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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144429
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】消費財の劣化臭判定用指標物質
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20220926BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220926BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20220926BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
A23L27/20 G
A23L5/00 Z
A23L27/00 101Z
A23L2/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045442
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】冨田 健介
(72)【発明者】
【氏名】杉山 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【テーマコード(参考)】
4B035
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LG04
4B035LP59
4B047LB08
4B047LF07
4B047LG20
4B117LC03
4B117LK08
4B117LK12
4B117LK16
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】ビタミンCを含有する消費財の劣化臭判定用指標物質を提供する。
【解決手段】ビタミンCを含有する消費財の劣化臭判定用指標物質であって、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを含む、消費財の劣化臭判定用指標物質。1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを含む、ビタミンCの疑似劣化臭組成物、当該ビタミンCの疑似劣化臭組成物において、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンをさらに含む、ビタミンCの疑似劣化臭組成物。ビタミンCを含有する消費財の劣化臭判定方法であって、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを含む物質を指標とする、消費財の劣化臭判定方法。ビタミンCを含有する消費財の劣化臭評価方法であって、(a)消費財中の1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを定量する工程、を含む、消費財の劣化臭評価方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンCを含有する消費財の劣化臭判定用指標物質であって、
1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを含む、消費財の劣化臭判定用指標物質。
【請求項2】
1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを含む、ビタミンCの疑似劣化臭組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のビタミンCの疑似劣化臭組成物において、
4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンをさらに含む、ビタミンCの疑似劣化臭組成物。
【請求項4】
ビタミンCを含有する消費財の劣化臭判定方法であって、
1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを含む物質を指標とする、消費財の劣化臭判定方法。
【請求項5】
ビタミンCを含有する消費財の劣化臭評価方法であって、
(a)前記消費財中の1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを定量する工程、
を含む、消費財の劣化臭評価方法。
【請求項6】
請求項5に記載の劣化臭評価方法において、
(b)前記消費財中の4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンを定量する工程、
を含む、消費財の劣化臭評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消費財の劣化臭を判定するための指標物質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲食品、香粧品、医薬品、保健衛生品など様々な物品(以下、消費財という場合がある。)は、消費者の健康志向に伴い、ビタミン類などの成分を含むものが訴求力を高めている。なかでもビタミンCが添加された飲食品はその代表例である。
【0003】
しかしながら、ビタミンCは光および/または熱により劣化しやすいため、ビタミンCを含む消費財は、例えば製造時の加熱殺菌、保管時および販売時の光照射、加温などにより品質の低下を招きかねない。特に、ビタミンCはその劣化により劣化臭を生じることが知られている(特許文献1)。そのため、ビタミンCの劣化自体はわずかであっても、生じる劣化臭による消費財の香気変化は、消費者に対する影響が大きい。
【0004】
従来、ビタミンCが劣化した際に生じる化合物として、フルフラール、2-フロ酸(フラン-2-カルボン酸)、3-ヒドロキシピラン-2-オン(3-ヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン)などが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-30512号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Agricultural and Food Chemistry, 1998, 46, 5078-5082
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および非特許文献1には、劣化臭の原因となる物質が何であるかについては記載されておらず、ましてやその物質の劣化臭に対する寄与度は記載されていない。そのため、ビタミンCを含有する消費財から発生する劣化臭を定量的に判定することは困難であった。
【0008】
以上より、本発明の課題は、ビタミンCを含有する消費財の劣化臭判定用指標物質およびビタミンCの疑似劣化臭組成物、消費財の劣化臭判定方法、消費財の劣化臭評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ビタミンCを含有する消費財から香気未知の成分を発見し、かつ、その成分が劣化臭に大きく寄与することを見出し、本願に係る発明を完成するに至った。
【0010】
かくして、本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
【0011】
[1] ビタミンCを含有する消費財の劣化臭判定用指標物質であって、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを含む、消費財の劣化臭判定用指標物質。
[2] 1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを含む、ビタミンCの疑似劣化臭組成物。
[3] [2]に記載のビタミンCの疑似劣化臭組成物において、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンをさらに含む、ビタミンCの疑似劣化臭組成物。
[4] ビタミンCを含有する消費財の劣化臭判定方法であって、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを含む物質を指標とする、消費財の劣化臭判定方法。
[5] ビタミンCを含有する消費財の劣化臭評価方法であって、(a)前記消費財中の1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを定量する工程、を含む、消費財の劣化臭評価方法。
[6] [5]に記載の劣化臭評価方法において、(b)前記消費財中の4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンを定量する工程、を含む、消費財の劣化臭評価方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ビタミンCを含有する消費財の劣化臭判定用指標物質およびビタミンCの疑似劣化臭組成物、消費財の劣化臭判定方法、消費財の劣化臭評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1において、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンの生成量の保管条件ごとの違いをまとめたグラフである。
図2】実施例1において、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンの生成量の保管条件ごとの違いをまとめたグラフである。
図3】実施例1において、ビタミンC残存率の保管条件ごとの違いをまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について、詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、「濃度(ppm,ppb)」、「%」は特に断りのない限りそれぞれ「質量濃度」、「質量パーセント濃度」を表すものとする。また、本明細書において、「香味」とは、香気(香り)によって変化し得る1種または複数種の感覚、代表的には嗅覚および/または味覚を含む感覚を意味する。本明細書において、用語「香味付与(香味を付与する)」とは、香味を新たに加える、および/または、香味を増強することを含み、例えば、香味を付与乃至増強した結果、香味が改善されるものを含んでいる。さらには、香味付与の結果、嗅覚および/または味覚以外の感覚、例えば、冷感、温感、質感(のど越し、固さ、粘度など、テクスチャともいう)、炭酸や辛さなどの刺激感、などを増強、抑制、または改善するものであってもよい。また、本明細書において、飲食品の香味を風味と呼ぶこともある。また、本明細書において、「添加」とは、ある対象に噴霧、滴下などによって単に加えること、およびある対象と混ぜ合わせることの、少なくとも1つを含む。また、本明細書において、例えば「本件香味付与組成物または本件香料組成物を含有する」という場合は、特に断りがない限り、本件香味付与組成物または本件香料組成物のいずれか1つを含有する場合だけでなく、本件香味付与組成物および本件香料組成物の両方を含有する場合も含むものとする。
【0015】
(劣化臭判定用指標物質)
本発明の一実施の形態に係る劣化臭判定用指標物質は、下記式(1)で表される1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オン[1,3-di(furan-2-yl)propan-1-one](以下、本件化合物という。)を含む。
【0016】
【化1】
【0017】
本件化合物は、米国特許第2532279号明細書によれば、フルフラ-ルアセトフランの水素化反応の一生成物として記載されているが、ビタミンCを含有する消費財から検出されたことはなかった。さらに、本件化合物はその香気について一切知られていなかった。
【0018】
この点、本発明者らは、鋭意研究を行った結果、ビタミンCを含有する消費財を光および/または熱により劣化させたところ、当該消費財の劣化臭の一成分として本件化合物を見出した。また、本発明者らは、本件化合物がシロップ様、バルサム様な香気を有することを確認した。また、本発明者らは、後述の実施例1に示すように、におい嗅ぎガスクロマトグラフィー(以下、GC-Oという。)を利用したアロマエキストラクトダイリューションアナリシス(以下、AEDAという。)により、本件化合物の当該劣化臭に対する貢献度の高さを確認したところ、非特許文献1に記載されたフルフラール、3-ヒドロキシピラン-2-オン(3-ヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン)等よりも約10倍貢献度が高いことを確認した。かくして、本発明者らは、本件化合物は、ビタミンCを含有する消費財の劣化臭判定用指標物質として有用であることを見出した。
【0019】
本件化合物は、一般的な方法で入手することができ、例えば、前述の米国特許第2532279号明細書に基づいて合成することができる。また、以上の合成方法により得られた本件化合物は、さらに必要に応じてカラムクロマトグラフィまたは減圧蒸留などの手段を用いて精製してもよい。
【0020】
また、本件化合物を劣化臭判定用指標物質として使用する場合、本件化合物を単体として使用してもよいし、他の成分、例えば溶解又は希釈のための溶剤や、安定剤、酸化防止剤、香料、植物抽出物等の添加剤を配合し、保存や判定試験での使用等の実用に即した組成物に調製して使用してもよい。
【0021】
本件化合物を劣化臭判定用指標物質として使用するには、消費財に含まれる本件化合物を定性的または定量的に検出・測定すればよい。検出装置としては、ガスクロマトグラフィー(GC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等が挙げられる。また、本件化合物を官能評価により検出してもよい。これらの具体的な方法は、後述の劣化臭判定方法および劣化臭評価方法で説明する。
【0022】
以上のように、本件化合物は、ビタミンCを含む消費財の劣化臭判定用指標物質として非常に有用である。
【0023】
(疑似劣化臭組成物)
本発明の一実施の形態に係るビタミンCの疑似劣化臭組成物は、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オン(本件化合物)を含む。前述した通り、本件化合物は、従来、ビタミンCの劣化臭を構成する成分として知られていたフルフラール、3-ヒドロキシピラン-2-オン等よりも劣化臭に対する貢献度が約10倍高い。そのため、本件化合物自体、または本件化合物を適宜希釈したものを疑似劣化臭組成物として使用することができる。
【0024】
本実施の形態に係る疑似劣化臭組成物は、種々の用途に適用することができるが、好ましい例として、ビタミンC劣化臭のマスキング効果の評価に使用することができる。本実施の形態に係る擬似劣化臭組成物を使用することにより、ビタミンCの劣化臭を精度良く再現することができるため、ビタミンC劣化臭マスキング剤のスクリーニングやマスキング効果の評価を正確かつ再現性よく行うことができる。
【0025】
さらに、本実施の形態の疑似劣化臭組成物は、本件化合物に加えて、前述した既知の劣化臭構成成分を所定の比率で混合することで、さらに良好に劣化臭を再現でき、官能評価などにおける劣化臭判定のために好適に利用することができる。すなわち、本実施の形態の擬似劣化臭組成物は、本件化合物に加え、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン[4-hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanone]、フルフラール、2-フロ酸、3-ヒドロキシピラン-2-オンから選ばれる1以上の成分を含んでいてもよい。こうすることで、本実施の形態の疑似劣化臭組成物を、実際に発生するビタミンC由来の劣化臭により近づけることができる。
【0026】
また、後述の実施例1に示すように、本発明者らは、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンのビタミンC劣化臭に対する貢献度が、フルフラールおよび3-ヒドロキシピラン-2-オンよりも約10倍高く、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンと同程度であることを確認している。
【0027】
そのため、本実施の形態に係る疑似劣化臭組成物は、本件化合物に加え、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンを含んでいることが好ましい。ビタミンC劣化臭に対する貢献度が他の物質よりも高い本件化合物と4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンとの両方を定量することで、ビタミンC含有飲料のpHの違いによる劣化臭に対する影響を適切に評価することができる。
【0028】
なお、本実施の形態に係る疑似劣化臭組成物が、本件化合物に加え4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンを含む場合、本件化合物(成分(a)とする)と4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン(成分(b)とする)との含有量の比率は特に限定されるものではないが、後述の実施例に示すように、成分(a)に対する成分(b)の質量比[(b)/(a)]は、2~60とすることが好ましい。
【0029】
(劣化臭判定方法)
本発明の一実施の形態に係る消費財の劣化臭判定方法は、ビタミンCを含有する消費財の劣化臭判定方法であって、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オン(本件化合物)を含む物質を指標とする。前述したとおり、本件化合物はビタミンCの劣化臭に対する貢献度が非常に高いことから、本件化合物を指標とすることで、ビタミンCを含有する消費財の劣化臭を精度良く判定することができる。
【0030】
本実施の形態に係る消費財の劣化臭判定方法にあっては、本件化合物を定量する工程は必須ではなく、本件化合物を任意の方法で検出できればよい。例えば、GCを用いる場合には、本件化合物の保持時間を予め測定した上で、判定対象の消費財を分析し本件化合物を検出する方法(内部標準法または標準添加法など)、または、よく訓練されたパネリストにより、GC-Oによって本件化合物を検出する方法が挙げられる。また、よく訓練されたパネリストにより、判定対象の消費財を官能評価することによって、本件化合物を検出する方法もある。
【0031】
本実施の形態に係る消費財の劣化臭判定方法にあっては、本件化合物を単体として使用するか、又は他の成分、例えば溶解又は希釈のための溶剤や、安定剤、酸化防止剤、香料、植物抽出物等の添加剤を配合し、保存や判定試験での使用等の実用に即した組成物に調製して用いることができる。
【0032】
(劣化臭評価方法)
本発明の一実施の形態に係る消費財の劣化臭評価方法は、ビタミンCを含有する消費財の劣化臭評価方法であって、(a)前記消費財中の1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オン(本件化合物)を定量する工程、を含む。前述したとおり、本件化合物はビタミンCの劣化臭に対する貢献度が非常に高いことから、本件化合物を指標とし、かつ、消費財中の本件化合物を定量することで、ビタミンCを含有する消費財の劣化臭を精度良く評価することができる。また、後述の実施例に示すように、ビタミンCを含有する消費財中の本件化合物の含有量は、ビタミンCの劣化に伴い増加することが明らかであるため、消費財中の本件化合物を定量することで、ビタミンCを含有する消費財のビタミンC劣化度を精度良く評価することができる。
【0033】
本実施の形態に係る消費財の劣化臭評価方法にあっては、本件化合物の定量方法は任意である。例えば、GC-MSで測定する場合には、本件化合物を標準物質(スタンダード)として検量線を作成し、その検量線を使用して、消費財に含まれる本件化合物のピークを同定し、その量を測定すればよい。また、本件化合物の定量方法として、官能評価を用いる場合には、本件化合物を数段階に希釈して各濃度の劣化臭標準サンプルを調製し、消費財から調製した評価サンプルの臭気を標準サンプルと照合し、消費財に含まれる本件化合物の量を官能評価により判定すればよい。以上のように、本実施の形態に係る劣化臭評価方法にあっては、本件化合物を機器分析または官能評価のいずれで定量する場合でも、客観性の高い定量的判定が可能である。
【0034】
消費財の劣化臭を評価する方法においては、本件化合物を単体として使用するか、又は他の成分、例えば溶解又は希釈のための溶剤や、安定剤、酸化防止剤、香料、植物抽出物等の添加剤を配合し、保存や判定試験での使用等の実用に即した組成物に調製して用いることができる。
【0035】
また、本実施の形態に係る消費財の劣化臭評価方法は、さらに、(b)前記消費財中の4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンを定量する工程、を含む。前述したように、ビタミンC劣化臭に対する貢献度が他の物質よりも高い本件化合物と4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンとの両方を定量することで、ビタミンC含有飲料のpHの違いによる劣化臭に対する影響を適切に評価することができる。
【0036】
なお、本実施の形態に係る消費財の劣化臭評価方法において、本件化合物の定量と4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンの定量との順序は問わず、本件化合物と4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンとを同時に定量してもよい。
【0037】
(劣化臭マスキング剤の探索方法)
本発明の一実施の形態に係る劣化臭マスキング剤の探索方法は、ビタミンCを含有する消費財の劣化臭マスキング剤の探索方法であって、(a)1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オン(本件化合物)を含む劣化臭標準サンプルを調製する工程、(b)劣化臭マスキング剤の候補を前記劣化臭標準サンプルに添加し評価サンプルを調製する工程、(c)前記評価サンプルと、前記劣化臭マスキング剤の候補を添加していない前記劣化臭標準サンプルとをそれぞれ官能評価して、前記劣化臭マスキング剤の候補のマスキング効果を判定する工程、を含む。
【0038】
前述したように、本件化合物はビタミンCの劣化臭に対する貢献度が非常に高いことから、本件化合物を用いたビタミンCの劣化臭マスキング剤の探索方法は、効率面、コスト面等から非常に有益である。
【0039】
(ビタミンCを含む消費財)
本実施の形態に係る劣化臭判定用指標物質および疑似劣化臭組成物、劣化臭判定方法、劣化臭評価方法、マスキング剤の探索方法において対象としているビタミンCを含む消費財について、以下説明する。
【0040】
一般に、ビタミンCは、L-アスコルビン酸((R)-3,4-ジヒドロキシ-5-((S)-1,2-ジヒドロキシエチル)フラン-2(5H)-オン)の通称であるが、本明細書において「ビタミンC」という場合には、その光学異性体も含めたアスコルビン酸を指すものとする。その理由として、本発明者らは、アスコルビン酸を含む消費財の劣化臭としても、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オン(本件化合物)が含まれることを確認したためである。
【0041】
また、ビタミンCを含む消費財から劣化臭が発生する条件も特に限定されないが、主に光や熱によって劣化することを確認している。
【0042】
本実施の形態において、ビタミンCを含有する消費財としては特に限定されないが、飲食品、香粧品、医薬品、または保健衛生品などを例示でき、飲食品が好ましく、飲料がより好ましい。
【0043】
ビタミンCを含む飲食品は特に限定されないが、例として、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑などの各種柑橘風味;ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、ピーチ、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー、グレープ、マスカット、巨峰などの各種フルーツ風味;ミルク、ヨーグルト、バターなどの乳風味;バニラ風味;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティーなどの各種茶風味;コーヒー風味;コーラ風味;カカオ風味;ココア風味;スペアミント、ペパーミントなどの各種ミント風味;シナモン、カモミール、カルダモン、キャラウェイ、クミン、クローブ、コショウ、コリアンダー、サンショウ、シソ、ショウガ、スターアニス、タイム、トウガラシ、ナツメグ、バジル、マジョラム、ローズマリー、ローレル、ガーリック、ワサビなどの各種スパイスまたはハーブ風味;アーモンド、カシューナッツ、クルミなどの各種ナッツ風味;ワイン、ブランデー、ウイスキー、ラム、ジン、リキュール、日本酒、焼酎、ビールなどの各種酒類風味;タマネギ、セロリ、ニンジン、トマト、キュウリなどの野菜風味;鶏肉、鴨肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの各種畜肉風味;マグロなどの赤身魚、サバ、タイ、サケ、アジなどの白身魚、アユ、マス、コイなどの淡水魚、サザエ、ハマグリ、アサリ、シジミなどの貝類、エビ、カニなどの各種甲殻類、ワカメ、昆布などの各種海藻類、などの各種魚介や海藻風味;米、大麦、小麦、麦芽などの麦類などの各種穀物風味;牛脂、鶏油、ラードなどの畜肉の油脂や各種魚類の油などの各種油脂風味;などの風味の1以上を有する飲食品が挙げられる。すなわち、上記風味の1種類のみを感じさせる飲食品でもよく、2種類以上の風味を感じさせる飲食品でもよく、その複数種類の風味が同類であっても異類であってもよく、例えば、前者の例としてフルーツ風味のうちバナナ、ピーチおよびアップル風味など複数のフルーツ風味を感じさせる(いわゆるミックスフルーツ風味)が挙げられ、後者の例として、レモンなどの柑橘風味および乳風味を感じさせるもの(シトラス風味の乳酸菌飲料など)や、ミント風味や柑橘風味およびコーラ風味を感じさせるもの(ミントまたはレモンフレーバーのコーラ飲料など)が挙げられる。
【0044】
より具体的な飲食品例としては、せんべい、あられ、おこし、餅類、饅頭、ういろう、あん類、羊かん、水羊かん、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、ビスケット、クラッカー、ポテトチップス、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディー、ピーナッツペーストなどのペースト類、などの菓子類;パン、うどん、ラーメン、中華麺、すし、五目飯、チャーハン、ピラフ、餃子の皮、シューマイの皮、お好み焼き、たこ焼き、などのパン類、麺類、ご飯類;糠漬け、梅干、福神漬け、べったら漬け、千枚漬け、らっきょう、味噌漬け、たくあん漬け、および、それらの漬物の素、などの漬物類;サバ、イワシ、サンマ、サケ、マグロ、カツオ、クジラ、カレイ、イカナゴ、アユなどの魚類、スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなどのイカ類、マダコ、イイダコなどのタコ類、クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ブラックタイガーなどのエビ類、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニなどのカニ類、アサリ、ハマグリ、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、などの魚介類;缶詰、煮魚、佃煮、すり身、水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、あげ蒲鉾、カニ足蒲鉾など)、フライ、天ぷら、などの魚介類の加工飲食物類;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉類;カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハヤシライスソース、ミートソース、マーボ豆腐、ハンバーグ、餃子、釜飯の素、スープ類(コーンスープ、トマトスープ、コンソメスープなど)、肉団子、角煮、畜肉缶詰などの畜肉を用いた加工飲食物類;卓上塩、調味塩、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、めんつゆ(昆布だしまたは鰹だしなど)、ソース(中濃ソース、トマトソースなど)、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素(昆布だしまたは鰹だしなど)、複合調味料、新みりん、唐揚げ粉・たこ焼き粉などのミックス粉、などの調味料類、これらの調味料類が添加された動物性または植物性だし風味飲食品;チーズ、ヨーグルト、バターなどの乳製品;ビール酵母、パン酵母などの各種酵母、乳酸菌など各種微生物発酵品;野菜の煮物、筑前煮、おでん、鍋物などの煮物類;持ち帰り弁当の具や惣菜類;リンゴ、ぶどう、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)などの果物の果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果物の果肉飲料や果粒入り果実飲料;トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープなどの野菜含有飲食品;コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、烏龍茶、清涼飲料、コーラ飲料、炭酸飲料(柑橘香味など各種香味のサイダーなど)、乳酸菌飲料などの嗜好飲料品;生薬やハーブを含む飲料;コーラ飲料、果汁飲料、乳飲料、ノンアルコールビールやいわゆる「第三のビール」などを含むビールテイスト飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料などの機能性飲料;各種酒類(ビール風味、梅酒風味、チューハイ風味など)風味のアルコールテースト飲料などのノンアルコール嗜好飲料類;ワイン、焼酎、泡盛、清酒、ビール、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒その他醸造酒(発泡性)またはリキュール(発泡性)など、またはこれらを含むアルコール飲料類;などを挙げることができる。
【0045】
ビタミンCを含む香粧品は特に限定されないが、例として、オーデコロン、オードトワレ、オードパルファム、パルファムなどの香水類;シャンプー、リンス、整髪料(ヘアクリーム、ポマードなど)などのヘアケア製品;ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤などの化粧品類;制汗スプレー、デオドラントシート、デオドラントクリーム、デオドラントスティックなどのデオドラント製品;無機塩類系、清涼系、炭酸ガス系、スキンケア系、酵素系、生薬系などの入浴剤;サンタン製品、サンスクリーン製品などの日焼け化粧品類;フェイス用石鹸や洗顔クリームなどの洗顔料、ボディ用石鹸やボディソープ、洗濯用石鹸、洗濯用洗剤、消毒用洗剤、防臭洗剤、柔軟剤、台所用洗剤、清掃用洗剤などの保健・衛生用洗剤類;歯みがき、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなどの保健・衛生材料類;室内や車内などの芳香消臭剤、ルームフレグランスなどの芳香製品;などを挙げることができる。
【0046】
本実施の形態において、消費財に含まれるビタミンCの含有量は特に限定されるものではないが、例えば、消費財中のビタミンCの濃度は、消費財の全体質量に対して、1ppm~10%、好ましくは10ppm~1%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を1ppm、10ppm、100ppm、0.1%、1%のいずれかとし、上限値を10%、1%、0.1%、100ppm、10ppmのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。
【0047】
なお、ビタミンCを含む消費財としては、ビタミンCを含む飲料が好ましい例として挙げられ、以下で説明するビタミンC強化飲料がより好ましい例として挙げられる。ビタミンC強化飲料とは、健康増進法第31条第1項の規定に基づく厚生労働省の告示である栄養表示基準に記載の「含む旨の表示」について遵守すべき事項に示された内容を遵守したものであり、具体的には飲料100mLあたり6mg(約60ppm)以上のビタミンCを含有したものである。ビタミンC強化飲料において、飲料100mLあたり1000mg(約1%)がビタミンCの上限値として挙げられ、好ましいビタミンCの含有量の範囲は、飲料100mLあたり100mg(約0.1%)以上1000mg(約1%)以下である。ビタミンCの定量に関しては、HPLCなど任意の方法で行えばよい。
【実施例0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]ビタミンC含有飲料の劣化臭分析
以下、ビタミンC含有消費財の一例として、ビタミンC含有飲料の劣化臭分析結果について説明する。
【0050】
表1の処方により、ビタミンCを含有する飲料(以下、ビタミンC含有飲料)を調製した。ビタミンC含有飲料を100mL缶に充填し、巻き締めて封緘し、ビタミンC缶詰飲料を製造した。
【0051】
【表1】
【0052】
当該ビタミンC缶詰飲料を(1)冷蔵(4℃)で1週間保管(以下、冷蔵保管品(対照品)という。)、(2)常温(20~28℃)で1週間保管(以下、常温保管品という。)、(3)60℃で1週間保管(以下、60℃1週間保管品という。)、(4)60℃で2週間保管(以下、60℃2週間保管品という。)の4つの条件でそれぞれ保管した(以下、まとめてビタミンC缶詰飲料の各保管品という。)。
【0053】
また、表1の処方からビタミンCのみを除いて調製した飲料(ビタミンC非含有飲料)を調製した。ビタミンC非含有飲料を100mL缶に充填し、巻き締めて封緘し、ビタミンC非含有缶詰飲料を製造した。当該ビタミンC非含有缶詰飲料を上記ビタミンC缶詰飲料と同じ(1)~(4)の4つの条件でそれぞれ保管した(以下、まとめてビタミンC非含有缶詰飲料の各保管品という。)。
【0054】
以上の工程で準備したビタミンC缶詰飲料およびビタミンC非含有缶詰飲料の各保管品を以下実施例1-1および実施例1-2に供した。
【0055】
[実施例1-1]ビタミンC劣化臭原因物質の香気貢献度測定
ビタミンC缶詰飲料の60℃2週間保管品100gに対し、ジエチルエーテルを50mL用いて溶剤抽出を行った。次いで、抽出液から常圧条件下で有機溶剤を留去することで調製した濃縮物を用い、5名のよく訓練されたパネリスト(経験年数10年以上)によるAEDAにより香気貢献度を評価した。評価結果を表2に示す。表2中、FD(Flavor Dilution)値とは、評価対象をその倍率に希釈した際に、パネリストが評価対象のにおいを感じられないと判断した倍率を意味する。すなわち、FD値が高い成分ほど評価対象の香気に寄与していることを意味する。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示すように、以上の1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オン(本件化合物)を含む。前述した通り、本件化合物は、従来、ビタミンCの劣化臭を構成する成分として知られていたフルフラール、3-ヒドロキシピラン-2-オンよりも劣化臭に対する貢献度が約10倍高い。
【0058】
また、表2に示すように、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンのビタミンC劣化臭に対する貢献度が、フルフラール、3-ヒドロキシピラン-2-オンよりも約10倍高く、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンと同程度であることがわかった。
【0059】
[実施例1-2]ビタミンC劣化臭原因物質の定量分析
ビタミンC缶詰飲料の各保管品について、内部標準物質として2-クロロフェノールを用い、内部標準法で、以下に示すGC分析条件にて、3-ヒドロキシピラン-2-オン、フルフラール、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンの定量分析を行った。
【0060】
<GC測定方法>
測定は、GC/MS(装置名:GC7890A/MSD5975C、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて行った。なお、GC/MSの分析条件は、以下の通りとした。
(GC条件)
GC/MS測定用GCカラム:ジーエルサイエンス社製InertCap-WAX(長さ60m、内径0.25mm、液層膜厚0.25μm)
昇温条件:40℃~230℃、5.0℃/min昇温、20minのホールド
カラム流量:1.0mL/分
(MS条件)
電気イオン化(EI)法、70eV
スキャンレンジ:50~300
また、ビタミンCについては、以下に示すHPLC分析条件にて、定量分析を行った。
【0061】
<HPLC測定方法>
測定は、HPLC/PDA(装置名:Prominence/SPD-M20A、株式会社島津製作所製)により行った。
(HPLC条件)
カラム:Shodex Asahipak NH2P-50 4E (4.6 mmI.D. × 250 mm)
移動相:20mM NaH2PO4 + 30mM H3PO4 aq./CH3CN=20/80
流量:1.0mL/分
(検出器)
検出波長:254nm
【0062】
分析結果を表3に示す。なお、表3中、ビタミンC残存率とは、ビタミンC缶詰飲料の冷蔵保管品(対照品)のビタミンC含有量を100%(基準)として、算出した含有率を意味する。また、表3の結果のうち、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンの生成量の保管条件ごとの違いをまとめたグラフを図1に、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンの生成量の保管条件ごとの違いをまとめたグラフを図2に、ビタミンC残存率の保管条件ごとの違いをまとめたグラフを図3に、それぞれ示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示すように、従来、ビタミンCが劣化した際に生じる化合物として知られていた3-ヒドロキシピラン-2-オン、フルフラール、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンとともに、ビタミンCが劣化した際に生じる化合物としては知られていなかった1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンが60℃1週間保管品および60℃2週間保管品から検出された。また、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンは、3-ヒドロキシピラン-2-オン、フルフラールおよび4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンと同様に、60℃1週間保管品よりも60℃2週間保管品の方が、多く生成していた。そして、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンは、3-ヒドロキシピラン-2-オン、フルフラールおよび4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンと同様に、ビタミンC含有飲料のうち冷蔵保管品および常温保管品、ならびにビタミンC非含有飲料からはほとんど検出されなかった。
【0065】
以上のことから、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンは、ビタミンCが劣化した際に生じる化合物であると判断された。
【0066】
[実施例2]本件化合物の官能評価
実施例1においてビタミンC含有飲料から検出された各化合物の劣化臭に対する寄与度を確認するため、実施例1のビタミンC非含有飲料に、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンを、ビタミンC非含有飲料中の濃度が下記表4に示す濃度になるように添加し、実施例2-1~2-5の飲料を調製した。また、3-ヒドロキシピラン-2-オン、フルフラール、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンを、ビタミンC非含有飲料中の濃度が下記表4に示す濃度になるように添加し、比較例2-1~2-7の飲料を調製した。
【0067】
得られた実施例2-1~2-5および比較例2-1~2-7の飲料について、15名のよく訓練されたパネリスト(経験年数10年以上)による官能評価を行った。官能評価は、上記各化合物を添加していないビタミンC非含有飲料を対照品として、実施例2-1~2-5および比較例2-1~2-7を対照品と比べた際の香味の違いについてパネリストにコメントさせるとともに、対照品と比べた劣化臭強度について下記評価基準にしたがいパネリストが点数付けしたものを平均することにより行った。
【0068】
<劣化臭強度に関する評価基準>
対照品に比べて劣化臭を著しく感じる:4
対照品に比べて劣化臭をはっきりと感じる:3
対照品に比べて劣化臭をわずかに感じる:2
対照品に比べて劣化臭をごくわずかであるが感じる:1
対照品と同等である:0
【0069】
官能評価の結果を下記表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4に示すように、実施例2-1~2-5によれば、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンは、3ppb以上の濃度で劣化臭として認識されることがわかった。また、実施例2-1~2-5と比較例2-1~2-7とを比較すると、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンは、従来ビタミンCの劣化臭の原因と考えられていた3-ヒドロキシピラン-2-オン、フルフラールおよび4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンに比べて劣化臭に対する寄与度が大きいことがわかった。
【0072】
また、表4に示すように、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンの香調は、シロップ様、バルサム様であり、3-ヒドロキシピラン-2-オン、フルフラールおよび4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンの香調(黒糖様、カラメル様、シュガー様)と比べて区別しやすく特徴的であることがわかった。
【0073】
以上の点から、1,3-ジ(フラン-2-イル)プロパン-1-オンは、劣化臭判定様指標物質として優れていることがわかった。
図1
図2
図3