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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144624
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】消化液の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/04 20060101AFI20220926BHJP
   C02F 1/20 20060101ALI20220926BHJP
   B09B 3/65 20220101ALI20220926BHJP
【FI】
C02F11/04 A
C02F1/20 B ZAB
B09B3/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045707
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】上沼 晃
(72)【発明者】
【氏名】西川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】小園 正樹
(72)【発明者】
【氏名】菊池 修
(72)【発明者】
【氏名】和田 祐司
【テーマコード(参考)】
4D004
4D037
4D059
【Fターム(参考)】
4D004AA01
4D004BA03
4D004CA12
4D004CA15
4D004CA18
4D004CB27
4D004CC02
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA10
4D004DA11
4D004DA12
4D037AA12
4D037AB12
4D037BA23
4D037BB01
4D037BB04
4D037CA07
4D059AA01
4D059AA03
4D059AA07
4D059AA08
4D059AA23
4D059BA12
4D059BA56
4D059BJ12
4D059BK08
4D059BK15
4D059EB01
4D059EB15
4D059EB16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】消化液の窒素成分濃度を調整しなくても、消化液を生物処理する温度と同程度の温度にて、低エネルギーで効率よく、容易にアンモニア態窒素をアンモニアガスとして除去することができる、消化液の処理方法を提供する。
【解決手段】アンモニア分離槽30にて、有機性廃棄物をメタン発酵処理した後の、アンモニア態窒素と懸濁性浮遊物(SS)とを含む消化液を処理する方法であって、アンモニア分離槽には、消化液における全容積の上部20%より下の位置に散気管32を有し、前記分離槽内における消化液の温度が30℃以上40℃以下の条件にて、散気管から、ガス流量が、前記消化液1Lに対して、0.1(L/min.)以上0.5(L/min.)未満で消化液に曝気することにより、アンモニア態窒素をアンモニアガスとして除去する工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア分離槽内にて、有機性廃棄物をメタン発酵処理した後の、アンモニア態窒素と懸濁性浮遊物(SS)とを含む消化液を処理する方法であって、
前記分離槽内には、前記消化液における全容積の上部20%より下の位置に散気管を有し、
前記分離槽内における前記消化液の温度が30℃以上40℃以下の条件にて、前記散気管から、空気の流量が、前記消化液1Lに対して、0.1(L/min.)以上0.5(L/min.)未満で前記消化液に曝気することにより、前記アンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去する工程を含む、
消化液の処理方法。
【請求項2】
ドラフトチューブを用いることにより、前記消化液の循環流を形成して、前記曝気を行う、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記分離槽内には、前記散気管の位置より上部に水中ミキサーを有し、
前記消化液を前記水中ミキサーによって攪拌しながら前記曝気を行う、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記消化液中に含まれる前記懸濁性浮遊物(SS)の含有量が、固形分換算で、10,000mg/L以上44,000mg/L以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項5】
前記除去工程において、前記消化液への曝気時間が24時間以内である、請求項1~4のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項6】
前記ガスには、前記アンモニアガスと炭酸ガスが含まれる、請求項1~5のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項7】
前記除去工程の後に、前記ガスからアンモニアガスを回収する工程を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物のバイオマス利用に関する。詳しくは、有機性廃棄物をメタン発酵処理した後の、アンモニア態窒素と懸濁性浮遊物とを含む消化液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇性、気候変動リスク、及び大気汚染の影響等の環境負荷の増大により、バイオマス利用の促進が不可欠となっている。有機性廃棄物のバイオマス利用としては、メタン発酵が多く利用されている。メタン発酵は、有機性廃棄物から微生物による嫌気性消化処理によりメタンガスを発生させ、メタンガスをエネルギーとして回収するバイオガス利用技術である。嫌気性消化とは、メタン生成菌の活動により、有機物を分解し、メタンガスを発生させるものであるが、メタン発酵処理した後の消化液には、タンパク質やアミノ酸の分解によりアンモニア態窒素、及び懸濁性浮遊物(以下、「SS」とも称する)が含まれている。
【0003】
アンモニア態窒素を含有する消化液は、液肥等として活用されることもあるが、国内の農家の減少や流通の問題等、並びに高濃度に含有するアンモニア態窒素による土壌汚染の懸念により、通常は、液肥等としての活用が難しい。そのため、消化液中のアンモニア態窒素を生物処理によって窒素ガスとして除去した後、処理排水として河川に放流されている。生物処理後の処理排水を河川に放流する際には、処理排水の窒素含有量を排水基準値以下に低減させる必要がある。
【0004】
しかし、消化液は、メタン発酵処理で一度生物処理された残渣であるため、生物分解を受けにくい。そのため、従来の活性汚泥処理を適用して、排水基準値以下の処理排水を得るには、一般的な有機系排水の処理と比べて長時間の生物処理が必要となり、排水を貯留して処理するための大容量の水槽が必要となる。また、生物処理に必要な空気を送り込むブロワは、排水処理設備において電力費の大半を占めるため、水槽の大容量化に伴い、そのランニングコストも増加する。
【0005】
そこで、特許文献1には、特定の処理設備を用いることによって、生物分解を受けにくい排水を浄化する技術が開示されている。
また、消化液を生物処理する前に、アンモニアストリッピング処理等により、窒素成分の濃度を生物処理に適した濃度に調整する技術もある(例えば、特許文献2)。アンモニアストリッピング処理は、アンモニアの性質を活かし、消化液のpHを高く調整し、温度上昇させ、且つ、高い気液比で曝気することにより、液中からアンモニアが揮散されることを利用して、液中のアンモニウムイオンや遊離のアンモニア濃度を低減させる技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-188360号公報
【特許文献2】特開2009-66557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の技術では、食品及び畜産等の工場の規模、季節変動、排水濃度、並びに排水量等の諸条件に応じて、処理設備や条件を設計しなければならず、コストが増大し、現実的ではない。
【0008】
アンモニアストリッピング処理は、多量のエネルギー、及び高価な化学薬品を使用する必要があるため、汎用性に乏しい。また、SSが多い消化液をアンモニアストリッピング処理するためには、ろ過等により予めSSを除去する前処理工程が必要となる。そして、消化液は、通常、粘性が高く、タンパク質の含有量も多いことから、排水を曝気すると泡が発生するため、消泡剤等の使用が必要となり、運用上曝気量に制約がある。この場合、水温を上げることで一部改善されることもあるが、後の生物処理に供する水温は、通常25℃以上30℃以下であり、この水温に調整するための工程が必要となり、煩雑となる。それゆえ、消化液を生物処理する前に、窒素成分の濃度を生物処理に適した濃度に調整することは容易ではなく、工場の規模に応じて、処理設備や条件を設計しなければならず、コストが増大する。
【0009】
更に、消化液におけるアンモニア態窒素を生物処理すると、硝化工程の際に一酸化二窒素などの温室効果ガスが発生する。一方、アンモニアは、燃焼により二酸化炭素を排出しないため、燃料としての可能性が注目され、次世代エネルギーとして期待されている。そこで、アンモニア態窒素から除去したアンモニアを回収して、活用することが可能であれば、生物処理における一酸化二窒素などの温室効果ガスの削減と共に、メタン発酵の普及、及びバイオマスの利用促進の一助となることが期待される。
【0010】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、食品及び畜産等の工場の規模、季節変動、排水濃度、並びに排水量等の諸条件に応じて処理設備や条件を設計せず、消化液を生物処理する前に窒素成分の濃度を生物処理に適した濃度に調整しなくても、消化液を生物処理する温度と同程度の温度にて、SSが多い消化液から、低エネルギーで効率よく、容易に、アンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去することができる、消化液の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究した結果、アンモニア分離槽内にて、有機性廃棄物をメタン発酵処理した後の、アンモニア態窒素と懸濁性浮遊物(SS)とを含む消化液を特定の条件にて処理することで、アンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
[1]アンモニア分離槽内にて、有機性廃棄物をメタン発酵処理した後の、アンモニア態窒素と懸濁性浮遊物(SS)とを含む消化液を処理する方法であって、前記分離槽内には、前記消化液における全容積の上部20%より下の位置に散気管を有し、前記分離槽内における前記消化液の温度が30℃以上40℃以下の条件にて、前記散気管から、空気の流量が、前記消化液1Lに対して、0.1(L/min.)以上0.5(L/min.)未満で前記消化液に曝気することにより、前記アンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去する工程を含む、消化液の処理方法。
【0013】
[2]ドラフトチューブを用いることにより、前記消化液の循環流を形成して、前記曝気を行う、[1]に記載の処理方法。
【0014】
[3]前記分離槽内には、前記散気管の位置より上部に水中ミキサーを有し、前記消化液を前記水中ミキサーによって攪拌しながら前記曝気を行う、[1]又は[2]に記載の処理方法。
【0015】
[4]前記消化液中に含まれる前記懸濁性浮遊物(SS)の含有量が、固形分換算で、10,000mg/L以上44,000mg/L以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の処理方法。
【0016】
[5]前記除去工程において、前記消化液への曝気時間が24時間以内である、[1]~[4]のいずれかに記載の処理方法。
【0017】
[6]前記ガスには、前記アンモニアガスと炭酸ガスが含まれる、[1]~[5]のいずれかに記載の処理方法。
【0018】
[7]前記除去工程の後に、前記ガスからアンモニアガスを回収する工程を更に含む、[1]~[6]のいずれかに記載の処理方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の消化液の処理方法によれば、食品及び畜産等の工場の規模、季節変動、排水濃度、並びに排水量等の諸条件に応じて処理設備や条件を設計せず、消化液を生物処理する前に窒素成分の濃度を生物処理に適した濃度に調整しなくても、消化液を生物処理する温度と同程度の温度にて、SSが多い消化液においても、低エネルギーで効率よく、容易に、アンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る消化液の処理方法を説明するための一例(概略図)である。
図2】実施例及び比較例における、散気管の位置とアンモニア除去率とを示す図である。
図3】実施例及び比較例における、消化液1Lに対する曝気量とアンモニア除去率とを示す図である。
図4】水中ミキサーのみ用いたときのアンモニア除去率を示す図である。
図5】実施例及び比較例における、SSの含有量とアンモニア除去率とを示す図である。
図6】実施例における、消化液の温度とアンモニア除去率とを示す図である。
図7】実施例における、水中ミキサーの攪拌速度を上げた場合の、散気管の位置とアンモニア除去率とを示す図である。
図8】実施例における、アンモニア除去率、炭酸ガス除去率、及び消化液のpHと、曝気時間とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で、適宜に変形して実施できる。
なお、本実施形態に係る消化液の処理方法を説明するための一例(概略図)を図1に示すが、本実施形態は、この概略図に何ら限定されない。
【0022】
[消化液の処理方法]
本実施形態の消化液の処理方法は、アンモニア分離槽内にて、有機性廃棄物をメタン発酵処理した後の、アンモニア態窒素と懸濁性浮遊物(SS)とを含む消化液を処理する方法であって、前記分離槽内には、前記消化液における全容積の上部20%より下の位置に散気管を有し、前記分離槽内における前記消化液の温度が30℃以上40℃以下の条件にて、前記散気管から、空気の流量が、前記消化液1Lに対して、0.1(L/min.)以上0.5(L/min.)未満で前記消化液に曝気することにより、前記アンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去する工程を含む。
また、消化液の処理方法は、アンモニアガスを含むガスとして除去する工程の後に、除去されたガスからアンモニアガスを回収する工程を更に含むことが好ましい。
消化液の処理方法により処理された処理液(以下、「消化液処理液」とも称する)は、静置され、上澄み液(以下、「処理水」とも称する)と、沈殿汚泥物とに分離される。
【0023】
〔メタン発酵〕
(有機性廃棄物)
本実施形態では、例えば、図1の排水処理システムに示すとおり、有機性廃棄物を含む排水(原水)をメタン発酵槽に導入して、発酵槽内でメタン発酵処理した後の消化液を用いる。ここで、有機性廃棄物とは、有機性の廃棄物であってメタン発酵ができるものであれば特に限定されず、例えば、作物、食品廃棄物、生ゴミ、水産加工廃棄物、屎尿及び糞尿などの家畜排せつ物、下水汚泥、並びに浄化槽汚泥を例示することができる。
【0024】
(メタン発酵処理方法)
メタン発酵処理方法としては、例えば、有機性廃棄物に公知のメタン発酵菌等の微生物を作用させる等、公知の有機性廃棄物のメタン発酵処理方法を適用することができる。
メタン発酵処理は、通常、低分子有機物に分解する可溶化及び加水分解反応、酸生成菌による酸生成反応、酢酸生成反応、及びメタン生成菌によるメタン発酵反応の4つの反応を含む。加水分解反応では、廃水に含まれる有機物(例えば、多糖類、脂質、クエン酸、及び酢酸等)が加水分解され、低分子有機物(例えば、単糖類、グリセリン、及び長鎖脂肪酸類等)が生成する。酸生成反応では、低分子有機物が更に分解され、低級脂肪酸(例えば、プロピオン酸、酪酸、及び酢酸等)、アルコール、及びアルデヒド等が生成する。酢酸生成反応では、酢酸と水素を生成する。メタン発酵反応では、低級脂肪酸が更に分解され、メタン等が生成する。酸生成反応、及びメタン発酵反応は、それぞれ、嫌気性微生物によるもので、嫌気性条件下で行われる。
【0025】
(メタン発酵処理槽)
メタン発酵処理に用いられるメタン発酵槽は、任意の公知の処理槽を用いることができ、特に限定されない。メタン発酵槽としては、例えば、全ての反応を一槽で行う一槽式装置、及び酸生成反応までの反応とメタン発酵反応とを個別の反応槽で行う二槽式装置等が挙げられる。各工程には、好適なpHが存在し、酸生成反応の最適なpHは5.5~6.5程度であり、メタン発酵反応の最適なpHは7~8程度である。
メタン発酵槽には、図1に示すとおり、例えば、発酵槽内を攪拌する水中撹拌機や、槽内の温度を一定に保つ、温水配管等を備えていてもよい。また、メタン発酵槽には、酸生成処理水のpH、酸化還元電位、及びアンモニア濃度等を測定する各種測定機器を備えていてもよい。
【0026】
〔消化液の処理〕
(消化液)
本実施形態に係る消化液は、有機性廃棄物をメタン発酵処理した後の処理液(メタン発酵処理水)であり、少なくとも、アンモニア態窒素と懸濁性浮遊物(SS)とを含む。消化液には、二酸化炭素(炭酸イオン)、及び金属塩(例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウム等)等を含んでいてもよい。ここで、アンモニア態窒素とは、例えば、窒素成分のうちアンモニウム塩が挙げられる。このようなアンモニア塩としては、例えば、メタン発酵処理において、タンパク質、及びアミノ酸が酸生成反応により生じたものが挙げられる。具体的には、例えば、炭酸アンモニウムが挙げられる。また、懸濁性浮遊物とは、有機性廃棄物をメタン発酵処理した後に生じる、水を濁している不溶性の物質である。通常、懸濁性浮遊物には、メタン発酵菌により分解が進まなかった難溶解性の有機物や、無機物の結晶が混在している。
【0027】
消化液中に含まれる懸濁性浮遊物の含有量は、SSが含まれない条件に比べ、SSを含む排水でのアンモニア態窒素の除去率は低下するが、固形分換算で、10,000mg/L以上44,000mg/L以下ではアンモニア態窒素の除去率とSS量に相関はなく、SSを除去せず処理する条件では10,000mg/L以上が好ましい。SSの含有量が前記範囲にあることにより、SS含有する排水での対流による攪拌の効果を有し、かつ、低曝気にて効率的に、アンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去できる傾向にある。
【0028】
(消化液の処理方法)
消化液は、アンモニア分離槽に移送され、貯留される。その後、消化液は、アンモニア分離槽内において、消化液の温度が30℃以上40℃以下の条件にて、消化液における全容積の上部20%より下に位置する散気管から排出される空気によって、その空気の流量が、消化液1Lに対して、0.1(L/min.)以上0.5(L/min.)未満で消化液に曝気することにより、処理される。その処理によって、食品及び畜産等の工場の規模、季節変動、排水濃度、並びに排水量等の諸条件に応じて処理設備や条件を設計せず、消化液を生物処理する前に窒素成分の濃度を生物処理に適した濃度に調整しなくても、消化液を生物処理する温度と同程度の温度にて、SSが多い消化液においても、低エネルギーで効率よく、容易に、アンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去することができる。なお、本実施形態において、消化液における全容積の「上部」とは、アンモニア分離槽における有底面に対して、消化液中における最も高い液面を意味する。散気管は、この液面から有底面に向かって、消化液の全容積に対して20%より下に位置する。
【0029】
本実施形態によれば、消化液中に含まれるアンモニア態窒素が、アンモニアガスを含むガスとして除去される理由について定かではないが、本発明者らは、次のように推定している。例えば、アンモニアストリッピング処理のように、空気の流量が、消化液1Lに対して、0.5(L/min.)以上の高曝気にて行われた場合、空気にアンモニアガスを含むガスが移行される量が飽和せず、アンモニア態窒素を、曝気量に対してアンモニアガスを含むガスとして除去する効果は減少する。同様に、水表面での曝気は、消化液中において対流が発生して、この対流が不十分となると、高曝気で乱流を起こしても、消化液中の一部において、アンモニアガスを含むガスが除去されないと考えられる。このことは、消化液中のアンモニア態窒素の濃度が低くなるについて顕著になる。すなわち、通常、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去する場合、消化液全体を適切な曝気量により攪拌しながら乱流を起こすことで、アンモニアガスを含むガスと接触する水の表面積を増加させることが効果的と考えられる。一方、アンモニア分離槽内において、消化液の温度を30℃以上40℃以下の条件にて、消化液における全容積の上部20%より下に散気管を位置し、この散気管から、空気の流量が、消化液1Lに対して、0.1(L/min.)以上0.5(L/min.)未満で消化液に曝気すると、空気にアンモニアガスを含むガスが移行され、曝気深度の影響を受けず攪拌が可能となり、SSが多い消化液においても、低エネルギーで効率よく、容易に、アンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去することができると推定される。なお、空気の流量が、消化液1Lに対して、0.1(L/min.)未満では、対流も乱流も生じず、曝気された空気へのアンモニアガスを含むガス移行以外の効果が認められないことにより、アンモニアガスを含むガスとして除去することができないと考えられる。
【0030】
メタン発酵は、発酵温度の違いによって中温発酵と高温発酵がある。中温発酵は35℃付近で、高温発酵は55℃付近で活性するメタン生成菌により発酵を行う方法である。一般に中温発酵は、高温発酵に比べ、負荷変動やアンモニア阻害に強いことから多くの施設に導入されている。メタン発酵後の消化液は、本実施形態に係る処理方法によりアンモニアを除去した後、その処理水は、生物処理設備に移送されて、生物処理される。ここで、生物処理に供する水温は、生物活性を有する点から、25℃以上30℃以下程度が好適である。本実施形態では、この好適な水温付近で消化液を処理することができるため、処理水をそのまま生物処理設備に移送することができる。そのため、水温を調整するための工程(設備)を必要としないため、消化液の処理方法は、効率的であり、汎用が高い。消化液の温度は、汎用的なメタン発酵温度である、30℃以上40℃以下であることが好ましい。
【0031】
散気管は、アンモニアガスを含むガスをより効率的に除去でき、消化液全体をより好適に攪拌できることから、消化液における全容積の上部30%より下に位置することが好ましく、消化液における全容積の上部40%より下に位置することが好ましい。下限は、アンモニア分離槽の底面に散気管を設置してもよいが、アンモニアガスを含むガスをより効率的に除去でき、水圧による曝気にかかる電力の点を考慮すると、50%より上に位置することが好ましい。
【0032】
空気の流量は、アンモニアガスを含むガスをより効率的に除去でき、空気の流量に対する除去率及び電力等の理由から、消化液1Lに対して、0.1(L/min.)以上0.4(L/min.)以下であることが好ましい。ここで、空気とは、大気中の空気と同義である。なお、曝気には、空気以外の、窒素ガス等のガスを用いてもよい。
【0033】
アンモニアガスを含むガスには、通常、アンモニアガスに加えて、メタン発酵処理より生じた炭酸ガス、及び水蒸気等が含まれる。ここで、メタン発酵処理した後の初期の消化液は、炭酸ガスなどが多く含まれるため、消化液は、消化液の温度が35℃付近で、比較的弱アルカリ性(pH7.5~8.0程度)を示す。しかし、消化液中におけるアンモニア態窒素は、緩衝作用を有するため、アンモニアガスとして除去するためには、消化液をよりアルカリ性にすることが好ましい。この点、本実施形態によれば、消化液中の大部分の炭酸ガスは、アンモニア分離槽及びSS等への衝撃等により消化液中から容易に揮発されやすく、また、消化液中における他の溶存ガスに比べて曝気された空気へ移行されやすいことから、消化液の処理の比較的初期のうちに除去される。それゆえ、消化液の処理が進むにつれて、消化液はアルカリ側にシフトして、アンモニアガスが除去されやすくなる。なお、消化液のpHは、アンモニアガスを効率的に除去でき、pHと遊離アンモニアガスの存在率の関係から、消化液の温度が35℃付近で、8.0以上であることが好ましい。
【0034】
消化液の曝気時間は、特に限定されないが、24時間以内であることが好ましく、18時間以内であることがより好ましい。本実施形態によれば、比較的短時間の曝気で効率的にアンモニアガスを含むガスを除去できる。なお、曝気は、連続であっても、間欠であってもよい。なお、間欠の場合、曝気時間は、全曝気の時間が、前記範囲にあることを意味する。
【0035】
消化液の処理方法は、バッチ式であっても、連続式であってもよいが、アンモニアガスを含むガスをより効率的に除去でき、新たな消化液との混合による、炭酸塩による緩衝効果を排除することから、バッチ式が好ましい。
【0036】
(アンモニア分離槽)
本実施形態のアンモニア分離槽は、消化液を貯蔵し、処理するための槽である。アンモニア分離槽は、図1に示すとおり、消化液における全容積の上部20%より下の位置に散気管を有し、消化液の温度を制御できる加温設備を備えていれば、任意の公知の分離槽を用いることができ、特に限定されない。
【0037】
アンモニア分離槽は、消化液を貯留できれば、その形状、大きさ、及び内容量は、特に限定されない。形状としては、例えば、円柱、略円柱、直方体、略直方体、立方体、略立方体、球体、略球体状、円錐台、及び略円錐台などが挙げられる。ここで、「略」とは、目視においてそのように見える形状を指し、厳密に精密な形状ではないことを称する。また、「略」とは、それぞれの角部の全て、又は一部を直線状または円弧状に面取り加工している形状を含む。
【0038】
円柱又は略円柱の形状を有するアンモニア分離槽としては、例えば、直径が2~8m程度、高さが2~6m程度、及び内容積が5~200m3程度が挙げられる。
直方体又は略直方体の形状を有するアンモニア分離槽としては、例えば、底面の面積が5~50m2程度、高さが2~6m程度、及び内容積が5~200m3程度が挙げられる。
【0039】
散気管は、消化液に空気を供給するための曝気口を備えれば、その形状に限定されない。散気管を用いることで、消化液中に微細な空気を放出することができ、空気と消化液との接触面積を上げることが可能となる。本実施形態において、空気の流量が、消化液1Lに対して、0.5(L/min.)未満で消化液に曝気することから、空気へのアンモニアガスの移行は速やかに起こると考えられる。そのことから、消化液の滞留時間は長いことが必ずしも利点とはいえず、曝気による空気によって、水の表面積の変動が起こる泡の粒形の方が必要と推測される。そこで、好適な泡を形成できることから、散気管の内径としては、100μm以上600μm以下であることが好ましい。尚、直径100μm未満のマイクロバブル等の泡を形成する散気管は、攪拌力は乏しいが、空気へのアンモニアガスの移行が起こりやすいため、このような散気管を併用することは限定しない。
【0040】
加温設備は、アンモニア分離槽中における消化液の温度を維持又は昇温することができれば、アンモニア分離槽内に備えられていても、分離槽外に備えられていてもよい。また、分離槽内外の両方に備えられていてもよい。加温設備は、例えば、温水タンク、温水循環ポンプ、温水配管、及びボイラー等を備える。
【0041】
アンモニア分離槽としては、例えば、図1に示すとおり、散気管及び加温設備に加えて、ドラフトチューブ、攪拌翼を備えた水中ミキサー、曝気ブロワ、循環及び移送ポンプ、並びに熱交換器等を備えることが好ましい。
【0042】
少ない曝気量でも、消化液を攪拌し、消化液中において循環流を形成することができるものとして、例えば、ドラフトチューブの利用が挙げられる。それにより、消化液中において、溶存する空気の濃度差を少なくすることができ、比較的均一に空気を消化液全体に溶存させることが可能となる。特に、アンモニアガスを含むガス(特に、アンモニアガス)は、消化液中に溶存する空気に溶解して、空気と共に除去されると推定されるため、消化液中におけるアンモニアガスの除去率が上がる傾向にある。
なお、本実施形態において、ドラフトチューブとは、散気管からの空気による上向きの噴射流を増強させ、水槽内を低動力で効率良く撹拌することが可能となる装置を称する。
【0043】
水中ミキサーを用いて消化液を攪拌することにより、消化液中において、溶存する空気の濃度差を少なくすることができ、比較的均一に空気を消化液全体に溶存させることが可能となる。
【0044】
水中ミキサーの攪拌翼は、アンモニア分離槽の有底面に対して、散気管の位置より上部の位置、散気管の位置と同程度の位置、又は散気管の位置より下部の位置のいずれに設置してもよい。水中ミキサーの攪拌翼は、散気管の位置より上部に有することが、アンモニウムガスを含むガスの除去率がより上がるため、好ましい。また、攪拌翼は、上方向への攪拌流が形成するように設置することが好ましい。この理由について定かではないが、本発明者らは、次のように推定している。通常、消化液中に溶存する空気は、曝気された空気へのガス移行を考慮すると、消化液中において滞留時間が長い方が、アンモニアを含むガスの除去率が高いと推定される。しかし、本実施形態においては、水中ミキサーの攪拌翼を散気管の位置より上部に位置し、かつ上方向への攪拌流を形成するように攪拌することで、高いアンモニア除去率が確認されている。曝気された空気量が少量であり、ガス移行が短時間に十分に行われる曝気量では、散気管の位置より上部に水中ミキサーの撹拌翼を有することで、空気が微細化した泡となりやすくなったと考えられる。そして、泡は、空気だまりよりも消化液全体に分散する速度が速く、消化液中に均一に分散することができるため、一種の乱流が生じたことで消化液中の全体から、アンモニアを含むガス(特に、アンモニアガス)を除去することが可能となり、除去率が上がったと推定される。
【0045】
攪拌翼の位置は、散気管より上部であって、散気管から発生する空気の通り道に近い位置に設置することが好ましい。
【0046】
アンモニウムの除去率がより上がることから、水中ミキサーは、散気管から排出される空気を上昇させるように攪拌する(すなわち、上昇流を形成する)ことが好ましい。この理由について定かではないが、本発明者らは、上昇流を形成することで乱流が発生し、それにより、アンモニアガスを含むガスと接触する水の表面積を増大させることが可能となるためと、推定している。
【0047】
アンモニウムの除去率がより上がることから、水中ミキサーの攪拌(回転)速度は、40rpm以上であることが好ましい。攪拌速度が40rpm未満であると、SSなどを好適に攪拌できず、消化液特有の粘性による対流の効果も得られないため、アンモニウムの除去率が上がらない傾向にある。攪拌速度が1500rpmを超えると、SSのある環境下では水中ミキサーに負荷がかかり、故障の原因となる傾向ある。
【0048】
アンモニウムの除去率が更により上がることから、アンモニア分離槽は、ドラフトチューブと水中ミキサーとを備えることが好ましく、消化液の処理方法では、ドラフトチューブと水中ミキサーとを用いて、アンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去することが好ましい。
【0049】
曝気ブロワは、散気管に空気を供給すための装置である。
【0050】
循環及び移送ポンプは、消化液、アンモニアガスを含むガス、消化液処理液、及び汚泥沈殿物などを循環及び移送するためのポンプである。本実施形態では、循環ポンプを用いて、アンモニア処理槽内において、アンモニアガスの除去中に消化液を循環させることが好ましい。また、移送ポンプにより、汚泥沈殿物を汚泥設備に、処理水を生物処理設備にそれぞれ移送する。
【0051】
アンモニア分離槽及びアンモニアガス処理装置より排出されたガスは、通常、加温されている。熱交換器は、これらの加温されたガスを用いて、加温設備の加温を補助するために用いられる。
【0052】
〔アンモニアガスの無害化及び回収〕
(アンモニアガスを含むガス)
本実施形態において、図1に示すとおり、消化液の処理方法により除去されたアンモニアガスを含むガスは、アンモニアガス処理装置に移送され、処理装置にて、無害化されることが好ましい。
また、消化液の処理方法により除去されたアンモニアガスを含むガスは、アンモニアガス回収装置に移送され、アンモニアガスとして回収されることがより好ましい。アンモニアは、燃焼により二酸化炭素を排出しないため、燃料としての可能性が注目され、次世代エネルギーとして期待されている。また、消化液におけるアンモニア態窒素を生物処理すると、硝化工程の際に一酸化二窒素などの温室効果ガスが発生するが、本実施形態によれば、アンモニア態窒素が削減された消化液を生物処理するため、温室効果ガスを大幅に削減することができる。
なお、ガス中に含まれるアンモニアガス以外のガス(例えば、炭酸ガス及び水蒸気)は、適宜、大気中に排出される。
【0053】
(アンモニアガス処理装置)
本実施形態のアンモニア処理装置は、図1に示すとおり、アンモニア分離槽から移送されたアンモニアガスを含むガス(特に、アンモニアガス)を無害化するための装置である。アンモニア処理装置としては、特に限定されず、例えば、アンモニア分解装置、及びアンモニア吸収装置などを挙げることができる。
【0054】
アンモニア分解装置としては、例えば、酸化剤を用いる酸化分解装置、及び触媒燃焼装置などを挙げることができる。アンモニア分解装置は、アンモニアガスを直接分解する装置が好ましく、触媒燃焼装置がより好ましい。触媒燃焼装置では、アンモニアガスは、燃焼しながら、次式によって空気中の酸素ガスと反応し、窒素ガスと水が生成する。また、窒素ガスを含む排ガスは、通常、熱交換された後、大気中に放出される。
(式)4NH3 + 3O2 → 2N2 + 6H2
【0055】
触媒燃焼装置に用いる触媒としては、例えば、金属又はその化合物を任意形状に成形した成形触媒、担体に担持させた金属担持触媒などを挙げることができる。金属としては、例えば、鉄、マンガンなどの卑金属、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などの貴金属、これらの金属の酸化物、合金などを挙げることができる。これらの中で、鉄及びマンガン系触媒は、比較的低温でアンモニアを分解できるので、好ましいい。金属を担持させる担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ゼオライト、シリコンカーバイドなどを挙げることができる。これらの中で、チタニア、ジルコニア及びシリコンカーバイドが好ましい。触媒燃焼装置内の温度は、特に限定されないが、例えば、150~350℃がよく、180~280℃であることが好ましい。
【0056】
アンモニア吸収装置としては、例えば、吸収液として水を用いる装置、及び吸収液として酸性水を用いる装置などを挙げることができる。吸収液として酸性水を用いると、吸収速度を速めることができる。
【0057】
(アンモニアガス回収装置)
アンモニアガス回収装置は、アンモニア分離槽から移送されたガスからアンモニアガスを回収するための装置である。アンモニアガス回収装置としては、特に限定されず、例えば、真空(減圧)蒸発濃縮装置、常圧蒸発濃縮、及び逆浸透膜分離装置などの塩分を濃縮する機能を有する装置が挙げられる。
なお、本実施形態では、事業設備に応じて、アンモニアガス処理装置とアンモニアガス回収装置の両方を有していてもよい。
【0058】
〔生物処理〕
処理水は、生物処理設備に移送され、貯留される。その後、処理水は、処理(無毒化)され、通常は、外部に排水される。処理水の処理方法は、特に限定されず、公知の生物処理方法を用いることができる。
本実施形態において、処理水は、アンモニア態窒素が十分に除去されているため、処理水を硝化しても、一酸化二窒素などの温室効果ガスが発生しにくい。
【0059】
〔汚泥処理〕
汚泥沈殿物は、汚泥処理設備に移送され、貯留される。その後、汚泥沈殿物は、液体成分を除去するなど処理された後、セメントなどに再利用される。汚泥沈殿物の処理方法は、特に限定されず、公知の処理方法を用いることができる。
【実施例0060】
以下、本実施形態を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本実施形態は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0061】
〔消化液、及び装置〕
(消化液)
消化液として、家畜尿汚水を、35℃の中温の条件にて、メタン発酵処理することで、アンモニア態窒素を含み、SSの含有量の異なる5種の消化液を作製した。なお、家畜尿汚水中に含まれるSSの含有量は、固形分換算で、それぞれ、0mg/L、10,000mg/L、21,000mg/L、22,000mg/L、及び44,000mg/Lであった。なお、SSの含有量が0mg/Lの消化液は、3,000rpmの遠心分離機を用いて、消化液中のSSを除去することで得られた。
【0062】
(アンモニア分離槽)
アンモニア分離槽としては、開放系での槽を用いた。具体的には、底面積が227cm2、高さが27cm、及び内容積が6100cm3のポリプロピレン製のビーカーを用いた。また、このビーカー内に、曝気ブロワ((株)テクノ高槻、HIBLOW AIR PUMP SPP-3GA(商品名))に空孔長250μm以下の移動式の散気管((株)スドー製エアセラB25(商品名))、及び加温装置(クマガイ電工(株)多用途加熱&保温ヒーター「沸かし太郎」(商品名))を備えた。撹拌機は、デジタル攪拌機(IWAKI社製SSR-112(商品名))を用い、プロペラ式攪拌翼(3枚羽、直径9cm、厚み1cm)又はパドル式攪拌翼(6枚羽、直径7cm、厚み1cm)を用いた。なお、実施例7のみパドル式攪拌翼を用いて、その他の実施例及び比較例では、プロペラ式攪拌翼を用いた。
【0063】
〔評価方法〕
(アンモニア除去率〕
アンモニア除去率(%)は、次のように算出した。
まず、処理前の消化液を、遠心分離機((株)コクサン製、型式H-108m2(商品名))を用いて遠心分離し、SSと上清とに分離した。なお、遠心分離は、3,000rpm、及び10分間の条件で実施した。その後、JIS K 0102 42.5に準拠して、上清に含まれるアンモニウムイオンの量を分析した。具体的には、上清に酸化マグネシウムを加えて弱いアルカリ性とし、蒸留を行い、留出したアンモニアを硫酸(25mmol/L)に吸収捕集し、捕集後のアンモニウムイオンの量をインドフェノール青吸光光度法により計測した。
また、同様の方法により、処理後の消化液中に含まれるアンモニウムイオンの量を分析した。処理前後の消化液中に含まれるアンモニウムイオンの量を用いて、次の式により、アンモニア除去率(%)を算出した。
アンモニアの除去率=(処理前の消化液中に含まれるアンモニウムイオンの量-処理後の消化液中に含まれるアンモニウムイオンの量)/処理前の消化液中に含まれるアンモニウムイオンの量×100(%)
【0064】
(炭酸ガス除去率〕
炭酸ガス除去率(%)は、次のように算出した。
まず、処理前の消化液を、遠心分離機を用いて遠心分離し、SSと上清とに分離した。なお、遠心分離は、3,000rpm、及び10分間の条件で実施した。その後、JIS K 0101 25.2に準拠して、上清に含まれる炭酸イオンの量を分析した。
また、同様の方法により、処理後の消化液中に含まれる炭酸イオンの量を分析した。処理前後の消化液中に含まれる炭酸イオンの量を用いて、次の式により、炭酸ガス除去率(%)を算出した。
炭酸ガスの除去率=(処理前の消化液中に含まれる炭酸イオンの量-処理後の消化液中に含まれる炭酸イオンの量)/処理前の消化液中に含まれる炭酸イオンの量×100(%)。
【0065】
(消化液のpH〕
消化液中のpHは、pHメーター(東亜ディーケーケー(株)製ポータブルpHメーターHM-21P(商品名))を用いて、測定した。
【0066】
[散気管の位置に関する実施例及び比較例]
〔実施例1〕
アンモニア分離槽内に消化液(SS含有量:21,000mg/L(固形分換算))1.5Lを加えた。全容積の水深は、約7cmであった。その後、消化液における全容積の上部20%より下の位置(アンモニア分離槽の底面から高さ5.5cmの位置)に散気管を設置して、空気の流量が、消化液1Lに対して、0.1(L/min.)で消化液に24時間曝気を行うことにより、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。なお、消化液の温度(水温)は、35℃であった。また、曝気は、24時間連続で行った。
24時間後のアンモニア除去率は、52%であった。また、結果を図2に示す。尚、ブランク試験として24時間消化液を水温35℃で置いた場合のアンモニアの除去率を分析したところ、除去率は10%であった(比較例2)。そのため、消化液の処理によって除去されたアンモニアの量は、42%と推定された。
【0067】
〔実施例2〕
散気管の位置を20%から50%(アンモニア分離槽の底面から高さ3.5cmの位置)に変更した以外は、実施例1と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、56%であった。また、結果を図2に示す。
【0068】
〔実施例3〕
散気管の位置を20%から100%に変更(すなわち、アンモニウム分離槽の底面に散気管を設置)した以外は、実施例1と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、58%であった。また、結果を図2に示す。
【0069】
〔比較例1〕
散気管の位置を20%から5%(アンモニア分離槽の底面から高さ6.6cmの位置)に変更した以外は、実施例1と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、17%であった。また、結果を図2に示す。
【0070】
[消化液1Lに対する曝気量に関する実施例及び比較例]
〔実施例4〕
消化液1Lに対する空気の流量を0.1(L/min.)から0.4(L/min.)に変更した以外は、実施例3と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、67%であった。また、結果を図3に示す。なお、図3では、実施例3(空気の流量が0.1(L/min.))の結果も図示した。
【0071】
〔比較例2〕
空気の流量を0.1(L/min.)から0(L/min.)に変更した(すなわち、曝気をせず、24時間消化液を水温35℃で置いた)以外は、実施例3と同様にして、アンモニアの除去率を分析した。
24時間後のアンモニア除去率は、10%であった。また、結果を図3に示す。
【0072】
〔比較例3〕
空気の流量を0.1(L/min.)から0.05(L/min.)に変更した以外は、実施例3と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、37%であった。また、結果を図3に示す。
【0073】
〔実施例5〕
(散気管と共にドラフトチューブを用いた例)
散気管と共にドラフトチューブを用いた以外は、実施例3と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。なお、使用したドラフトチューブは、ポリプロピレン製の最細部が内径0.4cmの円筒上のものであり、アンモニア分離槽において、散気管をドラフトチューブの内部に入れ、最細部の方から曝気する方法で実施した。
24時間後のアンモニア除去率は、63%であった。また、結果を図3に示す。
【0074】
〔実施例6〕
(散気管と共に水中ミキサーを用いた例)
散気管の位置を変更し、かつ散気管と共に水中ミキサーを用いた以外は、実施例3と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。散気管は、アンモニウム分離槽の底面に設置した。水中ミキサーの攪拌翼は、アンモニア分離槽において、散気管の位置より上部の位置であって、消化液における全容積の上部50%の位置(すなわち、アンモニア分離槽の底面から高さ3.5cmの位置)に設置し、水中ミキサーを用いて、散気管から排出される空気を上昇させるように消化液を攪拌した。なお、水中ミキサーの攪拌(回転)速度は、40rpmであった。
24時間後のアンモニア除去率は、76%であった。また、結果を図3に示す。
【0075】
[水中ミキサーのみを用いた比較例]
〔比較例4〕
空気の流量を0.1(L/min.)から0(L/min.)に変更し(すなわち、曝気をせず、24時間消化液を水温35℃で置いた)、水中ミキサーのみを用いて消化液を攪拌した以外は、実施例6と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。なお、水中ミキサーの攪拌速度は、40rpmであった。また、攪拌は、24時間連続で行った。
24時間後のアンモニア除去率は、24%であった。また、結果を図4に示す。なお、図4では、比較例2(水中ミキサーの攪拌速度が0rpm)の結果も図示した。
【0076】
〔比較例5〕
水中ミキサーの攪拌速度を40rpmから80rpmに変更した以外は、比較例4と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、40%であった。また、結果を図4に示す。
【0077】
〔比較例6〕
水中ミキサーの攪拌速度を40rpmから150rpmに変更した以外は、比較例4と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、79%であった。また、結果を図4に示す。
【0078】
[下降流に関する実施例]
〔実施例7〕
水中ミキサーを用いて、散気管から排出される空気を下降させるように消化液を攪拌した以外は、実施例6と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。なお、水中ミキサーの攪拌速度は、40rpmであった。
24時間後のアンモニア除去率は、64%であった。
【0079】
[水中ミキサーの位置を散気管の位置と同程度の位置に設置した実施例]
〔実施例8〕
水中ミキサーの位置を、散気管の位置と同程度の位置に設置(すなわち、アンモニア分離槽の底面に水中ミキサーを設置)して、水中ミキサーを用いて、散気管から排出される空気を上昇させるように消化液を攪拌した以外は、実施例6と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。なお、水中ミキサーの攪拌速度は、40rpmであった。
24時間後のアンモニア除去率は、56%であった。
【0080】
〔実施例9〕
[SSの含有量に関する実施例及び比較例]
SS含有量が21,000mg/L(固形分換算)の消化液の代わりに、SS含有量が10,500mg/L(固形分換算)の消化液を用いた以外は、実施例3と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、68%であった。また、結果を図5に示す。なお、図5では、実施例3(SS含有量が21,000mg/L)の結果も図示した。
【0081】
〔実施例10〕
SS含有量が21,000mg/L(固形分換算)の消化液の代わりに、SS含有量が44,000mg/L(固形分換算)の消化液を用いた以外は、実施例3と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、64%であった。また、結果を図5に示す。
【0082】
〔実施例11〕
SS含有量が21,000mg/L(固形分換算)の消化液の代わりに、SS含有量が22,000mg/L(固形分換算)の消化液を用いた以外は、実施例3と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、59%であった。また、結果を図5に示す。
【0083】
〔比較例6〕
SS含有量が21,000mg/L(固形分換算)の消化液の代わりに、SS含有量が0mg/L(固形分換算)の消化液(すなわち、SSを含まない消化液)を用いた以外は、実施例3と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、74%であった。また、結果を図5に示す。
【0084】
〔実施例12〕
[消化液の温度(水温)に関する実施例]
消化液の温度(水温)を35℃から30℃に変更した以外は、実施例3と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、36%であった。また、結果を図6に示す。なお、図6では、実施例3(消化液の温度が35℃)の結果も図示した。
【0085】
〔実施例13〕
消化液の温度(水温)を35℃から40℃に変更した以外は、実施例3と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、64%であった。また、結果を図6に示す。
【0086】
[水中ミキサーの攪拌速度を上げた場合の散気管の位置に関する実施例]
〔実施例14〕
水中ミキサーの攪拌速度を40rpmから150rpmに変更した以外は、実施例6と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、86%であった。また、結果を図7に示す。
【0087】
〔実施例15〕
水中ミキサーの攪拌速度を40rpmから150rpmに変更し、散気管と水中ミキサーを同深度の位置(すなわち、散気管の位置と水中ミキサーの位置とを両方とも消化液における全容積の上部50%の位置(アンモニア分離槽の底面から高さ3.5cmの位置))とした以外は、実施例6と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、76%であった。また、結果を図7に示す。
【0088】
〔実施例16〕
水中ミキサーの攪拌速度を40rpmから150rpmに変更し、散気管の位置を水中ミキサーの位置より上部の位置(すなわち、散気管の位置を消化液における全容積の上部20%の位置(アンモニア分離槽の底面から高さ5.5cmの位置))に設置し、水中ミキサーの位置を消化液における全容積の上部50%の位置(アンモニア分離槽の底面から高さ3.5cmの位置)に設置した以外は、実施例6と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、80%であった。また、結果を図7に示す。
【0089】
〔実施例17〕
水中ミキサーの攪拌速度を40rpmから150rpmに変更し、散気管の位置を水中ミキサーの位置より上部の位置(すなわち、散気管の位置を消化液における全容積の上部5%の位置(アンモニア分離槽の底面から高さ6.6cmの位置))に設置し、水中ミキサーの位置を消化液における全容積の上部50%の位置(アンモニア分離槽の底面から高さ3.5cmの位置)に設置した以外は、実施例6と同様にして、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。
24時間後のアンモニア除去率は、71%であった。また、結果を図7に示す。
【0090】
[曝気時間に関する実施例]
〔実施例18〕
実施例1と同様にして、空気の流量が、消化液1Lに対して、0.1(L/min.)で消化液に24時間曝気を行うことにより、消化液中に含まれるアンモニア態窒素を、アンモニアガスを含むガスとして除去した。なお、消化液の温度(水温)は、35℃であった。また、曝気は、24時間連続で行った。
ここで、曝気時間が2時間まで、6時間まで、及び24時間までのアンモニア除去率、炭酸ガス除去率、及び消化液のpHをそれぞれ測定した。それらの結果を表1及び図8に示す。
【0091】
【表1】
【符号の説明】
【0092】
10…排水(畜舎等より)、20…メタン酸発酵槽、21…温水配管、22…水中撹拌機、23…メタンガス、30…アンモニア分離槽、31…ドラフトチューブ、32…散気管、33…水中ミキサー、34…攪拌翼、35…曝気ブロア、36…槽内通気用ファン、40…アンモニアガス処理装置(触媒燃焼装置)、41…アンモニアガスを含むガス、42…熱交換器、43…温水タンク、44…ボイラー、45…吸引ファン、50…生物処理設備、51…処理水、60…汚泥処理設備、61…沈殿汚泥物、70…大気放出
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8