(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144909
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20220926BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20220926BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20220926BHJP
C22C 1/05 20060101ALI20220926BHJP
B22F 7/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 A
B23B27/14 B
B22F3/24 102A
C22C1/05 H
B22F7/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046109
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】河原 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】市川 龍
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一樹
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF32
3C046FF37
3C046FF39
3C046FF40
3C046FF44
3C046FF48
3C046FF50
3C046FF51
3C046FF52
3C046FF57
4K018AB02
4K018AC01
4K018AD06
4K018BA04
4K018BB04
4K018BC12
4K018CA02
4K018DA29
4K018DA31
4K018FA05
4K018FA06
4K018FA08
4K018FA24
4K018KA15
(57)【要約】
【課題】ステンレス鋼等の難削材の切削加工に供しても十分な耐久性を有する切削工具の提供
【解決手段】Co:5.0~14.0質量%、
Cr
3C
2:0.1~1.4質量%、
TaC、NbC、TiC、ZrCの1種または2種以上:0.1~4.0質量%を含み、
残部は、WCと不可避不純物であって、
表面部より内部のWCの平均粒径が、1.0~4.0μmであり、
表面部のWCの平均粒径が、前記表面部より内部のWCの平均粒径の1.2倍以上であり、
表面の粗さ(Ra)が0.55μm以下である、
ことを特徴とする切削工具
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co:5.0~14.0質量%、
Cr3C2:0.1~1.4質量%、
TaC、NbC、TiC、ZrCの1種または2種以上:0.1~4.0質量%を含み、
残部は、WCと不可避不純物であって、
表面部より内部のWCの平均粒径が、1.0~4.0μmであり、
表面部のWCの平均粒径が、前記表面部より内部のWCの平均粒径の1.2倍以上であり、
表面の粗さ(Ra)が0.55μm以下である、
ことを特徴とする切削工具。
【請求項2】
表層部のCoの含有割合が、前記表層部より内部のCoの含有割合に対して70%以上少ないことを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
切刃を含む表面に被覆層が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金(WC基焼結合金)を用いた切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料の切削加工には、硬度が高く耐摩耗性に優れた切削工具が使用されている。そして、高能率な切削加工が求められるため、切削工具の使用条件は、厳しいものとなっており、切削工具にはより一層の耐久性が求められている。
【0003】
そこで、切削工具の耐久性を高めるべく、種々の提案がなされている。この提案の中には、切削工具表面近傍のWCに関するものがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、10μm以上のWCを表面に有し、表面の粗さ(Ra)が25マイクロインチを超える超硬合金基体に、ダイヤモンド被覆層を設けた切削工具が記載され、該切削工具において、超硬合金基体の表面の粗さがダイヤモンド被覆層との密着性を高めるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記事情や前記提案を鑑みてなされたものであって、ステンレス鋼等の難削材の切削加工に供しても十分な耐久性を有する切削工具を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者は、切削工具の表面粗さを所定の値よりも小さくし、かつ、表面部のWCを粒成長させて、密に組み合わせると、表面部のWCがあたかも石垣のように配置された構造となるため、切削工具の内部の靭性を維持したまま、切削工具の耐塑性変形性、耐溶着性を向上することを知見した。
【0008】
本発明は、この知見に基づくものであって、以下のとおりのものである。
「(1)Co:5.0~14.0質量%、
Cr3C2:0.1~1.4質量%、
TaC、NbC、TiC、ZrCの1種または2種以上:0.1~4.0質量%を含み、
残部は、WCと不可避不純物であって、
表面部より内部のWCの平均粒径が、1.0~4.0μmであり、
表面部のWCの平均粒径が、前記表面部より内部のWCの平均粒径の1.2倍以上であり、
表面の粗さ(Ra)が0.55μm以下である、
ことを特徴とする切削工具。
(2)表層部のCoの含有割合が、前記表層部より内部のCoの含有割合に対して70%以上少ないことを特徴とする前記(1)に記載の切削工具。
(3)切刃を含む表面に被覆層が設けられていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の切削工具。」
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐摩耗性、耐溶着性、および、耐塑性変形性に優れた切削工具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】表面部に配置されたWCおよびγ相粒子の模式図である。
【
図3】切刃の逃げ面塑性変形量の一例を示す模式図である。なお、上図(すくい面)は平面図、下図(逃げ面)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の切削工具の実施形態について、特に、インサートとして用いられた場合を以下に説明する。
なお、本明細書、特許請求の範囲において、数値範囲を「M~N」(M、Nは共に数値)を用いて表現する場合、その範囲は上限(N)および下限(M)の数値を含むものとし、下限と上限の単位は同じである。
【0012】
1.組成
本実施形態の切削工具の組成は、
Co:5.0~14.0質量%、
Cr3C2:0.1~1.4質量%、
TaC、NbC、TiC、ZrCの1種または2種以上:0.1~4.0質量%を含み、
残部は、WCと不可避不純物である。
以下、順に説明する。
【0013】
(1)Co
Coは、結合相の主成分であり、5.0~14.0質量%含まれることが好ましい。その理由は、5.0質量%未満では、硬質相(後述するように、WCとγ相の総称である)が強固に結合されず、強度不足や欠損が生じやすく、一方、14.0質量%を超えると、硬質相が少なくなって切削工具としての強度が不足し、切削工具の耐塑性変形性が低下してしまうためである。Co含有割合は、8.0~11.5質量%であることがより好ましい。
【0014】
結合相中には、硬質相の成分であるWやC、その他の不可避不純物が含まれていてもよい。さらに、結合相は、Cr、Ta、Nb、Ti、Zrの少なくとも1種または2種以上を含んでいてもよい。これら元素が結合相中に存在するときは、結合相に固溶した状態であると推定される。
【0015】
なお、Coの含有割合は、切削工具の任意の表面または断面を、例えば、集束イオンビーム装置(FIB装置)、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)等により鏡面加工し、その加工面をエネルギー分散型X線分光器(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により測定することにより求める。
【0016】
(2)Cr3C2
耐塑性変形性の向上を目的としてCrを含有させることが好ましく、その含有割合は、切削工具の全体に対してCr3C2で換算して0.1~1.4質量%が好ましい。また、その含有量が、Coの含有量に対し10%を超えると、CrとWの複合炭化物として析出し、靭性の低下や、欠損発生の起点となるおそれがあるため、本発明において、Cr3C2(質量%)/Co(質量%)≦0.10の範囲を満たすように含有させることがより好ましい。
【0017】
(3)TaC、NbC、TiC、ZrC
TaC、NbC、TiC、ZrCの1種または2種以上を0.1~4.0質量%含有することが好ましい。すなわち、これらの炭化物はγ相を主に構成する炭化物であり、硬質相を構成する。これら炭化物は、M(Mは、Ta、Nb、Ti、Zrの1種または2種以上)とCが1:1で結合した炭化物として換算した含有割合として、0.1~4.0質量%含有することが好ましい。
【0018】
この含有範囲が好ましい理由は、0.1質量%未満では、切削工具の耐熱性が不十分であり、一方、4.0質量%を超えると、切削工具の耐欠損性が不十分になるためである。
【0019】
なお、実際にγ相を構成する炭化物は、MとCが1:1に結合した炭化物(MC)に限定されず、MとCが任意の比で結合した炭化物であり、Wも部分的に固溶しうる。
【0020】
(4)WC
WCは、残部成分である一方で、硬質相の主成分である。硬質相は、WCとγ相の総称を指す。硬質相には、WC、γ相の他に製造過程で不可避的に混入する不可避的不純物を含んでもよい。
また、WCの含有割合は、WとCが1:1で化合したと仮定して炭化物換算をして求めている。
ここで、主成分とは、硬質相内にWCが50質量%以上含まれていることをいう。
【0021】
(5)不可避不純物
前記のように、硬質相、結合相は製造過程で不可避的に混入する不純物を含んでいてもよく、その量は切削工具全体を100質量%としたとき、外数として0.3質量%以下が好ましい。
【0022】
2.切削工具の組織
図1に示すように、あたかも海(Coを主成分とする結合相)に島(WCを主成分とする硬質相)が点在するように、WCを主成分とする硬質相がCoを主成分とする結合相の中に存在する。そして、表面部では、硬質相が密に組み合わさって、表面部の硬質相があたかも石垣のように配置された構造となっていることが好ましい。以下、詳述する。
【0023】
(1)WC平均粒径
切削工具の内部のWCの平均粒径は、1.0~4.0μmであることが好ましい(切削工具の内部については後述する)。その理由は、1.0μm未満であると、WC同士の滑りが生じて切削工具の耐塑性変形性、耐欠損性、高温クリープ強度が十分ではなく、一方、4.0μmを超えると、十分な耐摩耗性、耐塑性変形性が得られないためである。切削工具内部のWCの平均粒径は、1.6~3.0μmがより好ましい。
【0024】
また、切削工具の逃げ面を含む表面部のWCの平均粒径は、切削工具の内部のWCの平均粒径に比して1.2倍以上大きいことが好ましい。1.2倍以上大きいと、逃げ面を含む表面部においてWCが密に組み合わさって、表面部のWCがあたかも石垣のように配置された構造となるためである。なお、この1.2倍以上の上限は、後述する製造方法の一例によれば、1.8倍程度となる。
【0025】
内部のWCの平均粒径を与える切削工具の内部とは、後述する表面部を超える切削工具の内部の領域であるため、この表面部を画定しないと、内部の領域を決定することはできない。しかし、表面部の画定に当たり、内部のWCの平均粒径を与える必要があるため、以下のようにして、内部のWCの平均粒径を与える領域を決める。そこで、切削工具表面の微小な凹凸を無視し、切削工具の表面が平らな面と扱って、この表面から1mm以上の切削工具の内部の領域において、以下のように測定したものを内部のWC平均粒径とみなす。
【0026】
すなわち、切削工具の任意の表面または断面を鏡面加工し、その加工面(表面から1mm以上の切削工具の内部の領域)を後方散乱電子回折(EBSD)で観察し、画像解析によって、少なくとも4000個の各WCの面積を求め、その面積に等しい円の直径を算出するとともに、その直径を有するWCが占める面積割合を算出し、各WCの直径と面積割合を乗算した値の総和として求めるものである。なお、鏡面加工は、前述の方法による。
【0027】
ここで、表面部のWCの平均粒径を測定する方法(手順は次の1)~8))について、
図2を用いて説明する。
【0028】
1)表面部を観察する観察面は、切削工具の表面の微小な凹凸を無視し、その表面を平滑として扱ったこの表面に垂直な断面を選定する。ここで、この表面は、逃げ面が好ましいが、逃げ面に限定されることはない。
【0029】
2)この断面を500~2000倍で観察する観察視野は、前記表面と平行な方向(横方向)に70μmの長さを有する長方形とする。
【0030】
3)観察視野の両端が、微小な凹凸と交差する点同士を結んだ線分Z(3)を引く。この線分の長さは、70μmである。
【0031】
4)この線分Z(3)を切削工具の内部へ平行移動させて、前述の微小な凹凸の中で最も切削工具の内部にある点(最凹部(4))を横切る線分を引き、この線分を基準線(5)と定義する。
この基準線(5)は、最凹部以外で、前述の微小な凹凸と交差してはならず、交差するときは、観察視野の位置を変更して線分Z(3)を引き直す。
【0032】
5)基準線(5)を切削工具の内部へ向かって(内部のWCの平均粒径×2.5)μm平行移動させた線分Y(6)を引く。
【0033】
6)基準線(5)を切削工具の表面へ向かって、前述の微小な凹凸の最も工具表面側にある点(最凸部(7))を横切るように平行移動させた線分X(8)を引く。
【0034】
7)互いに平行な線分X(8)と線分Y(6)を長辺とし、観察視野の両端を短辺とする長方形領域(9)を表面部と定義する。なお、短辺の長さは、5-10μm程度である。
【0035】
8)この表面部におけるWCの平均粒径の測定を、前述した内部のWCの平均粒径の測定の際と同様に、EBSDを用いて行う。この表面部は、2箇所以上で、WC数の合計が300個以上となるように設定(例えば、3箇所)し、それぞれにおけるWCの平均粒径を平均して、表面部のWC平均粒径と扱う。
【0036】
(2)結合相
切削工具の表層部のCoの含有割合が、切削工具の内部のCoの含有割合に比して所定の割合であることが好ましい。すなわち、
(切削工具内部のCoの含有割合-切削工具の表層部のCoの含有割合)/(切削工具内部のCoの含有割合)×100
が70%以上であることが好ましい。
【0037】
70%以上であると、より確実に切削工具の耐塑性変形性が向上する。この70%の上限は、後述する製造法の一例では95%程度が上限になる。
【0038】
ここで、Coの含有割合を測定する表層部と内部領域について(手順は次の1)~9))
図2を用いて説明する。
【0039】
1)表層部を観察する観察面は、切削工具の表面の微小な凹凸を無視し、その表面を平滑として扱ったこの表面に垂直な断面を選定する。ここで、この表面は、逃げ面が好ましいが、逃げ面に限定されることはない。
【0040】
2)この断面を500~2000倍で観察する観察視野は、前記表面と平行な方向(横方向)に70μmの長さを有する長方形とする。
【0041】
3)観察視野の両端が、微小な凹凸と交差する点同士を結んだ線分Z(3)を引く。この線分の長さは、70μmである。
【0042】
4)この線分Z(3)を切削工具の内部へ平行移動させて、前述の微小な凹凸の中で最も切削工具の内部にある点(最凹部(4))を横切る線分を引き、この線分を基準線(5)と定義する。
この基準線(5)は、最凹部以外で、前述の微小な凹凸と交差してはならず、交差するときは、観察視野の位置を変更して線分Z(3)を引き直す。
【0043】
5)基準線(5)を切削工具の内部へ向かって3μm平行移動させた線分Y(6)を引く。
【0044】
6)基準線(5)を切削工具の表面へ向かって、前述の微小な凹凸の最も工具表面側にある点(最凸部(7))を横切るように平行移動させた線分X(8)を引く。
【0045】
7)互いに平行な線分X(8)と線分Y(6)を長辺とし、観察視野の両端を短辺とする長方形領域(9)を表層部と定義する。なお、短辺の長さは、5~8μm程度である。
【0046】
8)この表層部におけるCoの含有量の測定を、EDSを備えた走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて行う。この表層部は、2箇所を設定し、それぞれにおけるCoの含有量を平均して、表層部のCo含有量と扱う。
【0047】
9)内部領域は、基準線(5)から切削工具の内部へ200μm以上入り込んだ領域をいい、内部領域のCo含有量は、測定領域の大きさを20μm(縦)×70μm(横)
として2箇所選定して、それぞれ、表層部のCoを測定したときと同様の手段により測定し、平均したものである。
【0048】
ここで、前述の切削工具の表層のCo量の測定を行う面は、表面部のWC平均粒径を測定した断面で行ってもよい。
【0049】
3.表面粗さ
切削工具の表面粗さRaは、0.55μm以下であることが好ましい。その理由は、Raが0.55μmを超えると、切削中の被削材の溶着が多くなり、チッピングの原因となるためである。
【0050】
表面粗さは、市販のレーザー顕微鏡により、500倍の観察視野で3視野のRaの値を測定し、その平均として算出する。
【0051】
4.被覆層
切削工具の切刃を被覆するために、被覆層として、Tiの炭化物または窒化物、TiとAlの複合炭窒化物等の公知の組成のものを1層または2層以上、公知の方法(例えば、CVD法)で形成してもよい。
また、被覆層は、切刃のみではなく、切削工具の全体にわたって被覆されていてもよい。
【実施例0052】
本発明の切削工具について、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
以下の手順により、実施例と比較例の切削工具を作製した。
【0054】
1.原料粉末と配合
焼結用の粉末として、表1に示す平均粒径(d50)が0.5~8.0μmのWC粉末、および、平均粒径(d50)が、いずれも、1.0~3.0μmの範囲内のCo粉末、TaC粉末、NbC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、Cr3C2粉末を用意した。
【0055】
2.成形体の作成
これらの粉末を、表1に示す配合組成となるように配合して、焼結用粉末を作製し、ボールミルで8時間混合し、スプレードライヤーにより乾燥した後、200MPaの圧力で、ANSI呼び記号CNMG432MAの形状を得るべくプレス成形して圧粉成形体を作製した。
【0056】
3.焼結
圧粉成形体を、H2雰囲気下で、1350~1400℃で、60~90分間焼結を行い、500℃以下に到達するまで、50℃/min以上での急冷処理を行った(詳細は、表2を参照)。
【0057】
4.ブラスト処理
以下の条件でブラスト処理を行った(詳細は、表2を参照)。
ブラスト処理液:WCを含んだ水
ブラストメディアのサイズ:6~12μm(一次粒子径)
ブラストメディア濃度:15~60質量%
ブラスト圧力:0.10~0.30MPa
投射時間:15~180秒
投射角度:工具表面の法線に対して35~55度
【0058】
5.熱処理
0.1Pa以下の真空雰囲気で、1200~1280℃で、30~120分間保持し、終了後500℃以下に到達するまで、50℃/min以上での急冷処理を行った(詳細は、表2を参照)。
【0059】
6.後処理
次に、機械加工、研削加工を行い、CNMG432MAの形状に整え、表3に示す切削工具1~10(以下、実施例1~10という)を作製した。
【0060】
比較のために、表4に示す比較例の切削工具1’~7’(以下、比較例1’~7’という)を製造した。
その製造工程は、実施例の1~10の製造工程において、冷却時に急冷処理を行わなかったもの、ブラスト処理及び熱処理を行わなかったもの、あるいは、ブラスト処理後に熱処理を行わなかった、または、製造条件を外れた熱処理工程を行ったものである。
【0061】
実施例1~10および比較例1’~7’の切削工具の断面について、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)により、各元素の含有量を10点で測定し、その平均値を各成分の含有量とした。表3、表4に、それぞれの平均含有量を示す。なお、不可避不純物の含有割合は、前述の0.3質量%以下であることを確認した。
【0062】
次に、実施例1~10および比較例1’~7’の断面について、前述した方法により、表面部およびその内部のWC平均粒径、表層部およびその内部のCo含有割合を測定し、表3、表4に、それぞれ示した。
【0063】
そして、実施例1~10および比較例1’~7’の切刃を含む表面に、表5に示す平均層厚の被覆層をCVD法で被覆形成した。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
次に、被覆層を有する切削工具については、以下に示す切削試験1を実施し、切刃の逃げ面塑性変形量を測定するとともに、切刃の損耗状態を観察した。結果を表6に示す。
【0070】
切削試験1
被削材:JIS・SUS304(HB170)の丸棒
切削速度:165m/min
切り込み:1.7mm
送り:0.6mm/rev
切削時間:4分
(湿式水溶性切削油使用)
【0071】
また、被覆層を有していない実施例1~4、比較例1’~4’に対して、切削試験2を実施し、切れ刃の逃げ面塑性変形量を測定するとともに、切れ刃の損耗状態を観察した。
表7に切削試験2の結果を示す。
【0072】
切削試験2
被削材:JIS・SUS304(HB170)の丸棒
切削速度:120m/min
切り込み:2.2mm
送り:0.6mm/rev
切削時間:5分
(湿式水溶性切削油使用)
【0073】
切削試験1および2では、切刃の逃げ面塑性変形量として次のものを採用した。すなわち、切削前の変形していない切刃稜線を基準とし、切削によって切刃稜線が押し込まれて変形した量を切刃の逃げ面塑性変形量とした。具体的には、
図3に示すように、工具の主切刃側逃げ面(11)について、切刃(12)から十分離れた位置で主切刃側逃げ面(11)とすくい面(10)が交差する稜線上に線分を引き、同線分を切刃部方向に延伸し、延伸した線分(14)と切刃部稜線間の距離(延伸した線分の垂直方向)が最も離れている部分を測定し、これを切刃の逃げ面塑性変形量(13)とした。
【0074】
切削時間が1分経過する毎に測定するとともに、切刃の損耗状態を観察し、逃げ面塑性変形量が0.04mm以上であった時、刃先損耗状態を刃先塑性変形とした。
【0075】
【0076】
【0077】
表6、表7に示すように、実施例は、いずれも、寿命に影響を及ぼす逃げ面塑性変形量が少なく、偏摩耗や欠損を発生することなく、優れた耐塑性変形性を発揮した。これに対して、比較例は、いずれも、所定の切削時間において工具の塑性変形が大きく、所定の被削材寸法を得る加工を行うことが困難であった。