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特開2022-144419表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子、およびその製造方法。
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  • 特開-表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子、およびその製造方法。 図1
  • 特開-表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子、およびその製造方法。 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144419
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子、およびその製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20220926BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20220926BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20220926BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C01B32/198
C08K3/38
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045422
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】在間 弘朗
(72)【発明者】
【氏名】杉森 秀一
(72)【発明者】
【氏名】大仲 淳子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 玄
【テーマコード(参考)】
4G146
4J002
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB07
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AD21
4G146BA02
4G146BB10
4G146CB14
4G146CB37
4J002AA001
4J002DK006
4J002FD016
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】 六方晶窒化ホウ素粒子の製造方法や粒子形状・サイズに関係なく、部分還元された酸化グラフェン吸着層により吸着量を増大させた樹脂親和性の良い表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子の提供。
【解決手段】 本発明の表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子は、表面未処理の六方晶窒化ホウ素粒子表面に部分還元された酸化グラフェン吸着層を有し、前記部分還元された酸化グラフェン吸着層の量が、酸化グラフェン吸着層を有する表面改質六方晶窒化ホウ素粒子の酸化グラフェン吸着層量の1.5倍以上であることを特徴とする。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子であって、表面未処理の六方晶窒化ホウ素粒子表面に部分還元された酸化グラフェン吸着層を有し、前記部分還元された酸化グラフェン吸着層の量が、酸化グラフェン吸着層を有する表面改質六方晶窒化ホウ素粒子の酸化グラフェン吸着層量の1.5倍以上である表面改質六方晶窒化ホウ素粒子。
【請求項2】
前記部分還元された酸化グラフェンが、可視紫外可視吸収スペクトルにおいて酸化グラフェンより大きく還元型酸化グラフェンよりも小さい波長領域に吸収ピークを示す、請求項1に記載の表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子の製造方法であって、
酸化グラフェン水分散液に還元剤を加えて部分還元された酸化グラフェン水分散液を調製する工程、
表面未処理の六方晶窒化ホウ素粒子の粉末を前記部分還元された酸化グラフェン水分散液に、上澄みの着色がなくなるまで混合する工程、
液中から固体を回収して乾燥する工程、
を含む、表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・通信機器の小型化・高密度化やLED照明機器の高性能化に伴い、発生する熱を効率よく放熱する重要性が高まり、熱伝導性の高い樹脂材料の開発が進められている。従来、樹脂材料の熱伝導性を高めるためにグラファイトやアルミナなどの金属酸化物粉末を混合することが行われている。しかしながら、グラファイトを用いると樹脂材料の電気伝導性が高くなる問題がある。金属酸化物では、十分な熱伝導性が得られない問題がある。
【0003】
こうした問題に対して、電気伝導性がなく高熱伝導性である六方晶窒化ホウ素粒子などの窒化物が期待されている。六方晶系の六方晶窒化ホウ素粒子は鱗片状(板状)であり、粒子を横からみた場合、粒子の上下に平面(六方晶系における(0001)底面。以降(0001)面とする)と粒子側面(六方晶系における一次柱面)を持つ。粒子上下の平面には官能基がひじょうに少ないため、樹脂との親和性が低い。そのため、樹脂への分散性が悪いことや六方晶窒化ホウ素粒子表面と樹脂との界面で剥離が起こって空隙ができやすい問題がある。また、六方晶窒化ホウ素粒子は(0001)面方向に高い熱伝導異方性を持つため、これを解消するために複数の粒子を造粒することが行われている。この場合も、造粒粒子表面は(0001)面の割合が高いので、同様の問題がある。
【0004】
六方晶窒化ホウ素粒子粒子と樹脂との親和性を改善するため、六方晶窒化ホウ素粒子表面に酸化グラフェンを吸着させる方法(特許文献1)が提案されている。この方法では、酸化グラフェン水分散液に六方晶窒化ホウ素粉末を混合するだけで、六方晶窒化ホウ素粒子表面への酸化グラフェンの吸着が起こり、六方晶窒化ホウ素粒子表面が酸化グラフェンで改質される。そして、酸化グラフェンは電気伝導性が低いため、絶縁性や耐電圧の優れた高熱伝導材料に適用できる。しかしながら、同じ六方晶窒化ホウ素であっても製造方法や粒子形状・サイズが異なると、酸化グラフェンの吸着量が少ないか、ほとんど吸着しない問題がある。そのため、六方晶窒化ホウ素粒子の汎用的な表面改質方法とはいえない。また、特許文献1には還元型酸化グラフェンによる表面修飾が記載されているが、六方晶窒化ホウ素粒子に吸着させた酸化グラフェンを還元処理しているため、上記問題は根本的には変わらない。
【0005】
なお、酸化グラフェンを完全に還元処理した還元型酸化グラフェンは、疎水化して水中では凝集するので、窒化ホウ素粒子表面に均一に吸着することができない。そのため酸化グラフェンを吸着した後、還元処理をして還元型酸化グラフェンで修飾された窒化ホウ素粒子を製造している(特許文献1、非特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-001701号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】HUANG Tao et al.,Advanced Composites Letters,2016年,Vol.25,Iss.6,p.147-150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、六方晶窒化ホウ素粒子の製造方法や粒子形状・サイズに関係なく、部分還元された酸化グラフェン吸着層により吸着量を増大させた表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、部分還元された酸化グラフェンを用いることにより、酸化グラフェンを用いるよりも窒化ホウ素粒子への吸着量が増大することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の表面改質六方晶窒化ホウ素粒子は、表面未処理の六方晶窒化ホウ素粒子表面に部分還元された酸化グラフェン吸着層を有し、前記部分還元された酸化グラフェン吸着層の量が、酸化グラフェン吸着層を有する表面改質六方晶窒化ホウ素粒子の酸化グラフェン吸着層量の1.5倍以上である表面改質六方晶窒化ホウ素粒子である。
すなわち、表面未処理の六方晶窒化ホウ素粒子にシート状の部分還元された酸化グラフェンを吸着し、前記部分還元された酸化グラフェンの重量吸着量がシート状の酸化グラフェンを吸着させた表面改質酸化グラフェンの吸着酸化グラフェンの重量吸着量の1.5倍以上、好ましくは1.7倍以上である表面改質六方晶窒化ホウ素粒子である。
【0011】
好ましい実施態様においては、前記部分還元された酸化グラフェンが、可視紫外可視吸収スペクトルにおいて酸化グラフェンより大きく還元型酸化グラフェンよりも小さい波長領域に吸収ピークを示す。
【0012】
本発明の表面改質六方晶窒化ホウ素粒子の製造方法は、酸化グラフェン水分散液に還元剤を加えて部分還元された酸化グラフェン水分散液を調製する工程、表面未処理の六方晶窒化ホウ素粒子の粉末を部分還元された酸化グラフェンの水分散液に、上澄みの着色がなくなるまで混合する工程、液中から固体を回収して乾燥する工程、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、六方晶窒化ホウ素粒子の製造方法や粒子サイズ・形状に関係なく、酸化グラフェンを吸着させるよりも重量で1.5倍以上、好ましくは1.7倍以上の部分還元された酸化グラフェンで表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子を提供できる。これにより、あらゆる六方晶窒化ホウ素粒子の樹脂との親和性を向上させることが可能となるため、より機械的強度や熱伝導性の優れた熱伝導性樹脂組成物を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】部分還元された酸化グラフェンの水分散液の可視紫外可視吸収スペクトル。
図2】表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子の2次電子像とオージェ電子分光法による炭素とホウ素のマッピング像。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0016】
本発明の表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子は、表面未処理の六方晶窒化ホウ素粒子表面に部分還元された酸化グラフェン吸着層を有している。この部分還元された酸化グラフェン吸着層は六方晶窒化ホウ素粒子表面と直接に接しているため、六方晶窒化ホウ素粒子を樹脂と混合した場合、樹脂と六方晶窒化ホウ素粒子との界面の親和性を改善しつつ、六方晶窒化ホウ素粒子と樹脂との界面熱抵抗は最小限にできるため、六方晶窒化ホウ素粒子が有する高熱伝導特性を損なわない。
【0017】
〈六方晶窒化ホウ素〉
熱伝導用フィラーとして販売されている六方晶窒化ホウ素には、鱗片状粒子(D50平均粒子径1~30μmほど)、鱗片状粒子の厚みが増した板状粒子(D50平均粒子径3~150μmほど)、鱗片状または板状粒子を凝集させて顆粒状にした顆粒状粒子(D50平均粒子径20~100μmほど)がある。本発明の本発明の表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子は、何らかの表面処理がなされていなければ、上記何れの形状およびサイズの六方晶窒化ホウ素であっても用いることができる。
【0018】
〈部分還元された酸化グラフェン吸着層〉
部分還元された酸化グラフェン吸着層は六方晶窒化ホウ素粒子表面に存在し、その量は六方晶窒化ホウ素粒子の形状によって異なる。これは、顆粒状の場合、鱗片状や板状に比べて部分還元された酸化グラフェン吸着層が形成される面が減るためである。部分還元された酸化グラフェン吸着層は、鱗片状または板状六方晶窒化ホウ素粒子では単位表面積あたり0.90×10-7~1.2×10-6g/cm、好ましくは0.95×10-7~1.0×10-6g/cm、より好ましくは1.0×10-7~0.95×10-6g/cmである。0.90×10-7g/cmより少ないと六方晶窒化ホウ素粒子表面に部分還元された酸化グラフェン吸着層がないエリアが広くなるため、表面改質の効果が落ちる。1.2×10-6 g/cmより多い場合、増えた分だけの表面改質効果はみられない。顆粒状六方晶窒化ホウ素粒子では単位表面積あたり0.35×10-7~1.0×10-6g/cm、好ましくは0.40×10-7~0.95×10-6g/cm、より好ましくは0.45×10-7~0.90×10-6g/cmである。0.35×10-7g/cmより少ないと六方晶窒化ホウ素粒子表面に部分還元された酸化グラフェン吸着層がないエリアが広くなるため、表面改質の効果が落ちる。1.0×10-6g/cmより多い場合、増えた分だけの表面改質効果はみられない。
【0019】
部分還元された酸化グラフェン吸着層の量は、炭素・硫黄分析装置を用いた炭素の定量分析により、知ることができる。なお、炭素の定量値は炭素・硫黄分析装置や助燃剤の影響を受けやすいので、本明細書では、LECO社製CS844型炭素・硫黄分析装置で助燃剤:WとLECO社製LECOCEL(登録商用)IIを用いて分析を行った分析値を採用する。六方晶窒化ホウ素粒子の表面積はBET比表面積を測定することにより知ることができる。また、後述のように実験的に六方晶窒化ホウ素粒子に吸着した部分還元された酸化グラフェン量を知ることができ、およその量を把握するにはこの方法で十分である。六方晶窒化ホウ素粒子表面の部分還元された酸化グラフェン吸着層は、オージェ分光分析法や顕微ラマン分光法で確認することができる。
【0020】
部分還元された酸化グラフェン吸着層は単層または複層であってもよいが、単層が好ましい。複層であると、本発明の表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子を樹脂と混合して複合材とした場合、何らかの外的要因によって剥離が起こって、剥がれた部分還元された酸化グラフェンが複合材の物性に悪影響を及ぼす可能性があるからである。例えば、部分還元された酸化グラフェンは、還元度によって電気伝導性が高まるので、剥離した部分還元された酸化グラフェンが何らかの要因でさらに還元されると、複合材の絶縁性が低下してしまう。層数は原子間力顕微鏡や電子顕微鏡で評価できる。なお、窒化ホウ素粒子表面に吸着した部分還元された酸化グラフェンの上に別の部分還元された酸化グラフェンが吸着することはない。これは、部分還元された酸化グラフェンが含酸素官能基による電気的反発や含酸素官能基の水和によって凝集せずに水に分散しているように、窒化ホウ素粒子表面に吸着した部分還元された酸化グラフェンと別の部分還元された酸化グラフェンとの間にも同様の相互作用があって凝集(=吸着)が起こらないためである。この点から、部分還元された酸化グラフェン吸着層の量は、特に部分還元された酸化グラフェンが単層シートである場合、六方晶窒化ホウ素粒子表面の被覆面積に比例するといえる。
単層の部分還元された酸化グラフェン吸着層は、単層の部分還元された酸化グラフェンを吸着させることにより形成できる。
【0021】
〈部分還元された酸化グラフェン〉
一般に、酸化グラフェンは可視紫外可視吸収スペクトルで230nm付近に吸収ピークを示す含酸素官能基を有するグラフェン、還元型酸化グラフェンは可視紫外可視吸収スペクトルでは265nm付近より大きい波長域に吸収ピークを示す還元処理された酸化グラフェンと認識されている。この吸収ピークは、酸化グラフェンの還元状態に従って長波長シフトすることが知られている。
【0022】
本明細書でも上記一般的な認識に従うと、本発明に用いられる部分還元された酸化グラフェンは、酸化グラフェンよりも還元状態にあり、還元型酸化グラフェンほどの還元状態にはない中間的性質を持つといえる。それは、本発明に用いられる部分還元された酸化グラフェンが酸化グラフェンよりも長波長側かつ265nmよりも短波長側に吸収ピークを有することに示唆されている。なお、測定条件によって酸化グラフェンおよび還元型酸化グラフェンの吸収ピーク位置が230nm、265nmから若干ずれる場合があるので、本明細書においては、酸化グラフェンの吸収ピーク位置230nmおよび還元型酸化グラフェンの吸収ピーク位置265nmは絶対的な値ではない。また、一般に炭素/酸素比で表される酸化グラフェンの酸化度が低い場合、含酸素官能基量だけみると部分還元された酸化グラフェンの場合とほぼ同じ場合がありえるが、可視紫外可視吸収スペクトルの吸収ピークは230nm付近にあるため、炭素/酸素比は還元度の指標とはなりえない。
【0023】
本発明に用いられる部分還元された酸化グラフェンは、このように酸化グラフェンと還元型酸化グラフェンの中間の還元状態にあるため、酸化グラフェンよりは疎水性であり、還元型酸化グラフェンほど疎水性ではないので、水中で酸化グラフェンと同様の分散を維持しながら、六方晶窒化ホウ素粒子の疎水性表面にファン・デル・ワールス力(特に疎水結合)により吸着しやすくなっている。
【0024】
酸化グラフェンおよび部分還元された酸化グラフェンは、何れも分子レベルの厚みを有する多角形シートである。そのシートの大きさは様々な方法で定義できるが、本明細書では、原子間力顕微鏡や電子顕微鏡像の画像解析により計測したシート面積から算出した面積円相当径を採用する。その理由として、面積円相当径は原子間力顕微鏡や電子顕微鏡像から測定されるシートの最大長よりも客観的に大きさを定義できるためである。
【0025】
部分還元された酸化グラフェンの面積円相当径平均値は、20μm以下、好ましくは18μm以下、より好ましくは16μm以下である。20μmより大きな部分還元された酸化グラフェンは、対象とする窒化ホウ素粒子の大きさを考慮すると必要としない。面積円相当径平均値の下限は特に限定されないが、1μmより小さい部分還元された酸化グラフェンは、吸着を起こしにくい、または吸着しても剥がれやすいため好ましくない。なお、六方晶窒化ホウ素粒子のD50平均粒子径が2μm以下の場合、大きな部分還元された酸化グラフェンを用いると、部分還元された酸化グラフェンへ複数の六方晶窒化ホウ素粒子が吸着した複合体ができやすい。このような複合体を樹脂に複合すると、絶縁性の低下などが起こるので好ましくない。D50平均粒子径が2μm以下の六方晶窒化ホウ素粒子を使用する場合は、面積円相当径平均値が4μm以下の部分還元された酸化グラフェンを用いることで対応できる。
【0026】
〈部分還元された酸化グラフェンの水分散液〉
部分還元された酸化グラフェンの水分散液は、市販されている酸化グラフェンまたは改良ハマーズ法によって作製された酸化グラフェン水分散液を適切な条件で還元することによって作製することが出来る。還元方法としては、水媒体で実施できる還元剤を用いた化学還元が好ましい。還元剤としては、従来から知られている水溶性の水素化ホウ素ナトリウムやヒドラジン水和物を用いることが出来るが、残留物の除去性やグラフェン骨格に窒素が導入されないという点でアスコルビン酸を用いた還元が好ましい。還元状態の制御は、還元剤の使用量、還元温度、還元時間によって可能である。還元温度は、水媒体で還元を行うため80℃以上、好ましくは90℃以上であればよい。適切な還元剤の使用量と還元時間は、還元する酸化グラフェン量と酸素含有基量によって異なるので、還元処理で得られた部分還元された酸化グラフェン水分散液の紫外可視吸収スペクトルの吸収ピーク位置をみて適宜調整すれば良い。還元処理で得られた部分還元された酸化グラフェン分散液は、透析チューブに入れ、イオン交換水で透析(精製)処理して部分還元された酸化グラフェン水分散液とすることが出来る。なお、原料とする酸化グラフェンが単層であれば、部分還元された酸化グラフェンも単層となるが、念の為、還元・精製処理後に超音波照射などにより剥離処理し、処理液を遠心分離して上澄みを利用することが好ましい。また、場合によっては水分散液のpHを調整することもできる。使用する部分還元された酸化グラフェンが単層かどうかは、原子間力顕微鏡や電子顕微鏡で評価できる。水分散液中の部分還元された酸化グラフェン濃度は特に限定されないが、0.1~0.5w%の範囲内であれば扱いやすい。
【0027】
〈表面改質された鱗片状、板状または顆粒状六方晶窒化ホウ素粒子の作製〉
本発明の表面改質された鱗片状、板状または顆粒状六方晶窒化ホウ素粒子は、上記部分還元された酸化グラフェン水分散液に鱗片状、板状または顆粒状六方晶窒化ホウ素粒子粉末を加えて、撹拌、振盪または必要に応じてホモジナイザー等の分散装置を用いて分散する。こうした工程で部分還元された酸化グラフェン水分散液に六方晶窒化ホウ素粒子粉末を分散していくと、沈殿が生じて上澄み(部分還元された酸化グラフェン水分散液層)の色が薄くなっていく。最終的に上澄みは無色透明となる。これは、六方晶窒化ホウ素粒子粒子への部分還元された酸化グラフェンの吸着が起こっているためである。なお、部分還元された酸化グラフェン水分散液への六方晶窒化ホウ素粒子の添加は、六方晶窒化ホウ素粒子が過剰になって部分還元された酸化グラフェンの吸着量の少ない六方晶窒化ホウ素粒子が生じないように、上澄みに着色が残る段階で添加を終了することが好ましい。この上澄みの着色の程度は、紫外可視吸収スペクトルのピーク強度を用いて決定することができ、六方晶窒化ホウ素粒子添加の終点は、上澄みのピーク強度が添加前の部分還元された酸化グラフェン分散液のピーク強度の1/10程度になった時点が好ましい。
【0028】
部分還元された酸化グラフェンが吸着した六方晶窒化ホウ素粒子分散液から濾別または遠心沈降によって粒子を回収し、室温乾燥または必要に応じて50~70℃程度で加熱乾燥することにより、本発明の表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子を粉体として得ることができる。
【0029】
また、本発明の部分還元酸化グラフェンで表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子は、酸化処理又は還元処理することにより従来では得ることのできなかった吸着量を有する酸化グラフェン修飾窒化ホウ素粒子又は還元型酸化グラフェン修飾窒化ホウ素粒子を得ることができる。
【0030】
本発明の表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子を樹脂と混合することによって、樹脂の線膨張係数や熱伝導率などの熱物性や機械的物性を改善することができる。こうした物性の改善は、表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子を樹脂に対して、1~90体積%、好ましくは10~90体積%、より好ましくは20~90体積%混合すればよい。1体積%より少ないと改善が得られない。上限は特に限定されないが、樹脂組成物の機械的強度の低下を考慮すると上限は90体積%程度が好ましい。
【0031】
混合方法としては、樹脂が固体の場合は、これらと表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子を紛体で混合した後、ニーダーや二軸押出機などを用いて溶融混合する乾式プロセス、あるいは、樹脂を適切な溶剤に溶解して表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子と混合・撹拌またはホモジナイザーやビーズミルを用いた分散処理をする湿式プロセスで行うことができる。これらの方法は、用いる樹脂の性状によって適宜選択することができる。樹脂が液状の場合は、これらと表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子とを攪拌機、3本ロールやニーダーなどを用いて混合、あるいは、樹脂を適切な溶剤または希釈剤で希釈して表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子と混合・撹拌またはホモジナイザーやビーズミルを用いた分散処理をすることで混合処理できる。これらの方法は、用いる樹脂の性状によって適宜選択することができる。
【0032】
本発明の表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子と混合する樹脂としては、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリスチレン、ABS,ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸などを挙げることができる。
【0033】
前記樹脂組成物は、必要に応じてさらに硬化剤、架橋剤、重合開始剤、物性を調整するための高分子化合物または低分子化合物、シリカやクレイのような無機フィラーを含むことができる。
【実施例0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例には限定されない。
【0035】
(酸化グラフェン水分散液の作製)
温度計、マグネティックスターラーをセットした1000ml三口フラスコに日本黒鉛製グラファイトUP20 2.5g、硝酸ナトリウム 2.0gおよび濃硫酸90mlを仕込み、アイスバスで冷却しながら過マンガン酸カリウム11.0gをゆっくりと加えた。加え終わったのち、室温まで戻して約96時間撹拌した。
【0036】
反応液をアイスバスで冷却し、5%硫酸水溶液200mlをゆっくりと加え、さらに30%過酸化水素水50mlを加えて1時間攪拌した。次いで、過酸化水素濃度0.5%および硫酸濃度3%となるように調整した混合液250mlで希釈して、室温で24時間攪拌した。
次に、酸化したグラファイトを遠心沈降させた。沈殿物を再び0.5%の過酸化水素との3%の硫酸を含む混合液200mlに分散させ、再び遠心沈降させた。次いで、遠心沈降物を0.5%の過酸化水素と3%の硫酸を含む混合液150mlに分散させ、これを透析チューブに入れてイオン交換水に漬け、イオン交換水を交換しながら7日間透析を行った。
透析処理後、透析液を超音波洗浄機に入れて8時間超音波照射処理した後、遠心分離することにより上澄みを取りだし、濃度0.24w%の酸化グラフェン水分散液を得た。分散液0.10gを蒸留水15mlで希釈して紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収ピーク位置は227nmであった。分散液から調製した試料をSTEM観察し、STEM像から酸化グラフェンの面積を計測し、その面積から個々の酸化グラフェンの面積円相当径を算出した。その結果、面積円相当径の平均値は8.13μm(変動係数0.77)であった。
【0037】
(部分還元された酸化グラフェン水分散液の作製1)
続いて、0.24w%の酸化グラフェン水分散液100mlにアスコルビン酸0.06gを加えて90℃で30分間還元処理を行った。処理液を室温まで冷却後、透析チューブに入れてイオン交換水に漬け、イオン交換水を交換しながら7日間透析を行った。透析処理後、透析液を超音波洗浄機に入れて30分間超音波照射処理して濃度0.23w%の部分還元された酸化グラフェンの水分散液1を得た。
次に分散液を蒸留水で希釈してシリコン板に塗布し、原子間力顕微鏡(使用装置:Asylum Research MFP-3D Infinity)で観察したところ、部分還元された酸化グラフェンはほぼ単層であることが分かった。同じサンプルをSTEM観察して、得られた顕微鏡像から面積円相当径を算出したところ、面積円相当径平均値8.22μm(変動係数0.82)であった。分散液0.16gを蒸留水15mlで希釈して紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、256nmに吸収ピークが観測された。
【0038】
(部分還元された酸化グラフェン水分散液の作製2)
アスコルビン酸量を0.02gにした以外は作製1と同様にして濃度0.19w%の部分還元された酸化グラフェンの水分散液2を得た。原子間力顕微鏡観察したところ、部分還元された酸化グラフェンはほぼ単層であることが分かった。液中の部分還元された酸化グラフェンの面積円相当径の平均値8.15μm(変動係数0.77)であり、紫外可視吸収スペクトルの吸収ピークは240nmに観測された。
【0039】
〔実施例1〕
(表面改質された鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子の作製1)
50mlネジ口瓶中で上記の部分還元された酸化グラフェン分散液1 0.1358gを蒸留水で15mlに希釈し、紫外可視吸収スペクトルを測定した。次いで、この希釈液に鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子(昭和電工製ショウビーエヌ(登録商標)UHP-2 D50平均粒子径11μm)を0.01g加えて1分間振盪し、静置した。この作業を繰り返し、添加量0.0511gの時点で上澄みの吸収が元の1/10になったので添加を終了した。次いで、沈殿を濾別して蒸留水100ml、メタノール100mlで洗浄後、60℃で8時間乾燥して薄灰色の粉末(表面改質されたUHP-2)得た。この時点で使用した部分還元された酸化グラフェンがすべてUHP-2に吸着したとすると、表面改質されたUHP-2の部分還元された酸化グラフェン吸着層の量は0.61w%と算出される。
【0040】
(表面改質されたUHP-2の分析)
上記実施例1で得た粉末について、部分還元された酸化グラフェン吸着層の量を正確に把握するため、炭素・硫黄分析装置(LECO社製CS844型)を用いた炭素の定量分析(助燃剤:WとLECO社製LECOCEL(登録商標)II)により表面改質されたUHP-2の部分還元された酸化グラフェン吸着層の量を分析したところ、0.63w%(3回測定の平均値)であった。これはUHP-2(比表面積4m/gで計算)の単位表面積あたり、1.58×10-7g/cmとなる。
オージェ電子分光分析(使用装置:ULVAC PHI700)を用いて粒子1個の炭素とホウ素のマッピングを行ったところ、炭素が多く分布するところではホウ素は少なく、逆にホウ素が多く分布する所では炭素が少なかった。そして、炭素は粒子の(0001)のほぼ全面と側面の一部に分布していた。炭素は部分還元された酸化グラフェンに由来するので、部分還元された酸化グラフェンは粒子のかなりの部分に吸着していると考えられる。合計10個の粒子を分析し、すべて同じ傾向であった。
顕微ラマンスペクトルを用いて、酸化グラフェン由来の1590cm-1のバンドと六方晶窒化ホウ素粒子由来の1360cm-1のバンドのマッピングを行ったところ。10個の粒子について、観察した粒子表面の大部分で1590cm-1のバンドが検出された。これは、オージェ電子分光分析の結果と一致している。
【0041】
〔比較例1〕
50mlネジ口瓶中で0.24w%の酸化グラフェン分散液0.1484gを蒸留水で15mlに希釈し、紫外可視吸収スペクトルを測定した。次いで、この希釈液に六方晶六方晶窒化ホウ素粒子粉末(UHP-2)を0.01g加えて1分間振盪し、静置した。この作業を繰り返し、添加量0.1021gの時点で上澄みの吸収が元の1/10になったので添加を終了した。沈殿を濾別して蒸留水100ml、メタノール100mlで洗浄後、60℃で8時間乾燥して薄茶色の粉末を得た。この時点で使用した酸化グラフェンがすべてUHP-2に吸着したとすると、その量はUHP-2の0.35w%と算出される。
次に、炭素・硫黄分析装置(LECO社製CS844型)を用いた炭素の定量分析(助燃剤:WとLECO社製LECOCEL(登録商標)II)によりUHP-2に吸着した酸化グラフェン量を分析したところ、0.37w%(3回測定の平均値)であった。これはUHP-2(比表面積4m/gで計算)の単位表面積あたり8.72×10-8g/cmとなり、実施例1の57%であった。
【0042】
〔実施例2〕
(表面改質された板状六方晶窒化ホウ素粒子の作製2)
50mlネジ口瓶中で上記の部分還元された酸化グラフェン分散液2 0.2112gを蒸留水で15mlに希釈し、紫外可視吸収スペクトルを測定した。次いで、この希釈液に板状六方晶窒化ホウ素粒子(AR BROWN HSL:D50平均粒子径30μm)を0.01g加えて1分間振盪し、静置した。この作業を繰り返し、添加量0.2011gの時点で上澄みの吸収が元の1/10になったので添加を終了した。次いで、沈殿を濾別して蒸留水100ml、メタノール100mlで洗浄後、60℃で8時間乾燥して薄灰色の粉末(表面改質されたHSL)得た。この時点で使用した部分還元された酸化グラフェンがすべてHSLに吸着したとすると、表面改質されたHSLの部分還元された酸化グラフェン吸着層の量は0.20w%と算出される。これはHSL(比表面積2m/gで計算)の単位表面積あたり、1.00×10-7g/cmとなる。
【0043】
〔比較例2〕
50mlネジ口瓶中で0.24w%の酸化グラフェン分散液0.2421gを蒸留水で15mlに希釈し、紫外可視吸収スペクトルを測定した。次いで、この希釈液に六方晶六方晶窒化ホウ素粒子(HSL)を0.1g加えて1分間振盪し、静置した。この作業を繰り返し、添加量2.1133gの時点で上澄みの吸収が元の1/10になったので添加を終了した。沈殿を濾別して蒸留水100ml、メタノール100mlで洗浄後、60℃で8時間乾燥して薄茶色の粉末を得た。この時点で使用した酸化グラフェンがすべてHSLに吸着したとすると、その量はHSLの0.022w%と算出される。これはHSL(比表面積2m/gで計算)の単位表面積あたり、1.37×10-8g/cmとなり、実施例2の14%であった。
【0044】
〔実施例3〕
(表面改質された顆粒状六方晶窒化ホウ素粒子の作製3)
50mlネジ口瓶中で上記の部分還元された酸化グラフェン分散液2 0.2820gを蒸留水で15mlに希釈し、紫外可視吸収スペクトルを測定した。次いで、この希釈液に顆粒状六方晶窒化ホウ素粒子(昭和電工製ショウビーエヌ(登録商標)UHP-G1H:D50平均粒子径33μm)を0.01g加えて1分間振盪し、静置した。この作業を繰り返し、添加量0.3203gの時点で上澄みの吸収が元の1/10になったので添加を終了した。次いで、沈殿を濾別して蒸留水100ml、メタノール100mlで洗浄後、60℃で8時間乾燥して薄灰色の粉末(表面改質されたG1H)得た。この時点で使用した部分還元された酸化グラフェンがすべてHSLに吸着したとすると、表面改質されたG1Hの部分還元された酸化グラフェン吸着層の量は0.27w%と算出される。これはG1H(比表面積4m/gで計算)の単位表面積あたり、0.67×10-7g/cmとなる。
【0045】
〔比較例3〕
50mlネジ口瓶中で0.24w%の酸化グラフェン分散液0.2633gを蒸留水で15mlに希釈し、紫外可視吸収スペクトルを測定した。次いで、この希釈液に顆粒状六方晶六方晶窒化ホウ素粒子(UHP-G1H)を0.1g加えて1分間振盪し、静置した。この作業を繰り返し、添加量1.085gの時点で、上澄みの吸収が元の90%程度残っていたことから、酸化グラフェンはほとんど吸着しないと判断し、添加を終了した。
【0046】
部分還元型酸化グラフェンを窒化ホウ素に吸着させた実施例と酸化グラフェンを窒化ホウ素に吸着させた比較例を比較すると以下であった。
鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子(昭和電工製ショウビーエヌ(登録商標)UHP-2 D50平均粒子径11μm)を用いた実施例1と比較例1では、酸化グラフェンの吸着量が0.37wt%であったのに対して部分還元型酸化グラフェンの吸着量は0.63wt%と1.7倍の吸着量があった。
板状六方晶窒化ホウ素粒子(AR BROWN HSL:D50平均粒子径30μm)を用いた実施例2と比較例2では、酸化グラフェンの吸着量が0.022wt%であったのに対して部分還元型酸化グラフェンの吸着量は0.2wt%と9.1倍の吸着量があった。
顆粒状六方晶窒化ホウ素粒子(昭和電工製ショウビーエヌ(登録商標)UHP-G1H:D50平均粒子径33μm)を用いた実施例3と比較例3では、酸化グラフェンは窒化ホウ素粒子に吸着しなかったが部分還元型酸化グラフェンは0.27wt%の吸着量があった。
【0047】
〔比較例4〕
アスコルビン酸量を0.2gにした以外は部分還元された酸化グラフェンの水分散液1と同様にして、濃度0.25w%の還元型酸化グラフェンの水分散液を得た。液中の還元型酸化グラフェンは、ひじょうに凝集しやすくてすぐに沈降した。液を希釈して上澄みの紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、吸収ピークは270nmに観測された。
50mlネジ口瓶中で上記分散液0.1512gを蒸留水で10mlに希釈し、これに六方晶六方晶窒化ホウ素粒子粉末(UHP-2)を加えて1分間振盪してみたところ、還元型酸化グラフェンは凝集して細かい塊となっており、UHP-2に吸着する様子は全く見られなかった。
【0048】
〔実施例4〕
(表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子を含む樹脂組成物の作製1)
無溶剤型シリコーン樹脂(信越化学工業製 KNS-320A)1.56gに実施例1で作製した表面改質されたUHP-2 2.25gと硬化剤(信越化学工業製CAT-PL-50T)0.03gを乳鉢でよく混ぜ合わせた。混合物をポリテトラフッ化エチレン製四角容器に入れて真空脱泡(室温30分)した後、ポリテトラフッ化エチレン製板で混合物を押し広げながら蓋をして、80℃30分加熱して硬化させた。
得られた硬化物を型枠から取り出して20mm×5mm×1mmの短冊状試料片に加工し、熱機械分析(使用装置:TAインスツルメント製DMA Q800)を行って線膨張係数(室温~100℃)を求めたところ、20.8ppm/Kであった。
【0049】
〔比較例5〕
表面改質されたUHP-2を無修飾の六方晶窒化ホウ素粒子(昭和電工製ショウビーエヌ(登録商標)UHP-2)または比較例1の酸化グラフェンが付いた六方晶窒化ホウ素粒子にする以外は実施例2と同様にして硬化物を作製し、線膨張係数を求めたところ、それぞれ38.0ppm/K、26.4ppm/Kであった。また、無溶剤型シリコーン樹脂単独硬化物の線膨張係数は、201ppm/Kであった。無修飾六方晶窒化ホウ素粒子と比較例1の酸化グラフェンが付いた六方晶窒化ホウ素粒子を用いた結果を比較すると、後者の方が線膨張係数が小さいのは、酸化グラフェンが吸着することで六方晶窒化ホウ素粒子とシリコーン硬化物との界面接着性が改善された結果と考えられる。これらと実施例2を比較すると、実施例2が最も線膨張係数が小さく、六方晶窒化ホウ素粒子とシリコーン硬化物との界面接着性がより改善されていることを示唆している。これは、部分還元された酸化グラフェンがよく吸着して、六方晶窒化ホウ素粒子の多くの部分がシリコーン硬化物と親和性の良い部分還元された酸化グラフェンで覆われた結果と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の表面改質された六方晶窒化ホウ素粒子は、部分還元された酸化グラフェン吸着層を有することにより樹脂との親和性が向上し、配合された樹脂組成物の流動性や六方晶窒化ホウ素粒子と樹脂との界面接着性を改善することができる。それにより熱物性や機械的物性に優れた樹脂組成物を提供でき、各種装置の熱膨張抑制材料兼熱伝導材料として利用できる。

図1
図2