(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145005
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】近赤外線センサカバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/35 20140101AFI20220926BHJP
H05B 3/84 20060101ALI20220926BHJP
B23K 26/351 20140101ALI20220926BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20220926BHJP
G02B 1/113 20150101ALN20220926BHJP
【FI】
G01N21/35
H05B3/84
B23K26/351
G01N21/01 D
G02B1/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046244
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 里彩
(72)【発明者】
【氏名】奥村 晃司
(72)【発明者】
【氏名】深川 鋼司
(72)【発明者】
【氏名】平野 克幸
【テーマコード(参考)】
2G059
2K009
3K034
4E168
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB12
2G059EE02
2G059HH01
2G059KK01
2K009AA02
2K009CC03
2K009CC06
3K034AA02
3K034AA12
3K034BB08
3K034BB14
3K034BC12
3K034HA09
3K034JA10
4E168AD04
4E168JA17
(57)【要約】
【課題】近赤外線の回折が起こりにくい近赤外線センサカバーを製造する。
【解決手段】近赤外線センサカバーの製造に際し、マスク配置工程では、基材24後面のアンダーコート層26のうち、ヒータ部が形成される予定のヒータ部形成領域26aとは異なり、かつヒータ部形成領域26aの縁部に沿って延びる帯状の分離領域26bとは異なる領域26cにマスク28が配置される。分離領域26bの幅W1は、送信部から送信される近赤外線のビーム径よりも小さく設定される。発熱被膜形成工程では、マスク28及びアンダーコート層26に対し、導電性発熱材料からなる発熱被膜29が形成される。剥離工程では、分離領域26bに形成された発熱被膜29がレーザLにより剥離される。マスク除去工程では、マスク28が、同マスク28に形成された発熱被膜29とともに除去される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線センサにおける近赤外線の送信部及び受信部を、同送信部からの前記近赤外線の送信方向における前方から覆うカバー本体部を備え、前記カバー本体部が、樹脂材料により形成された基材と、前記送信方向における前記基材の後面に形成され、かつ前記近赤外線の透過性を有するアンダーコート層と、導電性発熱材料からなり、かつ前記送信方向における前記アンダーコート層の後面に形成されるとともに、前記アンダーコート層を介して前記基材に密着された帯状のヒータ部とを備える近赤外線センサカバーを製造する方法であって、
前記基材の前記後面に形成された前記アンダーコート層のうち、前記ヒータ部が形成される予定のヒータ部形成領域とは異なり、かつ前記ヒータ部形成領域の縁部に沿って延びる帯状の分離領域とは異なる領域にマスクを配置するマスク配置工程と、
前記マスク及び前記アンダーコート層に対し、前記導電性発熱材料からなる発熱被膜を形成する発熱被膜形成工程と、
前記分離領域に形成された前記発熱被膜をレーザにより剥離させる剥離工程と、
前記マスクを、同マスクに形成された前記発熱被膜とともに除去するマスク除去工程と
を備え、前記分離領域の幅が、前記送信部から送信される前記近赤外線のビーム径よりも小さく設定されている近赤外線センサカバーの製造方法。
【請求項2】
前記マスク除去工程の後に行なわれる保護層形成工程をさらに備え、
前記保護層形成工程では、前記ヒータ部及び前記アンダーコート層を前記送信方向における後方から覆うことにより、前記ヒータ部を保護するとともに絶縁するための保護層を形成する請求項1に記載の近赤外線センサカバーの製造方法。
【請求項3】
前記保護層形成工程の後に行なわれる反射抑制層形成工程をさらに備え、
前記反射抑制層形成工程では、前記送信部から送信された前記近赤外線の反射を抑制する反射抑制層を、前記送信方向における前記保護層の後面に形成する請求項2に記載の近赤外線センサカバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線センサカバーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に設置される近赤外線センサは、近赤外線の送信部及び受信部を備える。送信部及び受信部は、同送信部からの近赤外線の送信方向における前方から近赤外線センサカバーのカバー本体部によって覆われる。
【0003】
上記近赤外線センサでは、送信部から近赤外線が車両の外部へ向けて送信される。送信された近赤外線は、カバー本体部を透過した後、車外の先行車両、歩行者等を含む物体に当たり反射される。この反射された近赤外線は、カバー本体部を透過し、受信部で受信される。上記近赤外線センサでは、送信した近赤外線と受信した近赤外線とに基づき、車外の上記物体が認識されるとともに、車両と上記物体との距離、相対速度等が検出される。
【0004】
上記近赤外線センサでは、雪が付着すると、上記認識及び検出を一時的に停止するようにしている。これは、付着した雪が近赤外線の透過を妨げるからである。しかし、近赤外線センサの普及に伴い、降雪時でも上記認識及び検出を行なうことが要望されている。
【0005】
そこで、融雪機能を有する近赤外線センサカバーが種々考えられている。例えば、カバー本体部の骨格部分を基材によって構成し、送信部からの近赤外線の送信方向における基材の後面に、銅等の導電性発熱材料からなるヒータ部を形成してなる近赤外線センサカバーが知られている。
【0006】
基材の後面にヒータ部を設ける方法としては、スパッタリング、エッチング等がある。例えば、エッチングの場合、基材の後面のうち、ヒータ部が形成される予定のヒータ部形成領域を含め、同後面に対し、エッチングにより、導電性発熱材料からなる発熱被膜が形成される。発熱被膜のうち、ヒータ部形成領域とは異なる領域に形成された部分に対し、レーザが照射される。発熱被膜のうち、ヒータ部の形成に関与しない不要な部分が剥離される。発熱被膜のうち、レーザによる剥離の後に基材の後面に残った部分によって、ヒータ部が構成される。
【0007】
上記近赤外線センサカバーによると、ヒータ部が通電により発熱する。そのため、近赤外線センサカバーに雪が付着しても、ヒータ部が発した熱によって雪を融解させ、雪の付着に起因する近赤外線の減衰を抑制できる。
【0008】
なお、上記のようにヒータ部が設けられることで融雪機能が付与された近赤外線センサカバーとしては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記従来の近赤外線センサカバーでは、ヒータ部の形成のために、レーザが発熱被膜に照射された場合、同レーザが発熱被膜にとどまらず、基材の上記後面に達することがある。この場合、上記後面がレーザによって荒れてしまい、同後面に、凹凸が周期的に形成されるおそれがある。
【0011】
そして、上記のように周期的な凹凸が基材の後面に形成された近赤外線センサカバーでは、次の問題が起り得る。送信部から近赤外線が送信されると、その近赤外線が、基材の後面における周期的な凹凸を透過する際に回折する。この回折が原因で、干渉縞が発生し、近赤外線センサの検出精度を低下させるおそれがある。
【0012】
上記の問題は、発熱被膜がエッチングに代えてスパッタリングによって形成された場合にも同様に起り得る。
また、上記の問題は、ヒータ部の基材に対する密着性を高めるために、基材とヒータ部との間にアンダーコート層が形成された近赤外線センサカバーでも同様に起り得る。この場合、基材に代えて、上記送信方向におけるアンダーコート層の後面がレーザによって荒らされ、同後面に周期的な凹凸が形成される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する近赤外線センサカバーの製造方法は、近赤外線センサにおける近赤外線の送信部及び受信部を、同送信部からの前記近赤外線の送信方向における前方から覆うカバー本体部を備え、前記カバー本体部が、樹脂材料により形成された基材と、前記送信方向における前記基材の後面に形成され、かつ前記近赤外線の透過性を有するアンダーコート層と、導電性発熱材料からなり、かつ前記送信方向における前記アンダーコート層の後面に形成されるとともに、前記アンダーコート層を介して前記基材に密着された帯状のヒータ部とを備える近赤外線センサカバーを製造する方法であって、前記基材の前記後面に形成された前記アンダーコート層のうち、前記ヒータ部が形成される予定のヒータ部形成領域とは異なり、かつ前記ヒータ部形成領域の縁部に沿って延びる帯状の分離領域とは異なる領域にマスクを配置するマスク配置工程と、前記マスク及び前記アンダーコート層に対し、前記導電性発熱材料からなる発熱被膜を形成する発熱被膜形成工程と、前記分離領域に形成された前記発熱被膜をレーザにより剥離させる剥離工程と、前記マスクを、同マスクに形成された前記発熱被膜とともに除去するマスク除去工程とを備え、前記分離領域の幅が、前記送信部から送信される前記近赤外線のビーム径よりも小さく設定されている。
【0014】
上記の製造方法によれば、マスク配置工程が行なわれる前に、送信部からの近赤外線の送信方向における基材の後面にアンダーコート層が形成される。アンダーコート層は、ヒータ部が形成される予定のヒータ部形成領域と、ヒータ部形成領域の縁部に沿って延びる帯状の分離領域とを含んでいる。
【0015】
マスク配置工程では、アンダーコート層のうち、ヒータ部形成領域とは異なり、かつ分離領域とは異なる領域にマスクが配置される。
発熱被膜形成工程では、マスク及びアンダーコート層に対し、導電性発熱材料からなる発熱被膜が形成される。
【0016】
剥離工程では、分離領域に形成された発熱被膜にレーザが照射されて、同発熱被膜が剥離される。この剥離により、マスクに形成された発熱被膜と、ヒータ部形成領域に形成された発熱被膜とが分離される。
【0017】
上記剥離の際、レーザがアンダーコート層に達すると、上記送信方向におけるアンダーコート層の後面が荒らされて、同後面に凹凸が生ずる。ただし、分離領域の幅が、送信部から送信される近赤外線のビーム径よりも小さいため、アンダーコート層の分離領域には、近赤外線の回折を生じさせる大きさの凹凸が形成されない。
【0018】
マスク除去工程では、マスクが、マスクに形成された発熱被膜とともに除去される。
ここで、上述したように剥離工程が行なわれることで、ヒータ部形成領域に形成された発熱被膜が、マスクに形成された発熱被膜から分離されている。そのため、発熱被膜のうち、ヒータ部形成領域に位置するもののみがアンダーコート層に残るように、マスクと、そのマスクに形成された発熱被膜とを除去することが可能である。そして、マスク除去工程を経た後にアンダーコート層に残った発熱被膜により、ヒータ部が構成される。
【0019】
このように、アンダーコート層上にヒータ部が形成された近赤外線センサカバーでは、上述したように、アンダーコート層の後面に、近赤外線の回折を生じさせる大きさの凹凸が形成されていない。そのため、送信部から送信された近赤外線が、アンダーコート層の分離領域を透過する際に回折する現象が起こりにくい。これに伴い、回折に起因する干渉縞の発生、ひいては近赤外線センサの検出精度の低下が抑制される。
【0020】
上記近赤外線センサカバーの製造方法において、前記マスク除去工程の後に行なわれる保護層形成工程をさらに備え、前記保護層形成工程では、前記ヒータ部及び前記アンダーコート層を前記送信方向における後方から覆うことにより、前記ヒータ部を保護するとともに絶縁するための保護層を形成することが好ましい。
【0021】
上記の製造方法によれば、保護層形成工程では、ヒータ部と、アンダーコート層のうちヒータ部が形成されていない領域とが、保護層によって、上記送信方向における後側から覆われる。ヒータ部とアンダーコート層の上記領域とが保護層によって保護されるとともに絶縁される。
【0022】
また、アンダーコート層のうち、ヒータ部が形成されていない上記領域には、分離領域が含まれる。剥離工程でのレーザの照射により、アンダーコート層の分離領域に形成された凹凸が保護層によって埋められる。
【0023】
上記近赤外線センサカバーの製造方法において、前記保護層形成工程の後に行なわれる反射抑制層形成工程をさらに備え、前記反射抑制層形成工程では、前記送信部から送信された前記近赤外線の反射を抑制する反射抑制層を、前記送信方向における前記保護層の後面に形成することが好ましい。
【0024】
上記の製造方法によれば、反射抑制層形成工程では、上記送信方向における保護層の後面に反射抑制層が形成される。
そのため、送信部から送信された近赤外線が反射抑制層に照射されると、反射されることを抑制される。この抑制の分、カバー本体部を通過する近赤外線の量が多くなり、カバー本体部における近赤外線の透過性が向上する。
【発明の効果】
【0025】
上記近赤外線センサカバーの製造方法によれば、近赤外線の回折が起こりにくい近赤外線センサカバーを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1実施形態における近赤外線センサカバーによってカバーが構成された近赤外線センサの側断面図。
【
図2】
図1におけるカバー本体部の一部を拡大して示す部分側断面図。
【
図3】
図3(A)~
図3(E)は、近赤外線センサカバーの製造工程を説明する模式図。
【
図4】
図4(A)~
図4(D)は、近赤外線センサカバーの製造工程の続きを説明する模式図。
【
図5】第2実施形態における近赤外線センサカバーを、近赤外線センサとともに示す側断面図。
【
図6】
図5におけるカバー本体部の一部を拡大して示す部分側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
以下、近赤外線センサカバーの製造方法を具体化した第1実施形態について、
図1~
図4を参照して説明する。
【0028】
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、
図1及び
図2では、近赤外線センサカバーにおける各部を認識可能な大きさとするために、縮尺を適宜変更して各部を示している。この点は、第2実施形態を示す
図5及び
図6についても同様である。
【0029】
最初に、近赤外線センサカバーの構成について説明する。
図1に示すように、車両10の前端部には、前方監視用の近赤外線センサ11が設置されている。近赤外線センサ11は、900nm等の波長を有する近赤外線IRを車両10の前方へ向けて送信し、かつ先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射された近赤外線IRを受信する。
【0030】
なお、上述したように、近赤外線センサ11が車両10の前方に向けて近赤外線IRを送信することから、近赤外線センサ11による近赤外線IRの送信方向は、車両10の後方から前方へ向かう方向である。近赤外線IRの送信方向における前方は、車両10の前方と概ね合致し、同送信方向における後方は車両10の後方と概ね合致する。そのため、以後の記載では、近赤外線IRの送信方向における前方を単に「前方」、「前」等といい、同送信方向における後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0031】
近赤外線センサ11の外殻部分の後半部はケース12によって構成され、前半部分はカバー17によって構成されている。ケース12は、筒状をなす周壁部13と、周壁部13の後端部に形成された底壁部14とを備えている。ケース12の全体は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の樹脂材料によって形成されている。ケース12内であって底壁部14よりも前方には、近赤外線IRを送信する送信部15と、近赤外線IRを受信する受信部16とが配置されている。
【0032】
近赤外線センサ11におけるカバー17は、近赤外線センサカバー21によって構成されている。近赤外線センサカバー21は、筒状をなす周壁部22と、周壁部22の前端部に形成された板状のカバー本体部23とを備えている。
【0033】
カバー本体部23は、上記ケース12の前端部を塞ぐ大きさに形成されている。カバー本体部23は、送信部15及び受信部16を前方から覆っている。
図2に示すように、カバー本体部23の骨格部分は、基材24によって構成されている。基材24は、近赤外線IRの透過性を有する透明な樹脂材料によって形成されている。ここでの透明には、無色透明のほか、着色透明(有色透明)も含まれる。基材24はPC(ポリカーボネート)によって形成されている。基材24は、そのほかにも、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、COP(シクロオレフィンポリマー)等によって形成されてもよい。
【0034】
基材24の前面には、近赤外線IRの透過性を有するとともに、基材24よりも高い硬度を有するハードコート層25が形成されている。ハードコート層25は、公知の表面処理剤によって形成されている。表面処理剤としては、例えば、アクリレート系、オキセタン系、シリコーン系等の有機系ハードコート剤、無機系ハードコート剤、有機無機ハイブリッド系ハードコート剤等が挙げられる。また、ハードコート剤として、紫外線(UV)の照射によって硬化されるタイプが用いられてもよいし、熱が加えられることによって硬化されるタイプが用いられてもよい。
【0035】
基材24の後面には、アンダーコート層26を介してヒータ部27が形成されている。アンダーコート層26は、ヒータ部27の基材24に対する密着性を高めるための層であり、上記ハードコート層25と同様の材料からなるアンダーコート剤によって形成されている。
【0036】
ヒータ部27は、導電性発熱材料、第1実施形態では銅により帯状に形成されており、通電により発熱する。ヒータ部27は、所定の配線パターン、例えば、互いに平行に延びる複数の直線部と、隣り合う直線部の端部同士を連結する複数の連結部とを備える配線パターンで配線されている。
【0037】
ヒータ部27と、アンダーコート層26のうち、ヒータ部27が形成されていない領域とは、保護層31によって後方から覆われている。保護層31は、SiO2 (二酸化ケイ素)の被膜によって構成されている。
【0038】
保護層31の後面には、透明な薄膜からなる反射抑制層(ARコートとも呼ばれる)32が形成されている。反射抑制層32は、例えば、MgF2 (フッ化マグネシウム)等によって形成されている。
【0039】
なお、反射抑制層32は単層の薄膜によって構成されてもよいし、多層の薄膜によって構成されてもよい。後者の場合、多数の薄膜として、屈折率や厚みが互いに異なるものが用いられてもよい。このようにすると、広範囲での波長について、近赤外線IRの反射を低減することができる。
【0040】
また、反射抑制層32として、TiO2 (二酸化チタン)、SiO2 等の金属酸化物を積層したものが用いられてもよい。
次に、上記のように構成された第1実施形態の作用について、近赤外線センサカバー21を製造する方法とともに説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
【0041】
図3及び
図4に示すように、近赤外線センサカバー21は基材形成工程、ハードコート層形成工程、アンダーコート層形成工程、マスク配置工程、発熱被膜形成工程、剥離工程、マスク除去工程、保護層形成工程及び反射抑制層形成工程を経ることで形成される。
【0042】
<基材形成工程>
図3(A)に示すように、基材形成工程では、図示しない固定型及び可動型を備える金型が型締される。上記型締に伴い、固定型及び可動型の間にキャビティが形成される。このキャビティに、溶融状態の樹脂材料(PC)が充填される。樹脂材料が硬化されると、所望の形状をなす透明な基材24がキャビティ内に形成される。金型が型開きされて、固定型と可動型との間から基材24が取り出される。
【0043】
<ハードコート層形成工程>
図3(B)に示すように、ハードコート層形成工程では、基材24の前面に対し表面処理剤が塗布される。この塗布された表面処理剤が硬化されることにより、基材24の前面に、透明で近赤外線の透過性を有するハードコート層25が形成される。
【0044】
<アンダーコート層形成工程>
図3(C)に示すように、アンダーコート層形成工程では、上記基材24の後面の全面に対し、上記アンダーコート剤が塗布される。このアンダーコート剤が、熱、紫外線照射等によって硬化すると、アンダーコート層26が形成される。
【0045】
アンダーコート層26は、ヒータ部27が形成される予定のヒータ部形成領域26aと、ヒータ部形成領域26aの縁部に沿って延びる帯状の分離領域26bとを含んでいる。分離領域26bの幅W1は、送信部15(
図1参照)から送信される近赤外線IRのビーム径(15mm)よりも小さく設定されている。第1実施形態では、幅W1は、0.1mm~1mmに設定されている。
【0046】
<マスク配置工程>
図3(D)に示すように、マスク配置工程では、アンダーコート層26のうち、ヒータ部形成領域26aとは異なり、かつ分離領域26bとは異なる領域26cにマスク28が配置される。
【0047】
<発熱被膜形成工程>
図3(E)に示すように、発熱被膜形成工程では、マスク28と、アンダーコート層26におけるヒータ部形成領域26a及び分離領域26bとを対象領域とする。上記対象領域に対し、銅からなる発熱被膜29が、スパッタリングによって形成される。
【0048】
<剥離工程>
剥離工程では、
図3(E)における分離領域26bに形成された発熱被膜29にレーザLが照射されて、同発熱被膜29が剥離される。この剥離により、
図4(A)に示すように、マスク28に形成された発熱被膜29と、ヒータ部形成領域26aに形成された発熱被膜29とが分離される。
【0049】
上記剥離の際、レーザLがアンダーコート層26に達すると、アンダーコート層26の後面が荒らされて、同後面に凹凸が生ずる。ただし、分離領域26bの幅W1が、上述したように、近赤外線IRのビーム径よりも小さい。そのため、アンダーコート層26の分離領域26bには、近赤外線IRの回折を生じさせる大きさの周期的な凹凸が形成されない。
【0050】
<マスク除去工程>
図4(A)及び
図4(B)に示すように、マスク除去工程では、マスク28が、同マスク28に形成された発熱被膜29とともに除去される。この除去は、例えば、剥離、吸引等の方法によって行なわれる。
【0051】
ここで、上記剥離工程を経ずにマスク除去工程を行なうことも可能である。しかし、マスク28に形成された発熱被膜29と、ヒータ部形成領域26aに形成された発熱被膜29とは、分離領域26bに形成された発熱被膜29を介して繋がっている。そのため、マスク28とそのマスク28に形成された発熱被膜29とが除去される際に、分離領域26bに形成された発熱被膜29を介して、ヒータ部形成領域26aに形成された発熱被膜29も一緒に除去されるおそれがある。
【0052】
この点、第1実施形態では、上記剥離工程が行なわれることで、ヒータ部形成領域26aに形成された発熱被膜29が、マスク28に形成された発熱被膜29から分離されている。そのため、発熱被膜29のうち、ヒータ部形成領域26aに位置するもののみがアンダーコート層26に残るように、マスク28と、そのマスク28に形成された発熱被膜29とを除去することが可能である。そして、マスク除去工程を経た後にアンダーコート層26に残った発熱被膜29により、ヒータ部27が構成される。
【0053】
<保護層形成工程>
図4(C)に示すように、保護層形成工程では、ヒータ部27と、アンダーコート層26のうちヒータ部27が形成されていない領域(分離領域26b、領域26c)とに対し、SiO2 が用いられて、スパッタリングが行なわれる。ヒータ部27とアンダーコート層26の上記領域とを後側から覆う保護層31(SiO2 被膜)が形成される。
【0054】
ここで、アンダーコート層26の上記領域には、分離領域26bが含まれる。剥離工程でのレーザLの照射により、アンダーコート層26の分離領域26bに形成された凹凸が保護層31によって埋められる。
【0055】
<反射抑制層形成工程>
図4(D)に示すように、反射抑制層形成工程では、MgF2 等の誘電体が用いられて、真空蒸着、スパッタリング、WETコーティング等が行なわれる。上記保護層31の後面の全面に反射抑制層32が形成される。
【0056】
上記のようにして製造された近赤外線センサカバー21は、
図1及び
図2に示すように、近赤外線センサ11のカバー17として用いられる。
近赤外線センサ11が設置された車両10において、送信部15から近赤外線IRが送信されると、その近赤外線IRは、カバー本体部23の後面に照射される。この際、照射された近赤外線IRが、カバー本体部23の後面で反射されることは、反射抑制層32によって抑制される。
【0057】
反射抑制層32を透過した近赤外線IRは、保護層31、アンダーコート層26、基材24及びハードコート層25を順に透過する。
第1実施形態では、上述したように、アンダーコート層26の後面に、近赤外線IRの回折を生じさせる大きさの凹凸が形成されていない。そのため、近赤外線IRが、アンダーコート層26の分離領域26bを透過する際に回折する現象が起こりにくい。これに伴い、回折に起因する干渉縞が発生しにくい。
【0058】
カバー本体部23を透過した近赤外線IRは、先行車両、歩行者等を含む物体に当たって反射される。反射された近赤外線IRは、再びカバー本体部23におけるハードコート層25、基材24、アンダーコート層26、保護層31及び反射抑制層32を順に透過する。上記のように、カバー本体部23を透過した近赤外線IRは、受信部16によって受信される。近赤外線センサ11では、送信した近赤外線IRと受信した近赤外線IRとに基づき、上記物体の認識が行なわれるとともに、車両10と同物体との距離、相対速度等の検出が行われる。
【0059】
上述したように、反射抑制層32で近赤外線IRの反射が抑制される分、カバー本体部23を透過する近赤外線IRの量が多くなる。カバー本体部23における近赤外線IRの透過性が、反射抑制層32が形成されない場合よりも向上する。近赤外線IRのうち、カバー本体部23によって減衰される量を許容範囲にとどめることができる。そのため、近赤外線センサ11は、上記認識機能及び検出機能を発揮しやすい。
【0060】
また、干渉縞が発生すると、近赤外線センサ11が車外の物体を誤検出するおそれがある。しかし、第1実施形態では、上述したように、近赤外線IRの回折が発生しにくく、回折に起因する干渉縞の発生が起こりにくい。そのため、干渉縞による近赤外線センサ11の検出精度の低下を抑制できる。
【0061】
ここで、基材24が、ヒータ部27よりもSP値(溶解度パラメータ)の高いPCによって形成されている。PCとヒータ部27とは相溶しにくく、両者の密着性が低い。
しかし、第1実施形態では、基材24とヒータ部27との間にアンダーコート層26が形成されている。そのため、このアンダーコート層26により、ヒータ部27の基材24に対する密着性が高められる。ヒータ部27が基材24に直接接触した状態で形成される場合よりも、ヒータ部27を基材24に密着させ、基材24からのヒータ部27の剥離を抑制できる。
【0062】
また、ヒータ部27を後方から覆う保護層31はヒータ部27を保護し、同ヒータ部27が他部材との接触により傷付くのを抑制する。そのため、保護層31による保護がない場合に比べ、ヒータ部27の耐久性を高めることができる。また、保護層31は、ヒータ部27を絶縁し、ヒータ部27と他部材との間で電流が流れるのを遮断する。
【0063】
さらに、近赤外線センサカバー21では、ハードコート層25が、カバー本体部23の耐衝撃性を高める。従って、カバー本体部23の前面に飛び石等により傷が付くのをハードコート層25によって抑制できる。また、ハードコート層25は、カバー本体部23の耐候性を高める。従って、太陽光、風雨、温度変化等が原因で、カバー本体部23が変質したり劣化したりするのをハードコート層25によって抑制できる。
【0064】
一方、ヒータ部27は、通電されると発熱する。この熱の一部は、カバー本体部23の前面に伝達される。そのため、カバー本体部23の前面に雪が付着しても、その雪は、ヒータ部27から伝わる熱によって溶かされる。降雪時でも近赤外線センサ11に、上記認識機能及び検出機能を発揮させることができる。
【0065】
(第2実施形態)
次に、近赤外線センサカバーの製造方法の第2実施形態について、
図5及び
図6を参照して説明する。
【0066】
第2実施形態では、
図5に示すように、近赤外線センサカバー41が近赤外線センサ11とは別に設けられている。より詳しくは、近赤外線センサ11は、送信部15及び受信部16が組み付けられたケース12と、ケース12よりも前方に配置されて、送信部15及び受信部16を前方から覆うカバー18とによって構成されている。カバー18は、例えば、PC、PMMA、COP、樹脂ガラス等によって形成されており、近赤外線IRの透過性を有している。
【0067】
近赤外線センサカバー41は、板状のカバー本体部43と、カバー本体部43の後面から後方へ突出する取付け部44とを備えている。カバー本体部43は、カバー18よりも前方に位置しており、送信部15及び受信部16を、前方からカバー18を介して間接的に覆っている。
【0068】
近赤外線センサカバー41は、第1実施形態における近赤外線センサ11のカバー17と同様、送信部15及び受信部16を前方から覆う機能を有するほかに、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能も有している。
【0069】
そのために、第2実施形態の近赤外線センサカバー41のカバー本体部43は、
図6に示すように第1実施形態のカバー本体部23と同様に、ハードコート層25、基材24、アンダーコート層26、ヒータ部27、保護層31及び反射抑制層32を備えている。
【0070】
カバー本体部43の構成は、以下の点で上記カバー本体部23の構成と異なっている。
・基材24が、その前部を構成する前基材45と、後部を構成する後基材46とに分割されている。
【0071】
・前基材45及び後基材46の間に加飾層47が設けられている。
前基材45及び後基材46は、第1実施形態における基材24と同様の樹脂材料によって形成されており、近赤外線IRの透過性を有している。前基材45の後面は凹凸形状をなしている。後基材46の前面は、後基材46の後面に対応した形状となるように、凸凹状に形成されている。
【0072】
加飾層47は、近赤外線センサカバー41を装飾するための層である。加飾層47は、近赤外線IRの透過率が高く、かつ可視光の透過率が低い材料によって形成されている。例えば、加飾層47は、黒色、青色等の濃色を有する有色加飾層によって構成されてもよい。また、加飾層47は、インジウム(In)等の金属材料からなり、金属光沢を有する光輝加飾層によって構成されてもよい。さらに、加飾層47は、上記有色加飾層と光輝加飾層との組み合わせによって構成されてもよい。加飾層47は、前基材45の後面と、後基材46の前面とに対応した形状に形成されていて、凹凸状をなしている。
【0073】
上記以外の構成は、第1実施形態と同様である。そのため、第2実施形態において第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
近赤外線センサカバー41は、近赤外線センサカバー21と同様の工程を経て製造される。なお、近赤外線センサカバー41における基材24の成形に際しては、前基材45及び後基材46の一方、例えば前基材45が射出成形等の樹脂成形法によって成形される。前基材45の後面に対し、塗装、印刷等によって有色加飾層からなる加飾層47が形成される。また、前基材45の後面に対し、インジウム等の金属材料がスパッタリング、蒸着等されることにより、光輝加飾層からなる加飾層47が形成される。上記のようにして前基材45の後側に加飾層47を形成してなる中間成形体が得られる。この中間成形体をインサート部材としたインサート成形法等の樹脂成形法によって、加飾層47の後面に接触した状態で後基材46が成形される。
【0074】
上記のようにして製造された近赤外線センサカバー41は、
図5に示すように、近赤外線センサ11の前方に配置され、取付け部44において車両10の車体に取付けられる。
第2実施形態では、送信部15から近赤外線IRが送信されると、その近赤外線IRが、カバー本体部43における反射抑制層32、保護層31、アンダーコート層26、後基材46、加飾層47、前基材45及びハードコート層25を順に透過する。
【0075】
車外の物体に当たって反射された近赤外線IRは、再びカバー本体部43におけるハードコート層25、前基材45、加飾層47、後基材46、アンダーコート層26、保護層31及び反射抑制層32を順に透過する。カバー本体部43を透過した近赤外線IRは受信部16によって受信される。
【0076】
従って、第2実施形態でも、第1実施形態と同様の作用及び効果が得られる。そのほかにも第2実施形態では、次の作用及び効果が得られる。
・カバー本体部43に対し前方から可視光が照射されると、その可視光はハードコート層25及び前基材45を透過し、加飾層47で反射される。車両前方から近赤外線センサカバー41を見ると、ハードコート層25及び前基材45を通して、その前基材45の後方に加飾層47が位置するように見える。このように、加飾層47によって近赤外線センサカバー41が装飾され、同近赤外線センサカバー41及びその周辺部分の見栄えが向上する。
【0077】
特に、加飾層47は、前基材45の後面の形状と、後基材46の前面の形状とに対応するように、凹凸状に形成されている。そのため、車両10の前方からは、加飾層47が立体的に見える。近赤外線センサカバー41及びその周辺部分の見栄えがさらに向上する。
【0078】
・可視光の加飾層47での上記反射は、近赤外線センサ11よりも前方で行われる。加飾層47は、近赤外線センサ11を覆い隠す機能を発揮する。そのため、近赤外線センサカバー41よりも前方からは、近赤外線センサ11が見えにくい。従って、近赤外線センサ11が近赤外線センサカバー41を通して透けて見える場合に比べて意匠性が向上する。
【0079】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0080】
<カバー本体部23,43について>
・近赤外線センサ11のカバー17として機能する第1実施形態の近赤外線センサカバー21における基材の構成が、近赤外線センサ11とは別に設けられる第2実施形態の近赤外線センサカバー41における基材の構成に適用されてもよい。また、第2実施形態の近赤外線センサカバー41における基材の構成が、第1実施形態の近赤外線センサカバー21における基材の構成に適用されてもよい。
【0081】
・ハードコート層25は、基材24よりも高い硬度を有するハードコートフィルムによって構成されてもよい。ハードコートフィルムとしては、PC、PMMA等の透明な樹脂材料からなるフィルム基材上に、上記表面処理剤を塗布することにより形成されたものを用いることができる。
【0082】
・カバー本体部23,43におけるハードコート層25、保護層31及び反射抑制層32の少なくとも1つは適宜省略可能である。
・第2実施形態における後基材46に可視光カット顔料が配合されてもよい。また、加飾層47の後面に黒押さえ塗膜が形成される場合には、その黒押さえ塗膜に可視光カット顔料が配合されてもよい。
【0083】
・保護層31は、上記SiO2 被膜に代えて、アクリル、ウレタン系等の塗膜によって構成されてもよい。この場合、保護層形成工程では、ヒータ部27と、アンダーコート層26のうち、ヒータ部27が形成されていない領域(分離領域26b、領域26c)とに対し、アクリル、ウレタン系等の塗料が塗布及び硬化される。
【0084】
<工程について>
・ハードコート層形成工程は、アンダーコート層形成工程よりも後に行なわれてもよい。
【0085】
<近赤外線センサカバー21,41の適用対象について>
・送信部15及び受信部16が近赤外線センサカバー21,41によって覆われる近赤外線センサ11としては、900nmの波長以外に、例えば1550nmの波長の近赤外線IRを送信及び受信するものであってもよい。
【0086】
・第2実施形態において、後基材46に代えて押さえ塗膜が設けられてもよい。
・近赤外線センサカバー21,41は、近赤外線センサ11が車両10の前部とは異なる箇所、例えば後部に設置された場合にも適用可能である。この場合、送信部15は、車両10の後方に向けて近赤外線を送信する。近赤外線センサカバー21,41は、近赤外線の送信方向における送信部15及び受信部16の前方、すなわち、送信部15及び受信部16に対し車両10の後方となる箇所に配置される。
【0087】
同様に、上記近赤外線センサカバー21,41は、近赤外線センサ11が車両10の斜め前側部や斜め後側部に設置された場合にも適用可能である。
・第2実施形態の近赤外線センサカバー41は、エンブレム、オーナメント、マーク等、車両10を装飾する機能を有する車両用外装品に具体化されてもよい。
【0088】
・近赤外線センサカバー21,41は、近赤外線センサ11が、車両10とは異なる種類の乗物、例えば、電車、航空機、船舶等の乗物に設置された場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0089】
11…近赤外線センサ
15…送信部
16…受信部
21,41…近赤外線センサカバー
23,43…カバー本体部
24…基材
26…アンダーコート層
26a…ヒータ部形成領域
26b…分離領域
26c…領域
27…ヒータ部
28…マスク
29…発熱被膜
31…保護層
32…反射抑制層
45…前基材(基材)
46…後基材(基材)
IR…近赤外線
L…レーザ
W1…幅