(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144461
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】軸受異常診断システム
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20220926BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20220926BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20220926BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20220926BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/38
F16C19/16
B64C27/08
B64C39/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045493
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】小池 孝誌
(72)【発明者】
【氏名】福島 靖之
【テーマコード(参考)】
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
3J217JA02
3J217JA16
3J217JA23
3J217JA32
3J217JA47
3J217JB25
3J217JB88
3J701AA03
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA77
3J701FA26
3J701FA33
3J701FA48
3J701GA57
(57)【要約】
【課題】使用中も軸受の異常を容易に判定可能で、かつ軸受が適用される装置への着脱が容易になる軸受異常診断システムを提供する。
【解決手段】軸受異常診断システム(1)において、軸受(3)と、軸受(3)の回転側部材(15)に取り付けられた回転検出用の被検出部材(5)と、軸受(3)および被検出部材(5)から離間し、かつ被検出部材(5)に対向するように設けられたセンサユニット(11)であって、被検出部材(5)の回転,温度を検出する回転検出部(7),温度検出部(9)を有するセンサユニット(11)と、センサユニット(11)の出力に基づいて軸受(3)の異常の有無を判定する異常診断装置(13)であって、基準温度値が格納される設定部(43)と、温度検出部(9)によって検出した温度検出値と基準温度値とを比較することにより軸受(3)の異常の有無を判定する判定部(45)とを有する異常診断装置(13)と、を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転側部材、固定側部材および前記回転側部材と前記固定側部材との間に介在する転動体を有する軸受と、
前記軸受の前記回転側部材に取り付けられた回転検出用の被検出部材と、
前記軸受および前記被検出部材から離間し、かつ、前記被検出部材に対向するように設けられたセンサユニットであって、
前記被検出部材の回転を検出する回転検出部と、
前記被検出部の温度を検出する温度検出部と、
を有するセンサユニットと、
前記センサユニットの出力に基づいて前記軸受の異常の有無を判定する異常診断装置であって、
予め設定された基準温度値が格納される設定部と、
前記温度検出部によって検出した温度検出値と、前記基準温度値とを比較することにより前記軸受の異常の有無を判定する判定部と、
を有する異常診断装置と、
を備える軸受異常診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受異常診断システムにおいて、
前記異常診断装置が、前記温度検出値が予め設定された第1基準温度値よりも高く、かつ予め設定された第2基準温度値よりも低い場合に、前記温度検出値が前記第1温度基準値を超えた超過時間を積算する積算部を有しており、
前記判定部が、前記積算部で積算された前記超過時間の積算値が、予め設定された基準積算値を超えた場合に、注意情報を発する、
軸受異常診断システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の軸受異常診断システムにおいて、
前記判定部が、前記温度検出値が前記第2基準温度値以上である場合に、軸受に異常があると判断して警告情報を発する、
軸受異常診断システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の軸受異常診断システムにおいて、
前記異常診断装置が、前記温度検出値に前記軸受の温度を推定するための補正係数を掛けて軸受温度推定値を算出する補正部を有している、
軸受異常診断システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の軸受異常診断システムにおいて、前記軸受が車輪用軸受である軸受異常診断システム。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載の軸受異常診断システムにおいて、前記軸受が、回転翼および前記回転翼を回転させるモータとを有する駆動部を複数備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載される転がり軸受であって、前記駆動部の回転軸を回転可能に支持する転がり軸受である軸受異常診断システム。
【請求項7】
回転翼と、前記回転翼を回転させるモータとを有する複数の駆動部と、
前記駆動部の回転軸を回転可能に支持する軸受を備える、請求項6に記載の軸受異常診断システムと、
を備える、電動垂直離着陸機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受の異常を診断するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
軸受における異常発生を診断するための方法として、いくつかの技術が提案されている。例えば、特許文献1に開示されている車輪用軸受装置は、外方部材(外輪)のインナー側の端部外周に、外径よりも僅かに小径に形成された段部が形成されると共に、この段部の裏面に接着剤が塗布され、シート状に形成された示温材が貼付されている。このように示温材を設けたことにより、車両点検時に、軸受を分解することなく劣化状態を目視にて容易に検知することができる。
【0003】
他の例として、特許文献2に開示されているセンサ付車輪用軸受は、外方部材と内方部材との間に複列の転動体を介在させた車輪用軸受において、センサユニットは、固定側部材である外方部材の内周面に取付けられるリング部材、またはセンサ取付部材と、その部材の歪みを測定する歪みセンサと、車輪用軸受の状態を検出する各種センサ(温度センサ、加速度センサなど)からなる。リング部材には、車輪用軸受の状態を検出する各種センサが取付けられるため、量産性に優れるとともに、コスト低下が図られる。また、リング部材、またはセンサ取付部材に歪みセンサと各種センサを設けることにより、荷重と車輪用軸受の状態を1箇所で測定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-216230号公報
【特許文献2】特開2007-078129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている車輪用軸受装置では、車両点検時に、上記示温材を目視して、色の変化から異常有無を判断するので、軸受の使用中(車両の走行中)に異常有無を判断することができない。他方、特許文献2に開示されているセンサ付車輪用軸受では、各種センサを実装したセンサユニット(リング部材)を外方部材の内径面に固定するので、各種センサの配線を外方部材の内側から外側に引き出す必要がある。そのため、車輪用軸受を車両に着脱する際に、配線によって作業が煩雑になる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記の課題を解決するために、軸受の使用中であっても軸受の異常を容易に判定することが可能で、かつ、軸受が適用される装置への着脱作業を容易に行うことができる軸受異常診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を達成するために、本発明に係る軸受異常診断システムは、。
回転側部材、固定側部材および前記回転側部材と前記固定側部材との間に介在する転動体を有する軸受と、
前記軸受の前記回転側部材に取り付けられた回転検出用の被検出部材と、
前記軸受および前記被検出部材から離間し、かつ、前記被検出部材に対向するように設けられたセンサユニットであって、
前記被検出部材の回転を検出する回転検出部と、
前記被検出部の温度を検出する温度検出部と、
を有するセンサユニットと、
前記センサユニットの出力に基づいて前記軸受の異常の有無を判定する異常診断装置であって、
予め設定された基準温度値が格納される設定部と、
前記温度検出部によって検出した温度検出値と、前記基準温度値とを比較することにより前記軸受の異常の有無を判定する判定部と、
を有する異常診断装置と、
を備える。
【0008】
この構成によれば、回転検出に用いられるセンサユニットのケーシング内に温度検出部を設けて、軸受の回転側部材に設けられた被検出部材の温度を測定することにより、軸受が使用中か否かにかかわらず、軸受の異常を診断することができる。しかも、温度検出用の構造の追加や変更をすることなく、このような軸受異常診断が可能になる。また、温度検出部は、軸受および前記被検出部材から離間して設けられたセンサユニットに内蔵され、上記被検出部材の温度を非接触で測定するので、軸受内部から温度検出用の配線が引き出されることがなく、軸受が適用される装置への着脱作業を容易に行うことができる。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記異常診断装置が、前記温度検出値が予め設定された第1基準温度値よりも高く、かつ予め設定された第2基準温度値よりも低い場合に、前記温度検出値が前記第1温度基準値を超えた超過時間を積算する積算部を有しており、前記判定部が、前記積算部で積算された前記超過時間の積算値が、予め設定された基準積算値を超えた場合に、注意情報を発するように構成されていてもよい。この構成によれば、軸受の異常発生を未然に防ぐための適切な処置をとることが可能になるので、軸受が適用される装置の使用停止等による損失を抑えることができる。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記判定部が、前記温度検出値が前記第2基準温度値以上である場合に、軸受に異常があると判断して警告情報を発するように構成されていてもよい。この構成によれば、軸受に異常が発生した場合に、使用者が即時に装置の使用を中止するなどの適切な対応をとることが可能になる。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記異常診断装置が、前記温度検出値に前記軸受の温度を推定するための補正係数を掛けて軸受温度推定値を算出する補正部を有していてもよい。被検出部材は、軸受の発熱源となる外輪転走面や内輪転走面から離れた位置にあるので、被検出部材の温度は軸受の温度よりも低くなることが想定される。そこで、上記構成の補正部を設けることにより、軸受の温度をより正確に検出することが可能になる。
【0012】
上記軸受異常診断システムは、各種用途の軸受に適用することができる。例えば、本発明の一実施形態として、前記軸受が車輪用軸受であってもよい。また、他の実施形態として、前記軸受が、回転翼および前記回転翼を回転させるモータとを有する駆動部を複数備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載される転がり軸受であって、前記駆動部の回転軸を回転可能に支持する転がり軸受であってもよい。
【0013】
本発明に係る電動垂直離着陸機は、回転翼と、前記回転翼を回転させるモータとを有する複数の駆動部と、前記駆動部の回転軸を回転可能に支持する軸受を備える、上記の軸受異常診断システムとを備えている。この構成によれば、自動車に代わる移動手段として期待される電動垂直離着陸機(いわゆる空飛ぶクルマ)においても、上述した利点を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明に係る軸受異常診断システムによれば、軸受の使用中であっても軸受の異常を容易に判定すること、および、軸受が適用される装置への着脱作業を容易に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る軸受異常診断システムの概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図1の実施形態の一変形例に係る軸受異常診断システムの一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係る軸受診断装置が適用される電動垂直離着陸機を示す斜視図である。
【
図4】
図3の電動垂直離着陸機の駆動部におけるモータの一部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を図面に従って説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1に、本発明の一実施形態に係る軸受異常診断システム1を示す。本実施形態では、大型トラックのような車両の車輪支持に使用される車輪用軸受のための異常診断システムを例として説明する。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側(
図1の左側)をアウトボード側と呼び、中央寄り側(
図1の右側)をインボード側と呼ぶ。また、説明の便宜上、アウトボード側,インボード側を、単に「左側」,「右側」等と呼ぶ場合がある。
【0018】
軸受異常診断システム1は、異常診断の対象となる軸受3と、軸受3の回転検出用の被検出部材5と、回転検出部7および温度検出部9を有するセンサユニット11と、センサユニット11の出力に基づいて軸受3の異常の有無を判定する異常診断装置13とを備える。
【0019】
軸受3は、回転側部材、固定側部材および回転側部材と固定側部材との間に介在する転動体を有している。図示の例では、軸受3は、複列の円すいころ軸受3として構成されている。具体的には、軸受3は、内周にテーパ状の複列の外側転走面15aが形成された外方部材15と、外周に複列の外側転走面15aに対向するテーパ状の内側転走面17aが形成された左右一対の内方部材(内輪)17と、両転走面15a,17a間に介在する転動体19である円錐ころと、これらの転動体19を転動自在に保持する保持器21とを備えている。なお、本実施形態では、外方部材15は、内方部材(内輪)に対向する外輪25と、外輪25の外周側に位置するフランジ部材27とからなる。本実施形態では、軸受3は外輪回転タイプとして構成されており、外方部材15が回転側部材に、内方部材17が固定側部材に相当する。軸受3は、一対の内方部材17の小径側端面が突き合された状態でセットされた背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受として構成されている。外方部材15と内方部材17との間に形成された環状空間の軸心方向両端部の開口部分にはシール部材23が装着されている。シール部材23により、軸受3の内部に封入された潤滑グリースが外部へ漏洩することや、外部から雨水やダスト等の異物が軸受3内部に侵入することが防止される。
【0020】
フランジ部材27は、円筒状部27aと、円筒状部27aのアウトボード側端において外径側に突設された車輪取付フランジ27bとを有する。本実施形態に係る軸受3は、上述したように車輪用軸受3であり、アウトボード側の端部に車輪(図示せず)が取り付けられる車輪取付フランジ27bを介して車輪を回転可能に支持する。外方部材15は、外輪25をフランジ部材27の円筒状部27aの内周面に圧入することにより形成されている。
【0021】
外輪25のアウトボード側には、径方向外側にわずかに突出する係止部29が設けられており、フランジ部材27の円筒状部27aの内周面に形成された段差部31に当接している。他方、外輪25の係止部29のアウトボード側において、止め輪33がフランジ部材27の円筒状部27aの内周面の嵌合溝に嵌合されている。これら段差部31、係止部29、および止め輪33によって外輪25とフランジ部材27との相対位置が決められる。また、車輪取付フランジ27bのインボード側面の径方向外側部分には、ブレーキドラムが取り付けられている。なお、外輪25とフランジ部材27とは、図示のように別体ではなく、一体の外方部材15として形成されていてもよい。
【0022】
内方部材17の内径部には、ナックル(図示せず)の固定軸37が挿入され、ナット39で締め付けて固定されることで、固定軸37に対して車輪取付フランジ27bが回転自在に支持される。
【0023】
被検出部材5は、軸受3の回転側部材に取り付けられている。この例では、被検出部材5は、外方部材15のフランジ部材27のインボード側外周部に圧入により固定されている。本実施形態では、被検出部材5として、パルサーリングを使用している。この被検出部材5であるパルサーリングは、そのインボード側を向く面に、周方向に等間隔に配置された多数の歯5aが設けられている。
【0024】
センサユニット11は、軸受3および被検出部材5から離間し、かつ、被検出部材5に対向するように設けられている。センサユニット11は、ケーシング41と、ケーシング41の内部に収容された、被検出部材5の回転を検出する回転検出部7(回転センサ)および被検出部の温度を検出する温度検出部9(温度センサ)とを備えている。センサユニット11は、固定側の部材(たとえば固定軸37の図示しないナックル)に固定される。
【0025】
回転検出系がパッシブタイプである場合には、回転検出部7はピックアップコイル型センサとされ、それに対向するターゲット部材は歯形状のパルサーリングとされ、ABS信号(Antilock Brake System)を出力する。なお、回転検出系をアクティブタイプとし、回転検出部7として、磁石とホールICを実装したセンサを用いてもよい。
【0026】
本実施形態の温度検出部9は温度センサからなり、被検出部材5(この例ではパルサーリング)の温度を非接触で測定する。温度センサとしては、例えば赤外線温度センサやサーミスタなどを用いることができるが、温度センサの種類はこれらに限定されない。温度検出部9として赤外線温度センサを用いる場合、被検出部材5であるパルサーリングの表面を黒色処理して、赤外線の放射率を高めてもよい。温度検出部9によって、軸受3の温度上昇を監視し、軸受3の異常診断を行うことが可能になる。
【0027】
なお、被検出部材5を軸受3の回転側部材に取り付ける態様は、
図1に示した例に限定されない。例えば、
図2に変形例として示すように、被検出部材5として、N極とS極を交互に着磁した磁気方式のパルサーリング(磁気エンコーダ)を用い、この被検出部材5をシール部材23の部品であるシール板23aのインボード側に、シール板23aと一体に設けてもよい。この場合、センサユニット11の回転検出部7として磁気センサを使用し、N極とS極の磁束を磁気センサで検出することで、ABS信号を出力する。
【0028】
なお、本実施形態のように、軸受3が大型トラックのような車両に使用される車輪用軸受である場合、センサユニット11のケーシング41には、水、油、泥水、飛石など異物侵入に対する対策が求められるので、ケーシング41は、少なくともその外側を緩衝性のある材料(樹脂、ゴムなど)で形成するなどによって、密封性を向上させることが好ましい。
【0029】
次に、
図1に示す、センサユニット11の温度検出部9を用いた異常診断装置13による異常診断について説明する。異常診断装置13は、予め設定された基準温度値が格納される設定部43と、温度検出部9によって検出した温度検出値と基準温度値とを比較することにより軸受3の異常の有無を判定する判定部45とを備える。本実施形態では、異常診断装置13は、さらに、後述する時間積算を行う積算部47を備えている。
【0030】
具体的には、設定部43には、第1基準温度値と、これよりも高い第2基準温度値の2つの基準温度値が予め格納されている。第2基準温度値としては、軸受3に異常が発生したと判断するべき温度の値が設定される。他方、第1基準温度値としては、即座に異常が発生したと判断する必要はないものの、異常発生につながる可能性が高い予兆状態にあると判断するべき温度の値が設定される。このような第1基準温度値として、例えば130℃が設定され、第2基準温度値として、例えば150℃が設定される。
【0031】
センサユニット11の温度検出部9から出力された温度検出値が第1基準温度値よりも高く、かつ第2基準温度値よりも低い場合には、判定部45は軸受3が異常予兆状態にあると判断し、積算部47に対して、温度検出値が第1温度基準値を超えた超過時間を積算させる。その後、積算部47で積算された超過時間の積算値が、予め設定された基準積算値を超えた場合に、判定部45は、注意情報を発する。この注意情報は、例えば、軸受3の点検、交換等のメンテナンスを促す注意情報である。
【0032】
このように構成することにより、軸受3の異常発生を未然に防ぐための適切な処置をとることが可能になるので、軸受3が適用される装置の使用停止等による損失を抑えることができる。例えば、この軸受異常診断システム1が大型トラック、バスなどで用いられる車輪用軸受3に適用される場合、故障の予兆を早期に検出することで、運行に支障が生じないように、車輪用軸受3の交換時期を事前に計画することが可能となり、運行停止による損失を最小限に留めることができる。
【0033】
他方、温度検出値が第2基準温度値以上である場合には、判定部45が、軸受3に異常(例えば軸受3の焼付き)があると判断して警告情報を発する。この警告情報は、例えば、軸受3が設置された装置の使用(この例では車両の走行)の中止を指示する警告情報である。このように構成することにより、軸受3に異常が発生した場合に、使用者が即時に装置の使用を中止するなどの適切な対応をとることが可能になる。
【0034】
なお、被検出部材5は、軸受3の発熱源となる外輪25転走面や内輪転走面から離れた位置にあるので、被検出部材5の温度は軸受3の温度よりも低くなることが想定される。したがって、軸受3の温度をより正確に検出するため、温度検出値に軸受3の温度を推定するための補正係数を掛けて軸受温度推定値を算出する補正部を異常診断装置13に設けてもよい。
【0035】
以上説明した本実施形態に係る軸受異常診断システム1によれば、回転検出に用いられるセンサユニット11のケーシング41内に温度検出部9を設けて、軸受3の回転側部材に設けられた被検出部材5の温度を測定することにより、軸受3が使用中か否かにかかわらず、軸受3の異常を診断することができる。しかも、温度検出用の構造の追加や変更をすることなく、このような軸受3異常診断が可能になる。また、温度検出部9は、軸受3および被検出部材5から離間して設けられたセンサユニット11に内蔵され、被検出部材5の温度を非接触で測定するので、軸受3内部から温度検出用の配線が引き出されることがなく、軸受3が適用される装置への着脱作業を容易に行うことができる。
【0036】
なお、本実施形態では、軸受3が外輪回転タイプである例について説明したが、軸受3は内輪回転タイプであってもよい。また、軸受異常診断システム1の軸受3は車輪用軸受に限定されず、各種の軸受に適用可能である。
【0037】
次に、本発明の軸受異常診断システム1を他の用途の軸受に適用した例である他の実施形態に係る軸受異常診断システム1について説明する。
図3に、本実施形態に係る軸受異常診断システム1が搭載される電動垂直離着陸機51を示す。本実施形態に係る軸受異常診断システム1は、軸受の用途及び種類が
図1,2を参照して説明した上記の実施形態と異なるが、その他の点は上記の実施形態と同様であるので、以下の説明では、主として上記の実施形態と異なる点について説明し、その他の点については説明を省略する。
【0038】
近年、自動車に代わる移動手段として飛行可能な自動車、いわゆる空飛ぶクルマが注目されている。空飛ぶクルマは、上記の社会的問題の解消に期待されており、地域内移動、地域間移動、観光・レジャー、救急医療、災害救助など、様々な場面での活用が期待されている。
【0039】
空飛ぶクルマとして、同図に示すような垂直離着陸機(VTOL;Vertical Take-Off and Landing aircraft)が注目されている。垂直離着陸機は、空と離発着場を垂直に昇降できることから、滑走路が必要とならず、利便性に優れる。特に、近年ではCO2の削減に向けた社会的要請などからバッテリとモータで飛行するタイプの電動垂直離着陸機51(eVTOL)が開発の主流となっている。
【0040】
図3に示す電動垂直離着陸機51は、機体中央に位置する本体部53と、前後左右に配置された4つの駆動部55を有するマルチコプターである。駆動部55は、電動垂直離着陸機51の揚力および推進力を発生させる装置であり、駆動部55の駆動によって電動垂直離着陸機51が飛行する。電動垂直離着陸機51において駆動部55は複数あればよく、4つに限定されない。
【0041】
本体部53は乗員(例えば1~2名程度)が搭乗可能な居住空間を有している。この居住空間には、進行方向や高度などを決めるための操作系や、高度、速度、飛行位置などを示す計器類などが設けられている。本体部53からは4本のアーム57がそれぞれ延び、各アーム57の先端に駆動部55が設けられている。図示の例において、アーム57には、回転翼59を保護するため、回転翼59の回転周囲を覆う円環部61が一体に設けられている。また、本体部53の下部には、着陸時に機体を支えるスキッド63が設けられている。
【0042】
駆動部55は、回転翼59と、該回転翼59を回転させるモータ65とを有する。駆動部55において、回転翼59はモータ65を挟んで軸方向両側に一対設けられている。各回転翼59は、径方向外側へ延びる2枚の羽根をそれぞれ有する。
【0043】
本体部53には、バッテリ(図示せず)および制御装置(図示せず)が設けられている。制御装置はフライトコントローラとも呼ばれる。電動垂直離着陸機51の制御は、制御装置によって、例えば以下のように実施される。制御装置が、現姿勢と目標姿勢の差から揚力を調整すべきモータ65に回転数変更の指令を出力する。その指令に基づいて、モータ65に備えられたインバータがバッテリからモータ65へ送る電力量を調整し、モータ65(および回転翼59)の回転数が変更される。また、モータ65の回転数の調整は、複数のモータ65に対して、同時に実施され、それによって機体の姿勢が決まる。
【0044】
図4に、駆動部55におけるモータ65の一部断面図を示す。モータ65の回転軸67の一端側(図上側)には上述の回転翼59が取り付けられ、他端側(図下側)にはロータが取り付けられる。ロータは、ハウジング69に固定されたステータに対向配置され、該ステータに対して回転可能になっている。なお、モータ65は、アウターロータ型のブラシレスモータ65や、インナーロータ型のブラシレスモータ65の構成を採用できる。
【0045】
モータ65は、ハウジング(装置ハウジング)69と、ロータ(図示せず)と、ステータ(図示せず)と、インバータ(図示せず)と、2個の軸受3とを備える。この例では、軸受3として、内輪回転タイプの転がり軸受(より具体的には深溝玉軸受)を用いている。すなわち、軸受3は、回転側部材である内輪71と、固定側部材である外輪73と、内外輪71,73間に介在する転動体であるボール75とを備えている。ボール75は保持器77によって保持されている。
【0046】
ハウジング69は外筒69aと内筒69bを有し、これらの間には冷却媒体流路69cが設けられている。この冷却媒体流路69cに冷却媒体を流すことにより、過度の温度上昇を防止できる。ハウジング69の材質は特に限定されず、例えば鉄系材料やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などを用いることができる。
【0047】
軸受3は、ハウジング69内で回転軸67を回転自在に支持している。
図2において、軸受3の外輪25の外径形状は、ハウジング69内周の嵌合部と同一の形状であり、ハウジング69に対して、軸受ハウジングなどを介さずに直接嵌合される。2個の軸受3の間には内輪間座79、外輪間座81が挿入され、予圧が印加されている。
【0048】
なお、駆動部55における軸受3構成は、
図4の例に限定されない。
図4では、モータ65の回転軸67と回転翼59の回転軸とを同一の回転軸67とした例を示したが、モータ65の回転軸67と回転翼59の回転軸とが伝達機構を介して接続された構成であってもよい。この場合、駆動部55における回転軸67を支持する軸受3は、モータ65の回転軸67を支持する軸受3でもよく、回転翼59の回転軸を支持する軸受3でもよい。
【0049】
本実施形態においても、回転検出に用いられるセンサユニット11のケーシング41内に温度検出部9を設けて、軸受3の回転側部材(この例では内輪71)に設けられた被検出部材5の温度を測定することにより、軸受3が使用中か否かにかかわらず、軸受3の異常を診断することができる。しかも、温度検出用の構造の追加や変更をすることなく、このような軸受3異常診断が可能になる。また、温度検出部9は、軸受3および被検出部材5から離間して設けられたセンサユニット11に内蔵され、被検出部材5の温度を非接触で測定するので、軸受3内部から温度検出用の配線が引き出されることがなく、軸受3が適用される装置への着脱作業を容易に行うことができる。
【0050】
なお、本実施形態においても、軸受3は例示した深溝玉軸受3に限定されず、例えばアンギュラ玉軸受3を用いてもよい。
【0051】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1 軸受異常診断システム
3 軸受
5 被検出部材
7 回転検出部
9 温度検出部
11 センサユニット
13 異常診断装置
15 外方部材(回転側部材)
17 内方部材(固定側部材)
43 設定部
45 判定部
47 積算部