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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144516
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】防振床構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/43 20060101AFI20220926BHJP
   E04B 1/98 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
E04B5/43 H
E04B1/98 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045563
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉村 昌子
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 弘之
(72)【発明者】
【氏名】兼 憲一郎
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DG01
2E001FA01
2E001FA13
2E001HD03
2E001HE01
(57)【要約】
【課題】遮音性能に優れ、耐荷重性を備えている防振床構造を提供すること。
【解決手段】建物の上階の床50と、床50を支持する梁10とを備える防振床構造100であり、梁10には、梁10の有するバネ定数K1よりも小さなバネ定数K2を備える第一支持部材30が取り付けられ、第一支持部材30の上に、バネ定数K1よりも小さなバネ定数K3を備える第二支持部材40が載置されており、第二支持部材40が床50を支持している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の上階の床と、該床を支持する梁と、を備える防振床構造であって、
前記梁には、該梁の有するバネ定数K1よりも小さなバネ定数K2を備える第一支持部材が取り付けられ、
前記第一支持部材の上に、前記バネ定数K1よりも小さなバネ定数K3を備える第二支持部材が載置されており、
前記第二支持部材が前記床を支持していることを特徴とする、防振床構造。
【請求項2】
前記梁の側面には、該梁の上端よりも下方において、前記第一支持部材が取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の防振床構造。
【請求項3】
前記梁の上面に前記第一支持部材が取り付けられ、該第一支持部材における前記第二支持部材の載置位置が該梁の上端よりも下方にあることを特徴とする、請求項1に記載の防振床構造。
【請求項4】
前記第二支持部材が前記梁の上端よりも下方に配設され、
前記床には、前記梁の上端が収容される収容溝が設けられていることを特徴とする、請求項2又は3に記載の防振床構造。
【請求項5】
前記梁がH形鋼により形成され、
前記H形鋼の側方に取り付けプレートが取り付けられ、
前記取り付けプレートに対して、前記梁の長手方向に延設する前記第一支持部材が取り付けられ、
前記第一支持部材の上方に、前記長手方向に間隔を置いて配設される複数の前記第二支持部材、もしくは前記長手方向に延設する前記第二支持部材が載置されていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の防振床構造。
【請求項6】
前記第一支持部材が、断面視L型もしくはコ型の鋼製の防振材により形成され、
前記第二支持部材が、樹脂製の防振材により形成されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の防振床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の上階の床衝撃音は、上階の床を介してその振動が下方にある下階の天井に伝搬され、下階の天井が励振されることにより下階へ放射される。この床衝撃音には、重量床衝撃音と軽量床衝撃音が含まれる。
【0003】
従来の防振床構造は、例えば鉄骨梁(H形鋼や溝形鋼等)の上面に、帯状の防振材を取り付け、もしくは、ピース状の防振材を間隔を置いて取り付け、防振材の上に上階の床を形成する床版が載置されることにより形成される。この床版は乾式の床版(乾式床)であり、ALC(軽量気泡コンクリート、Autoclaved Light weight Concrete)床版(ALCパネル)を一例として挙げることができる。例えば、床が重量床衝撃音を受けた際に、鉄骨梁の上にある防振材の弾性によって重量床衝撃音の周波数が低減され、遮音性能が発揮される。
【0004】
ところで、上記する防振材のバネ定数が小さい(防振材が柔らかい)ほど、床衝撃音の周波数低減効果は高くなるが、バネ定数が小さいことにより防振材の耐荷重性が小さくなり、比較的重量のある床版を支持するのが難しくなるといった背反がある。また、バネ定数が小さいことにより、防振材のクリープが進行し易くなり、経年的に安定した遮音性能を発揮し難くなるといった背反もある。以上のことから、遮音性能に優れ、耐荷重性を備えている防振床構造が望まれている。
【0005】
ここで、床衝撃音の低減と歩行感の改善を図ることができる床構造が提案されている。具体的には、減衰機構を有する第1の弾性支持部材と、減衰機構を有しない第2の弾性支持部材とを併用し、第1及び第2の弾性支持部材を床梁と床材との間に介在させて床材を床梁に対して弾性支持するとともに、第1の弾性支持部材の減衰機構を、床材における歩行振動の抑制のために用いるようにした、建物の床構造である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-283417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の床構造では、梁の異なる位置に、第1の弾性支持部材と第2の弾性支持部材が配設され、双方の弾性支持部材が床を支持する。そして、一方の第2の弾性支持部材は防振ゴム材とされていることから、この防振ゴム材が床版を支持する構造は上記する従来の防振床構造と何ら変わりはなく、従って、上記課題を内包する床構造となる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、遮音性能に優れ、耐荷重性を備えている防振床構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による防振床構造の一態様は、
建物の上階の床と、該床を支持する梁と、を備える防振床構造であって、
前記梁には、該梁の有するバネ定数K1よりも小さなバネ定数K2を備える第一支持部材が取り付けられ、
前記第一支持部材の上に、前記バネ定数K1よりも小さなバネ定数K3を備える第二支持部材が載置されており、
前記第二支持部材が前記床を支持していることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、梁に対して、梁の有するバネ定数K1よりも小さなバネ定数K2を備える第一支持部材が取り付けられ、同様にバネ定数K1よりも小さなバネ定数K3を備える第二支持部材が第一支持部材に載置されていること、すなわち、第一支持部材と第二支持部材が鉛直方向に直列に配設されていて、第二支持部材が床を支持していることにより、第一支持部材と第二支持部材からなる全体の支持部材のバネ定数(総バネ定数)をK2やK3よりも小さなK4にすることができ、可及的に小さなバネ定数を備えた支持部材(ユニット)にて床を支持することが可能になる。一つの支持部材(防振材)のみで床を支持する場合には、支持部材(防振材)のバネ定数を小さくすることにより耐荷重性も小さくなる背反を有していることに対して、本態様では、複数の支持部材を鉛直方向に直列配置することにより、各支持部材のバネ定数を小さくし過ぎることなく総バネ定数を小さくできるため、各支持部材の耐荷重性の低下を抑制でき、遮音性能に優れ、耐荷重性を備えている防振床構造を形成することが可能になる。また、複数の支持部材によって総バネ定数を小さくすることにより、各支持部材のバネ定数を小さくし過ぎることを抑制できることから、各支持部材のクリープの進行を抑制でき、クリープの進行に起因して経年的に安定した性能発揮ができなくなるといった問題も生じ難い。
【0011】
ここで、梁のバネ定数K1は、例えば梁の単位長さ当たりのバネ定数として設定でき、第一支持部材のバネ定数K2や第二支持部材のバネ定数K3は、梁の単位長さに相当する長さもしくは単位長さ内に存在する支持部材のバネ定数として設定できる。
【0012】
尚、第一支持部材の上に第二支持部材が載置され、第二支持部材が床を支持する形態には、第二支持部材がさらに第三支持部材と第四支持部材により構成され、第一支持部材の上に第三支持部材が載置され、第三支持部材の上に第四支持部材が載置される形態、すなわち、三つの支持部材が鉛直方向に直列配置される形態や、さらに四つ以上の支持部材が鉛直方向に直列配置される形態も含まれる。
【0013】
尚、第一支持部材と第二支持部材を介して梁に支持される床は、例えば、乾式の床版、防音マット、フロアマット等が積層されることにより形成できる。
【0014】
また、本発明による防振床構造の他の態様において、
前記梁の側面には、該梁の上端よりも下方において、前記第一支持部材が取り付けられていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、梁の側面において、梁の上端よりも下方に第一支持部材が取り付けられていることにより、第一支持部材と第二支持部材を鉛直方向に直列配置しながらも、第二支持部材による床の支持レベルが高くなることを抑制できる。
【0016】
また、本発明による防振床構造の他の態様において、
前記梁の上面に前記第一支持部材が取り付けられ、該第一支持部材における前記第二支持部材の載置位置が該梁の上端よりも下方にあることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、梁の上面に第一支持部材が取り付けられ、第一支持部材における第二支持部材の載置位置が梁の上端よりも下方にあることにより、第一支持部材と第二支持部材を鉛直方向に直列配置しながらも、第二支持部材による床の支持レベルが高くなることを抑制できる。例えば、第一支持部材の断面形状をハット型とし、第一支持部材の中央領域に比べて両側の側方領域が下方へ落ち込み、この落ち込んでいる側方領域に第二支持部材を載置することにより、第一支持部材における第二支持部材の載置位置を梁の上端よりも下方に配設することが可能になる。
【0018】
また、本発明による防振床構造の他の態様において、
前記第二支持部材が前記梁の上端よりも下方に配設され、
前記床には、前記梁の上端が収容される収容溝が設けられていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、第二支持部材が梁の上端よりも下方に配設されるとともに、床には梁の上端が収容される収容溝が設けられていることにより、第一支持部材と第二支持部材を鉛直方向に直列配置した姿勢で床を支持しながらも、床の設置レベルを可及的に低く設定することができる。
【0020】
また、本発明による防振床構造の他の態様において、
前記梁がH形鋼により形成され、
前記H形鋼の側方に取り付けプレートが取り付けられ、
前記取り付けプレートに対して、前記梁の長手方向に延設する前記第一支持部材が取り付けられ、
前記第一支持部材の上方に、前記長手方向に間隔を置いて配設される複数の前記第二支持部材、もしくは前記長手方向に延設する前記第二支持部材が載置されていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、H形鋼からなる梁の側方に取り付けられている取り付けプレートに対して、梁の長手方向に延設する第一支持部材が取り付けられ、第一支持部材に対して第二支持部材が載置されていることにより、梁に強固に接続されている第一支持部材を介して第二支持部材を安定的に支持することができ、結果として、第一支持部材と第二支持部材を介して床を安定的に梁により支持することが可能になる。ここで、梁の長手方向に延設する第一支持部材に載置される第二支持部材は、第一支持部材と同様に梁の長手方向に延設する帯状の形態であってもよいし、複数のピース状の形態が第一支持部材の長手方向に間隔を置いて載置されてもよい。
【0022】
また、本発明による防振床構造の他の態様において、
前記第一支持部材が、断面視L型もしくはコ型の鋼製の防振材により形成され、
前記第二支持部材が、樹脂製の防振材により形成されることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、第一支持部材が断面視L型もしくはコ型の鋼製の防振材によって形成されることにより、適度な剛性と弾性を有して床の重量を梁に伝達することができ、第二支持部材が樹脂製の防振材によって形成されることにより、可及的に小さなバネ定数K3にて床衝撃音の周波数低減効果を高めることができる。
【0024】
ここで、断面視L型の鋼製の防振材は、山形鋼や、二枚の平鋼を溶接することにより形成でき、断面視コ型の鋼製の防振材は、溝形鋼や、三枚の平鋼を溶接することにより形成できる。また、樹脂製の防振材は、ゴム等により形成される。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の防振床構造によれば、遮音性能に優れ、耐荷重性を備えている防振床構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態に係る防振床構造の一例の縦断面図である。
図2】第1実施形態に係る防振床構造の一例の一部の斜視図である。
図3】第2実施形態に係る防振床構造の一例の縦断面図である。
図4】第3実施形態に係る防振床構造の一例の縦断面図である。
図5】第4実施形態に係る防振床構造の一例の縦断面図である。
図6】性能評価実験にて使用した比較例に係る防振床構造の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、各実施形態に係る防振床構造について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[第1実施形態に係る防振床構造]
はじめに、図1及び図2を参照して、第1実施形態に係る防振床構造の一例について説明する。ここで、図1は、第1実施形態に係る防振床構造の一例の縦断面図であり、図2は、第1実施形態に係る防振床構造の一例の一部の斜視図である。尚、図2は、梁10の一方側の第二支持部材40に床版60が載置されている状態を示しており、他方の第二支持部材40に載置される床版の図示を省略しており、さらに、床50を構成する各種マット材を省略して示している。
【0029】
図示する防振床構造100は、建物の上階(例えば、二階や三階)の床50と、床50を支持する梁10とを有する。図示例の梁10は、ウェブ11と上フランジ12と下フランジ13とを有するH形鋼により形成される。
【0030】
図2に示すように、梁10の長手方向には、間隔t1を置いて、複数の取り付けプレート20が上フランジ12と下フランジ13に溶接接合されている。尚、図2において、視認不可なH形鋼10の反対側にも同様に複数の取り付けプレート20が取り付けられている。
【0031】
複数の取り付けプレート20に対して、山形鋼により形成される第一支持部材30がボルト25を介して接合されている。ここで、第一支持部材30も、梁10の長手方向に沿って延設する帯状の部材であり、長手方向に間隔t2を置いて複数の補強リブ31が溶接接合されている。尚、第一支持部材は、山形鋼の他にも、溝形鋼等の他の形態の形鋼材により形成されてもよい。また、第一支持部材は、図示例のように長手方向に延設する帯状の形態の他にも、長手方向に延設するピース状の形態であってもよい。
【0032】
図1及び図2に示すように、第一支持部材30の上端30aは、梁10の上フランジ12の上端12aよりも下方に位置する姿勢で、第一支持部材30は複数の取り付けプレート20にボルト接合されている。
【0033】
梁10の両側にある第一支持部材30のそれぞれの上端30aには、梁10及び第一支持部材30と同様に、長手方向に延設する帯状の第二支持部材40が載置されている。第二支持部材40は、ゴムや、発泡ウレタン等の粘弾性材により形成される。例えば、第一支持部材30の上端30aに対して、接着剤を介して第二支持部材40が固定される。尚、第二支持部材も第一支持部材と同様に、図示例のように長手方向に延設する帯状の形態の他にも、複数のピース状の形態であってもよい。
【0034】
第一支持部材30は、例えば、補強リブ31の間の間隔t2を長手方向の単位幅とした際に、この単位幅当たりのバネ定数K2を備えた防振材であり、バネ定数K2は、梁10の単位幅当たりのバネ定数K1よりも格段に小さいバネ定数である(K2<K1)。
【0035】
一方、第二支持部材40は、梁10のバネ定数K1は勿論のこと、第一支持部材30のバネ定数K2よりも小さい単位幅当たりのバネ定数K3を備えた防振材である(K3<K2)。
【0036】
図1及び図2に示すように、梁10の両側において、取り付けプレート20を介して梁10に接続されている第一支持部材30と、第一支持部材30の上方に載置されている第二支持部材40は、鉛直方向に直列配置されている。そして、相互に直列関係にある第一支持部材30と第二支持部材40の上に床50が支持されている。
【0037】
床50は、複数の乾式の床版60と、水平方向に敷設された複数の床版60の上に敷設される床マット70とを有する。床版60には、既述するALC床版や、プレキャストコンクリート床版(PCa床版、PCaパネル)等が適用される。
【0038】
図示例の床マット70は、二重の防音マット71,72と、パーチクルボード73と、フロアマット74が積層することにより形成されている。
【0039】
図1に示すように、図示例の防振床構造100では、梁10の上フランジ12の直上に一定幅の隙間60aを備えた状態で隣接する床版60が配設され、この隙間60aにおいて、上フランジ12の上端12aに緩衝材81が載置され、緩衝材81の上に床版ブロック82が載置され、床版ブロック82の周囲に別途の緩衝材83が配設されている。
【0040】
バネ定数K2の第一支持部材30とバネ定数K3の第二支持部材40が鉛直方向に直列配置されることにより、第一支持部材30と第二支持部材40による総バネ定数が小さくなることは、フックの法則を用いた式展開により、一般に知られる内容である。すなわち、バネ定数K2の第一支持部材30とバネ定数K3の第二支持部材40の直列配置の場合の総バネ定数K4は、1/K4=1/K2+1/K3と表すことができ、K4は、K2やK3よりも小さくなることが分かる。
【0041】
このように、第一支持部材30と第二支持部材40が鉛直方向に直列に配設されていて、第二支持部材40が床50を支持していることにより、第一支持部材30と第二支持部材40からなる全体の支持部材のバネ定数(総バネ定数)を、各支持部材30,40のバネ定数K2,K3よりも小さなバネ定数K4にすることができ、可及的に小さなバネ定数を備えた支持部材(ユニット)にて床50を支持することが可能になる。
【0042】
すなわち、一つの支持部材(防振材)のみで床50を支持する場合には、支持部材(防振材)のバネ定数を小さくする(小さくし過ぎる)ことにより耐荷重性も小さくなる背反を有していることに対して、複数(図示例は二つ)の支持部材30,40を鉛直方向に直列配置することにより、各支持部材30,40のバネ定数K2,K3を小さくし過ぎることなく総バネ定数を小さくできるため、各支持部材30,40の耐荷重性の低下を抑制できる。このことにより、遮音性能に優れ、耐荷重性を備えている防振床構造100を形成することができる。
【0043】
また、第一支持部材30が鋼製の山形鋼により形成される防振材であることから、適度な剛性と弾性を有して床50の重量を梁10に伝達することができる。一方、第二支持部材40が樹脂製の防振材であることから、可及的に小さなバネ定数K3にて床衝撃音の周波数低減効果を高めることができる。
【0044】
また、複数の支持部材30,40によって総バネ定数を小さくすることにより、各支持部材30,40のバネ定数K2,K3を小さくし過ぎることを抑制できることから、各支持部材30,40のクリープの進行を抑制でき、クリープの進行に起因して経年的に安定した性能発揮ができなくなるといった問題も生じ難い。
【0045】
また、ゴム等により形成される防振材を単独で使用する場合には、その遮音性能を高めるべく、一般的でない組成のゴムを素材とした防振材が適用されることがあり、このようなケースでは防振材の材料コストの高騰が大きな問題となり得る。これに対して、防振床構造100では、複数の支持部材30,40によって総バネ定数を小さくできることから、第二支持部材40には汎用品(一般的なゴム等)を適用することができ、材料コストの増加を抑止できる。
【0046】
さらに、梁10の側面において、梁10の上フランジ12の上端12aよりも下方に第一支持部材30が取り付けられていることにより、第一支持部材30と第二支持部材40を鉛直方向に直列配置しながらも、第二支持部材40による床の支持レベルが高くなることを抑制できる。
【0047】
[第2実施形態に係る防振床構造]
次に、図3を参照して、第2実施形態に係る防振床構造の一例について説明する。ここで、図3は、第2実施形態に係る防振床構造の一例の縦断面図である。
【0048】
図示する防振床構造100Aは、梁10の上フランジ12の上端12aに、圧縮バネや皿バネ等により形成される第一支持部材30Aが載置され、第一支持部材30Aの上にゴム等により形成される第二支持部材40Aが載置され、第二支持部材40Aに床50が載置されている。
【0049】
防振床構造100Aでは、図1及び図2に示す防振床構造100とほぼ同様の様々な効果が奏されることに加えて、取り付けプレート20等が不要になることから、施工コストの削減効果を高めることができる。
【0050】
[第3実施形態に係る防振床構造]
次に、図4を参照して、第3実施形態に係る防振床構造の一例について説明する。ここで、図4は、第3実施形態に係る防振床構造の一例の縦断面図である。
【0051】
図示する防振床構造100Bは、梁10の上フランジ12の上端12aに、断面形状がハット型で鋼製の第一支持部材30Bが載置されている。より詳細には、ハット型の上方に突の中央領域30bが上フランジ12の上端12aの上に載置されている。そして、ハット型の下方に突の両側の側方領域30cの上に、第二支持部材40が載置されている。
【0052】
防振床構造100Bによれば、防振床構造100と同様に、第一支持部材30Bと第二支持部材40を鉛直方向に直列配置しながらも、梁10の上フランジ12の上端12aよりも下方に第二支持部材40の載置レベルを設定できるため、第二支持部材40による床の支持レベルが高くなることを抑制できる。さらに、防振床構造100Aと同様に、取り付けプレート20等が不要になることから、施工コストの削減効果を高めることができる。
【0053】
[第4実施形態に係る防振床構造]
次に、図5を参照して、第4実施形態に係る防振床構造の一例について説明する。ここで、図5は、第4実施形態に係る防振床構造の一例の縦断面図である。
【0054】
図示する防振床構造100Cは、図1及び図2に示す防振床構造100と同様に、梁10に取り付けられた取り付けプレート20に対して山形鋼により形成される第一支持部材30が取り付けられ、第一支持部材30に第二支持部材40が載置されている形態であるが、防振床構造100に比べて、取り付けプレート20の下方位置に第一支持部材30が取り付けられ、第二支持部材40の上端40aが梁10の上フランジ12の上端12aよりも下方に位置している。
【0055】
そして、床50Aを形成する床版60Aには、梁10の上端が収容される収容溝61が設けられており、収容溝61に梁10の上端が収容されることにより、梁10よりも下方に位置する第二支持部材40の上端40aに対して、床版60Aの下面62を載置することを可能にしている。
【0056】
防振床構造100Cによれば、防振床構造100と同様の様々な効果が奏されることに加えて、第一支持部材30と第二支持部材40を鉛直方向に直列配置した姿勢で床を支持しながらも、床50Aの設置レベルを可及的に低く設定することが可能になる。
【0057】
[性能評価実験]
本発明者等は、第1実施形態に係る防振床構造100の性能を評価する実験を行った。本実験では、防振床構造100を実施例とし、図6に示す従来構造の防振床構造を比較例とした。ここで、図6に示す防振床構造は、H形鋼により形成される梁Bを備え、梁Bの上フランジB1の上端に、防振床構造100の第二支持部材40(ゴム)と同素材の防振材Vが載置され、鉛直方向に単独の防振材Vにて床Fが支持される従来一般の防振床構造である。床Fは、防振床構造100の床50と同様に、床版Sと、四層の各種マットM1、M2,M3,M4が積層した床マットMとを有する。
【0058】
実施例と比較例の各防振床構造を構成する床の床面において、重量床衝撃音を発生させ、各周波数域における衝撃音レベルを計測した。ここで、重量床衝撃音は、床上を飛び跳ねた音や歩行音等を模擬している。以下、表1に実験結果を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1より、重量床衝撃音の周波数のうち、可聴域である63Hzにおいて、実施例は比較例に比べて2.5dBも周波数を低減することができ、遮音性能の向上(可聴域から離すこと)が実証されている。
【0061】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0062】
10:梁(H形鋼)
11:ウェブ
12:上フランジ
12a:上端
13:下フランジ
20:取り付けプレート
25:ボルト
30,30A,30B:第一支持部材(支持部材)
30a:上端
30b:中央領域
30c:側方領域
31:補強リブ
40,40A:第二支持部材(支持部材)
40a:上端
50,50A:床
60,60A:床版
60a:隙間
61:収容溝
62:下面
70:床マット
71,72:防音マット
73:パーチクルボード
74:フロアマット
81:緩衝材
82:床版ブロック
83:緩衝材
100,100A,100B,100C:防振床構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6