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特開2022-144653熱可塑性樹脂用エッチング液及びエッチング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144653
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂用エッチング液及びエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 13/02 20060101AFI20220926BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20220926BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C09K13/02
C08J7/00 Z
B81C1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045754
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田邉 昌大
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 隆
【テーマコード(参考)】
3C081
4F073
【Fターム(参考)】
3C081AA17
3C081BA04
3C081BA09
3C081BA21
3C081CA02
3C081CA15
3C081DA10
3C081DA22
3C081DA43
3C081EA29
4F073AA06
4F073BA04
4F073BA06
4F073BA07
4F073BA08
4F073BA17
4F073BA18
4F073BA19
4F073BA23
4F073BA24
4F073BA26
4F073EA55
4F073EA59
(57)【要約】
【課題】金型の作製が困難な狭ピッチのパターンを熱可塑性樹脂に形成することが本発明の課題である。
【解決手段】5~40質量%のアルカノールアミン、及び15~45質量%のアルカリ金属水酸化物を含み、アルカノールアミン化合物が、エタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン及びN-エチルジエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、アルカリ金属水酸化物が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする熱可塑性樹脂用エッチング液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5~40質量%のアルカノールアミン及び15~45質量%のアルカリ金属水酸化物を含み、アルカノールアミン化合物が、エタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン及びN-エチルジエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、アルカリ金属水酸化物が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする熱可塑性樹脂用エッチング液。
【請求項2】
熱可塑性樹脂がポリカーボネイト、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂用エッチング液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂用エッチング液を使用して、熱可塑性樹脂をエッチングする工程を含むエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂用エッチング液及びエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ化学デバイスを使って細胞を観察する場合、従来の技術では観察する細胞に適切なウェル形状として最小で直径10μmサイズのマイクロウェルを数十万個集積したデバイスが提供できているものの、射出成形でのマイクロ化学デバイスを作製するには、ウェルとウェルとの距離が最小でもウェル径の2倍(2ウェル)以上は必要であった。このような状況では、1デバイス内のウェル集積数は数十万個になるものの、蛍光顕微鏡観察、レーザ顕微鏡観察などの観察では1視野内にあるウェル数に限界があり、かつ観察試料の作製条件によっては貴重な細胞がウェル内に入らないで、ウェル間に存在してしまうことがあった。
【0003】
合成樹脂による射出成形でマイクロ化学デバイスを作製するには、デバイスのパターン形状(ウェルデバイスの場合はウェル形状)を反転させた金型入子を作製する必要がある。射出成型で使用される合成樹脂は、一般的に、熱可塑性樹脂である。現状の金型作製技術では、加工ツールからくる制限、加工機からくる制限、デバイス形状からくる制限などから、ウェル形状作製で望まないコーナー部に生じるアールをゼロにして、ウェル径が10μmから数百μmのウェル形状のデバイスを1ウェル以内の距離でウェルを配列させることができなかった。
【0004】
インプリント、特にマイクロレンズ、拡散シートなどの光学分野では、ナノパターンの凹形状を1パターン以下の距離で配列させる実例があるが、凹形状がナノレベルであるため、ニッケル系の鋼材を使用することで、金型入子の作製が可能となる場合があるものの、細胞・タンパク質などを扱うバイオ関連分野において、パターンサイズが10μm以上、数百μm以下程度のサイズでは、同様な金型入子の作製が困難である。さらに、パターン配置も重要で、ウェル形状、ウェル間距離が同じでも、千鳥形状のパターン配置になると、現状の金型加工技術では加工できない。また、化学、医療、環境、食品などの分野においてもデバイスの微細化や複雑化が進んでおり、金型の作製が困難な場合がある。
【0005】
特許文献1では、微生物、細胞、タンパク質などのスクリーニングとして最近は大量のライブラリーからのスクリーニングが必要と記載しているが、ウェルサイズは直径50μmで、隣接ウェル間距離は80μmである。さらに、ウェルの断面形状は半球型となっており、従来の技術レベルでは、ウェル間距離を1ウェル分以内に縮めることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-061023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱可塑性樹脂である合成樹脂による射出成形でのマイクロ化学デバイスの製造方法においては、金型加工技術の制約を受け、微細なパターンや複雑なパターンは金型の作製が困難であることがあった。また、金型の作製に時間がかかることやコストの面から小ロットのデバイス作製には向かないことがあった。
【0008】
本発明の課題は、金型加工技術の制約を受けずに熱可塑性樹脂に微細なパターンを形成することができる熱可塑性樹脂用エッチング液及びエッチング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)5~40質量%のアルカノールアミン及び15~45質量%のアルカリ金属水酸化物を含み、アルカノールアミン化合物が、エタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン及びN-エチルジエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、アルカリ金属水酸化物が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする熱可塑性樹脂用エッチング液。
(2)熱可塑性樹脂がポリカーボネイト、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂から選ばれることを特徴とする上記(1)に記載の熱可塑性樹脂用エッチング液。
(3)上記(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂用エッチング液を使用して、熱可塑性樹脂をエッチングする工程を含むエッチング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂用エッチング液により、金型加工技術の制約を受けずに熱可塑性樹脂に微細なパターンを形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0012】
本明細書において、「熱可塑性樹脂用エッチング液」を「エッチング液」と略記する場合がある。本発明のエッチング液は、5~40質量%のアルカノールアミン及び15~45質量%のアルカリ金属水酸化物を含む水溶液である。熱可塑性樹脂は、高濃度のアルカリ水溶液に膨潤する性質をもつ場合もあるが、分散性が低いため、本来アルカリ水溶液によって微細なパターンを作製することはできない。しかし、本発明のエッチング液を使用することによって、熱可塑性樹脂に微細なパターンを作製することができる。これは、アルカリ金属水酸化物により熱可塑性樹脂が膨潤し、アルカノールアミンにより熱可塑性樹脂の分散が促進されることによる。
【0013】
アルカリ金属水酸化物の含有量が15質量%未満の場合、熱可塑性樹脂の膨潤性が乏しく、アルカリ金属水酸化物の含有量が45質量%を超えると、アルカリ金属水酸化物の析出が起こりやすいことから、液の経時安定性に劣る。アルカリ金属水酸化物の含有量は、20~45質量%がより好ましく、25~40質量%がさらに好ましい。アルカノールアミン化合物の含有量が5質量%未満の場合、熱可塑性樹脂の分散性が乏しい。アルカノールアミン化合物の含有量が40質量%を超えると、水に対する相溶性が低下し、相分離が起こりやすいことから、エッチング液の経時安定性に劣る。アルカノールアミン化合物の含有量は、20~40質量%がより好ましく、25~35質量%がさらに好ましい。
【0014】
アルカリ金属水酸化物は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化リチウムの群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。アルカリ金属水酸化物は、これらの中の1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
上記アルカノールアミン化合物としては、第一級アミンであるエタノールアミン;第一級アミンと第二級アミンの混合体(すなわち、一分子内に第一級アミノ基と第二級アミノ基とを有する化合物)であるN-(β-アミノエチル)エタノールアミン、第二級アミンであるN-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、第三級アミンであるトリエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン及びN-メチルジエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。エタノールアミン化合物は、これらの中の1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明のエッチング液はアルカリ水溶液である。本発明のエッチング液に使用される水としては、水道水、工業用水、純水等を用いることができる。このうち純水を使用することが好ましい。本発明では、一般的に工業用に用いられる純水を使用することができる。
【0017】
本発明のエッチング液に、必要に応じて、カップリング剤、レベリング剤、着色剤、界面活性剤、消泡剤、有機溶媒等を適宜添加することもできる。有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類;セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒等が挙げられる。
【0018】
本発明のエッチング液は、アルコール化合物及びカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を1~60質量%含有してもよい。アルコール化合物及びカルボン酸化合物としては、ポリオール化合物、多価カルボン酸化合物及びヒドロキシ酸化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好適に用いられる。
【0019】
連続的にエッチング処理した際、空気中の炭酸ガスを吸収し、エッチング液に不溶な沈殿が発生する場合がある。その沈殿が熱可塑性樹脂に付着し、均一なエッチング処理を妨げる不具合が発生する場合がある。しかし、エッチング性に悪影響を及ぼさずにこの不溶な沈殿を溶解させる効果が、アルコール化合物及びカルボン酸化合物にあり、均一なエッチング処理ができ、ランニング性が良くなると考えられる。アルコール化合物及びカルボン酸化合物の含有量が1質量%未満であると、均一性改善効果がアルコール化合物及びカルボン酸化合物を含まないエッチング液に対して変わらないものとなる場合があり、60質量%を超えると、エッチング性が不十分となる場合がある。アルコール化合物及びカルボン酸化合物の含有量は、より好ましくは10~40質量%である。
【0020】
本発明のエッチング液は、50~90℃の範囲で使用することが好ましい。熱可塑性樹脂の種類、熱可塑性樹脂の厚み、エッチング処理を施す孔やパターンの形状等により、最適温度が異なるが、エッチング液の温度は60~85℃がより好ましく、70~85℃がさらに好ましい。
【0021】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネイト、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。熱可塑性樹脂は市販のものを使用することができる。
【0022】
本発明において、熱可塑性樹脂は、さらに、充填材を含むことができる。充填材としては、無機充填材と有機充填材が挙げられるが、無機充填材が含まれることが好ましい。
【0023】
無機充填材としては、例えば、シリカ、ガラス、クレー、雲母等のケイ酸塩;アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、シリカ等の酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛等のモリブデン化合物等が挙げられる。また、ホウ酸アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、タルク、マイカ、ガラス短繊維、中空ガラス、ウィスカ等が挙げられる。また、スチレン型、ブタジエン型、アクリル型などのゴムパウダー、コアシェル型のゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー、シリコーンゴムパウダー、シリコーン複合パウダー、フッ素樹脂パウダーなどの有機充填材を用いることもできる。充填材として、これらの中の1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本発明のエッチング方法を説明する。本発明のエッチング方法は、(工程1)熱可塑性樹脂を含む基材の少なくとも片面にアルカリ現像型の感光性樹脂組成物層を形成する工程、(工程2)感光性樹脂組成物層を露光・現像してレジストパターンを形成する工程、(工程3)本発明のエッチング液によって基材をエッチング処理する工程を含む。
【0025】
(工程1)
基材の少なくとも片面にアルカリ現像型の感光性樹脂組成物層を形成する工程を説明する。基材としては、本発明のエッチング液によってエッチングできる熱可塑性樹脂を含む基材であれば何れであってもよい。
【0026】
本発明のエッチング方法において、感光性樹脂組成物層を形成する方法としては、基材に感光性樹脂組成物を含む塗工液を塗工し、乾燥して、感光性樹脂組成物層を形成する方法が挙げられる。また、また、本発明の感光性樹脂組成物を含む塗工液を、キャリアーフィルムに塗工して、感光性樹脂組成物を含む感光性樹脂組成物層を形成して、ドライフィルムレジスト(DFR)を作製し、基材に感光性樹脂組成物層を転写する方法が挙げられる。
【0027】
(工程2)
感光性樹脂組成物層を露光・現像してレジストパターンを形成する工程を説明する。(工程2)では、まず、感光性樹脂組成物層に対してパターン状の露光を実施し、露光部を硬化させる。露光としては、具体的には、フォトマスクを用いた密着露光が挙げられる。また、キセノンランプ、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、UV蛍光灯を光源とした反射画像露光、プロキシミティ方式、プロジェクション方式や走査露光が挙げられる。走査露光としては、UVレーザ、He-Neレーザ、He-Cdレーザ、アルゴンレーザ、クリプトンイオンレーザ、ルビーレーザ、YAGレーザ、窒素レーザ、色素レーザ、エキシマレーザ等のレーザ光源を発光波長に応じてSHG波長変換した走査露光、あるいは、液晶シャッター、マイクロミラーアレイシャッターを利用した走査露光等が挙げられる。
【0028】
パターン状の露光後に、現像を実施し、レジストパターンとして不要な部分である非露光部の感光性樹脂組成物層を除去し、硬化した感光性樹脂組成物層を含むレジストパターンを形成する。現像に使用するアルカリ現像液としては、例えば、無機アルカリ性化合物の水溶液を用いることができる。無機アルカリ性化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の炭酸塩や水酸化物が挙げられる。アルカリ現像液としては、0.1~3質量%の炭酸ナトリウム水溶液が好ましく使用できる。現像液には、界面活性剤、消泡剤、溶剤等を適宜少量混入することもできる。現像処理方法としては、ディップ方式、パドル方式、スプレー方式、ブラッシング、スクレーピング等があり、スプレー方式が除去速度のためには最も適している。処理温度は15~35℃が好ましく、また、スプレー圧は0.02~0.3MPaが好ましい。
【0029】
(工程3)
本発明のエッチング液によって基材をエッチング処理する工程を説明する。
【0030】
エッチング方法としては、浸漬処理、パドル処理、スプレー処理、ブラッシング、スクレーピング等の方法を用いることができる。この中でも、浸漬処理が好ましい。浸漬処理以外の方法では、エッチング液中に気泡が発生しやすく、その気泡が基材の表面に付着してエッチング不良が発生する場合がある。また、浸漬処理以外の方法では、エッチング液の温度変化が大きくなりやすく、基材のエッチング速度にばらつきが発生する場合がある。
【0031】
エッチング液の処理温度は60~90℃であることが好ましく、基材の種類、厚み、また、感光性樹脂組成物の種類、厚み、パターン形状によって最適な処理温度は異なる。処理温度は、60~85℃がより好ましく、70~85℃がさらに好ましい。
【0032】
エッチング処理後、さらに、除去しきれなかった熱可塑性樹脂や熱可塑性樹脂の表面に残存付着したエッチング液を水洗処理によって洗浄する。水洗処理の方法としては、拡散速度と液供給の均一性の点からスプレー方式が好ましい。水洗水としては、水道水、工業用水、純水等を用いることができる。このうち純水を使用することが好ましい。純水は、一般的に工業用に用いられるものを使用することができる。
【実施例0033】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0034】
表1に示す各成分を混合し、感光性樹脂組成物の塗工液を得た。なお、表1における各成分の含有量の単位は[質量部]である。アプリケーターを用いて、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(キャリアーフィルム、商品名:R310、16μm厚、三菱ケミカル社製)上に得られた塗工液を塗工し、80℃で5分間乾燥し、溶剤成分を除去し、PETフィルムの片面上に、感光性樹脂組成物を含む感光性樹脂組成物層(15μm厚)を得た。ポリエチレンフィルム(保護フィルム、商品名:GF1、30μm厚、タマポリ社製)を感光性樹脂組成物層面に貼り付け、DFRを作製した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1において、各成分は以下の通りである。
【0037】
(A)アルカリ可溶性樹脂
(A-1):メチルメタクリレート/n-ブチルアクリレート/メタクリル酸を質量比64/15/21で共重合させた共重合樹脂(酸価137、質量平均分子量20000)
【0038】
(B)光重合開始剤
(B-1):2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体
(B-2):4,4′-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン
【0039】
(C)重合性モノマー
(C-1):NKエステルBPE-200(商品名、新中村化学工業社製)
(C-2):NKエステルBPE-500(商品名、新中村化学工業社製)
【0040】
次に、300μm厚のポリカーボネイトの両面に上記のDFRを、ポリエチレンフィルムを剥がした後貼り付けて、感光性樹脂組成物層を形成した(工程1)。続いて、5kWの超高圧水銀灯光源を搭載した両面露光機を用い、直径100μmの円が100μmから5μmまで5μm毎の間隔で並んだテスト用パターンを有するフォトマスクを通して上記のポリカーボネイトに形成されたDFRに対して密着露光を行って、露光量30mJ/cmにて紫外線を露光し、コンベアー式現像機を用いて、液温30℃の1質量%炭酸ナトリウム水溶液で、スプレー圧力0.2MPaの条件で、90秒間現像処理し、テスト用パターン部に、ボトム部で直径100μmの円形のレジストパターンを得た(工程2)。
【0041】
表2の構成のエッチング液を調製した。
【0042】
【表2】
【0043】
上記のレジストパターンを形成したポリカーボネイトを、80℃で保温したエッチング液にそれぞれに攪拌しながら浸漬してポリカーボネイトをエッチングした(工程3)。
【0044】
開口部の深さが100μmになるまでエッチング処理を行い、エッチング処理後の開口部の直径、隣接パターンの間隔を測定し、「狭ピッチ性」を評価した。測定には、(株)キーエンス製の形状解析レーザ顕微鏡VK-X1000の画像観察モードを用いた。隣接パターンの間隔は開口部の直径よりも小さいことが好ましい。
【0045】
狭ピッチ性の評価基準を以下に示す。
○:隣接パターンの間隔が開口部の直径より小さい。
×:隣接パターンの間隔が開口部の直径より大きい。
【0046】
次にエッチングに要した時間を測定し、「加工性」を評価した。本例においては、生産性を考慮すると、エッチング時間は20分未満であることが好ましく、15分未満であることがより好ましく、10分未満であることがさらに好ましい。
【0047】
加工性の評価基準を以下に示す。
○:処理時間が10分未満である。
△:処理時間が10分以上20分未満である。
×:処理時間が20分以上である。
【0048】
エッチング処理において、エッチング液の連続使用可能日数を「安定性」として評価した。本例において、生産性を考慮すると、連続使用可能日数が20日以上であることが好ましく、30日以上であることがより好ましい。連続使用可能日数とは、1日の稼働時間を8時間とし、エッチング液の分離が起こらないこと、及び、連続使用に伴い発生する沈殿がエッチング処理を阻害しないことを満たす日数を示す。連続使用及び蒸発により減少した液量は、同量のエッチング液を随時補充するものとする。
【0049】
エッチング液の安定性の評価基準を以下に示す。
○:20日連続使用後、エッチング液が分離しておらず、発生した沈殿が絶縁層に残存しない。
△:20日連続使用後、エッチング液が分離しておらず、発生した沈殿が絶縁層に残存するが、後工程で除去できる。
×:20日連続使用後、エッチング液が分離する、又は発生した沈殿が絶縁層に残存し、除去が困難である。
【0050】
表2の結果からわかるように、本発明のエッチング液を使用すると、熱可塑性樹脂表面に狭ピッチで小径開口のパターンを形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のエッチング液は、熱可塑性樹脂表面に狭ピッチで小径開口のパターンを形成することができる。また、金型を必要としないため少ロット、あるいは複雑な形状のマイクロ化学デバイスの作製に使用できる。