(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144899
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】動吸振器を備える建物の床構造
(51)【国際特許分類】
E04B 5/43 20060101AFI20220926BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
E04B5/43 H
E04B5/43 A
E04B1/82 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046096
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】303059990
【氏名又は名称】三昌フォームテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】岩本 毅
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 泰
(72)【発明者】
【氏名】平野 秀和
(72)【発明者】
【氏名】山岸 邦彰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光洋
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DF02
2E001EA03
2E001FA13
2E001GA12
2E001HD01
(57)【要約】
【課題】施工性がよく、かつ性能が低下し難い動吸振器を備える建物の床構造を提供する。
【解決手段】床構造1は、ボイド11を有する床スラブ2と、ボイド11を形成するためのボイド型枠材5と、ボイド型枠材5の内部に形成された型枠内中空部14に配置された動吸振器3とを備える。動吸振器3は、弾性を有する発泡プラスチックからなるばね部材28と、上下振動可能にばね部材29に下方からのみ支持された錘29とを含む。動吸振器3は、ボイド型枠材5の内部に配置されるため、ボイド型枠材5の設置後は、従来と同様の施工手順で床構造1を構築できる。ばね部材29は、下方からのみ錘29が支持するものであって、上方から支持するものでないため、床スラブの厚さの変更による影響が小さく、また、下側のばねの長期的なクリープによって上側のばねの錘との接触不良の問題が生じない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動吸振器を備える建物の床構造であって、
ボイドを有するコンクリート造の床スラブと、
前記ボイドを形成するように前記床スラブ内に埋め込まれ、内部に型枠内中空部を有するボイド型枠材と、
弾性を有する発泡プラスチックを含み、前記ボイド型枠材又は前記床スラブに支持されたばね部材と、
前記ばね部材と協働して前記動吸振器を構成するべく、前記型枠内中空部内に配置されて上下方向に振動可能に前記ばね部材に下方から支持された錘と
を備え、
前記錘を上下方向に振動可能にするために前記錘を直接支持している部材は、1つ又は複数の前記ばね部材のみからなることを特徴とする床構造。
【請求項2】
前記ばね部材は、前記ボイド型枠材とは別体であることを特徴とする請求項1に記載の床構造。
【請求項3】
前記ボイド型枠材は、前記ばね部材とは異なる種類の発泡プラスチックを含み、
前記ばね部材の前記発泡プラスチックは、前記ボイド型枠材の前記発泡プラスチックよりも大きな減衰定数を有することを特徴とする請求項2に記載の床構造。
【請求項4】
前記錘は、上下方向に貫通する穴を有し、
前記ボイド型枠材は、前記型枠内中空部の下面を画定する底壁と、前記型枠内中空部の上面を画定する蓋壁と、前記穴を貫通して前記底壁及び前記蓋壁に連結する支柱部とを含むことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の床構造。
【請求項5】
前記錘の下面には、前記ばね部材の上部を受容する凹部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の床構造。
【請求項6】
平面視で前記穴の中心と前記支柱部の中心とが互いに一致するように前記錘が配置された位置の、前記錘の前記穴を画成する第1内側面と前記支柱部の外面とが対向する方向において、前記錘の前記凹部の側面をなす第2内側面と前記第2内側面に対向する前記ばね部材の側面との離間距離は、0よりも大きく、前記錘の外側面と前記ボイド型枠材の前記型枠内中空部を画成する内側面との離間距離よりも小さく、かつ、前記錘の前記第1内側面と前記支柱部の前記外面との離間距離よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の床構造。
【請求項7】
前記ばね部材の下面は、前記ボイド型枠材に支持され、前記ボイド型枠材の前記ばね部材を支持する部分は、10mm以上の厚さを有することを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、集合住宅やホテル等の建物における、床衝撃音を低減させるための動吸振器(TMD)を備える床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅やホテル等の建物においては、人の歩行等によって上層階の床が衝撃を受けると床が振動し、その振動が音として下層階に伝わる床衝撃音が問題となる。従来、様々な床衝撃音対策が提案されてきた。
【0003】
コンクリート造の床スラブの上に支持脚を介して置き床を設置する二重床では、置き床自体の質量を大きくして床衝撃音を低減する手段が実施されている。また、床スラブ(天井スラブ)の下に天井下地材を介して天井ボードを取り付けた二重天井では、床スラブと天井ボードとの間に粒状体を収容した容器を設置し、粒状体が容器内を移動することにより振動エネルギーを減衰させ、床衝撃音を低減させる発明が提案されている(例えば、特許文献1)。また、鋼管を使用してボイド(中空部)を形成した床スラブおいて、鋼管内に砂を充填した袋を装填し、振動のエネルギーを砂の摩擦熱に変換して床の振動を低減する発明が提案されている(例えば、特許文献2)。また、床に質量体とコイルスプリングとを備える動吸振器を設置する発明が提案されている(例えば、特許文献3)。また、発泡プラスチック製のボイド型枠材を含む床スラブの内部に錘を配置し、ボイド型枠材をばね部材として利用して、錘をボイド型枠材で上下から支持することにより動吸振器とする発明が提案されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-37678号公報
【特許文献2】特開2015-113694号公報
【特許文献3】特開2006-161388号公報
【特許文献4】特開2018-168677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、置き床の質量を大きくする手段は、直張り床には使用できないとともに、材料コストが高いという問題があった。また、床スラブと天井ボードとの間に粒状体を収容した容器を設置する発明は、直天井では使用できないとともに、容器を設置する手間がかかり人件費が増大するという問題があった。また、鋼管により形成されたボイド内に砂を充填した袋を装填する発明も、袋をボイドに装填する手間がかかり人件費が増大するという問題があった。また、特許文献3に記載の動吸振器を設置する発明では、床と床下構造との間に、質量体とコイルスプリングとを備える動吸振器を取り付ける必要があるため、取り付けに手間がかかり人件費が増大するという問題があった。特許文献4に記載のボイド型枠材を利用して動吸振器を設ける発明では、ハーフプレキャストコンクリート板の上のトップコンクリートの厚さ(荷重)を変えた場合には、ばねとして機能するボイド型枠材の圧密度合いが変化し、また、ボイド型枠材の材質の種類によっては長期的なクリープで錘の下側のボイド型枠材が大きく歪み、錘の上側を支持するボイド型枠材と錘との接触度合いが変化する等、動吸振器の固有振動数が変化するおそれがあった。
【0006】
このような背景に鑑み、本発明は、施工性がよく、かつ性能が低下し難い動吸振器を備える建物の床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある実施形態は、動吸振器(3)を備える建物の床構造(1)であって、ボイド(11)を有するコンクリート造の床スラブ(2)と、前記ボイド(2)を形成するように前記床スラブ(2)内に埋め込まれ、内部に型枠内中空部(14)を有するボイド型枠材(5)と、弾性を有する発泡プラスチックを含み、前記ボイド型枠材(5)又は前記床スラブ(2)に支持されたばね部材(28)と、前記ばね部材(28)と協働して前記動吸振器(3)を構成するべく、前記型枠内中空部(14)内に配置されて上下方向に振動可能に前記ばね部材(28)に下方から支持された錘(29)とを備え、前記錘(29)を上下方向に振動可能にするために前記錘(29)を直接支持している部材は、1つ又は複数の前記ばね部材(28)のみからなることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、ボイド型枠材を設置した後の作業は、床衝撃音対策がなされていない床スラブにおけるボイド型枠材を利用する方法と略同様であり、ハーフプレキャスト工法を用いれば施工現場での作業の増加はないため、施工現場における施工性が良好である。また、ばね部材が上下から錘を支持すると、上部のコンクリートの厚さを変えた場合に、ばね部材の圧密度合いが変化し、また、長期的なクリープによって下側のばね部材が歪んで上側のばね部材の錘への接触度合いが変化し、動吸振器の固有振動数が変化するおそれがあるところ、上記構成によれば、ばね部材が錘の下側にのみ配置されるため、動吸振器の固有振動数の変化が抑制され、動吸振器の性能が低下し難い。
【0009】
本発明のある実施形態は、上記構成において、前記ばね部材(28)は、前記ボイド型枠材(5)とは別体であることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、ばね部材がボイド型枠材と別体であるため、ばね部材及びボイド型枠材のそれぞれに好適な素材を選択できる。
【0011】
本発明のある実施形態は、直上に記載の構成において、前記ボイド型枠材(5)は、前記ばね部材(28)とは異なる種類の発泡プラスチックを含み、前記ばね部材(28)の前記発泡プラスチックは、前記ボイド型枠材(5)の前記発泡プラスチックよりも大きな減衰定数を有することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、動吸振器の固有振動数付近で振動を幅広に低減でき、その前後の周波数の振動の増幅も小さくできる。
【0013】
本発明のある実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記錘(29)は、上下方向に貫通する穴(30)を有し、前記ボイド型枠材(5)は、前記型枠内中空部(14)の下面を画成する底壁(15)と、前記型枠内中空部(14)の上面を画成する蓋壁(19)と、前記穴(30)を貫通して前記底壁(15)及び前記蓋壁(19)に連結する支柱部(27)とを含むことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、施工中に作業員が蓋壁を踏んでも蓋壁が支柱部に支持されるため、蓋壁の踏み割れが防止される。
【0015】
本発明のある実施形態は、直上に記載の構成において、前記錘(29)の下面には、前記ばね部材(28)の上部を受容する凹部(31)が設けられていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、ばね部材及び錘を型枠内中空部に配置した状態で運搬しても、ばね部材が凹部の側面に係止することにより、錘のばね部材に対する水平方向の変位が所定の範囲内に制限される。
【0017】
本発明のある実施形態は、直上に記載の構成において、平面視で前記穴(30)の中心と前記支柱部(27)の中心とが互いに一致するように前記錘が配置された位置の、前記錘(29)の前記穴(30)を画成する第1内側面と前記支柱部(27)の外面とが対向する方向において、前記錘(29)の前記凹部(31)の側面をなす第2内側面と前記第2内側面に対向する前記ばね部材(28)の側面との離間距離(a)は、0よりも大きく、前記錘(29)の外側面と前記ボイド型枠材(5)の前記型枠内中空部(14)を画成する内側面との離間距離(b)よりも小さく、かつ、前記錘(29)の前記第1内側面と前記支柱部(27)の前記外面との離間距離(c)よりも小さいことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、運搬時等に錘がばね部材に対して水平方向に変位しても、錘がばね部材に係止されることにより、錘がボイド型枠材の型枠内中空部を画成する内面に接触せず、動吸振器の機能の低下が抑制される。
【0019】
本発明のある実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記ばね部材の下面は、前記ボイド型枠材に支持され、前記ボイド型枠材の前記ばね部材を支持する部分は、10mm以上の厚さを有することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、ボイドを画成する下面に不陸があっても、ボイド型枠材によって不陸によるばね部材への影響が緩和される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、施工性がよく、かつ性能が低下し難い動吸振器を備える建物の床構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】実施形態に係るボイド型枠材及びその内部に含まれる部材の平面図
【
図3】
図2におけるIII-III線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る建物の床構造1について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る床構造1の平面図である。床構造1は、集合住宅やホテル等のように、床衝撃音の低減が要求される建物の床に用いられる。床構造1は、鉄筋コンクリート造の床スラブ2を備え、床スラブ2には、動吸振器3として機能する部材が配置される。床は、二重床でも直張り床でもよく、下層階の天井は、二重天井でも直天井でもよい。
【0025】
床スラブ2は、ハーフプレキャスト工法によって形成され、プレキャストコンクリートからなるハーフPCa板4と、ハーフPCa板4上に配置されたボイド型枠材5の上方に配置されて縦方向(
図1の紙面に直交する方向)及び横方向(
図1の左右方向)に沿って水平に延在するスラブ上端筋6と、ボイド型枠材5及びスラブ上端筋6を埋め込むように打設されたトップコンクリート7とを含む。
【0026】
ハーフPCa板4は、下部コンクリート8と、下部コンクリート8内を縦方向及び横方向に沿って水平に延在するスラブ下端筋9と、トラス筋10とを含む。トラス筋10は、縦方向に沿って水平に延在して横方向に互いに離間するように下部コンクリート8内に埋め込まれた対をなすボトム筋10aと、下部コンクリート8の上方に、かつ対をなすボトム筋10aの離間方向(横方向)の中間位置に配置されてボトム筋10aに平行に延在するトップ筋10bと、2本1組のラチス筋10cとを有する。2本1組のラチス筋10cは、それぞれ、
図1の左右方向から見て波形状をなし、トップ筋10b及び対応するボトム筋10aに波形状の頂点近傍で当接し、その当接する位置は、ボトム筋10aの離間方向(横方向)において互いに整合している。図示する例では、ボトム筋10aはダブルで配筋されているが、シングル配筋であってもよい。
【0027】
ボイド型枠材5は、平面視で矩形をなす平板状の外形を有する。ボイド型枠材5は、床スラブ2内にボイド11を形成するための埋め込み型枠であるため、ボイド型枠材5の下面は、ハーフPCa板4に当接し、ボイド型枠材5の下面以外の外面は、トップコンクリート7におけるボイド11を画成する内面に当接している。ボイド型枠材5は、発泡スチロール等の発泡プラスチックからなることが好ましい。なお、ボイド型枠材5に補強材等の発泡プラスチック以外の素材が含まれていてもよい。ボイド型枠材5は、ハーフPCa板4に載置された下型枠材12と、下型枠材12の上方に配置される上型枠材13とを含み、内部に下型枠材12と上型枠材13とによって画成された型枠内中空部14を有する。なお、図示する例では、1つのボイド型枠材5に対して2つの型枠内中空部14が設けられているが、型枠内中空部14は、1つのボイド型枠材5に対して1つ設けられてもよく、3つ以上設けられてもよい。
【0028】
図2~
図5は、ボイド型枠材5と型枠内中空部14に含まれる部材との平面図、
図2におけるIII-III線に沿った断面図、IV-IV線に沿った断面図及びV-V線に沿った断面図である。
【0029】
下型枠材12は、平面視で矩形をなす概ね平板状の底壁15と、底壁15の外周縁から上方に突出した下側壁16と、底壁15の長辺方向の中央部から上方に突出して短辺方向に延在する下中央壁17と、下側壁16及び下中央壁17で囲まれた空間の中央で底壁15から上方に突出する下支柱18とを含む。上型枠材13は、平面視で下型枠材12と略一致する矩形をなす概ね平板状の蓋壁19と、蓋壁19の外周縁から下方に突出した上側壁20と、蓋壁19の長辺方向の中央部から下方に突出して短辺方向に延在する上中央壁21と、上側壁20及び上中央壁21で囲まれた空間の中央で蓋壁19から下方に突出する上支柱22とを含む。
【0030】
下側壁16の上面には下型枠材12の外縁部に沿って側部突条23が設けられており、上側壁20の下面には上型枠材13の外縁部に沿って側部突条23を嵌合する側部溝24が設けられている。下中央壁17の上面には、下中央壁17と同方向に延在する1対の中央突条25が設けられており、上中央壁21の下面には上中央壁21と同方向に延在して、1対の中央突条25を嵌合する1対の中央溝26が設けられている。側部溝24に側部突条23が嵌合するように上型枠材13を下型枠材12に取り付けることにより、下型枠材12と上型枠材13との互いの接合部が液密となり、硬化前のトップコンクリート7が型枠内中空部14に流入することが防止される。また、さらに中央突条25が中央溝26に嵌合することにより、トップコンクリート7を打設する前の状態において、上型枠材13が下型枠材12に対して安定する。下支柱18の上面と上支柱22の下面とが互いに当接しており、下支柱18及び上支柱22によって、型枠内中空部14内において、底壁15と蓋壁19とを連結する支柱部27が構成される。
【0031】
動吸振器3は、型枠内中空部14の各々に設けられる。1つの型枠内中空部14に設けられる動吸振器3は、下型枠材12に下方から支持された1対のばね部材28と、ボイド型枠材5の内面に当接しないように型枠内中空部14内に配置されて、1対のばね部材28によって上下方向に振動可能に下方から支持された1つの錘29とを備える。
【0032】
1対のばね部材28は、平面視において、支柱部27に対して互いに反対側に配置される。各々のばね部材28は、弾性を有する発泡プラスチックからなる。ばね部材28は、ボイド型枠材5とは別体であって、ボイド型枠材5とは別種の発泡プラスチックからなることが好ましく、ボイド型枠材5を構成する発泡プラスチックよりも大きな減衰定数を有する発泡プラスチックからなることが更に好ましい。例えば、ばね部材28として、減衰定数が7%程度の発泡ポリエチレンを用いてもよい。下型枠材12の上面には、下支柱18に対して互いに反対側に位置する1対の型枠凹部32が設けられており、ばね部材28の下部は型枠凹部32に嵌合している。下型枠材12における型枠凹部32の底面から底壁15の下面までの厚さは、ばね部材28のばね定数を大きく変化させないように、発泡ポリスチレンの発泡最小寸法である10mm程度以上であり、10mm程度であることが好ましい。
【0033】
錘29は、コンクリート板によって構成されることが好ましい。コンクリート板は、鉄筋コンクリート造であっても、無筋コンクリート造であってもよい。なお、錘29は、鋼材等のコンクリート以外の素材から作成してもよく、また、これらの混合材としてもよい。錘29は、平面視において、矩形をなし、中央に上下に貫通する穴30を有する。ボイド型枠材5の支柱部27が、穴30を貫通している。平面視において、穴30及び支柱部27は矩形をなし、その長辺方向が互いに一致している。錘29の下面には、1対のばね部材28の上部を緩く受容する凹部31が設けられている。凹部31は、底面視で矩形をなす。穴30は凹部31の底面(上面)から上方に向かって設けられている。
【0034】
1つのボイド11内に配置される錘29の総重量は、その錘29が収容されるボイド11の負担面積を画定する領域における床スラブ2の重量の2~10%であることが好ましい。ここでボイド11の負担面積を画定する領域とは、平面視で、他のボイド11が隣接する方向には、2つのボイド11を区切る壁の中心線まで、他のボイド11が隣接しない方向には、その方向における床スラブ2の端部までの領域をいう。
【0035】
ばね部材28は、平面視において、錘29の外周縁よりも中心に寄せて配置されることが好ましく、ばね部材28における支柱部27に対向する面が、錘29の穴30を画成する内周面に一致又は近接し、かつ、ばね部材28における支柱部27に対向する面とは反対側の面が、錘29の外周面から内側に向かって離間していることが更に好ましい。
【0036】
弾性を有する発泡プラスチックからなるばね部材28が、弾発的に錘29を支持しているため、所定のばね力をもって下方向から錘29を弾性支持する。そのため、ばね部材28及び錘29は、動吸振器3を構成し、床構造1の振動エネルギーを吸収して床衝撃音を低減する。動吸振器3の固有振動数は、錘29の質量、ばね部材28の形状、錘29とばね部材28との接触面積、発泡プラスチックの発泡倍率等により調整される。人の歩行や跳びはね等によって生じる重量床衝撃音を主として低減するように、固有振動数は、オクターブバンドにおける中心周波数が63Hzの帯域に納まるように調整することが好ましい。
【0037】
錘29の凹部31は、ばね部材28の上部を緩く受容しているため、錘29は、ばね部材28に対して水平方向に変位し得る。平面視で、ばね部材28と錘29との縦横の方向を互いに揃え、かつ、錘29の穴30の中心と支柱部27の中心とが互いに一致するように錘29が配置された位置を錘29の基準位置とする。錘29が基準位置に配置されたとき、横方向(錘29の穴30を画成する内側面と支柱部27の外面とが対向する方向)において、錘29の凹部31を画成する内側面とこの内側面に対向するばね部材28の側面とは互いに第1離間距離aだけ離間し、錘29の外側面とボイド型枠材5における型枠内中空部14を画成する内側面とは互いに第2離間距離bだけ離間し、錘29の穴30を画成する内側面と支柱部27の外面とは互いに第3離間距離cだけ離間している。第1離間距離aは、0より大きく、第2離間距離b及び第3離間距離cよりも小さい。例えば、第1離間距離aを2mm、第2離間距離bを10mm、第3離間距離cを5mmとしてもよい。このため、ばね部材28の上部は凹部31に隙間をもって受容されて、錘29とばね部材28との相対的水平位置をずらす力が働いても、ばね部材28の側面が錘29の凹部31の内側面を係止するため、錘29の側面とボイド型枠材5の内側面とが離間した状態が保たれる。
【0038】
床構造1の施工方法について説明する。プレキャストコンクリートの製造工場において、作業員は、ハーフPCa板4を製造する。下部コンクリート8の打設直後又は硬化前に、下型枠材12をハーフPCa板4の上面に配置する。コンクリートが硬化すると下型枠材12はハーフPCa板4に固定される。下型枠材12は、下部コンクリート8がまだ固まらないうちに釘等を用いてハーフPCa板4に固定されてもよい。作業員は、下部コンクリート8を構成するコンクリートの硬化後に、ばね部材28の下部を型枠凹部32に嵌め込み、錘29の凹部31にばね部材28の上部が受容されるように、錘29をばね部材28に取り付ける。次いで、作業員は、側部突条23及び中央突条25が側部溝24及び中央溝26に嵌るように、上型枠材13を下型枠材12に取り付ける。ボイド型枠材5、ばね部材28及び錘29が取り付けられたハーフPCa板4は、床構造1の施工現場に搬送される。なお、事前にばね部材28を下型枠材12の型枠凹部32にはめ込んでおき、下部コンクリート8の打設直後又は硬化前に、ばね部材28がはめ込まれた下型枠材12をハーフPCa板4の上面に配置し、下部コンクリート8の硬化後に、錘29及び上型枠材13を設置してもよい。下部コンクリート8の硬化前に錘29を設置すると下型枠材12が沈むため、錘29及び上型枠材13の設置は、下部コンクリートの硬化後に行われることが好ましい。
【0039】
次に、ボイド型枠材5、ばね部材28及び錘29が取り付けられたハーフPCa板4は、施工現場の床構造1を製造すべき部分に配置される。ハーフPCa板4は、支保工(図示せず)によって下方から支持され、ハーフプレキャスト構造の梁(図示せず)間に架け渡される。作業員は、横方向に延在させるスラブ上端筋6を、複数のトップ筋10b間を直交するように配筋し、縦方向に延在させるスラブ上端筋6を、横方向に延在させた複数のスラブ上端筋6間に架け渡されるように配筋する。
【0040】
次に、作業員は、トップコンクリート7を打設するための型枠(図示せず)を設置し、梁の上部のコンクリートと一体にトップコンクリート7を打設する。トップコンクリート7の硬化後、作業員は、トップコンクリート7用の型枠及び支保工を解体する。
【0041】
床構造1の作用効果について説明する。床構造1は、動吸振器3を備えるため、錘29が床の振動に共振することにより床衝撃音を抑制できる。
【0042】
施工現場における作業は、床衝撃音対策がなされていない床スラブのハーフプレキャスト工法と略同様であるため、現場における施工性が低下しない。
【0043】
ばね部材28は下方から錘29を支持することにより、長期的なクリープでばね部材28が変形しても、ばね部材28と錘29との接触が維持されるため、長期間使用しても性能が低下し難い。また、床スラブ2の断面仕様を変更しても、錘29を下方から支持するばね部材28の圧密に影響がないため、動吸振器3の構造を変更する必要が生じない。
【0044】
ばね部材28がボイド型枠材5と別体であることにより、ばね部材28及びボイド型枠材5のそれぞれに、ばね及び型枠として好適な素材を用いることができる。型枠として好適な素材は発泡スチロールであるが、1%程度の減衰定数を有する発泡スチロールをばねとして用いた動吸振器では、動吸振器の固有振動数付近の周波数を有する床の振動を大きく低減するものの、その前後の周波数の振動が大きく増幅(反共振)する。このため、オクターブバンドで評価される床衝撃音の低減効果が小さくなる。一方、発泡スチロールよりも大きな減衰定数を有する発泡ポリエチレン(減衰定数:7%程度)等の素材をばね部材28として用いた動吸振器3では、動吸振器3の固有振動数付近で振動を幅広に低減し、その前後の周波数の振動の増幅も小さい。このため、オクターブバンドで評価される床衝撃音の低減効果が大きくなる。
【0045】
錘29は、板状であるため、ロッキングが生じる。動吸振器3のばね部材28を分散して配置すると、動吸振器3の固有振動数とロッキング周波数が近くなり、動吸振器3による床振動音の抑制効果が低減するおそれがある。本実施形態では、ばね部材28を平面視で錘29の中央近傍に配置することによって、ロッキング周波数を下げて動吸振器3の固有周波数から離れた値としたため、床振動音の抑制効果が低減しない。
【0046】
上型枠材13は、側部突条23及び中央突条25が側部溝24及び中央溝26に嵌合することにより下型枠材12に取り付けられるため、打設されるコンクリートの型枠内中空部14への流入が防止できる。
【0047】
スラブ上端筋6の配筋時に、作業員がボイド型枠材5の上に乗ることが想定される。そのため、錘29の穴30を貫通するように支柱部27を設けることにより、ボイド型枠材5の中央で蓋壁19が下方から支持され、蓋壁19の下方への撓みが抑制される。蓋壁19の撓みが抑制されることにより、上型枠材13の踏み割れが防止され、蓋壁19が錘29を押し下げてばね部材28を圧密することによって生じるばね部材28のばね定数の変化を防止できる。
【0048】
ばね部材28の上部が錘29の凹部31に緩く受容されるため、錘29のばね部材28への取り付け時に錘29によってばね部材28を損傷させることが抑制されるとともに、ボイド型枠材5、ばね部材28及び錘29を取り付けたハーフPCa板4を工場から施工現場に輸送する時に、ばね部材28がストッパーとなって錘29の水平方向への変位が制限される。また、基準位置において、第1離間距離aが第2離間距離b及び第3離間距離cよりも小さいため、錘29が基準位置から水平方向にずれたとしても、錘29がボイド型枠材5の内側面に接触せず、錘29の上下振動は阻害されない。
【0049】
ばね部材28の設置位置が製品毎に異なると動吸振器3の性能にバラつきが生じるおそれがあるところ、ばね部材28は型枠凹部32に嵌合されて所定の位置に配置されるため、動吸振器3の性能にバラつきが生じることが抑制される。
【0050】
ハーフPCa板4の上面には不陸が生じるおそれがある。ばね部材28が直接に不陸を有するハーフPCa板4の上面に支持されると、ばね部材28の上面が錘29に密着せず、動吸振器3の性能に影響が生じるおそれがある。そこで、所定の厚さを有する下型枠材12にばね部材28を支持させることにより、下型枠材12の厚みがハーフPCa板4の上面の不陸のばね部材28への影響を緩和する。
【0051】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。床スラブをフルプレキャストコンクリート又は現場打ちコンクリートとしてもよい。錘及びばね部材の形状は、錘が上下方向に振動可能な範囲で変更してもよい。下型枠及び上型枠の上下の側壁及び中央壁において、突条及び溝の配置を上下逆にしてもよい。型枠凹部を貫通穴にしてばね部材が床スラブに直接に支持されてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1:床構造
2:床スラブ
3:動吸振器
4:ハーフPCa板
5:ボイド型枠材
7:トップコンクリート
11:ボイド
12:下型枠材
13:上型枠材
14:型枠内中空部
15:底壁
19:蓋壁
27:支柱部
28:ばね部材
29:錘
30:穴
31:凹部