(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144898
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】遠心バレル研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24B 31/02 20060101AFI20220926BHJP
B24B 31/033 20060101ALI20220926BHJP
B24B 31/104 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B24B31/02 B
B24B31/033
B24B31/104
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046095
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】396019631
【氏名又は名称】株式会社チップトン
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】恒川 貴光
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AA11
3C158AA16
3C158AB01
3C158BA02
3C158BA04
3C158BB02
3C158BB06
3C158BC01
3C158BC02
3C158CA02
3C158CB01
3C158DA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】中空部を有する形状のワークに対して、中空部の内周面を遠心バレル研磨する場合に、内周面の表面粗さのばらつきを抑制することを目的とする。
【解決手段】中空部52を有するワーク50を研磨する遠心バレル研磨方法では、研磨工程において、中空部に研磨材が投入されたワーク50を、バレルケースに保持し、相対遠心加速度Fが10<F<40に規定される範囲となり、回転速度比n/Nが-0.9<n/N<-0.1、で規定される範囲となるように、バレルケースの自転回転速度n及び公転回転速度Nが設定されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを研磨する遠心バレル研磨方法であって、
中空部に研磨材が投入されたワークを、バレルケースに保持する保持工程と、
前記バレルケースを、自転軸を中心に自転させつつ、公転軸を中心に公転させることで、前記バレルケースに保持されたワークを研磨する研磨工程と、
を実行し、
Nを、前記バレルケースの公転回転速度とし、
nを、前記バレルケースの自転回転速度とし、
前記バレルケースの公転方向を正とし、
Rを、前記バレルケースの公転軸を中心とする公転半径とし、
F=4π2×N2×R/gを、前記バレルケースの公転により当該バレルケースに加わる遠心加速度に対する重力gの比である相対遠心加速度とした場合に、
前記研磨工程では、
10<F<40、
-0.9<n/N<-0.1、
で規定される範囲となるように、前記バレルケースの前記自転回転速度及び前記公転回転速度が設定されている遠心バレル研磨方法。
【請求項2】
前記研磨工程では、前記相対遠心加速度が、19<F<40で規定される範囲となるように、前記バレルケースの前記自転回転速度n及び前記公転回転速度Nが設定されている請求項1に記載の遠心バレル研磨方法。
【請求項3】
前記研磨工程では、-0.7<n/N<-0.5で規定される範囲となるように、前記バレルケースの前記自転回転速度n及び前記公転回転速度Nが設定されている請求項2に記載の遠心バレル研磨方法。
【請求項4】
前記研磨材の最大寸法は、前記ワークにおける前記中空部の最小内寸法に対して3分の1以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の遠心バレル研磨方法。
【請求項5】
前記保持工程で前記ワークの前記中空部に投入される前記研磨材は、タップ密度が2g/cm3以上である請求項1~4のいずれか一項に記載の遠心バレル研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを遠心バレル研磨する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バレルケースを、自転軸を中心に自転させつつ、公転軸を中心に公転させることで、バレルケース内に投入されたワークを研磨する遠心バレル研磨方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内部に中空部を有するワークに対して、中空部内に研磨材を投入し密封した状態で、中空部の内周面を遠心バレル研磨する場合がある。このような場合、例えば、ワークの中空部の形状によっては、内周面の表面粗さのばらつきが大きくなる場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みたものであり、中空部を有する形状のワークに対して、中空部の内周面を遠心バレル研磨する場合に、内周面の表面粗さのばらつきを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明では、ワークを研磨する遠心バレル研磨方法であって、中空部に研磨材が投入されたワークを、バレルケースに保持する保持工程と、バレルケースを、自転軸を中心に自転させつつ、公転軸を中心に公転させることで、バレルケースに保持されたワークを研磨する研磨工程と、を実行する。研磨工程では、Nを、バレルケースの公転回転速度とし、nを、バレルケースの自転回転速度とし、バレルケースの公転方向を正とし、Rを、バレルケースの公転軸を中心とする公転半径とし、F=4π2×N2×R/gを、バレルケースの公転により当該バレルケースに加わる遠心加速度に対する重力gの比である相対遠心加速度とした場合に、10<F<40、-0.9<n/N<-0.1、で規定される範囲となるように、バレルケースの自転回転速度n及び公転回転速度Nが設定されている。
ここで研磨材とは、砥材が母材に含有されたもの、母材のみで構成されたもの、または砥材が母材の表面にコーティングされたもののいずれかを指す。それらに加えて、必要に応じて砥材を別体として添加したものであってもよい。
【0007】
本発明者は、研磨材を、ワークの中空部内に隅々まで行きわたらせることができれば、中空部の内周面を好適に研磨できるとの着想に至った。一般的には、バレルケースの自転回転速度nと公転回転速度Nとの関係は、自転回転速度nを公転回転速度Nに対して反対方向であり、かつ絶対値を同じにすることで、研磨材の摩耗を抑制しつつ、ワークを好適に研磨できることが知られている(即ち、n/N=-1)。しかし、例えば、n/N=-1である場合においても、相対遠心加速度Fが小さい(例えば、10より小さい)場合に、研磨材に十分な遠心加速度が作用せず、研磨材がワークの中空内部で飛び跳ねて内周面を十分に研磨できない場合がある。この点、発明者は、鋭意、研究を重ねた結果、バレルケースにおける、自転回転速度nの絶対値を公転回転速度Nの絶対値よりも遅くすることにより、研磨材をワークの中空部内で研磨させ易くすることができるとの知見を得た。なお、バレルケースが自転しない場合、研磨材が流動しないため、ワークを研磨することができない。即ち、-0.9<n/N<-0.1に設定する。また、バレルケースの公転に伴う遠心力により研磨材に加わる力を大きくすることで、バレルケースの自転に伴う研磨材の流動が安定し、中空部の内周面を好適に研磨できる。この点、発明者は、鋭意、研究を重ねた結果、相対遠心加速度Fを、10<F<40の範囲に設定することで、研磨材の摩耗を抑制しつつ、中空部内の研磨材の流動を安定させることができるとの知見を得た。なお、相対遠心加速度Fが40を大幅に超える場合、ワークの研磨量に対する研磨材の摩耗量を示す研磨効率が著しく低下するため、上限値を40に設定している。これにより、ワークにおける中空部の内周面を遠心バレル研磨する場合に、中空部における表面粗さのばらつきを抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ワークの中空部を遠心バレル研磨する場合に、中空部における表面粗さのばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】従来のワーク内での研磨材の移動を説明する図。
【
図4】本発明のワーク内での研磨材の移動を説明する図。
【
図5】研磨量と、研磨効率と、相対遠心加速度との関係を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
本実施形態に係る研磨装置を、図面を参照しつつ説明する。
図1に示す研磨装置100は、ワークに対して遠心バレル研磨を行うことが可能な装置である。研磨装置100は、操作盤10と、シーケンサ11と、公転用駆動回路12と、自転用駆動回路13と、バレル機構部20とを備えている。
【0011】
まずは、バレル機構部20の構成を説明する。バレル機構部20は、太陽軸21、ターレット盤22、バレルケース23、公転用モータ24、自転用モータ25を、主に備えている。太陽軸21は、所定方向に回転可能に取り付けられたな軸部材であり、本実施形態では、公転軸の一例である。ターレット盤22は、太陽軸21により貫通されており、太陽軸21を中心に回転可能に保持されている。
【0012】
バレルケース23は、ワーク50を保持可能な保持部材である。バレルケース23は、自転軸28を有しており、この自転軸28を介してターレット盤22に対して、自転可能に取り付けられている。具体的には、バレルケース23は、クランプ等の把持部材を有しており、把持部材によりワーク50の外周を把持することで、ワーク50を研磨装置100に保持する。
図1では、ターレット盤22には、4つのバレルケース23が自転可能に取り付けられている。なお、バレルケース23の自転軸28は、ターレット盤22において、太陽軸21が貫通する位置の中心から公転軌道半径Rだけ偏心して配置されている。
【0013】
公転用モータ24は、ターレット盤22を回転させるための駆動源である。公転用モータ24の出力軸は、公転用駆動プーリ26が取り付けられている。ターレット盤22の外周には、Vベルトを介して、公転用駆動プーリ26と連結される不図示の公転用従動プーリが設けられている。公転用モータ24の出力軸が回転することで、Vベルトが駆動し、ターレット盤22を回転させることができる。
【0014】
自転用モータ25は、バレルケース23を自転させるための駆動源である。自転用モータ25の出力軸は、自転用駆動プーリ27が取り付けられている。自転用モータ25の回転は、周知の遊星歯車機構を介して、バレルケース23に伝達され、バレルケース23をターレット盤22の回転方向D1と逆方向D2に自転させる。例えば、遊星歯車機構として、太陽軸21に固定された太陽プーリと、太陽軸21に固定され、太陽プーリとともに回転する太陽ギヤと、自転用モータ25の出力軸に固定された遊星ギヤと、太陽ギヤの回転速度を減速させて遊星ギヤに伝達する減速ギヤとを備えている。また、自転用駆動プーリ27と太陽プーリとの間には、伝達部材であるVベルトが掛け渡されている。これにより、自転用モータ25の出力軸の回転に応じて、太陽プーリが回転し、太陽軸21及び太陽ギヤを回転させる。太陽ギヤの回転速度は、減速ギヤにより減速され、遊星ギヤに伝達される。その結果、遊星ギヤに固定された自転軸28を中心としてバレルケース23が回転方向D2で自転する。
【0015】
シーケンサ11は、所定のプログラムをメモリに記憶したプログラマブルコントローラである。シーケンサ11は、操作盤10から研磨装置100の稼働条件に応じた各信号が入力される。操作盤10に対する操作により設定可能な稼働条件は、例えば、自転回転速度n、公転回転速度N、研磨時間、及び加減速時間である。
【0016】
シーケンサ11からの出力は、公転用駆動回路12及び自転用駆動回路13に入力される。公転用駆動回路12は、シーケンサ11から入力された稼働条件に応じた信号に応じて、公転用モータ24の公転回転速度N、及び研磨時間を制御するための駆動信号を出力する。本実施形態では、公転用駆動回路12は、センサにより検出されたターレット盤22の回転速度を、目標速度に近づけるべく、公転用モータ24の回転速度をフィードバック制御する。自転用駆動回路13は、シーケンサ11から入力された稼働条件に応じた信号に応じて、自転用モータ25の自転回転速度n、及び研磨時間を制御するための駆動信号を出力する。本実施形態では、自転用駆動回路13は、センサにより検出されたバレルケース23の回転速度を、目標速度に近づけるべく、自転用モータ25をフィードバック制御する。これ以外にも、公転用駆動回路12及び自転用駆動回路13は、公転用モータ24及び自転用モータ25それぞれの回転速度をオープン制御するものであってもよい。
【0017】
上記構成の研磨装置100において、ワークにおける中空部の内周面を遠心バレル研磨する場合、ワークの中空部に研磨材Mを投入し中空部を蓋や栓体で密封した後、ワークをバレルケース23により保持した状態で、遠心バレル研磨を行う。このとき、研磨後のワークにおいて、中空部の表面粗さにばらつきが生じる場合がある。
【0018】
図2は、一例としての中空部を有するワーク50の断面視である。ワーク50は、外周面に形成された開口部51と、この開口部51から連続して延びる空間である中空部52とを有している。なお、
図2に示すワーク50では、中空部52の内部を部分的に示し、それ以外の箇所の図示を省略している。本実施形態では、中空部52は、ワーク50の内部において、曲がった状態で延びている。また、中空部52は、開口部51から奥に進むに従い、内径の最大寸法が異なっている。具体的には、中空部52において開口部51の付近から中空部52を進むに従い、内径の最大寸法が小さくなっている。言い換えると、中空部52において開口部51付近での内径の最大寸法をL1とし、この箇所よりも奥まった箇所での内径の最大寸法をそれぞれL2,L3とした場合、各寸法は、L1>L2>L3の関係となる。
【0019】
図3,
図4は、ワーク50において中空部52の一部を中心とした断面視である。なお、
図3,
図4では、説明を容易にするため、図示されている研磨材Mは、実際の研磨材Mよりも少ない。バレルケース23におけるD2方向での自転に伴い、中空部52内の研磨材Mは、中空部52の内周面に沿って流動し、中空部52の内周面を研磨する。
【0020】
中空部52の形状に関わらず、バレルケース23の自転に伴い研磨材Mを中空部52内の隅々まで行きわたらせることができれば、中空部52の各内周面において、研磨材Mの流動量のばらつきを低減することができる。ここで、研磨材Mを中空部52の隅々まで行きわたらせるためには、バレルケース23の自転回転速度nを遅くするとよい。特に、ワーク50は開口部51の付近から中空部52を進むに従い、内径の最大寸法が小さくなっているので、自転回転速度nを早くすると研磨材Mが一気に流れ込み、詰まりが発生する恐れがある。一般的に、バレルケース23の自転回転速度nと公転回転速度Nとの関係は、自転回転速度nを公転回転速度Nに対して反対方向であり、かつ絶対値を同じ(即ち、n/N=-1)にすることで、装置構造が簡素で、研磨材Mの消耗をある程度抑制しつつ、ワーク50を良好に研磨できることが知られている。一方で、バレルケース23が自転しない場合(即ち、n=0)、バレルケース23内で研磨材Mが流動しないため、ワーク50を研磨することが不可能となる。
【0021】
そこで、本発明では研磨装置100において、ワーク50を研磨する際に、自転回転速度nに対する公転回転速度Nの比が下記(式1)を満たす範囲となるように、自転回転速度n及び公転回転速度Nを定める。なお、マイナスは、自転回転速度nと、公転回転速度Nとが逆方向であることを示している。
-0.9<n/N<-0.1 … (式1)
【0022】
また、中空部52の内側において、研磨材Mを内周面に押し付けつつ微動させれば研磨材を内周面に沿って摺動させて研磨安定させることができ、中空部52の内周面に対する研磨力を向上させることができる。
図4に示すように、バレルケース23内のワーク50及び研磨材Mには、バレルケース23の公転に伴う遠心加速度Fcが加わる。遠心加速度Fcは、中空部52内の研磨材Mを、中空部52の内周面に向けて押し付ける力となる。
図4では、
図3で示す遠心加速度Fcよりも大きな遠心加速度Fcが、研磨材Mに加わっている。
【0023】
本実施形態では、バレルケース23の公転に伴い研磨材Mに加わる遠心加速度Fcを、研磨力を高いレベルで維持しつつ、研磨材Mの摩耗を極力抑制する観点から決定している。
図5は、横軸を相対遠心加速度Fとして、縦軸を、研磨量Qと、研磨効率Eとした図である。なお、相対遠心加速度Fは、バレルケース23の公転によりバレルケース23に加わる遠心加速度Fcに対する重力gの比であり、下記(式2)により算出される値である。なお、相対遠心加速度Fの単位は、無次元である。
F=4π
2×N
2×R/g … (式2)
なお、Nは、公転回転速度であり、単位は[rps]である。Rは
図1に示した公転軌道半径であり、単位は[m]である。gは重力加速度であり、単位は[m/s
2]である。重力加速度は、9.8[m/s
2]を用いてもよい。
【0024】
研磨量Qは、単位時間(例えば、30分)当たりのワークの研磨量(研磨の際に削り取られたワークの重量)であり、単位は[mg]である。研磨効率Eは、ワークの単位時間当たりの研磨量Qと、研磨材の単位時間当たりの摩耗量Wとの比として定義された値であり、下記(式3)により算出される。なお、研磨効率Eの単位は、無次元である。
E=Q/W … (式3)
【0025】
研磨効率Eは、ワーク50の研磨量Qを研磨材の摩耗量Wで除した値であるから、研磨材Mの摩耗が所定量に達したときワーク50の研磨がどれくらい進んだかを表す指標となる。言い換えると、ワーク50の研磨が所定量に達したときに研磨材Mの摩耗がどれくらい抑えられたかをあらわす指標とも言え、ワークの研磨の進行と研磨材Mの摩耗の進行とを勘案した上で、研磨材Mがワーク50の研磨に対してどれだけ効率的に貢献したかをあらわす指標である。
【0026】
研磨装置100は、バレルケース23の自転により研磨材Mをワーク50内で流動させながら、公転に起因する遠心加速度Fcを研磨材Mに付与することによってワーク50の内周面を研磨するものであるから、相対遠心加速度Fと研磨量Q及び研磨効率Eとの間には、相関がある。即ち、ワーク50の研磨量Qは、バレルケース23の自転回転速度nに比例する流動量と、相対遠心加速度Fの影響を受けると考えられる。そこで、
図5に示す図において、研磨量Qと研磨効率Eとが最適となる相対遠心加速度Fの範囲を決定している。
【0027】
図5に示すように、相対遠心加速度Fが大きくなるのに伴い、ワーク50の研磨量Qが増加しているのに対し、研磨効率Eは総じて低下する傾向にある。一方で、研磨効率Eは、点Eβで変曲点(極小値)を取る下凸状に推移した後、点Eγで変曲点(極大値)を取る上凸状に推移する。これらを、相対遠心加速度Fの範囲(領域a,b,c,d,e)を定義して詳細に説明する。なお、領域aは、研磨効率Eαでの相対遠心加速度Fよりも小さな値を示す領域である。領域bは、研磨効率Eαでの相対遠心加速度Fから、研磨効率Eβでの相対遠心加速度Fを除く値までの領域である。領域cは、研磨効率Eβでの相対遠心加速度Fから、研磨効率Eγでの相対遠心加速度Fを除く値までの領域である。領域dは、研磨効率Eγでの相対遠心加速度Fから、研磨効率Eδでの相対遠心加速度Fを除く値までの領域である。領域eは、研磨効率Eδでの相対遠心加速度F以上の領域である。ここで、研磨効率Eにおいて、点Eαは、研磨効率Eの変曲点Eγ(極大点)と同じ値を示す値である。点Eδは、研磨効率Eの変曲点Eβ(極小点)と同じ値である。
【0028】
相対遠心加速度Fが領域aの範囲である場合、研磨効率Eが領域b,c,d,eよりも高いものの、研磨量Qが著しく少ないため、良好な領域とは言えない。加えて、相対遠心加速度Fが10よりも小さいと、研磨材Mをバレルケース23に取り付けたワーク50の内周面へ押し付ける力が弱く、しかもn/N=-1であると研磨材Mがワーク50内で飛び跳ねることで内周面に押し付けられず、ひいては表面粗さにばらつきを生じる可能性が高くなる。一方、相対遠心加速度Fが領域eの範囲である場合、研磨量Qは高い値となるものの、研磨効率Eが著しく低下する。特に、相対遠心加速度Fが40を大幅に超える場合、ワーク50の内周面に研磨材Mによる圧痕が生じることが懸念される。このとき、ワークが脆性材料から成ると、研磨材Mに欠け割れを生じさせることも懸念される。
【0029】
このことから、相対遠心加速度Fが領域b,c,d付近の値(10<F<40)である場合に、研磨効率Eは、高い値を維持しており、良好な領域と言える。特に、相対遠心加速度Fが領域c,d付近の値(15<F<35)である場合に、研磨効率Eの値が特に高い値(Eβ<E<Eγ)に維持されている。
【0030】
本実施形態では、研磨装置100において、ワーク50を研磨する際に、上記(式2)により算出される相対遠心加速度Fが下記(式4)を満たすように、公転回転速度Nの値を定めている。
10<F<40 … (式4)
【0031】
また、研磨量Qと研磨効率Eとを共に高い値に維持するとの観点から、相対遠心加速度Fが下記(式5)を満たすように、公転回転速度Nの値を定めてもよい。
15<F<35 … (式5)
【0032】
次に、研磨装置100を用いた遠心バレル研磨方法の手順を、
図6を用いて説明する。
図6に示す各工程に先立って、作業者は、操作盤10を操作することで、研磨装置100の稼働条件を入力する。稼働条件としては、公転回転速度N、自転回転速度n、研磨時間及び可動時間等である。なお、これら稼働条件は、作業者が操作盤10を操作することで、値を直接入力することに限定されず、例えば、作業者が操作盤10を操作して選択されたワーク種別に応じて、シーケンサ11が値を読み出すものであってもよい。この場合において、シーケンサ11は、ワーク種別に対応させて稼働条件を記憶しておけばよい。
【0033】
ステップS11(以下、ステップを単にSと記載する。)では、ワーク50の中空部52に、研磨材Mを投入する投入工程を実施する。投入工程で使用される研磨材Mとして、例えば、砥材を母材である結合材で結合させた研磨石を用いている。研磨材Mに含まれる砥材は、ワーク50の硬度よりも高い硬度の砥材を用いることができる。投入工程では、タップ密度が2[g/cm3]以上の研磨材が中空部52内に投入される。ここで、「タップ密度」は、定められた条件下で、粉体を容器に入れ容器をタップし、粉体間の隙間を詰めた状態で粉体重量を容器体積で割って得られる密度である。研磨材Mとして研磨石を用いる場合、研磨石を容器に充填し、容器をタップして得られた研磨石の密度をいう。なお、砥材を別体として添加した場合は、別体で添加された砥材を除いたタップ密度が2g/cm3以上のものを用いる。中空部52の内寸法に応じて、研磨材Mの最大寸法を小さくすることで、研磨材Mの研磨力が低下することが懸念される。そのため、本実施形態では、タップ密度が2[g/cm3]以上の研磨材Mを用いることで、研磨材Mの寸法を小さくしたことに伴う研磨力の低下を抑制している。研磨材Mをワーク50に投入する具体的な方法として、研磨材Mをワーク50の中空部52に投入し、必要であれば水とコンパウンド(バレル研磨用洗剤)を投入し、漏れないように密封する。
【0034】
S12では、研磨材Mが投入されたワーク50を、バレルケース23により研磨装置100に保持する保持工程を実施する。具体的には、バレルケース23の把持部材によりワーク50の外周を把持することで、ワーク50を研磨装置100に保持する。
【0035】
S13では、バレルケース23を自転させつつ、ターレット盤22の回転により公転させることで、ワーク50の内周面を研磨する研磨工程を実行する。具体的には、作業者は操作盤10を操作することで、シーケンサ11に対してバレルケース23の自転及び回転を開始させる。シーケンサ11は、公転用駆動回路12及び自転用駆動回路13に、稼働条件に応じた信号を出力することで、公転用駆動回路12に公転用モータ24を駆動させ、自転用駆動回路13に自転用モータ25を駆動させる。
【0036】
S13で実行される研磨工程では、シーケンサ11から出力される自転回転速度nと公転回転速度Nとは、相対遠心加速度Fと、回転速度比「n/N」とが上記(式1),(式4)を満たすように、その値が定められている。なお、ワーク種別に応じて、S13で実行される研磨工程を、複数回に渡り実施するものであってもよい。
【0037】
S13での研磨工程での稼働時間が経過すると、公転用モータ24及び自転用モータ25の駆動が停止し、所定期間の経過後、S14に進み、回収工程を実行する。回収工程では、ワーク50をバレルケース23から取り外し、ワーク50と第1研磨材M1とを分別し、ワーク50の洗浄と乾燥とを行う。
【0038】
<実施例>
次に、
図6で示した工程に従い、ワーク50を遠心バレル研磨した実施例を説明する。
実施例では、表1に示すように、相対遠心加速度Fと回転速度比n/Nを含む稼働条件の異なる実施例1~8を実施した。実施例1~8では、研磨工程を480分実施した。実施例1~8では、研磨材Mとして、チップトン製のセラミック研磨石を用いた。セラミック研磨石は、砥材を、粘土質結合材により焼成結合させた研磨材である。研磨石径(最大寸法)は、ワーク50の内寸法の最小値の3分の1以下であり、タップ密度は、2[g/cm
3]以上である。
【0039】
比較例では、実施例と同様の工程に対して、相対遠心加速度Fと回転速度比n/Nとを、上記(式1),(式4)と異なる条件で実施した。
【0040】
【0041】
実施例と、比較例とにおいて、研磨工程後の中空部52の表面粗さRa[μm]を測定した。具体的には、ワーク50の中空部52において、開口部51からの距離が異なる、第1測定箇所、第2測定箇所及び第3測定箇所での表面粗さRa1,Ra2,Ra3を測定した。第1測定箇所は、中空部52において開口部51からの距離が他の測定箇所と比べて最も近い箇所であり、
図2では、内寸法がL1となる箇所である。第3測定箇所は、中空部52において、開口部51からの距離が他の測定箇所と比べて最も遠い(奥)の箇所であり、
図2では、内寸法がL3となる箇所である。第2測定箇所は、中空部52において、第1測定箇所と第3測定箇所との中間の箇所であり、
図2では、内寸法がL2となる箇所である。加えて、各実施例において、表面粗さRa1,Ra2,Ra3の標準偏差を算出した。
【0042】
実施例1~8での表面粗さの測定結果について説明する。
いずれの実施例1~8においても、表面粗さRa1、表面粗さRa2、及び表面粗さRa3の順に、値が大きくなっている。即ち、遠心バレル研磨後においても、ワーク50の中空部52において、開口部51から距離が遠くなるほど、表面粗さRaは大きくなっている。
【0043】
相対遠心加速度Fが、「19<F<40」の範囲内にある、実施例4~8においては、第1測定箇所での表面粗さRa1は、「1.61」以下の値であり、第2測定箇所での表面粗さRa2は、「3.77」以下の値であり、第3測定箇所での表面粗さRa3は、「4.86」以下であった。ここで、上記した「19<F<40」の範囲は、
図5及び上記(式5)において、研磨量Qと研磨効率Eとを共に高い値に維持するとの観点から設定された範囲である。相対遠心加速度Fが「19<F<40」の範囲内にある実施例4~8では、他の実施例と比べても、全ての測定箇所での表面粗さRa1,Ra2,Ra3は総じて小さな値となっている。また、実施例4~8において、表面粗さRaの標準偏差は、「0.79」以上かつ「1.38」以下の値となっており、他の実施例と比べてもばらつきが小さかった。
【0044】
さらに、相対遠心加速度Fが「19<F<40」の範囲内にあり、かつ回転速度の比「n/N」が「-0.7<n/N<-0.5」の範囲内にある実施例7,8では、第1測定箇所での表面粗さRa1は、「1.28」以下の値であり、第2測定箇所での表面粗さRa2は、「2.61」以下の値であり、第3測定箇所での表面粗さRa3は、「3.22」以下であった。また、実施例7,8において、表面粗さRaの標準偏差は、「0.79」以上かつ「0.81」以下の値となっており、他の実施例と比べても総じてばらつきが小さかった。
【0045】
実施例4~8では、他の実施形態と比べて、研磨石の研磨石径[mm](最大寸法)が最も小さい。しかしながら、実施例4~8では、研磨石のタップ密度が2[g/cm3]以上であるため、表面粗さRa1,Ra2,Ra3と、標準偏差とは、他の実施例と比べて大きな違いがなかった。特に、タップ密度が3[g/cm3]である実施例7,8では、表面粗さRa1,Ra2,Ra3と、標準偏差とは、他の実施例よりも小さな値となった。
【0046】
次に、比較例での表面粗さの測定結果を説明する。
いずれの比較例1,2において、表面粗さRa1、表面粗さRa2、及び表面粗さRa3の順に、値が大きくなっている。即ち、遠心バレル研磨後においても、ワーク50の中空部52において、開口部51からの距離が遠くなるほど、表面粗さRaは研磨前の状態から改善されていない。また、比較例1,2において、表面粗さRaの標準偏差は、「1.99」,「1.90」であり、全ての実施例1~8よりも大きな値となった。
【0047】
実施例と比較例とにおける表面粗さの測定結果を総括する。
実施例1~8と比較例1,2との比較において、開口部51から近い第1測定箇所では、表面粗さRa1に大きな違いが見られなかった。これは、中空部52において、開口部51からの距離が近い第1測定箇所では、研磨石が行き渡り易く、パラメータ(F,n/N)による遠心バレル研磨に対する影響は低いためである。一方で、比較例1,2において、開口部51からの距離が第1測定箇所よりも遠い第2測定箇所では、表面粗さRa2は実施例1~8と比べて総じて大きな値であった。また、比較例1,2において、開口部51からの距離が最も遠い第3測定箇所では、表面粗さRa3は、実施例1~8よりも大きな値(6.39,6.55)となった。更に、比較例1,2において、表面粗さRaの標準偏差は、実施例1~8よりも大きな値となった。これは、開口部51からの距離が遠くなるに従い、研磨石が中空部52の内部に行き渡りにくくなるため、パラメータ(F,n/N)による遠心バレル研磨に対する影響が高くなるためである。即ち、研磨装置100において、上記(式1)、(式4)を満たすように、公転回転速度Nと自転回転速度nとを設定することで、ワーク50における中空部52の表面粗さのばらつきを低減することができた。
【0048】
以上説明した本実施形態では、以下の効果を奏することができる。
遠心バレル研磨方法において、バレルケース23に保持されたワーク50を研磨する研磨工程では、相対遠心加速度Fが、「10<F<40」の範囲となり、回転速度比n/Nが、「-0.9<n/N<-0.1」で規定される範囲となるように、自転回転速度n及び公転回転速度Nが設定されている。これにより、ワーク50における中空部52の内周面を遠心バレル研磨する場合に、内周面での表面粗さのばらつきを抑制することができる。
【0049】
研磨工程では、相対遠心加速度Fが、「19<F<40」で規定される範囲となるように、自転回転速度n及び公転回転速度Nが設定されている。これにより、ワーク50に対して中空部52における内周面の表面粗さのばらつきを、研磨材Mの摩耗を抑制しつつ好適に抑制することができる。
【0050】
研磨工程では、回転速度比n/Nが、「-0.7<n/N<-0.5」で規定される範囲となるように、自転回転速度n及び公転回転速度Nが設定されている。これにより、ワーク50に対して中空部52における内周面の表面粗さのばらつきをいっそう抑制することができる。
【0051】
研磨材Mの最大寸法は、ワーク50における中空部の最小内寸法に対して3分の1以下である。これにより、中空部52がワーク50内で直線状に延びていない場合でも、バレルケース23の自転に伴い、研磨材Mを中空部52内に隅々まで行き渡らせ易くすることができ、中空部52における内周面の表面粗さのばらつきを抑制することができる。
【0052】
保持工程では、ワーク50の中空部52に、2[g/cm3]以上のタップ密度の研磨材Mが投入されている。これにより、中空部52の内寸法に合わせて研磨材Mの寸法を小さくした場合でも、研磨力の低下を抑制し、ひいては、中空部52における内周面の表面粗さを小さくすることができる。
【0053】
<他の実施形態>
石にする。
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
上述した実施形態では、研磨材Mは、セラミックの結合剤に砥材を含有させたセラミック研磨石であった。これに代えて、母材である結合材が合成樹脂により構成された研磨材Mを用いてもよい。また、研磨材Mは、砥材が結合剤に含有されたものに限定されず、母材のみのものや、砥材が母材の表面にコーティングされたものであってもよい。それらに加えて、さらに砥材を別体として添加したものであってもよい。
【0054】
上述した実施形態では、研磨装置100は、公転用モータ24及び自転用モータ25それぞれを駆動して、バレルケース23を自転及び公転させた。これに代えて、公転用モータ24のみを駆動させることで、バレルケース23を自転及び公転させてもよい。この場合において、公転用モータ24における出力軸の回転を、伝達機構を介して太陽軸に伝達すればよい。
【符号の説明】
【0055】
100…研磨装置、23…バレルケース、50…ワーク、52…中空部、M…研磨材