IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭真空株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-銅蒸着被膜 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144891
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】銅蒸着被膜
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20220926BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220926BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C23C14/14 D
B32B15/08 Q
C23C28/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046085
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】521118396
【氏名又は名称】旭真空株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100402
【弁理士】
【氏名又は名称】名越 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【弁理士】
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】大久保 功
【テーマコード(参考)】
4F100
4K029
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AB17B
4F100AK25C
4F100AK52C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100EH66B
4F100EJ91C
4F100JC00
4F100YY00B
4F100YY00C
4K029AA02
4K029AA11
4K029BA08
4K029BA62
4K029BB02
4K029CA01
4K029CA12
4K029DB18
4K029EA01
4K029EA03
4K029FA07
4K029GA03
4K044AA03
4K044AA06
4K044AA16
4K044BB03
4K044BB04
4K044BB11
4K044BC00
4K044BC02
4K044BC06
4K044CA13
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】基材の材質に影響されることなく抗菌作用を有する銅被膜を形成することができ、長期間に渡って抗菌作用を持続させることができる銅蒸着被膜を提供する。
【解決手段】基材1上に銅粒子を真空蒸着させて形成された銅被膜11と、銅被膜11上に形成された保護膜12と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に銅粒子を真空蒸着させて形成された銅被膜と、
前記銅被膜上に形成された保護膜と、
を有することを特徴とする銅蒸着被膜。
【請求項2】
前記銅被膜の膜厚が10nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の銅蒸着被膜。
【請求項3】
前記保護膜は、シリコン重合膜であり、その膜厚は10nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1、又は2に記載の銅蒸着被膜。
【請求項4】
前記保護膜は、アクリル系塗膜であり、その膜厚は5μm以上25μm以下であることを特徴とする請求項1、又は2に記載の銅蒸着被膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の材質に限定されない銅蒸着被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現状、感染力の強い「新型コロナウイルス感染症」が世界中で流行しており、新型コロナウイルスに対するワクチンや、治療薬の開発は、世界各国で進められているが、有効なワクチンや治療薬の実現には、まだ時間が必要な状況である。
【0003】
また、アメリカの米疫病対策センターと大学との研究チームの発表によると、新型コロナウイルスの生存期間は、プラスチックやステンレスの表面上では、48時間~72時間の長時間に渡って生存している一方、銅の表面上では4時間であったという研究結果が開示されている。そこで、樹脂フィルムの表面に銅粒子を付着させた抗菌シートが特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された、樹脂フィルムの表面に銅粒子を付着させた構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-66187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された抗菌シートは、銅粒子を付着可能な機材は、ポリエステルや、ポリオレフィン等の樹脂を含む樹脂フィルムの表面に限定されてしまう。また、銅被膜が保護されていないため、例えばドアノブや、つり皮のように人の手が何度も触れるような箇所では、徐々に銅被膜が剥がれてしまい抗菌作用が短期間で失われてしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、基材の材質に影響されることなく抗菌作用を有する銅被膜を形成することができ、長期間に渡って抗菌作用を持続させることができる銅蒸着被膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の銅蒸着被膜は、基材上に銅粒子を真空蒸着させて形成された銅被膜と、前記銅被膜上に形成された保護膜と、を有することを特徴とする。
この構成により、基材の材質に影響されることなく抗菌作用を有する銅被膜が形成されるとともに、長期間に渡って抗菌作用を持続させることができる。
【0008】
また、本発明の銅蒸着被膜は、前記銅被膜の膜厚が10nm以上200nm以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の銅蒸着被膜は、前記保護膜は、シリコン重合膜であり、その膜厚は10nm以上30nm以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の銅蒸着被膜は、前記保護膜は、アクリル系塗膜であり、その膜厚は5μm以上25μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の銅蒸着被膜は、基材の材質に影響されることなく抗菌作用を有する銅被膜が形成されるとともに、長期間に渡って抗菌作用を持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る実施形態の銅蒸着被膜の拡大断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る本実施形態の銅蒸着被膜を、添付図面に基づいて説明する。
【0014】
本実施形態に係る銅蒸着被膜10は、基材1上に銅粒子を真空蒸着させて形成された銅被膜11と、銅被膜11上に形成された保護膜12とを有する。
【0015】
基材1は、樹脂成形品、アルミ鋳造品、及び各種金属絞り加工品等であればよく、特定の材質に限定されない。例えば、樹脂成形品として、PP樹脂(ポリプロピレン樹脂)、PBT樹脂(ポリブチレンテレフタート樹脂)、PC樹脂(ポリカーボネート樹脂)、ABS樹脂(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)、AM(アクリル系樹脂)、PPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、BMC樹脂(不飽和ポリエステル樹脂)等が挙げられる。また、各種金属絞り加工品として、アルミニウム、アルミ合金、又はステンレス鋼材が挙げられる。
【0016】
銅被膜11は、基材1上に銅粒子を真空蒸着させて形成される。真空蒸着とは、被膜対象物であるワークに対して、金属皮膜を施す技術であり、金属を真空蒸着装置内部の抵抗体にセットし、当該真空蒸着装置内を高真空状態とする。そして、抵抗体を加熱することにより、セットされた金属が気化し、当該真空蒸着装置内の真空中に飛散した金属はワーク表面に付着することにより、金属被膜が形成されることになる。
【0017】
本実施形態では、真空蒸着により、銅粒子がワークである基材1の表面に付着し、銅被膜11が形成される。具体的には、薄膜の銅被膜11を真空蒸着する際、真空蒸着装置内の真空度を2.0×10-2Pa以下とし、抵抗体に電圧9.0Vをかけて、薄膜の銅被膜11が形成される。なお、薄膜の銅被膜11に係る蒸着時間は60secである。また、中膜の銅被膜11を真空蒸着する際、真空蒸着装置内の真空度を2.0×10-2Pa以下とし、抵抗体に電圧8.5Vをかけて、中膜の銅被膜11が形成される。なお、中膜の銅被膜11に係る蒸着時間は80secである。さらに、厚膜の銅被膜11を真空蒸着する際、真空蒸着装置内の真空度を2.0×10-2Pa以下とし、抵抗体に電圧8.0Vをかけて、厚膜の銅被膜11が形成される。なお、厚膜の銅被膜11に係る蒸着時間は120secである。
【0018】
また、銅被膜11の膜厚は、平均膜厚10nm以上200nm以下であると好ましい。ここで、平均膜厚は、試料の複数箇所の膜厚を測定し、それら測定値の平均値を算出したものである。銅被膜11の膜厚が10nm以上であれば、銅被膜が形成されたことによる抗菌効果を十分に発揮することができる。なお、銅被膜11の平均膜厚が50nm以上200nm以下を厚膜とし、銅被膜11の平均膜厚が14nm以上50nm未満を中膜とし、銅被膜11の平均膜厚が10nm以上14nm未満を薄膜とする。
【0019】
また、銅被膜11と基材1との間に、アンダー塗膜(図示しない)を形成してもよい。アンダー塗膜を形成することにより、銅被膜11と基材1との密着性を向上させることができる。
【0020】
保護膜12は、銅被膜11上に形成される。保護膜12が、銅被膜11を保護することから、銅被膜11上に保護膜がない構成と比して、耐温水、耐アルカリ性、耐摩耗性が向上することができる。
【0021】
本実施形態では、保護膜12は、銅被膜11上に、塗装され、またプラズマ重合されて形成される。ここで、塗装膜は、アクリル系塗膜(東洋工業塗料社製:RT-45,RT-160)、シリコン系塗膜(信越化学工業社製:LS-7130)が挙げられる。例えば、保護膜12がアクリル系塗膜であれば、耐摩耗性に優れていることから、取っ手や、ドアノブ等の人の手が多く触れる箇所であっても、長期間に渡って、銅被膜11を保護することができる。また、プラズマ重合としては、シリコン膜が挙げられる。
【0022】
保護膜12の膜厚は、例えば、アクリル系塗膜の膜厚は、約15±7μmである。また、シリコン系塗膜の膜厚は、約20±7nmである。
【0023】
上述した構成の本発明に係る本実施形態の銅蒸着被膜10の抗菌試験(大腸菌、ブドウ球菌)、カビ抵抗性試験の結果を、以下説明する。
【0024】
先ず、抗菌試験(大腸菌)は、表1に示す実施例1~4の抗菌加工試験片を用い、JIS Z2801:2010に規定された方法により抗菌試験を実施した。試験に用いた細菌は、大腸菌とし、培養時間は24時間とした。なお、比較例1は、銅被膜11、及び保護膜12を有しない試験片である。
【0025】
抗菌効果の大小を示す抗菌活性値は、試験片の24時間培養後の生菌数に基づき、算出する。具体的には、抗菌活性値は、以下の計算式により算出される。
R=Ut-At
なお、Rは、抗菌活性値を示し、Utは、無加工試験片における24時間培養後の生菌数の対数値の平均値であり、Atは、抗菌加工試験片における24時間培養後の生菌数の対数値の平均値である。
【0026】
抗菌効果の評価は、大腸菌に対する抗菌活性値が2.0以上である場合、JIS Z2801:2010の規定により、「合格」と判定した。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、銅被膜11の膜厚や、銅被膜11上に形成された保護膜12の種類に関わらず、抗菌活性値は合格の基準を上回った。
【0029】
次に、抗菌試験(黄色ブドウ球菌)は、表2に示す実施例5、6の抗菌加工試験片を用い、JIS Z2801:2010に規定された方法により抗菌試験を実施した。試験に用いた細菌は、黄色ブドウ球菌とし、培養時間は24時間とした。
【0030】
抗菌効果の大小を示す抗菌活性値は、試験片の24時間培養後の生菌数に基づき、算出する。なお、抗菌活性値は、上述した計算式により算出される。
【0031】
抗菌効果の評価は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性値が2.0以上である場合、JIS Z2801:2010の規定により、「合格」と判定した。
【0032】
【表2】
【0033】
表2に示すように、銅被膜11上に形成された保護膜12の種類に関わらず、抗菌活性値は合格の基準を上回った。
【0034】
また、本実施形態に係る銅蒸着被膜10について、JIS Z 2911:2018のかび抵抗性試験方法に準じて、かび抵抗性試験を実施した。当該試験に用いた、かびの種類は、アスペルギルス ニゲル(Aspergillus niger)、ペニシリウム ピノヒルム(Penicillium pinophilum)の2種を用いた。
【0035】
銅被膜11上に形成された保護膜12がアクリル系塗膜(東洋工業塗料社製:RT-45,RT-160)である試験片1と、当該保護膜12がシリコン重合膜(信越化学工業社製:LS-7130)である試験片2を、30mm角に切断し、かび抵抗性試験に用いる試験片とした。試験片1、2の表面全体に、上記2種のかび胞子懸濁液を同量ずつ混合して混合胞子懸濁液として、噴霧摂取し、当該試験片1、2をシャーレに入れ、当該試験片1、2の表面が鉛直方向となるように静置して、温度24±1℃、湿度95%RH以上の条件で、4週間培養した。
【0036】
かび抵抗性の評価は、培養開始から28日後に、当該試験片の表面に生じた菌糸の発育状態を肉眼及び実体顕微鏡にて観察し、下記の基準により判定した。
0:肉眼及び実体顕微鏡下でかびの発育が認められない
1:肉眼では、かびの発育が認められないが、実体顕微鏡下では明らかに確認できる。
2:肉眼で、かびの発育が認められ、発育部分の面積は試料の全面積の25%未満
3:肉眼で、かびの発育が認められ、発育部分の面積は試料の全面積の25%以上50%未満
4:菌糸はよく発育し、発育部分の面積は試料の全面積の50%以上
5:菌糸の発育は激しく、試料全面を覆っている
【0037】
上述した試験片の内、試験片1のかび抵抗性試験の評価は、肉眼でかびの発育が認められ、発育部分の面積は試料の全面積の25%未満であったため、「2」に該当する。一方、試験片2のかび抵抗性試験の評価は、肉眼及び実体顕微鏡下でかびの発育が認められず、「0」に該当する。これらの評価を踏まえ、本実施形態に係る銅蒸着被膜10は、カビの繁殖を抑制することができることは明らかである。
【0038】
本実施形態に係る銅蒸着被膜10について、JIS Z 2801に準じて、ウイルス不活性試験を実施した。当該不活性試験に用いた、ウイルスの種類は、ノロウイルスの代替ウイルスとして広く使用されている、ネコカリシウイルスF-9 ATOC VR-782を用いた。当該不活性試験に用いたウイルス液は、ウイルス細胞培養後の培養液を遠心分離し、その上澄み液を精製水により10倍希釈した液体である。なお、細胞増殖培地は、10%牛胎仔血清加イーグルMEM培地「ニッスイ」であり、また細胞維持培地は、2%牛胎仔血清加イーグルMEM培地「ニッスイ」である。
【0039】
銅被膜11上に形成された保護膜12がシリコン重合膜(信越化学工業社製:LS-7130)である試験片1と、当該保護膜12がアクリル系重合膜である試験片2(東洋工業塗料社製:RT-45,RT-160)を、30mm角に切断し、ウイルス不活性試験に用いる試験片とした。試験片1、2の表面に、上記ウイルス液0.2mlを滴下して、3時間後、6時間後、24時間後に、TCID50法により、ウイルス感染価を測定した結果を表3に示す。なお、表3中の「対照」とは、本実施形態に係る銅被膜、及び保護膜が形成されていないガラス板である。
【0040】
【表3】
【0041】
上述した試験片1、2のいずれも、24時間後のウイルス生存率は7%未満であった。
【0042】
本実施形態に係る銅蒸着被膜10は、アルコール消毒できるような箇所、例えばドアの取っ手や、階段の滑り止めテープの表面に形成されることにより、長期間に渡って、抗菌効果や、かびの繁殖の抑制や、抗ウイルス効果を発揮することができるため、清掃回数を削減することができる。また、本実施形態に係る銅蒸着被膜10は、アルコール消毒できないような箇所、パソコンのキーボードの表面に形成されることにより、共有スペースに置かれた、複数人で使用される共有パソコン等を媒介とした感染を予防の強化をすることができる。
【0043】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の銅蒸着被膜は、基材の素材等に影響されず、人の手に接触するような箇所に形成することができる。
【符号の説明】
【0045】
10…銅蒸着被膜
11…銅被膜
12…保護膜

図1