(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145081
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】高圧配電線の断線点を推定する装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/08 20200101AFI20220926BHJP
H02H 7/26 20060101ALI20220926BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20220926BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
G01R31/08
H02H7/26 D
H02J13/00 301D
H02J3/00 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046335
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】児玉 安広
(72)【発明者】
【氏名】西田 悠介
【テーマコード(参考)】
2G033
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
2G033AA02
2G033AB01
2G033AC01
2G033AD18
2G033AF02
2G033AG14
5G064AA04
5G064AC09
5G064CB08
5G064CB19
5G064DA03
5G066AA03
5G066AA09
5G066AE04
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】高圧配電線の断線点を推定する装置および方法を提供する。
【解決手段】断線推定装置は、高圧配電線の電流および電圧を測定するセンサ内蔵開閉器と、高圧配電線の共同接地線から第1の接地極に流れる電流を測定する第1の電流測定器と、共同接地線から第2の接地極に流れる電流を測定する第2の電流測定器と、高圧配電線の電流値および電圧値を受け取るとともに、第1および第2の電流値を受け取る計算機と、を有し、計算機は、高圧配電線から電力供給される電力需要家の負荷をシミュレーションした複数の負荷パターンに関して、断線点距離と、第1および第2の電流値のゼロクロス点の時間差と、の関係をシミュレーションにより求め、測定された第1および第2の電流値から、ゼロクロス点の時間差を計算し、計算した時間差と、シミュレーションにより求めた関係と、高圧配電線の電流値および電圧値と、を用いて断線点を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧配電線の断線点を推定する断線推定装置であって、前記断線推定装置は、
配電用変電所と前記高圧配電線との接続点に設置され、前記高圧配電線の電流および電圧を測定するセンサ内蔵開閉器と、
前記高圧配電線の共同接地線から第1の接地極に流れる電流を測定する第1の電流測定器と、
前記共同接地線から第2の接地極に流れる電流を測定する第2の電流測定器と、
前記センサ内蔵開閉器によって測定された前記高圧配電線の電流値および電圧値を受け取るとともに、前記第1の電流測定器および前記第2の電流測定器によって測定された第1の電流値および第2の電流値を受け取る計算機と、
を有し、
前記計算機は、
前記高圧配電線から電力供給される電力需要家の負荷をシミュレーションした複数の負荷パターンに関して、断線点距離と、第1の電流値および第2の電流値のゼロクロス点の時間差と、の関係をシミュレーションにより求め、
測定された第1の電流値および第2の電流値から、ゼロクロス点の時間差を計算し、
計算した時間差と、シミュレーションにより求めた関係と、前記高圧配電線の前記電流値および前記電圧値と、を用いて断線点を推定する、
断線推定装置。
【請求項2】
前記高圧配電線は、2つの幹線を含み、
前記センサ内蔵開閉器は、前記2つの幹線にそれぞれ設置された2つのセンサ内蔵開閉器を含む、
請求項1に記載の断線推定装置。
【請求項3】
前記高圧配電線は、幹線から分岐した少なくとも1つの分岐線を含む、
請求項1または2に記載の断線推定装置。
【請求項4】
前記計算機は、
前記高圧配電線の前記電流値から、前記負荷パターンを決定し、
前記高圧配電線の前記電流値および前記電圧値の変化から、前記高圧配電線の断線相を決定する、
請求項1から3のいずれかに記載の断線推定装置。
【請求項5】
幹線断線時のゼロクロス点の時間差は、分岐線断線時のゼロクロス点の時間差より大きい、
請求項1から4のいずれかに記載の断線推定装置。
【請求項6】
高圧配電線の断線点を推定する方法であって、
配電用変電所と前記高圧配電線との接続点に設置されたセンサ内蔵開閉器によって、前記高圧配電線の電流および電圧を測定し、
第1の電流測定器によって、前記高圧配電線の共同接地線から第1の接地極に流れる電流を測定し、
第2の電流測定器によって、前記共同接地線から第2の接地極に流れる電流を測定し、
計算機によって、前記センサ内蔵開閉器によって測定された前記高圧配電線の電流値および電圧値を受け取るとともに、前記第1の電流測定器および前記第2の電流測定器によって測定された第1の電流値および第2の電流値を受け取り、
前記計算機によって、前記高圧配電線から電力供給される電力需要家の負荷をシミュレーションした複数の負荷パターンに関して、断線点距離と、第1の電流値および第2の電流値のゼロクロス点の時間差と、の関係をシミュレーションにより求め、
前記計算機によって、測定された第1の電流値および第2の電流値から、ゼロクロス点の時間差を計算し、
前記計算機によって、計算した時間差と、シミュレーションにより求めた関係と、前記高圧配電線の前記電流値および前記電圧値と、を用いて断線点を推定する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧配電線の断線点を推定する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧配電線の断線事故が発生した場合、公衆安全の確保の観点から早期に断線点を発見する必要がある。現状、同じ地域において複数の需要家が停電している、高圧配電線が垂れ下がっているなどの情報を基に断線点の特定を行っている。また、システムを用いた方法として、高圧配電線に設置されたセンサ内蔵開閉器により、三相交流の各相の位相差が120度か否かを監視し、120度から変化した場合に断線が生じたことを発見することができる。ただし、この方法では、高圧配電線のどこで断線が生じたのかを発見することはできない。
【0003】
その他、特許文献1では、高圧配電線に区分開閉器を設置し、この区分開閉器の両側に電源側接地開閉器および負荷側接地開閉器を設置し、さらに、断線事故を検出し各開閉器を制御する検出装置を設け、断線事故を検出した場合に、電源側接地開閉器の任意の健全相を強制的に地絡状態とすることにより、断線事故が発生した高圧配電線の送電停止を促すシステムが提案されている。しかしながら、このシステムでもまた、高圧配電線のどこで断線が生じたのかを発見することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、高圧配電線のどこで断線が生じたのかを発見することができる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、高圧配電線の断線点を推定する断線推定装置であって、前記断線推定装置は、
配電用変電所と前記高圧配電線との接続点に設置され、前記高圧配電線の電流および電圧を測定するセンサ内蔵開閉器と、
前記高圧配電線の共同接地線から第1の接地極に流れる電流を測定する第1の電流測定器と、
前記共同接地線から第2の接地極に流れる電流を測定する第2の電流測定器と、
前記センサ内蔵開閉器によって測定された前記高圧配電線の電流値および電圧値を受け取るとともに、前記第1の電流測定器および前記第2の電流測定器によって測定された第1の電流値および第2の電流値を受け取る計算機と、
を有し、
前記計算機は、
前記高圧配電線から電力供給される電力需要家の負荷をシミュレーションした複数の負荷パターンに関して、断線点距離と、第1の電流値および第2の電流値のゼロクロス点の時間差と、の関係をシミュレーションにより求め、
測定された第1の電流値および第2の電流値から、ゼロクロス点の時間差を計算し、
計算した時間差と、シミュレーションにより求めた関係と、前記高圧配電線の前記電流値および前記電圧値と、を用いて断線点を推定する。
【0007】
本発明では、第1の電流測定器および第2の電流測定器で挟まれる区間で断線が発生した場合に断線点を推定できる。
【0008】
本発明では、前記高圧配電線は、2つの幹線を含み、
前記センサ内蔵開閉器は、前記2つの幹線にそれぞれ設置された2つのセンサ内蔵開閉器を含むことが好ましい。
【0009】
本発明では、前記高圧配電線は、幹線から分岐した少なくとも1つの分岐線を含むことが好ましい。
【0010】
本発明では、前記計算機は、
前記高圧配電線の前記電流値から、前記負荷パターンを決定し、
前記高圧配電線の前記電流値および前記電圧値の変化から、前記高圧配電線の断線相を決定することが好ましい。
【0011】
本発明では、幹線断線時のゼロクロス点の時間差は、分岐線断線時のゼロクロス点の時間差より大きいことが好ましい。
【0012】
本発明は、高圧配電線の断線点を推定する方法であって、
配電用変電所と前記高圧配電線との接続点に設置されたセンサ内蔵開閉器によって、前記高圧配電線の電流および電圧を測定し、
第1の電流測定器によって、前記高圧配電線の共同接地線から第1の接地極に流れる電流を測定し、
第2の電流測定器によって、前記共同接地線から第2の接地極に流れる電流を測定し、
計算機によって、前記センサ内蔵開閉器によって測定された前記高圧配電線の電流値および電圧値を受け取るとともに、前記第1の電流測定器および前記第2の電流測定器によって測定された第1の電流値および第2の電流値を受け取り、
前記計算機によって、前記高圧配電線から電力供給される電力需要家の負荷をシミュレーションした複数の負荷パターンに関して、断線点距離と、第1の電流値および第2の電流値のゼロクロス点の時間差と、の関係をシミュレーションにより求め、
前記計算機によって、測定された第1の電流値および第2の電流値から、ゼロクロス点の時間差を計算し、
前記計算機によって、計算した時間差と、シミュレーションにより求めた関係と、前記高圧配電線の前記電流値および前記電圧値と、を用いて断線点を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る断線推定装置の概略的なブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る断線推定装置のシミュレーションモデルである。
【
図4】(a)は、負荷パターンP1を用いたときの幹線の断線による電圧変化を示し、(b)は、電流変化を示す。
【
図5】(a)は、負荷パターンP1における幹線の断線時にCT1とCT2に流れる電流の波形を示し、(b)は、負荷パターンP4における同電流の波形を示す。
【
図6】断線点距離と幹線の断線時にCT1とCT2に流れる電流のゼロクロス点の時間差との関係を示す。
【
図7】(a)は、負荷パターンP1を用いたときの分岐線の断線による電圧変化を示し、(b)は、電流変化を示す。
【
図8】負荷パターンP4を用いたときの分岐線の断線による電流変化を示す。
【
図9】(a)は、負荷パターンP1における分岐線の断線時にCT1とCT2に流れる電流の波形を示し、(b)は、(a)においてAで囲んだ部分の拡大図を示す。
【
図10】(a)は、負荷パターンP4における分岐線の断線時にCT1とCT2に流れる電流の波形を示し、(b)は、(a)においてAで囲んだ部分の拡大図を示す。
【
図11】断線点距離と分岐線の断線時にCT1とCT2に流れる電流のゼロクロス点の時間差との関係を示す。
【
図12】ゼロクロス点の時間差の発生要因を説明するための共同接地線の等価回路を示す。
【
図13】(a)は、高圧配電線の区間に電流不平衡が生じた場合の幹線断線時における断線点距離とCT1とCT2に流れる電流のゼロクロス点の時間差との関係を示し、(b)は、分岐線断線時における関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る断線推定装置の概略的なブロック図である。
断線推定装置1aは、センサ内蔵開閉器Sと、第1の電流測定器CT1(単に「CT1」とも称する)と、第2の電流測定器CT2(単に「CT2」とも称する)と、計算機COMと、を有し、高圧配電線の第1の位置P1と第2の位置P2との間の断線点を推定する。
センサ内蔵開閉器Sは、配電用変電所と高圧配電線との接続点に設置され、高圧配電線の電流および電圧を測定する。
第1の電流測定器CT1は、電柱の高圧配電線と大地との間に設置されている共同接地線と、高圧配電線の第1の位置P1に対応する第1の接地極と、の間に接続され、共同接地線から第1の接地極に流れる電流を測定する。
第2の電流測定器CT2は、共同接地線と、高圧配電線の第2の位置P2に対応する第2の接地極と、の間に接続され、共同接地線から第2の接地極に流れる電流を測定する。
計算機COMは、例えばパーソナルコンピュータであり、センサ内蔵開閉器Sに有線または無線で接続され、センサ内蔵開閉器Sによって測定された高圧配電線の電流値および電圧値を受け取る。また、計算機COMは、第1の電流測定器CT1および第2の電流測定器CT2にも有線または無線で接続され、第1の電流測定器CT1および第2の電流測定器CT2によって測定された第1の電流値および第2の電流値を受け取る。
なお、計算機COMは、各測定値を同期して受け取ることができる。
計算機COMは、測定された第1の電流値および第2の電流値から、第1の電流値および第2の電流値のゼロクロス点の時間差を計算する。
また、計算機COMは、高圧配電線から電力供給される電力需要家の負荷をシミュレーションした複数の負荷パターンに関して、断線点距離(高圧配電線の立ち上がりから断線点までの距離)と、第1の電流値および第2の電流値のゼロクロス点の時間差と、の関係をシミュレーションにより求める。
そして、計算機COMは、計算した時間差と、シミュレーションにより求めた関係と、高圧配電線の電流値および電圧値と、を用いて、高圧配電線の第1の位置P1と第2の位置P2との間のどの位置で断線が生じているか、断線点を推定する。以下、この推定方法について詳細に説明する。
【0015】
図2は、本発明の一実施形態に係る断線推定装置のシミュレーションモデルである。
本発明では、電力系統の過渡解析で用いられるATPシミュレーションを用いている。
断線推定装置1bは、隣接する2つの高圧配電線の幹線1、2にそれぞれ設置されたセンサ内蔵開閉器S1、S2と、第1の電流測定器CT1と、第2の電流測定器CT2と、計算機COMと、を有し、幹線1、2の断線点および幹線1、2から分岐した分岐線の断線点を推定する。
なお、図示例では、幹線1、2は隣接しているが、隣接していなくてもよい。
幹線1、2の亘長はそれぞれ5kmであり、幹線1、2にはそれぞれ5つの変圧器(電柱上の三相変圧器)が設置されている。また、幹線1、2は、高圧配電線連系点により互いに接続されている。
高圧配電線の分岐線の亘長は、2kmであり、各分岐線には、1kmごとに2つの変圧器が設置されている。
本実施形態では、幹線1、2からそれぞれ5つの分岐線が分岐しているが、分岐線の数および亘長は任意である。
共同接地線の亘長は、幹線1、2に対応して10kmである。
その他のシミュレーション条件は、以下のとおりである。
・断線相:V相
・バンク静電容量C
B:2.0(μF/相)
・接地抵抗値:20(Ω/km)
・高圧配電線立ち上がり電流:218~334(A)
・断線開始時間:0.05(s)
・負荷:4パターン(表1参照)
【0016】
図3は、負荷の結線を説明するための図である。
負荷を模擬するために、高圧配電線と共同接地線との間に設置されている各変圧器に3相200Vの負荷R1、R2、R3を設置する。負荷R1はUV相間、負荷R2はVW相間、負荷R3はUW相間に接続されている。
表1の負荷パターンP1に示すように、R1=R2=R3のときは、各相電流の大きさは等しい(平衡)。負荷パターンP2~P4に示すように、負荷の大きさを変えると、各相電流は不平衡となる。これらの負荷パターンP1~P4を用いて、幹線断線時および分岐線断線時のシミュレーションを行う。
この負荷パターンP1~P4は、高圧配電線から変圧器を介して電力供給される電力需要家の負荷を模擬したものである。計算機COMは、センサ内蔵開閉器S、S1、S2によって測定された高圧配電線の電流値から、負荷パターンを決定する。
なお、本実施形態では、説明のために4つの負荷パターンを例示するが、計算機COMは、より多数の負荷パターンに関するシミュレーションを行うことができる。
【表1】
【0017】
(幹線断線時のシミュレーション)
図2~
図6を用いて、幹線断線時のシミュレーションを説明する。
図2において、高圧配電線の立ち上がりから1kmの位置DC1(変圧器よりわずかに負荷側の位置)で、V相が断線したと仮定する。
【0018】
図4(a)は、負荷パターンP1を用いたときの幹線の断線による電圧変化を示し、
図4(b)は、電流変化を示す。
図4(a)(b)ともに、t=0.05sにおいて断線が生じ、実線(_PS)が断線点より左側(配電用変電所側)で測定した波形であり、破線(_LS)が断線点より右側(負荷側)で測定した波形である。
図4(a)に示すように、健全相(U相、W相)の電圧は、断線前後において、断線点の左右(実線・破線)ともに変化しない。一方、断線相(V相)の電圧は、断線前後において、断線点の左(実線)では変化しないが、断線点の右(破線)では大きさが半分になる。これは、変圧器による電圧の回り込みに起因する。
図4(b)に示すように、健全相(U相、W相)の電流は、断線後において、断線点の左右(実線・破線)ともにわずかに減少する。また、健全相(U相、W相)の電流の位相差は、断線前は120度であり、断線後は180度である。断線相(V相)の電流は、断線後において、断線点の左(実線)では大きく減少し、断線点の右(破線)ではゼロになる。これは、断線相には電流が流れないためである。
このように、計算機COMは、センサ内蔵開閉器S1によって測定された高圧配電線の電流値および電圧値の変化から、高圧配電線の断線相を決定することができる。
【0019】
図5(a)は、負荷パターンP1における幹線の断線時にCT1とCT2に流れる電流の波形を示し、
図5(b)は、負荷パターンP4における同電流の波形を示す。
図2に示すように、断線点が、高圧配電線の立ち上がりから1kmの位置DC1、2kmの位置DC2、3kmの位置DC3、4kmの位置DC4の4通り(それぞれ断線点距離D
DC=1~4km)であるとして、それぞれの断線発生時に共同接地線に流れる電流Ict1、Ict2を、第1の電流測定器CT1および第2の電流測定器CT2により測定する。
図5(a)に示すように、第1の電流測定器CT1により測定した電流Ict1は、断線前後で断線点距離に応じて電流位相が変化し、電流値が減少する。一方、第2の電流測定器CT2により測定した電流Ict2は、断線前後で電流位相および電流値は変化しない。すなわち、位置DC1~DC4における電流Ict2の波形は重なっている。
図5(b)に示すように、負荷パターンをP1からP4に変えても、同様の現象がみられる。
図5に基づき、断線発生時の電流Ict1とIct2のゼロクロス点の時間差Δtを負荷パターンP1~P4および位置DC1~DC4(断線点距離D
DC=1~4km)に関して算出して
図6に示す。
【0020】
図6は、断線点距離と幹線の断線時にCT1とCT2に流れる電流のゼロクロス点の時間差との関係を示す。
図6では、横軸を断線点距離D
DC(km)、縦軸を断線発生時に第1の電流測定器CT1に流れる電流Ict1と第2の電流測定器CT2に流れる電流Ict2のゼロクロス点の時間差Δt(s)として、負荷パターンP1~P4に関して結果をプロットしている。
負荷パターンによらず、断線点距離が長くなると、ゼロクロス点の時間差は短くなり、断線点距離とゼロクロス点の時間差とは線形関係にあることが分かる。それゆえ、本発明では、負荷パターンおよびゼロクロス点の時間差から、断線点距離(断線点の位置)を推定することができる。
【0021】
(分岐線断線時のシミュレーション)
図2、
図3および
図7~
図11を用いて、分岐線断線時のシミュレーションを説明する。
図2において、高圧配電線の立ち上がりから1kmの位置DC1(分岐点)から1kmの位置dc1(変圧器よりわずかに幹線側の位置)で、V相が断線したと仮定する。
【0022】
図7(a)は、負荷パターンP1を用いたときの分岐線の断線による電圧変化を示し、
図7(b)は、電流変化を示す。
図7(a)(b)ともに、t=0.05sにおいて断線が生じ、電圧値および電流値は、分岐点(位置DC1)より左側(配電用変電所側)の幹線1で測定している。
図7(a)に示すように、U相、V相、W相の電圧はすべて、断線前後において変化しない。これは、分岐線の断線は、幹線1の電圧に影響を与えないためである。
図7(b)に示すように、健全相(U相、W相)の電流は、断線前後において変化しないが、断線相(V相)の電流は、断線後においてわずかに減少する。これは、幹線1には、分岐線に設置された分も含めて合計15台の変圧器が設置されており、そのうちの1台分のみが幹線1の電流に影響を与えるためである。
このように、計算機COMは、高圧配電線の電流値の変化から、高圧配電線の断線相を決定することができる。
このシミュレーションで用いた負荷パターンP1では、R1=R2=R3であり、各相電流の大きさは等しいが、以下、負荷パターンを変えて検討する。
【0023】
図8は、負荷パターンP4を用いたときの分岐線の断線による電流変化を示す。
図8もまた、
図7と同様に、t=0.05sにおいて断線が生じ、電流値は、分岐点(位置DC1)より左側(配電用変電所側)の幹線1で測定している。
健全相(U相、W相)の電流は、断線前後において変化しないが、断線相(V相)の電流は、断線後にわずかに減少する。
このように、電流平衡となる負荷パターンP1から電流不平衡となる負荷パターンP4に変えても、同様の現象がみられるが、U相、V相、W相の電流値は、負荷パターンP4に対応してU相≒W相>V相の関係になっている。
【0024】
図9(a)は、負荷パターンP1における分岐線の断線時にCT1とCT2に流れる電流の波形を示し、
図9(b)は、
図9(a)においてAで囲んだ部分の拡大図を示す。
図2に示すように、断線点が、高圧配電線の立ち上がりから1kmの位置DC1から分岐した後1kmの位置dc1、位置DC2から分岐した後1kmの位置dc2、位置DC3から分岐した後1kmの位置dc3、位置DC4から分岐した後1kmの位置dc4、位置DC5から分岐した後1kmの位置dc5の5通り(それぞれ断線点距離D
dc=1~5km)であるとして、それぞれの断線発生時に共同接地線に流れる電流Ict1、Ict2を、第1の電流測定器CT1および第2の電流測定器CT2により測定する。
図9(a)に示すように、第2の電流測定器CT2により測定した電流Ict2は、断線点距離に応じて電流位相および電流値が変化しない。
図9(b)に示すように、第1の電流測定器CT1により測定した電流Ict1は、断線前後で断線点距離に応じて電流位相が変化し、電流値が減少する。
【0025】
図10(a)は、負荷パターンP4における分岐線の断線時にCT1とCT2に流れる電流の波形を示し、
図10(b)は、
図10(a)においてAで囲んだ部分の拡大図を示す。
負荷パターンをP1からP4に変えても、同様の現象がみられる。
図9および
図10に基づき、断線発生時の電流Ict1とIct2のゼロクロス点の時間差Δtを負荷パターンP1~P4および位置dc1~dc5(断線点距離D
dc=1~5km)に関して算出して
図11に示す。
【0026】
図11は、断線点距離と分岐線の断線時にCT1とCT2に流れる電流のゼロクロス点の時間差との関係を示す。
図11では、横軸を断線点距離D
dc(km)、縦軸を断線発生時に第1の電流測定器CT1に流れる電流Ict1と第2の電流測定器CT2に流れる電流Ict2のゼロクロス点の時間差Δt(s)として、負荷パターンP1~P4に関して結果をプロットしている。
負荷パターンによらず、断線点距離が長くなると、ゼロクロス点の時間差は長くなり、断線点距離とゼロクロス点の時間差とは線形関係にあることが分かる。それゆえ、本発明では、負荷パターンおよびゼロクロス点の時間差から、断線点距離(断線点の位置)を推定することができる。
【0027】
以上より、
図6の幹線断線時および
図11の分岐線断線時のいずれの場合も、計算機COMにおいて、複数の負荷パターンに関して、断線点距離と、第1の電流値および第2の電流値のゼロクロス点の時間差と、の関係をシミュレーションにより求め、負荷パターンおよびゼロクロス点の時間差から、断線点距離(断線点の位置)を推定できることが分かった。
特に、
図6の幹線断線時のゼロクロス点の時間差Δtは、3ミリ秒以下であるのに対して、
図11の分岐線断線時のゼロクロス点の時間差Δtは、0.25ミリ秒以下であり、オーダが1桁異なるため、幹線および分岐線の断線を区別することができる。
【0028】
(ゼロクロス点の時間差の発生要因)
図12は、ゼロクロス点の時間差の発生要因を説明するための共同接地線の等価回路を示す。
上述したように、高圧配電線1で断線が発生した場合、電流Ict1の電流位相は断線前後で断線点距離に応じて変化するが、Ict2の電流位相は断線前後で変化しない。このことから、断線後に電流Ict2を基準とした電流Ict1の位相変化を起因とするゼロクロス点の時間差Δtは式(1)で表される。
【数1】
X
DCS:断線後の第1の電流測定器CT1と第2の電流測定器CT2との間の合成リアクタンス値
R
ps:断線後の第1の電流測定器CT1と第2の電流測定器CT2との間の合成抵抗値
【0029】
(ゼロクロス点の時間差の負荷依存性の検討)
高圧配電線に流れる電流は、当該高圧配電線に接続されている負荷の分布および大きさによって変化する。そこで、以下、負荷の分布および大きさの影響について検討する。
はじめに、ゼロクロス点の時間差が、負荷の分布に依存するのかを検討する。
図2に示すように、区画Tr1~Tr5を設定し、各区画における変圧器の抵抗を、表2、3に示すように、表1に示した負荷パターンP2とほぼ同等の電流となるように設定する。
【0030】
表2の負荷パターンP2-1では、区画Tr4、Tr5の変圧器の抵抗R1を小さくすることにより、負荷分布を生じさせる。
【表2】
【0031】
表3の負荷パターンP2-2では、区画Tr1、Tr2の変圧器の抵抗R1を小さくすることにより、負荷分布を生じさせる。
【表3】
【0032】
図13(a)は、高圧配電線の区間に電流不平衡が生じた場合の幹線断線時における断線点距離とCT1とCT2に流れる電流のゼロクロス点の時間差との関係を示し、
図13(b)は、分岐線断線時における関係を示す。
図13(a)では、
図6に示す負荷パターンP1~P4のプロットに、負荷パターンP2-1、P2-2のプロットを重ねて表示している。負荷パターンP2、P2-1、P2-2のプロットがほぼ一致している。このことから、幹線断線時のゼロクロス点の時間差Δtは、負荷電流の分布に依存しないことが分かる。
図13(b)では、
図11に示す負荷パターンP1~P4のプロットに、負荷パターンP2-1、P2-2のプロットを重ねて表示している。負荷パターンP2、P2-1、P2-2のプロットがほぼ一致している。このことから、分岐線断線時のゼロクロス点の時間差Δtは、負荷電流の分布に依存しないことが分かる。
このように、幹線断線時および分岐線断線時の両方において、ゼロクロス点の時間差Δtは、負荷電流の分布に依存しない。それゆえ、幹線および分岐線の断線点を推定するために、負荷電流の分布を考慮する必要がないことが分かる。
ゼロクロス点の時間差Δtが、負荷電流の分布に依存しないのは、負荷電流に偏りがある場合でも、高圧配電線の立ち上がりの負荷電流の大きさが同じであれば、各地点における作用インダクタンスの合計値は、同一高圧配電線において同じ値となり、作用インダクタンスと接地抵抗とのはしご型回路で構成される第1の電流測定器CT1から第2の電流測定器CT2までの合成リアクタンスが変化しないためと考えられる。
【0033】
次に、ゼロクロス点の時間差が、負荷の大きさに依存するのかを検討する。
表4の負荷パターンP2-3では、表1に示した負荷パターンP2の電流不平衡と同じ条件として、全区画の変圧器の抵抗を2倍にする。
【表4】
【0034】
図13(a)では、負荷パターンP2、P2-3のプロットがほぼ一致している。このことから、幹線断線時のゼロクロス点の時間差Δtは、負荷電流の大きさには依存しないことが分かる。これは、負荷電流の不平衡割合が等しければ、電流比x
iの各区間の和が同じ値になるためである。
図13(b)では、負荷パターンP2-3のΔtは、負荷パターンP2のΔtより大きい。このことから、分岐線断線時のゼロクロス点の時間差Δtは、負荷電流の大きさに依存することが分かる。
それゆえ、センサ内蔵開閉器により負荷電流を測定し、測定した負荷電流に対する断線点距離と断線発生時に第1の電流測定器CT1と第2の電流測定器CT2に流れる電流のゼロクロス点の時間差との関係を把握することにより、断線点を推定することができる。
【符号の説明】
【0035】
1a、1b 断線推定装置
COM 計算機
CT1 第1の電流測定器
CT2 第2の電流測定器
S、S1、S2 センサ内蔵開閉器