(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145059
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】潤滑液の異物分離構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20220926BHJP
F16N 39/06 20060101ALI20220926BHJP
F16N 7/22 20060101ALI20220926BHJP
F16N 31/00 20060101ALI20220926BHJP
H02K 5/16 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
F16H57/04 F
F16N39/06
F16N7/22
F16N31/00 D
H02K5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046308
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森谷 浩司
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 一郎
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 謙
(72)【発明者】
【氏名】佐野 敏成
【テーマコード(参考)】
3J063
5H605
【Fターム(参考)】
3J063AB01
3J063BA11
3J063XD03
3J063XD16
3J063XD32
3J063XD62
3J063XD72
3J063XE03
3J063XE04
5H605EB21
(57)【要約】
【課題】回転する部分を有する装置における潤滑油から異物の除去を効果的に行う。
【解決手段】貯留部に貯められた潤滑油16に少なくとも一部が浸かり、潤滑油16を掻き上げて潤滑に利用する第1歯車10と、貯留部の底部と第1歯車10との間に、潤滑油16は通過させるが、潤滑油16に含まれる異物の少なくとも一部は通過させない仕切り板18と、を備える異物分離構造100とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留部に貯められた潤滑油に少なくとも一部が浸かり、前記潤滑油を掻き上げて潤滑に利用する回転体と、
前記貯留部の底部と前記回転体との間に、前記潤滑油は通過させるが、前記潤滑油に含まれる異物の少なくとも一部は通過させない仕切り板と、
を備えることを特徴とする異物分離構造。
【請求項2】
請求項1に記載の異物分離構造であって、
前記仕切り板は、前記回転体の表面に沿った円弧状の部分を備えることを特徴とする異物分離構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の異物分離構造であって、
前記仕切り板は、メッシュ及び通油穴の少なくとも1つにより前記潤滑油は通過させるが、前記潤滑油に含まれる異物の少なくとも一部は通過させないことを特徴とする異物分離構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の異物分離構造であって、
前記仕切り板は、磁力を有する材料によって構成されていることを特徴とする異物分離構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の異物分離構造であって、
前記潤滑油が重力落下して前記貯留部に戻る空間に副仕切り板を備えることを特徴とする異物分離構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の異物分離構造であって、
前記潤滑油が重力落下して前記貯留部に戻る空間から前記貯留部の底部に向けて延伸させた副仕切り部を備えることを特徴とする異物分離構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑液の異物分離構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータや発電機等の回転電機や回転を伴う歯車装置において、回転体によって潤滑油を掻き上げて循環させる技術が採用されている。このような回転を伴う装置において、潤滑油に混入する異物を除去することが必要となる。
【0003】
そこで、掻き揚げられた潤滑油が貯留部に戻されるまでの経路に異物を取り除くためのフィルタを設けた構成が提案されている。
【0004】
例えば、ロータで掻き上げられた潤滑油が重力によってケース内を落下し、経路上にあるフィルタを通ることで潤滑油からの異物の除去が実現される。一方、遊星歯車の潤滑油は、ロータ軸穴、左側軸受、遊星ギヤを通り、遊星ギヤ用の貯留部に戻される。そして、溢れ出た潤滑油は、最下部のオイル貯留部に落下する。(特許文献1)
【0005】
また、例えば、油室内の潤滑油を遊星歯車機構の回転で掻き上げ潤滑すると共に、油室内で油滴として拡散している潤滑油で軸を支持する軸受の潤滑を行う構成が開示されている。潤滑油の油滴に含まれる異物を軸受部に混入させないために、軸受端面のシール部に設置したフィルタで異物を分離している。(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-148196号公報
【特許文献2】特開2017-051027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術では、歯車の潤滑油については予めフィルタで異物は除去されているものの、遊星歯車の貯留部に溜まった潤滑油には歯車歯面の摩耗粉が含まれたものとなり、異物のかみ込みのリスクが高まる。さらに、溢れ出た潤滑油は、軸を通って歯車に再度供給される場合もあり、この場合も異物による影響が問題となるおそれがある。
【0008】
また、特許文献2の技術では、軸受部に供給される油の異物分離は可能だが、油の供給元である歯車で掻き上げる油には異物が混入しており、歯車のかみあい部には異物が混入し、歯車の損傷のリスクは軽減できていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様は、貯留部に貯められた潤滑油に少なくとも一部が浸かり、前記潤滑油を掻き上げて潤滑に利用する回転体と、前記貯留部の底部と前記回転体との間に、前記潤滑油は通過させるが、前記潤滑油に含まれる異物の少なくとも一部は通過させない仕切り板と、を備える異物分離構造である。
【0010】
ここで、前記仕切り板は、前記回転体の表面に沿った円弧状の部分を備えることが好適である。
【0011】
また、前記仕切り板は、メッシュ及び通油穴の少なくとも1つにより前記潤滑油は通過させるが、前記潤滑油に含まれる異物の少なくとも一部は通過させないことが好適である。
【0012】
また、前記仕切り板は、磁力を有する材料によって構成されていることが好適である。
【0013】
また、前記潤滑油が重力落下して貯留部に戻る空間に副仕切り板を備えることが好適である。
【0014】
また、前記潤滑油が重力落下して前記貯留部に戻る空間から前記貯留部の底部に向けて延伸させた副仕切り部を備えることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回転する部分を有する装置における潤滑油から異物の除去を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態における異物分離構造の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における仕切り板の構成例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における異物分離構造の構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における異物分離構造の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態における異物分離構造100は、
図1に示すように、第1歯車10、第2歯車12、筐体14、潤滑油16及び仕切り板18を含んで構成される。異物分離構造100は、筐体14内に2つの第1歯車10及び第2歯車12が噛み合わされて回転可能に設けられた構成を備える。異物分離構造100は、例えば、歯車減速装置(トランスミッション)に適用される。
【0018】
第1歯車10及び第2歯車12は、それぞれの回転軸を中心に回転する歯車である。第1歯車10及び第2歯車12は、筐体14内に配置される。第1歯車10及び第2歯車12は、それぞれ円柱形状の外周に設けられた歯が互いに噛み合うように組み合わされる。第1歯車10及び第2歯車12は、外部からの駆動力によっていずれか一方が回転させられることによって他方を回転させることができる。
【0019】
筐体14は、第1歯車10、第2歯車12、潤滑油16及び仕切り板18を内部に収納する中空の構造物である。筐体14の底部分は潤滑油16を貯める貯留部としても機能する。
【0020】
潤滑油16は、第1歯車10及び第2歯車12を効率よく潤滑させる潤滑液として使われる油である。潤滑油16は、第1歯車10及び第2歯車12を冷却するための冷却液として機能してもよい。潤滑油16は、特に限定されるものではないが、例えば、鉱物油、合成油、植物油、動物油等とすることができる。
【0021】
本実施の形態では、第1歯車10の一部が筐体14の底部に貯められた潤滑油16に浸っている。
図1の矢印で示すように、第1歯車10の回転に伴って筐体14の貯留部に貯められた潤滑油16が掻き上げられて、第1歯車10の歯面に沿って第2歯車12との噛み合い部分まで供給されることによって第1歯車10と第2歯車12とを潤滑させ、第1歯車10の回転と重力によって筐体14の貯留部に戻される。また、第1歯車10によって掻き上げられた潤滑油16の一部は、油滴16aとして筐体14内に飛散する。
【0022】
仕切り板18は、潤滑油16は通過させるが、潤滑油16に含まれる異物の少なくとも一部は通過させないフィルタとしての機能を果たす板状部材である。仕切り板18は、例えば、
図2(a)~
図2(c)に示すように、メッシュ状の板、通油穴を有する板、通結穴にメッシュ状のフィルタを設けた板等とすることができる。ここで、メッシュの網目及び通油穴の径は、潤滑油16に混入した異物よりも小さく、潤滑油16と異物とを分離できる大きさとすることが好適である。
【0023】
仕切り板18は、少なくとも一部が潤滑油16の貯留部の底部と第1歯車10との間に位置し、潤滑油16に浸かるように配置されている。例えば、
図1に示すように、貯留部に貯められた潤滑油16に浸る第1歯車10の歯先の外周面に沿って円弧状部18aを備えることが好適である。仕切り板18の円弧状部18aと第1歯車10の歯先との間隙はできるだけ狭く、例えば1cm以下とすることが好適である。
【0024】
このように、仕切り板18を設けることによって、第1歯車10によって潤滑油16が掻き上げられる際に筐体14の底部の貯留部に貯められた潤滑油16が仕切り板18を通って第1歯車10の歯先に供給されることになり、貯留部に貯められていた潤滑油16に混入している異物を仕切り板18によって潤滑油16から分離することができる。これによって、第1歯車10の回転に伴い掻き上げられる潤滑油16への異物の混入が抑制できる。したがって、異物の噛み込みによる第1歯車10及び第2歯車12の歯面の疵及びこれに起因するき裂の発生や歯面の剥離等の損傷を防ぐことができる。
【0025】
なお、仕切り板18の先端部18bは、貯留部に貯められた潤滑油16の油面より上部に位置させることが好適である。これにより、貯留部に一旦戻された潤滑油16に混入している異物が仕切り板18の先端部18b側から第1歯車10と仕切り板18との間の領域に入り込むことを抑制することができる。したがって、第1歯車10によって潤滑油16が掻き上げられる際に、第1歯車10と仕切り板18との間の領域に入り込んだ異物が一緒に掻き上げられることを防ぐことができる。
【0026】
また、磁力を有する材料で仕切り板18を構成してもよい。仕切り板18に磁力を持たせることによって、仕切り板18の磁力によって鉄粉等の金属粉を潤滑油16から分離することができる。したがって、仕切り板18のメッシュの網目及び通油穴の径をより大きくすることができ、通油不足による潤滑油16の掻き上げ量の不足を低減することができる。
【0027】
図3は、変形例である異物分離構造102の構成を示す。異物分離構造102の仕切り板18では、第1歯車10と第2歯車12との噛み合い部分を潤滑した潤滑油16が重力落下して貯留部に戻る空間に副仕切り部18cを備えた構成としている。
【0028】
異物分離構造102の構成とすることによって、第1歯車10によって掻き上げられ、第1歯車10と第2歯車12との噛み合い部分を潤滑した後に重力落下によって筐体14の貯留部に戻される前に副仕切り部18cによって潤滑油16から異物を除去することができる。
【0029】
この場合、副仕切り部18cは、貯留部に貯められた潤滑油16の油面より上部に位置することが好適である。例えば、貯留部に貯められた潤滑油16の油面より上部に位置する円弧状部18aの先端部18bから連続的に副仕切り部18cを設けることが好適である。
【0030】
図4は、変形例である異物分離構造104の構成を示す。異物分離構造104の仕切り板18では、第1歯車10と第2歯車12との噛み合い部分を潤滑した潤滑油16が重力落下して貯留部に戻る空間から筐体14の底部に向けて延伸させた副仕切り部18dを備えた構成としている。
【0031】
異物分離構造104の構成とすることによって、筐体14の底部の貯留部内が2つに分割される。すなわち、貯留部内において副仕切り部18dによって第1歯車10及び第2歯車12の潤滑後に戻された潤滑油16から異物が溜まる領域Aと異物が除去された潤滑油16が貯められる領域Bとに分割される。これによって、潤滑油16から異物をより確実に除去したうえで再度潤滑に利用することができる。
【0032】
なお、異物分離構造102における副仕切り部18cと異物分離構造104における副仕切り部18dとを組み合わせた構成としてもよい。
【0033】
また、異物分離構造102及び異物分離構造104で示した仕切り板18の副仕切り部18c及び副仕切り部18cと円弧状部18aにおける形状やメッシュの網目及び通油穴の径等を変更してもよい。例えば、副仕切り部18c及び副仕切り部18dにおけるメッシュの網目及び通油穴の径を円弧状部18aにおけるメッシュの網目及び通油穴の径より大きくした構成としてもよい。すなわち、副仕切り部18c及び副仕切り部18dでは比較的大きなバリやゴミ等の異物を分離し、円弧状部18aでは比較的小さな摩耗粉等の異物を分離するようにしてもよい。このように、仕切り板18における部分毎に機能及び作用を分けることによって、メッシュや通油穴の目詰まりまでの時間をより長くすることができ、仕切り板18の交換頻度を低減することができる。
【0034】
また、本実施の形態では、第1歯車10及び第2歯車12を回転体の例として示したが、これに限定されるものではない。本発明の異物分離構造の適用範囲は、潤滑油16による潤滑の対象となり得る回転体であればよく、例えばモータや発電機のロータ、タービン等としてもよい。
【符号の説明】
【0035】
10 第1歯車、12 第2歯車、14 筐体、16 潤滑油、16a 油滴、18 仕切り板、18a 円弧状部、18b 先端部、18c 副仕切り部、18d 副仕切り部、100,102,104 異物分離構造。