(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014497
(43)【公開日】2022-01-20
(54)【発明の名称】地絡保護継電システムおよび地絡保護継電装置の整定値設定方法
(51)【国際特許分類】
H02H 3/02 20060101AFI20220113BHJP
H02H 3/34 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
H02H3/02 E
H02H3/34 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116810
(22)【出願日】2020-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】奥田 泰弘
【テーマコード(参考)】
5G058
5G142
【Fターム(参考)】
5G058BB02
5G058BC12
5G058BD10
5G058BD14
5G142BC02
5G142BD05
5G142GG08
(57)【要約】
【課題】適正に整定値を設定可能な地絡保護継電システムを提供する。
【解決手段】整定値以上の地絡電圧を検出すると配電線L1、L2、L3を遮断させる地絡保護継電装置2、3と、所定周期で配電系統の対地静電容量を測定して母線地絡特性を取得する特性取得手段と、特性取得手段で取得された母線地絡特性に基づいて割り出した地絡電圧閾値が、整定値と所定時間継続して異なる場合に、地絡電圧閾値を整定値として地絡保護継電装置2、3に整定する整定値整定手段と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
整定値以上の地絡電圧を検出すると配電線を遮断させる地絡保護継電装置と、
所定周期で配電系統の対地静電容量を測定して母線地絡特性を取得する特性取得手段と、
前記特性取得手段で取得された母線地絡特性に基づいて割り出した地絡電圧閾値が、前記整定値と所定時間継続して異なる場合に、前記地絡電圧閾値を前記整定値として前記地絡保護継電装置に整定する整定値整定手段と、
を備えることを特徴とする地絡保護継電システム。
【請求項2】
前記整定値整定手段は、前記割り出された地絡電圧閾値が前記整定値と所定期間継続して変化しない場合に、警報を発する、
ことを特徴とする請求項1に記載の地絡保護継電システム。
【請求項3】
整定値以上の地絡電圧を検出すると配電線を遮断させる地絡保護継電装置と、
所定周期で配電系統の対地静電容量を測定して母線地絡特性を取得する特性取得手段と、
前記特性取得手段で取得された母線地絡特性に基づいて割り出した地絡電圧閾値が前記整定値と異なり、その差が所定範囲内の場合に前記地絡電圧閾値を前記整定値として前記地絡保護継電装置に整定する整定値整定手段と、
を備えることを特徴とする地絡保護継電システム。
【請求項4】
前記整定値整定手段は、前記地絡電圧閾値と前記整定値との差が所定差よりも大きい場合に、警報を発する、
ことを特徴とする請求項3に記載の地絡保護継電システム。
【請求項5】
前記整定値整定手段は、地絡抵抗値が所定の抵抗値内に収まるように前記地絡電圧閾値を割り出す、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の地絡保護継電システム。
【請求項6】
前記特性取得手段は、隣接する母線系統の母線地絡特性を取得し、前記隣接する母線系統との連系時の母線地絡特性を取得する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の地絡保護継電システム。
【請求項7】
所定周期で配電系統の対地静電容量を測定して母線地絡特性を取得する特性取得ステップと、
前記特性取得ステップで取得された母線地絡特性に基づいて割り出した地絡電圧閾値が、前記整定値と所定時間継続して異なる場合に、前記地絡電圧閾値を前記整定値として地絡保護継電装置に整定する整定値整定ステップと、
を備えることを特徴とする地絡保護継電装置の整定値設定方法。
【請求項8】
所定周期で配電系統の対地静電容量を測定して母線地絡特性を取得する特性取得ステップと、
前記特性取得ステップで取得された母線地絡特性に基づいて割り出した地絡電圧閾値が前記整定値と異なり、その差が所定範囲内の場合に前記地絡電圧閾値を前記整定値として地絡保護継電装置に整定する整定値整定ステップと、
を備えることを特徴とする地絡保護継電装置の整定値設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母線系統において発生する地絡を検出して配電線を保護する地絡保護継電システムおよび地絡保護継電装置の整定値設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配電線に地絡事故が生じた場合、配電線地絡電流(以下、適宜「地絡電流」という)および配電用変電所母線地絡電圧(以下、適宜「地絡電圧」という)が予め設定された閾値・整定値を超過した時に、電気所にある地絡保護継電装置が動作し、遮断器に遮断信号を伝送し配電線を停電させている。このような地絡保護継電装置として、主として使用する地絡方向継電装置と、バックアップとして使用する地絡順序遮断継電装置とが配設されている。地絡方向継電装置は、1配電線あたり1台配設され、地絡電流値と地絡電圧値で事故判定して該当する配電線のみを遮断する。また、地絡順序遮断継電装置は、1配電用変圧器あたり1台配設され、地絡電圧値のみで事故判定して電気所から引出される全配電線および配電用変圧器を順次遮断する。
【0003】
一方、地絡電圧の閾値は、平常時の配電系統で測定された母線地絡特性に基づいて設定されているが、停電作業や転負荷などにより配電系統は頻繁に変更されるため、これに伴い母線地絡特性も変化する。すなわち、母線地絡特性は、配電線の対地静電容量の変化(ケーブル系統の増減、亘長変化)や3相平衡度の変化などによって影響を受ける。このため、系統変更状況によっては、系統変更しただけで地絡電圧が閾値値を超過し、電圧条件のみで動作する地絡順序遮断継電装置によって配電線等が不要に遮断されたり、実際の事故時に地絡電圧が閾値を超過しないために、配電線等が遮断されずに適正な保護が行われなかったりする、という問題が生じ得る。
【0004】
このような問題を解決するため、母線系統における母線特性の変化に応じて簡易に整定値を算出することができる、という地絡過電圧継電器の整定値算出装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この装置は、母線系統の電源電圧と、母線系統の角周波数と、母線系統が有する静電容量と、母線地絡時における複数の配電系統のそれぞれに流れる零相電流とからなる係数を含むパラメータに基づいて、地絡過電圧継電器の整定値を算出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、母線系統の地絡抵抗値と母線地絡時の地絡電圧・零相電圧との関係を示す母線地絡特性は、青相、白相、赤相で異なる特性となる。このため、対地静電容量などに基づいて算出した地絡電圧閾値が変わるたびに整定値を変更すると、地絡保護継電装置が頻繁に動作したり、必要なときに適正に動作しなかったりするおそれがある。また、頻繁に整定値を変更可能な高機能な地絡保護継電装置を要し、コストが嵩むおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、適正に整定値を設定可能な地絡保護継電システムおよび地絡保護継電装置の整定値設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、整定値以上の地絡電圧を検出すると配電線を遮断させる地絡保護継電装置と、所定周期で配電系統の対地静電容量を測定して母線地絡特性を取得する特性取得手段と、前記特性取得手段で取得された母線地絡特性に基づいて割り出した地絡電圧閾値が、前記整定値と所定時間継続して異なる場合に、前記地絡電圧閾値を前記整定値として前記地絡保護継電装置に整定する整定値整定手段と、を備えることを特徴とする地絡保護継電システムである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の地絡保護継電システムにおいて、前記整定値整定手段は、前記割り出された地絡電圧閾値が前記整定値と所定期間継続して変化しない場合に、警報を発する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、整定値以上の地絡電圧を検出すると配電線を遮断させる地絡保護継電装置と、所定周期で配電系統の対地静電容量を測定して母線地絡特性を取得する特性取得手段と、前記特性取得手段で取得された母線地絡特性に基づいて割り出した地絡電圧閾値が前記整定値と異なり、その差が所定範囲内の場合に前記地絡電圧閾値を前記整定値として前記地絡保護継電装置に整定する整定値整定手段と、を備えることを特徴とする地絡保護継電システムである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3に記載の地絡保護継電システムにおいて、前記整定値整定手段は、前記地絡電圧閾値と前記整定値との差が所定差よりも大きい場合に、警報を発する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1~4に記載の地絡保護継電システムにおいて、前記整定値整定手段は、地絡抵抗値が所定の抵抗値内に収まるように前記地絡電圧閾値を割り出す、ことを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1~5に記載の地絡保護継電システムにおいて、前記特性取得手段は、隣接する母線系統の母線地絡特性を取得し、前記隣接する母線系統との連系時の母線地絡特性を取得する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明は、所定周期で配電系統の対地静電容量を測定して母線地絡特性を取得する特性取得ステップと、前記特性取得ステップで取得された母線地絡特性に基づいて割り出した地絡電圧閾値が、前記整定値と所定時間継続して異なる場合に、前記地絡電圧閾値を前記整定値として地絡保護継電装置に整定する整定値整定ステップと、を備えることを特徴とする地絡保護継電装置の整定値設定方法である。
【0015】
請求項8の発明は、所定周期で配電系統の対地静電容量を測定して母線地絡特性を取得する特性取得ステップと、前記特性取得ステップで取得された母線地絡特性に基づいて割り出した地絡電圧閾値が前記整定値と異なり、その差が所定範囲内の場合に前記地絡電圧閾値を前記整定値として地絡保護継電装置に整定する整定値整定ステップと、を備えることを特徴とする地絡保護継電装置の整定値設定方法である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1および請求項7に記載の発明によれば、周期的に母線地絡特性を取得して地絡電圧閾値を割り出し、この地絡電圧閾値に基づいて整定値を整定するため、停電作業や転負荷などにより配電系統が変更されても、変更された配電系統に適合した適正な整定値を整定することが可能となる。しかも、母線地絡特性から割り出した地絡電圧閾値が既設の整定値と所定時間継続して異なる場合にのみ、この地絡電圧閾値が整定値として整定されるため、適正に整定値を設定することが可能となる。すなわち、割り出した地絡電圧閾値が既設の整定値と異なるたびに整定値を変更すると、地絡保護継電装置が頻繁に動作したり、必要なときに適正に動作しなかったりするおそれがあるが、所定時間継続して異なる場合にのみ整定値を変更することで、このような不具合を防止して適正なタイミングで整定値を設定することが可能となる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、割り出された地絡電圧閾値が既設の整定値と所定期間継続して変化しない場合に、警報が発せられるため、システム上の不具合を早期に検知、抑制することが可能となる。すなわち、通常の配電系統では、停電作業や転負荷などが日常的に行われて母線地絡特性が変化するため、地絡電圧閾値が既設の整定値と所定期間継続して変化しない場合には、システム上の不具合がある可能性がある。このため、警報を発することで、システム上の不具合を早期に検知、抑制することが可能となる。一方、所定期間継続しない場合には警報が発せられないため、配電系統の変更が限定的で母線地絡特性の変化も限定的な場合には、不要な警報を抑止することできる。
【0018】
請求項3および請求項8に記載の発明によれば、周期的に母線地絡特性を取得して地絡電圧閾値を割り出し、この地絡電圧閾値に基づいて整定値を整定するため、停電作業や転負荷などにより配電系統が変更されても、変更された配電系統に適合した適正な整定値を整定することが可能となる。しかも、母線地絡特性から割り出した地絡電圧閾値と既設の整定値との差が所定範囲内の場合にのみ、この地絡電圧閾値が整定値として整定されるため、適正に整定値を設定することが可能となる。すなわち、割り出した地絡電圧閾値が既設の整定値と僅かでも異なるたびに整定値を変更すると、地絡保護継電装置が頻繁に動作したり、必要なときに適正に動作しなかったりするおそれがあるが、所定範囲の差だけ異なる場合にのみ整定値を変更することで、このような不具合を防止して適正なタイミングで整定値を設定することが可能となる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、割り出された地絡電圧閾値と既設の整定値との差が所定差よりも大きい場合に、警報が発せられるため、システム上の不具合を早期に検知、抑制することが可能となる。すなわち、通常の配電系統では、停電作業や転負荷などが行われて母線地絡特性が変化しても、過度に変化することは少なく、既設の整定値と大きな差がある場合には、システム上の不具合がある可能性がある。このため、警報を発することで、システム上の不具合を早期に検知、抑制することが可能となる。また、配電系統の変更が大きく母線地絡特性の変化も大きい場合、つまり、所定差よりも著しく大きい場合には、警報を発しないことで、配電系統の変更が大きい場合における不要な警報を抑止することできる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、地絡抵抗値が所定の抵抗値内に収まるように地絡電圧閾値が割り出されるため、適正な整定値を整定することが可能となる。すなわち、地絡抵抗値が配電系統に応じた所定・所望の抵抗値内に収まるように、地絡電圧閾値つまり整定値を割り出すことで、地絡保護継電装置を配電系統に応じて適正に動作させることが可能となる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、隣接する母線系統の母線地絡特性を取得し、隣接する母線系統との連系時の母線地絡特性を取得する。このため、予め隣接する母線系統との連系を加味した整定値に設定することで、不要な整定値変更を省けるとともに、事故等による急な連系にも迅速に対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の実施の形態に係る地絡保護継電システムを示す概略構成図である。
【
図2】
図1の地絡保護継電システムの整定装置を示す概略構成ブロック図である。
【
図3】
図1の地絡保護継電システムにおける母線地絡特性例を示す図である。
【
図4】
図2の整定装置による対地静電容量の測定原理を説明するための第1の図である。
【
図5】
図2の整定装置による対地静電容量の測定原理を説明するための第2の図である。
【
図6】
図2の整定装置の整定部の整定プロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0024】
図1~
図6は、この発明の実施の形態を示し、
図1は、この実施の形態に係る地絡保護継電システム1を示す概略構成図である。この地絡保護継電システム1は、母線系統100において発生する地絡を検出して配電線101、102、103を保護するためのシステムであり、主として、地絡方向継電器(地絡保護継電装置)2と地絡順序遮断継電器(地絡保護継電装置)3と整定装置4を備える。
【0025】
ここで、母線系統100には、遮断器CBを介して複数の配電線101、102、103が接続され、さらに、遮断器CBを介して配電用変圧器104が接続されている。また、この実施の形態では、同じ電気所内の隣接する母線系統100が連系器105を介して連系可能で、平常時は連系器105が「切」状態で隣接する母線系統100が切り離されている。
【0026】
地絡方向継電器2は、各配電線101、102、103に配設され、整定値以上の地絡電圧および地絡電流を検出すると該当する配電線101、102、103を遮断する。すなわち、各配電線101、102、103には、それぞれの零相電流を検出するための零相変流器(図示せず)が配設され、母線系統100には、電源電圧と零相電圧を検出する接地用変圧器GPTが接続されている。そして、地絡方向継電器2は、零相変流器で検出された零相電流と接地用変圧器GPTで検出された零相電圧に基づいて、事故判定して該当する配電線101、102、103を遮断する。
【0027】
地絡順序遮断継電器3は、配電用変圧器104ごとに配設され、接地用変圧器GPTで検出された零相電圧のみで事故判定する。つまり、整定値以上の零相電圧・地絡電圧を検出すると、電気所から引出される全配電線101、102、103および配電用変圧器104を順次遮断する。
【0028】
整定装置4は、母線系統100つまり接地用変圧器GPTごとに配設され、地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3と通信自在に接続され、さらに、隣接する母線系統100の整定装置4と通信自在に接続されている。この整定装置4は、
図2に示すように、主として、通信部41と、記憶部42と、ωC測定部(特性取得手段)43と、整定部(整定値整定手段)44と、これらを制御などする中央処理部45と、を備える。
【0029】
通信部41は、地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3などと通信するためのインターフェイスである。ここで、同じ電気所内の隣接する母線系統100の整定装置4同士で、通信部41によって整定値を共有・連系しており、これにより、後述する整定部44において、隣接する母線系統100との連系時に母線地絡特性が変化した際にも適正な整定値の設定が可能となる。
【0030】
記憶部42は、各種情報、データを記憶するメモリであり、例えば、
図3に示すように、母線系統100の地絡抵抗値と母線地絡時の地絡電圧・零相電圧との関係を示す三相の母線地絡特性や、地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3に整定されている現在の整定値(既設整定値)、ωC測定部43で取得された母線地絡特性などを記憶する。
【0031】
ωC測定部43は、配電系統の対地静電容量ωCを測定して母線地絡特性を取得する測定器であり、
図4に示すように、測定用抵抗R2および切替スイッチSWをGPT三次制限抵抗R1と並列に接続して測定を行う。このωC測定部43は、既存の対地静電容量測定装置と同等の構成のため、詳細については省略するが、概略次のような測定原理で測定する。
【0032】
まず、
図4に示すように、測定用抵抗R2および切替スイッチSWをGPT三次制限抵抗R1と並列に接続した零相等価回路において、切替スイッチSWの接続前の合成アドミッタンス(以下、「接続前アドミッタンスY」という)は、次式で表される。
【0033】
Y=jωC+1/R
一方、切替スイッチSWの接続後の合成アドミッタンス(以下、「接続後アドミッタンスY´」という)は、次式で表される。
【0034】
Y´=jωC+1/R´
ここで、接続前並列抵抗Rは、切替スイッチSWの接続前のGPT三次制限抵抗R1と測定用抵抗R2との並列抵抗(つまりR1)であり、接続後並列抵抗R´は、切替スイッチSWの接続後のGPT三次制限抵抗R1と測定用抵抗R2との並列抵抗である。
【0035】
次に、
図5に示すような接続前アドミッタンスY、接続後アドミッタンスYおよびアドミッタンスの位相変化量αとの関係から、次の式が成り立つ。
【0036】
tanθ=ωC・R
tanθ´=ωC・R´
この2式から、
tanα´=tan(θ-θ´)
=ωC(R-R´)/(1+(ωC)2RR´)
これをωCについて解くと、次式のようになる。
【0037】
ωC=(R-R´±√((R-R´)-4RR´tan2α))/2RR´tan2α
そして、アドミッタンスの位相変化量αは、接続前および接続後の残留電圧の位相差として計測されるため、この位相変化量αを測定することで、三相一括の対地静電容量ωCを算出、取得する。さらに、この対地静電容量ωCに基づいて、母線系統100の母線地絡特性を描画、作成する。このようなωC測定部43は、所定周期で起動されて、周期的・定期的に母線地絡特性を取得する。さらに、隣接する母線系統100の整定装置4から母線地絡特性を取得し、隣接する母線系統100との連系時の(連系により合成される)母線地絡特性を取得・算出する。
【0038】
整定部44は、ωC測定部43で母線地絡特性が取得されるたびに起動されるタスク・プログラムであり、取得された母線地絡特性に基づいて割り出した新整定値(地絡電圧閾値)が、既設整定値と所定時間継続して異なる場合に、この新整定値を地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3に整定する。さらに、この実施の形態では、取得された母線地絡特性に基づいて割り出した新整定値が既設整定値と異なり、その差が所定範囲内の場合に、この新整定値を地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3に整定する。つまり、取得された母線地絡特性に基づいて割り出した新整定値が既設整定値と異なり、その差が所定範囲でかつ所定時間継続する場合に、この新整定値を新たな整定値として整定する。このように、変化幅および時間幅の双方において不感帯(整定値を変えないクリアランス)が設けている。
【0039】
具体的には、
図5に示すように、まず、記憶部42から最新の母線地絡特性を取得し(ステップS1)、この母線地絡特性に基づいて新整定値を割り出す(ステップS2)。すなわち、
図3に示すように、最新の母線地絡特性Lに基づいて適正な整定値を新整定値として割り出すものであり、基本的には、所定・所望の地絡抵抗値に対応する地絡電圧閾値を最新の母線地絡特性Lから読み取って、新整定値として割り出す。例えば、
図3に示す最新の母線地絡特性Lにおいて、所定の地絡抵抗値が6kVの場合、地絡電圧値V1を新整定値として割り出す。
【0040】
この際、地絡抵抗値が所定の抵抗値内に収まるように地絡電圧閾値つまり新整定値を割り出す。すなわち、最新の三相一括の母線地絡特性Lと平常時に測定された三相の母線地絡特性を考慮し、すべての相において地絡抵抗値が所定の抵抗値内に収まり、適正な整定値が整定されるように新整定値を割り出す。
【0041】
例えば、
図3に示すように、青相の感度が最も高く、次に白相の感度が高く、赤相の感度が最も低い場合に、感度が最も低い赤相を基準目標の地絡抵抗値(例えば、6kΩ)として、すべての相の地絡抵抗値が所定の抵抗値内(例えば、6~8kΩ)に収まるように、新整定値を割り出す。そして、すべての相の地絡抵抗値が所定の抵抗値内に収まらない場合には、赤相の地絡抵抗値を小さくして、すべての相が所定の抵抗値内に収まるようにする。具体的には、
図3に示す母線地絡特性の場合、最新の母線地絡特性Lにおいては、基準目標の6kΩに対応する地絡電圧値がV1であり、感度が最も高い青相の母線地絡特性においてこの地絡電圧閾値V1に対応する地絡抵抗値が8kΩを超える。このため、基準目標の地絡抵抗値を6kΩよりも小さい5kΩに設定する。これにより、最新の母線地絡特性Lにおいては、この5kΩに対応する地絡電圧値がV2となり、青相の母線地絡特性においてもこの地絡電圧閾値V2に対応する地絡抵抗値が8kΩ以下となる。このようにして、地絡電圧値V2を新整定値として割り出す。
【0042】
この他の規定により、適正な整定値が整定されるように新整定値を割り出してもよい。例えば、無負荷残留電圧(全配電線101、102、103が「切」状態でかつ配電用変圧器104が充電された状態で、母線系統100に生じる微小な地絡電圧)で地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3が動作しない範囲で高感度になるようにする。この際、無負荷残留電圧の変動による動作などを考慮し、新整定値を無負荷残留電圧の2~3倍にする。あるいは、連系器105が「入」となって、同じ電気所内の隣接する母線系統100との連系によって母線地絡特性が変化した場合であっても、保護可能な新整定値を割り出す。
【0043】
次に、このようにして割り出した新整定値と既設整定値との差異が、所定範囲内であるか否かを判定する(ステップS3)。ここで、新整定値と既設整定値との差異は、この実施の形態では、次式で算出する。
【0044】
差異=|(新整定値-既設整定値)÷既設整定値|
また、所定範囲の下限は、小さな母線地絡特性の変化であって系統保護に影響を与えず、不要な整定値の変更を防止可能な値に設定され、上限は、通常では想定できない大きな差異であり、システム上の不具合等と考えられる値に設定されている。例えば、所定範囲は、10~50%に設定されている。
【0045】
そして、差異が所定範囲内で(ステップS3が「Y」で)、かつ、差異が所定範囲内の状態が所定時間継続している場合(ステップS4で「Y」の場合)には、新整定値を地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3に送信して整定する(ステップS5)。ここで、所定時間とは、母線地絡特性の瞬間的な変動により頻繁に整定値を変更するのを防止し、地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3が頻繁に動作したり、必要なときに適正に動作しなかったりするのを防止可能な時間であり、例えば、3~5分に設定されている。一方、差異が所定範囲内の状態が所定時間継続していない場合(ステップS4で「N」の場合)には、所定時間を計時するためのカウントをアップして終了する。
【0046】
また、差異が所定範囲内でなく(ステップS3が「N」で)、かつ、差異がない場合(ステップS6で「Y」の場合)には、差異がない状態が所定期間継続しているか否かを判定する(ステップS7)。すなわち、新整定値が既設整定値と所定期間(長期間)継続して変化していないか否かを判定する。ここで、この発明では、変化しない(差異がない)には、新整定値と既設整定値との差異がゼロの場合のみならず、微差(数%)であって変化していないとみなせる場合を含む。また、所定期間とは、差異がない状態が継続した場合に、システム上の不具合があると考えられる期間であり、例えば、30日や90日に設定され、差異がゼロか微差かに応じて設定してもよい。
【0047】
そして、新整定値が既設整定値と所定期間継続して変化していない場合(ステップS7で「Y」の場合)には、所定の場所(例えば、遠隔制御箇所)に警報を発してオペレータに通知する(ステップS8)。また、変化していない状態が所定期間継続していない場合(ステップS7で「N」の場合)には、所定期間を計時するためのカウントをアップして終了する。
【0048】
一方、差異があり(ステップS6が「N」で)、かつ、差異が所定差よりも大きい場合(ステップS9で「Y」の場合)には、所定の場所に警報を発してオペレータに通知し(ステップS8)、差異が所定差よりも大きくない場合(ステップS9で「N」の場合)には終了する。ここで、所定差とは、新整定値と既設整定値との差異がこの所定差よりも大きいと、システム上の不具合があると考えられる値であり、この実施の形態では、ステップS3における所定範囲の上限値(50%)に設定されている。
【0049】
次に、このような構成の地絡保護継電システム1の動作および、この地絡保護継電システム1による地絡保護継電装置の整定値設定方法を説明する。
【0050】
まず、所定周期でωC測定部43によって配電系統の対地静電容量ωCが測定されて、最新の母線地絡特性が取得される(特性取得ステップ)。続いて、整定部44によって、上記のようにして整定値の変更を要するか否かが判定されて、要する場合には、新整定値が地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3に送信されて、新整定値が整定される(整定値整定ステップ)。例えば、停電作業や転負荷などにより配電系統が変更されて母線地絡特性が大きく変わると、新整定値が地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3に整定される。また、停電作業などが終了して母線地絡特性が元の特性に戻ると、整定値が元の値(先の既設整定値)に整定し直される。
【0051】
以上のように、この配電線監視保護設備1および地絡保護継電装置の整定値設定方法によれば、周期的に母線地絡特性を取得して所定の地絡抵抗値に対応する地絡電圧閾値を割り出し、この地絡電圧閾値に基づいて新整定値を整定する。このため、停電作業や転負荷などにより配電系統が変更されても、変更された配電系統に適合した適正な整定値を整定することが可能となる。しかも、母線地絡特性から割り出した新整定値が既設整定値と所定時間継続して異なる場合にのみ、この新整定値が整定されるため、適正に整定値を設定することが可能となる。すなわち、割り出した新整定値が既設整定値と異なるたびに整定値を変更すると、地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3が頻繁に動作したり、必要なときに適正に動作しなかったりするおそれがあるが、所定時間継続して異なる場合にのみ整定値を変更することで、このような不具合を防止して適正なタイミングで整定値を設定することが可能となる。また、対地静電容量ωCおよび母線地絡特性が自動的に測定、取得されるため、これらの測定などに要する時間と労力を削減することが可能となる。
【0052】
さらに、母線地絡特性から割り出した新整定値と既設整定値との差が所定範囲内の場合にのみ、この新整定値が整定されるため、適正に整定値を設定することが可能となる。すなわち、割り出した新整定値が既設整定値と僅かでも異なるたびに整定値を変更すると、地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3が頻繁に動作したり、必要なときに適正に動作しなかったりするおそれがあるが、所定範囲の差だけ異なる場合にのみ整定値を変更することで、このような不具合を防止して適正なタイミングで整定値を設定することが可能となる。
【0053】
また、割り出された新整定値が既設整定値と所定期間継続して変化しない場合に、警報が発せられるため、システム上の不具合を早期に検知、抑制することが可能となる。すなわち、通常の配電系統では、停電作業や転負荷などが日常的に行われて母線地絡特性が変化するため、新整定値が既設整定値と所定期間継続して変化しない場合には、システム上の不具合がある可能性がある。このため、警報を発することで、システム上の不具合を早期に検知、抑制することが可能となる。一方、所定期間継続しない場合には警報が発せられないため、配電系統100の変更が限定的で母線地絡特性の変化も限定的な場合には、不要な警報を抑止することできる。
【0054】
同様に、割り出された新整定値と既設整定値との差が所定差よりも大きい場合に、警報が発せられるため、システム上の不具合を早期に検知、抑制することが可能となる。すなわち、通常の配電系統では、停電作業や転負荷などが行われて母線地絡特性が変化しても、過度に変化することは少なく、既設整定値と大きな差がある場合には、システム上の不具合がある可能性がある。このため、警報を発することで、システム上の不具合を早期に検知、抑制することが可能となる。また、配電系統100の変更が大きく母線地絡特性の変化も大きい場合、つまり、所定差よりも著しく大きい場合には、警報を発しないことで、配電系統100の変更が大きい場合における不要な警報を抑止することできる。
【0055】
一方、地絡抵抗値が所定の抵抗値内に収まるように新整定値が割り出されるため、適正な整定値を整定することが可能となる。すなわち、地絡抵抗値が配電系統に応じた所定・所望の抵抗値内に収まるように、新整定値を割り出すことで、地絡方向継電器2および地絡順序遮断継電器3を配電系統に応じて適正に動作させることが可能となる。
【0056】
また、隣接する母線系統100の母線地絡特性を取得し、隣接する母線系統100との連系により変化する自母線系統100の母線地絡特性を取得するため、予め隣接する母線系統100との連系を加味した整定値に設定することで、不要な整定値変更を省けるとともに、事故等による急な連系にも迅速に対応することが可能となる。
【0057】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、地絡保護継電装置が地絡方向継電器2と地絡順序遮断継電器3の場合について説明したが、その他の継電器、例えば、地絡過電圧継電器に適用してもよい。また、新たな母線地絡特性に基づいて割り出した新整定値が既設整定値と異なり、その差が所定範囲でかつ所定時間継続する場合に、整定値を変更しているが、一方のみを満たす場合に変更してもよい。すなわち、新整定値と既設整定値との差が所定範囲であれば、その時点で変更したり、新整定値と既設整定値との差が僅かであっても所定時間継続すれば、その時点で変更したりしてもよい。また、最新の三相一括の母線地絡特性Lと平常時に測定された三相の母線地絡特性に基づいて、新整定値を割り出しているが、最新の母線地絡特性Lの状態などによっては最新の母線地絡特性Lのみで割り出してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 地絡保護継電システム
2 地絡方向継電器(地絡保護継電装置)
3 地絡順序遮断継電器(地絡保護継電装置)
4 整定装置
43 ωC測定部(特性取得手段)
44 整定部(整定値整定手段)
100 母線系統
101、102、103 配電線