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特開2022-144803樹脂組成物、架橋樹脂組成物、および、成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144803
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物、架橋樹脂組成物、および、成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/20 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
C08L23/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045968
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本多 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】津金 靖仁
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊明
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB141
4J002BB151
4J002BB171
4J002EU196
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD050
4J002FD060
4J002FD070
4J002FD080
4J002FD090
4J002FD100
4J002FD130
4J002FD146
4J002FD170
4J002FD340
4J002GH02
4J002GK04
4J002GP00
4J002GQ05
(57)【要約】
【課題】本発明は、4-メチル-1-ペンテン重合体と架橋助剤とを含む組成物として、4-メチル-1-ペンテン重合体のブロッキングを抑制でき、架橋助剤のブリードも抑制できる組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】下記要件(A-a)~(A-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A)100質量部と、架橋助剤(B)0.1~50質量部とを含む樹脂組成物(X1):(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U1)の含有率が80~100モル%であり、炭素原子数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる構成単位(U2)の含有率が0~20モル%〔但し、(構成単位(U1)および構成単位(U2)の含有率の合計を100モル%とする。)である;(A-b)260℃、5kg荷重下のメルトフローレート(MFR)が0.01~250g/10分の範囲にある;(A-c)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃の範囲にある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(A-a)~(A-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A)100質量部と、架橋助剤(B)0.1~50質量部とを含む樹脂組成物(X1)。
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U1)の含有率が80~100モル%であり、炭素原子数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる構成単位(U2)の含有率が0~20モル%〔但し、(構成単位(U1)および構成単位(U2)の含有率の合計を100モル%とする。)である。
(A-b)260℃、5kg荷重下のメルトフローレート(MFR)が0.01~250g/10分の範囲にある。
(A-c)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃の範囲にある。
【請求項2】
前記架橋助剤(B)が、下記式(1)で表される環状構造を2つ以上含む、請求項1に記載の樹脂組成物(X1)。
【化1】
【請求項3】
前記架橋助剤(B)が、トリアリルイソシアネートプレポリマーである、請求項1または2に記載の樹脂組成物(X1)。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物(X1)が架橋されてなる架橋樹脂組成物(X2)。
【請求項5】
請求項4に記載の架橋樹脂組成物(X2)を含む成形体。
【請求項6】
離型フィルムまたは離型紙である、請求項5に記載の成形体。
【請求項7】
下記要件(A-a)~(A-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A)100質量部に対し、架橋助剤(B)を0.1~50質量部含む樹脂組成物(X1)を、
放射線照射により架橋する工程を含む、架橋樹脂組成物(X2)の製造方法。
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U1)の含有率が80~100モル%であり、炭素原子数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる構成単位(U2)の含有率が0~20モル%〔但し、(構成単位(U1)および構成単位(U2)の含有率の合計を100モル%とする。)である。
(A-b)260℃、5kg荷重下のメルトフローレート(MFR)が0.01~250g/10分の範囲にある。
(A-c)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃の範囲にある。
【請求項8】
前記架橋助剤(B)が、下記式(1)で表される環状構造を2つ以上含む、請求項7に記載の製造方法。
【化2】
【請求項9】
前記架橋助剤(B)が、トリアリルイソシアネートプレポリマーである、請求項7または8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、当該樹脂組成物を架橋してなる架橋樹脂組成物、および、当該架橋樹脂組成物を含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(ポリメチルペンテン、PMPなどとも称される)は、表面張力が非常に低いことにより耐汚染性に優れる特徴や、透明性、耐傷つき性に優れ、かつ耐熱性も高いという特徴を有していることから、各種用途に用いられている。
【0003】
これに関連して、ポリオレフィン樹脂の機械物性や耐熱性改善のために電子線照射により、樹脂中に架橋を形成させる技術が存在する。4-メチル-1-ペンテン系重合体はポリオレフィン系樹脂の一種であるが、側鎖が存在することから電子線照射により架橋形成と同時に分子鎖の分解が同時に進行する。このことから、4-メチル-1-ペンテン系重合体についても、電子線照射により物性を改善する試みが種々なされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリメチルペンテンと特定の架橋処理剤とを含む電子線硬化性樹脂組成物、および、この電子線硬化性樹脂組成物に電子線照射を行うことにより得られる硬化物が開示されている。ここで、特許文献1には、この電子線硬化性樹脂組成物が優れた耐熱性を有し、リフレクター用樹脂フレーム、リフレクター、および半導体発光装置の用途に供することができるとの記載もある。
【0005】
また、特許文献2には、ポリメチルペンテン系樹脂とポリメチルペンテン系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる複合繊維を電子線照射することにより、ポリメチルペンテン系樹脂を改質する試みが示されている。ここで、特許文献2には、ポリメチルペンテン系樹脂に電子線が当たると分子同士の結合が切れて、ラジカルが発生すること、並びに、発生したラジカル同士が結合し、ポリメチルペンテン系樹脂が架橋され、耐熱性や耐摩擦性が向上することも記載されている。なお、特許文献2には、電子線照射を架橋助剤の存在下で行うことは具体的な形では記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-031429号公報
【特許文献2】特開2019-178442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(本明細書において「4-メチル-1-ペンテン重合体」とも呼ばれる。)は、側鎖が存在することから電子線照射により架橋形成と同時に分子鎖の分解が同時に進行する。そのため、分解する樹脂で架橋を効率よく生成させるには架橋の仲立ちとなる架橋助剤を添加することが好ましい。
【0008】
架橋助剤としてはトリアリルイソシアヌレートが一般的であるが、トリアリルイソシアヌレートは常温で液体であることから、樹脂に添加する際に均等に分散させることが難しい。また沸点が144℃と低いことから、樹脂の成型時に容易に揮発しブリードするという問題を抱えている。また、4-メチル-1-ペンテン系重合体に対して架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートを配合して架橋用の組成物を調製する場合、ブロッキングなどの問題を引き起こすことがある。
【0009】
そこで、本発明は、4-メチル-1-ペンテン重合体と架橋助剤とを含む組成物として、4-メチル-1-ペンテン重合体のブロッキングを抑制でき、架橋助剤のブリードも抑制できる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、架橋助剤として、特定の構造を有するものを用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
即ち、本発明は、例えば以下の[1]~[9]の事項に関する。
[1]
下記要件(A-a)~(A-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A)100質量部と、架橋助剤(B)0.1~50質量部とを含む樹脂組成物(X1)。
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U1)の含有率が80~100モル%であり、炭素原子数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる構成単位(U2)の含有率が0~20モル%〔但し、(構成単位(U1)および構成単位(U2)の含有率の合計を100モル%とする。)である。
(A-b)260℃、5kg荷重下のメルトフローレート(MFR)が0.01~250g/10分の範囲にある。
(A-c)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃の範囲にある。
【0012】
[2]
前記架橋助剤(B)が、下記式(1)で表される環状構造を2つ以上含む、[1]に記載の樹脂組成物(X1)。
【0013】
【化1】
【0014】
[3]
前記架橋助剤(B)が、トリアリルイソシアネートプレポリマーである、[1]または[2]に記載の樹脂組成物(X1)。
【0015】
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物(X1)が架橋されてなる架橋樹脂組成物(X2)。
【0016】
[5]
[4]に記載の架橋樹脂組成物(X2)を含む成形体。
【0017】
[6]
離型フィルムまたは離型紙である、[5]に記載の成形体。
【0018】
[7]
下記要件(A-a)~(A-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A)100質量部に対し、架橋助剤(B)を0.1~50質量部含む樹脂組成物(X1)を、
放射線照射により架橋する工程を含む、架橋樹脂組成物(X2)の製造方法。
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U1)の含有率が80~100モル%であり、炭素原子数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる構成単位(U2)の含有率が0~20モル%〔但し、(構成単位(U1)および構成単位(U2)の含有率の合計を100モル%とする。)である。
(A-b)260℃、5kg荷重下のメルトフローレート(MFR)が0.01~250g/10分の範囲にある。
(A-c)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃の範囲にある。
【0019】
[8]
前記架橋助剤(B)が、下記式(1)で表される環状構造を2つ以上含む、[7]に記載の製造方法。
【0020】
【化2】
【0021】
[9]
前記架橋助剤(B)が、トリアリルイソシアネートプレポリマーである、[7]または[8]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、4-メチル-1-ペンテン重合体と架橋助剤とをふくむ組成物として、4-メチル-1-ペンテン重合体のブロッキングを抑制でき、架橋助剤のブリードも抑制できる組成物を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書において、「重合体」および「(共)重合体」との語句は、特に断りのない限り、単独重合体および共重合体を包含する意味で用いられる。
【0024】
[樹脂組成物(X1)]
本発明の樹脂組成物(X1)は、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)100質量部と、架橋助剤(B)0.1~50質量部とを含む。
以下、本発明の樹脂組成物(X1)を構成する各構成成分について説明する。
【0025】
<4-メチル-1-ペンテン重合体(A)>
本発明の樹脂組成物(X1)は、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含んでいる。
この4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、以下の要件(A-a)~(A-c)を全て満たす。
【0026】
要件(A-a)
本発明で用いられる4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U1)の含有率が80~100モル%であり、炭素原子数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる構成単位(U2)の含有率が0~20モル%〔但し、(構成単位(U1)および構成単位(U2)の含有率の合計を100モル%とする。)である。
【0027】
前記構成単位(U1)の含有率は、好ましくは80~95モル%であり、前記構成単位(U2)の含有率は、好ましくは5~20モル%である。
また、前記構成単位(U2)を構成する炭素原子数2~20のα-オレフィンの例として、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。前記オレフィンは、樹脂組成物(X1)から得られる成形体の用途や必要物性に応じて適宜選択することができる。例えば、前記α-オレフィンとしては、組成物(X1)に適度な弾性率と柔軟性、可撓性を付与するという観点からは、炭素原子数8~18のα-オレフィンが好ましく、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセンおよび1-オクタデセンから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0028】
本明細書において、α-オレフィンから導かれる構成単位とは、α-オレフィンに対応する構成単位、即ち、-CH2-CHR-(Rは水素原子、またはアルキル基)で表される構成単位を指す。4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U1)についても、同様に解釈でき、4-メチル-1-ペンテンに対応する構成単位(即ち、-CH2-CH(-CH2CH(CH32)-で表される構成単位)を指す。
【0029】
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記オレフィンから導かれる構成単位以外の構成単位(以下「その他の構成単位」ともいう)を有してもよい。その他の構成単位の含有量は、例えば0~10.0モル%である。
【0030】
その他の構成単位を導くモノマーとしては、例えば、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィン、ハロゲン化オレフィンが挙げられる。環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィンおよびハロゲン化オレフィンとしては、例えば、特開2013-169685号公報の段落[0035]~[0041]に記載の化合物を用いることができる。
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)がその他の構成単位を有する場合、その他の構成単位は、1種のみ含まれていてもよく、また、2種以上含まれていてもよい。
【0031】
要件(A-b)
本発明で用いられる4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、260℃、5kg荷重下のメルトフローレート(MFR)が0.01~250g/10分の範囲にある。
ここで、前記MFRは、好ましくは5~200g/10分である。
【0032】
要件(A-c)
本発明で用いられる4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃の範囲にある。
ここで、前記Tmは、好ましくは200~235℃である。
【0033】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)の製造方法
本発明で用いられる4-メチル-1-ペンテン重合体(A)の製造方法は、上記要件(A-a)~(A-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体が得られる限り特に限定されず、例えば、固体状チタン触媒やメタロセン触媒等の公知の触媒の存在下で、4-メチル-1-ペンテンと、オプショナルの上記構成単位(U2)を構成する炭素原子数2~20のα-オレフィンと、オプショナルの上記その他の構成単位を導くモノマーとを、気相法、溶液法、スラリー法等の方法により(共)重合する工程を含む。
【0034】
ここで、前記固体状チタン触媒は、本発明の属する分野において一般的に用いられるものであって良く、例えば、チタン元素、マグネシウム元素、およびハロゲン元素、ならびに、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパンなどの2,2-ジアルキル-1,3-ジアルコキシプロパンを含む固体状チタン触媒成分が好ましい。4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、例えば、前記固体状チタン触媒成分を国際公開2006/054613号パンフレットに記載の固体状チタン触媒成分(I)の代わりに用い、前記固体状チタン触媒成分存在下での(共)重合をエーテル化合物不存在下で行うことを除き、国際公開2006/054613号パンフレットに開示されている製造方法と同様の製造方法により得ることができる。
【0035】
また、メタロセン触媒としては、例えば、国際公開第2014/050817号、国際公開第2001/053369号、国際公開第2001/027124号、特開平3-193796号公報、特開平02-41303号公報、国際公開第2006/025540号または国際公開第2013/099876号中に記載のメタロセン触媒が挙げられる。4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、前記メタロセン触媒を用いて、例えば特開2018-162408号公報等に開示されている製造方法と同様の製造方法により得ることができる。例えば、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、(8‐オクタメチルフルオレン-12'-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドなどのメタロセン化合物を含むメタロセン触媒の存在下で、4-メチル-1-ペンテンと前記炭素原子数2~20のα-オレフィンとを共重合することにより得ることができる。ここで、前記メタロセン触媒は、修飾メチルアルミノキサン(MMAO)などの有機アルミニウムオキシ化合物、および/または、トリイソブチルアルミニウムその他のアルキルアルミニウムをさらに含んでいても良い。また、前記共重合は、必要により、水素の存在下で行うこともでき、その場合、得られる共重合体の分子量を調整するために、重合系内の水素濃度および圧力等を適宜設定してもよい。
前述のように製造したもの以外にも、例えば三井化学株式会社製TPX等、市販の重合体であってもよい。
【0036】
<架橋助剤(B)>
本発明で用いられる架橋助剤(B)は、本発明の目的が達成される限り特に限定されない。ただ、本発明の典型的な態様において、架橋助剤(B)は、下記式(1)で表される環状構造を2つ以上含むことが好ましい。
【0037】
【化3】
【0038】
前記架橋助剤(B)の好適な例として、下記式(2)で表される化合物の重合体が挙げられる。
【0039】
【化4】
(式(2)中、R1~R3はそれぞれ独立に、アリル基、メタリル基、エステル結合を介したアリル基、及びエステル結合を介したメタリル基のいずれかのアリル系置換基である。)
【0040】
ここで、本発明の好適な態様の1つにおいて、前記架橋助剤(B)は、トリアリルイソシアネートプレポリマーである。
上記架橋助剤(B)を含む本発明の樹脂組成物(X1)は、上記架橋助剤(B)の代わりにトリアリルイソシアヌレートを架橋助剤として含む樹脂組成物と比べて、4-メチル-1-ペンテン重合体のブロッキングを抑制でき、架橋助剤のブリードも抑制できる。
【0041】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物(X1)は、前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)と、前記架橋助剤(B)とを含んでいる。ここで、本発明の典型的な態様の1つにおいて、本発明の樹脂組成物(X1)は、前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)と、前記架橋助剤(B)とからなる。ただ、本発明の樹脂組成物(X1)は、前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)および前記架橋助剤(B)のほかに、前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)にも前記架橋助剤(B)にも該当しないその他の成分(以下、「その他の成分」)をさらに含んでいても良い。
【0042】
本発明の樹脂組成物(X1)に含まれていても良い「その他の成分」として、本発明が属する分野において通常用いられる種々の添加剤が挙げられ、その例として、耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、核剤、滑剤、顔料、染料、老化防止剤、塩酸吸収剤、無機または有機の充填剤、有機系または無機系の発泡剤、粘着剤、軟化剤、難燃剤が挙げられる。本発明の樹脂組成物(X1)におけるこれらの成分の含有量は、樹脂組成物(X1)から得られる成形体の用途にもよるが、例えば、前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)100質量部に対して、配合される添加剤の合計が30質量部以下であることが好ましい。また、本発明の樹脂組成物(X1)におけるこれらの成分の含有量の合計は、前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましい。
【0043】
[架橋樹脂組成物(X2)およびその製造方法]
本発明の架橋樹脂組成物(X2)は、前記樹脂組成物(X1)が架橋されてなる。
すなわち、架橋樹脂組成物(X2)は、前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)の分子同士が、架橋助剤(B)を介して互いに架橋してなる構造を有している。
【0044】
このような架橋樹脂組成物(X2)は、前記樹脂組成物(X1)を架橋することにより得ることができる。本発明の好適な態様において、架橋樹脂組成物(X2)は、前記樹脂組成物(X1)を放射線照射により架橋する工程を含む製造方法により得ることができる。
【0045】
ここで、前記放射線照射に用いることのできる放射線は、前記樹脂組成物(X1)を架橋することが可能であれば良く、例えば、X線、γ線などの電磁波であっても良く、あるいは、電子線であっても良い。ただ、本発明では、前記放射線が、電子線であることが好ましい。
【0046】
ここで、電子線の加速電圧については、前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)や成形体の大きさ、形状等に応じて適宜選定することができるが、例えば、厚みが2mm程度の成型物の場合は加速電圧50~400kVとすることが好ましい。また、電子線を照射する際の吸収線量は樹前記樹脂組成物(X1)の組成により適宜設定することができるが、効率的な架橋形成の点から50~800kGyであることが好ましい。電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
【0047】
また、本発明の製造方法は、前記放射線照射の前に、圧縮成形その他の適当な成形方法により前記樹脂組成物(X1)を成形する工程を含んでいることが好ましい。
【0048】
[成形体]
本発明の典型的な態様において、前記架橋樹脂組成物(X2)は、成形体の形で用いられる。言い換えると、本発明の成形体は、前記架橋樹脂組成物(X2)を含んでいる。
【0049】
本発明の成形体の形状は、その用途等に応じて適宜選定できる。例えば、シート状とすることができる。また、本発明の成形体は、積層フィルム等の積層体であっても良い。
本発明の成形体の用途は、特に限定されないものの、その例として離型フィルムや離型紙が挙げられる。
【0050】
本発明の成形体の製造方法は、特に限定されない。本発明の好適な態様の1つにおいて、本発明の成形体は、
(SA-1)前記樹脂組成物(X1)を成形する工程と、
(SA-2)前記工程(S-1)によって得られる前駆成形体に放射線照射を行う工程と
を含む製造方法によって得ることができる。この態様において、前記「架橋樹脂組成物(X2)およびその製造方法」で前述した「前記樹脂組成物(X1)を放射線照射により架橋する工程」は、前記工程(S-2)として行われることになる。
【0051】
例えば、本発明の成形体がフィルム状の場合、前記工程(S-1)は、フィルム成形に通常用いられる成形方法を用いて行うことができ、公知のフィルム成形方法であっても良い。また、本発明の成形体が積層フィルムの形状を有する場合、前記工程(S-1)は、積層フィルムの製造に通常用いられる成形方法を用いて行うことができる。
【0052】
ただ、本発明の成形体は、上記の態様により製造されるものに限定されず、例えば、
(SB-1)前記樹脂組成物(X1)を放射線照射により架橋する工程と、
(SB-2)前記工程(S-1)によって得られる架橋樹脂組成物(X2)を成形する工程と
を含む製造方法によって得てもよい。
【実施例0053】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
[製造例]
4-メチル-1-ペンテン共重合体の調製は、特開2018-162408号公報の製造例1([0183]~[0185])に記載の重合方法に準じて、得られる共重合体中の物性が表1の値になるように、4-メチル-1-ペンテン、α-オレフィン、水素の使用割合を変更することによって、重合体(A-1)を得た。すなわち、重合体(A-1)は、重合用触媒として、特開2018-162408号公報の[0181]~[0182]に記載の方法で得られたメタロセン触媒成分を用い、このメタロセン触媒成分、トリイソブチルアルミニウムおよび水素の存在下で、4-メチル-1-ペンテンと、1-ヘキサデセンと1-オクタデセンとの等質量の混合物とを共重合させることにより得られた共重合体である。
【0055】
重合体(A-1)の各種物性の測定方法を以下に示す。
(1)組成
4-メチル-1-ペンテン重合体中のエチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンに由来の構成単位(コモノマー)の含量は、以下の装置および条件により、13C-NMRスペクトルより算出した。
【0056】
ブルカー・バイオスピン製AVANCEIIIcryo-500型核磁気共鳴装置を用いて、溶媒はo-ジクロロベンゼン/ベンゼン-d6(4/1 v/v)混合溶媒、試料濃度は55mg/0.6mL、測定温度は120℃ 、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング、パルス幅は5.0μ秒(45°パルス)、繰返し時間は5.5秒、積算回数は64回とし、ベンゼン-d6の128ppmをケミカルシフトの基準値として測定した。主鎖メチンシグナルの積分値を用い、下記式によってコモノマー由来の構成単位の含量を算出した。
コモノマー由来の構成単位の含量(%)=[P/(P+M)]×100
ここで、Pはコモノマー主鎖メチンシグナルの全ピーク面積を示し、M は4-メチル-1 -ペンテン主鎖メチンシグナルの全ピーク面積を示す。
【0057】
(2)メルトフローレート(MFR)
メルトフローレート(MFR)はASTM D1238に準拠して260℃ 、5kg荷重の条件で測定した。
【0058】
(3)融点(Tm)
セイコーインスツルメンツ社製DSC測定装置(DSC220C)を用い、測定用アルミパンに約5mgの試料をつめて、10℃/minで280℃まで昇温した。280℃で5 分間保持した後、10℃/minで20℃まで降温させた。20℃で5分間保持した後、10℃/minで280℃まで昇温した。2回目の昇温時に観測された結晶溶融ピークの頂点が現れる温度を融点とした。
重合体(A-1)の各種物性についての測定結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
[実施例1]
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)として、上記製造例で得られた重合体(A-1)を用いた。また、架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレート重合物(三菱ケミカル(株)製、製品名:タイクプレポリマー)を用いた。
【0061】
重合体(A-1)100質量部に対し前記タイクプレポリマーを2質量部配合し、ドライブレンドすることにより、ドライブレンド混合物を調製した。
然る後に、(株)池貝製PCM-43二軸押出成形機(スクリュー径43mm、L/D=30)を用い、設定温度260℃、樹脂押出量20kg/hおよび回転数150rpmの条件で上記混合物を造粒してペレット状の樹脂組成物を得た。
【0062】
その後、2枚の鉄板の間に、8cm四方にくり抜いた厚さ2mmの鉄板を配置してなる金型(すなわち、この金型は、長さ8cm、幅8cmおよび奥行き2mmの直方体形状を有する空洞部を有している)を用意し、当該金型のくり抜いた箇所(空洞部)に得られた上記樹脂組成物10.3gを充填した。神藤金属工業所製の圧縮成形機(型締50ton)を270℃ に昇温し、当該圧縮成形機に上記金型を挿入した。その状態で静置して上記金型内の樹脂組成物を融解させた後に、10MPaの圧力で当該金型を圧縮し6分間保持した。その後上記金型を取り出して、23℃ に設定した上記圧縮成形機に当該金型を挿入して10MPa の圧力を掛けた状態で6分間かけて冷却した。前記金型の空洞部から2mm厚の成形体を取り出してプレスシートサンプルとした。
【0063】
上記プレスシートサンプルに対して、(株)NHVコーポレーション製EBC300-60電子線照射装置を用いて、加速電圧300kV、線量400kGyの条件で電子線照射を行い、当該電子線照射により得られるサンプルを電子線照射プレスシートサンプルとした。
【0064】
[実施例2]
重合体(A-1)100質量部に対し配合する架橋助剤の量を5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
【0065】
[実施例3]
重合体(A-1)100質量部に対し配合する架橋助剤の量を10質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
【0066】
[実施例4]
重合体(A-1)100質量部に対し配合する架橋助剤の量を30質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
【0067】
[比較例1]
架橋助剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
【0068】
[比較例2]
重合体(A-1)100質量部に対し配合する架橋助剤をトリアリルイソシアヌレート(三菱ケミカル(株)製、製品名:タイク)に変更した以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
【0069】
[比較例3]
重合体(A-1)100質量部に対し配合する架橋助剤の量を5質量部に変更した以外は、比較例2と同様にしてサンプルを作成した。
上記実施例および比較例で得られたドライブレンド混合物、プレスシートサンプル、および、電子線照射プレスシートサンプルのそれぞれに対して以下に示す評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
(ブロッキング)
ドライブレンド混合物の状態および、造粒時のホッパー内でのつまりを目視で観察し評価した。評価は以下の基準で行った。
〇:目視した際に塊がなく、造粒の際、詰まることがなかった
△:目視した際に塊はあるが、ホッパー内で詰まりが生じなかった
×:目視した際に塊があり、造粒の際、ホッパー内で詰まりが生じた
【0071】
(ブリード)
上記プレスシートサンプルを室温で1日置いたのち、その表面をキムワイプで拭い、キムワイプへの液体付着の有無を目視で観察し、以下に示す基準で評価した。
〇:キムワイプへの液体の付着が認められなかった
×:キムワイプへの液体の付着が認められた
【0072】
(架橋形成)
Anton Paar製MCR301モジュラーコンパクトレオメータを用いて、荷重負荷:ねじりモード、振り角:0.1%、角周波数:10rad/s、昇温速度:2℃/分の条件で電子線照射プレスシートサンプルの動的粘弾性を測定し、以下基準で評価した。
ここで、レオメータでの測定が可能であることは、電子線照射プレスシートサンプルが溶融せず弾性を持ち、架橋が形成されていることを示す。
〇:270℃において測定が可能であった
×:270℃において測定が不可能であった
【0073】
【表2】