(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144659
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ロイコ色素の安定化方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/72 20060101AFI20220926BHJP
C07K 14/805 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
G01N33/72 A
C07K14/805
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045766
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前原 志穂里
【テーマコード(参考)】
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA45
4H045AA50
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】 ロイコ色素の経時的な非特異発色を抑制し、安定なロイコ色素含有試薬を提供すること。
【解決手段】 ロイコ色素を含む試薬中においてキレート剤を共存させることを特徴とする、ロイコ色素の非特異発色反応を抑制する方法を提供する。本発明の非特異発色反応を抑制する方法は、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン及び銅イオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンを発生させ得る成分により助長されるロイコ色素の経時的な非特異発色を抑制するのに有効である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコ色素を含む試薬中においてキレート剤を共存させることを特徴とする、ロイコ色素の非特異発色反応を抑制する方法。
【請求項2】
試薬中に存在する金属イオンを発生させ得る成分により生じるロイコ色素の非特異発色反応を抑制する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属イオンが、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン及び銅イオンからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
試薬中に存在するカルシウムイオンを発生させ得る成分の濃度が0.4~150mMである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
試薬中に存在するマンガンイオンを発生させ得る成分の濃度が0.05~5μMである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
試薬中に存在する鉄イオンを発生させ得る成分の濃度が0.3~30μMである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
試薬中に存在する銅イオンを発生させ得る成分の濃度が0.8~80μMである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項8】
キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、クエン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ロイコ色素が、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウムである、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
試薬が糖化タンパク質の測定用試薬である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
糖化タンパク質が糖化ヘモグロビンである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ロイコ色素を含む試薬が、プロテアーゼも、糖化ペプチドオキシダーゼも、ペルオキシダーゼも含まない試薬である、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
ロイコ色素及びキレート剤を含有し、ロイコ色素の非特異発色反応が抑制された生体成分測定試薬。
【請求項14】
ロイコ色素の非特異発色反応が、試薬中に存在する金属イオンを発生させ得る成分により生じるロイコ色素の非特異発色反応である、請求項13に記載の生体成分測定試薬。
【請求項15】
7日間保存後にもロイコ色素の非特異発色反応が抑制されている、請求項13又は14に記載の生体成分測定試薬。
【請求項16】
糖化タンパク質の測定用試薬である、請求項13~15のいずれかに記載の生体成分測定試薬。
【請求項17】
糖化タンパク質が糖化ヘモグロビンである請求項16に記載の生体成分測定試薬。
【請求項18】
プロテアーゼも、糖化ペプチドオキシダーゼも、ペルオキシダーゼも含まない試薬である、請求項13~17のいずれかに記載の生体成分測定試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は臨床検査などの分野で用いられる発色基質液の安定化法及び安定化された発色基質液に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査分野では、酵素法により様々な項目の測定が行われている。例えばグルコースオキシダーゼ等の酸化酵素を用いて過酸化水素を発生させ、ペルオキシダーゼと色素の存在下で発色後の吸光度を測定し、物質の濃度を定量化する方法が従来から知られている。
この際用いられる色素の種類としては、例えば、トリンダー試薬と呼ばれる色素またはロイコ色素と呼ばれる色素が存在する。トリンダー試薬とは、4-アミノアンチピリンなどのカップラーと各種トリンダー試薬との2種からなる色素である。このトリンダー試薬は、光や熱に対して安定な色素であり、過酸化水素2分子に反応することが知られている。一方、ロイコ色素としては、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム(DA-67)やN-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4-ビス(ジメチルアミノ)ビフェニルアミン(DA-64)などが知られており、過酸化水素1分子に対して反応するため高感度の測定が可能ではあるものの、光や熱に対して不安定なため、測定前のブランクが高くなるなどの問題があった。そこで、ロイコ色素の安定性を高める方法に関して様々な検討が行われている。
【0003】
これまでにペルオキシダーゼ活性測定に用いられる発色基質を含有する基質液を安定化する方法として、還元剤を添加する方法が知られている(特許文献1)。また、ロイコ色素の非特異発色反応を軽減する方法として、1)最大吸収波長が400nm~550nmの範囲であって、かつ過酸化水素とは反応しないロイコ色素と別の色素、及び2)シクロデキストリン類を共存させる方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、ロイコ色素を含有する発色基質液の着色を抑制する技術はまだ十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3289280号公報
【特許文献2】特許第4697809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようにロイコ色素を含有する発色基質液は非常に不安定であり、容易に酸化されて着色してしまい、発色基質を含む基質液を長期に保存しておくことはできない。また、本発明者はロイコ色素を含有する発色基質液の開発を進めていく中で、保管条件によりロイコ色素の自己発色(非特異発色反応)が著しく悪化する場合があることを経験した。そして、この保管状況により生じる原因不明の自己発色の増大は、発色基質液が金属イオン(特に、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、又は銅イオン)を発生させ得る成分を含む場合に顕著であることを見出した。本発明は上記の新たに見出された欠点を解消するためになされたもので、特に、金属イオン及びロイコ色素が共存する発色基質液の安定性を改善し、ロイコ色素の非特異発色反応による着色を抑制する方法並びに安定化され着色が抑制された基質液等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、上記のようなロイコ色素を含有する試薬の自己発色、特に、ロイコ色素と金属イオンが共存することにより助長されるロイコ色素の非特異的な自己発色は、キレート剤の添加により高度に抑制でき、ロイコ色素を含有する試薬の安定性を格段に向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、代表的な本発明は以下の構成を有する。
[項1] ロイコ色素を含む試薬中においてキレート剤を共存させることを特徴とする、ロイコ色素の非特異発色反応を抑制する方法。
[項2] 試薬中に存在する金属イオンを発生させ得る成分により生じるロイコ色素の非特異発色反応を抑制する、項1に記載の方法。
[項3] 金属イオンが、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン及び銅イオンからなる群より選択される少なくとも一種である、項2に記載の方法。
[項4] 試薬中に存在するカルシウムイオンを発生させ得る成分の濃度が0.4~150mMである、項2又は3に記載の方法。
[項5] 試薬中に存在するマンガンイオンを発生させ得る成分の濃度が0.05~5μMである、項2又は3に記載の方法。
[項6] 試薬中に存在する鉄イオンを発生させ得る成分の濃度が0.3~30μMである、項2又は3に記載の方法。
[項7] 試薬中に存在する銅イオンを発生させ得る成分の濃度が0.8~80μMである、項2又は3に記載の方法。
[項8] キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、クエン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種である、項1~7のいずれかに記載の方法。
[項9] ロイコ色素が、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウムである、項1~8のいずれかに記載の方法。
[項10] 試薬が糖化タンパク質の測定用試薬である、項1~9のいずれかに記載の方法。
[項11] 糖化タンパク質が糖化ヘモグロビンである項10に記載の方法。
[項12] ロイコ色素を含む試薬が、プロテアーゼも、糖化ペプチドオキシダーゼも、ペルオキシダーゼも含まない試薬である、項1~11のいずれかに記載の方法。
[項13] ロイコ色素及びキレート剤を含有し、ロイコ色素の非特異発色反応が抑制された生体成分測定試薬。
[項14] ロイコ色素の非特異発色反応が、試薬中に存在する金属イオンを発生させ得る成分により生じるロイコ色素の非特異発色反応である、項13に記載の生体成分測定試薬。
[項15] 7日間保存後にもロイコ色素の非特異発色反応が抑制されている、項13又は14に記載の生体成分測定試薬。
[項16] 糖化タンパク質の測定用試薬である、項13~15のいずれかに記載の生体成分測定試薬。
[項17] 糖化タンパク質が糖化ヘモグロビンである項16に記載の生体成分測定試薬。
[項18] プロテアーゼも、糖化ペプチドオキシダーゼも、ペルオキシダーゼも含まない試薬である、項13~17のいずれかに記載の生体成分測定試薬。
【発明の効果】
【0008】
ロイコ色素は他の色素と比べて感度が高く、より高い精度の求められる測定系への使用が期待される半面、自己発色による保存安定性の低さが問題であった。本発明に因れば、例えば、金属イオンが共存する発色基質液においても、長期間にわたりロイコ色素の自己発色を効果的に抑制することができ、安定的に色素の性能を発揮させることができる。本発明を応用すれば、例えば、糖化ヘモグロビン等の高精度な測定が求められる生化学分析の分野で用いる発色基質液にロイコ色素を安定的に使用することができるようになり、より精度の高い生化学分析測定に資することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説する。
【0010】
[1.ロイコ色素の非特異発色反応を抑制する方法]
本発明の一態様は、ロイコ色素を含む試薬中においてキレート剤を共存させることを特徴とする、ロイコ色素の非特異発色反応を抑制する方法である。このように発色基質液等の試薬溶液中においてロイコ色素とキレート剤とを共存させておくことによって、例えば、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、又は銅イオン等の金属イオンを発生させ得る成分がロイコ色素を含有する試薬溶液中に存在し得る場合であっても、保管中に経時的にロイコ色素が自己発色してしまうのを高度に抑制することが可能となる。
【0011】
本発明に用いられ得るロイコ色素としては、特に限定されないが、例えば、フェノチアジン系色素、トリフェニルメタン系色素、ジフェニルアミン系色素、o-フェニレンジアミン、ヒドロキシプロピオン酸、ジアミノベンジジン、テトラメチルベンジジン等が挙げられる。本発明の効果がより得られ易いという観点から、ロイコ色素としては、フェノチアジン系色素、トリフェニルメタン系色素、ジフェニルアミン系色素が好ましく、フェノチアジン系色素、ジフェニルアミン系色素がより好ましく、フェノチアジン系色素がさらに好ましい。、
【0012】
フェノチアジン系色素としては、例えば、10-N-カルボキシメチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(CCAP)、10-N-メチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(MCDP)、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム (DA-67)等を挙げることができる。また、フェノチアジン系色素として、特開2018-141115号公報に記載のような10-(アミノカルボニル)-3,7-ビス(ジアルキルアミノ)フェノチアジン骨格を有する化合物等を使用することもできる。本明細書では、特開2018-141115号公報に記載された内容を参考として援用する。
トリフェニルメタン系色素としては、例えば、N,N,N’,N’,N’’,N’’-ヘキサ(3-スルホプロピル)-4,4’,4’’-トリアミノトリフェニルメタン(TPM-PS)、4,4’-ベンジリデンビス(N,N-ジメチルアニリン)(LMG)、4,4’,4’’-メチリジントリス(N,N-ジメチルアニリン)等が挙げられる。
ジフェニルアミン系色素としては、例えば、N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン ナトリウム塩(DA-64)、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン、ビス〔3-ビス(4-クロロフェニル)メチル-4-ジメチルアミノフェニル〕アミン(BCMA)等が挙げられる。
ロイコ色素は塩の形態で用いられてもよく、塩としては、特に限定されないが、ナトリウム塩、カリウム塩等を例示することができる。
【0013】
本発明の方法を、例えば、糖化ヘモグロビン測定用試薬等のペルオキシダーゼ測定系に用いる場合には、上記に挙げたロイコ色素の中でも、フェノチアジン系色素又はジフェニルアミン系色素のロイコ色素が好ましく、フェノチアジン系色素のロイコ色素がより好ましく、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム(DA-67)がとりわけ好ましい。上記のようなロイコ色素を用いることで、モル吸光係数が高く、極大吸収波長が高波長側にあり、血液中の共存物質の波長を回避でき、かつ色素の波長を検出しやすいという利点がある。
【0014】
試薬中におけるロイコ色素の濃度は、本発明の効果を奏し得る限り特に限定されず、使用するロイコ色素の種類、他の配合成分の種類や濃度、所望する非特異反応抑制効果の程度等により適宜調整され得るが、通常、試薬(例えば、発色基質液)中のロイコ色素の濃度は、0.001~1mM程度、好ましくは0.005~0.5mM程度、より好ましくは0.01~0.1mM程度とするのがよい。このような濃度でロイコ色素を含む試薬(例えば、発色基質液)とすることで、試薬保管中も経時的に安定で自己発色が抑えられつつも、糖化ヘモグロビン等の高感度な分析が求められる生化学分野の測定用試薬として十分な感度を発揮することが可能となり得る。
【0015】
本発明のロイコ色素の非特異発色反応を抑制する方法では、試薬中において、ロイコ色素を一種類以上のキレート剤と共存させることを特徴とする。キレート剤としては例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、トリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸(DTPA-OH)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、ジカルボキシメチルグルタミン酸(CMGA)、(S、S)-エチレンジアミン二コハク酸(EDDS)、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)、グルコン酸、クエン酸、O、O’-ビス(2-アミノフェニル)エチレングリコール-N、N、N’-四酢酸、1、2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N、N、N’、N’-テトラ酢酸(BAPTA)、N、N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N、N、N’、N’-四酢酸、トランス-1、2-シクロヘキサンジアミン四酢酸一水和物(CyDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、N、N、N’、N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)、又はそれらの塩(例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウム等)等を挙げることができる。一つの好ましい実施形態において、ロイコ色素を金属イオンと共存させる場合(例えば、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、又は銅イオン等の金属イオンを発生させ得る成分を共存させる場合)、好ましくは、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、クエン酸又はそれらの塩が用いられる。ここで塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等を例示することができるが、これらに限定されない。本発明では、上記のようなキレート剤を一種類単独で用いても良いし、二種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明の試薬(例えば、発色基質液)における、このようなキレート剤の配合量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、ロイコ色素を含む試薬中に、0.01~10mM程度、好ましくは0.1~10mM程度、より好ましくは0.1~5mM程度とすることができる。このような濃度で試薬中にキレート剤を共存させることで、高度にロイコ色素の非特異的な自己発色を抑制することができる。
【0017】
本発明の試薬(例えば、発色基質液)の調製に用いる溶媒は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されないが、例えば、水又は適当な緩衝液(例えば、グッド緩衝液、炭酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液)等の溶媒を用いることができる。一例として、溶媒として水を用いる場合には、金属イオンを実質的に又は全く含まない水であることが好ましく、蒸留水、精製水、脱イオン水、イオン交換水、純水、超純水、MilliQ水、バイオメディカル用水等を用いることがより好ましい。
【0018】
本発明に使用されるグッド緩衝液としては、本発明の効果を奏する限り、当該分野で公知の任意のグッド緩衝液を広く使用できる。例えば、グッド緩衝液として、10~200mM濃度の2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)等が用いられるが、特に限定されない。
【0019】
更に他の特定の実施形態では、溶媒として、金属イオンを含み得る水又は適当な緩衝液等の溶媒を用いてもよい。本発明によれば、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、銅イオン等の金属イオンが共存する場合であっても、ロイコ色素を含有する試薬の自己発色を抑え、保管中も経時的に安定な試薬とすることができるという利点がある。従って、このような金属イオンを含み得る溶媒を用いる場合であっても、長期的に安定なロイコ色素を含む試薬とすることができる。
【0020】
一つの実施形態において、本発明のロイコ色素を含む試薬は金属イオンを発生させ得る成分を含む試薬であり得る。後述の試験例の結果に示すように、ロイコ色素は金属イオンと共存することによって、非特異的な自己発色が助長されてしまうことが分かっている。特に、このような非特異的な自己発色は、金属イオンとしてカルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、又は銅イオンが共存する場合に著しいことも確認されている。本発明によれば、このような金属イオンを発生させ得る成分が共存する場合であっても、ロイコ色素の非特異的な自己発色を抑えることが可能となり得る。本発明のロイコ色素を含む試薬において共存してもよい金属イオンを発生させ得る成分としては、特に限定されないが、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、銅イオン、ナトリウムイオン、亜鉛イオン、クロムイオン、アルミニウムイオン、鉛イオンを発生させ得る成分を挙げることができる。一つの実施形態では、ロイコ色素を含む試薬は、金属イオンを発生させ得る成分として、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、及び/又は銅イオンを発生させ得る成分を含むものであり得る。
【0021】
一つの実施形態において、本発明のロイコ色素を含む試薬が含み得る鉄イオンを発生させ得る成分(鉄含有物質ともいう)としては、特に限定されないが、鉄イオンを含む鉄含有化合物や鉄タンパク質、酸化鉄系顔料等を挙げることができる。なお本明細書において、鉄イオンとは鉄を構成に含むイオンを指し、例えば、フェリシアン化物イオン及び/又はフェロシアン化物イオン等も含む概念である。また、鉄イオンは、二価鉄イオン(Fe2+)又は三価鉄イオン(Fe3+)であってもよい。例えば、鉄イオンを発生させ得る成分として、FeBr2、FeBr3、Fe3C、FeCl2、FeCl3、FeF2、FeF3、FeH2、FeH3、FeI2、FeI3、FeN、Fe3N、Fe3N2、Fe(N3)2、FeO、Fe2O3、Fe3O4、FeS、FeS2、Fe2S3、Fe3S4、FeSe、Fe2Se3、FeSi2、Fe(C5H5)2、Fe(ClO3)3、Fe(ClO4)2、Fe(ClO4)3、Fe(CN)2、Fe(CN)3、FeCO3、Fe(CO)5、FeC2O4、Fe2(CO3)3、Fe2(CO)9、Fe2(C2O4)3、Fe3(CO)12、Fe2(CrO4)3、Fe2(Cr2O7)3、Fe5(IO6)2、FeMnO4、FeMoO4、Fe(NO3)2、Fe(NO3)3、Fe(OH)2、Fe(OH)3、FeO(OH)、FePO4、Fe3(PO4)2、FeSeO4、FeSO3、FeSO4、Fe2(SO4)3、H2FeO4、BaFeO4、K2FeO4、Fe(IO3)2、Fe(IO3)3、FeWO4、[Fe(C5H5)2]BF4、Fe(CH3COO)2、Fe(CH3COO)3、Fe(HCOO)2、Fe(OCN)2、Fe(SCN)2、Fe(SCN)3、H3[Fe(CN)6]、H4[Fe(CN)6]、(NH4)2Fe(SO4)2等の鉄含有化合物;ヘモグロビン、ミオグロビン、カタラーゼ、チトクロム(シトクロム)、ヘモペキシン、トランスフェリン、ヘモシデリン、フェリチン等の鉄タンパク質;べんがら(α-Fe2O3が主成分)、フェリット黄(α-FeOOH)、鉄黒(Fe3O4(FeOFe2O3))、黄褐色顔料(ZnOFe2O3、MgOFe2O3)、透明酸化鉄(α-Fe2O3、α-FeOOH)等の酸化鉄系顔料等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0022】
これらの鉄イオンを発生させ得る成分は、例えば、測定対象となる生体成分や生体試料等に応じて適宜選択して、ロイコ色素を含む試薬に添加することができる。取扱いの利便性に優れるだけでなく、ロイコ色素の非特異発色を助長してしまうのを本発明でより高度に抑制できることが期待できるという観点から、鉄イオンを発生させ得る成分(鉄含有物質)としては、塩化鉄(II)(FeCl2)、塩化鉄(III)(FeCl3)、フェロシアン化物(H3[Fe(CN)6])、フェリシアン化物(H4[Fe(CN)6])、カタラーゼ等を用いることが好ましく、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)がより好ましい。
【0023】
本発明の試薬(例えば、発色基質液)が鉄含有物質を含む場合、試薬中におけるその鉄含有物質の配合量は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。好ましくは、ロイコ色素を含む試薬中における鉄含有物質の濃度は、0.1~40μM程度であり、好ましくは0.3~30μM程度である。このような濃度の鉄含有物質が試薬中に共存する場合であっても、本発明によればロイコ色素の非特異的な発色を高度に抑えて経時的に安定な試薬とすることができる。
【0024】
一つの実施形態において、本発明のロイコ色素を含む試薬が含み得る銅イオンを発生させ得る成分(銅含有物質ともいう)としては、特に限定されないが、銅イオンを含む銅塩や補欠因子として銅イオンを含む銅タンパク質、銅イオンを含む顔料等を挙げることができる。例えば、銅イオンを発生させ得る成分として、CuBr、CuBr2、CuC2、Cu2C2、CuCl、CuCl2、CuF、CuF2、CuH、CuI、CuI2、CuN3、Cu(N3)2、CuO、CuO2、Cu2O、Cu3P、CuP2、CuS、Cu2S、Cu3(AsO4)2、Cu(BF4)2、Cu(ClO3)2、Cu(ClO4)2、CuCN、Cu(CN)2、CuCrO4、Cu(IO3)2、Cu(IO4)2、Cu(NO3)2、CuOH、Cu(OH)2、Cu3(PO4)2、CuSO4、Cu2SO4、Cu(CH3COO)、Cu(CH3COO)2、CuCO3・Cu(OH)2、CuSCN、Cu(SCN)2等の銅塩;プロクリン200(5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、マグネシウム塩、銅塩、水を含む防腐剤)等の銅塩を含む混合物;アスコルビン酸酸化酵素(アスコルビン酸オキシダーゼともいう)、アズリン、ステラシアニン、プラストシアニン、クエルセチン-2,3-ジオキシゲナーゼ、ラスティシアニン、シュードアズリン、ラッカーゼ、銅含有亜硝酸還元酵素、スーパーオキシドディスムターゼ、ガラクトース酸化酵素、ドーパミン-β-ヒドロキシラーゼ、ドーパミン-β-モノオキシゲナーゼ、ぺプチジルグリシンα-アミデイティング・モノオキシゲナーゼ、膜結合型メタンモノオキシゲナーゼ、銅アミン酸化酵素、ガラクトース酸化酵素、チロシナーゼ、カテコール酸化酵素、セルロプラスミン、シトクロムc酸化酵素、ヘモシアニン、亜鉛化窒素還元酵素等の銅タンパク質;CuCO3・Cu(OH)2(緑青)、CuSO4・3Cu(OH)2(Brochantite)、Cu2(OH)3Cl(Atacamite)、Cu2(OH)3Cl(Paratacamite)、Cu(C2H3O2)2・3Cu(AsO2)2(花緑青)、CuCO3・Cu(OH)2(Malachite)、(Cu,Zn)2(CO3)(OH)2(Rosasite)、(Zn,Cu)2(CO3)(OH)2(Zincrosasite)、(Zn,Cu)2(AsO4)(OH)2(Adamite)、(Cu,Zn)6(AsO4,PO4)2(OH)6・H2O(Philipsburgite)等の銅イオンを含む顔料等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0025】
これらの銅イオンを発生する成分は、例えば、測定対象となる生体成分や生体試料等に応じて適宜選択して、ロイコ色素を含む試薬に添加することができる。取扱いの利便性に優れるだけでなく、ロイコ色素の非特異発色を助長してしまうのを本発明でより高度に抑制できることが期待できるという観点から、銅イオンを発生させ得る成分としては、塩化銅(I)(CuCl)、塩化銅(II)(CuCl2)、酢酸銅、硫酸銅、硝酸銅、プロクリン200、アスコルビン酸酸化酵素を用いることが好ましく、塩化銅(I)、塩化銅(II)、酢酸銅、硫酸銅、硝酸銅がより好ましく、塩化銅(I)、塩化銅(II)がさらに好ましい。
【0026】
本発明の試薬(例えば、発色基質液)が銅含有物質を含む場合、試薬中におけるその銅含有物質の配合量は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。好ましくは、ロイコ色素を含む試薬中における銅含有物質の濃度は、0.5~100μM程度であり、好ましくは0.8~80μM程度である。このような濃度の銅含有物質が試薬中に共存する場合であっても、本発明によればロイコ色素の非特異的な発色を高度に抑えて経時的に安定な試薬とすることができる。
【0027】
一つの実施形態において、本発明のロイコ色素を含む試薬が含み得るカルシウムイオンを発生させ得る成分(カルシウム含有物質ともいう)としては、特に限定されないが、カルシウムイオンを含むカルシウム塩等を挙げることができる。例えば、カルシウムイオンを発生する成分として、CaO、CaO2、Ca(OH)2、CaF2、CaCl2、CaBr2、CaI2、CaH2、CaC2、Ca3P2、CaCO3、Ca(HCO3)2、Ca(NO3)2、CaSO4、CaSO3、CaSiO3、Ca3(PO4)2、Ca2O7P2、Ca(ClO3)2、Ca(BrO3)2、CaCrO4、Ca(CH3COO)2、C12H22CaO14、C6H10CaO6、C14H10CaO4、Ca(C17H35COO)2等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0028】
これらのカルシウムイオンを発生する成分は、例えば、測定対象となる生体成分や生体試料等に応じて適宜選択して、ロイコ色素を含む試薬に添加することができる。取扱いの利便性に優れるだけでなく、ロイコ色素の非特異発色を助長してしまうのを本発明でより高度に抑制できることが期待できるという観点から、カルシウムイオンを発生させ得る成分(カルシウム含有物質)としては、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、リン酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0029】
本発明の試薬(例えば、発色基質液)がカルシウム含有物質を含む場合、試薬中におけるそのカルシウム含有物質の配合量は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。好ましくは、ロイコ色素を含む試薬中におけるカルシウム含有物質の濃度は、0.1~200mM程度であり、好ましくは0.4~150mM程度である。このような濃度のカルシウム含有物質が試薬中に共存する場合であっても、本発明によればロイコ色素の非特異的な発色を高度に抑えて経時的に安定な試薬とすることができる。
【0030】
一つの実施形態において、本発明のロイコ色素を含む試薬が含み得るマンガンイオンを発生させ得る成分(マンガン含有物質ともいう)としては、特に限定されないが、マンガンイオンを含むマンガン塩等を挙げることができる。例えば、マンガンイオンを発生する成分として、MgCl2、KMnO4、MnO2、MnCO3、Mn(NO3)2、MnSO4、Mn(OH)2、Mn(OCOCH3)2、C10H14MnO2等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0031】
これらのマンガンイオンを発生する成分は、例えば、測定対象となる生体成分や生体試料等に応じて適宜選択して、ロイコ色素を含む試薬に添加することができる。取扱いの利便性に優れるだけでなく、ロイコ色素の非特異発色を助長してしまうのを本発明でより高度に抑制できることが期待できるという観点から、マンガンイオンを発生させ得る成分としては、塩化マンガン、酢酸マンガン、硫酸マンガンを用いることが好ましい。
【0032】
本発明の試薬(例えば、発色基質液)がマンガン含有物質を含む場合、試薬中におけるそのマンガン含有物質の配合量は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。好ましくは、ロイコ色素を含む試薬中におけるマンガン含有物質の濃度は、0.01~10μM程度であり、好ましくは0.05~5μM程度である。このような濃度のマンガン含有物質が試薬中に共存する場合であっても、本発明によればロイコ色素の非特異的な発色を高度に抑えて経時的に安定な試薬とすることができる。
【0033】
本発明の非特異発色反応を抑制する方法は、ロイコ色素を使用する任意の生体成分測定用試薬において利用され得る。測定される生体成分としては、例えば、生体試料における糖化ヘモグロビン、グルコース、遊離コレステロール、総コレステロール、HDL(高比重リポタンパク)-コレステロール、LDL(低比重リポタンパク)-コレステロール、トリグリセライド、リン脂質、尿酸、モノアミンオキシダーゼ等、従来酵素法(H2O2生成系)で測定されている項目等を挙げることができる。一つの好ましい実施形態では、糖尿病の指標として、より高感度な測定が求められ、ロイコ色素の自己発色に基づくブランク値の上昇をより高度に抑制することが望まれる糖化タンパク質の測定用試薬において本発明が好適に実施され得る。
【0034】
糖化タンパク質とは、グルコース又はフルクトース等の糖類がタンパク質のアミノ基に結合して形成されたものであり、例えば、糖化ヘモグロビン、糖化アルブミン等を挙げることができる。生体内におけるタンパク質の糖化の程度は血液中のグルコース濃度と時間的に比例することが知られており、例えば、血中の糖化ヘモグロビン、糖化アルブミン等の糖化タンパク質比率を測定することにより、糖尿病の血糖コントロール状態を把握することが可能となる。糖化タンパク質の中でも糖化ヘモグロビン(特に、ヘモグロビンA1c)を高精度に測定することは、糖尿病の診断に際して特に重要とされている。本発明は、高感度な測定が求められる糖化ヘモグロビン測定において、その測定試薬の経時的な自己発色を抑えて、より高精度な測定を可能にすることを可能にし得る。
【0035】
一つの実施形態において、本発明のロイコ色素を含む試薬は、キレート剤の他に、必要に応じて当該分野で周知の任意の成分を更に含有することができる。例えば、ロイコ色素による検出で生体成分の測定を行う反応系で使用する酵素、防腐剤、酸化防止剤、塩類、安定化剤等を挙げることができる。
【0036】
本発明のロイコ色素を含む試薬に配合され得る酵素としては、特に限定されず、当該分野で公知の任意の酵素(例えば、カタラーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ等)を配合することができる。例えば、糖化タンパク質測定に用いる発色基質液の場合には、プロテアーゼ、ペルオキシダーゼ、糖化ペプチドオキシダーゼを含んでいても良いし、含まなくてもよい。
【0037】
本明細書において、プロテアーゼは特に限定されず、アミノペプチターゼ、ジペプチターゼ、ジペプチジルペプチターゼ、トリペプチジルペプチターゼ、ペプチジルジペプチターゼ、セリンカルボキシペプチターゼ、プロリンカルボキシペプチダーゼ、アラニンカルボキシペプチダーゼ、金属プロテアーゼ、システイン性カルボキシペプチターゼ、オメガペプチターゼ、セリンエンドペプチターゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、スレオニンエンドペプチターゼなどが例示できる。
【0038】
本明細書において、ペルオキシダーゼとしては、過酸化水素を発色基質に接触させて発色色素を生成させることができるものであれば特に限定されないが、好適なものとしては、西洋ワサビや微生物などに由来するものが挙げられる。なかでも、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼが好ましい。前記ペルオキシダーゼは、高純度かつ低価格のものが商業的に入手可能である。
【0039】
本明細書において、糖化ペプチドオキシダーゼとは、アマドリ化合物を酸化して過酸化水素を生成する反応を触媒することができる酵素を意味する。糖化ペプチドオキシダーゼは糖化アミノ酸オキシダーゼ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、フルクトシルペプチドオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ、アマドリアーゼ、ケトアミンオキシダーゼ、糖化ヘキサペプチドオキシダーゼ、糖化ヘモグロビンオキシダーゼなどと呼ばれることもある。
【0040】
一般に、多くの酵素反応は、その反応促進のために金属イオンを補因子として要求することが知られている。例えば、ペルオキシダーゼは鉄を、プロテアーゼの一種である金属プロテアーゼは亜鉛やカルシウム等を補因子として要求することが知られている。本発明のロイコ色素を含む試薬は、キレート剤を共存させることを一つの特徴としているため、このような金属イオン要求性の酵素はロイコ色素を含む本発明の試薬において共存させない方が望ましい。また、酵素法(H2O2生成系)に基づく糖化タンパク質の測定用試薬では、その酵素反応の特性などから、糖化ペプチドオキシダーゼがペルオキシダーゼと実質的に同時に添加されるような試薬構成とする場合が多い。従って、ペルオキシダーゼと共に糖化ペプチドオキシダーゼを含む試薬は、ロイコ色素を含む試薬と別に調製し、ロイコ色素を含む試薬はペルオキシダーゼも糖化ペプチドオキシダーゼも含まない実施態様で提供することも好適であり得る。
【0041】
以上ような観点から、本発明の一つの実施形態では、ロイコ色素を含む試薬が、プロテアーゼ、糖化ペプチドオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ等の酵素を含まない試薬であることが好ましい。この場合、プロテアーゼ、糖化ペプチドオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ等の酵素は、ロイコ色素を含む試薬とは別の試薬として調製しておき、使用時に組み合わせて使う複数の試薬を備えたキットの態様として提供することができる。
【0042】
本発明のロイコ色素を含む試薬に配合され得る防腐剤としては、特に限定されず、当該分野で公知の任意の防腐剤を配合することができる。例えば、防腐剤の具体例として、プロクリン(登録商標、スペルコ社)各種、アジ化物、抗菌剤などが挙げられる。抗菌剤としては、ゲンタマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコール、ピペラシリン、イミダゾリジニルウレア等が挙げられる。防腐剤を配合することによって、試薬の腐敗を防止できるというメリットがある。
【0043】
本発明のロイコ色素を含む試薬に防腐剤を配合する場合、その濃度は特に限定されないが、例えば、当該試薬中の防腐剤の濃度が0.005~1w/v%程度、好ましくは0.01~0.1w/v%程度とするのがよい。また、本発明のロイコ色素を含む試薬は、防腐剤を実質的に含まない態様とすることもできる。ここで実質的に含まないとは、発色基質液中の防腐剤の濃度が0.005w/v%未満であることをいう。
【0044】
本発明のロイコ色素を含む試薬に塩類を配合する場合、その種類および濃度は特に限定されないが、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化カリウム、酢酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、リン酸アルミニウム等が挙げられる。このような塩類を配合することで、より安定な試薬とすることができる。
【0045】
本発明のロイコ色素を含む試薬(例えば、発色基質液)の性状は、通常、pH4~9程度、より好ましくはpH6~8程度の範囲に調整される。本発明のロイコ色素を含む試薬のpHを調整するには、例えば、適宜緩衝液を添加することによって調整することができる。
【0046】
本発明のロイコ色素を含む試薬は、キレート剤を共存させることにより、試薬保管時に経時的に発生する非特異的な発色を効果的に抑えることができる。一例として、本発明のロイコ色素を含む試薬は、試薬調製後1日間保存後でもロイコ色素の非特異発色が抑えられており、好ましくは、試薬調製後7日間保存後でもロイコ色素の非特異発色が抑えられており、更に好ましくは、試薬調製後8日間保存後でもロイコ色素の非特異発色が抑えられていることを特徴とする。保管条件は特に限定されず、例えば、冷蔵(約1~8℃)条件下での保管あってもよいし、室温(約1~30℃)又は常温(約15~25℃)条件下での保管であってもよいし、より高温(約35℃)条件下での保管であってもよい。例えば、冷蔵条件下で8日間保存した後、又は35℃で7日間保存した後であっても、本発明によりロイコ色素を含む試薬の非特異発色反応を抑制することが可能となる。
【0047】
本発明の方法を糖化タンパク質測定に適用する場合、その操作は従来の方法と同様にして行うことができ、例えば、糖化タンパク質を含む検体と糖化タンパク質測定用酵素を含む酵素液を混合したのち、本発明のロイコ色素を含む発色基質液を混合し、所定温度(通常、37℃程度)で所定時間(通常、10分間程度)反応させる。次いで吸光度を測定することにより、発色基質の反応量を求めることができる。更に、得られた吸光度変化量に基づいて、予め作成した検量線と対比することにより、検体中の測定対象物質の濃度(量)を求めることができる。
【0048】
[2.生体成分測定試薬]
前記のように、ロイコ色素とキレート剤とを共存させた試薬とすることにより、ロイコ色素の非特異的な自己発色反応が抑制されて、経時的に安定な試薬とすることができることが分かっている。
従って、本発明は更に別の観点から、ロイコ色素及びキレート剤を含有し、ロイコ色素の非特異発色反応が抑制された生体成分測定試薬を提供する。この生体成分測定試薬に用いられるロイコ色素及びキレート剤の種類や量、その他に共存し得る金属イオンを発生させ得る成分又は他の成分の種類や量等は、前記1.ロイコ色素の非特異発色反応を抑制する方法において説明したものと同様であり得る。
本発明の生体成分測定試薬は、例えば、糖化ヘモグロビン、糖化アルブミン等の高精度な測定が求められる糖化タンパク質の測定のために好適に使用することができる。
【実施例0049】
以下、試験例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0050】
[試験例1:各種金属イオンを添加した場合の影響についての評価]
ロイコ色素を含む試薬の非特異的な自己発色の原因を探るため、以下の試験を行った。
先ず、ロイコ色素として0.06mM DA-67(10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム)を含む50mM PIPES溶液(pH6.3)を調製した。このロイコ色素含有溶液に、下記表1に示す金属塩を所定の終濃度となるように添加した。このようにして調製した溶液を4℃で1日間又は8日間静置して保存した。比較例として、金属塩を添加しない以外は、前記と同様にして調製したDA-67含有溶液を用意し、同条件で保存した。これらの溶液について保存後の660nmの吸光度を測定することにより、ロイコ色素を含む溶液の非特異的な自己発色による着色度を判定した。
【表1】
【0051】
この結果を、下記の表2に示す。表2に示されるように、金属塩を含まないロイコ色素含有試薬であっても、経時的に吸光度が上昇することが認められ、徐々にロイコ色素が非特異的に自己発色することが分かる。そして、このロイコ色素の非特異発色は、冷蔵での比較的短期間での保存(4℃での1日間の保存)では、金属塩が共存してもあまり影響がないか、影響があっても主には高濃度の金属塩を添加した場合に限り影響し得ることが認められた。一方、より長期間保存する場合(4℃での8日間の保存)は、金属塩が共存することにより、ロイコ色素の非特異的な自己発色が助長され、着色の程度が著しく悪化することが判明した。
【表2】
【0052】
[試験例2:カルシウム含有物質により生じる非特異発色反応の抑制効果]
ロイコ色素がカルシウム含有物質と共存する場合に引き起こされる非特異発色反応を抑制する効果について評価するために、以下の試験を行った。
先ず、ロイコ色素として0.06mM DA-67(10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム)を含む50mM PIPES溶液(pH6.3)を調製した。このロイコ色素含有溶液に、下記表3に示すキレート剤A~Cを終濃度1mMとなるように添加した。次いで、このロイコ色素及びキレート剤を含む溶液に、試験例1の表1に記載の金属塩a(塩化カルシウム)を所定の終濃度となるように添加した。このようにして調製した溶液を4℃で8日間静置して保存した。8日間保存後に、これらの溶液について660nmの吸光度を測定することにより、ロイコ色素を含む溶液の非特異的な自己発色による着色度を判定した。
【表3】
【0053】
この結果を、下記の表4に示す。表4に示されるように、キレート剤(EDTA・3Na、EGTA、クエン酸ナトリウム)を1mM添加することにより、カルシウム含有物質が共存することにより生じるロイコ色素(DA-67)の非特異的な自己発色反応が抑えられ、8日間にわたり長期保存しても安定な試薬にできることが分かった。
【表4】
【0054】
[試験例3:マンガン含有物質及び鉄含有物質により生じる非特異発色反応の抑制効果]
ロイコ色素がマンガン含有物質及び鉄含有物質と共存する場合に引き起こされる非特異発色反応を抑制する効果について評価するために、以下の試験を行った。
先ず、ロイコ色素として0.06mM DA-67(10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム)を含む50mM PIPES溶液(pH6.3)を調製した。このロイコ色素含有溶液に、上記試験例2の表3に示すキレート剤B(EGTA)を終濃度1mMとなるように添加した。次いで、このロイコ色素及びキレート剤を含む溶液に、試験例1の表1に記載の金属塩b(塩化マンガン)又は金属塩c(塩化鉄(II))を所定の終濃度となるように添加した。このようにして調製した溶液を4℃で8日間静置して保存した。8日間保存後に、これらの溶液について660nmの吸光度を測定することにより、ロイコ色素を含む溶液の非特異的な自己発色による着色度を判定した。
【0055】
この結果を、下記の表5に示す。表5に示されるように、キレート剤(EGTA)を1mM添加することにより、マンガン含有物質(塩化マンガン)又は鉄含有物質(塩化鉄(II))が共存することにより生じるロイコ色素(DA-67)の非特異的な自己発色反応が抑えられ、8日間にわたり長期保存しても安定な試薬とすることができることが分かった。
【表5】
【0056】
[試験例4:各種鉄含有物質により生じる非特異発色反応の抑制効果]
ロイコ色素が各種鉄含有物質と共存する場合に引き起こされる非特異発色反応を抑制する効果について評価するために、以下の試験を行った。
先ず、ロイコ色素として0.06mM DA-67(10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム)を含む50mM PIPES溶液(pH6.3)を調製した。このロイコ色素含有溶液に、上記試験例2の表3に示すキレート剤C(クエン酸ナトリウム)を終濃度1mMとなるように添加した。次いで、このロイコ色素及びキレート剤を含む溶液に、試験例1の表1に記載の金属塩c(塩化鉄(II))又は金属塩d(塩化鉄(III))を所定の終濃度となるように添加した。このようにして調製した溶液を4℃で8日間又は35℃で7日間静置して保存した。35℃での評価は、冷蔵保存条件の加速試験に相当することから、より長期間にわたって保存した場合の影響について評価できる。各種混合液の保存後に、これらの溶液について660nmの吸光度を測定することにより、ロイコ色素を含む溶液の非特異的な自己発色による着色度を判定した。
【0057】
この結果を、下記の表6に示す。表6に示されるように、キレート剤(クエン酸ナトリウム)を1mM添加することにより、各種鉄含有物質(塩化鉄(II)又は塩化鉄(III))が共存することにより生じるロイコ色素(DA-67)の非特異的な自己発色反応を、冷蔵条件下で8日間保存した場合に抑制できるだけでなく、加速試験条件で35℃7日間にわたり長期保存した場合にも効果的に抑制できることが確認できた。
【表6】
【0058】
[試験例5:銅含有物質により生じる非特異発色反応の抑制効果]
ロイコ色素が銅含有物質と共存する場合に引き起こされる非特異発色反応を抑制する効果について評価するために、以下の試験を行った。
先ず、ロイコ色素として0.06mM DA-67(10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム)を含む50mM PIPES溶液(pH6.3)を調製した。このロイコ色素含有溶液に、上記試験例2の表3に示すキレート剤A(EDTA・3Na)又はキレート剤B(EGTA)を終濃度1mMとなるように添加した。次いで、このロイコ色素及びキレート剤を含む溶液に、試験例1の表1に記載の金属塩e(塩化銅(II))を所定の終濃度となるように添加した。このようにして調製した溶液を4℃で8日間又は35℃で7日間静置して保存した。保存後に、これらの溶液について660nmの吸光度を測定することにより、ロイコ色素を含む溶液の非特異的な自己発色による着色度を判定した。
【0059】
この結果を、下記の表7に示す。表7に示されるように、キレート剤(EDTA・3Na又はEGTA)を1mM添加することにより、銅含有物質(塩化銅(II))が共存することにより生じるロイコ色素(DA-67)の非特異的な自己発色反応を、冷蔵条件下で8日間保存した場合に抑制できるだけでなく、加速試験条件で35℃で7日間にわたり長期保存した場合にも効果的に抑制できることが確認できた。
【表7】
【0060】
[試験例6:マンガン含有物質により生じる非特異発色反応の抑制効果]
ロイコ色素がマンガン有物質と共存する場合に引き起こされる非特異発色反応を抑制する効果について更に評価するために、以下の試験を行った。
先ず、ロイコ色素として0.06mM DA-67(10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム)を含む50mM PIPES溶液(pH6.3)を調製した。このロイコ色素含有溶液に、上記試験例2の表3に示すキレート剤B(EGTA)又はキレート剤C(クエン酸ナトリウム)を終濃度1mMとなるように添加した。次いで、このロイコ色素及びキレート剤を含む溶液に、試験例1の表1に記載の金属塩b(塩化マンガン)を所定の終濃度となるように添加した。このようにして調製した溶液を35℃で7日間静置して保存した。保存後に、これらの溶液について660nmの吸光度を測定することにより、ロイコ色素を含む溶液の非特異的な自己発色による着色度を判定した。
【0061】
この結果を、下記の表8に示す。表8に示されるように、キレート剤(EGTA又はクエン酸ナトリウム)を1mM添加することにより、マンガン含有物質(塩化マンガン)が共存することにより生じるロイコ色素(DA-67)の非特異的な自己発色反応を、35℃で7日間にわたり長期保存した場合にも抑制できることが確認された。
【表8】
【0062】
[試験例7:カルシウム含有物質により生じる非特異発色反応の抑制効果]
ロイコ色素がマンガン有物質と共存する場合に引き起こされる非特異発色反応を抑制する効果について更に評価するために、以下の試験を行った。
先ず、ロイコ色素として0.06mM DA-67(10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム)を含む50mM PIPES溶液(pH6.3)を調製した。このロイコ色素含有溶液に、上記試験例2の表3に示すキレート剤A(EDTA・3Na)、キレート剤B(EGTA)又はキレート剤C(クエン酸ナトリウム)を終濃度1mMとなるように添加した。次いで、このロイコ色素及びキレート剤を含む溶液に、試験例1の表1に記載の金属塩a(塩化カルシウム)を終濃度として149.7mM添加した。このようにして調製した溶液を35℃で7日間静置して保存した。保存後に、これらの溶液について660nmの吸光度を測定することにより、ロイコ色素を含む溶液の非特異的な自己発色による着色度を判定した。
【0063】
この結果を、下記の表9に示す。表9に示されるように、キレート剤(EDTA・3Na、EGTA又はクエン酸ナトリウム)を1mM添加することにより、カルシウム含有物質(塩化カルシウム)が共存することにより生じるロイコ色素(DA-67)の非特異的な自己発色反応を、35℃で7日間にわたり長期保存した場合にも抑制できることが確認された。
【表9】
【0064】
[試験例8:金属イオンに起因しない非特異発色反応の抑制効果]
ロイコ色素を含む溶液が金属イオンを含まない場合に生じる非特異発色反応を抑制する効果について、以下のようにして評価を行った。
先ず、ロイコ色素として0.06mM DA-67(10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム)を含む50mM PIPES溶液(pH6.3)を調製した。このロイコ色素含有溶液に、上記試験例2の表3に示すキレート剤A(EDTA・3Na)、キレート剤B(EGTA)又はキレート剤C(クエン酸ナトリウム)を終濃度1mMとなるように添加した。これらの溶液を35℃で7日間静置して保存した。比較例として、キレート剤を含まない以外は、前記と同様にして調製したDA-67含有溶液を用意し、同条件で保存した。保存後に、これらの溶液について660nmの吸光度を測定することにより、ロイコ色素を含む溶液の非特異的な自己発色による着色度を判定した。
【0065】
この結果を、下記の表10に示す。表10に示されるように、キレート剤(EDTA・3Na、EGTA又はクエン酸ナトリウム)を1mM添加することにより、金属イオンを発生させ得る成分を含まない場合のロイコ色素含有溶液の経時的な非特異発色も抑制することができることが示された。
【表10】
【0066】
上記の試験例1~8の結果から、ロイコ色素を含む試薬が経時的に着色し、この非特異的な発色が金属イオンが共存する場合に助長されること、そして、このロイコ色素の非特異的な自己発色はキレート剤を共存させることにより効果的に抑制できることが分かる。
本発明は、ロイコ色素含む試薬(例えば、発色基質液)の経時的な非特異発色を抑えることができ、ロイコ色素を用いる様々な検査方法に使用する試薬において好適に実施され得る。