(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144426
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】印刷装置および印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41F 3/20 20060101AFI20220926BHJP
B41F 17/14 20060101ALI20220926BHJP
B41F 17/22 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B41F3/20 D
B41F17/14 E
B41F17/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045439
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】直木 一樹
(57)【要約】
【課題】凹版の版面上のインクを薄膜形成スキージにより薄膜状に均した後でインク充填スキージによって余分なインクを掻き取ってインクパターンを形成する際に、インク筋が発生するのを防止して高品質な印刷を行う。
【解決手段】この発明では、印刷版を保持する保持部が薄膜形成スキージに対して薄膜形成方向に相対移動されることで、印刷版の凹部領域にインクの薄膜が形成されるとともに、印刷版の平坦領域の一部にインク不在部位が形成される。そして、当該インク不在部位にインク充填スキージを当接させながら保持部がインク充填スキージに対してインク充填方向に相対的に移動される。これによって、インク充填スキージにより薄膜が掻き取られ、凹部にインクが充填される。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷パターンに対応する凹部が形成された凹部領域と、前記パターンに対応する前記凹部が形成されていない非パターン領域とが配列して表面に設けられる印刷版を保持する保持部と、
前記印刷版の表面にインクを吐出するインクノズル、薄膜形成スキージおよびインク充填スキージを有する印刷ヘッドと、
前記凹部領域と前記非パターン領域との配列方向において、前記印刷ヘッドに対して前記保持部を相対的に、インク充填方向および前記インク充填方向に対して反対の薄膜形成方向に往復移動させる移動部と、を備え、
前記移動部は、
前記保持部を前記薄膜形成方向に相対移動させることで、前記薄膜形成スキージにより前記印刷版の表面上の前記インクを均して少なくとも前記凹部領域に前記インクの薄膜を形成するとともに、前記非パターン領域の一部に前記インクが存在しないインク不在部位を形成し、
前記インク不在部位に前記インク充填スキージが当接した後で、前記保持部を前記インク充填方向に相対移動させることで、前記インク充填スキージにより前記薄膜を掻き取って前記凹部に前記インクを充填させる
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記保持部に保持された前記印刷版の表面と、前記薄膜形成スキージとの間隔を調整する間隔調整部をさらに備え、
前記間隔調整部は、前記薄膜形成方向への前記保持部の相対移動中に、前記凹部領域と前記薄膜形成スキージとの間隔をゼロよりも大きな第1間隔に調整して前記薄膜を形成する一方、前記非パターン領域の一部と前記薄膜形成スキージとの間隔をゼロに調整して前記インク不在部位を形成する、印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷装置であって、
前記間隔調整部は、
前記印刷版の表面のうち、前記薄膜形成方向における前記凹部領域に対して下流側に位置する第1部位から上流側に位置する第2部位までの薄膜形成範囲において前記間隔を第1間隔に維持して薄膜を形成し、
前記第2部位から前記薄膜形成方向において前記第2部位よりも上流側の第3部位までのインク除去範囲において前記間隔をゼロに維持して前記インク不在部位を形成する、印刷装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の印刷装置であって、
前記薄膜形成方向において前記インク不在部位の上流側で前記薄膜形成スキージの下端部に当接して前記薄膜形成スキージの下端部に付着するインクを除去する薄膜形成スキージ用インク除去部材をさらに備える、印刷装置。
【請求項5】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記非パターン領域は前記薄膜形成方向における前記凹部領域に対して上流側に位置し、
前記移動部は、前記薄膜形成方向における前記非パターン領域の中間部位が前記薄膜形成スキージの直下に位置した時点で前記薄膜形成方向への前記保持部の相対移動を停止することにより、前記薄膜形成方向において前記中間部位に対して上流側に前記インク不在部位を形成する、印刷装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記インク充填方向において前記凹部領域の上流側で前記インク充填スキージの下端部に当接して前記インク充填スキージの下端部に付着するインクを除去するインク充填スキージ用インク除去部材をさらに備える、印刷装置。
【請求項7】
印刷パターンに対応する凹部が形成された凹部領域と、前記パターンに対応する前記凹部が形成されていない非パターン領域とが配列して表面に設けられる印刷版を保持する保持部を、前記凹部領域と前記非パターン領域との配列方向において、薄膜形成スキージに対して薄膜形成方向に相対的に移動させることで、前記印刷版の表面上のインクを均して少なくとも前記凹部領域に前記インクの薄膜を形成するとともに、前記非パターン領域の一部に前記インクが存在しないインク不在部位を形成する薄膜形成工程と、
前記インク不在部位にインク充填スキージを当接させながら前記配列方向において前記保持部を前記インク充填スキージに対し、前記配列方向において前記薄膜形成方向と反対のインク充填方向に相対的に移動させることで、前記インク充填スキージにより前記薄膜を掻き取って前記凹部に前記インクを充填させるインク充填工程と、
を備えることを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、凹版の版面上のインクを薄膜形成スキージにより薄膜状に均した後でインク充填スキージによって余分なインクを掻き取ってインクパターンを形成して印刷する印刷技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクなどの印刷材料で形成されたパターンを平板基材(ガラス板、樹脂フィルム等)や立体基材(容器、ボトル等)に印刷する凹版印刷技術が数多く提案されている。例えば特許文献1に記載の印刷装置では、凹版の版面に上記パターンに対応して設けられた凹部にインクが充填されてインクパターンが形成される(充填工程)。インクパターンは転写ローラに受理され(受理工程)。受理されたインクパターンが基材に転写される(転写工程)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記充填工程では、インクパターンを形成するためにインク充填スキージが用いられる。当該インクパターンは転写ローラに受理される。受理後の凹版には、インクが残留することがある。そこで、凹版に残留付着するインクが乾燥して版面に固着するのを防止する目的で、薄膜形成スキージが用いられる。つまり、版面から薄膜形成スキージを所定間隔(本発明の「第1間隔」に相当)だけ離間させた状態で、凹版が薄膜形成スキージに対して相対移動される。これによって、版面にインクの薄膜が形成される。そして、当該凹版を用いて次の印刷を行う際には、インク充填スキージが版面上の余分なインクを掻き取って凹部にインクを充填してインクパターンを形成する。
【0005】
上記薄膜形成時には、薄膜形成スキージの移動経路上にインクの薄膜が形成されるとともに薄膜形成スキージの移動先にインク溜りが形成される。そして、従来技術では、上記充填工程を実行する際には、版面のうち薄膜またはインク溜りが形成されたインク存在部位に対し、インク充填スキージの下端部が接触する。それに続いて、凹版がインク充填スキージに対して相対的に移動する。これによって、インク充填が実行される。したがって、インク充填スキージの下端部では、インクを掻き取る側の面(以下「インク掻取面」という)のみならず、インク掻取面と反対側の面(以下「反インク掻取面」という)にもインクが付着する。このため、充填工程におけるインク充填スキージの相対移動に伴い、反インク掻取面に付着したインクが引きずられ、インク充填済の凹部領域にインク筋が生じることがあった。このことが印刷品質の低下を招く主要因の一つとなっている。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、凹版の版面上のインクを薄膜形成スキージにより薄膜状に均した後でインク充填スキージによって余分なインクを掻き取ってインクパターンを形成する際に、インク筋が発生するのを防止して高品質な印刷を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、印刷装置であって、凹部が形成された凹部領域と、凹部が形成されていない平坦領域とが配列して表面に設けられる印刷版を保持する保持部と、印刷版の表面にインクを供給するインク供給部、薄膜形成スキージおよびインク充填スキージを有する印刷ヘッドと、凹部領域と平坦領域との配列方向において、印刷ヘッドに対して保持部を相対的に、インク充填方向およびインク充填方向に対して反対の薄膜形成方向に往復移動させる移動部と、を備え、移動部は、保持部を薄膜形成方向に相対移動させることで、薄膜形成スキージにより印刷版の表面上のインクを均して少なくとも凹部領域にインクの薄膜を形成するとともに、平坦領域の一部にインクが存在しないインク不在部位を形成し、インク不在部位にインク充填スキージが当接された後で、保持部をインク充填方向に相対移動させることで、インク充填スキージにより薄膜を掻き取って凹部にインクを充填させることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の他の態様は、印刷方法であって、印刷パターンに対応する凹部が形成された凹部領域と、印刷パターンに対応する凹部が形成されていない非パターン領域とが配列して表面に設けられる印刷版を保持する保持部を、凹部領域と非パターン領域との配列方向において、薄膜形成スキージに対して薄膜形成方向に相対的に移動させることで、印刷版の表面上のインクを均して少なくとも凹部領域にインクの薄膜を形成するとともに、非パターン領域の一部にインクが存在しないインク不在部位を形成する薄膜形成工程と、インク不在部位にインク充填スキージを当接させながら配列方向において保持部をインク充填スキージに対して薄膜形成方向と反対のインク充填方向に相対的に移動させることで、インク充填スキージにより薄膜を掻き取って凹部にインクを充填させるインク充填工程と、を備えることを特徴としている。
【0009】
このように構成された発明では、印刷版を保持する保持部が薄膜形成スキージに対して薄膜形成方向に相対移動されることで、印刷版の凹部領域にインクの薄膜が形成されるとともに、印刷版の非パターン領域の一部にインク不在部位が形成される。そして、当該インク不在部位にインク充填スキージを当接させた後で、インク充填スキージが印刷版の表面に当接したまま保持部がインク充填スキージに対してインク充填方向に相対的に移動される。これによって、インク充填スキージにより薄膜が掻き取られ、凹部にインクが充填される。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、凹版の版面上のインクを薄膜形成スキージにより薄膜状に均した後でインク充填スキージによって余分なインクを掻き取ってインクパターンを形成するが、その際に、インク筋の発生が防止され、その結果、高品質な印刷を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る印刷装置の第1実施形態を装備する印刷システムの概略構成例を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す印刷システムの部分拡大図である。
【
図3】印刷システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図5】印刷装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】第1実施形態における1枚目のインク充填動作を模式的に示す図である。
【
図7】第1実施形態における2枚目以降の薄膜形成動作を模式的に示す図である。
【
図8】第1実施形態における2枚目以降のインク充填動作を模式的に示す図である。
【
図9】第2実施形態における1枚目のインク充填動作を模式的に示す図である。
【
図10】第2実施形態における2枚目以降の薄膜形成動作を模式的に示す図である。
【
図11】第2実施形態における2枚目以降のインク充填動作を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明に係る印刷装置の第1実施形態を装備する印刷システムの概略構成例を示す模式図である。
図2は版ステージユニットおよび印刷ヘッドの構成を示す図である。さらに、
図3は印刷システムの電気的構成を示すブロック図である。この印刷システム100は、例えばガラス製の容器やボトル、樹脂製の容器やボトル等、水平方向Xと平行な回転対称軸まわりに回転対称な形状を有する物品(以下においては、これら総称して「ボトルB」と称する)の側面Baに対し、凹版Pの版面Paに設けられた凹部領域Pb中の凹部に対応するインクパターンを印刷するためのシステムである。なお、
図2中の符号Pc1、Pc2は版面Paに沿った水平方向Yにおいて凹部領域Pbの両側に設けられる平坦領域を示しており、平坦領域Pc1、凹部領域Pbおよび平坦領域Pc2がY1方向側からY2方向に向かって上記順序で配列されている。平坦領域Pc1、Pc2には凹部が設けられておらず、凹版Pの表面が凹凸の無い平面となっている。ここで、各図における方向を統一的に示すために、配列方向Yおよび水平方向Xの両方に直交する鉛直方向をZ方向としている。また、以下の
図1および
図2において構成要素の近傍に付された点線矢印は、当該構成要素の動きを示すものである。
【0013】
印刷システム100は、ボトルBの側面Baに対し、それぞれが1つのインク色で印刷を行う2組の印刷装置、すなわち第1の印刷装置101および第2の印刷装置102を備えている。これらの印刷装置101、102はX方向に並列配置されている。このように2台の印刷装置101、102を有することから、印刷システム100はボトルBの側面Baに対して2色印刷を行うことができる。なお、印刷装置を1組とした単色印刷システム、あるいは印刷装置を3組以上備えた多色印刷システムを構成することも可能である。
【0014】
第1の印刷装置101および第2の印刷装置102は、版ステージユニット1、印刷ユニット2、転写ユニット3および仮硬化ユニット4をそれぞれ備えている。これらのユニットは、Y2方向側からY1方向に向けて上記の順番で並べて配置される。また、第2の印刷装置102のY1方向側には本硬化装置200が設けられている。これら第1の印刷装置101、第2の印刷装置102、本硬化装置200およびボトル着脱ステーション(図示省略)の間で、ボトルBはボトル保持装置300で保持された状態でボトル搬送装置400により循環搬送される。なお、本実施形態では、ボトル保持装置300に対するボトルBの装着および取り外しは上記ボトル着脱ステーションにてオペレータによる手動作業によって行われる。一方、それ以外の作業を自動化するために、印刷システム100はさらに、これらの各ユニット動作を制御する制御装置900を備えている。
【0015】
第1の印刷装置101および第2の印刷装置102は、以下に説明するように、同じ構成を有し、同様の印刷処理を実行する。印刷システム100における印刷処理は
(1)版ステージユニット1および印刷ユニット2による光硬化性インクを用いたインクパターンの形成
(2)転写ユニット3によるインクパターンの受理
(3)インクパターンの転写ユニット3からボトルBの側面Baへの転写
(4)仮硬化ユニット4からの光照射によるインクの仮硬化、
の各工程からなる単色印刷動作を各印刷装置101,102でそれぞれ実行した後
(5)本硬化装置200によるインクの本硬化、
を実行することにより完結する。
【0016】
より具体的には、ボトルBはボトル着脱ステーションでオペレータによる手動操作にてボトル保持装置300に着脱される。つまり、印刷済のボトルBがボトル保持装置300から取り外された後で印刷すべきボトルBがボトル保持装置300に装着される。こうして装着されたボトルBはボトル保持装置300より回転対称軸まわり回転自在に保持され、その状態でボトル保持装置300と一体的にボトル搬送装置400によって第1の印刷装置101に搬送される。この第1の印刷装置101においてボトル保持装置300でボトルBを回転自在に保持したまま当該ボトルBに対し上記(1)~(4)の各工程が実行される。その後で、ボトルBを保持したボトル保持装置300が第1の印刷装置101から第2の印刷装置102に搬送される。
【0017】
版ステージユニット1は、
図2に示すように、インクパターンを形成するための凹版Pを上面で保持するステージ11を備えている。ステージ11はアライメント機構12を介してベース部13に取り付けられている。アライメント機構12にはアライメント駆動部12a(
図3)が接続され、制御装置900からの制御指令に応じてステージ11をXYZ方向およびZ軸まわりの回転方向に移動させる。特に、ステージ11に載置された凹版Pの版面Paの高さ位置を制御するために、アライメント駆動部12aはステージ11をZ方向に昇降し、上下方向Zにおいてステージ11に載置された凹版Pの版面Paをインク充填処理に適したインク充填高さ位置および受理処理に適した受理高さ位置に位置決めする。また、本実施形態では、後述するように薄膜形成処理において、版面-スキージ間の間隔調整のために、インク充填高さ位置に対して微小量だけ昇降可能となっている。なお、アライメント機構12としては、例えばクロスローラベアリング機構を使用することができる。
【0018】
ベース部13は、印刷システム100の台座にY方向に延設されたガイドレール14に係合される。ベース部13にはベース駆動部13a(
図3)が接続され、制御装置900からの制御指令に応じてステージ11をガイドレール14に沿ってY方向に往復移動させる。なお、ベース部13の可動範囲のうち最もY2方向側に寄った位置(
図2に実線で示す位置)がベース部13のホームポジションである。
【0019】
ホームポジションに位置決めされた状態におけるステージ11の上方にはアライメントカメラ(図示省略)が配置されている。アライメントカメラはステージ11に載置された凹版Pの周縁部または凹版Pの表面に設けられたアライメントマークを撮像し、画像データを制御装置900に送出する。制御装置900はステージ11上における凹版Pの位置を検出し、必要に応じてアライメント機構12を動作させることで、凹版Pの位置を適正位置に調整する。
【0020】
ベース部13がホームポジションからY1方向に移動する経路に沿って、印刷ユニット2および転写ユニット3が設けられている。印刷ユニット2は、直下を通過するステージ11に載置された凹版Pの版面Paに対向するインクノズル(後で説明する
図4中の符号23)を備えている。インクノズルには、制御装置900により制御されるインク供給部24から光硬化性インク(以下、単に「インク」ということがある)が供給される。供給されたインクはインクノズルの下端部に設けられた吐出口から吐出され、凹版Pの版面Paに供給される。
【0021】
光硬化性インクは、顕色剤としての顔料、重合により強固なポリマー層を構成するポリマー材料(モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方を含む)、および光照射を受けて化学変化することで生じる活性種によりポリマー材料の重合反応を促進する光重合開始剤を含むものである。
【0022】
インクノズルのY1方向側にインク充填用として機能するインク充填機構が設けられるとともに、さらにY1方向側に薄膜形成用として機能する薄膜形成機構が設けられている。インク充填機構に設けられるインク充填スキージによりインク充填処理が実行され、薄膜形成機構に設けられる薄膜形成スキージにより薄膜形成処理が実行される。これら2種類の処理を行うことでインク固着を防止しつつ凹版Pの版面Paに設けられた凹部領域Pb中の凹部にインクが充填される一方、それ以外の余剰インクが除去されてインクパターンが形成される。
【0023】
このようなインク充填処理および薄膜形成処理を実行したとき、インク充填スキージおよび薄膜形成スキージの下端部にインクが付着するとともにスキージの上昇移動に伴って糸引きが生じる。そこで、糸引き状態のインクを切断する、いわゆる糸切りを実行するために、
図1および
図2に示すように、ステージ11のY1方向側の端部に薄膜形成用の液切部15が設けられるとともに、ステージ11のY2方向側の端部にインク充填用の液切部16が設けられている。本実施形態では、液切部15、16は、X方向に延設された薄板形状を有しており、ステージ11のX方向全体にわたって上面から立設されている。液切部15、16として、本実施形態では、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルムが用いられているが、その他の樹脂フィルムや金属片であってもよい。また、液切部15、16をステージ11の側面に取り付けてもよいし、ステージ11と一体的に移動可能となっている限りにおいてはステージ11から若干離間して配置してもよい。なお、印刷ユニット2の構成および動作については後で詳述する。
【0024】
こうしてインクが充填された凹版Pは、さらにY1方向に移動して転写ユニット3の配設位置に到達する。
図1および
図2に示すように、転写ユニット3は、ブランケットロール30と、ブランケットロール30を回転させるロール回転部33と、ブランケットロール30をY方向に移動させるロール水平移動部34(
図3)とを備えている。より詳しくは、ブランケットロール30は、例えば金属製の円筒であるブランケット胴31と、その表面に巻き付けられたブランケット32とを備えており、全体として概略円筒形状をなしている。ブランケットロール30は、図示しないフレームにより回転自在に支持されており、制御装置900により制御されるロール回転部33により、
図1に一点鎖線で示す中心軸まわりに回転駆動される。
【0025】
ブランケット32は弾性を有する樹脂材料、例えばシリコン樹脂製であり、その表面にインクパターンを担持可能である。ブランケット32はボトルBの側面BaであるボトルBの表面に生じ得る凹凸よりも十分に大きな厚さを有している。
図2に示すように、ステージ11に載置された凹版Pがブランケットロール30の直下位置を通過するとき、ブランケット32の表面が凹版Pの表面に当接する。このとき、凹版Pの凹部に充填されているインクがブランケット32の表面に移行する。こうして凹版P上のインクパターンがブランケット32に受理される。
【0026】
こうしていったんブランケット32に受理(一次転写)されたインクパターンは、最終的な被転写体であるボトルBの表面に二次転写される。このように、ブランケット32は、ボトルBの側面Baに最終転写されるインクパターンを一時的に担持する中間転写体として機能するものである。なお、本実施形態では、2つの印刷装置101、102が装備されて2種類のインクパターンを形成する。
【0027】
このように構成された印刷システム100では、制御装置900によってボトル搬送装置400が制御されることで、ボトル保持装置300がボトル着脱ステーション、第1の印刷装置101、第2の印刷装置102および本硬化装置200の順序で循環搬送される。このうちボトル着脱ステーションでは、搬送されてきたボトル保持装置300に対し、オペレータがボトルBの着脱作業をマニュアルで行う。つまり、ボトル保持装置300に印刷済のボトルBが装着されている場合、ボトル保持装置300でのボトルBの保持を解除して印刷済のボトルBをボトル保持装置300から取り外す。一方、ボトル保持装置300に対して印刷前のボトルBが未装着の場合には、オペレータは印刷前のボトルBをボトル保持装置300に運び込み、ボトル保持装置300により保持させる。こうしてボトルBの装着操作が完了し、その旨を操作パネルなどの入力装置(図示省略)に入力すると、それを受け取った制御装置900はボトルBを保持したボトル保持装置300を第1の印刷装置101に搬送して印刷処理を行う。
【0028】
この印刷処理は、制御装置900が予め記憶されたプログラムを実行し装置各部に所定の動作を実行させることにより実現される。この印刷処理では、凹版Pが第1の印刷装置101に搬入されてステージ11にセットされ、アライメント調整を受ける。一方、第1の印刷装置101に搬送されてきたボトル保持装置300では、制御装置900からの駆動指令に応じてモータ(図示省略)が作動を開始し、ボトルBが回転対称軸まわりに回転させる。その回転中にボトルBの印刷開始位置を検出し、検出結果に基づいてボトルBの回転量を調整することで当該印刷開始位置が印刷装置101と対向するようにボトルBが位置決めされる。なお、この位置決め処理については、凹版Pのアライメント調整処理と同様にカメラによるボトルBを撮像して得られる画像に基づいて行ってもよいし、ボトルBの特定部位をセンサで検出することでセンサから出力される検出信号に基づいて行ってもよい。いずれにしても、本実施形態では、凹版Pのアライメント調整処理と並行して、印刷装置101に対するボトルBの位置決め処理を自動的に行っている。もちろん、ボトルBの位置決め処理を次に説明する印刷装置101でのインクパターンの受理処理と並行して行うように構成してもよい。
【0029】
続いて、第1の印刷装置101によりインクパターンが形成される。それに続いて、ステージ11がY1方向に移動し、回転するブランケットロール30の直下位置を通過することで、凹版Pに形成されたインクパターンがブランケット32の表面に受理される。その後で、ボトル保持装置300がY1方向に移動し、ボトルBの側面Baの印刷開始位置をブランケット32の表面に押し当てる。これにより、ブランケット32からボトルBへのインクパターンの転写が開始される。この転写処理では、インクパターンを受理しているブランケット32とボトルBとが当接しながら互いにウィズ回転することにより、ブランケット32表面のインクパターンが順次ボトルBに転写されてゆく。
【0030】
ここで、ボトルBの胴部Bbはバックアップローラ(図示省略)に当接しており、ボトルBの回転に伴いインクパターンがバックアップローラとの当接位置に到達すると、未硬化のインクがボトルBからバックアップローラに転写されることがある。また、ボトルBが1周以上回転する場合、ボトルBの側面Baのインクパターンがブランケット32に再転写されてしまうことがある。これらはボトルBの側面Baのインクパターンを乱すとともに、ブランケット32やバックアップローラをインクにより汚染することになる。
【0031】
この問題を防止するために、比較的低露光量の紫外線照射による仮硬化処理が行われる。すなわち、ブランケット32からインクパターンの転写を受けた直後のボトルBの表面に向けて、仮硬化ユニット4から光(紫外線)が照射される。後述するように、仮硬化ユニット4から照射される光は、インクに含まれるポリマー材料の一部を重合させることでインクの粘度を増大させるが、インク全体を硬化させるには至らない性質を有するものである。
【0032】
こうしてインクの粘度が増大することで他の物体への付着性が低下し、インクを担持するボトルBの側面Baがバックアップローラまたはブランケット32に接触したときにインクがこれらに転写されてしまうことが防止される。
【0033】
印刷装置101での印刷処理が完了すると、上記インクパターンが印刷されたボトルBを保持したままボトル保持装置300は第1の印刷装置101から第2の印刷装置102に搬送される。そして、第2の印刷装置102により、第1の印刷装置101と同様にして、印刷処理が行われる。これによって、既に印刷されたインクパターンの上に第2の印刷装置102による別のインクパターンが重ね合わせて印刷される。その後で、これらのインクパターンが印刷されたボトルBを保持したままボトル保持装置300は第2の印刷装置102から本硬化装置200に搬送される。
【0034】
この時点ではインクは完全に硬化していない。これを完全に硬化させるために本硬化装置200は仮硬化ユニット4よりも大出力の光(紫外線)をボトルBに照射する。これによって、インクが完全に硬化して印刷を完了する。その後で、ボトルBを保持したままボトル保持装置300は本硬化装置200から着脱ステーションに戻される。このような一連の動作が繰り返して実行される。
【0035】
次に、印刷ユニット2の構成について
図4を参照しつつ説明した後で、印刷ユニット2の動作について
図5~
図8に参照しつつ説明する。
【0036】
図4は
図1に示す印刷装置に装備される印刷ユニットの側面図であり、印刷ユニット2全体をX1方向側からX2方向に向かって見た図である。印刷ユニット2は、印刷ヘッド2Hと、印刷ヘッド2Hを上下方向Zに昇降するヘッド昇降部2Eとを備えている。
【0037】
印刷ヘッド2Hは、ヘッド本体20と、インク充填機構21と、薄膜形成機構22と、インクノズル23と、インク供給部24とを有している。ヘッド昇降部2Eの詳しい構成は省略するが、ヘッド昇降部2Eは、上下方向Zに延設されたレール、印刷ヘッド2Hのヘッド本体20と連結される連結部材および昇降駆動源としてのエアシリンダなどを有している。そして、ヘッド昇降部2Eは、制御装置900からの昇降指令に応じてヘッド本体20を昇降させる。これにより、次に説明するように構成された印刷ヘッド2H全体が昇降される。
【0038】
ヘッド本体20に沿ってインクノズル23が取り付けられている。
図4への図示を省略しているが、インクノズル23は、複数本(本実施形態では4本)準備されており、
図4の紙面に対して垂直な方向、つまりX方向において所定間隔だけ互いに離間しながらヘッド本体20に設けられている。より詳しくは、各インクノズル23の下端部231には、吐出口232が設けられている。各吐出口232が下方に向けられた状態で、各インクノズル23はヘッド本体20に固定されている。
【0039】
ヘッド本体20およびインクノズル23に対し、Y1方向側にはインク充填機構21およびインク供給部24が取り付けられる一方、Y2方向側には薄膜形成機構22が取り付けられている。インクノズル23毎に、インク供給部24は設けられている。各インク供給部24はブラケット26によりヘッド本体20に固定されている。こうして4組のインク供給体(=インクノズル23+インク供給部24)が設けられる。また、各インク供給体では、配管チューブ27によりインクノズル23とインク供給部24とが接続されている。このため、インク供給指令が制御装置900からインク供給部24に与えられると、各インクノズル23の吐出口232からインクが下方に向けて吐出される。これによって、凹版Pの版面Pa上にインクが供給され、インク溜り(
図6中の符号IKa)が形成される。
【0040】
版面Paに供給されたインクを凹部領域Pbの凹部に充填させてインクパターンを形成する、いわゆるインク充填ためにインク充填機構21が設けられるとともに、後で説明するように受理処理後の薄膜形成のために薄膜形成機構22が設けられている。これらインク充填機構21および薄膜形成機構22はヘッド本体20を挟んでほぼ対称な構成を有している。
【0041】
薄膜形成機構22は、薄膜形成用の薄膜形成スキージ221と、薄膜形成スキージ昇降部222とを有している。薄膜形成スキージ221は、
図4において下端部221aが斜め左下方向に延びる姿勢(以下「薄膜形成姿勢」という)で薄膜形成スキージ昇降部222によりヘッド本体20に対して上下方向Zに昇降される。すなわち、薄膜形成スキージ昇降部222では、ヘッド本体20のY2方向側に取り付けられたレール222aに対してスライダ222bが上下方向Zに移動自在に設けられている。このスライダ222bに対し、スキージ支持部材222cの上端部が固定されている。スキージ支持部材222cはZ2方向に延設され、その下端部からZ2方向に薄膜形成スキージ221が薄膜形成姿勢で取り付けられている。このように薄膜形成スキージ昇降部222は、薄膜形成姿勢を維持したまま薄膜形成スキージ221を上下方向Zに移動自在に支持している。
【0042】
また、薄膜形成スキージ昇降部222は、薄膜形成スキージ221を上下方向Zに移動するための駆動源としてエアシリンダ222dを有している。エアシリンダ222dはピストン部222eをZ2方向に向けた状態でシリンダ支持部材222fによりヘッド本体20に固定されている。ピストン部222eは連結部材222gによってスキージ支持部材222cの上端部と連結されている。このため、
図4に示すように制御装置900からの指令に応じてエアシリンダ222dのピストン部222eが上方に収縮すると、薄膜形成スキージ221は薄膜形成姿勢のまま上方位置に位置決めされる。つまり、薄膜形成スキージ221は凹版Pから上方に離れた位置に移動する。そして、薄膜形成スキージ221の下端部221aが薄膜形成用の液切部15の上端部よりも高い位置に位置決めされる。逆に、制御装置900からの指令に応じてエアシリンダ222dのピストン部222eが下方に伸張すると、薄膜形成スキージ221は薄膜形成姿勢のまま下方位置に位置決めされる。
【0043】
一方、インク充填機構21は、インク充填用のインク充填スキージ211と、インク充填スキージ昇降部212とを有している。インク充填スキージ211は、
図4において下端部211aが斜め右下方向に延びる姿勢(以下「インク充填姿勢」という)でインク充填スキージ昇降部212によりヘッド本体20に対して上下方向Zに昇降される。なお、インク充填スキージ昇降部212は、薄膜形成スキージ昇降部222と同一構成を有している。このため、
図4に示すように制御装置900からの指令に応じてエアシリンダ212dのピストン部212eが下方に伸張すると、インク充填スキージ211はインク充填姿勢のまま下方位置に位置決めされる。より具体的には、後で説明する
図6および
図8で図示されるように、インク充填スキージ211は凹版Pの版面Paと接触するインク充填位置に位置決めされる。逆に、制御装置900からの指令に応じてエアシリンダ212dのピストン部212eが上方に収縮すると、インク充填スキージ211は凹版Pから上方に離れた位置に移動する。そして、インク充填スキージ211の下端部211aがインク充填用の液切部16の上端部よりも高い位置に位置決めされる。
【0044】
このように構成された印刷装置101、102では、制御装置900に予め記憶されたプログラムにしたがって制御装置900の演算処理部(図示省略)が印刷ヘッド2Hにおけるスキージの昇降および印刷ヘッド2Hに対するステージ11および液切部15、16のY方向への相対移動を制御する。これによって、インクパターンが凹版Pに形成される。また、凹版P上のインクパターンがブランケット32に受理された後で、ブランケット32からボトルBに転写される。これらのうちインクパターンの形成動作および受理動作については、以下のようにして実行される。
【0045】
図5はインクパターンの形成動作および受理動作を示すフローチャートである。
図6はインク供給動作および1回目のインク充填動作を模式的に示す図である。
図7は薄膜形成動作を模式的に示す図である。
図8は2回目以降のインク充填動作を模式的に示す図である。なお、
図6ないし
図8(および後で説明する
図9ないし
図11)においては、印刷ヘッド2Hの固定位置Phを破線にて明示している。
【0046】
各印刷装置101、102において印刷動作を開始する際には、凹版Pが載置されたステージ11はインク供給に適した位置に移動される。具体的には、平坦領域Pc1が印刷ヘッド2Hの直下位置に位置するようにステージ11が移動する。また、当該ステージ移動と同時あるいは前後して凹版Pの版面Paが上下方向Zにおいてインク充填高さ位置に位置するようにステージ11は下降される。そして、印刷ユニット2では、ステージ11の下降に同期してヘッド昇降部2Eが作動し、印刷ヘッド2Hをヘッド上昇位置からヘッド下降位置に下降させる。これにより、インク充填スキージ211、薄膜形成スキージ221およびインクノズル23の下端部は、上下方向Zにおいて液切部15、16の上端部よりも若干高い位置に揃う。それに続いて、
図6(a)中の矢印M11で示すように、インクが各インクノズル23から吐出されて版面Paに供給される(ステップS1)。これによりインク溜りIKaが版面Pa上に形成される。
【0047】
インク供給が完了すると、
図6(b)中の矢印M21で示すように、インク充填スキージ昇降部212によりインク充填用のインク充填スキージ211が下降され、インク充填スキージ211の下端部211aがインク溜りIKaのY1方向側で版面Paと当接する。
【0048】
こうしてインク充填準備が完了すると、
図6(c)中の矢印M22で示すように、ステージ11はY1方向に移動する。すなわち、インク充填スキージ211の下端部211aを版面Paに押圧した状態でインク充填スキージ211に対して凹版PがY1方向に相対移動されることで版面Pa上のインクが掻き取られるとともに版面Paに設けられる凹部領域Pbの凹部にインクが充填される。これによって、インクパターンが凹版Pに形成される(ステップS2:インク充填処理)。このように第1実施形態では、Y1方向が本発明の「インク充填方向」に相当している。
【0049】
インク充填処理後においては、従来技術と同様に、ステージ11をY1方向にさらに移動させる。そして、液切部16がインク充填スキージ211の下方を通過する際に、液切部16の上端部がインク充填スキージ211の下端部211aと摺接する。これによって、インクの糸引きが切断される。つまり、インク充填スキージ211の糸切りが実行される(ステップS3)。
【0050】
次に、受理処理に移行するために、印刷ヘッド2Hが上昇する。また、これと同期して、版面Paが受理高さ位置に位置するようにステージ11は上昇される。ここで、受理高さ位置とは、上下方向Zにおいてインクパターンがブランケット32の最下限位置と一致あるいは若干高い位置となり、ブランケット32への受理が実行可能となる版面Paの高さ位置を意味している。
【0051】
こうして、受理処理の準備が完了すると、ロール回転部33によりブランケットロール30の回転が開始されるとともに、それに同期してブランケットロール30の直下位置、つまり受理開始位置に向けてのステージ11の移動を開始する。そして、ステージ11のY1方向への移動により凹版Pが受理開始位置を通過する間に、インクパターンが版面Paからブランケット32に一次転写される(ステップS4:受理処理)。
【0052】
受理処理完了後において、継続して実行すべき印刷が存在している(ステップS5で「NO」)間、ブランケットロール30が受理したインクパターンのボトルBへの転写から独立して薄膜形成処理が実行される(ステップS6)。ステージ11は、受理高さ位置からインク充填高さ位置に下降するとともにY2方向に移動する。そして、版面PaのY2方向端部(以下「第1部位P1」という)が薄膜形成スキージ221の直下位置に位置すると、ステージ11の移動が停止される。一方、印刷ユニット2においては、ステージ11の下降に同期してヘッド昇降部2Eが作動し、印刷ヘッド2Hをヘッド上昇位置からヘッド下降位置に下降させる。
【0053】
ステージ11の移動停止後に、
図7(a)に示すように、薄膜形成スキージ昇降部222により薄膜形成スキージ221が下降され(矢印M61)、薄膜形成スキージ221の下端部221aが版面Paに向かって移動する。これと同時に、ステージ11がインク充填高さ位置から下方に微小量αだけ下降する(矢印M62)。これにより、凹版Pの版面Paと下端部221aとの間隔が所望の第1間隔d1に調整される。
【0054】
こうして薄膜形成準備が完了すると、
図7(b)中の矢印M63に示すように、ステージ11はY2方向に移動する。このY2方向移動は、凹部領域Pbが薄膜形成スキージ221の直下位置を通過し、平坦領域Pc1のY2方向端部(以下「第2部位P2」という)が薄膜形成スキージ221の直下位置に位置するまで実行される。すなわち、薄膜形成スキージ221の下端部221aを版面Paに近接した状態で薄膜形成スキージ221に対して凹版PがY2方向に相対移動されることで版面Pa上のインクを均して第1部位P1と第2部位P2との薄膜形成範囲でインクの薄膜を形成する。これによって、凹部領域Pbの凹部に残留するインクが乾燥固着するのが防止される。このように第1実施形態では、Y2方向が本発明の「薄膜形成方向」に相当している。
【0055】
本実施形態では、ここで薄膜形成処理を終了するのではなく、さらに以下の動作を追加実施している。すなわち、第2部位P2が薄膜形成スキージ221の下端部221aの直下位置に位置した時点で、
図7(b)中の矢印M64で示すように、ステージ11は第1間隔d1と同じまたは若干大きな量βだけ上昇する。これにより、薄膜形成スキージ221の下端部221aが平坦領域Pc1の版面Paに対して押し付けられる。つまり、薄膜形成スキージ221の下端部221aと版面Paとの間隔はゼロとなっている。この状態で、
図7(c)に示すように、ステージ11はさらにY2方向に移動する(矢印M65)。そして、平坦領域Pc1のY1方向端部(以下「第3部位P3」という)が薄膜形成スキージ221の直下位置に位置すると、ステージ11の移動が停止される。これにより、平坦領域Pc1のうち第2部位P2から第3部位P3までの範囲(本発明の「インク除去範囲」に相当)は、インクが存在しない部位、つまりインク不在部位NIとなる。
【0056】
こうして薄膜形成処理が完了すると、従来技術と同様に、ステージ11をY2方向にさらに移動させる。そして、液切部15が薄膜形成スキージ221の下方を通過する際に、液切部15の上端部が薄膜形成スキージ221の下端部221aと摺接する。これによって、インクの糸引きが切断される。つまり、薄膜形成スキージ221の糸切りが実行される(ステップS7)。なお、糸切り動作と並行して、薄膜形成スキージ221は上昇してインク充填スキージ211と同じ高さ位置に戻されるとともに、ステージ11は下降してインク充填位置に戻される。こうして、凹部領域Pbの凹部をインクの薄膜で覆いながら次の印刷まで待機する。
【0057】
次の印刷を実行可能となると、ステージ11のY1方向への移動が開始される(
図8(a)中の矢印M81)。そして、同図に示すように、インク不在部位NIがインク充填スキージ211の直下位置に位置すると、ステージ11の移動は停止される。それに続いて、矢印M82で示すように、インク充填スキージ昇降部212によりインク充填スキージ211が下降され、インク充填スキージ211の下端部211aがインク不在部位NIで版面Paと当接する。
【0058】
こうして2回目以降のインク充填準備が完了すると、
図8(b)中の矢印M83で示すように、ステージ11はY1方向に移動する。すなわち、インク充填スキージ211の下端部211aを版面Paに押圧した状態でインク充填スキージ211に対して凹版PがY1方向に相対移動される。このとき、インク充填スキージ211の下端部211aでは、Y2方向側の面がインク掻取面として機能する。つまり、当該Y2方向側の面が版面Pa上のインクを掻き取るとともに版面Paに設けられる凹部領域Pbの凹部にインクを充填する。これによって、インクパターンが凹版Pに形成される(ステップS8:2回目以降のインク充填処理)。なお、それ以降は、最初と同様に、インク充填スキージの糸切り(ステップS3)、インクパターンの受理処理(ステップS4)が繰り返される。
【0059】
上記した一連の動作が繰り返されてボトルBへの印刷が連続的に行われる。
【0060】
以上のように、第1実施形態では、
図7に示すように、薄膜形成処理において、凹版Pの凹部領域Pbにインクの薄膜を形成するだけではなく、当該処理中に凹版Pの版面Paと薄膜形成スキージ221の下端部221aとの間隔をアライメント駆動部12aにより第1間隔d1からゼロに調整する。この間隔調整により凹版Pの平坦領域Pc1の一部にインク不在部位NIを形成している。そして、2回目以降のインク充填処理においては、まずインク不在部位NIにインク充填スキージ211の下端部211aを当接させる。その後で、当接状態を維持したままステージ11をインク充填スキージ211に対してY1方向に相対的に移動する。これによって、インク充填スキージ211により薄膜が掻き取られ、凹部領域Pbの凹部にインクが充填される。したがって、インク充填スキージ211の下端部211aにおいて、上記インク掻取面(Y2方向側の面)と反対側のY1方向側の面に、インクが付着することはない。その結果、従来技術で問題となっていたインク筋の発生が防止され、高品質な印刷を行うことが可能となっている。
【0061】
ところで、上記第1実施形態では、Y1方向側にインク充填スキージ211を配置し、ステージ11をインク充填スキージ211に対してY1方向に相対的に移動することでインク充填処理を実行しているが、例えば
図9ないし
図11に示すように、インク充填スキージ211と薄膜形成スキージ221とを入れ替えて印刷を行う装置に対しても本発明を適用することができる(第2実施形態)。以下、
図9ないし
図11を参照しつつ第2実施形態について説明する。
【0062】
図9は本発明に係る印刷装置の第2実施形態におけるインク供給動作および1回目のインク充填動作を模式的に示す図である。
図10は第2実施形態における薄膜形成動作を模式的に示す図である。
図11は第2実施形態における2回目以降のインク充填動作を模式的に示す図である。なお、第2実施形態では、液切部15が省略されるとともに、インク充填スキージ211と薄膜形成スキージ221の配置替に伴って、インク充填用の液切部16がステージ11のY1方向側の端部に設けられている。また、Y1方向およびY2方向がそれぞれ本発明の「薄膜形成方向」および「インク充填方向」に相当している。なお、その他の構成は基本的に同一である。また、以下の詳述するようにインク不在部位NIの形成動作および位置が大きく相違している点を除き、基本的な動作は第1実施形態と同一である。したがって、同一構成については同一符号を付して構成の説明を省略する。
【0063】
第2実施形態においては、各印刷装置101、102において印刷動作を開始する際には、平坦領域Pc2が印刷ヘッド2Hの直下位置に位置するようにステージ11が移動する。また、当該ステージ移動と同時あるいは前後して凹版Pの版面Paが上下方向Zにおいてインク充填高さ位置に位置するようにステージ11は下降される。そして、印刷ユニット2では、ステージ11の下降に同期してヘッド昇降部2Eが作動し、印刷ヘッド2Hをヘッド上昇位置からヘッド下降位置に下降させる。これにより、インク充填スキージ211、薄膜形成スキージ221およびインクノズル23の下端部は、上下方向Zにおいて液切部15、16の上端部よりも若干高い位置に揃う。それに続いて、
図9(a)中の矢印M12で示すように、インクが各インクノズル23から吐出されて版面Paに供給される(ステップS1)。これによりインク溜りIKaが平坦領域Pc2の版面Pa上に形成される。
【0064】
インク供給が完了すると、
図9(b)中の矢印M24で示すように、インク充填スキージ昇降部212によりインク充填用のインク充填スキージ211が下降され、インク充填スキージ211の下端部211aがインク溜りIKaのY2方向側で版面Paと当接する。
【0065】
こうしてインク充填準備が完了すると、
図9(c)中の矢印M25で示すように、ステージ11はY2方向に移動する。すなわち、インク充填スキージ211の下端部211aを版面Paに押圧した状態でインク充填スキージ211に対して凹版PがY2方向に相対移動されることで版面Pa上のインクが掻き取られるとともに版面Paに設けられる凹部領域Pbの凹部にインクが充填される。これによって、インクパターンが凹版Pに形成される(ステップS2:インク充填処理)。このように第2実施形態では、Y2方向が本発明の「インク充填方向」に相当している。
【0066】
インク充填処理後においては、従来技術と同様に、ステージ11をY2方向にさらに移動させる。そして、液切部16がインク充填スキージ211の下方を通過する際に、液切部16の上端部がインク充填スキージ211の下端部211aと摺接する。これによって、インクの糸引きが切断される。つまり、インク充填スキージ211の糸切りが実行される(ステップS3)。
【0067】
次に、受理処理に移行するために、印刷ヘッド2Hが上昇する。また、これと同期して、版面Paが受理高さ位置に位置するようにステージ11は上昇される。これに続いて、ロール回転部33によりブランケットロール30の回転が開始されるとともに、それに同期してブランケットロール30の直下位置、つまり受理開始位置に向けてのステージ11の移動を開始する。そして、ステージ11のY1方向への移動により凹版Pが受理開始位置を通過する間に、インクパターンが版面Paからブランケット32に一次転写される(ステップS4:受理処理)。
【0068】
受理処理完了後において、継続して実行すべき印刷が存在している(ステップS5で「NO」)間、ブランケットロール30が受理したインクパターンのボトルBへの転写から独立して薄膜形成処理が実行される(ステップS6)。ステージ11は、受理高さ位置からインク充填高さ位置に下降するとともにY1方向に移動する。そして、平坦領域Pc1のうちインク溜りIKaが形成されているインク部位P4が薄膜形成スキージ221の直下位置に位置すると、ステージ11の移動が停止される。一方、印刷ユニット2においては、ステージ11の下降に同期してヘッド昇降部2Eが作動し、印刷ヘッド2Hをヘッド上昇位置からヘッド下降位置に下降させる。
【0069】
ステージ11の移動停止後に、
図10(a)に示すように、薄膜形成スキージ昇降部222により薄膜形成スキージ221が下降され(矢印M66)、薄膜形成スキージ221の下端部221aが版面Paに向かって移動する。これと同時に、ステージ11がインク充填高さ位置から下方に微小量αだけ下降する(矢印M67)。これにより、凹版Pの版面Paと下端部221aとの間隔が所望の第1間隔d1に調整される。
【0070】
こうして薄膜形成準備が完了すると、
図10(b)中の矢印M68で示すように、ステージ11はY1方向に移動する。このY1方向移動は、凹部領域Pbが薄膜形成スキージ221の直下位置を通過し、平坦領域Pc2の中間部位P5が薄膜形成スキージ221の直下位置に位置するまで実行される。すなわち、薄膜形成スキージ221の下端部221aを版面Paに近接した状態で薄膜形成スキージ221に対して凹版PがY1方向に相対移動されることで版面Pa上のインクを均してインク部位P4と中間部位P5との薄膜形成範囲でインクの薄膜を形成する。これによって、凹部領域Pbの凹部に残留するインクが乾燥固着するのが防止される。(ステップS7:薄膜形成処理)。また、
図10(b)中の部分拡大図に示すように、中間部位P5が薄膜形成スキージ221の下端部221aの直下に位置した時点で、ステージ11の移動が停止される。このため、インク溜りIKaのY1方向上流側にインク不在部位NIが形成される。このようにY1方向が本発明の「薄膜形成方向」に相当している。
【0071】
こうしてインク不在部位NIの形成を伴う薄膜形成処理が完了すると、第2実施形態では、薄膜形成スキージ221の糸切りを実行することなく、次の動作が実行される。すなわち、薄膜形成スキージ221は上昇してインク充填スキージ211と同じ高さ位置に戻されるとともに、ステージ11は下降してインク充填位置に戻される。こうして、凹部領域Pbの凹部をインクの薄膜で覆いながら次の印刷まで待機する。
【0072】
次の印刷を実行可能となると、ステージ11のY2方向への移動が開始される(
図11(a)中の矢印M84)。そして、同図に示すように、インク不在部位NIがインク充填スキージ211の直下位置に位置すると、ステージ11の移動は停止される。それに続いて、矢印M85で示すように、インク充填スキージ昇降部212によりインク充填スキージ211が下降され、インク充填スキージ211の下端部211aがインク不在部位NIで版面Paと当接する。
【0073】
こうして2回目以降のインク充填準備が完了すると、
図11(b)中の矢印M86で示すように、ステージ11はY2方向に移動する。すなわち、インク充填スキージ211の下端部211aを版面Paに押圧した状態でインク充填スキージ211に対して凹版PがY2方向に相対移動される。このとき、インク充填スキージ211の下端部211aでは、Y1方向側の面がインク掻取面として機能する。つまり、当該Y1方向側の面が版面Pa上のインクを掻き取るとともに版面Paに設けられる凹部領域Pbの凹部にインクを充填する。これによって、インクパターンが凹版Pに形成される(ステップS8:2回目以降のインク充填処理)。なお、それ以降は、最初と同様に、インク充填スキージの糸切り(ステップS3)、インクパターンの受理処理(ステップS4)が繰り返される。
【0074】
上記した一連の動作が繰り返されてボトルBへの印刷が連続的に行われる。
【0075】
以上のように、第2実施形態においても、
図10に示すように、薄膜形成処理において、凹版Pの凹部領域Pbにインクの薄膜を形成するだけではなく、凹版Pの平坦領域Pc2の一部にインク不在部位NIを形成している。そして、2回目以降のインク充填処理においては、まずインク不在部位NIにインク充填スキージ211の下端部211aを当接させる。その後で、当接状態を維持したままステージ11がインク充填スキージ211に対してY2方向に相対的に移動する。これによって、インク充填スキージ211により薄膜が掻き取られ、凹部領域Pbの凹部にインクが充填される。したがって、インク充填スキージ211の下端部211aにおいて、上記インク掻取面(Y1方向側の面)と反対側のY2方向側の面に、インクが付着することはない。その結果、従来技術で問題となっていたインク筋の発生が防止され、高品質な印刷を行うことが可能となっている。なお、第2実施形態においては薄膜形成スキージ221の糸切りを省略しているが、2回目以降のインク充填処理中に薄膜形成スキージ221に付着したインクが半面Pa上に落下したとしても、落下したインクをインク充填スキージ211により掻き取ることができるため、印刷品質に影響が出ることを防ぐことができる。第2実施形態においては糸切部15を省略できる分、装置の製造コストを下げることができる。
【0076】
上記した実施形態では、凹版Pが本発明の「印刷版」の一例に相当するとともに、版面Paが本発明の「印刷版の表面」の一例に相当し、インクパターンを形成するために設けられた凹部が本発明の「印刷パターンに対応する凹部」の一例に相当し、平坦領域Pc1、Pc2が本発明の「非パターン領域」に相当している。また、ステージ11が本発明の「保持部」の一例に相当している。また、ベース駆動部13aが本発明の「移動部」として機能している。アライメント駆動部12aが本発明の「間隔調整部」として機能している。また、ステップS6、S8がそれぞれ本発明の「薄膜形成工程」および「インク充填工程」の一例に相当している。また、液切部16が本発明の「インク充填スキージ用インク除去部材」の一例に相当している。なお、第1実施形態において、液切部15が本発明の「薄膜形成スキージ用インク除去部材」の一例に相当している。
【0077】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、X方向から見てインク充填スキージ211および薄膜形成スキージ221が略「ハ」字状に配置されているが、逆「ハ」字状に配置された印刷装置に対しても本発明を適用することができる。
【0078】
また、上記実施形態では、第1回目のインク充填動作の前にインクを版面Paに供給しているが、その後において適宜インク補充を行ってもよい。例えば薄膜形成処理中にインクノズル23からインクを版面Paに補充してもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、アライメント駆動部12aによりステージ11を昇降することで凹版Pの版面Paと薄膜形成スキージ221の下端部221aとの間隔を調整しているが、薄膜形成スキージ221の昇降により上記間隔を調整してもよい。この場合、薄膜形成スキージ昇降部222が本発明の「間隔調整部」として機能する。また、ステージ11および薄膜形成スキージ昇降部222の両方を移動させて上記間隔を調整してもよい。
【0080】
また、ボトルBにインクパターンを印刷する印刷装置に適用しているが、その他の立体基材ならびに平板基材(ガラス板、樹脂フィルム等)を被転写体とする凹版印刷技術にも本発明を適用することができる。また、上記実施形態では、平坦領域Pc1、Pc2において版Pの表面は凹凸の無い平面となっていたが、平坦領域Pc1、Pc2において版Pの表面に、印刷用のインクパターンを形成しない凹部が存在してもよい。
【0081】
また、本実施形態では、ブランケットロール30を中間転写体として使用した印刷装置に本発明を適用しているが、その他の凹版印刷装置に対しても本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
この発明は、凹版の版面上のインクを薄膜形成スキージにより薄膜状に均した後でインク充填スキージによって余分なインクを掻き取ってインクパターンを形成して印刷する印刷技術全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
2H…印刷ヘッド
11…ステージ(保持部)
12a…アライメント駆動部(間隔調整部)
13a…ベース駆動部(移動部)
15…液切部(薄膜形成スキージ用インク除去部材)
16…液切部(インク充填スキージ用インク除去部材)
23…インクノズル
101,102…印刷装置
211…インク充填スキージ
211a…(インク充填スキージの)…下端部
221…薄膜形成スキージ
221a…(薄膜形成スキージの)…下端部
NI…インク不在部位
P…凹版(印刷版)
P1…第1部位
P2…第2部位
P3…第3部位
P5…中間部位
Pa…版面(印刷版の表面)
Pb…凹部領域
Pc1,Pc2…平坦領域
Y…配列方向