(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144515
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】マイクロ流体チップ、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/04 20060101AFI20220926BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220926BHJP
G01N 27/02 20060101ALI20220926BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20220926BHJP
C12M 1/26 20060101ALN20220926BHJP
C12N 13/00 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
G01N1/04 H
G01N37/00 101
G01N27/02 D
B01J19/00 321
C12M1/26
C12N13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045561
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】浦川 哲
【テーマコード(参考)】
2G052
2G060
4B029
4B033
4G075
【Fターム(参考)】
2G052AA33
2G052AD12
2G052AD29
2G052BA03
2G052BA24
2G052DA09
2G060AA15
2G060AA19
2G060AD06
2G060AF06
2G060AG03
2G060AG10
2G060AG15
4B029AA09
4B029BB11
4B029BB12
4B029HA05
4B029HA09
4B033NG05
4B033NH06
4B033NJ01
4B033NK03
4G075AA13
4G075AA39
4G075AA56
4G075BA05
4G075BB05
4G075BD05
4G075CA14
4G075DA02
4G075EA02
4G075EB50
4G075EC21
4G075FA12
4G075FB01
4G075FB02
4G075FB06
4G075FC11
4G075FC15
(57)【要約】
【課題】マイクロ流体チップの電極を適切に保護する技術を提供する。
【解決手段】マイクロ流体チップ1は、基板10と、電極31と、絶縁膜33と、流体収容部20とを有する。電極31は、基板10の上面に配置されている。絶縁膜33は、電極31の上面を覆っている。絶縁膜33は、電極31に含まれる金属を酸化させた酸化膜、または、電極31に含まれる金属を窒化させた窒化膜で構成される。流体収容部20は、絶縁膜33の上側において流体を収容可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体チップであって、
基板と、
前記基板の一方側の表面に配置される電極と、
前記電極の一方側の表面を覆っており、前記電極に含まれる金属を酸化させた酸化膜、または、前記金属を窒化させた窒化膜で構成される絶縁膜と、
前記絶縁膜の前記一方側に流体を収容可能な流体収容部と、
を備える、マイクロ流体チップ。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ流体チップであって、
前記流体収容部は、前記流体が前記絶縁膜に接触する状態で、前記流体を収容する、マイクロ流体チップ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のマイクロ流体チップであって、
前記電極は、前記一方側に向かって順に、
導電性を有する第1金属を含む導電層と、
前記第1金属とは異なる第2金属を含む表面層と、
を含み、
前記絶縁膜は、前記表面層に含まれる前記第2金属の酸化膜または窒化膜である、マイクロ流体チップ。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロ流体チップであって、
前記第2金属は、チタン、インジウム、スズ、銅、モリブデン、銀、クロム、タンタル、タングステン、ケイ素、または、それらからなる金属化合物である、マイクロ流体チップ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のマイクロ流体チップであって、
前記流体収容部は、前記流体が流れる流路、を有し、
前記流路が前記絶縁膜の前記一方側に位置する、マイクロ流体チップ。
【請求項6】
請求項5に記載のマイクロ流体チップであって、
前記流路は、
第1端部および第2端部を有し、前記第1端部から前記第2端部へ向けて前記流体が流れる主流路と、
前記主流路の前記第2端部に接続されており、前記流体が流れる複数の副流路、
を有し、
前記電極は、前記主流路を流れる前記流体中の粒子を、前記複数の副流路のいずれかに分離するための電圧を印加する、マイクロ流体チップ。
【請求項7】
マイクロ流体チップの製造方法であって、
a)一方側の表面に電極を有する基板を準備する工程と、
b)前記基板における前記電極に含まれる金属を酸化または窒化させることによって、前記電極の前記一方側の表面に、酸化膜または窒化膜である絶縁膜を形成する工程と、
c)前記工程b)の後、前記絶縁膜の一方側に流体を収容可能な流体収容部を形成する工程と、
を含む、マイクロ流体チップの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のマイクロ流体チップの製造方法であって、
前記工程b)は、熱酸化法または湿式酸化法により、前記絶縁膜を形成する工程である、マイクロ流体チップの製造方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のマイクロ流体チップの製造方法であって、
前記電極は、前記一方側に向かって順に
導電性を有する第1金属を含む導電層と、
前記第1金属とは異なる第2金属を含む表面層と、
を有し、
前記工程b)は、前記表面層の前記第2金属を酸化または窒化させることによって、前記絶縁膜を形成する工程である、マイクロ流体チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体チップ、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療分野では、細胞等の生体分子を分離し、捕捉する分取技術が重要視されており、その技術の一つとして、誘電泳動力を利用する分取装置が知られている(例えば、特許文献1)。この種の分取装置は、例えば、生体分子を、サンプル液(培養液など)とともに流す流路と、その生体分子を分取するための電極とを備えている。分取装置は、電極に交流電圧を印加することによって、流路内を流れる液体中に電界を発生させることによって、生体分子を電気的に分取する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体分子を移動させる程度の電圧を電極に印加した場合、電極を構成する金属と液界面との間で電気化学的反応が起こり、容易に電極が電気分解し得る。このため、電極を保護するため、成膜処理による絶縁保護膜が形成される場合がある。
【0005】
しかしながら、絶縁保護膜は交流電圧下ではリアクタンス(疑似的な抵抗)として作用し、電極からの電圧出力レベルを下げてしまう。このため、絶縁保護膜を比較的厚く成膜した場合(例えば、電極膜厚を100nm、絶縁保護膜を200nmとした場合)は、分取性能が著しく低下し得る。一方で、絶縁保護膜を薄く成膜した場合には(例えば100nm以下)、成膜のばらつきによって、電極表面が露出し易く、特に、スパッタリング等の一方向成膜を行った場合には、電極の側壁部分が露出し易い。
【0006】
本発明の目的は、マイクロ流体チップの電極を適切に保護する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1態様は、マイクロ流体チップであって、基板と、前記基板の一方側の表面に配置される電極と、前記電極の一方側の表面を覆っており、前記電極に含まれる金属を酸化させた酸化膜、または、前記金属を窒化させた窒化膜で構成される絶縁膜と、前記絶縁膜の前記一方側に流体を収容可能な流体収容部とを備える。
【0008】
第2態様は、第1態様のマイクロ流体チップであって、前記流体収容部は、前記流体が前記絶縁膜に接触する状態で、前記流体を収容する。
【0009】
第3態様は、第1態様または第2態様のマイクロ流体チップであって、前記電極は、前記一方側に向かって順に、導電性を有する第1金属を含む導電層と、前記第1金属とは異なる第2金属を含む表面層と、を含み、前記絶縁膜は、前記表面層に含まれる前記第2金属の酸化膜または窒化膜である。
【0010】
第4態様は、第3態様のマイクロ流体チップであって、前記第2金属は、チタン、インジウム、スズ、銅、モリブデン、銀、クロム、タンタル、タングステン、ケイ素、または、それらからなる金属化合物である。
【0011】
第5態様は、第1態様から第4態様のいずれか1つのマイクロ流体チップであって、前記流体収容部は、前記流体が流れる流路、を有し、前記流路が前記絶縁膜の前記一方側に位置する。
【0012】
第6態様は、第5態様のマイクロ流体チップであって、前記流路は、第1端部および第2端部を有し、前記第1端部から前記第2端部へ向けて前記流体が流れる主流路と、前記主流路の前記第2端部に接続されており、前記流体が流れる複数の副流路、を有し、前記電極は、前記主流路を流れる前記流体中の粒子を、前記複数の副流路のいずれかに分離するための電圧を印加する。
【0013】
第7態様は、マイクロ流体チップの製造方法であって、a)一方側の表面に電極を有する基板を準備する工程と、b)前記基板における前記電極に含まれる金属を酸化または窒化させることによって、前記電極の前記一方側の表面に、酸化膜または窒化膜である絶縁膜を形成する工程と、c)前記工程b)の後、前記絶縁膜の一方側に流体を収容可能な流体収容部を形成する工程とを含む。
【0014】
第8態様は、第7態様のマイクロ流体チップの製造方法であって、前記工程b)は、熱酸化法または湿式酸化法により、前記絶縁膜を形成する工程である。
【0015】
第9態様は、第7態様または第8態様のマイクロ流体チップの製造方法であって、前記電極は、前記一方側に向かって順に、導電性を有する第1金属を含む導電層と、前記第1金属とは異なる第2金属を含む表面層と、を有し、前記工程b)は、前記表面層の前記第2金属を酸化または窒化させることによって、前記絶縁膜を形成する工程である。
【発明の効果】
【0016】
第1態様のマイクロ流体チップによると、電極表面の酸化処理または窒化処理で絶縁膜を形成できる。このため、成膜処理によって絶縁膜を形成する場合と比べて、容易に電極を保護できる。
【0017】
第2態様のマイクロ流体チップによると、電極と流体収容部との間に成膜処理によって保護膜を形成する場合と比較して、低コストかつ少ない工程で、電極を適切に保護できる。
【0018】
第3態様のマイクロ流体チップによると、第1金属の導電層によって電極の導電性を確保できるため、第2金属を酸化膜または窒化膜の形成に適したものを選択できる。
【0019】
第4態様のマイクロ流体チップによると、第2金属の酸化膜または窒化膜で電極を有効に保護できる。
【0020】
第5態様のマイクロ流体チップによると、流路に流体を流しつつ、電極に電圧を印加することによって、流体に電圧を印加できる。
【0021】
第6態様のマイクロ流体チップによると、電極が主流路を流れる流体中の粒子を複数の副流路のいずれかに分離するための電圧を印加する。これにより、流体中の粒子を分取できる。
【0022】
第7態様のマイクロ流体チップの製造方法によると、電極表面の酸化処理または窒化処理で絶縁膜を形成できる。このため、成膜処理によって絶縁膜を形成する場合と比べて、容易に電極を保護できる。
【0023】
第8態様のマイクロ流体チップの製造方法によると、電極の表面を容易に酸化できるため、絶縁膜を容易に形成できる。
【0024】
第9態様のマイクロ流体チップの製造方法によると、第1金属の導電層によって電極の導電性を確保できるため、第2金属を酸化膜または窒化膜の形成に適したものを選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係るマイクロ流体チップの平面図である。
【
図2】
図1に示すマイクロ流体チップの電圧印加部を示す平面図および断面図である。
【
図3】電極の表面に絶縁膜を形成する様子を概念的に示す図である。
【
図4】絶縁膜および保護膜の有無による、インピーダンスの変化を示す図である。
【
図5】絶縁膜の有無による、キャパシタンスの変化を示す図である。
【
図6】耐久試験が行われた電極を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0027】
図1は、実施形態に係るマイクロ流体チップ1の平面図である。マイクロ流体チップ1は、流体に電圧を印加する装置である。マイクロ流体チップ1は、例えば、細胞などの生体分子を分離し、捕捉するセルソータである。マイクロ流体チップ1は、基板10と、流体収容部20と、電圧印加部30とを有する。以下、マイクロ流体チップ1の各構成について説明する。
【0028】
基板10は、例えば、石英などで構成されるガラス基板である。流体収容部20は、流体(生体分子を含む液体など)を収容することが可能な構造を有しており、樹脂または石英ガラスなどで構成されている。流体収容部20は、基板10の上側に配置されている(
図2参照)。流体収容部20は、側壁部21と天井部23(
図2参照)とを有する。側壁部21および天井部23は、流体が収容される空間を仕切る部分であり、基板10の表面に対して起立する壁を構成している。天井部23は、流体が収容される空間の上側を塞ぐ部分である。
【0029】
図1に示すように、流体収容部20は、流体が流れる流路を構成している。具体的には、流体収容部20は、主流路25と、2つの副流路27とを有する。主流路25は、第1端部251と第2端部252とを有する。第1端部251には、液体を供給することが可能となっている。第1端部251に供給された液体は、第2端部252へ向けて流れる。
【0030】
2つの副流路27の端部は、主流路25の第2端部252にそれぞれ接続されている。主流路25と2つの副流路27とは、液体が流通できるように連結されている。
【0031】
電圧印加部30は、櫛歯状に並べられた複数の電極31を有する。
図2に示すように、複数の電極31は、流体収容部20の主流路25を横断するように延びている。
【0032】
電圧印加部30の各電極31には、液体中の生体分子を分離するための交流電圧が印加される。交流電圧が印加されると、各電極31の周囲に、分取用の電界が発生する。この分取用の電界が、主流路25を流れる液体中の生体分子に作用することで、液体中の生体分子を、2つの副流路27のうちのいずれかに送ることができる。
【0033】
図2は、
図1に示すマイクロ流体チップ1の電圧印加部30を示す平面図および断面図である。
図2に示すように、電圧印加部30の電極31は、基板10の上面に配置されている。電極31は、導電性を有する金属で構成されている。なお、ここでいう金属とは、合金も含む概念である。
【0034】
図2に示す電極31は、多層構造であって、下側(基板10側)から上側に向かって、順に、接着層311、導電層313、表面層315を有する。接着層311は、基板10の表面と電極31とを密着させるために設けられた層であり、例えば、チタンを含む。導電層313は、導電性を有する金属(アルミニウムなど)で構成されている。表面層315は、電極31の最上部に位置しており、例えば、チタンを含む。電極31の多層構造は、例えば、真空蒸着による成膜によって形成される。電極31の各層の膜厚は、特に限定されないが、接着層311の膜厚を10nm、導電層313の膜厚を100nm、表面層315の膜厚を10nmとし得る。
【0035】
電極31において、基板10に接触する接着層311をチタンで構成することによって、電極31を基板10に密着させることができる。特に、基板10がガラス基板である場合、基板10に対して電極31を良好に密着させることができる。電極31の表面層315は、後述する絶縁膜33を形成するために設けられている。導電層313の金属(第1金属)は、好ましくは、表面層315の金属(第2金属)および接着層311の金属よりも導電性が高い。表面層315の金属として、チタンの他にも、アルミニウム、インジウム、スズ、銅、モリブデン、銀、クロム、タンタル、タングステン、ケイ素、または、それらからなる金属化合物を採用し得る。
【0036】
なお、電極31は、多層であることは必須ではなく、単層であってもよい。また、電極31が金属を2種類以上含んでいることは必須ではなく、電極31が金属を1種類のみ含んでいるようにしてもよい。1種類の金属で構成する場合、例えば、アルミニウム、チタン、インジウム、スズ、銅、モリブデン、銀、クロム、タンタル、タングステン、ケイ素、または、それらからなる金属化合物を採用し得る。
【0037】
図2に示すように、電極31の上面は、絶縁膜33で覆われている。絶縁膜33は、電極31を構成する金属を酸化させた酸化膜、または、電極31を構成する金属を窒化させた窒化膜で構成されている。すなわち、電極金属の元素記号を「M」とした場合、絶縁膜33は、酸化膜であればM
XO
Y、窒化膜であればM
XN
Y(X,Yは元素数)で表される。
【0038】
図3は、電極31の表面に絶縁膜33を形成する様子を概念的に示す図である。
図3に示すように、電極31の表面層315に対して、酸化処理または窒化処理を施すことによって、電極31の表面に絶縁膜33を形成できる。表面層315を酸化する場合には、例えば、熱酸化法(乾式熱酸化法または水熱酸化法)、または湿式酸化法を適用し得る。例えば、電極31の表面層315が10nm厚のチタンで構成されている場合、オートクレーブを用いて、オートクレーブの内容積に対する水の充填率を5~10%、温度を130~140℃として、2時間処理することにより、表面層315のチタンを酸化できる。また、表面層315を窒化する場合には、表面層315を高温下の窒化雰囲気に暴露させる窒化処理が採用され得る。
【0039】
図2に示すように、絶縁膜33が形成された電極31を含む基板10の表面は、保護膜40で覆われていてもよい。保護膜40は、例えば、スパッタリングにより成膜されるシリコン酸化膜(SiO
X膜)である。保護膜40の膜厚は、好ましくは、200nm以下である。
図2に示すように、保護膜40は、流体収容部20が形成する流路の底面を構成している。すなわち、保護膜40の上面は、流体収容部20を流れる液体に接触する面をなしている。絶縁膜33がチタンの酸化膜(TiO
X)である場合、絶縁膜33と保護膜40(シリコン酸化膜)との間の密着性を高めることができる。
【0040】
なお、マイクロ流体チップ1が保護膜40を備えていることは必須ではない。すなわち、マイクロ流体チップ1は、保護膜40を備えていなくてもよい。この場合、基板10の表面、および、電極31の表面に位置する絶縁膜33が、流体収容部20の底面を構成する。したがって、流体収容部20が液体を収容した場合、基板10の表面、および、絶縁膜33が液体に接触することとなる。保護膜40がない場合であっても、絶縁膜33によって電極31が液体と直に接触することが抑制される。したがって、電圧印加時に電極31が電気分解されることを抑制できる。このように、成膜処理によって保護膜40を形成しない場合には、保護膜40の形成に係るコストおよび工程数を省略できるため、低コストかつ少ない工程数で、マイクロ流体チップ1を作製できる。
【0041】
流体収容部20は、電極31の表面に絶縁膜33が形成された後、基板10の上面に取り付けられる。これにより、絶縁膜33の上側に、流体収容部20が配置される。なお、基板10の上面に保護膜40が形成される場合には、流体収容部20は、保護膜40が形成された後、基板10の上面に取り付けられるとよい。
【0042】
<絶縁膜による電気的特性の変化>
次に、絶縁膜33および保護膜40の有無による、マイクロ流体チップ1の電気的特性の変化について
図4および
図5を参照しつつ説明する。
【0043】
図4は、絶縁膜33および保護膜40の有無による、インピーダンスの変化を示す図である。
図4において、縦軸はインピーダンス、横軸は周波数を示す。また、
図5は、絶縁膜33の有無による、キャパシタンスの変化を示す図である。
図5において、縦軸はキャパシタンス、横軸は周波数を示す。
図4および
図5は、LCRメータを用いて、電極31に交流電圧を印加することにより、マイクロ流体チップ1の電気的特性(インピーダンスおよびキャパシタンス)を測定した結果を示している。なお、測定値に対する液体の影響を0に近づけるため、流体収容部20に収容されるサンプル液として、高伝導率液体が用いられている。
【0044】
図4中、グラフG11は、絶縁膜33なし、保護膜40なしの場合の測定結果を示している。
図4中、グラフG12は、絶縁膜33あり、保護膜40なしの場合の測定結果を示している。
図4中、グラフG13は、絶縁膜33なし、保護膜40(SiO
X膜、膜厚200nm)ありの場合の測定結果を示している。なお、グラフG11,G12,G13に対応する装置D1,D2,D3の断面構造を、
図4において概念的に示している。また、
図5中、グラフG21は、絶縁膜33および保護膜40がない場合の測定結果を示している。
図5中、グラフG22は、絶縁膜33があり、保護膜40がない場合の測定結果を示している。
【0045】
図4に示すように、保護膜40ありの場合(グラフG13)、保護膜40なしの場合(グラフG11,G12)と比較して、インピーダンスが高周波側へとシフトしている。このシフトは、交流電圧を印加した際に生じる電流が低下することによって、リアクタンスが高くなっていることを示している。すなわち、保護膜40のリアクタンスが高いことによって、保護膜40で電圧降下が生じるため、液体中に効率的に電圧を掃引することが困難となる。したがって、効率的に電圧を掃引するためには、保護膜40の厚みはできるだけ薄くするか、もしくは保護膜40を設けないことが好ましい。
【0046】
また、
図4に示すように、絶縁膜33なし(グラフG11)では、電極31と溶液界面で形成される電気二重層91の大きな容量が主体となることでリアクタンスが低下し、低インピーダンスとなる。一方、絶縁膜33ありの場合(グラフG12)では、インピーダンスが高周波側にシフトしている。これは、絶縁膜33由来の容量成分が形成されていることを示すが、上述の電気二重層91との合成容量が、絶縁膜33なし場合と比較して、小さくなるためである。すなわち、絶縁膜33由来の容量成分が小容量であるため、リアクタンスが高くなり、高インピーダンスとなる。
【0047】
図5に示すように、絶縁膜33なしの場合(グラフG21)、直流成分が現れ始める低周波領域において、キャパシタンスの増加が見られる。この増加は、電極31が液体に露出していることによって、電気分解が発生し、それによる電流増加に起因すると考えられる。一方、絶縁膜33ありの場合(グラフG22)、周波数に関係なく、キャパシタンス成分がほぼ一定値を示すようになっている。すなわち、絶縁膜33があることによって、電極31の電気分解が抑えられていると考えられる。
【0048】
図6は、耐久試験が行われた電極31を示す平面図である。耐久試験では、流体収容部20に飽和食塩水を貯留した状態で、電極31に所定の交流電圧(2V,10Hz)を印加した。
図6中、左側は、絶縁膜33なしの電極31を示しており、右側は、絶縁膜33ありの電極31を示している。なお、いずれの場合も、保護膜40は設けられていない。
【0049】
図6に示すように、絶縁膜33なしの場合(左)、絶縁膜33ありの場合(右)と比較して、電極31が大きく損傷していることがわかる。この結果から明らかなように、電極31の表面に絶縁膜33を形成することによって、液体との接触による電極31の電気分解を適切に抑制できる。
【0050】
上記実施形態では、電極31が、主流路25を移動する生体分子を2つの副流路27のいずれかに分離する力を発生させるように配置されている。しかしながら、電極の用途は、これに限定されるものではない。例えば、電極が、液体中の粒子の電気的特性(誘電スペクトルなど)を測定できるように配置されていてもよい。
【0051】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 マイクロ流体チップ
10 基板
20 流体収容部
25 主流路
27 副流路
31 電極
33 絶縁膜
251 第1端部
252 第2端部
313 導電層
315 表面層