(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144421
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】発電システムの制御装置
(51)【国際特許分類】
F03D 7/04 20060101AFI20220926BHJP
H02P 9/00 20060101ALI20220926BHJP
H02P 3/00 20060101ALI20220926BHJP
H02P 3/22 20060101ALI20220926BHJP
H02P 101/15 20150101ALN20220926BHJP
【FI】
F03D7/04 A
H02P9/00 B
H02P9/00 F
H02P3/00 J
H02P3/22 B
H02P101:15
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045425
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 広平
【テーマコード(参考)】
3H178
5H530
5H590
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB08
3H178BB31
3H178BB35
3H178BB46
3H178CC02
3H178DD06X
3H178DD12X
3H178DD52X
3H178DD54X
3H178EE05
3H178EE08
3H178EE12
3H178EE28
3H178EE35
5H530AA19
5H530CC21
5H530CD21
5H530CD32
5H530CD34
5H530CE02
5H530CE15
5H530CF02
5H530DD04
5H530EE01
5H590AA01
5H590AB15
5H590CA14
5H590CB05
5H590CC24
5H590CD01
5H590CD03
5H590CE05
5H590EA05
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5H590FA08
5H590FC21
5H590FC26
5H590GB05
5H590HA02
5H590HA04
5H590HA18
5H590HA27
5H590HA28
5H590JA02
5H590KK04
5H590KK07
(57)【要約】
【課題】コストの増大を抑制しつつ、発電効率が低下しないタイミングでブレーキ動作を停止することである。
【解決手段】発電システムは、回転体と発電機とブレーキ回路と電圧センサと制御装置とを備える。制御装置は、回転体の回転速度が第1閾値を上回ると、ブレーキ回路によるブレーキ動作を実行する。制御装置は、回転体の回転速度が第1閾値を下回った後、電圧センサが検出する発電電圧の値および回転体の回転速度の少なくとも一方に基づいて定められる解除条件が成立した場合、ブレーキ回路によるブレーキ動作を停止させる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給対象に電力を供給する発電システムの制御装置であって、
前記発電システムは、
回転体と、
前記回転体によって回転され、三相の交流電力を発生させる発電機と、
前記発電機に接続され、相間を短絡することにより前記回転体に対してブレーキ力を発生させるように構成されるブレーキ回路と、
前記発電機の発電電圧の値を検出する電圧センサと、
前記ブレーキ回路を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記回転体の回転速度が第1閾値を上回ると、前記ブレーキ回路によるブレーキ動作を実行し、
前記回転速度が前記第1閾値を下回った後、前記電圧センサが検出する前記発電電圧の値および前記回転速度の少なくとも一方に基づいて定められる解除条件が成立した場合、前記ブレーキ回路によるブレーキ動作を停止させる、制御装置。
【請求項2】
前記解除条件は、前記発電電圧の値が第2閾値を下回ったという条件である、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記ブレーキ回路の周囲の温度を検出する温度センサをさらに備え、
前記温度センサの検出する温度に応じて、前記第2閾値を定める、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記回転体は、風によって回転し、
前記回転体が設置されている場所の風速と前記発電電圧とを対応付けた学習データに基づいて、前記第2閾値を推定する、請求項2または請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記解除条件は、前記回転速度の値が第3閾値を下回ったという条件である、請求項1に記載の制御装置。
【請求項6】
前記回転体は、風によって回転し、
前記回転体が設置されている場所の風速と前記回転速度とを対応付けた学習データに基づいて、前記第3閾値を推定する、請求項5に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発電システムの制御装置に関し、特に、風力および水力発電システムにおけるブレーキ制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風力発電システムでは、台風などにより強風が発生し、風車の回転速度が速くなりすぎる場合、機械的保護の観点から風車に対してブレーキ動作を開始し、風速が弱まるまでブレーキ動作を継続する。このような風力発電システムでは、風速が十分弱まって安全に発電をすることが可能であるかを判断するため、風速計を用いる場合がある。風速計の計測値が基準を下回ったとき、風力発電システムは、継続してブレーキ動作を実行している状態からブレーキ動作を停止し、風車を回転させて通常の発電制御を実行する。以下では、継続してブレーキ動作を実行している状態からブレーキ動作を停止することを、「ブレーキを解除する」と称する場合がある。風速計を備えない風力発電システムの場合、ブレーキ動作を開始した後から所定の期間が経過したことを条件として、風力発電システムはブレーキ動作を停止する。このような現象は水力発電システムにおいても同じことが言える。
【0003】
国際公開第2012/164637号公報(特許文献1)に記載の風車発電機は、強風が発生した時に電気ブレーキ動作を開始させた後、風車発電機の本体表面の温度、抵抗の温度、ケーブルの温度等に基づいて、電気ブレーキ動作を停止するタイミングを定めている。これにより、特許文献1の風車発電機では、電気ブレーキの動作の開始と停止の切り替わりが頻繁に起こることを、効率よく防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/164637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
強風が発生したことに基づいて、電気ブレーキを継続して動作させる場合、電気ブレーキの動作を停止するタイミングによっては、発電効率が低下し得る。たとえば、所定の期間が経過したことを条件として電気ブレーキ動作を停止する場合、所定の期間が長すぎると、風速が十分弱まったにもかかわらず通常の発電制御を開始することができない期間が生じる可能性があり、発電効率が低下する。
【0006】
これに対して、電気ブレーキの動作を停止するタイミングを判断するため風速計を用いれば、風速が十分に弱まったか否かを判断することは容易となるが、風速計を設けるためのコストが増大する。また、水力発電システムにおいて水流計を設けてもコスト増大となる。特許文献1の風力発電システムにおいても、複数の熱源の温度を検出するため、複数の温度センサを設ける必要があり、コストが増大する可能性がある。
【0007】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電気ブレーキを備えた発電システムの制御装置において、コストの増大を抑制しつつ、発電効率が低下しないタイミングでブレーキ動作を停止することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る制御装置は、供給対象に電力を供給する発電システムを制御するための制御装置である。発電システムは、回転体と、発電機と、ブレーキ回路と、電圧センサと、制御装置とを備える。発電機は、回転体によって回転され、三相の交流電力を発生させる。ブレーキ回路は、発電機に接続され、相間を短絡することにより回転体に対してブレーキ力を発生させる。電圧センサは、発電機の発電電圧の値を検出する。制御装置は、ブレーキ回路を制御する。制御装置は、回転体の回転速度が第1閾値を上回ると、ブレーキ回路によるブレーキ動作を実行する。制御装置は、回転体の回転速度が第1閾値を下回った後、電圧センサが検出する発電電圧の値および回転体の回転速度の少なくとも一方に基づいて定められる解除条件が成立した場合、ブレーキ回路によるブレーキ動作を停止させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示による発電システムの制御装置は、回転体の回転速度が第1閾値を超えて過大になったことに基づいてブレーキ回路を用いて回転体を減速させる。その後、制御装置は、発電機の発電電圧に基づいて風速を推定し、ブレーキ回路によるブレーキを解除しても回転速度が再び第1閾値を上回らない風速となったと推定する場合、ブレーキ回路によるブレーキを解除する。これにより、発電システムの制御装置は、風速計または温度センサなどを設けることなく、発電制御をするために必要となる電圧センサを用いて風速を推定することができる。したがって、発電システムの制御装置においては、コストの増大を抑制しつつ、発電効率が低下しないタイミングでブレーキを解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1における風力発電システムの構成を示す概略図である。
【
図2】ブレーキ回路によるブレーキ動作を説明するための図である。
【
図3】ブレーキ回路の変形例の構成を示す図である。
【
図4】風力発電システムの機能を説明するためのブロック図である。
【
図6】風力発電においての風速と電圧の関係性を説明するための図である。
【
図7】電圧センサを用いて電気ブレーキを解除する例を説明するフローチャートである。
【
図8】抵抗値の変化により電圧と風速との関係性が変化すること説明するための図である。
【
図9】電圧センサVSの検出値を温度に基づいて補正する例を示す図である。
【
図10】学習モデルを取得するための風力発電システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1における風力発電システム100の構成を示す概略図である。風力発電システム100は、水平軸型(プロペラ型)風力発電システムの一例である。
図1に示されるように、風力発電システム100は、風車1と、発電機3と、制御装置5とを備える。本実施の形態の発電システムが水力発電システムである場合、風車1に代えて水車が備えられる。
【0013】
風車1は、主軸2を含む。発電機3は、永久磁石を使用した三相同期発電機を含む。発電機3は、主軸2にカップリング等で締結されている。必要に応じて、主軸2と発電機3との間に増速機が設けられてもよい。風の運動エネルギーにより風車1が回転され、主軸2が発電機3を回転させる。風力発電システム100においては、発電機3には、ブレーキ回路4を介して制御装置5が接続されている。発電機3は、ブレーキ回路4を介して、制御装置5に発電電力を送る。発電電力は、制御装置5によって直流電力あるいは周波数の異なる交流電力に変換された後、供給対象6に供給される。供給対象6は、たとえば、バッテリーまたは系統電源などである。
【0014】
図2は、ブレーキ回路4によるブレーキ動作を説明するための図である。発電機3は、回転動作によって発生する発電電力を三相(U相、V相、およびW相)の発電電力として電力線Pu、電力線Pv、および電力線Pwにそれぞれ出力する。制御装置5は、電力変換部51を含む。電力変換部51に含まれる整流回路51Rは、三相の発電電力を電力線Pu,電力線Pv,電力線Pwからそれぞれ受ける。整流回路51Rは、AC(Alternate Current)/DC(Direct Current)コンバータである。整流回路51Rは、三相の発電電力を直流電力に変換する。電圧センサVSは、発電機3の発電電圧を検出する。
【0015】
ブレーキ回路4は、スイッチSw1と、スイッチSw2と、スイッチSw3と、抵抗R1と、抵抗R2と、抵抗R3とを含む。スイッチSw1および抵抗R1は、電力線Puと電力線Pvとの間に直列に接続されている。スイッチSw2および抵抗R2は、電力線Pvと電力線Pwとの間に直列に接続されている。スイッチSw3および抵抗R3は、電力線Pwと電力線Puとの間に直列に接続されている。
【0016】
制御装置5は、ブレーキ回路4のスイッチSw1~Sw3を閉成させることにより、電気的にブレーキ力を発生させて風車1の回転速度を減速させる。ブレーキ回路4によって発電機3の相間を短絡することにより、発電によって生じた起電圧による電流が発電機3の電機子に流れる。この電流によって生じる電磁誘導により、風によって電機子が回転する方向と逆の方向に作用するブレーキ力が生じる。以下では、ブレーキ回路4によって相間を短絡し、風車1にブレーキ力を作用させるブレーキを「電気ブレーキ」と称する。また、ブレーキ回路4によって相間を短絡させることを「電気ブレーキを動作させる」と称する。また、ブレーキ回路4のスイッチSw1~Sw3を開放させることを「電気ブレーキを停止する」および「ブレーキを解除する」と称する。
【0017】
図2では、電気ブレーキを動作させるために、電力線Pu、電力線Pv、電力線Pwの相間を短絡させる構成について説明したが
図3に示すように、電力線Pu~Pwとアースとの間を短絡させて電気ブレーキを動作させてもよい。
【0018】
図3は、ブレーキ回路の変形例の構成を示す図である。
図3のブレーキ回路4においては、電力線Pu,Pw,Pvとアースとの間にスイッチSw1~Sw3がそれぞれ設けられるブレーキ回路4の構成を示す。
図3に示す構成においても、制御装置5からの制御信号によりスイッチSw1~Sw3を閉成されることより、アースを介して発電機3の相間が短絡されて電機子に電流が流れる。そのため、風車1に対してブレーキ力を発生させることができる。ブレーキ回路4は、電流の値を計測する電流センサIS2を備える。
【0019】
図4は、風力発電システム100の機能を説明するためのブロック図である。制御装置5は、電力変換部51と、制御部52とを含む。電力変換部51は、
図2に示す電力線Pu,Pv,Pwから受ける発電電力を供給対象6に供給するための形式に変換する。
【0020】
また、電力変換部51は、内部センサ部InSおよび整流回路51Rを含む。内部センサ部InSは、電圧センサVSと電流センサISとを含む。電圧センサVSは、整流後の発電機3の発電電圧を検出する。電流センサISは、電力変換部51内の回路を流れる電流を検出する。整流回路51Rは、制御装置5が受けた三相の発電電力を直流電力に変換する。
【0021】
制御部52は、電気ブレーキ制御部EBと、演算部53とを含む。演算部53は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリ(いずれも図示せず)を含む。
図1で説明したように、風力発電システム100では、ブレーキ回路4によって相間を短絡させることにより、風車1の回転に対してブレーキ力を発生させる。すなわち、ブレーキ回路4のスイッチSw1~Sw3が電気ブレーキ制御部EBからの制御信号によって閉じられることで、風車1の回転に対するブレーキ力が発生する。
【0022】
演算部53は、外部センサ部ExSおよび温度センサ41による検出信号を受ける。外部センサ部ExSは、回転計11と、トルクメーター12とを含む。回転計11は、風車1の回転速度を計測する。トルクメーター12は、風によって風車1に発生するトルクを検出する。温度センサ41は、抵抗R1~R3を含むブレーキ回路4の温度を検出する。外部センサ部ExSは、供給対象6がバッテリーの場合、供給対象6の充電量を検出できるように構成されていてもよい。
【0023】
図5は、マップ制御を説明するための図である。
図5における横軸は風車1の回転速度を示し、
図5における縦軸は発電機3の出力値(発電電力)を示す。マップ制御では、スイッチング制御を行う際のデューティ比を、回転速度に応じて予め定められたデューティ比に調整することにより、発電機3の出力値を制御する。これにより、制御装置5は、ある回転速度に対して発電機3の出力値を一意に定めることができる。たとえば、風車1が回転速度aで回転しているとき、発電機3は出力値bを出力する。
【0024】
図5に示される回転速度Lは、カットアウトが実行される回転速度である。カットアウトとは、風車1の過回転を防止するための機械的および電気的保護機能である。風車1の機械的および電気的観点から特定の速度よりも速い速度で風車1が回転すれば、風車1の機械的および電気的信頼性が低下する。以下では、機械的および電気的信頼性が低下する回転速度で風車1が回転している状態を、「過回転」と称する場合がある。風力発電システム100では、風車1の過回転を防止するために、風車1に対してブレーキ力を発生させて減速させる。回転速度Lは、風車1の機械的および電気的仕様から定まる許容回転速度に基づいて予め定められる。なお、回転速度Lは、許容回転速度そのものではなく、許容回転速度よりも遅い回転速度に定めてもよい。回転速度Lは、電気ブレーキを継続して動作させることにより、十分に減速させることが可能な速度として定められることが望ましい。たとえば、風車1の機械的強度が高く、回転速度Lを速い速度に設定できる場合も考えられ得る。しかしながら、カットアウトを実行したときに回転速度Lが速すぎる場合、風によって作用するトルクが電気ブレーキのブレーキ力を上回り、風車1の回転速度を十分に減速させることができない可能性がある。そのため、回転速度Lは、電気ブレーキを動作させたときに少なくとも風車1の回転速度を減速させることができる速度として設定される。
【0025】
また、カットアウトが実行されるタイミングは、電力変換部51に定められている電気的な許容範囲(定格電圧、定格電流など)に基づいて定めてもよい。電力変換部51に対して許容範囲を超えた電圧が印可されれば、電力変換部51の故障が発生し得るためである。この場合、出力値Mの値が電力変換部51の許容範囲か否かに応じてカットアウトを実行するタイミングを定める。
【0026】
このように、風力発電システム100では、強風が発生した場合、機械的および電気的保護の観点から、風車1の回転速度または発電機3の発電電力に基づいて、風車1の回転速度を減速させる。すなわち、制御装置5は、風車1が回転速度Lで回転した場合に、ブレーキ回路4により発電機3の相間を短絡させ、電気ブレーキの動作を開始する。本実施の形態の風力発電システム100の制御装置5は、電気ブレーキの動作を開始した後、解除条件が成立するまでの間、電気ブレーキを継続して動作させる。
【0027】
電気ブレーキの特性上、ブレーキ回路4によって相間を短絡させた状態で風車1が風を受ける場合、風車1の回転は、完全に停止しない。カットアウトを実行した後、電気ブレーキ動作が継続して動作されるため、風車1の回転速度は、回転速度Lから徐々に減速する。その後、電気ブレーキによって作用するブレーキ力と、風によって主軸2を回転させるようとするトルクとが釣り合うと平衡状態となる。上述の通り、電気ブレーキは、風を受けることによって発電機3の電機子に作用する電気エネルギーを用いて、ブレーキ力を発生させる。
【0028】
平衡状態となったときにおいても、内部抵抗を備える電気ブレーキの特性上、風車1は、比較的遅い回転速度で回転を続ける。平衡状態における風車1の回転速度は、風速によって影響される。すなわち、平衡状態における風速が速ければ、主軸2を回転させるトルクが強まり、平衡状態においても所定の速さを保ち風車1が回転を継続する。一方で、平衡状態における風速が弱ければ、主軸2を回転させるトルクが弱まり、平衡状態において風車1は停止した状態に近い速度で回転する。このように、強風が発生したことに基づいて電気ブレーキを動作させ、風車1の回転を回転速度Lよりも遅い回転速度に維持することができるので風車1の機械的および電気的保護をすることができる。
【0029】
ここで、電気ブレーキを解除するタイミングが適切でない場合、風力発電システム100の発電効率の低下または風車1が破損する可能性が生じる。たとえば、電気ブレーキを解除するタイミングが遅いと、風速が通常の発電制御を行うことができる程度に十分弱まっているにもかかわらず、風車1を回転させることができない場合がある。この場合、風速が十分弱まっているため風車1が過回転する虞がないにもかかわらず、継続して電気ブレーキを動作させることとなり、通常の発電制御を行うことができない。したがって、発電効率は低下する。
【0030】
また、電気ブレーキを解除するタイミングが早いと、風速が十分弱まっていないにもかかわらず、風車1の回転を開始させることとなる。ブレーキ力が作用されなくなった風車1は、強風により回転速度が加速し過回転となり再度カットアウトが実行されてしまう。すなわち、電気ブレーキを解除するタイミングが早すぎる場合、電気ブレーキを解除する処理とカットアウトとが頻繁に繰り返されることとなる。その結果、頻繁に電気ブレーキの動作の開始と停止が繰り返され、風車1の回転の加速と減速とが繰り返される。これにより、スイッチSw1~Sw3の開閉動作が過度に繰り返されることとなり、ブレーキ回路4の劣化が促進されることとなり得る。また、風車1の加速と減速とが過度に繰り返されることにより、風車1の劣化が促進され得る。
【0031】
したがって、風力発電システム100では、風車1が過回転とならない程度に風速が弱まった時点で電気ブレーキの動作を解除することが望ましい。風速を判断するためには、風速計を用いることが考えられるが、風速計は比較的高価であるため、コストが増加し得る。以下では、本実施の形態の風力発電システム100において、風速計を用いずに電気ブレーキを解除するタイミングを定める制御について説明する。
【0032】
図6は、風力発電における風速と電圧の関係性を説明するための図である。
図6(a)は、風によって主軸2に作用するトルクとの関係性を示す図である。風速とは、風車1の周囲の風速である。トルクとは、風によって風車1が含む主軸2に作用するトルクである。トルクは、トルクメーター12によって検出される。
図6(a)に示されるように、風力発電において、風によって主軸2に作用するトルクは、一般的に風速の2乗に比例する。
【0033】
図6(b)は、電流とトルクとの関係性を示す図である。
図6(b)が示す電流とは、発電機3によって生じる電流である。
図6(b)に示されるように、風力発電において、風によって主軸2に作用するトルクは、一般的に発電機3に流れる電流に比例する。また、抵抗値が一定である場合、電流は電圧と比例する。そのため、
図6(a)および
図6(b)が示す関係に基づいて、電圧センサVSの検出値と風速との関係を考慮すれば、
図6(c)に示されるように、電圧は風速の2乗に比例するという関係を導き出すことができる。したがって、
図6(c)に示されている電圧と風速の関係を用いれば、電圧センサVSの検出値から一意に風速を推定することができる。上述の通り、電気ブレーキの特性上、カットアウトによりブレーキ動作が実行された後、電気ブレーキ継続して動作している状態であって、強風が発生している場合、風車1の回転は完全に停止することなく、比較的遅い速度で回転を続ける。そのため、電気ブレーキを保持している状態においても、
図6(c)に示される電圧と風速の関係性は成立する。
【0034】
図6(c)に示される基準風速とは、カットアウトによりブレーキ動作が実行された後の平衡状態において、電気ブレーキを解除しても風車1が回転速度Lにまで加速しない風速を意味する。すなわち、制御装置5は、風車1の回転速度が基準速度となったとき電気ブレーキを解除しても、頻繁に電気ブレーキの動作の開始と停止を繰り返すことなく、通常の発電制御を行うことができると判断することができる。基準風速は、実機実験あるいはシミュレーションによって適宜決定する。
図6(c)に示されるように、基準風速のとき、電圧センサVSの検出値は、電圧値Vthとなる。このことから、電気ブレーキを解除するための条件である解除条件は、電圧センサVSの検出値が電圧値Vthを下回ったという条件である。
【0035】
本実施の形態における風力発電システム100では、風速計を用いることなく、
図6(c)に示す電圧センサVSの検出値と風速の関係を用いて、電圧センサVSの検出値から風速が基準風速を下回ったか否かを判断する。これにより、風力発電システム100では、強風が発生したことにより動作させた電気ブレーキを適切なタイミングで解除することができる。仮に基準風速以上であるときに電気ブレーキを解除すれば、頻繁に電気ブレーキの動作の開始と停止を繰り返し、風車1の劣化を促進させてしまう。
【0036】
また、基準風速を下回っているにもかかわらず、電気ブレーキの動作を解除しなければ、通常の発電制御を行うことができず、発電効率が低下する。風力発電システム100では、基準風速を下回ったタイミングでブレーキを解除することにより、発電効率の低下をも抑制できる。風速計を設けずに電力変換のために用いる電圧センサVSを用いるため、コストの増大を抑制しつつ、ブレーキ制御をする風力発電システム100を実現することができる。
【0037】
また、発電機3はコイルの巻数は一定であるため、発電機3の回転子の回転速度は、誘導起電力に比例する。すなわち、制御装置5は、電圧センサVSを用いずとも、回転計11が計測する回転速度に基づいて風速を導出することが可能である。たとえば、
図6(c)に示されるように、制御装置5は、回転速度Rthとなったときに電圧センサVSの検出値が電圧値Vthであると判断できる。風力発電システム100では、回転速度Rthを用いて基準風速である否かを判断することができる。
【0038】
図7は、カットアウトによるブレーキ動作の開始後に電圧センサVSを用いて電気ブレーキを解除する例を説明するフローチャートである。制御装置5は、風車1の回転速度が予め定められた回転速度Lを上回ったか否かを判断する(ステップS11)。風車1の回転速度が回転速度L以下の場合(ステップS11でNO)、制御装置5は、ステップS11の処理を繰り返す。すなわち、強風が発生していないとして風力発電システム100は、通常の発電制御を行う。
【0039】
風車1の回転速度が回転速度Lを上回った場合(ステップS11でYES)、制御装置5は、電気ブレーキの動作を開始する(ステップS12)。すなわち、制御装置5は、電気ブレーキ制御部EBを制御してブレーキ回路のスイッチSw1~Sw3を閉成する。電気ブレーキは、回転速度Lで回転する風車1の回転速度を減速させることに十分なブレーキ力を発生するように構成されている。これにより、風車1の回転速度は、回転速度Lよりも遅い速度となる。
【0040】
制御装置5は、ステップS12の後、電気ブレーキが継続して動作している状態においては、上述で説明したように、ブレーキ力と風により作用するトルクとが平衡状態となり、風車1は比較的遅い速度で回転する。制御装置5は、平衡状態における電圧センサVSの検出値または回転速度に基づいて、解除条件が成立したか否かを判断する(ステップS13)。
【0041】
本実施の形態における解除条件は、電圧センサVSの検出値が電圧値Vthを下回ったという条件である。解除条件は、回転速度の値が回転速度Rthを下回ったという条件であってもよい。また、解除条件は、電圧センサVSの検出値が電圧値Vthを下回ったという条件および回転速度の値が回転速度ThRを下回ったという条件の両方が成立したという条件であってもよい。
【0042】
制御装置5は、電圧センサVSが検出する電圧センサVSの検出値が電圧値Vthを下回ったか否かを判断する。電圧センサVSの検出値が電圧値Vth以上である場合(ステップS13でNO)、制御装置5は、ステップS13の処理を繰り返す。電圧センサVSの検出値が電圧値Vthを下回った場合(ステップS13でYES)、制御装置5は、解除条件が成立したと判断して、電気ブレーキを解除する(ステップS14)。すなわち、風力発電システム100は、通常の発電制御を再開して、供給対象6に電力を供給する。
【0043】
解除条件が回転速度の値が回転速度Rthを下回ったという条件である場合、制御装置5は、電気ブレーキが動作している平衡状態において、回転計11が計測する回転速度が回転速度Rth以下となった場合、解除条件が成立したと判断する。もしくは、制御装置5は、電圧センサVSの検出値が電圧値Vth以下となる条件および回転速度Rth以下となる条件の両方が成立した場合に、解除条件が成立したと判断する。
【0044】
このように、本実施の形態における風力発電システム100では、カットアウトによりブレーキ動作の実行中に、電圧センサVSの検出値および風車1の回転速度の少なくとも一方に基づいて定められる解除条件が成立した場合、ブレーキ回路4によるブレーキ動作を解除する。これにより、風速計を用いずにコストの増大を抑制しつつ、適切なタイミングで電気ブレーキを解除することができるので、発電効率の低下を防止できる。
【0045】
<変形例1>
上述の通り、実施の形態1においては、平衡状態における電圧センサVSの検出値に基づいて風速を推定し、推定した風速が基準風速を下回るか否かに基づいて、ブレーキを解除する構成について説明した。変形例1では、ブレーキ回路4の抵抗に着目して電圧センサVSの検出値から風速をより正確に推定する構成について説明する。
【0046】
図8は、抵抗値の変化により電圧と風速との関係性が変化すること説明するための図である。上述の通り、風力発電システム100では、電圧センサVSの検出値に基づいて、基準風速を推定する。
図6(c)で説明したように、電圧センサVSの検出値は、風速の2乗に比例する。しかしながら、
図6(c)に示されるような電圧センサVSの検出値と風速との関係を示す曲線の形状は、種々の外的要因に影響されて変化する。たとえば、ブレーキ回路4に含まれる抵抗R1~R3の合成抵抗値が変動する場合、
図8(a)に示されるように電圧センサVSの検出値と風速との関係を示す線は、線L1や線L2などに変化する。
【0047】
抵抗R1~R3の各々の抵抗値は、ブレーキ回路4の周囲の温度によって変化し得る。したがって、抵抗R1~R3の合成抵抗値もブレーキ回路4の周囲の温度によって変化する。一般的に抵抗の抵抗値は、温度が上昇するに伴って大きくなり、温度が低下するに伴って小さくなる。
図8(a)に示されるように、線L1は、ブレーキ回路4の周囲の温度が温度T1の場合の電圧センサVSの検出値と風速の関係を示す曲線である。温度T1において、抵抗R1~R3の合成抵抗値はXとなる。線L2は、ブレーキ回路4の周囲の温度が温度T1よりも低い温度T2の場合の電圧センサVSの検出値と風速の関係を示す曲線である。温度T2において、抵抗R1~R3の合成抵抗値は、Xよりも小さいYとなる。
【0048】
このように、ブレーキ回路4の抵抗R1~R3の合成抵抗値が温度によって変化するため、電圧センサVSの検出値のみから風速を推定する場合、誤差が生じ得る。そこで、変形例1の制御装置5は、温度を考慮して風速を推定する。
図9は、電圧センサVSの検出値を温度に基づいて補正する例を示す図である。
図9(a)は、電圧センサVSの検出値を補正するフローチャートである。制御装置5は、
図9(a)に示すフローチャートを
図7のステップS13内で実行する。制御装置5は、温度センサ41が検出する温度を取得する(ステップS20)。制御装置5は、温度を取得した後、取得した温度に対応する抵抗温度係数を取得する(ステップS21)。抵抗温度係数とは、温度変化による抵抗R1~R3の抵抗値の変化の割合を示す係数である。
【0049】
制御装置5は、抵抗温度係数に基づいて合成抵抗値を補正する(ステップS22)。合成抵抗値を補正した後、制御装置5は、
図9(b)に示す計算式を用いて、電圧センサVSの検出値を補正する。
【0050】
これにより、風力発電システム100では、風速をより精度良く推定することができる。すなわち、制御装置5は、電圧センサVSの検出値から、温度変化による抵抗値の変化を考慮して、より正確な風速を推定することができるので、適切なタイミングで電気ブレーキを解除することができる。
【0051】
<変形例2>
上述の通り、風力発電システム100では、風速計を用いることなく、電圧、トルク、電流、回転速度、抵抗値、温度などのパラメータの関係性に基づいて、風速を推定する構成について説明した。しかしながら、実際の環境においては、上述のパラメータ同士の関係性は、上述のパラメータ以外の種々の外的要因に影響される。これらの外的要因の種類は、多岐に亘り全てを考慮することは困難である。そこで、変形例2においては、教師データを使用して各パラメータとの関係性の特徴を見い出す人工知能を使用して、より精度の高い推定を行う例について説明する。
【0052】
図10は、学習モデルを取得するための風力発電システム101の構成を示す図である。
図10に示される風力発電システム101が有する構成のうち、風力発電システム100と同一の構成については、説明を繰り返さない。風力発電システム101の外部センサ部ExSは、風速計13を備える。
【0053】
風力発電システム101は、学習用データを生成する。すなわち、風力発電システム101の演算部53は、風速計13が実際に計測する風速をデータベース200に蓄積する。風力発電システム101の演算部53は、さらに、風速が計測された時刻と同時刻における電圧センサVSの検出値、温度センサ41が検出する温度、回転計11が計測する回転速度、トルクメーター12が検出するトルクを取得し、学習用データとしてデータベース200に蓄積する。データベース200は、風力発電システム101とは別体のサーバー等に記憶される。
【0054】
データベース200は、実際の風速とともに同時刻における電圧センサVSの検出値等を記憶する。すなわち、データベース200には、風速に対して電圧センサVSの検出値が対応付けられている。同様に、データベース200には、風速に対して回転速度が対応付けられている。本実施の形態の風力発電システム100は、風力発電システム101によって生成された学習用データから、人工知能を用いて学習モデルを生成する。生成された学習モデルによって、電圧センサVSの検出値などのパラメータを入力値として、より精度の高い風速を推定することができる。これにより、人工知能を使って各パラメータの関係性からさらに特徴を見い出すことができる場合、風力発電システム100では、学習モデルを用いることによって推定する風力の値の精度を向上させることができる。
【0055】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、本発明の制御装置は風力発電システムだけでなく水力発電システムなどにも適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 風車、2 主軸、3 発電機、4 ブレーキ回路、5 制御装置、6 供給対象、11 回転計、12 トルクメーター、13 風速計、41 温度センサ、51 電力変換部、51R 整流回路、52 制御部、53 演算部、100,100A,101 風力発電システム、200 データベース、EB 電気ブレーキ制御部、ExS 外部センサ部、IS,IS2 電流センサ、InS 内部センサ部、L,Rth,a 回転速度L1,L2 線、M,b 出力値、Pu,Pv,Pw 電力線、R1~R3 抵抗、Sw1~Sw3 スイッチ、T1~T3 温度、Vth 電圧値、VS 電圧センサ、X,Y,Z 合成抵抗値、c1~c3 コイル、r1~r3 内部抵抗。