勢力によって第一弁体10が伸側ポート2aを介して作用する伸側室R1の圧力を受けて外周弁座2eから離座する際の伸側室R1と圧側室R2の差圧である開弁圧を設定している。開弁圧は、環状板14の設置枚数によって調節でき、本実施の形態では、三枚の環状板14を設けているが要求される開弁圧によって設置枚数は適宜変更できる。
【0050】
そして、
図2に示すように、ピストン2を環状窓2cの軸方向に直交する横方向から見て、内周弁座2dの方が外周弁座2eよりも高くなっているので、第一弁体付勢部材B1からの付勢力を受けた第一弁体10は外周が
図2中上方となるピストン2側へ撓んだ状態で外周弁座2eに着座する。このように第一弁体10が第二弁体11側へ撓むのに対して、第二弁体11も第二弁体付勢部材S1によって第一弁体10側へ向けて付勢されるので、第二弁体11が第一弁体10のピストン側面に密着して孔10aを閉塞する。
【0051】
このように、バルブV1をピストン2とともにピストンロッド3に固定した状態で何ら圧力も流体力も作用しない無負荷状態において、第二弁体11が第一弁体10のピストン側面に密着して孔10aを密に閉塞する。なお、本実施の形態では、横方向から見て外周弁座2eより内周弁座2dを高くしているが、内周弁座2dが外周弁座2eに対して低いか、或いは、外周弁座2eと同じ高さとなっていても、第二弁体11が第二弁体付勢部材S1によって第一弁体10側へ向けて付勢されているので、無負荷状態において第二弁体11が第一弁体10のピストン側面に当接して孔10aを確実に閉塞できる。
【0052】
このように、横方向から見て内周弁座2dが外周弁座2eに対して低いか、或いは、外周弁座2eと同じ高さとなっていても、第二弁体付勢部材S1によって第二弁体11で孔10aを確実に閉塞できるが、第一弁体付勢部材B1で第一弁体10をピストン2側へ付勢する場合、横方向から見て内周弁座2dを外周弁座2eより高くすると第二弁体11で孔10aを密に閉塞できるのである。
【0053】
なお、内周弁座2dが外周弁座2eよりも低いか或いは外周弁座2eと同じ高さに設定されるピストン2に対して、内周弁座2dと第一弁体10との間に外径が内周弁座2dよりも小径な環状のシムを介装して、第一弁体10の内周側の支持位置を外周弁座2eよりも高くするようにして、第一弁体10の外周を第一弁体付勢部材B1によってピストン2側へ向けて撓ませてもよい。その場合、第二弁体11の板厚をシムの板厚よりも厚くすれば、第二弁体11が環状窓2cの内周側の円筒状面2hを摺動する際に内周弁座2dに乗り上げるのを防止できる。
【0054】
このように構成されたバルブV1は、伸側室R1の圧力が圧側室R2の圧力より高くなっても両者の差圧が前記開弁圧に達するまでは第一弁体10が外周弁座2eに着座した状態に維持される。この状態では固定オリフィス10bを通じて伸側室R1と圧側室R2とが連通されるので、伸側室R1内の作動油は固定オリフィス10bのみを通過して圧側室R2へ移動する。また、第二弁体11は、無負荷状態でも第一弁体10に当接しており、伸側ポート2aを介して伸側室R1の圧力を受けるので第一弁体10に当接したままとなりオリフィス12aに通じる孔10aを閉塞する。よって、オリフィス弁体12のオリフィス12aには、作動油は流れずオリフィス12aは機能しない。なお、ピストン側バルブ6或いは花弁型弁座2fにも固定オリフィスを設ける場合には、作動油は、この固定オリフィスとともに固定オリフィス10bを通過して伸側室R1から圧側室R2へ移動する。
【0055】
そして、バルブV1は、伸側室R1の圧力が圧側室R2の圧力より高くなって両者の差圧が前記開弁圧に達すると、第一弁体10を押す力が環状板14の付勢力に打ち勝って第一弁体10が撓んで外周弁座2eから離座し開弁する。バルブV1が開弁すると伸側ポート2aが開放され、作動油は、第一弁体10と外周弁座2eとの間にできる環状隙間を介して伸側室R1から圧側室R2へ移動するようになる。なお、第二弁体11は、第二弁体付勢部材S1によって付勢されるとともに伸側室R1の圧力を受け、第一弁体10のピストン側面に当接したまま第一弁体10の撓みに追従してピストン2から離間する方向へ移動するため、孔10aを閉塞しつづけてオリフィス12aを機能させない。
【0056】
また、バルブV1は、圧側室R2の圧力が伸側室R1の圧力より高いと背面側から作用する圧側室R2によって押しつけられて第一弁体10が外周弁座2eに密着し伸側ポート2aを閉塞する。圧側室R2の圧力が伸側室R1の圧力より高い場合、オリフィス12a、円弧状孔12b、切欠13aおよび孔10aを介して圧側室R2の圧力が第二弁体11に作用するので、第二弁体11は、第二弁体付勢部材S1を押し縮めて環状窓2cの底部側へ移動し、第一弁体10から離間して孔10aを開放する。よって、圧側室R2の圧力が伸側室R1の圧力より高くなると、前述の固定オリフィス10bを介して圧側室R2と伸側室R1とが連通されるほか、第二弁体11が孔10aを開放してオリフィス12aを介しても圧側室R2と伸側室R1とが連通される。
【0057】
このようにバルブV1では、伸側室R1の圧力が圧側室R2の圧力よりも高いがその差圧が小さい場合には、作動油に固定オリフィス10bを通過させ、圧側室R2の圧力が伸側室R1の圧力よりも高いがその差圧が小さいと作動油に固定オリフィス10bおよびオリフィス12aを通過させる。そして、このように構成されたバルブV1では、無負荷状態で第二弁体11が第一弁体10に当接して孔10aを確実に閉塞して伸側室R1から圧側室R2へ作動油が向かう作動時においてオリフィス12aを遮断できるから、オリフィス12aを確実に片効きのオリフィスとして機能させ得る。
【0058】
なお、第一弁体10における孔10aをオリフィスとして機能させてもよく、その場合には、オリフィス弁体12を廃止してもよい。また、第一弁体10を付勢する必要がない場合、第一弁体付勢部材B1の廃止も可能である。また、弁座部材としてのピストン2の形状および構造は、前述したところに限定されるものではなく、適宜設計変更することができる。
【0059】
つづいて、バルブV2について説明する。バルブケース5は、
図1および
図4に示すように、環状であって、シリンダ1の下端に嵌合する小径な小径部5aと、下端外周に設けた筒状のスカート5bと、スカート5bに設けられてスカート5bの内外を連通する切欠5cと、圧側室R2に臨む
図1中上端となる圧側室端からスカート5b内に臨む反圧側室端へと通じるポートとしての減衰ポート5dおよび吸込ポート5eとを備えて構成されている。
【0060】
なお、この実施の形態の場合、減衰ポート5dは、バルブケース5に同一円周上に複数設けられており、吸込ポート5eについても同様にバルブケース5に減衰ポート5dが設けられる円より大径な円の円周上に複数設けられているが、これらポートのそれぞれの設置数は任意であり単数であってもよい。
【0061】
そして、バルブケース5は、シリンダ1の端部に小径部5aを嵌合してスカート5bの下端を外筒4の底部に当接させて、外筒4とシリンダ1とで挟持されて外筒4に固定されるとともに、このバルブケース5で、圧側室R2とリザーバ室Rとを仕切っている。また、減衰ポート5dおよび吸込ポート5eは、上端開口端がともに圧側室R2に臨んでおり、また、下端開口端がスカート5bに設けた切欠5cを介してリザーバ室Rに通じており、これら減衰ポート5dおよび吸込ポート5eは、圧側室R2とリザーバ室Rとを連通している。
【0062】
バルブケース5は、バルブV2における弁座部材とされていて、バルブV2およびケース側バルブ20とがバルブケース5の内周に挿入されるガイドロッド21の外周に固定されている。
【0063】
また、弁座部材としてのバルブケース5は、
図4中下端であるリザーバ室側端にポートとしての減衰ポート5dの出口端に連通される環状凹部でなる環状窓5fを備えるとともに、同じく下端の環状窓5fの内周側に環状の内周弁座5gと環状窓5fの外周側に環状の外周弁座5hを備えている。
【0064】
バルブケース5は、
図5に示すように、環状窓5fの底部であって減衰ポート5d,5d間の部分から軸方向に立ち上がる複数の突条でなる規制部5jを備えている。また、バルブケース5における環状窓5fの内周側面は、
図4および
図5に示すように、環状窓5fの軸心を中心とする円筒状面5kとされている。
【0065】
なお、
図4に示すように、バルブケース5を横方向(バルブケース5の軸方向に直交する方向)から見て、バルブケース5の下端に設けた内周弁座5gと外周弁座5hの高さを比べると、内周弁座5gの方が外周弁座5hよりも高くなっている。
図4に示したところでは、内周弁座5gの下端は、外周弁座5hの下端よりも
図4中下方となるリザーバ室R側へ位置しており、両者には高低差が付けられている。
【0066】
また、バルブケース5は、各吸込ポート5eの出口端となる上端開口をそれぞれ独立に取り囲む花弁型弁座5iを備えており、各吸込ポート5eの出口端は互いに連通されずに独立してバルブケース5の上端に開口している。そして、減衰ポート5dの入口端は、花弁型弁座5iにおける吸込ポート5eを囲む部分と隣の吸込ポート5eを囲む部分との間を介して圧側室R2へ連通されている。
【0067】
バルブケース5の
図4中上側である圧側室側には、環状板を複数枚積層して構成されたケース側バルブ20が重ねられている。ケース側バルブ20は、内周を固定端として外周側の撓みが許容されている。ケース側バルブ20は、リザーバ室Rの圧力が圧側室R2の圧力より高くなり、吸込ポート5eを介して作用するリザーバ室Rの圧力を受けて撓んで花弁型弁座5iから離座して開弁すると吸込ポート5eを開放してリザーバ室Rと圧側室R2とを連通させる。反対に、ケース側バルブ20は、圧側室R2の圧力がリザーバ室Rの圧力より高いと背面側から作用する圧側室R2によって押しつけられて花弁型弁座5iに密着し吸込ポート5eを閉塞して圧側室R2とリザーバ室Rとの連通を遮断する。したがって、ケース側バルブ20は、花弁型弁座5iに離着座して吸込ポート5eを開閉するチェックバルブとして機能する。
【0068】
他方、バルブケース5の
図4中下側であるリザーバ室側には、バルブV2が設けられている。バルブV2は、環板状であって内周がバルブケース5に対して不動に固定されて積まれるとともに外周弁座5hに離着座して環状窓5fを開閉可能であって環状窓5fに臨む孔30aを有する第一弁体30と、環板状であって環状窓5f内に軸方向移動可能に収容されて第一弁体30の弁座部材側面に当接すると孔30aを閉塞する第二弁体31と、第一弁体30の反弁座部材側に重ねられて孔30aに通じる絞りとしてのオリフィス32aを有する絞り弁体としてのオリフィス弁体32と、第一弁体30をピストン2側へ向けて付勢する第一弁体付勢部材B2と、環状窓5f内に収容されて第二弁体31を第一弁体30側へ向けて付勢する第二弁体付勢部材S2と、第二弁体31が第一弁体30から所定距離以上離間すると第二弁体31の第一弁体30から離間方向への移動を規制する規制部5jと、第二弁体31が規制部5jに当接しても孔30aとポートとしての減衰ポート5dとの連通を確保する連通路とを備えている。バルブV2は、弁座部材をバルブケース5とする他、バルブV1とほぼ同様の構成を備えている。
【0069】
そして、バルブV2における第一弁体30、第二弁体31、オリフィス弁体32および第一弁体付勢部材B2の構成は、それぞれ対応するバルブV1の第一弁体10、第二弁体11、オリフィス弁体12および第一弁体付勢部材B1と同様の構成を備えている。よって、バルブV2の各構成のうち、バルブV1と同様の構成については説明が重複するので詳細な説明を省略し、バルブV2のバルブV
1と異なる構成について詳細に説明する。
【0070】
第一弁体30は、
図4に示すように、第一弁体10と同様に環板状であって、内周がバルブケース5に対して不動に固定されて外周側の撓みが許容され、外周弁座5hに離着座して減衰ポート5dを開閉する。また、第一弁体30は、環状窓5fに対向する位置に周方向に沿って配置される複数の孔30aを備える他、外周に切欠で形成される複数の固定オリフィス30bを備えている。したがって、第一弁体30は、外周弁座5hに着座した状態では、固定オリフィス30bを介して減衰ポート5dとリザーバ室Rとを連通させる。
【0071】
そして、第一弁体30のバルブケース5側には、第二弁体31が配置されている。第二弁体31は、
図4に示すように、外径が外周弁座5hの内径よりも小径であって孔30aを開閉可能な径とされる環板状であって、環状窓5f内に収容されるとともに、内周を環状窓5fの内周側の円筒状面5kの外周に摺接させて円筒状面5kにガイドされて軸方向へ移動できる。よって、第二弁体31は、環状窓5f内で環状窓5fの円筒状面5kによってバルブケース5に対して径方向に位置決めされて、第一弁体30の孔30aに軸方向で正対するとともに、円筒状面5kによってガイドされて軸ぶれせずに軸方向へ移動できる。
【0072】
そして、第二弁体31と環状窓5fの底部との間には、第二弁体付勢部材S2として環状のウェーブワッシャが介装されている。第二弁体付勢部材S2は、第二弁体31を第一弁体30側へ向けて付勢しており、圧力が作用しない無負荷状態では第二弁体31を第一弁体30へ当接させる。第二弁体31は、第一弁体10に当接すると、孔30aを閉塞する。
【0073】
また、第二弁体31の外径は、環状窓5fの底部の減衰ポート5d,5d間から立ち上がる規制部5jに軸方向で対向可能な径に設定されている。よって、第二弁体31は、環状窓5f内を第一弁体30側へ移動して第一弁体30のバルブケース側面に当接すると孔30aを閉塞する。反対に第二弁体31が第一弁体30から離間して環状窓5f内で所定距離L2以上バルブケース5側へ移動すると、第二弁体31の外周が規制部5jに当接して第二弁体31のそれ以上のバルブケース5側への移動が規制される。なお、第二弁体31の内周には、
図3に示すように、複数の切欠31aが設けられている。よって、第二弁体31は、第一弁体30から離間した際に、外周だけでなく、内周側の切欠31aをも介して第二弁体31の
図4中上方側となるピストン2側の空間と
図4中下方側となる第一弁体30側の空間とを連通させるのは、第二弁体11と同様である。
【0074】
なお、第二弁体31が規制部5jに当接した状態では、第二弁体31が複数の突条で形成された規制部5jによって環状窓5fの底部から隙間を開けて離間した状態で支持されるため、第二弁体31が減衰ポート5dの出口端を閉塞することがなく、作動油は、第二弁体31の内周側の切欠31aと外周とを通って減衰ポート5dから孔30aへ向かうことができる。よって、第二弁体31が規制部5jに当接しても減衰ポート5dから孔30aへ至る流路における流路面積が狭められることがない。このように、本実施の形態におけるバルブV2では、第二弁体31の内周の切欠31aおよび規制部5jを形成する突条間は、第二弁体31が規制部5jに当接しても減衰ポート5dと孔30aとを連通させる連通路として機能する。このように構成された規制部5jは、環状ではなく、環状窓5f内に周方向に間隔を開けて設けられる突条で形成されているので、第二弁体31に当接しても連通路として流路面積を確保できる。このように、他所にて連通路としての流路面積を確保できれば、第二弁体31に連通路として機能する切欠31aや孔を設けずともよい。
【0075】
また、本実施の形態の第一弁体30の反バルブケース側には、
図4に示すように、オリフィス弁体32が設けられている。オリフィス弁体32は、外径が第一弁体30の外径と同径の環板状であって、内周が固定端とされて第一弁体30と共に外周の撓みが許容されている。また、オリフィス弁体32は、
図3に示すように、同一円周上に配置される四つの円弧状孔32bと、外周から開口してそれぞれ対応する円弧状孔32bに通じる四つのオリフィス32aとを備えている。
【0076】
なお、本実施の形態のバルブV2は、
図4に示すように、バルブV1と同様に、第一弁体30とオリフィス弁体32との間に介装されて、外径が第一弁体30の外径と同径の環板状のディスク33を備えている。ディスク33は、
図3に示すように、第一弁体30の孔30aとオリフィス弁体32の円弧状孔32bと対向して孔30aと円弧状孔32bを連通するC型の切欠33aを備えている。ディスク33は、バルブV1のディスク13と同様に第一弁体30とオリフィス弁体32の周方向相対的な位置によらず孔30aと円弧状孔32bの連通度合を大きくするために設けられているが、廃止されてもよい。
【0077】
バルブV2における第一弁体付勢部材B2は、バルブV1の第一弁体付勢部材B1と同様に、第一弁体30の反バルブケース側に配置される弾性を有する複数の環状板34と、環板状であって第一弁体30と環状板34との間に介装されるリング35と、リング35を保持するリング保持環36と、環板状であってリング35の内周側に配置されるリング35よりも薄肉のスペーサ37とを備えてオリフィス弁体32の反バルブケース側に積層されている。
【0078】
さらに、第一弁体付勢部材B2の環状板34の反バルブケース側には、環状であって環状板34の外径よりも外径が小径の間座38が重ねられている。そして、ケース側バルブ20、バルブケース5、第一弁体30、ディスク33、オリフィス弁体32、リング35が取り付けられたリング保持環36、スペーサ37、三枚の環状板34および間座38がバルブケース5の内周に嵌合されるガイドロッド21の外周に順番に組み付けられるとともに、ガイドロッド21の先端に螺着されるナット22によってガイドロッド21に固定される。ケース側バルブ20、第二弁体31、第一弁体30、ディスク33、オリフィス弁体32、リング保持環36、スペーサ37および環状板34は、ナット22の螺着によって固定されると、内周が固定されて外周の撓みが許容された状態でガイドロッド21に固定される。なお、第二弁体31および第二弁体付勢部材S2は、バルブケース5をガイドロッド21の外周に組み付ける工程の前に予め環状窓5f内に収容してバルブケース5とともに組み付ければよい。
【0079】
このようにバルブケース5に内周が不動に固定された第一弁体付勢部材B2は、板厚が異なるリング35とスペーサ37によって初期撓みが与えられた環状板34が発揮する弾発力によって第一弁体30をバルブケース側へ押しつける付勢力を発揮して第一弁体30を外周弁座5hへ着座させている。第一弁体付勢部材B2は、第一弁体付勢部材B1と同様に、第一弁体30が減衰ポート5dを介して作用する圧側室R2の圧力を受けて外周弁座5hから離座する際の圧側室R2とリザーバ室Rの差圧である開弁圧を設定している。
【0080】
また、
図4に示すように、バルブケース5を環状窓5fの軸方向に直交する横方向から見て、内周弁座5gの方が外周弁座5hよりも高くなっているので、第一弁体付勢部材B2からの付勢力を受けた第一弁体30は外周が
図4中上方となるバルブケース5側へ撓んだ状態で外周弁座5hに着座する。このように第一弁体30が第二弁体31側へ撓むのに対して、第二弁体31も第二弁体付勢部材S2によって第一弁体30側へ向けて付勢されるので、第二弁体31が第一弁体30のピストン側面に密着して孔30aを閉塞する。このように、バルブV2をバルブケース5とともにガイドロッド21に固定した状態で何ら圧力も流体力も作用しない無負荷状態において、第二弁体31が第一弁体30のバルブケース側面に密着して孔30aを密に閉塞する。
【0081】
なお、本実施の形態では、横方向から見て外周弁座5hより内周弁座5gを高くしているが、内周弁座5gが外周弁座5hに対して低いか、或いは、外周弁座5hと同じ高さとなっていても、第二弁体31が第二弁体付勢部材S2によって第一弁体30側へ向けて付勢されているので、無負荷状態において第二弁体31が第一弁体30のピストン側面に当接して孔30aを確実に閉塞できるのは、バルブV1と同様である。
【0082】
このように構成されたバルブV2は、圧側室R2の圧力がリザーバ室Rの圧力より高くなっても両者の差圧が前記開弁圧に達するまでは第一弁体30が外周弁座5hに着座した状態に維持される。この状態では固定オリフィス30bを通じて圧側室R2とリザーバ室Rとが連通されるので、圧側室R2内の作動油は固定オリフィス30bのみを通過してリザーバ室Rへ移動する。また、第二弁体31は、無負荷状態でも第二弁体付勢部材S2の付勢力によって第一弁体30に当接しており、減衰ポート5dを介して圧側室R2の圧力を受けるので第一弁体30に当接したままとなりオリフィス32aに通じる孔30aを閉塞する。よって、オリフィス弁体32のオリフィス32aには、作動油は流れずオリフィス32aは機能しない。
【0083】
そして、バルブV2は、圧側室R2の圧力がリザーバ室Rの圧力より高くなって両者の差圧が前記開弁圧に達すると、第一弁体30を押す力が環状板34の付勢力に打ち勝って第一弁体30が撓んで外周弁座5hから離座し開弁する。バルブV2が開弁すると減衰ポート5dが開放され、作動油は、第一弁体30と外周弁座5hとの間にできる環状隙間を介して圧側室R2からリザーバ室Rへ移動するようになる。なお、第二弁体31は、第一弁体30とともに圧側室R2の圧力を受けて撓むので第一弁体30のバルブケース側面に密着した状態となり孔30aを閉塞してオリフィス32aを機能させない。
【0084】
また、バルブV2は、リザーバ室Rの圧力が圧側室R2の圧力より高いと背面側から作用するリザーバ室Rによって押しつけられて第一弁体30が外周弁座5hに密着し減衰ポート5dを閉塞する。リザーバ室Rの圧力が圧側室R2の圧力より高い場合、オリフィス32a、円弧状孔32b、切欠33aおよび孔30aを介してリザーバ室Rの圧力が第二弁体31に作用するので、第二弁体31は、第二弁体付勢部材S2を押し縮めて環状窓5fの底部へ移動し、第一弁体30から離間して孔30aを開放する。よって、リザーバ室Rの圧力が圧側室R2の圧力より高くなると、前述の固定オリフィス30bを介してリザーバ室Rと圧側室R2とが連通されるほか、第二弁体31が孔30aを開放してオリフィス32aを介してもリザーバ室Rと圧側室R2とが連通される。
【0085】
このようにバルブV2では、圧側室R2の圧力がリザーバ室Rの圧力よりも高いがその差圧が小さい場合には、作動油に固定オリフィス30bを通過させ、リザーバ室Rの圧力が圧側室R2の圧力よりも高いがその差圧が小さいと作動油に固定オリフィス30bおよびオリフィス32aを通過させる。そして、このように構成されたバルブV2では、無負荷状態で第二弁体31が第一弁体30に当接して孔30aを確実に閉塞して伸側室R1から圧側室R2へ作動油が向かう作動時においてオリフィス12aを遮断できるから、オリフィス12aを確実に片効きのオリフィスとして機能させ得る。
【0086】
なお、第一弁体30における孔30aをオリフィスとして機能させてもよく、その場合には、オリフィス弁体32を廃止してもよい。また、第一弁体30を付勢する必要がない場合、第一弁体付勢部材B2の廃止も可能である。また、弁座部材としてのバルブケース5の形状および構造は、前述したところに限定されるものではなく、適宜設計変更することができる。
【0087】
バルブV1,V2および緩衝器Dは、以上のように構成される。つづいて、緩衝器Dの作動について説明する。まず、緩衝器Dが伸長する場合について説明する。ピストン2がシリンダ1に対して
図1中上方側へ移動して、緩衝器Dが伸長行程にある場合、伸側室R1が圧縮されて、圧側室R2が拡大される。ピストン2のシリンダ1に対する移動速度であるピストン速度が低速の場合、伸側室R1の圧力が圧側室R2の圧力より高くなるが、両者の差圧は第一弁体10の開弁圧に達しない。そのため、バルブV1における第一弁体10が外周弁座2eに着座した状態に維持され、作動油は、固定オリフィス10bを通じて伸側室R1から圧側室R2へ移動する。よって、伸長行程時であってピストン速度が低速域にある場合、緩衝器Dは、
図6に示すように、固定オリフィス10bによって減衰力を発揮し、オリフィス特有のピストン速度の二乗に比例するような特性の減衰力を発揮する。
【0088】
また、緩衝器Dの伸長行程時には、ピストンロッド3がシリンダ1内から退出するので、このピストンロッド3がシリンダ1から退出する体積分の作動油がシリンダ1内で不足する。ピストン速度が低速の場合、リザーバ室Rと圧側室R2の差圧が小さいためバルブケース5に設けたケース側バルブ20は開弁しないものの、バルブV2の第二弁体31が撓んで孔30aを開放する。よって、シリンダ1内で不足する体積分の作動油は、固定オリフィス30bおよびオリフィス32aを介してリザーバ室Rからシリンダ1内へ供給される。つまり、低いピストン速度で緩衝器Dが伸長する場合、固定オリフィス30bのみならずオリフィス32aも有効となる。
【0089】
伸長行程の際のピストン速度が高速となると、伸側室R1と圧側室R2の差圧が大きくなり、両者の差圧が第一弁体10の開弁圧に達すると、第一弁体10を推す力が第一弁体付勢部材B1の付勢力に打ち勝って第一弁体10が撓んで外周弁座2eから離座して伸側ポート2aを開放する。すると、作動油は、第一弁体10と外周弁座2eとの間に出現する環状隙間を通過して伸側室R1から圧側室R2へ移動する。また、リザーバ室Rと圧側室R2の差圧が大きくなるので、バルブケース5に設けたケース側バルブ20が開弁して吸込ポート5eを開放する。よって、シリンダ1内で不足する分の作動油は、吸込ポート5eを通過してリザーバ室Rからシリンダ1内に供給されるようになる。よって、伸長行程時であってピストン速度が高速域にある場合、緩衝器Dは、
図5に示すように、第一弁体10が作動油の流れに与える抵抗によって減衰力を発揮し、ピストン速度に比例するような特性の減衰力を発揮する。
【0090】
また、伸長行程時において、ピストン速度が低速域にある場合にはリザーバ室Rから圧側室R2へ向かう作動油は、第二弁体31が開弁して固定オリフィス30bとオリフィス32aの双方を通過できるので、第二弁体31の開弁によって流路面積を大きく確保できる。第二弁体31の開弁時に第二弁体31が環状窓5fの底部側へ移動しても規制部5jによって第二弁体31の前記底部側への移動が規制されて減衰ポート5dを閉塞することがなく、バルブV2における連通路によってオリフィス32aと減衰ポート5dとの連通が確保され、第二弁体31が作動油の流れに無用な抵抗を与えることもない。ピストン速度が高速域に達すると、ケース側バルブ20が開弁して吸込ポート3eを開放するが、ケース側バルブ20の開弁前後で流路面積の変化度合を小さくできるので、圧側室R2内の圧力変動を抑制できる。
【0091】
つづいて、緩衝器Dが収縮する場合について説明する。ピストン2がシリンダ1に対して
図1中下方側へ移動して、緩衝器Dが収縮行程にある場合、圧側室R2が圧縮されて、伸側室R1が拡大される。ピストン速度が低速の場合、圧側室R2の圧力が伸側室R1の圧力より高くなるが両者の差圧は小さく、ピストン側バルブ6は開弁しないが、バルブV1の第二弁体11が撓んで孔10aを開放する。よって、圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油は、固定オリフィス10bおよびオリフィス12aを介して移動する。つまり、低いピストン速度で緩衝器Dが収縮する場合、固定オリフィス10bのみならずオリフィス12aも有効となる。
【0092】
また、緩衝器Dの収縮行程時には、ピストンロッド3がシリンダ1内へ侵入するので、このピストンロッド3がシリンダ1へ侵入する体積分の作動油がシリンダ1内で過剰となる。ピストン速度が低速の場合、圧側室R2とリザーバ室Rと差圧が小さいためバルブV2における第一弁体30は開弁しないので、作動油は、固定オリフィス30bを介して圧側室R2からリザーバ室Rへ移動する。よって、収縮行程時であってピストン速度が低速域にある場合、緩衝器Dは、
図6に示すように、固定オリフィス30bによって減衰力を発揮し、オリフィス特有のピストン速度の二乗に比例するような特性の減衰力を発揮する。
【0093】
収縮行程の際のピストン速度が高速となると、圧側室R2とリザーバ室Rの差圧が大きくなり、両者の差圧が第一弁体30の開弁圧に達すると、第一弁体30を推す力が第一弁体付勢部材B2の付勢力に打ち勝って第一弁体30が撓んで外周弁座5hから離座して減衰ポート5dを開放する。すると、作動油は、第一弁体30と外周弁座5hとの間に出現する環状隙間を通過して圧側室R2からリザーバ室Rへ移動する。また、圧側室R2と伸側室R1の差圧が大きくなるので、ピストン2に設けたピストン側バルブ6が開弁して圧側ポート2bを開放する。よって、収縮行程時であってピストン速度が高速域にある場合、緩衝器Dは、
図6に示すように、第一弁体30が作動油の流れに与える抵抗によって減衰力を発揮し、ピストン速度に比例するような特性の減衰力を発揮する。
【0094】
また、収縮行程時において、ピストン速度が低速域にある場合には圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油は、第二弁体11が開弁して固定オリフィス10bとオリフィス12aの双方を通過できるので、第二弁体11の開弁によって流路面積を大きく確保できる。第二弁体11の開弁時に第二弁体11が環状窓2cの底部側へ移動しても規制部2gによって第二弁体31の前記底部側への移動が規制されて伸側ポート2aを閉塞することがなく、バルブV1における連通路(切欠11a)によってオリフィス12aと伸側ポート2aとの連通が確保され、第二弁体11が作動油の流れに無用な抵抗を与えることもない。ピストン速度が高速域に達すると、ピストン側バルブ6が開弁して圧側ポート2bを開放するが、ピストン側バルブ6の開弁前後で流路面積の変化度合を小さくできるので、伸側室R1内の圧力変動を抑制できる。
【0095】
以上のように緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるとともにシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン2と、シリンダ1内に挿入されてピストン2に連結されるピストンロッド3と、シリンダ1を覆ってシリンダ1との間にリザーバ室Rを形成する外筒4と、シリンダ1の端部に設けられて圧側室R2とリザーバ室Rとを仕切るバルブケース5と、ピストン2の伸側室R1側に設けられてピストン2に設けられる圧側ポート2bを開閉するピストン側バルブ6と、バルブケース5の圧側室R2側に設けられてバルブケース5に設けられる吸込ポート5eを開閉するケース側バルブ20と、ピストン2の圧側室R2側に配置されるバルブV1と、バルブケース5のリザーバ室R側に配置されるバルブV2とを備えている。
【0096】
このように構成された緩衝器Dでは、伸長行程時におけるケース側バルブ20の開弁の前後で圧側室R2の圧力変動を抑制でき、収縮行程時におけるピストン側バルブ6の開弁の前後で伸側室R1の圧力変動を抑制できる。よって、このように構成された緩衝器Dによれば、無負荷状態でも絞りとしてのオリフィス12a,32aを確実に閉鎖でき、異音の発生を抑制できるとともに、車両のサスペンションに利用すると車両における乗り心地を向上できる。
【0097】
また、ピストン2の圧側室R2側にバルブV1を設けてバルブケース5にはバルブV2の代わりにリーフバルブを設ける場合、緩衝器Dの収縮行程時において、ピストン側バルブ6の開弁の前後で伸側室R1の圧力変動を抑制でき、異音の発生を防止できる。緩衝器Dの伸長行程時において異音発生の問題がないようであれば、このようにピストン2の圧側室R2側にのみバルブV1を設けるようにしてもよい。さらに、バルブケース5のリザーバ室R側にバルブV2を設けてピストン2にはバルブV1の代わりにリーフバルブを設ける場合、緩衝器Dの伸長行程時において、ケース側バルブ20の開弁の前後で圧側室R2の圧力変動を抑制でき、異音の発生を防止できる。緩衝器Dの収縮行程時において異音発生の問題がないようであれば、このようにバルブケース5のリザーバ室R側にのみバルブV2を設けるようにしてもよい。
【0098】
そして、本発明のバルブV1,V2は、ポート(伸側ポート2a、減衰ポート5d)と、ポート(伸側ポート2a、減衰ポート5d)の出口端に連通される環状窓2c,5fと、環状窓2c,5fの内周側に設けられた内周弁座2d,5gと、環状窓2c,5fの外周弁座2e,5hとを有する弁座部材(ピストン2,バルブケース5)と、環板状であって内周が固定された状態で弁座部材(ピストン2,バルブケース5)に積まれるとともに外周弁座2e,5hに離着座して環状窓2c,5fを開閉可能であって環状窓2c,5fに臨んでオリフィス(絞り)或いはオリフィス(絞り)12aに通じる通路となる孔10a,30aを有する第一弁体10,30と、環板状であって環状窓2c,5f内に軸方向移動可能に収容されて第一弁体10,30の弁座部材側面に当接すると孔10a,30aを閉塞する第二弁体11,31と、環状窓2c,5f内に収容されて第二弁体11,31を第一弁体10,30側へ向けて付勢する第二弁体付勢部材S1,S2と、第二弁体11,31が第一弁体10,30から所定距離以上離間すると第二弁体11,31の第一弁体10,30から離間方向への移動を規制する規制部2g,5jと、第二弁体11,31が規制部2g,5jに当接しても孔10a,30aとポート(伸側ポート2a、減衰ポート5d)との連通を確保する連通路とを備えている。
【0099】
このように構成されたバルブV1,V2では、第二弁体11,31が第二弁体付勢部材S1,S2によって第一弁体10,30側へ向けて付勢されており、第一弁体10,30に当接した際に孔10a,30aを閉塞するため、第二弁体11,31が孔10a,30aを開放する開弁圧は、第二弁体11,31の剛性とは無関係に第二弁体付勢部材S1,S2のばね定数のみで設定される。したがって、本実施の形態のバルブV1,V2によれば、第二弁体付勢部材S1,S2を小さくしておけば、第二弁体11,31の剛性を高くして第二弁体11,31に作用する圧力に対する耐久性を上げても、第二弁体11,31の開弁圧が大きくならずに済む。
【0100】
よって、本実施の形態のバルブV1,V2によれば、第二弁体11,31の耐久性を向上しつつも孔10a,30aの開放時に第二弁体11,31が第一弁体10,30から十分な隙間を開けて離間できるので、第二弁体11,31が作動油の流れに無用な抵抗を与えず、オリフィス(絞り)12a,32aで発生する減衰力に第二弁体11,31による余計な減衰力が付加されるのを抑制できる。
【0101】
以上より、本実施の形態のバルブV1,V2によれば、減衰力の低減が可能となり、バルブV1,V2を適用した緩衝器Dを搭載した車体に無用な振動を与えずに済むから、車両における乗心地を向上できる。
【0102】
さらに、本実施の形態のバルブV1,V2では、第二弁体11,31および第二弁体付勢部材S1,S2が環状窓2c,5f内に収容されているので、バルブV1,V2の全長を長くすることなく第二弁体11,31および第二弁体付勢部材S1,S2を設けることができる。
【0103】
また、本実施の形態のバルブV1,V2では、無負荷状態でも第二弁体11,31が第一弁体10,30に当接して孔10a,30aを閉塞でき、ポート(伸側ポート2a,減衰ポート5d)からオリフィス(絞り)12a,32aへ向かう作動油の流れに対して第二弁体11,31が閉じ遅れて、作動油がオリフィス(絞り)12a,32aを流れてしまう事態も生じさせないので、緩衝器Dが低速で伸縮する際に減衰特性が変化してしまう恐れもない。
【0104】
また、このように構成されたバルブV1,V2を緩衝器Dに適用すれば、オリフィス(絞り)12a,32aを緩衝器Dの伸長行程時にのみ或いは収縮行程時にのみ機能する片効きのオリフィス(絞り)に設定できるので、緩衝器Dの伸縮行程時の減衰力特性と収縮行程時の減衰力特性を独立して設定できる。
【0105】
さらに、本実施の形態のバルブV1,V2では、環状窓2c,5fの内周側面が環状窓2c,5fの軸心を中心とする円筒状面2h,5kで形成されており、第二弁体11,31が内周を円筒状面2h,5kに摺接させており、円筒状面2h,5kによって弁座部材(ピストン2、バルブケース5)に対する軸方向への移動が案内される。このように構成されたバルブV1,V2によれば、第二弁体11,31を弁座部材(ピストン2、バルブケース5)に組み付けるだけで、第二弁体11,31を弁座部材(ピストン2、バルブケース5)に対して径方向にて位置決めして第一弁体10,30の孔10a,30aに軸方向に正対させて、第二弁体11,31を位置合わせせずとも第一弁体10,30に当接時に第二弁体11,31で孔10a,30aを閉塞し得る。
【0106】
また、本実施の形態のバルブV1,V2では、第二弁体11,31が内周に1つ以上の切欠11aを有し、連通路の一部または全部は、切欠11aによって形成されている。このように構成されたバルブV1,V2では、第二弁体11,31が第一弁体10,30から離間した際に、オリフィス12a,32aから孔10a,30aを通過してきた作動油が第二弁体11,31の外周側だけでなく内周側の切欠11a,31aを通過してポート(伸側ポート2a、減衰ポート5d)へ移動できる。よって、本実施の形態のバルブV1,V2によれば、第二弁体11,31が第一弁体10,30から離間する開弁初期から作動油の流路を十分に確保でき、第二弁体11,31による圧力損失を効果的に低減でき、より一層、効果的に減衰力を低減できる。さらに、第二弁体11,31が規制部2g,5jに当接した際に第二弁体11,31の内周に設けた切欠11a,31aが連通路として機能して流路面積を確保できるので、規制部2g,5jの形状や設置位置の設計自由度が向上する。
【0107】
また、本実施の形態におけるバルブV1,V2は、第一弁体10,30を弁座部材側へ向けて付勢する第一弁体付勢部材B1,B2を備えており、弁座部材(ピストン2,バルブケース5)を環状窓2c,5fの軸方向に直交する方向から見て内周弁座2dが外周弁座2eよりも高くなっている。このように構成されたバルブV1,V2によれば、第一弁体10,30が第二弁体11,31側へ撓むのに対して、第二弁体11,31も第二弁体付勢部材S1,S2によって第一弁体10,30側へ向けて付勢されるので、第二弁体11,31が第一弁体10,30のピストン側面に密着して孔10a,30aを密に閉塞して、オリフィス12a,32aを確実に片効きのオリフィスとして機能させ得る。
【0108】
さらに、本実施の形態のバルブV1,V2における第一弁体付勢部材B1,B2は、第一弁体10,30の反弁座部材側に配置される弾性を有する環状板14,34と、環板状であって第一弁体10,30と環状板14,34との間に介装され内径が第一弁体10,30と環状板14,34の内径よりも大径であるとともに第一弁体10,30と環状板14,34の外径よりも小径なリング15,35とを有している。このように構成されたバルブV1,V2は、第一弁体付勢部材B1,B2の構造が簡素で軸方向長さも短くて済むので、緩衝器Dに適用しても緩衝器Dのストローク長を損なわないので、緩衝器Dの全長の長尺化も回避できる。
【0109】
なお、第一弁体付勢部材B1は、
図7に示すように、弾性体40で構成されてもよく、図示したところでは、オリフィス弁体12の円弧状孔12bがオリフィス12aを介さずに圧側室R2に連通してしまわないようにオリフィス弁体12と同径のディスク41を重ねて、弾性体40をピストンロッド3の先端に固定したストッパ42とディスク41との間に圧縮状態で介装すればよい。弾性体40は、たとえば、コイルばね、皿ばね等のばねやゴム等とされればよい。また、この構成を採用する場合、第二弁体11、第一弁体10、ディスク13、オリフィス弁体12およびディスク41がピストンロッド3に対して軸方向移動可能としておき、弾性体40の収縮によってこれらが一体となって弁座部材としてのピストン2から離間する構造も採用できる。
図7に示したバルブV1における第一弁体付勢部材B1の構成は、バルブケース5に設けられたバルブV2にも適用可能である。
【0110】
また、本実施の形態のバルブV1,V2では、環板状であって第一弁体10,30の反弁座部材側に重ねられて孔10a,30aに通じるオリフィス(絞り)12a,32aを有するオリフィス弁体(絞り弁体)12,32を備えている。このように構成されたバルブV1,V2によれば、オリフィス弁体(絞り弁体)12,32を備えているので、第一弁体10,30とオリフィス弁体12,32の周方向の相対位置によらず、オリフィス(絞り)12a,32aの開口面積を一定とできる。孔10a,30aをオリフィス(絞り)として利用してもよいが、孔10a,30aと孔10a,30aを圧側室R2或いはリザーバ室Rへ連通するための切欠13a,33aとの連通度合は、第一弁体10,30とディスク13,33との周方向での相対位置により変化する。そのため、孔10a,30aをオリフィス(絞り)とする場合には、第一弁体10,30とディスク13,33の組立の際に周方向での位置決めが必須となるが、オリフィス弁体(絞り弁体)12,32を設けるとオリフィス(絞り)12a,32aの開口面積は変化しないので、組立作業が容易となり、常に一定の開口面積のオリフィス(絞り)12a,32aで減衰力発揮できる。
【0111】
なお、前述した実施形態では、絞りをオリフィスとしているが、絞りは、オリフィス以外にもチョークとされてもよい。この場合、オリフィス12a,32aに代えてチョークを備えた絞り弁体をオリフィス弁体12,32の代わりに設ければよい。
【0112】
また、本実施の形態のバルブV1,V2では、固定オリフィス10b,30bが設けられているので、バルブV1,V2のみで緩衝器Dの伸縮両側の減衰力特性を独立に設定可能である。なお、本実施の形態では、固定オリフィス10b,30bを第一弁体10,30の外周に設けた切欠によって設置されているが、外周弁座2e,5hに環状窓2c,5fを圧側室R2或いはリザーバ室Rに連通する凹部を設けて、この凹部を固定オリフィスとしてもよい。
【0113】
なお、本実施の形態では、ピストン2の圧側室R2側にバルブV1を設けているが、ピストン2の伸側室R1側にバルブV1を設けてもよいし、バルブケース5のリザーバ室R側にバルブV2を設けているが、バルブケース5の圧側室R2側にバルブV2を設けてもよい。緩衝器の構造によらず、バルブV1,V2は、無負荷状態でもオリフィスを確実に閉鎖でき、減衰特性が変化する不具合を解消できるという利点は失われない。
【0114】
また、バルブV1,V2は、
図8に示すように、減衰力を可変にできるユニフロー型の緩衝器D1への適用も可能である。この緩衝器D1は、緩衝器Dの構成に加えて、シリンダ1と外筒4との間に中間筒50を備えており、シリンダ1に設けた孔1aを介してシリンダ1と中間筒50との間の環状隙間が伸側室R1に連通されている。さらに、緩衝器D1は、外筒4の下方の側部に可変減衰バルブVVを備えたバルブブロックVBを備えている。バルブブロックVBは、中間筒50と外筒4との間の環状隙間で形成されるリザーバ室Rと前記環状隙間とを可変減衰バルブVVを介して連通している。よって、この緩衝器D1では、シリンダ1と中間筒50との間の環状隙間とこの環状隙間をリザーバ室Rへ連通するバルブブロックVB内に設けられる通路52とで減衰通路Pを構成している。
【0115】
可変減衰バルブVVは、通路52に設けられており、伸側室R1からリザーバ室Rへ向かう作動油の流れのみを許容するとともに減衰通路Pを通過する作動油の流れに抵抗を与える。
【0116】
可変減衰バルブVVは、ソレノイドを備えた電磁弁とされており、伸側室R1からリザーバ室Rへ向かって減衰通路Pを流れる作動油に抵抗を与えられるとともに、ソレノイドへ与える電流によって開弁圧を調節できるようになっている。このように構成される可変減衰バルブVVは、ソレノイドへの通電量に応じて開弁圧を調整する圧力制御弁として機能し、緩衝器が発生する減衰力を調節できる。なお、可変減衰バルブVVは、開弁圧の調整によって減衰力を可変にする減衰バルブ以外にも減衰力の調整が可能であれば任意構成の減衰バルブを利用できる。
【0117】
つづいて、このように構成された緩衝器D1の作動について説明する。まず、緩衝器D1が伸長する場合について説明する。ピストン2がシリンダ1に対して
図8中上方側へ移動して、緩衝器D1が伸長行程にある場合、伸側室R1が圧縮されて、圧側室R2が拡大される。ピストン2のシリンダ1に対する移動速度であるピストン速度が低速の場合、伸側室R1の圧力が圧側室R2の圧力より高くなるが、両者の差圧は第一弁体10の開弁圧に達しない。そのため、バルブV1における第一弁体10が外周弁座2eに着座した状態に維持される。可変減衰バルブVVの開弁圧を低くすれば、可変減衰バルブVVが開弁して伸側室R1から減衰通路Pを通じてリザーバ室Rへ作動油が移動する。また、可変減衰バルブVVの開弁圧を高くすれば、可変減衰バルブVVが閉弁したままとなるので、作動油は、固定オリフィス10bを通じて伸側室R1から圧側室R2へ移動する。
【0118】
よって、伸長行程時であってピストン速度が低速域にある場合、緩衝器Dは、
図8に示すように、可変減衰バルブVVの調整により、可変減衰バルブVVの開弁圧を最小にする際の減衰力(
図9中一点鎖線)から固定オリフィス10bのみによって発生される減衰力(
図9中実線)までの範囲で減衰力を調整できる。
【0119】
また、緩衝器D1の伸長行程時には、ピストンロッド3がシリンダ1内から退出するので、このピストンロッド3がシリンダ1から退出する体積分の作動油がシリンダ1内で不足する。ピストン速度が低速の場合、リザーバ室Rと圧側室R2の差圧が小さいためバルブケース5に設けたケース側バルブ20は開弁しないが、バルブV2の第二弁体31が第一弁体30から離間して孔30aを開放する。よって、シリンダ1内で不足する体積分の作動油は、固定オリフィス30bおよびオリフィス32aを介してリザーバ室Rからシリンダ1内へ供給される。つまり、低いピストン速度で緩衝器Dが伸長する場合、固定オリフィス30bのみならずオリフィス32aも有効となる。
【0120】
伸長行程の際のピストン速度が高速となると、伸側室R1と圧側室R2の差圧が大きくなる。伸側室R1と圧側室R2の差圧が第一弁体10の開弁圧に達するまでは、可変減衰バルブVVの開弁圧の調整によって伸側室R1内の圧力を制御できる。伸側室R1と圧側室R2の差圧が第一弁体10の開弁圧に達すると、第一弁体10を推す力が第一弁体付勢部材B1の付勢力に打ち勝って第一弁体10が撓んで外周弁座2eから離座して伸側ポート2aを開放する。すると、作動油は、第一弁体10と外周弁座2eとの間に出現する環状隙間を通過して伸側室R1から圧側室R2へ移動するようになる。また、リザーバ室Rと圧側室R2の差圧が大きくなるので、バルブケース5に設けたケース側バルブ20が開弁して吸込ポート5eを開放する。よって、シリンダ1内で不足する分の作動油は、吸込ポート5eを通過してリザーバ室Rからシリンダ1内に供給されるようになる。
【0121】
よって、伸長行程時であってピストン速度が高速域にある場合、緩衝器D1は、
図8に示すように、可変減衰バルブVVの調整により、可変減衰バルブVVの開弁圧を最小にする際の減衰力(
図9中一点鎖線)から第一弁体10によって発生される減衰力(
図9中実線)までの範囲で減衰力を調整できる。このように緩衝器D1に適用されたバルブV1における第一弁体10は、伸長行程時の最大減衰力を決するリリーフバルブとして機能する。
【0122】
また、伸長行程時において、ピストン速度が低速域にある場合にはリザーバ室Rから圧側室R2へ向かう作動油は、固定オリフィス30bとオリフィス32aの双方を通過できるので、第二弁体31の開弁によって流路面積を大きく確保できる。ピストン速度が高速域に達すると、ケース側バルブ20が開弁して吸込ポート3eを開放するが、ケース側バルブ20の開弁前後で流路面積の変化度合を小さくできるので、圧側室R2内の圧力変動を抑制できる。
【0123】
つづいて、緩衝器D1が収縮する場合について説明する。ピストン2がシリンダ1に対して
図1中下方側へ移動して、緩衝器D1が収縮行程にある場合、圧側室R2が圧縮されて、伸側室R1が拡大される。ピストン速度が低速の場合、圧側室R2の圧力が伸側室R1の圧力より高くなる。圧側室R2と伸側室R1の差圧は小さいためピストン側バルブ6は開弁しないが、バルブV1の第二弁体11が開弁して孔10aを開放する。よって、圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油は、固定オリフィス10bおよびオリフィス12aを介して移動する。つまり、低いピストン速度で緩衝器D1が収縮する場合、固定オリフィス10bのみならずオリフィス12aも有効となる。
【0124】
また、緩衝器Dの収縮行程時には、ピストンロッド3がシリンダ1内へ侵入するので、このピストンロッド3がシリンダ1へ侵入する体積分の作動油がシリンダ1内で過剰となる。ピストン速度が低速の場合、圧側室R2とリザーバ室Rと差圧が小さいためバルブV2における第一弁体30は開弁しない。可変減衰バルブVVの開弁圧を低くすれば、可変減衰バルブVVが開弁して伸側室R1から減衰通路Pを通じてリザーバ室Rへ作動油が移動する。また、可変減衰バルブVVの開弁圧を高くすれば、可変減衰バルブVVが閉弁したままとなるので、作動油は、固定オリフィス30bを通じて圧側室R2からリザーバ室Rへ移動する。
【0125】
よって、収縮行程時であってピストン速度が低速域にある場合、緩衝器D1は、
図8に示すように、可変減衰バルブVVの調整により、可変減衰バルブVVの開弁圧を最小にする際の減衰力(
図9中一点鎖線)から固定オリフィス30bのみによって発生される減衰力(
図9中実線)までの範囲で減衰力を調整できる。
【0126】
収縮行程の際のピストン速度が高速となると、圧側室R2とリザーバ室Rの差圧が大きくなる。この状況となると圧側室R2と伸側室R1の差圧が大きくなるので、ピストン2に設けたピストン側バルブ6が開弁して圧側ポート2bを開放するので、圧側室R2と伸側室R1の差圧がピストン側バルブ6の開弁圧程度に維持される。そして、圧側室R2とリザーバ室Rの差圧が第一弁体30の開弁圧に達するまでは、可変減衰バルブVVの開弁圧の調整によってシリンダ1内の圧力を制御できる。また、圧側室R2とリザーバ室Rの差圧が第一弁体30の開弁圧に達すると、第一弁体30を推す力が第一弁体付勢部材B2の付勢力に打ち勝って第一弁体30が撓んで外周弁座5hから離座して減衰ポート5dを開放する。すると、作動油は、第一弁体30と外周弁座5hとの間に出現する環状隙間を通過して圧側室R2からリザーバ室Rへ移動するようになる。
【0127】
よって、収縮行程時であってピストン速度が高速域にある場合、緩衝器D1は、
図9に示すように、可変減衰バルブVVの調整により、可変減衰バルブVVの開弁圧を最小にする際の減衰力(
図9中一点鎖線)から第一弁体30によって発生される減衰力(
図9中実線)までの範囲で減衰力を調整できる。このように緩衝器D1に適用されたバルブV2における第一弁体30は、収縮行程時の最大減衰力を決するリリーフバルブとして機能する。
【0128】
また、収縮行程時において、ピストン速度が低速域にある場合には圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油は、固定オリフィス10bとオリフィス12aの双方を通過できるので、第二弁体11の開弁によって流路面積を大きく確保できる。ピストン速度が高速域に達すると、ピストン側バルブ6が開弁して圧側ポート2bを開放するが、ピストン側バルブ6の開弁前後で流路面積の変化度合を小さくできるので、伸側室R1内の圧力変動を抑制できる。
【0129】
前述したところから理解できるように、緩衝器D1は、基本的には、伸長しても収縮してもシリンダ1内から作動油が可変減衰バルブVVを通じてリザーバ室Rへ流れるユニフロー型の緩衝器として振る舞う。また、伸側室R1内の圧力が過剰となると第一弁体10がリリーフバルブとして機能し,圧側室R2内の圧力が過剰となると第一弁体30がリリーフバルブとして機能するようになっている。
【0130】
以上のように緩衝器D1は、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるとともにシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン2と、シリンダ1内に挿入されてピストン2に連結されるピストンロッド3と、シリンダ1の外周に配置されて内方にリザーバ室Rが形成される外筒4と、シリンダ1の端部に設けられて圧側室R2とリザーバ室Rとを仕切るバルブケース5と、ピストン2の伸側室R1側に設けられてピストン2に設けられる圧側ポート2bを開閉するピストン側バルブ6と、バルブケース5の圧側室R2側に設けられてバルブケース5に設けられる吸込ポート5eを開閉するケース側バルブ20と、伸側室R1とリザーバ室Rとを連通する減衰通路Pと、減衰通路Pに設けられて伸側室R1からリザーバ室Rへ向かう液体の流れに抵抗を与える可変減衰バルブVVと、ピストン2の圧側室R2側に配置されるバルブV1と、バルブケース5のリザーバ室R側に配置されるバルブV2とを備えている。
【0131】
このように構成された緩衝器D1では、伸長行程時におけるケース側バルブ20の開弁の前後で圧側室R2の圧力変動を抑制でき、収縮行程時におけるピストン側バルブ6の開弁の前後で伸側室R1の圧力変動を抑制できる。よって、このように構成された緩衝器D1によれば、無負荷状態でもオリフィス12a,32aを確実に閉鎖でき、異音の発生を抑制できるとともに、車両のサスペンションに利用すると車両における乗り心地を向上できる。
【0132】
また、伸長行程の際にピストン速度が低速域にある場合、可変減衰バルブVVによって調整可能な減衰力幅は、前述したとおり、可変減衰バルブVVの開弁圧を最小にする際の減衰力から固定オリフィス10bのみによって発生される減衰力までの範囲となる。よって、伸長行程の際の減衰力可変幅を大きくしたい場合は、固定オリフィス10bの流路面積を小さくして発生減衰力が大きくすればよい。このように固定オリフィス10bの流路面積を小さくして減衰力可変幅を大きくしても、収縮行程の際には、第二弁体11が孔10aを開放してオリフィス12aを有効とするので、収縮行程時における異音の発生が抑制される。
【0133】
さらに、収縮行程の際にピストン速度が低速域にある場合、可変減衰バルブVVによって調整可能な減衰力幅は、前述したとおり、可変減衰バルブVVの開弁圧を最小にする際の減衰力から固定オリフィス30bのみによって発生される減衰力までの範囲となる。よって、収縮行程の際の減衰力可変幅を大きくしたい場合は、固定オリフィス30bの流路面積を小さくして発生減衰力が大きくすればよい。このように固定オリフィス30bの流路面積を小さくして減衰力可変幅を大きくしても、伸長行程の際には、第二弁体31が孔30aを開放してオリフィス32aを有効とするので、伸長行程時における異音の発生が抑制される。
【0134】
このように、緩衝器D1のピストン2の圧側室R2側にバルブV1を設けて、バルブケース5のリザーバ室R側にバルブV2を設けると、緩衝器D1の減衰力調整幅を大きくしつつも異音発生を抑制できるようになる。
【0135】
また、ピストン2の圧側室R2側にバルブV1を設けてバルブケース5にはバルブV2の代わりにリーフバルブを設ける場合、緩衝器D1の伸長行程時における減衰力可変幅を大きくしつつ、収縮行程時においてピストン側バルブ6の開弁の前後で伸側室R1の圧力変動を抑制でき、異音の発生を防止できる。緩衝器D1の伸長行程時において異音発生の問題がないようであれば、このようにピストン2の圧側室R2側にのみバルブV1を設けるようにしてもよい。
【0136】
さらに、バルブケース5のリザーバ室R側にバルブV2を設けてピストン2にはバルブV1の代わりにリーフバルブ或いは可変減衰バルブを設ける場合、緩衝器Dの収縮行程時における減衰力可変幅を大きくしつつ、伸長行程時において、ケース側バルブ20の開弁の前後で圧側室R2の圧力変動を抑制でき、異音の発生を防止できる。緩衝器Dの収縮行程時において異音発生の問題がないようであれば、このようにバルブケース5のリザーバ室R側にのみバルブV2を設けるようにしてもよい。
【0137】
なお、前述したところでは、複筒型の緩衝器を例に本発明を説明したが、バルブV1は、単筒型緩衝器のピストンに適用してもよく、この場合、バルブV1をピストンの伸側室側と圧側室の一方または両方に設けてもよい。
【0138】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0139】
1・・・シリンダ、2・・・ピストン(弁座部材)、2a・・・伸側ポート(ポート)、2c,5f・・・環状窓、2d,5f・・・内周弁座、2e,5g・・・外周弁座、2g,5j・・・規制部、2h、5k・・・円筒状面、3・・・ピストンロッド、4・・・外筒、5・・・バルブケース(弁座部材)、5d・・・減衰ポート(ポート)、6・・・ピストン側バルブ、10,30・・・第一弁体、10a,30a・・・孔、10b,30b・・・固定オリフィス、11,31・・・第二弁体、11a,31a・・・切欠(連通路)、12,32・・・オリフィス弁体(絞り弁体)、12a,32a・・・オリフィス(絞り)、14,34・・・環状板、15,35・・・リング、20・・・ケース側バルブ、40・・・弾性体、B1,B2・・・第一弁体付勢部材、P・・・減衰通路、R・・・リザーバ室R・・・伸側室、R2・・・圧側室、S1,S2・・・第二弁体付勢部材、V1,V2・・・バルブ、VV・・・可変減衰バルブ