(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144980
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ウルトラファインバブル液の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01F 23/20 20220101AFI20220926BHJP
B01F 25/40 20220101ALI20220926BHJP
【FI】
B01F3/04 Z
B01F5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046212
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大祐
(72)【発明者】
【氏名】堀内 一輝
【テーマコード(参考)】
4G035
【Fターム(参考)】
4G035AB04
4G035AB54
4G035AC26
4G035AE01
4G035AE13
4G035AE17
(57)【要約】
【課題】好適に濃度を調整することができるウルトラファインバブル液の製造方法を提供する。
【解決手段】ウルトラファインバブル液の製造方法であって、直径がナノメートルオーダーとされる気泡と液体とが混合した混合液を減圧することで、液体の一部を気化させる減圧工程を含むこと。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径がナノメートルオーダーとされる気泡と液体とが混合した混合液を減圧することで、前記液体の一部を気化させる減圧工程を含むことを特徴とするウルトラファインバブル液の製造方法。
【請求項2】
前記減圧工程では、減圧後の圧力が減圧前の圧力に比して0.05MPa以上低下する条件で減圧することを特徴とする請求項1に記載のウルトラファインバブル液の製造方法。
【請求項3】
前記減圧工程では、前記混合液を生成する生成部と、生成した前記混合液を一時的に貯留する貯留部と、を備える製造装置のうち、前記貯留部において前記混合液を減圧することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のウルトラファインバブル液の製造方法。
【請求項4】
前記液体として、ヒドロキシ基を有する分子からなるものを用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のウルトラファインバブル液の製造方法。
【請求項5】
前記液体として、水を用いることを特徴とする請求項4に記載のウルトラファインバブル液の製造方法。
【請求項6】
前記気泡は、窒素を含む気体、酸素を含む気体、フッ素を含む気体、又は空気から選択される少なくとも一つの気体を包含することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のウルトラファインバブル液の製造方法。
【請求項7】
前記減圧工程では、前記混合液の減圧後の前記気泡の濃度が、その減圧前の前記気泡の濃度に比して200%以上となる条件で、前記混合液を減圧することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のウルトラファインバブル液の製造方法。
【請求項8】
前記減圧工程の前において、前記気泡に包含される気体と前記液体とを加圧し、細孔を有する細孔体に通過させることで前記混合液を生成する生成工程を含むことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のウルトラファインバブル液の製造方法。
【請求項9】
前記生成工程では、前記細孔体としてセラミックスを用いることを特徴とする請求項8に記載のウルトラファインバブル液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウルトラファインバブル液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、直径がナノメートルオーダーとされる気泡(ウルトラファインバブル)を含む液体(ウルトラファインバブル液)が、多様な分野において注目されており、当該液体を生成する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、微小気泡発生装置内に保持された多孔質アルミナからなる複数の気泡発生管に、ポンプにより圧送した液体を流し、その管外にガスボンベから送出された気体を送り込んで、管内に1μm以下の気泡が吹き込まれた液体を生成すること、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウルトラファインバブル液は、ウルトラファインバブルの濃度を調整することによって、上述した効果をさらに向上できることが期待されている。従って、上記特許文献1に開示の方法において、例えば、生成された液体を再度微小気泡発生装置内に循環させて、ウルトラファインバブルの濃度を上昇させることが考えられる。
【0005】
しかしながら、その場合、微小気泡発生装置内等で生じ得る微粒子や微生物等(以下、微粒子等と呼ぶ)がより多く液体に混入することや、ウルトラファインバブルの濃度が所望の値に達するまでに相当の時間を要する虞がある。一方、液体を加熱して濃縮することも考えられるが、その場合、ウルトラファインバブルの性質が変化する虞がある。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、好適に濃度を調整することができるウルトラファインバブル液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、直径がナノメートルオーダーとされる気泡と液体とが混合した混合液を減圧することで、前記液体の一部を気化させる減圧工程を含むことに特徴を有するウルトラファインバブル液の製造方法である。
【0008】
このようなウルトラファインバブル液の製造方法によると、微粒子等が混入することやウルトラファインバブルの性質が変化することを抑制しつつ、混合液における単位体積当たりのウルトラファインバブルの個数(以下、気泡の濃度と呼ぶことがある)を好適に上昇させることができる。また、混合液を減圧する時間を調整することで、気泡の濃度を任意の値に上昇させることが可能となる。
尚、ナノメートルオーダーとは、1nm以上999nm以下の範囲の値とする。
【0009】
前記減圧工程では、減圧後の圧力が減圧前の圧力に比して0.05MPa以上低下する条件で減圧するものとしてもよい。このようなウルトラファインバブル液の製造方法によると、スムーズに気泡の濃度を上昇させることができるので、好適である。
【0010】
前記減圧工程では、前記混合液を生成する生成部と、生成した前記混合液を一時的に貯留する貯留部と、を備える製造装置のうち、前記貯留部において前記混合液を減圧するものとしてもよい。このようなウルトラファインバブル液の製造方法によると、生成部で生成された直後の混合液を減圧することで、微粒子等がより混入しにくい状態にて気泡の濃度を素早く上昇させることができる。
【0011】
前記液体として、ヒドロキシ基を有する分子からなるものを用いてもよい。このような製造方法によって得られたウルトラファインバブル液を、動植物の育成に用いることで、その成長速度や成長の質等を向上させることが可能となる。また、このようなウルトラファインバブル液を、洗浄水として用いることで、洗浄効果を向上させることが可能となる。また、このようなウルトラファインバブル液を、薬剤等と共に人体に用いることで、薬剤等の生理活性を向上することが期待できる。また、このようなウルトラファインバブル液は、造影剤として使用することができたり、血管内皮細胞の抗炎症作用を発揮したりすることが期待できる。
【0012】
前記液体として、水を用いてもよい。また、前記気泡は、窒素を含む気体、酸素を含む気体、フッ素を含む気体、又は空気から選択される少なくとも一つの気体を包含するものとしてもよい。また、前記減圧工程では、前記混合液の減圧後の前記気泡の濃度が、その減圧前の前記気泡の濃度に比して200%以上となる条件で、前記混合液を減圧するものとしてもよい。このような製造方法によって得られたウルトラファインバブル液によると、動植物の育成に用いた場合の成長促進性等をより向上させることが可能となる。尚、このような気泡に含まれる気体としては、例えば、水蒸気、重水素、三重水素、希ガス(He、Ne、Kr、Xe、Rn、Ar)、オゾン、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物(NOx)、アンモニア、塩素、塩化水素ガス、炭化水素(メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘキサン)、芳香族化合物(アルコール類、アミン類、アルデヒド類、エステル類、エーテル類、ケトン類、テルペン類、ラクトン類、チオール類)、硫化水素、フッ化ガス(CF4、C2F6、C3F8、C4F8、CHF3、SF6、NF3)等のうち1種又は2種以上の気体を採用することができる。
【0013】
当該ウルトラファインバブル液の製造方法は、前記減圧工程の前において、前記気泡に包含される気体と前記液体とを加圧し、細孔を有する細孔体に通過させることで前記混合液を生成する生成工程を含むものとしてもよい。前記生成工程では、前記細孔体としてセラミックスを用いてもよい。このようなウルトラファインバブル液の製造方法によると、気泡と液体とが混合した混合液を多量に素早く生成することができ、好適である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、好適に濃度を調整することができるウルトラファインバブル液の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態において、混合液の生成装置を示す説明図
【
図2】比較例1-1~1-3、実施例1-1~1-3について、減圧時間に対する減少率、濃縮率の値を示す図
【
図3】比較例1-1~1-3、実施例1-1~1-3について、減少率に対する濃縮率の値を示す図
【
図4】比較例1-4~1-7について、減圧時間に対する減少率、濃縮率の値を示す図
【
図5】比較例2、実施例2-1~2-3、参考例2-1,2-2について、減圧時間に対する減少率、濃縮率の値を示す図
【
図6】比較例2、実施例2-1~2-3、参考例2-1,2-2について、減少率に対する濃縮率の値を示す図
【
図7】消泡処理前後における気泡の濃度の値を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
本発明の実施形態を
図1から
図7によって説明する。本実施形態では、ウルトラファインバブル液の製造方法について説明する。ウルトラファインバブル液の製造方法は、大別すると、直径がナノメートルオーダーとされる気泡と液体とが混合した混合液を生成する生成工程と、混合液を減圧することで、液体の一部を気化させてウルトラファインバブル液を得る減圧工程と、を含む。尚、「混合液」とは、減圧前のウルトラファインバブル液のことを指すものとする。
【0017】
図1は、ウルトラファインバブル液Uの製造装置100を示す。製造装置100は、混合液Mを生成する生成装置(生成部)1と、混合液Mからウルトラファインバブル液Uを得る減圧装置2と、生成装置1及び減圧装置2を制御する制御部50と、を備える。
【0018】
生成装置1は、第1タンク10と、第1タンク10の底面10A側に接続された第2タンク20と、第1タンク10に気体を供給する気体供給部30と、第1タンク10に液体を供給する液体供給部40と、を備えている。第1タンク10及び第2タンク20は、気密状態を保ちつつ気体や液体を一時的に貯留可能な筐体とされている。第1タンク10及び第2タンク20には、内部の圧力を検出可能な圧力検出部11,21がそれぞれ設けられている。
【0019】
気体供給部30は、第1タンク10に供給される気体が流れる流路の開閉を行う気体開閉弁32と、当該気体供給部30の圧力を検出する圧力検出部31と、を備える。気体としては、例えば、窒素を含む気体、酸素を含む気体、フッ素を含む気体、又は空気からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上の気体を採用することができる。また、このような気体としては、水蒸気、重水素、三重水素、希ガス(He、Ne、Kr、Xe、Rn、Ar)、オゾン、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物(NOx)、アンモニア、塩素、塩化水素ガス、炭化水素(メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘキサン)、芳香族化合物(アルコール類、アミン類、アルデヒド類、エステル類、エーテル類、ケトン類、テルペン類、ラクトン類、チオール類)、硫化水素、フッ化ガス(CF4、C2F6、C3F8、C4F8、CHF3、SF6、NF3)等のうち1種又は2種以上の気体を採用することができる。
【0020】
液体供給部40は、第1タンク10に供給される液体が流れる流路の開閉を行う液体開閉弁41を備える。液体としては、例えば、水、エタノール等のアルコール、又は過酸化水素水からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上の液体を採用することができる。その中でも、液体としては、ヒドロキシ基を有する分子からなるものが好ましく、水がより好ましい。
【0021】
第2タンク20は、第1タンク10の底面10Aを貫通し第1タンク10の内部に連通した管状の連通管22と、連通管22の下部に設けられたエレメント(細孔体)24と連通管22の途中部分に設けられた噴射弁23と、を備える。連通管22は、第1タンク10に貯留した気体と液体とをエレメント24に流通させる。噴射弁23は、連通管22を流通する気体と液体の流路の開閉を行う。
【0022】
エレメント24は、筒状をなすセラミックスとされ、その全体に多数の細孔が連なるように形成されている。エレメント24は、連通管22の下部に取り付けられており、連通管22を流通する気体と液体とが当該エレメント24の内部24Aに流れ込むことが可能な構成とされている。エレメント24を構成するセラミックスは、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、二酸化ケイ素(シリカ)、窒化ホウ素、ジルコニア、チタニア、ムライト、マグネシア、セリア、ドープセリア、アルミナセメント、リン酸カルシウム、チタン酸バリウム、フェライト、ステアタイト、フォルステライト、炭化ケイ素、ゼオライト、シリカガラス、ケイ酸塩ガラス、及びシラスガラスからなる群より選択される1種又は2種以上の材料を焼結してなる焼結体とされる。その中でも、セラミックスとしては、アルミナを焼結してなる焼結体が好ましい。
【0023】
減圧装置2は、生成装置1の第2タンク20に接続された筐体である減圧室(貯留部)60と、図示しないモータの回転により減圧室60の内部を減圧するポンプ61と、減圧室60とポンプ61との間に設けられたトラップ62と、を備える。減圧室60は、混合液開閉弁70が設けられた流路を介して生成装置1の第2タンク20に接続されており、生成装置1で生成した混合液Mを一時的に貯留することが可能とされる。減圧装置2は、ポンプ61が駆動することにより、減圧室60の内部の気体をポンプ61側に吸引し、当該吸引された気体をトラップ62により補足するものとされる。尚、ポンプ61の駆動方式は、モータの回転に基づくものに限らず、電磁式等、種々の駆動方式を採用することができる。
【0024】
制御部50は、生成装置1及び減圧装置2に電気的に接続されている。制御部50は、圧力検出部11,21,31で検出した圧力等に基づいて、気体開閉弁32、液体開閉弁41及び噴射弁23の開閉を制御する。また、制御部50は、ポンプ61の駆動や、混合液開閉弁70の開閉を制御する。制御部50は、ポンプ61の駆動を制御することにより、減圧室60を減圧する圧力や時間を適宜変更することができるものとする。
【0025】
生成工程では、まず、気体供給部30から第1タンク10に気体を供給して、第1タンク10と第2タンク20の内部に当該気体を充満させておく。そして、液体開閉弁41、気体開閉弁32、及び噴射弁23を閉じた後に、液体開閉弁41を開いて第1タンク10に液体を供給する。その後、液体開閉弁41を閉じ、気体開閉弁32を開いて第1タンク10に気体を供給する。このとき、気体開閉弁32の開閉を調整することで、第1タンク10の内部の圧力が大気圧よりも高い圧力(例えば0.5MPa)となるように気体を供給する。これにより、第1タンク10の内部には、気体と液体とが加圧されて貯留した状態となる。一方、第2タンク20の内部の圧力が、加圧後の第1タンク10の内部の圧力よりも低くなるように調整しておく。
【0026】
この状態で噴射弁23を開くと、第1タンク10に貯留した気体と液体とが、連通管22を流通してエレメント24の内部24Aに流れ込み、エレメント24の内部24Aから外部に噴射する。このとき、エレメント24の内部24Aに流れ込んだ気体と液体とは、エレメント24の複数の細孔を通過してエレメント24の外部に噴射することで、当該気体を包含する気泡と当該液体とが混合した混合液Mとなって第2タンク20に貯留する。混合液開閉弁70を開くと、混合液Mが減圧室60に移動し、貯留する。
【0027】
上記工程によって生成した混合液Mには、直径がナノメートルオーダーとされる気泡(ウルトラファインバブル)が生じている。このような気泡の直径は、例えば、エレメント24の細孔の孔径を変更すること等により調整可能とされる。エレメント24の細孔の孔径は、例えば、当該エレメント24を構成するセラミックスの材料の粒径(例えば、アルミナの粒径)を変更すること等により調整可能とされる。上記気泡の直径としては、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
【0028】
減圧工程では、減圧室60に混合液Mを貯留し、ポンプ61を駆動して減圧室60を減圧する。減圧室60を減圧する条件としては、減圧後の減圧室60の内部の圧力が、減圧前の減圧室60の内部の圧力に比して0.05MPa以上低下するように減圧することが好ましく、0.075MPa以上低下するように減圧することがより好ましく、0.1MPa以上低下するように減圧することがさらに好ましい。また、後述する濃縮率であって、減圧後の混合液M(ウルトラファインバブル液U)の気泡の濃度が、減圧前の混合液Mの濃度に比して120%を超えるように減圧することが好ましく、130%以上となるように減圧することがより好ましく、150%以上となるように減圧することがさらに好ましく、200%以上となるように減圧することがさらにより好ましい。また、減圧室60を減圧する時間は、100時間以内であることが好ましく、50時間以内であることがより好ましく、30時間以内であることがさらに好ましい。
【0029】
混合液Mは、減圧室60で減圧され、当該混合液Mに含まれる液体の一部が気化することにより、気泡の濃度が所定の濃度まで上昇したウルトラファインバブル液Uとなる。ウルトラファインバブル液Uは、減圧室60に設けられた取出口19から製造装置100の外部に取り出すことができる。
【0030】
続いて、本実施形態における効果について説明する。本実施形態では、直径がナノメートルオーダーとされる気泡と液体とが混合した混合液Mを減圧することで、液体の一部を気化させる減圧工程を含むことに特徴を有するウルトラファインバブル液Uの製造方法を示した。
【0031】
このようなウルトラファインバブル液Uの製造方法によると、微粒子等が混入することやウルトラファインバブルの性質が変化することを抑制しつつ、混合液Mにおける気泡の濃度を好適に上昇させることができる。また、混合液Mを減圧する時間を調整することで、ウルトラファインバブルの濃度を任意の値に上昇させることが可能となる。
【0032】
減圧工程では、減圧後の圧力が減圧前の圧力に比して0.05MPa以上低下する条件で減圧する。このようなウルトラファインバブル液Uの製造方法によると、スムーズにウルトラファインバブルの濃度を上昇させることができるので、好適である。
【0033】
減圧工程では、混合液Mを生成する生成装置1と、生成した混合液Mを一時的に貯留する減圧室60と、を備える製造装置100のうち、減圧室60において混合液Mを減圧する。このようなウルトラファインバブル液Uの製造方法によると、生成装置1で生成された直後の混合液Mを減圧することで、微粒子等がより混入しにくい状態にてウルトラファインバブルの濃度を素早く上昇させることができる。
【0034】
液体として、ヒドロキシ基を有する分子からなるものを用いる。このような製造方法によって得られたウルトラファインバブル液Uを、動植物の育成に用いることで、その成長速度や成長の質等を向上させることが可能となる。また、このようなウルトラファインバブル液Uを、洗浄水として用いることで、洗浄効果を向上させることが可能となる。また、このようなウルトラファインバブル液Uを、薬剤等と共に人体に用いることで、薬剤等の生理活性を向上することが期待できる。また、このようなウルトラファインバブル液Uは、造影剤として使用することができたり、血管内皮細胞の抗炎症作用を発揮したりすることが期待できる。
【0035】
液体として、水を用いる。また、気泡は、窒素を含む気体、酸素を含む気体、フッ素を含む気体、又は空気から選択される少なくとも一つの気体を包含する。また、減圧工程では、混合液Mの減圧後の気泡の濃度が、その減圧前の気泡の濃度に比して200%以上となる条件で、混合液Mを減圧する。このような製造方法によって得られたウルトラファインバブル液Uによると、抗菌性、抗ウィルス性、又は動植物の育成に用いた場合の成長促進性等をより向上させることが可能となる。
【0036】
ウルトラファインバブル液Uの製造方法は、減圧工程の前において、気泡に包含される気体と液体とを加圧し、細孔を有するエレメント24に通過させることで混合液Mを生成する生成工程を含む。生成工程では、エレメント24としてセラミックスを用いる。このようなウルトラファインバブル液Uの製造方法によると、ウルトラファインバブルと液体とが混合した混合液Mを多量に素早く生成することができ、好適である。
【0037】
尚、減圧工程は、上記工程に限られない。例えば、減圧工程は、生成装置1に別途設けた取出口から混合液Mを取り出してビーカ等の容器に入れ、当該容器をデシケータ等の減圧室に入れて減圧室を減圧することで、ウルトラファインバブル液Uを得るものとしてもよい。減圧室は、生成装置1と接続されていなくてもよい。
【実施例0038】
以下、実施例に基づいて本技術を詳細に説明する。なお、本技術はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0039】
<実施例1-1から1-3、及び比較例1-1から1-3>
(混合液の調製)
生成装置の第1タンク(内部容量300ml)に、液体供給部から液体として純水5mlを供給した後、気体供給部から気体として窒素を0.5MPaの圧力で供給した。そして、噴射弁を開き、細孔径が1300nmとされるエレメントから気泡と液体とが混合した混合液を噴射させた。エレメントとしては、アルミナの焼結体を用いた。この工程を複数回繰り返して、混合液を1L生成した。得られた混合液の気泡の濃度(減圧前の混合液の気泡の濃度)は、3.55E+8個/mlであった。尚、気泡の濃度(個/ml)は、ナノサイト(登録商標:マルバーン社製 ナノトラッキング粒子径測定装置 NS300)を用いて測定した。ナノサイトでは、直径が30nm以上999nm以下の気泡の濃度を測定するものとする。
【0040】
(減圧工程)
得られた混合液を、6つのビーカにそれぞれ約30mlずつ採取して重さを測った。6つのビーカのうち1つを、比較例1-1とした(比較例1-1では、次の減圧工程を行っていない)。6つのビーカのうち残りの5つを、デシケータ(減圧室)に入れ、デシケータにトラップとポンプとを繋ぎ、ポンプでデシケータの内部の気体を吸引して減圧した。このとき、減圧後のデシケータの内部の圧力が、減圧前のデシケータの内部の圧力(大気圧)に比して0.1MPa低下する圧力となるように減圧した。5つのビーカのうち、1時間減圧してデシケータから取り出したものを、比較例1-2とし、2時間減圧してデシケータから取り出したものを、比較例1-3とし、3時間減圧してデシケータから取り出したものを、実施例1-1とし、17時間減圧してデシケータから取り出したものを、実施例1-2とし、21.5時間減圧してデシケータから取り出したものを、実施例1-3とした。
【0041】
<比較例1-4から1-7>
生成工程を行っていない純水であって、ナノサイトで測定した気泡の濃度が1.20E+6個/mlである純水を、4つのビーカにそれぞれ約30mlずつ採取して重さを測った。4つのビーカのうち1つを、比較例1-4とした(比較例1-4では、次の減圧工程を行っていない)。4つのビーカのうち残りの3つを、デシケータ(減圧室)に入れ、デシケータにトラップとポンプとを繋ぎ、ポンプでデシケータの内部の気体を吸引して減圧した。このとき、減圧後のデシケータの内部の圧力が、減圧前のデシケータの内部の圧力(大気圧)に比して0.1MPa低下する圧力となるように減圧した。3つのビーカのうち、1時間減圧してデシケータから取り出したものを、比較例1-5とし、3時間減圧してデシケータから取り出したものを、比較例1-6とし、21.5時間減圧してデシケータから取り出したものを、比較例1-7とした。
【0042】
[減少率と濃縮率の評価]
上記各実施例及び各比較例にて得られたウルトラファインバブル液(減圧後の混合液)等の重さを測り、当該ウルトラファインバブル液等の重さを減圧前の混合液等の重さから引くことで、液体の減少量(即ち、減圧工程によって気化した純水の量)を算出した。結果を、表1及び
図2から
図4に示す(ウルトラファインバブル液を、UB液として示す)。当該減少量を、減圧前の混合液等の重さで除して百分率で示したものを、減少率とする。
【0043】
また、上記各実施例及び各比較例にて得られたウルトラファインバブル液等における気泡の濃度と気泡の直径(気泡径)とを、ナノサイトを用いて測定した。結果を表1及び
図2から
図4に示す。ウルトラファインバブル液等における気泡の濃度を、混合液等における気泡の濃度で除して百分率で示したものを、濃縮率とする。
【0044】
尚、
図2及び
図3では、比較例1-1から1-3及び実施例1-1から1-3における減少率と濃縮率のグラフを示し、
図4では、比較例1-4から1-7における減少率と濃縮率のグラフを示している。比較例1-1,1-4では、減圧工程を行っていないため、表1において減少率を0%とし、濃縮率を100%とし、便宜上、混合液とウルトラファインバブル液の重さの項目を「―」として示す。比較例1-4から1-7について、表1では、便宜上、減圧前の純水の重さを、「混合液の重さ」の列に示し、減圧後の純水の重さを、「UB液の重さ」の列に示す。
【0045】
【0046】
上記の結果によると、実施例1-1において、減圧時間が3時間だと、減少率が5.7%であるものの、濃縮率が136.1%であるため、純水の減少に比して気泡の濃度の上昇が比較的早いことが分かる。実施例1-1から1-3では、減圧時間に比例して減少率と濃縮率が上昇していることが分かる。実施例1-2によると、少なくとも17時間減圧すれば、濃縮率が200%以上となることが分かる。比較例1-7では、21.5時間かけて純水を減圧したとしても、気泡の濃度が3.50E+7個/mlになるまでしか濃縮することができなかった。尚、気泡径の増減については、目立った傾向はみられなかった。
【0047】
<実施例2-1から2-3、比較例2、及び参考例2-1,2-2>
(混合液の調製)
生成装置の第1タンク(内部容量300ml)に、液体供給部から液体として純水5mlを供給した後、気体供給部から気体として窒素を0.5MPaの圧力で供給した。そして、噴射弁を開き、細孔径が1300nmとされるエレメントから気泡と液体とが混合した混合液を噴射させた。エレメントとしては、アルミナの焼結体を用いた。この工程を複数回繰り返して、混合液を1L生成した。得られた混合液の気泡の濃度(減圧前の混合液の気泡の濃度)は、1.85E+8個/mlであった。気泡の濃度(個/ml)は、ナノサイトを用いて測定した。
【0048】
(減圧工程)
得られた混合液を、6つのビーカにそれぞれ約190mlずつ採取して重さを測った。6つのビーカのうち1つを、比較例2とした(比較例2では、次の減圧工程を行っていない)。6つのビーカのうち残りの5つを、デシケータ(減圧室)に入れ、デシケータにトラップとポンプとを繋ぎ、ポンプでデシケータの内部の気体を吸引して減圧した。このとき、減圧後のデシケータの内部の圧力が、減圧前のデシケータの内部の圧力(大気圧)に比して0.075MPa低下する圧力となるように減圧した。5つのビーカのうち、3.5時間減圧してデシケータから取り出したものを、実施例2-1とし、18.6時間減圧してデシケータから取り出したものを、実施例2-2とし、25.9時間減圧してデシケータから取り出したものを、実施例2-3とし、50.3時間減圧してデシケータから取り出したものを、参考例2-1とし、136.3時間減圧してデシケータから取り出したものを、参考例2-2とした。
【0049】
[減少率と濃縮率の評価]
上記実施例1-1等と同様の方法で、減少率及び濃縮率等を算出した。結果を、表2及び
図5,
図6に示す。尚、比較例2では減圧工程を行っていないため、表2において、減少率を0%とし、濃縮率を100%とし、便宜上、混合液とウルトラファインバブル液の重さの項目を「―」として示す。
【0050】
【0051】
上記結果によると、実施例2-1において、減圧時間が3.5時間だと、減少率が1.4%であるものの、濃縮率が128.6%であるため、純水の減少に比して気泡の濃度の上昇が比較的早いことが分かる。参考例2-1,2-2では、減少率の上昇に比して濃縮率の上昇が遅い。このように、減圧時間が比較的長いと、生成した気泡が時間の経過とともに消泡してしまう可能性が考えられる。尚、気泡径の増減については、目立った傾向はみられなかった。
【0052】
<参考例3-1>
(混合液の調製)
生成装置の第1タンク(内部容量300ml)に、液体供給部から液体として純水2mlを供給した後、気体供給部から気体として窒素を0.5MPaの圧力で供給した。そして、噴射弁を開き、細孔径が1500nmとされるエレメントから気泡と液体とが混合した混合液を噴射させた。エレメントとしては、アルミナ及びシリカの焼結体を用いた。この工程を複数回繰り返して、混合液を一定量生成した。生成装置から取り出した当該混合液を、参考例3-1とした。ナノサイトを用いて気泡の濃度と気泡径を測定した。結果を、表3及び
図7に示す。
【0053】
<参考例3-2から3-4>
IDEC製のultrafineGaLF(FZIN-10)を用いて、混合液を一定量生成した。ultrafineGaLFは、気体を大気圧よりも高い圧力に加圧して液体に溶解させ、当該気体が溶解した液体を大気圧下で一気に吐出することで、当該気体を含有するウルトラファインバブルと当該液体とが混合した混合液を作製する装置とされる。ultrafineGaLFに、液体として純水を導入し、気体として空気を導入し、当該ultrafineGaLFを10分間稼働して得られた混合液を、参考例3-2とし、30分間稼働して得られた混合液を、参考例3-3とし、60分間稼働して得られた混合液を、参考例3-4とする。これら参考例3-2から3-4の混合液について、それぞれナノサイトを用いて気泡の濃度と気泡径を測定した。結果を、表3及び
図7に示す。
【0054】
[消泡処理後の気泡の濃度、気泡の径、及び気泡率の評価]
上記各参考例にて得られた混合液に対し、消泡処理を行い、気泡の濃度、気泡径、及び気泡率を求めた。具体的には、得られた混合液に対し、周波数950KHz、出力50wの超音波を15分間与えた(このような手順を、消泡処理と呼ぶ)。消泡処理後の混合液における気泡の濃度と直径を、ナノサイトを用いて測定した。結果を表3及び
図7に示す。
表3において、気泡率とは、当該気泡率をR
Bとし、消泡処理前の混合液における気泡の濃度(濾過後の気泡の濃度)をC
Pとし、消泡処理後の混合液における気泡の濃度をC
Aとした場合に、次式(1)によって算出した値である。
R
B=(C
P-C
A)×100/C
P ・・・(1)
【0055】
ナノサイトは、液体に含まれる気泡以外の微粒子等も気泡と誤って判定して測定してしまう可能性がある。消泡処理を行うことで、液体に含まれる気泡が壊れて消泡する。従って、消泡処理前後の混合液に含まれる気泡の濃度をナノサイトで測定することにより、混合液に含まれる気泡と気泡以外の微粒子等とを区別して濃度を求めることができる。
【0056】
【0057】
上記結果によると、参考例3-1における気泡率は、参考例3-2から3-4の各気泡率に比して高いことが分かった。エレメントを用いて混合液を生成する場合、気泡以外の微粒子が混入してしまうことを比較的抑制しやすいといえる。また、気泡濃度を上げるために、参考例3-2から3-4にかけてultrafineGaLFの稼働時間を延ばしたところ、気泡率が低下してしまい、気泡以外の微粒子の混入が増加することが分かった。本願発明では、ultrafineGaLFを用いることがないため、このような装置の稼働に起因して発生する微粒子の混入を避けることができる。よって、気泡濃度を上昇させるときは、本願発明を適用することが望ましい。
【0058】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0059】
(1)細孔体の形状は適宜変更可能である。上記実施形態では、細孔体は、筒状としたが、これに限られない。例えば、細孔体は、板状や球体状であってもよい。また、細孔体の細孔の形は適宜変更可能である。細孔の形は、例えば、細孔体の内外方向を貫通する貫通孔であってもよい。
1…生成装置(生成部)、2…減圧装置、24…エレメント(細孔体)、50…制御部、60…減圧室(貯留部)、100…ウルトラファインバブル液の製造装置、M…混合液、U…ウルトラファインバブル液