(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144633
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】反射型フォトマスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20220926BHJP
G03F 1/54 20120101ALI20220926BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045718
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀亮
(72)【発明者】
【氏名】合田 歩美
(72)【発明者】
【氏名】市川 顯二郎
(72)【発明者】
【氏名】山形 悠斗
【テーマコード(参考)】
2H195
【Fターム(参考)】
2H195CA01
2H195CA07
2H195CA12
2H195CA15
2H195CA16
2H195CA17
2H195CA22
2H195CA23
2H195CA24
(57)【要約】
【課題】本発明は、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニング転写用の反射型フォトマスクの射影効果を抑制または軽減し、且つ水素ラジカルへの耐性を有する反射型フォトマスクを提供する。
【解決手段】本実施形態に係る反射型フォトマスク10は、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクであって、基板1と、基板1上に形成された多層膜を含む反射層2と、反射層2の上にパターンが形成された吸収パターン層4と、を有し、吸収パターン層4は、錫(Sn)と酸素(〇)とを合計で50原子%以上含有する材料で形成され、吸収パターン層4にフッ素(F)が添加され、吸収パターン層4の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内であり、吸収パターン層4における、錫(Sn)に対する酸素(O)の原子数比(O/Sn)は、1.0以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクであって、
基板と、
前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、
前記反射層の上にパターンが形成された吸収パターン層と、を有し、
前記吸収パターン層は、錫(Sn)と酸素(〇)とを合計で50原子%以上含有する材料で形成され、
前記吸収パターン層にフッ素(F)が添加され、
前記吸収パターン層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内であり、
前記吸収パターン層における、錫(Sn)に対する酸素(O)の原子数比(O/Sn)は、1.0以上である反射型フォトマスク。
【請求項2】
前記吸収パターン層における、錫(Sn)に対する酸素(O)の原子数比(O/Sn)は、1.5以上であることを特徴とする請求項1に記載の反射型フォトマスク。
【請求項3】
前記フッ素(F)は、前記吸収パターン層の最表面から深さ2nm以上添加されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の反射型フォトマスク。
【請求項4】
前記フッ素(F)は、少なくとも、前記吸収パターン層の最表面から深さ2nmまでの領域に添加されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の反射型フォトマスク。
【請求項5】
前記吸収パターン層は、最表面から深さ方向に前記フッ素(F)を含有し、前記フッ素(F)の検出限界となる深さまで、前記フッ素(F)の含有量が連続的に変化していることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
【請求項6】
前記吸収パターン層は、最表面から深さ方向に前記フッ素(F)を含有し、前記フッ素(F)の検出限界となる深さにおいて、前記フッ素(F)の含有量が不連続的に変化し、前記深さ方向において、前記フッ素(F)を含む領域と、前記フッ素(F)を含まない領域との間に境界が存在することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
【請求項7】
前記吸収パターン層全体は、錫(Sn)と酸素(O)とフッ素(F)とで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
【請求項8】
前記フッ素(F)は、前記吸収パターン層を構成する全原子数に対し、含有率が30原子%以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
【請求項9】
前記吸収パターン層は、Ta、Pt、Te、In、Zr、Hf、Nb、Ti、W、Si、Cr、Mo、B、Pd、Ni、N、C、及びHからなる群から選択された1種以上の元素をさらに含有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外領域の光を光源としたリソグラフィで使用する反射型フォトマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィ技術の微細化に対する要求が高まっている。フォトリソグラフィにおける転写パターンの最小解像寸法は、露光光源の波長に大きく依存し、波長が短いほど最小解像寸法を小さくできる。このため、露光光源は、従来の波長193nmのArFエキシマレーザー光から、波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)領域の光に置き換わってきている。
【0003】
EUV領域の光は、ほとんどの物質で高い割合で吸収されるため、EUV露光用のフォトマスク(EUVマスク)としては、反射型のフォトマスクが使用される(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ガラス基板上にモリブデン(Mo)層及びシリコン(Si)層を交互に積層した多層膜からなる反射層を形成し、その上にタンタル(Ta)を主成分とする光吸収層を形成し、この光吸収層にパターンを形成することで得られたEUVフォトマスクが開示されている。
【0004】
また、EUVリソグラフィは、前記のように、光の透過を利用する屈折光学系が使用できないことから、露光機の光学系部材もレンズではなく、反射型(ミラー)となる。このため、反射型フォトマスク(EUVマスク)への入射光と反射光が同軸上に設計できない問題があり、通常、EUVリソグラフィでは、光軸をEUVマスクの垂直方向から6度傾けて入射し、マイナス6度の角度で反射する反射光を半導体基板に導く手法が採用されている。
このように、EUVリソグラフィではミラーを介し光軸を傾斜することから、EUVマスクに入射するEUV光がEUVマスクのマスクパターン(パターン化された光吸収層)の影をつくる、いわゆる「射影効果」と呼ばれる問題が発生することがある。
【0005】
現在のEUVマスクブランクでは、光吸収層として膜厚60~90nmのタンタル(Ta)を主成分とした膜が用いられている。このマスクブランクを用いて作製したEUVマスクでパターン転写の露光を行った場合、EUV光の入射方向とマスクパターンの向きとの関係によっては、マスクパターンの影となるエッジ部分で、コントラストの低下を引き起こす恐れがある。これに伴い、半導体基板上の転写パターンのラインエッジラフネスの増加や、線幅が狙った寸法に形成できないなどの問題が生じ、転写性能が悪化することがある。
【0006】
そこで、光吸収層をタンタル(Ta)からEUV光に対する吸収性(消衰係数)が高い材料への変更や、タンタル(Ta)に吸収性の高い材料を加えた反射型フォトマスクブランクが検討されている。例えば、特許文献2では、光吸収層を、Taを主成分として50原子%(at%)以上含み、さらにTe、Sb、Pt、I、Bi、Ir、Os、W、Re、Sn、In、Po、Fe、Au、Hg、Ga及びAlから選ばれた少なくとも一種の元素を含む材料で構成した反射型フォトマスクブランクが記載されている。
【0007】
さらに、ミラーは、EUV発生の副生成物(例えばSn)や炭素などによって汚染されることが知られている。汚染物質がミラーに蓄積することにより、ミラー表面の反射率が減少し、リソグラフィ装置のスループットを低下させることになる。この問題に対し、特許文献3では、装置内に水素ラジカルを生成することで、水素ラジカルと汚染物質とを反応させて、ミラーからこの汚染物質を除去する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献2に記載の反射型フォトマスクブランクでは、光吸収層が水素ラジカルに対する耐性(水素ラジカル耐性)を有することについては検討されていない。そのため、EUV露光装置への導入によって光吸収層に形成された転写パターン(マスクパターン)を安定的に維持できず、結果として転写性が悪化する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-176162号公報
【特許文献2】特開2007-273678号公報
【特許文献3】特開2011-530823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニング転写用の反射型フォトマスクの射影効果を抑制または軽減し、且つ水素ラジカルへの耐性を有する反射型フォトマスクを提供することを目的とする。つまり、本発明は、転写パターン(マスクパターン)に水素ラジカル耐性を付与することで、転写性が悪化する可能性を低減した反射型フォトマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクであって、基板と、前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、前記反射層の上にパターンが形成された吸収パターン層と、を有し、前記吸収パターン層は、錫(Sn)と酸素(〇)とを合計で50原子%以上含有する材料で形成され、前記吸収パターン層にフッ素(F)が添加され、前記吸収パターン層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内であり、前記吸収パターン層における、錫(Sn)に対する酸素(O)の原子数比(O/Sn)は、1.0以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、前記吸収パターン層における、錫(Sn)に対する酸素(O)の原子数比(O/Sn)が1.5以上であってもよい。
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、前記フッ素(F)が前記吸収パターン層の最表面から深さ2nm以上添加されていてもよい。
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、前記フッ素(F)が、少なくとも、前記吸収パターン層の最表面から深さ2nmまでの領域に添加されていてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、前記吸収パターン層が、最表面から深さ方向に前記フッ素(F)を含有した層であり、前記フッ素(F)の検出限界となる深さまで、前記フッ素(F)の含有量が連続的に変化していてもよい。
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、前記吸収パターン層が、最表面から深さ方向に前記フッ素(F)を含有した層であり、前記フッ素(F)の検出限界となる深さにおいて、前記フッ素(F)の含有量が不連続的に変化し、前記深さ方向において、前記フッ素(F)を含む領域と、前記フッ素(F)を含まない領域との間に境界が存在していてもよい。
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、前記吸収パターン層全体が、錫(Sn)と酸素(O)とフッ素(F)とで形成されていてもよい。
【0013】
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、前記フッ素(F)が、前記吸収パターン層を構成する全原子数に対し、含有率が30原子%以下であってもよい。
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、前記吸収パターン層が、Ta、Pt、Te、In、Zr、Hf、Nb、Ti、W、Si、Cr、Mo、B、Sn、Pd、Ni、F、N、C、及びHからなる群から選択された1種以上の元素をさらに含有していてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニングにおいて半導体基板への転写性能が向上し、且つ水素ラジカル環境下でも使用可能な反射型フォトマスクが期待できる。つまり、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクであれば、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニング転写用の反射型フォトマスクの射影効果を抑制または軽減し、且つ水素ラジカルへの耐性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図2】EUV光の波長における各金属材料の光学定数を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクに備わる吸収パターン層におけるフッ素(F)の含有量(濃度)分布の例を示す概念図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクに備わる吸収パターン層におけるフッ素(F)の含有量(濃度)分布の例を示す概念図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクに備わる吸収パターン層におけるフッ素(F)の含有量(濃度)分布の例を示す概念図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図8】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図9】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図10】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図11】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図12】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図13】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図14】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの設計パターンの形状を示す概略平面図である。
【
図15】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図16】本発明の実施例及び比較例に係る反射型フォトマスクの反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
図1は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク10の構造を示す概略断面図である。ここで、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク10は、基板1と、基板1上に形成された反射層2と、反射層2の上に形成されたキャッピング層3と、キャッピング層3の上に形成された吸収パターン層4と、を備えている。
【0017】
(基板)
本発明の実施形態に係る基板1には、例えば、平坦なSi基板や合成石英基板等を用いることができる。また、基板1には、チタンを添加した低熱膨張ガラスを用いることができるが、熱膨張率の小さい材料であれば、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
(反射層)
本発明の実施形態に係る反射層2は、露光光であるEUV光(極端紫外光)を反射するものであればよく、EUV光に対する屈折率の大きく異なる材料の組み合わせによる多層反射膜であってもよい。多層反射膜を含む反射層2は、例えば、Mo(モリブデン)とSi(シリコン)、またはMo(モリブデン)とBe(ベリリウム)といった組み合わせの層を40周期程度繰り返し積層することにより形成したものであってもよい。
【0019】
(キャッピング層)
本発明の実施形態に係るキャッピング層3は、吸収パターン層4を形成する際に行われるドライエッチングに対して耐性を有する材質で形成されており、エッチングする際に、反射層2へのダメージを防ぐエッチングストッパとして機能するものである。キャッピング層3は、例えば、Ru(ルテニウム)で形成されている。ここで、反射層2の材質やエッチング条件により、キャッピング層3は形成されていなくてもかまわない。また、基板1の反射層2を形成していない面に裏面導電膜5を形成することができる。裏面導電膜5は、反射型フォトマスク10を露光機に設置するときに静電チャックの原理を利用して固定するための膜である。
【0020】
(吸収パターン層)
反射型フォトマスク10の吸収パターン層4は、反射型フォトマスクブランクの吸収層の一部を除去することにより、即ち吸収層をパターニングすることにより、形成される。EUVリソグラフィにおいて、EUV光は斜めに入射し、反射層2で反射されるが、吸収パターン層4が光路の妨げとなる射影効果により、ウェハ(半導体基板)上への転写性能が悪化することがある。この転写性能の悪化は、EUV光を吸収する吸収パターン層4の厚さを薄くすることで低減される。吸収パターン層4の厚さを薄くするためには、従来の材料よりEUV光に対する吸収性の高い材料、つまり波長13.5nmに対する消衰係数kの高い材料を適用することが好ましい。
【0021】
図2は、各金属材料のEUV光の波長13.5nmに対する光学定数を示すグラフである。
図2の横軸は屈折率nを表し、縦軸は消衰係数kを示している。従来の吸収パターン層4の主材料であるタンタル(Ta)の消衰係数kは0.041である。それより大きい消衰係数kを有する化合物材料であれば、従来に比べて吸収パターン層4の厚さを薄くすることが可能である。消衰係数kが0.06以上であれば、吸収パターン層4の厚さを十分に薄くすることが可能であり、射影効果を低減できる。
【0022】
上記のような光学定数(nk値)の組み合わせを満たす材料としては、
図2に示すように、例えば、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、インジウム(In)、コバルト(Co)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、テルル(Te)がある。しかしながら、これらの金属材料は、元素のハロゲン化物の揮発性が低くドライエッチング性が悪いという問題を有している。このため、これらの金属材料で形成された吸収層を備える反射型フォトマスクブランクを作製したとしても、この吸収層に吸収層パターンをパターニングできず、その結果、この反射型フォトマスクブランクを反射型フォトマスクに加工が出来ないという問題が生じる。あるいは、これらの金属材料の融点が低いために反射型フォトマスク作製時やEUV露光時の熱に耐えられず、実用性に乏しい反射型フォトマスクとなってしまうという問題が生じる。
【0023】
上述の欠点を回避するため、本実施形態の反射型フォトマスク10の吸収パターン層4は、錫(Sn)及び酸素(O)を含む材料で形成されたものとする。Sn単体では、融点が230℃付近であり、反射型フォトマスク作製時やEUV露光時の熱の温度よりも低く、熱的安定性に問題があるが、酸化錫(SnO2)にすることで、それぞれの融点を大幅に高くできる。実際に反応性スパッタリングにより酸化錫(SnO2)膜を複数作製し、熱分析装置によりその融点を測定したところ、融点が1630℃と単体より高いことが分かった。
また、酸化錫(SnO2)は、化学的に安定している一方で、塩素系ガスを用いたドライエッチングが可能であるため、反射型フォトマスクブランクを反射型フォトマスクに加工することが出来る。
【0024】
吸収パターン層4を構成する材料は、錫(Sn)及び酸素(O)を合計で50原子%以上含有することが好ましい。これは、吸収パターン層4に錫(Sn)と酸素(O)以外の成分が含まれていると、EUV光吸収性が低下する可能性があるものの、錫(Sn)と酸素(O)以外の成分が50原子%未満であれば、EUV光吸収性と水素ラジカル耐性の低下はごく僅かであり、EUVマスクの吸収パターン層4としての性能の低下はほとんどないためである。
【0025】
反射型フォトマスク10は、水素ラジカル環境下に曝されるため、水素ラジカル耐性の高い光吸収材料でなければ、反射型フォトマスク10は長期の使用に耐えられない。本実施形態においては、マイクロ波プラズマを使って、電力1kWで水素圧力が0.36ミリバール(mbar)以下の水素ラジカル環境下で、膜減り速さが0.01nm/s以下の材料またはその材料で形成された層を、水素ラジカル耐性の高い材料または層とする。
【0026】
錫(Sn)は単体では水素ラジカルへの耐性が低いことが知られているが、酸素を追加することによって水素ラジカル耐性が高くなる。更にフッ素(F)を添加することで水素ラジカル耐性が大幅に上昇する。具体的には、表1に示すように、錫(Sn)と酸素(O)との原子数比(O/Sn)が1.0以上であり、且つフッ素(F)が最表面より2nm以上深い領域で検出された条件において、水素ラジカルへの優れた耐性が確認された。これは錫(Sn)と酸素(O)が十分に酸化錫(SnO1~2)を形成し、且つ吸収パターン層4の最表面にフッ素(F)が存在することが重要であることを示すと考えられる。なお、表1に示す膜減り速さの評価試験では、膜減り速さの測定を複数回繰り返し、その全てにおいて膜減り速さが0.01nm/s以下であった場合を「○」と評価し、膜減り速さ0.01nm/sを超え0.1nm/s以下であった場合を「△」と評価し、その全てにおいて膜減り速さが0.1nm/s超であった場合を「×」と評価した。「◎」は特に優れた水素ラジカル耐性を示した条件を表す。
【0027】
また、上記原子数比(O/Sn)は、RBS(ラザフォード後方散乱分光法)で測定した結果であり、フッ素の含有膜厚(フッ素検出可能膜厚)はTEM-EDX(エネルギー分散型X線分析)にて測定した結果である。ここで、「フッ素検出可能膜厚」とは、吸収パターン層4においてフッ素を検出することができた領域の厚さ(膜厚)であって、吸収パターン層4の最表層からフッ素を検出することができなくなるまでの深さ(層厚)、つまり吸収パターン層4の最表層からフッ素の検出限界に達するまでの深さを意味する。
【0028】
【0029】
前述の通り、吸収パターン層4を形成するための錫(Sn)及び酸素(O)を含む材料は、化学量論的組成の酸化錫(SnO2)に近いことが望ましい。即ち、吸収パターン層4を構成する材料中の錫(Sn)と酸素(O)との原子数比(O/Sn)は少なくとも1.0以上であることが好ましく、原子数比(O/Sn)が1.5以上であることがさらに好ましく、2.0に近付くほど好ましい。
ただし、材料の組成が酸化錫(SnO2)で安定していることが重要であり、膜内にトラップされた酸素(O)の検出や、分析手法の違いによって、原子数比(O/Sn)が2.0を超えていても問題ない。
【0030】
前述の通り、錫(Sn)及び酸素(O)を含む材料にフッ素(F)を添加し、吸収パターン層4にFTO(Fluorine doped Tin Oxide)を形成することで水素ラジカル耐性を向上させることが可能である。FTOの形成は、例えば、フッ素ガス表面処理装置で原料ガスにF2(約100%)、圧力40kPaで処理することにより、吸収パターン層4にフッ素(F)を添加することが可能である。
本発明の実施形態に係る吸収パターン層4へのフッ素(F)の添加は、前述の通り、水素ラジカル耐性を向上させるためには、吸収パターン層4の最表面から深さ2nm以上の領域まで添加されていることが望ましい。フッ素(F)を吸収パターン層4の最表面から2nm以上の深さまで添加することによって、マスク全体に安定的にフッ素(F)が含有している吸収パターン層4を形成することが可能である。
【0031】
ただし、吸収パターン層4に添加されたフッ素(F)は、錫(Sn)と酸素(O)に対して含有率が30原子%以下であることが望ましい。つまり、フッ素(F)は、吸収パターン層4を構成する全原子数に対し、含有率が30原子%以下であることが望ましい。これは、フッ素(F)が過剰に含まれていると、EUV光吸収性が低下する可能性があるものの、含有率が30原子%以下であれば、EUV光吸収性の低下はごく僅かであり、EUVマスクの吸収パターン層4としての性能の低下はほとんどないためである。なお、フッ素(F)の含有量は20原子%以下であることが好ましく、10原子%以下であることがより好ましい。
【0032】
また、フッ素(F)は、吸収パターン層4を構成する全原子数に対し、含有率が0.1原子%以上であることが望ましい。フッ素(F)の含有率が0.1原子%未満であると、フッ素(F)を添加した効果が得られにくい。フッ素(F)の含有率は、0.5原子%以上が好ましく、1原子%以上がさらに好ましい。フッ素(F)の含有率が0.5原子%以上であれば、フッ素(F)を添加した効果が確実に得られる。さらに、フッ素(F)の含有率が1原子%以上であれば、フッ素(F)を添加した効果が顕著に得られる。
【0033】
前述の通り、吸収パターン層4を構成する材料は、錫(Sn)及び酸素(O)を合計で50原子%以上含有することが好ましいが、錫(Sn)と酸素(O)以外の材料として、例えば、Ta、Pt、Te、Zr、Hf、Nb、Ti、W、Si、Cr、In、Pd、Ni、Mo、B、N、CやHが混合されていてもよい。つまり、吸収パターン層4は、錫(Sn)と酸素(O)以外に、Ta、Pt、Te、Zr、Hf、Nb、Ti、W、Si、Cr、In、Pd、Ni、Mo、B、N、C、及びHからなる群から選択された1種以上の元素をさらに含有していてもよい。
【0034】
例えば、吸収パターン層4にTa、Pt、Te、In、Pd、Niを混合することで、EUV光に対する高吸収性を確保しながら、膜(吸収パターン層4)に導電性を付与することが可能となる。このため、波長190~260nmのDUV(Deep Ultra Violet)光を用いたマスクパターン検査において、検査性を高くすることが可能となる。あるいは、吸収パターン層4にNやHf、あるいはZr、Nb、Mo、Crを混合した場合、膜質をよりアモルファスにすることが可能となる。このため、ドライエッチング後の吸収層パターン(マスクパターン)のラフネスや面内寸法均一性、あるいは転写像の面内均一性を向上させることが可能となる。また、吸収パターン層4にTi、W、Siを混合した場合、洗浄への耐性を高めることが可能となる。
【0035】
本実施形態では、上述のように、吸収パターン層4における、錫(Sn)に対する酸素(O)の原子数比(O/Sn)が1.0以上であり、且つフッ素(F)が、少なくとも、吸収パターン層4の最表面から深さ2nmまでの領域に添加されていれば好ましく、吸収パターン層4におけるフッ素(F)の濃度分布については限定されない。つまり、フッ素(F)が添加された最表層とその内部の錫(Sn)及び酸素(O)を主として含む吸収パターン層4の境目には、明確な境界が存在しても連続的に組成比が変化していても問題ない。例えば、
図1に示す吸収パターン層4のように連続的に組成比が変化していても問題ないし、後述する
図6に示す吸収パターン層6のように明確な境界が存在しても問題ない。以下、この点について、図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0036】
本実施形態では、
図1に示すように、吸収パターン層4は、最表面から深さ方向(キャッピング層3に向かう方向)にフッ素(F)を含有し、フッ素(F)の検出限界となる深さDまで、フッ素(F)の含有量が連続的に変化していてもよい。より詳しくは、
図1に示すように、吸収パターン層4の最表面からフッ素(F)の検出限界となる深さDまでの領域4aにおいて、フッ素(F)の含有量は、吸収パターン層4の最表面から深さ方向に向かって連続的に変化していてもよい。ここで、「フッ素(F)の検出限界となる深さD」とは、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分析)を用いた場合のフッ素(F)の検出限界値を示す深さであって、フッ素(F)の含有量が単位面積当たり0.1原子%以下となる深さを意味する。つまり、「フッ素(F)の検出限界となる深さD」よりも深い領域(キャッピング層3側の領域)においては、実質的にフッ素(F)が添加されていない領域を意味する。
【0037】
以下、吸収パターン層4において、上記「連続的に変化する」フッ素(F)の含有量(濃度)の分布について説明する。
本実施形態では、フッ素(F)の含有量は、吸収パターン層4の最表面からフッ素(F)の検出限界となる深さDに向かって、直線的(線形)、曲線的(例えばS字カーブ)、または指数関数的に減少していることが好ましい。
【0038】
吸収パターン層4におけるフッ素(F)の含有量(濃度)の分布について、
図3から
図5を参照して説明する。
本実施形態では、吸収パターン層4の最表面から深さ方向(キャッピング層3に向かう方向)にフッ素(F)を含有し、且つ、吸収パターン同士が対向する面、即ち吸収パターン層4の側面から吸収パターン層4の内部に向かってフッ素(F)を含有している。そのため、吸収パターン層4の側面から吸収パターン層4の内部に向かうフッ素(F)の濃度分布は、吸収パターン層4の最表面からフッ素(F)の検出限界となる深さDに向かうフッ素(F)の濃度分布とほぼ同じである。
そこで、本実施形態では、吸収パターン層4の最表面からフッ素(F)の検出限界となる深さDに向かうフッ素(F)の濃度分布のみを説明し、吸収パターン層4の側面から吸収パターン層4の内部に向かうフッ素(F)の濃度分布についてはその説明を省略する。
【0039】
図3から
図5は、フッ素(F)の含有量分布(濃度分布)を示した概念図である。
図3から
図5の各図における縦軸は、吸収パターン層4全体におけるフッ素(F)の含有量(%)を示し、横軸は、吸収パターン層4全体の深さ方向をそれぞれ示している。そして、横軸に示した「D」は、「フッ素(F)の検出限界となる深さ」を示している。
図3は、フッ素(F)の含有量が、吸収パターン層4の最表面からフッ素(F)の検出限界となる深さDに向かって直線的(線形)に減少する形態を示している。
【0040】
図4は、フッ素(F)の含有量が、吸収パターン層4の最表面からフッ素(F)の検出限界となる深さDに向かって指数関数的に減少する形態であって、フッ素(F)の検出限界となる深さDの近傍における領域は、組成が均一となっている形態を示している。
図5は、フッ素(F)の含有量が、吸収パターン層4の最表面からフッ素(F)の検出限界となる深さDに向かって曲線的に(S字カーブを描くように)減少する形態であって、フッ素(F)の検出限界となる深さDの近傍では、組成が均一となっている形態を示している。
【0041】
上記形態であれば、反射型フォトマスク10は、フッ素(F)の含有量が吸収パターン層4の最表面からフッ素(F)の検出限界となる深さDに向かって連続的に減少している吸収パターン層4を備えているため、吸収パターン層4に優れた水素ラジカル耐性を付与することが可能となる。その結果、長期間使用可能な反射型フォトマスクを作製することができる。
なお、FTOの形成領域が、吸収パターン層4の最表面から深さ2nm以下の膜厚であっても、FTOが満遍なく最表面に存在し、水素ラジカル耐性を有する場合は問題ない。
【0042】
従来のEUV反射型フォトマスクの吸収パターン層4には、上述のようにTaを主成分とする化合物材料が適用されてきた。この場合、吸収パターン層4と反射層2との光強度のコントラストを表す指標である光学濃度OD(式1)で1以上を得るには、吸収パターン層4の膜厚は40nm以上必要であり、ODで2以上を得るには、吸収パターン層4の膜厚は70nm以上必要であった。Taの消衰係数kは0.041だが、消衰係数kが0.06以上の錫(Sn)と酸素(O)とを主成分として含む化合物材料を吸収パターン層4に適用することで、ベールの法則より、少なくともODが1以上であれば吸収パターン層4の膜厚を17nm以下まで薄膜化することが可能であり、ODが2以上であれば吸収パターン層4の膜厚を45nm以下にすることが可能である。ただし、吸収パターン層4の膜厚が45nmを超えると、従来のTaを主成分とした化合物材料で形成された膜厚60nmの吸収パターン層4と射影効果が同程度となってしまう。
OD=-log(Ra/Rm) ・・・(式1)
【0043】
そのため、本発明の実施形態に係る吸収パターン層4の膜厚は、17nm以上45nm以下であることが好ましい。つまり、吸収パターン層4の膜厚が17nm以上45nm以下の範囲内であると、Taを主成分とした化合物材料で形成された従来の吸収パターン層4に比べて、射影効果を十分に低減することができ、転写性能が向上する。なお、光学濃度(OD:Optical Density)値は、吸収パターン層4と反射層2のコントラストであり、OD値が1未満の場合には、十分なコントラストを得ることができず、転写性能が低下する傾向がある。
【0044】
また、上述した「主成分」とは、吸収層全体の原子数に対して50原子%以上含んでいる成分をいう。
なお、上述した式1における「Ra」は、吸収パターン層4の領域における反射率を意味し、「Rm」は、吸収パターン層4が形成されていない領域における反射率、即ち露出したキャッピング層3、及び反射層2で構成された領域における反射率を意味する。
【0045】
<他の実施形態>
本実施形態の吸収パターン層は、
図1に示した吸収パターン層4以外に、例えば、
図6~
図7に示す吸収パターン層であってもよい。
図6に示す吸収パターン層6は、最表面から深さ方向にフッ素(F)を含有しており、フッ素(F)の検出限界となる深さDにおいて、フッ素(F)の含有量が不連続的に変化しており、深さ方向において、フッ素(F)を含む領域6aと、フッ素(F)を含まない領域6bとの間に境界(界面)6cを備えている。
なお、フッ素(F)を含む領域6aにおけるフッ素(F)の含有量は、均一であってもよいし、吸収パターン層6の最表面から深さ方向に向かって連続的に減少していてもよい。
【0046】
本実施形態の吸収パターン層は、上述のように、フッ素(F)が最表面から深さ2nm以上の領域まで添加されていることが望ましいが、深さの上限値については、例えば、
図7に示す吸収パターン層7のように最深部でフッ素(F)が検出されても問題ない。つまり、
図7に示すように、吸収パターン層7全体が、錫(Sn)と酸素(O)とフッ素(F)とを含む材料で均一に形成されていてもよい。
【0047】
以下、本発明に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクの実施例について説明する。
【0048】
[実施例1]
最初に、反射型フォトマスクブランク100の作製方法について
図8を用いて説明する。
まず、
図8に示すように、低熱膨張特性を有する合成石英の基板11の上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)とを一対とする積層膜が40枚積層されて形成された反射層12を形成する。反射層12の膜厚は280nmとした。
次に、反射層12上に、中間膜としてルテニウム(Ru)で形成されたキャッピング層13を、膜厚が3.5nmになるように成膜した。
【0049】
次に、キャッピング層13の上に、錫(Sn)と酸素(O)とを含む吸収層14を膜厚が26nmになるように成膜した。錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率は、RBS(ラザフォード後方散乱分光法)で測定したところ、O/Sn:2.0であった。RBS分析には2.275MeV 4He++を入射イオンとして用いた。また、吸収層14の結晶性をXRD(X線回析装置)で測定したところ、僅かに結晶性が見られるものの、アモルファスであった。
【0050】
次に、基板11の反射層12が形成されていない側の面に窒化クロム(CrN)で形成された裏面導電膜15を100nmの厚さで成膜し、反射型フォトマスクブランク100を作成した。
基板11上へのそれぞれの膜の成膜(層の形成)は、スパッタリング装置を用いた。各々の膜の膜厚は、スパッタリング時間で制御した。吸収層14は、反応性スパッタリング法により、スパッタリング中にチャンバーに導入する酸素の量を制御することで、O/Sn原子数比が2.0になるように成膜した。
【0051】
次に、反射型フォトマスク200の作製方法について
図9から
図13を用いて説明する。
まず、
図9に示すように、反射型フォトマスクブランク100の吸収層14の上に、ポジ型化学増幅型レジスト(SEBP9012:信越化学社製)を120nmの膜厚にスピンコートで塗布し、110℃で10分ベークし、レジスト膜16を形成した。
次に、電子線描画機(JBX3030:日本電子社製)によってレジスト膜16に所定のパターンを描画した。その後、110℃、10分のプリベーク処理を行い、次いでスプレー現像機(SFG3000:シグマメルテック社製)を用いて現像処理をした。これにより、
図10に示すように、レジストパターン16aを形成した。
次に、レジストパターン16aをエッチングマスクとして、塩素系ガスを主体としたドライエッチングにより、吸収層14のパターニングを行った。これにより、
図11に示すように、吸収層14に吸収パターン(吸収パターン層)141を形成した。
【0052】
次に、
図12に示すように、レジストパターン16aの剥離を行った後に、フッ素ガス表面処理装置で原料ガスにF
2(約100%)、圧力40kPaで処理することにより、吸収パターン層141にフッ素(F)を添加した。これにより、
図13に示すように、実施例1の反射型フォトマスク200を作製した。FIB(集束イオンビーム装置)により断面出しを実施後に、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分析)を用いて最表面からのフッ素(F)の検出限界膜厚を測定した結果、2nmであった。更にRBS(ラザフォード後方散乱分光法)を用いてバルクの組成比(吸収パターン層141全体における組成比)を測定したところSn+O/F:98/2であった。つまり、吸収パターン層141全体における組成比を測定したところ、錫(Sn)と酸素(O)の含有量は98原子%であり、フッ素(F)の含有量は2原子%であった。
【0053】
本実施例において、吸収層14に形成した吸収パターン141は、転写評価用の反射型フォトマスク200上で、線幅64nmLS(ラインアンドスペース)パターン、AFMを用いた吸収層の膜厚測定用の線幅200nmLSパターン、EUV反射率測定用の4mm角の吸収層除去部を含んでいる。本実施例では、EUV照射による射影効果の影響が見えやすくなるように、線幅64nmLSパターンを、
図14に示すように、x方向とy方向それぞれに設計した。
【0054】
[実施例2]
吸収層14の錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率O/Snが1.0になるように、また、膜厚が26nmになるように吸収層14を成膜した。また、実施例1と同様の方法で、吸収パターン層141を作製した後に、最表面からのフッ素(F)の検出限界膜厚が2nmになるように、また、バルク組成比がSn+O/F:98/2になるようにフッ素(F)を添加した。つまり、吸収パターン層141全体における組成比を測定したところ、錫(Sn)と酸素(O)の含有量は98原子%であり、フッ素(F)の含有量は2原子%であった。これにより、実施例2の反射型フォトマスク200を作製した。
【0055】
[実施例3]
吸収層14の錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率O/Snが2.5になるように、また、膜厚が26nmになるように吸収層14を成膜した。また、実施例1と同様の方法で、吸収パターン層141を作製した後に、最表面からのフッ素(F)の検出限界膜厚が2nmになるように、また、バルク組成比がSn+O/F:98/2になるようにフッ素(F)を添加した。つまり、吸収パターン層141全体における組成比を測定したところ、錫(Sn)と酸素(O)の含有量は98原子%であり、フッ素(F)の含有量は2原子%であった。これにより、実施例3の反射型フォトマスク200を作製した。
【0056】
[実施例4]
吸収層14の錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率O/Snが2.0になるように、また、膜厚が26nmになるように吸収層14を成膜した。また、実施例1と同様の方法で、吸収パターン層141を作製した後に、最表面からのフッ素(F)の検出限界膜厚が26nmになるように、また、バルク組成比がSn+O/F:80/20になるようにフッ素(F)を添加した。つまり、吸収パターン層141全体における組成比を測定したところ、錫(Sn)と酸素(O)の含有量は80原子%であり、フッ素(F)の含有量は20原子%であった。これにより、
図15に示すように、実施例4の反射型フォトマスク201を作製した。
【0057】
[実施例5]
吸収層14の錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率O/Snが2.5になるように、また、錫(Sn)と酸素(O)の合計含有量が吸収層14全体の70原子%になるように、また、残りの30原子%がタンタル(Ta)になるように、また、膜厚が26nmになるように吸収層14を成膜した。また、実施例1と同様の方法で、吸収パターン層141を作製した後に、最表面からのフッ素(F)の検出限界膜厚が2nmになるように、また、バルク組成比がSn+O/Ta/F:69/29/2になるようにフッ素(F)を添加した。つまり、吸収パターン層141全体における組成比を測定したところ、錫(Sn)と酸素(O)の含有量は69原子%であり、タンタル(Ta)の含有量は29原子%であり、フッ素(F)の含有量は2原子%であった。これにより、実施例5の反射型フォトマスク200を作製した。
【0058】
[実施例6]
吸収層14の錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率O/Snが2.0になるように、また、錫(Sn)と酸素(O)の合計含有量が吸収層14全体の70原子%になるように、また、残りの30原子%がクロム(Cr)になるように、また、膜厚が26nmになるように吸収層14を成膜した。また、実施例1と同様の方法で、吸収パターン層141を作製した後に、最表面からのフッ素(F)の検出限界膜厚が2nmになるように、また、バルク組成比がSn+O/Cr/F:69/29/2になるようにフッ素(F)を添加した。つまり、吸収パターン層141全体における組成比を測定したところ、錫(Sn)と酸素(O)の含有量は69原子%であり、クロム(Cr)の含有量は29原子%であり、フッ素(F)の含有量は2原子%であった。これにより、実施例6の反射型フォトマスク200を作製した。
【0059】
[比較例1]
吸収層14の錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率O/Snが0、つまり酸素(O)を含まないように、また、膜厚が26nmになるように吸収層14を成膜した。また、実施例1と同様の方法で、吸収パターン層141を作製した後に、最表面からのフッ素(F)の検出限界膜厚が2nmになるように、また、バルク組成比がSn+O/F:98/2になるようにフッ素(F)を添加した。つまり、吸収パターン層141全体における組成比を測定したところ、錫(Sn)の含有量は98原子%であり、フッ素(F)の含有量は2原子%であった。これにより、比較例1の反射型フォトマスク200を作製した。
【0060】
[比較例2]
吸収層14の錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率O/Snが1.5になるように、また、膜厚が26nmになるように吸収層14を成膜した。また、実施例1と同様の方法で、吸収パターン層141を作製した後に、フッ素(F)を添加しなかった。つまり、吸収パターン層141全体における組成比を測定したところ、錫(Sn)と酸素(O)の含有量は100原子%であり、フッ素(F)の含有量は0原子%であった。これにより、比較例2の反射型フォトマスク200を作製した。
【0061】
[比較例3]
吸収層14の錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率O/Snが2.0になるように、また、膜厚が15nmになるように吸収層14を成膜した。また、実施例1と同様の方法で、吸収パターン層141を作製した後に、最表面からのフッ素(F)の検出限界膜厚が2nmになるように、また、バルク組成比がSn+O/F:98/2になるようにフッ素(F)を添加した。つまり、吸収パターン層141全体における組成比を測定したところ、錫(Sn)と酸素(O)の含有量は98原子%であり、フッ素(F)の含有量は2原子%であった。これにより、比較例3の反射型フォトマスク200を作製した。
【0062】
[比較例4]
吸収層14の錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率O/Snが2.0になるように、また、膜厚が47nmになるように吸収層14を成膜した。また、実施例1と同様の方法で、吸収パターン層141を作製した後に、最表面からのフッ素(F)の検出限界膜厚が2nmになるように、また、バルク組成比がSn+O/F:98/2になるようにフッ素(F)を添加した。つまり、吸収パターン層141全体における組成比を測定したところ、錫(Sn)と酸素(O)の含有量は98原子%であり、フッ素(F)の含有量は2原子%であった。これにより、比較例4の反射型フォトマスク200を作製した。
【0063】
[比較例5]
吸収層14の錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率O/Snが2.0になるように、また、錫(Sn)と酸素(O)の合計含有量が吸収層14全体の30原子%になるように、また、残りの70原子%がシリコン(Si)になるように、また、膜厚が26nmになるように吸収層14を成膜した。また、実施例1と同様の方法で、吸収パターン層141を作製した後に、最表面からのフッ素(F)の検出限界膜厚が2nmになるように、また、バルク組成比がSn+O/Si/F:29/69/2になるようにフッ素(F)を添加した。つまり、吸収パターン層141全体における組成比を測定したところ、錫(Sn)と酸素(O)の含有量は29原子%であり、シリコン(Si)の含有量は69原子%であり、フッ素(F)の含有量は2原子%であった。これにより、比較例5の反射型フォトマスク200を作製した。
【0064】
前述の実施例及び比較例とは別に、従来のタンタル(Ta)系吸収層を有する反射型フォトマスクも参考例として比較した。反射型フォトマスクブランクは、前述の実施例及び比較例と同様に、低熱膨張特性を有する合成石英の基板11上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)とを一対とする積層膜が40枚積層されて形成された反射層12と、膜厚3.5nmのルテニウム(Ru)キャッピング層13とを有し、キャッピング層13上に形成された吸収層14は、膜厚58nmのTaN上に膜厚2nmのTaOを成膜したものである。また、前述の実施例及び比較例と同様に、吸収層14がパターニングされたものを評価に用いた。
前述の実施例及び比較例において、吸収層14の膜厚は、透過電子顕微鏡によって測定した。
【0065】
以下、本実施例で評価した評価項目について説明する。
(反射率)
前述の実施例及び比較例において、作製した反射型フォトマスク200及び反射型フォトマスク201の吸収パターン層141領域の反射率RaをEUV光による反射率測定装置で測定した。また、吸収パターン層141が形成されていない領域における反射率Rm、即ち露出したキャッピング層13、及び反射層12で構成された領域における反射率RmをEUV光による反射率測定装置で測定した。こうして、実施例及び比較例に係る反射型フォトマスク200及び反射型フォトマスク201のOD値を得た。
【0066】
(水素ラジカル耐性)
マイクロ波プラズマを使って、電力1kWで水素圧力が0.36ミリバール(mbar)以下の水素ラジカル環境下に、実施例及び比較例で作製した反射型フォトマスク200及び反射型フォトマスク201を設置した。水素ラジカル処理後での吸収パターン層141の膜厚変化を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて確認した。測定は線幅200nmLSパターンで行った。
【0067】
(ウェハ露光評価)
EUV露光装置(NXE3300B:ASML社製)を用いて、EUVポジ型化学増幅型レジストを塗布した半導体ウェハ上に、実施例及び比較例で作製した反射型フォトマスク200及び反射型フォトマスク201の吸収パターン141を転写露光した。このとき、露光量は、
図14に示すx方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した。具体的には、本露光試験では、
図14に示すx方向のLSパターン(線幅64nm)が、半導体ウェハ上で16nmの線幅となるように露光した。電子線寸法測定機により転写されたレジストパターンの観察及び線幅測定を実施し、HVバイアス値がどのように変化するかをシミュレーションにより比較した。
【0068】
HVバイアス値は、マスクパターンの向きに依存した転写パターンの線幅差、つまり、水平(Horizontal:H)方向の線幅と垂直(Vertical:V)方向の線幅との差のことである。H方向の線幅は、入射光と反射光が作る面(以下、「入射面」と称する場合がある)に直交する線状パターンの線幅を示し、V方向の線幅は、入射面に平行な線状パターンの線幅を示している。つまり、H方向の線幅は、入射面に平行な方向の長さであり、V方向の線幅は、入射面に直交する方向の長さである。
これらの評価結果を、
図16及び表2に示した。
【0069】
【0070】
図13は、各実施例及び各比較例のEUV光反射率を示している。なお、表2に示した評価では、OD値が1.50以上であれば転写性能に問題はないとして、「合格」とした。
従来の膜厚60nmのタンタル(Ta)系吸収パターン層を備えた反射型フォトマスク(参考例の反射型フォトマスク)のOD値は1.58(反射率1.7%)であるのに対し、実施例1の反射型フォトマスク200のOD値は1.99(反射率0.7%)であり、実施例2の反射型フォトマスク200のOD値は2.01(反射率0.7%)であり、実施例3の反射型フォトマスク200のOD値は1.96(反射率0.7%)であり、実施例4の反射型フォトマスク201のOD値は2.00(反射率0.6%)であり、実施例5の反射型フォトマスク200のOD値は1.64(反射率1.4%)であり、実施例6の反射型フォトマスク200のOD値は1.50(反射率2.0%)と良好であった。また、比較例においても、比較例1の反射型フォトマスク200のOD値は1.97(反射率0.7%)であり、比較例2の反射型フォトマスク200のOD値は2.01(反射率0.6%)であり、比較例4の反射型フォトマスク200のOD値は2.46(反射率0.2%)と良好であった。
これに対して、比較例3の反射型フォトマスク200のOD値は0.77(反射率10.7%)であり、比較例5の反射型フォトマスク200のOD値は0.90(反射率7.5%)と従来の膜厚60nmのタンタル(Ta)系フォトマスクのOD値(1.58)を下回った。
【0071】
表2において、各実施例及び各比較例のHVバイアスの比較を示す。従来の膜厚60nmのタンタル(Ta)系吸収パターンを備えた反射型フォトマスクを用いたEUV光によるパターニングの結果、HVバイアスは7.57nmであった。これに対し実施例1のHVバイアスは3.85nmであり、実施例2のHVバイアスは3.60nmであり、実施例3のHVバイアスは3.91nmであり、実施例4のHVバイアスは3.90nmであり、実施例5のHVバイアスは3.40nmであり、実施例6のHVバイアスは3.20nmであり、従来のTa系フォトマスクと比較してシャドウイングの効果を低減してパターン転写性を改善できる結果となった。
【0072】
また、比較例1においてもHVバイアスが3.59nmであり、比較例2においてもHVバイアスが3.79nmであり、比較例3においてもHVバイアスが1.99nmであり、比較例5においてもHVバイアスが2.00nmと、従来のTa系フォトマスクと比較してシャドウイングの効果を低減してパターン転写性を改善できる結果となった。
ただし、比較例4においてのみHVバイアスが9.79nmと、EUV光によるパターニングの結果、従来のTa系フォトマスクと比較して転写性が悪化した。
【0073】
表2において、各実施例及び各比較例の水素ラジカル耐性の結果を示す。吸収パターン層141の膜減り速さが0.01nm/s以下であった場合を「〇」と評価し、膜減り速さが0.01nm/sを超えるものの0.1nm/s以下であった場合を「△」と評価し、膜減り速さが0.1nm/s超であった場合を「×」として評価した。その結果、比較例1及び比較例2以外の実施例及び比較例、即ち実施例1~6及び比較例3~5の反射型フォトマスク200及び反射型フォトマスク201については、膜減り速さが0.01nm/s以下の水素ラジカル耐性が確認された。
【0074】
表2において、HVバイアスと水素ラジカル耐性の総合的評価を示す。射影効果を抑制または軽減でき、且つ水素ラジカル耐性を有する反射型フォトマスク200及び反射型フォトマスク201については、「判定」の欄に「○」と記し、射影効果を十分に抑制または軽減できなかった、又は水素ラジカル耐性を有さない反射型フォトマスク200及び反射型フォトマスク201については、「判定」の欄に「×」と記した。従来のTa系フォトマスクは比較対象であるため、「判定」の欄に「△」と記した。
これにより、吸収パターン層141が、錫(Sn)と酸素(〇)とを合計で50原子%以上含有する材料で形成され、且つフッ素(F)が添加された材料で形成されたフォトマスクであれば、光学濃度、HVバイアス、水素ラジカル耐性が共に良好であることから、射影効果を低減でき、長寿命であり、且つ転写性能が高くなるという結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明にかかる反射型フォトマスクは、半導体集積回路などの製造工程において、EUV露光によって微細なパターンを形成するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1…基板
2…反射層
3…キャッピング層
4…吸収パターン層
4a…フッ素(F)を含む領域
5…裏面導電膜
6…吸収パターン層
6a…フッ素(F)を含む領域
6b…フッ素(F)を含まない領域
7…吸収パターン層
10…反射型フォトマスク
11…基板
12…反射層
13…キャッピング層
14…吸収層
15…裏面導電膜
16…レジスト膜
16a…レジストパターン
141…吸収パターン層(吸収パターン)
100…反射型フォトマスクブランク
200…反射型フォトマスク
201…反射型フォトマスク
D…検出限界となる深さ