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特開2022-144734スラリーの鋳込み成形性評価方法及び評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144734
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】スラリーの鋳込み成形性評価方法及び評価装置
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/26 20060101AFI20220926BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B28B1/26
G01N11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045878
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 仁嗣
(72)【発明者】
【氏名】村松 政廣
【テーマコード(参考)】
4G052
【Fターム(参考)】
4G052CA02
4G052CB00
(57)【要約】
【課題】スラリーの鋳込み成形性を高精度且つ簡易に評価できる鋳込み成形性評価方法及び評価装置を提供すること。
【解決手段】無機粉末と溶媒とを含むスラリーの鋳込み成形性評価方法であって、少なくとも一部が吸液部材で構成される側壁、非吸液部材で構成される底部、及び前記底部に設けられる排出口を備える槽を有する評価用装置を準備する工程、前記排出口を閉じた後に前記スラリーを前記槽に注入し、それにより前記吸液部材に前記無機粉末を堆積させて成形体を作製する工程、成形体を作製後に前記排出口を開けて前記スラリーの残部を前記槽から排出する工程、スラリーの残部を排出した後に前記成形体を前記槽から取り出す工程、及び取り出した前記成形体の物性を評価する工程、を含む方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末と溶媒とを含むスラリーの鋳込み成形性評価方法であって、
少なくとも一部が吸液部材で構成される側壁、非吸液部材で構成される底部、及び前記底部に設けられる排出口を備える槽を有する評価用装置を準備する工程、
前記排出口を閉じた後に前記スラリーを前記槽に注入し、それにより前記吸液部材に前記無機粉末を堆積させて成形体を作製する工程、
成形体を作製後に前記排出口を開けて前記スラリーの残部を前記槽から排出する工程、
スラリーの残部を排出した後に前記成形体を前記槽から取り出す工程、及び
取り出した前記成形体の物性を評価する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記側壁は、その一面が前記吸液部材で構成され、他の面が非吸液部材で構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記吸液部材が板状である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記吸液部材が石膏からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記非吸液部材が、合成樹脂、金属、ガラス及びセラミックスからなる群から選ばれる少なくとも一種からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記無機粉末がα-アルミナ粉末である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒が水である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
評価される前記物性が成形体の密度である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
無機粉末と溶媒とを含むスラリーの鋳込み成形性評価用装置であって、
少なくとも一部が吸液部材で構成される側壁、非吸液部材で構成される底部、及び前記底部に設けられる排出口を備える槽を有する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーの鋳込み成形性評価方法及び評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳込み成形とは、セラミックス粉末のスラリーを石膏などの吸水性の型に流し込み、それにより成形体を得る手法である。鋳込み成形には、プレス成形などの他の成形手法と比べて複雑形状や大型の成形体を安価に得ることができる利点がある。そのため鋳込み成形は、工芸品などの伝統的なオールドセラミックスのみならず、ファインセラミックスの製造においても多用されている。鋳込み成形に用いる型は三次元的に連通する空孔を多数備えている。成形時に型の空孔により毛細管現象が起こり、それによる生じる吸収圧によってスラリー中の水分が型に吸収される。そして、型表面にセラミックス粉末が堆積して着肉層が形成されるとともに、この着肉層が成長及び固化して成形体になる。
【0003】
鋳込み成形によるセラミックス成形技術を開示する文献として以下の文献が挙げられる。特許文献1には、吸水性を有する円形底部と非吸水性を有する側壁部で構成される鋳込み成形用成形型のスラリー充填空間に、酸化物粉末とバインダーを含むスラリーを注入し、常圧で前記スラリーに含まれる水分を前記円形底部に吸収させて酸化物成形体を成形する酸化物成形体の製造方法において、前記円底部のうち、前記側壁部から離間した領域に水を含浸させてから、前記スラリー充填空間に前記スラリーを注入する酸化物成形体の製造方法が開示されている(特許文献1の請求項1)。
【0004】
特許文献2には、厚さが0.1mm~10.0mm、且つ通気度が0.1cm/cm・秒~50cm/cm・秒の合成樹脂製フィルターと、該フィルターを支持し、通水性を有する支持型と、を備える鋳型に、セラミックス粉末を分散させたスラリーを注入する工程と、セラミックス粉末を前記鋳型に着肉させ、セラミックス成形体を形成する工程とを含むことを特徴とするセラミックス製品の製造方法が開示されている(特許文献2の請求項1)。
【0005】
特許文献3には、分散媒体として有機溶剤を用い、解膠剤としてそれぞれ分子量が2000~20000のアルキル系解膠剤とポリカルボン酸系解膠剤とをセラミックス粉末に対してそれぞれ0.1~2.0重量%添加してなるセラミックス粉末含有スラリーを用いることを特徴とするセラミックス粉末の鋳込み成形方法が開示されている(特許文献3の請求項1)。
【0006】
鋳込み成形において、高品質な成形体を効率よく作製するためには、スラリーの鋳込み性が重要である。すなわち鋳込み性に劣り着肉層の固化が不十分であると、着肉層の強度が不足し、型から取り出す際に成型体が壊れる恐れがある。また緻密性に劣るため、成形体を焼成して作製されるセラミックス製品の寸法誤差が大きくなる恐れがある。さらに着肉層の固化が均一に進行しないと、成形体の密度や組成が局所的に不均一になる。そのため、セラミックス製品の寸法誤差が大きくなり、場合によっては亀裂などの問題が生じる恐れがある。さらに着肉速度も重要である。着肉速度が過度に小さいと、成形時のサイクルタイムが長くなり、製造コスト上昇につながる。したがって、緻密で均質な着肉層を速く得ることができるスラリーには求められており、この要望を実現する上でスラリーの鋳込み性が重要となる。
【0007】
鋳込み性を改善する上で、スラリー及び型の特性が重要である。スラリーは、原料として、セラミックス粉末及び溶媒を含み、場合によっては分散剤(解膠剤)、バインダー(結合剤)、及び脱泡剤などの添加剤をさらに含んでいる。粘度や降伏応力といったスラリーのレオロジー特性はこれら原料の種類や量のみならずスラリーの調整手法によっても変化する。そしてレオロジー特性は着肉層の速度や着肉速度といった着肉性に与える。例えば、セラミック粉末は、一般的に比重が大きく、着肉時に重力による沈降現象が生じる。またセラミック粉末の種類によっては、スラリーの凝集やゲル化が生じる。これらの現象は着肉性や成形体の特性、例えば密度に大きな影響を及ぼす。
【0008】
また型は、その空孔分布が変化すると、吸収圧及び着肉性が変化する。さらに型の成分がスラリー中に溶解してイオンとなり、これがスラリー特性を変化させることも知られている。その上、スラリーと型の間に働く表面張力は、着肉性及び脱型性に影響を及ぼす。
【0009】
このように、スラリーの鋳込み性は様々な要因の影響を大きく受ける。そのため、任意組成のスラリーがどのような鋳込み成形性を示すのかを評価することは、適切な鋳込み成形条件を選定する上で極めて重要である。また鋳込み性は、スラリーのみならず型の影響を受けるため、鋳込み性を正しく評価するためには、スラリーを実際に型に鋳込み、得られた成形体の特性を調べることが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-142404号公報
【特許文献2】特開2012-071548号公報
【特許文献3】特開平05-294707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来から鋳込み性を評価する際には、一般的な型を用いてスラリーを鋳込み成形し、得られた成形体の特性を調べていた。このような型の一例としてドイツ窯業協会で規定される型を図1に示す。成形時には、スラリーを型に流し込み、一定時間放置した後に型を傾けてスラリーを排出(排泥)する。次いで成形体(着肉層)を型から取り出し(脱型)、乾燥する。そして脱型した成形体について、密度などの特性を評価する。
【0012】
しかしながら従来の手法には改良の余地があった。すなわち、図1に示す一般的な型を用いる手法では、着肉後に人手で型を傾けて排泥する必要がある。このような方法で排泥を行うと、着肉厚さに誤差が生じやすい。すなわち、型を傾けて排泥すると、着肉層の上にスラリーが残留し、これが着肉厚みに影響を及ぼす。人手で型を傾けると、ハンドリング操作のバラツキにより型を傾ける速度及び時間が変わるために、着肉厚みのバラツキの原因となる。また一般的な型を用いると、重力による沈降現象の影響を無視しえず、これが測定誤差につながる問題がある。
【0013】
本発明者らは、このような従来の問題点に鑑みて検討を行った。その結果、少なくとも一部が吸液部材で構成される側壁、非吸液部材で構成される底部、及び底部に設けられる排出口を備える槽を有する評価用装置を用いることで、重力による沈降現象の影響、及びスラリー排泥時のハンドリング誤差による影響を抑制することができ、その結果、スラリーの鋳込み成形性を高精度且つ簡易に評価できるとの知見を得た。
【0014】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、スラリーの鋳込み成形性を高精度且つ簡易に評価できる鋳込み成形性評価方法及び評価装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、下記(1)~(9)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0016】
(1)無機粉末と溶媒とを含むスラリーの鋳込み成形性評価方法であって、
少なくとも一部が吸液部材で構成される側壁、非吸液部材で構成される底部、及び前記底部に設けられる排出口を備える槽を有する評価用装置を準備する工程、
前記排出口を閉じた後に前記スラリーを前記槽に注入し、それにより前記吸液部材に前記無機粉末を堆積させて成形体を作製する工程、
成形体を作製後に前記排出口を開けて前記スラリーの残部を前記槽から排出する工程、
スラリーの残部を排出した後に前記成形体を前記槽から取り出す工程、及び
取り出した前記成形体の物性を評価する工程、
を含む方法。
【0017】
(2)前記側壁は、その一面が前記吸液部材で構成され、他の面が非吸液部材で構成されている、上記(1)の方法。
【0018】
(3)前記吸液部材が板状である、上記(1)又は(2)の方法。
【0019】
(4)前記吸液部材が石膏からなる、上記(1)~(3)のいずれかの方法。
【0020】
(5)前記非吸液部材が、合成樹脂、金属、ガラス及びセラミックスからなる群から選ばれる少なくとも一種からなる、上記(1)~(4)のいずれかの方法。
【0021】
(6)前記無機粉末がα-アルミナ粉末である、上記(1)~(5)のいずれかの方法。
【0022】
(7)前記溶媒が水である、上記(1)~(6)のいずれかの方法。
【0023】
(8)評価される前記物性が成形体の密度である、上記(1)~(7)のいずれかの方法。
【0024】
(9)無機粉末と溶媒とを含むスラリーの鋳込み成形性評価用装置であって、
少なくとも一部が吸液部材で構成される側壁、非吸液部材で構成される底部、及び前記底部に設けられる排出口を備える槽を有する装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、スラリーの鋳込み成形性を高精度且つ簡易に評価できる鋳込み成形性評価方法及び評価装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】一般的な鋳込み成形に用いられる型を示す。
図2】実施例1で用いた評価用装置の外観写真を示す。
図3】実施例1で用いた評価用装置の上面図を示す。
図4】実施例1で用いた評価用装置の側面図を示す。
図5】実施例1で用いた評価用装置の開閉栓の外観写真を示す。
図6】アルミナ粉末の粒度分布を示す。
図7】比較例1で用いた評価用装置の外観写真を示す。
図8】比較例1で得られた成形体の光学写真を示す
図9】実施例1で得られた成形体の光学写真を示す
図10】スラリーのせん断速度と粘度の関係を示す。
図11】スラリーの剪断速度とせん断応力の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0028】
<<1.鋳込み成形性評価方法>>
本実施形態の評価方法では、無機粉末と溶媒とを含むスラリーの鋳込み成形性を評価する。ここでスラリーは、無機粉末を溶媒中に分散(懸濁)した状態で含む分散液(懸濁液)である。スラリーは、必要におうじて無機粉末と溶媒以外に添加剤を含んでもよい。添加剤として、分散剤(解膠剤)、バインダー(結合剤)、脱泡剤、粘度調整剤、及び/又はpH調整剤などが例示される。
【0029】
スラリーに含まれる無機粉末は、鋳込み成形に供し得るものであれば、限定されない。無機粉末として、アルミナ、ジルコニア、チタニア、フェライト、チタン酸バリウム、及びITOなどの酸化物粉末、窒化ケイ素や窒化ホウ素などの窒化物粉末、炭化ケイ素などの炭化物粉末が例示される。好ましくは、無機粉末はα-アルミナ(α-Al)粉末である。アルミナは構造材料として有用である。アルミナ粉末を鋳込み成形及び焼成することで、大型で複雑形状のアルミナ構造部材を作製することが可能である。
【0030】
スラリーに含まれる溶媒も、鋳込み成形に供し得るものであれば、限定されない。溶媒として、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、キシレン、ヘキサンなどが例示される。好ましくは、溶媒は水である。水を用いることで、製造装置に防爆構造などの特別な構造を施す必要が無くなるとともに、ハンドリングが容易になる。
【0031】
スラリーの調整は、公知の手法で行えばよい。すなわち無機粉末と溶媒を所定の割合で混合すればよい。混合は、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、アトライター、湿式ジェットミル、ディゾルバー、パールミルなどの公知の混合装置又は混合粉砕を用いればよい。
【0032】
本実施形態の評価方法は、以下の工程;少なくとも一部が吸液部材で構成される側壁、非吸液部材で構成される底部、及びこの底部に設けられる排出口を備える槽を有する評価用装置を準備する工程(準備工程)、排出口を閉じた後にスラリーを評価用装置の槽に注入し、それにより吸液部材に無機粉末を堆積させて成形体を作製する工程(成形工程)、成形体を作製後に排出口を開けて槽からスラリーの残部を排出する工程(排出工程)、スラリーの残部を排出した後に成形体を槽から取り出す工程(取り出し工程)、及び取り出した成形体の物性を評価する工程(評価工程)を含む。各工程の詳細について以下に説明する。
【0033】
<準備工程>
準備工程では評価用装置を準備する。この評価用装置の具体的構成の一例を図2図4に示す。ここで図2は装置の外観を示す写真である。図3及び図4はそれぞれ上面図及び側面図である。評価用装置は槽(2)を有する。この槽(2)は側壁(4,6、8、10)と底部(12)とを備える。側壁(4、6、8、10)の一部(4)は吸液部材で構成される一方で、他の部分(6、8、10)は非吸液部材で構成される。また底部(12)も非吸液部材で構成される。さらに底部(12)には、開閉可能な排出口(14)が設けられている。なお図2図4に示す装置はあくまで一例にすぎず、本実施形態の評価用装置が図2図4に示す装置に限定される訳ではない。
【0034】
評価用装置の槽の側壁の少なくとも一部を吸液部材で構成するとともに底部を非吸液部材で構成することで、鋳込み成形性を高精度に評価することが可能になる。すなわち槽に投入されたスラリーにおいて、スラリー中無機粒子には常に重力が働き、沈降現象が起こる。底部に吸液部材を設けた槽を用いると、毛細管現象により生じる吸液部材の吸液圧の向きと、無機粒子に働く重力の向きがほぼ平行になる。そのため、得られた成形体の特性は重力の影響が加味されたものになる。これに対して、側壁に吸液部材を設けるとともに底部に非吸液部材を設けた槽を用いると、吸液圧の向きと重力の向きがほぼ垂直になるめ、重力の影響を最小限に抑えることができる。そのためスラリーの着肉性をそれ単味で評価することが可能となる。
【0035】
側壁の一部を構成する吸液部材は、吸液性、即ち多孔質である限り、その材料は限定されない。例えば、石膏、多孔質セラミックス、多孔質金属、多孔質樹脂などが例示される。好ましくは、吸液部材は石膏からなる。石膏は安価であるとともに作製及び加工が容易であるからである。また好ましくは、吸液部材は板状である。板状の吸液部材はその形状が単純であるが故に、着肉性を調べる際に型の形状の影響を除外することができる。また板状の吸液部材の上に形成された着肉層は、それ自体がほぼ板状の形状を有するため、寸法などの測定を簡単に且つ正確に求めることができる。さらに板状の吸液部材は作製が容易という利点もある。
【0036】
槽の側壁は、その一部が吸液部材で構成されていればよい。例えば、側壁の一面のみが吸液部材で構成され、側壁の他の部分が非吸液部材で構成されていてもよい。より具体的には、側壁が、4面で構成される四角筒(角パイプ)状であり、4面のうち1面が吸液部材で構成され、他の3面が非吸液部材であってもよい。非吸液部材は、非吸液性である限り、材料は限定されない。例えば、非吸液部材は、合成樹脂、金属、ガラス及びセラミックスからなる群から選ばれる少なくとも一種からなる。しかしながら側壁の一部が非吸液部材で構成される場合には、この非吸液部材はアクリルやガラスなどの透明材料からなることが好ましい。成形時の着肉挙動を槽の外部から目視にて観察することができるからである。
【0037】
底部を構成する非吸液部材は、非吸液性である限り、材料は限定されない。例えば、非吸液部材は、合成樹脂、金属、ガラス及びセラミックスからなる群から選ばれる少なくとも一種からなる。側壁の一部が非吸液部材で構成される場合には、底部を構成する非吸液部材が、側壁を構成する非吸液性材と同じ材料から構成されてもよく、あるいは異なる材料から構成されてもよい。また底部を構成する非吸液部材は、アクリルやガラスなどの透明材料からなってもよい。
【0038】
評価用装置の槽の底部には排出口が設けられている。これにより排泥時のハンドリング操作のバラツキによる誤差を防ぐことができる。すなわちスラリーを鋳込み型に流し込み、着肉後に鋳込み型を人手で傾けて、スラリーの残部を排出(排泥)することが従来から行われている。しかしながらこの手法では、鋳込み型の傾ける速度及び角度、並びに傾ける時間などにバラツキが生じていた。このバラツキが着肉量に影響を与えるため、鋳込み性を正確に評価する上で問題があった。これに対して、底部に排出口を設けることで、鋳込み型を傾ける必要がなく、ハンドリング操作のバラツキによる誤差を抑えることができる。
【0039】
排出口の開閉手段は限定されない。しかしながら外部から開閉できる機構を備えることが好ましい。例えば、棒を取り付けた栓を用意し、この栓で排出口を塞ぐ態様が挙げられる。棒を操作することで、外部から栓の開閉を行うことができる。このような開閉栓の一例を図5に示す。また棒の代わりに紐や磁石を栓に取り付け、この紐や磁石を外部から操作する態様としてもよい。
【0040】
槽の上部は開いていてもよく、あるいは閉じていてもよい。しかしながら槽の上部が閉じている場合には、後述する成形工程でスラリーの注入を容易に行うために、上部の一部に注入口を設けるか、あるいは槽の上部を開閉可能な態様とすることが好ましい。
【0041】
<成形工程>
成形工程では、評価用装置の槽の排出口を閉じた後にスラリーを槽に注入し、それにより吸液部材に無機粉末を堆積(着肉)させて成形体を作製する。多孔質からなる吸液部材には微細連通孔が多数存在する。そして、連通孔の径が微細であるが故に毛細管現象が生じ、それによりスラリーに対する吸液圧が発生する。スラリー中の溶媒は連通孔に吸収され、それに伴い無機粒子は吸液部材の表面に堆積(着肉)して着肉層を形成する。着肉層中の溶媒も、漸次、吸液部材に吸収されるため、着肉層が固化して成形体になる。本実施形態の評価用装置では吸液部材が槽の側壁に設けられているため、重力による沈降現象の影響を最小限に抑えることができる。
【0042】
成形工程は常圧、加圧、または減圧下のいずれの圧力下で行ってもよい。常圧下で行う場合には、槽に注入したスラリーに圧を加えず、自重のみによって成形を行えばよい。加圧下で成形を行う場合には、空気などのガスを用いて槽に注入したスラリーに圧力を加え、それにより着肉を促進すればよい。減圧下で成形を行う場合には、槽の側壁を構成する吸液部材の外側を負圧下におき、それにより着肉を促せばよい。
【0043】
<排出工程>
排出工程では、成形体を作製後に、槽底部の排出口を開けてスラリーの残部を排出する。成形工程で吸液部材に堆積した着肉層が十分に固化すると、着肉層の透液性が小さくなり、その結果、吸液部材への溶媒の吸収がそれ以上に起こらなくなる。そのため、評価用装置の槽中には着肉しきれなかったスラリーが残留する。このスラリーは不要であるため、これを排出する。本実施形態の評価用装置では、槽の底部に排出口が設けられているため、排出時に槽を傾ける必要がない。そのためハンドリング操作のバラツキによる誤差を防ぐことができる。
【0044】
<取り出し工程>
取り出し工程では、スラリーの残部を排出した後に、成形体を槽から取り出す。固化した着肉層である成形体は十分な強度を有している。そのため、破壊することなく、これを取り出すことが可能である。成形体を取り出すことができる限り、その手法は限定されない。例えば、スパチュラなどの器具を用いて、吸液部材から成形体(着肉層)を外す手法が考えられる。必要に応じて、取り出した成形体に乾燥処理を施してもよい。また必要に応じて、切り出しなどの加工処理を成形体に施してもよい。
【0045】
<評価工程>
評価工程では、取り出した成形体の物性を評価する。評価する物性は、目的に応じて選択すればよい。例えば、成形体の密度やその分布、鋳込み時間に対する着肉速度や乾燥時の収縮率などが挙げられる。成形体の密度分布は、例えば、成形体を小片に分割し、個々の密度を調べることで調べることができる。また成形体中の気孔やその分布、あるいは無機粒子の分布などを評価してもよい。
【0046】
このようにして本実施形態の評価方法を行うことができる。本実施形態の方法によれば、スラリー着肉時に働く重力による沈降現象の影響を最小限に抑えることができる。またスラリー排出時に鋳込み型を人手で傾ける必要がなく、ハンドリング操作のバラツキによる誤差を抑えることができる。さらに高価な評価装置を用いる必要がなく、操作も簡便である。そのため、スラリーの鋳込み成形性の評価を高精度且つ簡易に行うことが可能である。
【0047】
<<2.鋳込み成形性評価用装置>>
本実施形態の評価用装置は、無機粉末と溶媒とを含むスラリーの鋳込み成形性を評価するために用いられる。この評価装置は、少なくとも一部が吸液部材で構成される側壁、非吸液部材で構成される底部、及び底部に設けられる排出口を備える槽を有する。
【0048】
評価用装置の構成は、上述したとおりである。この装置を用いることで、スラリーの鋳込み成形性の評価を高精度且つ簡易に行うことが可能である。
【実施例0049】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(1)成形体の作製
[比較例1]
比較例1では、吸液部材を底面に備えるとともに排出口を有さない評価用装置を用いて、3種のアルミナスラリーから成形体をそれぞれ作製した。具体的には以下の手順で成形体を作製した。
【0051】
<スラリーの準備>
アルミナスラリーは以下の手順で調整した。まず2種類の易焼結アルミナ粉末(日本軽金属株式会社製LS-242及びLS-711)を無機粉末として準備した。準備したアルミナ粉末の特性を下記表1に、また粒度分布を図6に示す。
【0052】
次いで、準備したアルミナ粉末(無機粉末)に水を加え、さらに分散剤、消泡剤、及びバインダーを混合して、下記表2に示す条件で3種のアルミナスラリーを調整した。この際、アルミナ粉末100重量部に対して、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム(サンノプコ株式会社、ノプコスパース5600、有効成分41%)を0.12重量部、消泡剤(サンノプコ株式会社、SNデフォーマ485)を0.012重量部、バインダーとしてポリビニルアルコールを0.7重量部加えた。混合は、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー、あわとり練太郎ARE-310)を用い、回転速度2000rpmで3分間の混合を2回の条件で行った。また混合の際に、アルミナ粉末と水の割合を変えて、スラリー中のアルミナ粉末の割合(アルミナ濃度)を調整した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
<成形体の作製>
準備した3種のアルミナスラリーから成形体をそれぞれ作製した。この際、図7に示す評価用装置を用いた。この評価用装置は、平滑な石膏板(非吸液部材)と、その上に設置したアクリル製角パイプ(吸液部材)と、から構成される槽を有していた。石膏板には排出口が設けられていなかった。
【0056】
まず上記評価用装置の槽にスラリーを流し込み、60分間放置した。これにより石膏板にアルミナ粉末が堆積(着肉)した。その後、角パイプと石膏板からなる評価用装置を持ち上げ、これを傾けることで残留したスラリーを排泥した。排泥後にアルミナ粉末堆積物(着肉層)を12時間以上放置して自然乾燥させた。次いで石膏板を取り外しながら脱型した。そしてスパチュラを用いてアルミナ粉末堆積物を成形体として取り出した。
【0057】
取り出した成形体を、裁断機を用いて長方形に切り出した。切り出した成形体を105℃以上の温度に設定した乾燥機に投入して3時間以上放置した。これにより完全に乾燥させた成形体を得た。
【0058】
[実施例1]
実施例1では、吸液部材を側面に備えるとともに底部に排出口を有する評価用装置を用いて、比較例1と同じ3種のアルミナスラリーから成形体をそれぞれ作製した。具体的には以下の手順で成形体を作製した。
【0059】
<成形体の作製>
準備した3種のアルミナスラリーから成形体をそれぞれ作製した。この際、図2図4に示す評価用装置を用いた。この評価用装置は、側面のうち1面のみが板状石膏板(吸液部材)で構成され、他の3面及び底面がアクリル製板(非吸液部材)で構成される槽を有していた。また底面には直径20mmの孔が排出口として設けられていた。また排出口を開閉するために、図5に示す棒が取り付けられた開閉栓(ゴム栓)を用意した。
【0060】
まずゴム栓を用いて記評価用装置の排出口を密閉した。次いで排出口を密閉した状態で、評価用装置の槽にスラリーを流し込み、一定時間放置した。これにより石膏板にアルミナ粉末が堆積(着肉)した。その後、評価用装置を持ち上げることなく、底面の孔(排出口)を塞ぐゴム栓を取り外して、残留したスラリーを自然排泥した。この際、ゴム栓に取り付けられた棒を外部から操作することで、ゴム栓を外した。排泥後に、比較例1と同様の手法で成形体を自然乾燥、脱型、取り出し、切り出し、及び乾燥を行い、成形体を得た。
【0061】
(2)評価
<目視観察>
比較例1及び実施例1で作製された成形体を目視にて観察した。
【0062】
<成形密度>
比較例1及び実施例1において3種のアルミナスラリーから作製されたそれぞれの成形体の密度とそのバラツキを調べた。具体的には、乾燥させた成形体の寸法及び質量を測定し、測定値を用いて成形密度を求めた。この際、成形体中の5箇所の部位について成形密度を測定し、成形密度の平均値と標準偏差を算出した。
【0063】
<スラリー特性>
濃厚型のスラリーB及びCについて粘度と降伏応力を測定し、成形密度との関係を調べた。測定は、精密回転粘度計(英弘精機株式会社、ブルックフィールド精密回転粘度計RST-CPS)を用いて、コーンスピンドル(英弘精機株式会社、RST-25-1)で行った。
【0064】
(3)評価結果
<目視観察>
比較例1及び実施例1で得られた成形体の光学写真を図8及び図9に示す。これらの成形体は、いずれもスラリーBから作製されたものである。比較例1で得られた成形体は、厚みバラツキが大きく、特に端部で厚くなっていた(図8)。これに対して実施例1で得られた成形体は、その厚みが均一であった(図9)。
【0065】
<成形密度>
比較例1及び実施例1について得られた成形体の密度を下記表3にまとめて示す。希薄・高充填型のスラリーAを用いた場合には、比較例1及び実施例1とも成形密度は比較的高かった(2.608~2.642g/cm)。また標準偏差は小さく(0.036~0.037)、比較例1と実施例1とで差はほとんどなかった。このことから希薄・高充填型スラリーを評価する場合には、いずれの手法を採用しても結果に差異の無いことが分かった。
【0066】
濃厚・高充填型のスラリーBを用いた場合には、成形密度は比較的高かった(2.452~2.507g/cm)。また標準偏差の点で比較例1と実施例1とで差異が見られた。具体的には、比較例1では標準偏差が非常に大きい(0.176)のに対し、実施例1では中程度の値(0.073)であった。このことから濃厚・高充填型スラリーを評価する場合には、比較例1より実施例1の方が結果のバラツキの小さいことが分かった。
【0067】
濃厚・微粒型のスラリーCを用いた場合には成形密度は低かった(2.033~2.170g/cm)。また標準偏差の点で比較例1と実施例1とで差異が見られた。具体的には、比較例1では標準偏差が大きい(0.102)のに対し、実施例1では比較的小さかった(0.047)。このことから濃厚・微粒型スラリーを評価する場合には、比較例1より実施例1の方が結果のバラツキの小さいことが分かった。
【0068】
【表3】
【0069】
<スラリー特性>
濃厚・高充填型のスラリーBと濃厚・微粒型のスラリーCの粘度とせん断応力のそれぞれを図10及び図11に示す。図10及び図11では、スラリーBとスラリーCのそれぞれについて、せん断速度を増加させた場合の特性(粘度、せん断応力)と減少させた場合の特性を示している。ただし、スラリーCの粘度は、せん断速度を増加させた場合と減少させた場合と差が殆ど見られなかった。そのため、図10ではせん断速度を増加させた場合の粘度曲線と減少させた場合の粘度曲線が重なって見える。
【0070】
粘度とせん断応力は、微粒アルミナ粉を含むスラリーCの方が、高充填アルミナ粉を含むスラリーBより大きかった。一方でスラリーBはチクソトロピー性が大きかった。すなわちせん断速度を増加させた場合と減少させた場合で、せん断応力に差が生じ、この差は大きかった。スラリーの粘度やチクソトロピー性の違いが、成形密度のバラツキに影響を与えたと考えられる。
【0071】
<結果のまとめ>
以上の評価結果をまとめるに、実施例1の手法を採用することで、比較例1に比べて、より精度の高い鋳込み性の評価が可能であることが分かった。すなわち希薄スラリーを評価した場合には、実施例1と比較例1で得られた結果に大きな違いはないものの、濃厚スラリーを評価した場合には、実施例1の方が結果のバラツキが小さかった。
【0072】
実施例1で用いた評価用装置では、スラリーの側面から石膏板による吸液及び固体成分の着肉が起こる。側面から吸収することで、成形体作製時の重力の影響が最小化される。また底面排出口から排泥を行うことで、作業者のハンドリングに依らない一連の評価操作が可能になる。これらが作用することで、バラツキの小さい高精度の評価が可能になったと考えられる。
【0073】
これに対して、比較例1で用いた評価用装置では、スラリーの底面から石膏板による吸液及び固体成分の着肉が起こる。そのため重力による沈降の影響が現れる恐れがある。また装置を傾けて排泥を行う必要があるため、排泥時時の誤差を無視できない。すなわち作業ごとにハンドリング操作にバラツキが生じ、これが着肉に影響を与えたと考えられる。
【0074】
これらの結果より、本実施形態の評価方法に優位性のあることが確認された。
【符号の説明】
【0075】
2 槽
4、6、8、10 側壁
12 底部
14 排出口

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11