(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145117
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】塗料および塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 163/02 20060101AFI20220926BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20220926BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220926BHJP
C08G 59/60 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C09D163/02
C09D7/20
C09D7/61
C08G59/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046399
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507230382
【氏名又は名称】首都高メンテナンス西東京株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515282669
【氏名又は名称】日本エンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515281651
【氏名又は名称】株式会社ITWパフォーマンスポリマーズ&フルイズジャパン
(71)【出願人】
【識別番号】393013618
【氏名又は名称】光海陸産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】中村 充
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 歩
(72)【発明者】
【氏名】福島 大貴
(72)【発明者】
【氏名】細井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠
(72)【発明者】
【氏名】青柳 正和
(72)【発明者】
【氏名】政門 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 健太
(72)【発明者】
【氏名】大西 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和男
【テーマコード(参考)】
4J036
4J038
【Fターム(参考)】
4J036AA05
4J036AB02
4J036AD08
4J036DA06
4J036DC06
4J036DC09
4J036DC14
4J036DC22
4J036FA05
4J036FB12
4J036FB13
4J036JA01
4J038DB061
4J038HA216
4J038HA446
4J038JA03
4J038JB04
4J038JB05
4J038JB08
4J038KA03
4J038KA06
4J038MA14
4J038NA03
4J038NA24
4J038PA18
4J038PB05
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】1回の塗装によって乾燥膜厚が厚い塗膜を形成することが可能であり、かつ可使時間と硬化時間とをバランスよく満足させることができる、塗料および塗膜の形成方法を提供する。
【解決手段】塗料は、硬化剤(A)および主剤(B)を有するものであり、硬化剤(A)が、2官能または3官能以上であるポリエーテルアミン(A1-1)と、脂環式ポリアミン(A1-2)と、(ポリ)アミドアミン(A1-3)とを含有し、前記主剤(B)が、分子量が400超4000以下の範囲である、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)と、分子量が400以下である、低分子量エポキシ化合物(B2)と、補強材(B3)とを含有し、前記硬化剤(A)が、前記主剤(B)100質量部に対し、22質量部以上35質量部以下の範囲になるように混合されてなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化剤(A)および主剤(B)を有する塗料であって、
前記硬化剤(A)が、
2官能または3官能以上であるポリエーテルアミン(A1-1)と、
脂環式ポリアミン(A1-2)と、
(ポリ)アミドアミン(A1-3)と
を含有し、
前記主剤(B)が、
分子量が400超4000以下の範囲である、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)と、
分子量が400以下である、低分子量エポキシ化合物(B2)と、
補強材(B3)と
を含有し、
前記硬化剤(A)が、前記主剤(B)100質量部に対し、22質量部以上35質量部以下の範囲になるように混合されてなる、塗料。
【請求項2】
前記ポリエーテルアミン(A1-1)は、3官能以上のものを含む、請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
前記硬化剤(A)が、非反応性希釈剤(A2)をさらに含有する、請求項1または2に記載の塗料。
【請求項4】
前記非反応性希釈剤(A2)は、フェノール変性炭化水素樹脂からなる、請求項3に記載の塗料。
【請求項5】
前記硬化剤(A)における、
前記ポリエーテルアミン(A1-1)の含有量は、10質量%以上40質量%以下の範囲であり、
前記脂環式ポリアミン(A1-2)の含有量は、10質量%以上40質量%以下の範囲であり、
前記(ポリ)アミドアミン(A1-3)の含有量は、10質量%以上65質量%以下の範囲であり、
前記非反応性希釈剤(A2)の含有量は、40質量%以下である、請求項3または4に記載の塗料。
【請求項6】
前記補強材(B3)は、シリカおよびアルミナを含有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の塗料。
【請求項7】
前記主剤(B)における、
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)の含有量は、15質量%以上35質量%以下の範囲であり、
前記低分子量エポキシ化合物(B2)の含有量は、35質量%以上55質量%以下の範囲であり、
前記補強材(B3)の含有量は、20質量%以上50質量%以下の範囲である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の塗料。
【請求項8】
2官能または3官能以上であるポリエーテルアミン(A1-1)と、脂環式ポリアミン(A1-2)と、(ポリ)アミドアミン(A1-3)とを含有する硬化剤(A)、および、
分子量が400超4000以下の範囲であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)と、分子量が400以下である低分子量エポキシ化合物(B2)と、補強材(B3)とを含有する主剤(B)を、
前記硬化剤(A)が、前記主剤(B)100質量部に対し、22質量部以上35質量部以下の範囲になるように混合して、塗料を作製する混合工程と、
前記塗料を基材の表面に塗布した後に乾燥させることによって硬化した塗膜を形成する塗布・硬化工程と、
を有する、塗膜の形成方法。
【請求項9】
前記塗布・硬化工程では、ローラーを用いて、前記塗料を前記基材の表面に塗布する、請求項8に記載の塗膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚などの構造物の防食に用いられる塗料と、この塗料を用いた塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路橋や高架道路では、橋脚などの構造物の経年による腐食を防ぐため、定期的に塗り替え塗装を行う必要がある。また、塗装によって形成される塗膜が局所的に剥離した場合には、定期的な塗り替え塗装を待たずに、補修塗装を行うことが好ましい。
【0003】
ここで、塗り替え塗装は、エポキシ樹脂系の一般的な塗料を用いる場合、素地調整を施した後、必要な膜厚を有する塗膜を確保するために、塗料を複数回(例えば6回程度)重ね塗りする必要がある。他方で、補修塗装で用いられる塗料は、重ね塗りの回数は2~3回と少ないものの、可使時間が短いため、10m2以下の小面積の補修の用途に限られる。
【0004】
このような塗り替え塗装や補修塗装で用いられる塗料としては、重ね塗りの回数を削減することが可能な、厚膜塗装可能な塗料が望まれている。例えば、特許文献1には、塗り替え塗装に用いることが可能であり、かつ1回の塗装によって得られる塗膜の乾燥膜厚が240μmになる塗料組成物として、環球法による軟化点が50℃~170℃のエポキシ樹脂及び塗膜改質剤を含んでなる主剤成分であり、該主剤成分中におけるエポキシ樹脂の含有量が12~60質量%であり、かつ塗膜改質剤の含有量が2質量%~15質量%である主剤成分と、硬化剤成分とを少なくとも含み、主剤成分と硬化剤成分の質量比が70:30~92:8の範囲内にある塗料組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに関し、特許文献1によれば、1回の塗装によって乾燥膜厚が240μmである塗膜の形成が可能であることが記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の塗料組成物は、1回の塗装によって厚い乾燥膜厚の塗膜を形成することは可能であるものの、可使時間が短いため、大面積の塗膜の形成には不向きであった。また、可使時間が長すぎる塗料は、硬化するまでに相当の時間を要するという問題がある。このため、ある程度の可使時間を確保しつつ、硬化時間が極力短くなるように可使時間と硬化時間とをバランスよく満足させることができる塗料が求められていた。
【0008】
加えて、1回の塗装でできるだけ厚い乾燥膜厚を有する塗膜を形成することができ、かつ、重ね塗りの回数を極力削減することが可能な塗料や塗膜形成方法が求められていた。
【0009】
本発明の目的は、1回の塗装によって乾燥膜厚が厚い塗膜を形成することが可能であり、かつ可使時間と硬化時間とをバランスよく満足させることができる、塗料および塗膜の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、2官能または3官能以上であるポリエーテルアミン(A1-1)、脂環式ポリアミン(A1-2)および(ポリ)アミドアミン(A1-3)を含む硬化剤(A)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)および低分子量エポキシ化合物(B2)を含む主剤(B)とを併用することにより、硬化を進み易くしながら、塗料の可使時間が長くなるとともに、高い作業性で膜厚の大きな塗膜を形成することが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明は、硬化剤(A)および主剤(B)を有する塗料であって、前記硬化剤(A)が、2官能または3官能以上であるポリエーテルアミン(A1-1)と、脂環式ポリアミン(A1-2)と、(ポリ)アミドアミン(A1-3)とを含有し、前記主剤(B)が、分子量が400超4000以下の範囲である、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)と、分子量が400以下である、低分子量エポキシ化合物(B2)と、補強材(B3)とを含有し、前記硬化剤(A)が、前記主剤(B)100質量部に対し、22質量部以上35質量部以下の範囲になるように混合されてなる、塗料である。
【0012】
(2)また、本発明は、前記ポリエーテルアミン(A1-1)は、3官能以上のものを含む、上記(1)に記載の塗料である。
【0013】
(3)また、本発明は、前記硬化剤(A)が、非反応性希釈剤(A2)をさらに含有する、上記(1)または(2)に記載の塗料である。
【0014】
(4)また、本発明は、前記非反応性希釈剤(A2)は、フェノール変性炭化水素樹脂からなる、上記(3)に記載の塗料である。
【0015】
(5)また、本発明は、前記硬化剤(A)における、前記ポリエーテルアミン(A1-1)の含有量は、10質量%以上40質量%以下の範囲であり、前記変性ポリアミン(A1-2)の含有量は、10質量%以上40質量%以下の範囲であり、前記(ポリ)アミドアミン(A1-3)の含有量は、10質量%以上65質量%以下の範囲であり、前記非反応性希釈剤(A2)の含有量は、40質量%以下である、上記(3)または(4)に記載の塗料である。
【0016】
(6)また、本発明は、前記補強材(B3)は、シリカおよびアルミナを含有する、上記(1)から(5)までのいずれか1項に記載の塗料である。
【0017】
(7)また、本発明は、前記主剤(B)における、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)の含有量は、15質量%以上35質量%以下の範囲であり、前記低分子量エポキシ化合物(B2)の含有量は、35質量%以上55質量%以下の範囲であり、前記補強材(B3)の含有量は、20質量%以上50質量%以下の範囲である、上記(1)から(6)までのいずれか1項に記載の塗料である。
【0018】
(8)また、本発明は、2官能または3官能以上であるポリエーテルアミン(A1-1)と、変性脂環式ポリアミンを含む変性ポリアミン(A1-2)と、(ポリ)アミドアミン(A1-3)とを含有する硬化剤(A)と、分子量が400超4000以下の範囲であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)と、分子量が400以下である低分子量エポキシ化合物(B2)と、補強材(B3)とを含有する主剤(B)とを、前記硬化剤(A)が、前記主剤(B)100質量部に対し、22質量部以上35質量部以下の範囲になるように混合して、塗料を作製する混合工程と、前記塗料を基材の表面に塗布した後に乾燥させることによって硬化した塗膜を形成する塗布・硬化工程と、を有する、塗膜の形成方法である。
【0019】
(9)また、本発明は、前記塗布・硬化工程では、ローラーを用いて、前記塗料を前記基材の表面に塗布する、上記(8)に記載の塗膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、1回の塗装によって乾燥膜厚が厚い塗膜を形成することが可能であり、かつ可使時間と硬化時間とをバランスよく満足させることができる、塗料および塗膜の形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0022】
本実施形態に係る塗料は、硬化剤(A)および主剤(B)を有するものである。ここで、硬化剤(A)は、2官能または3官能以上であるポリエーテルアミン(A1-1)と、変性脂環式ポリアミンを含む変性ポリアミン(A1-2)と、(ポリ)アミドアミン(A1-3)とを含有する。また、主剤(B)は、分子量が400超4000以下の範囲である、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)と、分子量が400以下である、低分子量エポキシ化合物(B2)と、補強材(B3)とを含有する。また、本実施形態に係る塗料は、硬化剤(A)が、主剤(B)100質量部に対し、22質量部以上35質量部以下の範囲になるように混合されてなる。
【0023】
本実施形態に係る塗料によることで、硬化を進み易くしながら、可使時間を長くすることができ、かつ膜厚の大きな塗膜を高い作業性で形成することが可能になる。したがって、1回の塗装によって乾燥膜厚が厚い塗膜を形成することが可能であり、かつ可使時間と硬化時間とをバランスよく満足させることができる塗料と、塗膜の形成方法を提供することができる。
【0024】
<硬化剤>
本実施形態に係る塗料に含まれる硬化剤(A)は、2官能または3官能以上であるポリエーテルアミン(A1-1)と、変性脂環式ポリアミンを含む変性ポリアミン(A1-2)と、(ポリ)アミドアミン(A1-3)とを含有する。
【0025】
本実施形態に係る塗料は、硬化剤(A)としてポリエーテルアミン(A1-1)、変性ポリアミン(A1-2)および(ポリ)アミドアミン(A1-3)を併用することにより、冬場などの低温環境下においても主剤(B)との反応によって硬化を進み易くするとともに、主剤(B)との反応による硬化の進行を適度に緩やかにして、塗料の可使時間を長くすることができる。また、主剤(B)との反応によって得られる塗膜の靭性を高めることができる。
【0026】
[ポリエーテルアミン(A1-1)]
ポリエーテルアミン(A1-1)は、ポリオキシアルキレンアミンのことであり、ポリエーテル骨格の末端に1級アミノ基を含む化合物である。本発明では、2官能または3官能以上であるポリエーテルアミン(A1-1)を含有する。これにより、ポリエーテル骨格の末端にあるアミノ基と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)や低分子量エポキシ化合物(B2)に含まれるエポキシ基とが反応し、それにより鎖状の分子が形成されるため、得られる塗膜に柔軟性をもたせることができる。また、硬化剤(A)がポリエーテルアミン(A1-1)を含有することで、ポリエーテルアミン(A1-1)のポリエーテル鎖によってアミノ基とエポキシ基の反応が適度に阻害されるため、主剤(B)との反応による硬化の進行を緩やかにして、その結果、塗料の可使時間を長くすることができる。
【0027】
ポリエーテルアミン(A1-1)は、2官能または3官能以上のものを含有するが、3官能以上のものを含有してもよい。すなわち、ポリエーテル骨格の末端のアミノ基の数は、1分子当り2個以上であるが、3個以上としてもよい。
【0028】
ポリエーテルアミン(A1-1)のポリエーテル骨格は、アルキレンオキシドのいずれでもよいが、プロピレンオキシド(PO)、エチレンオキシド(EO)または混合EO/POであることが好ましい。
【0029】
ポリエーテルアミン(A1-1)の一例としては、ポリ(オキシプロピレン)トリアミン、ポリ(オキシプロピレン)ジアミン、ポリ(オキシエチレン)トリアミン、ポリ(オキシエチレン)ジアミンなどを挙げることができる。その中でも、ポリエーテルアミン(A1-1)に含まれるアミノ基を主剤(B)のエポキシ基と反応させる際に、分子を分枝させて硬い塗膜を得る観点では、ポリエーテルアミン(A1-1)としてポリ(オキシプロピレン)トリアミンまたはポリ(オキシエチレン)トリアミンを用いることが好ましく、ポリ(オキシプロピレン)トリアミンを用いることがさらに好ましい。
【0030】
ポリエーテルアミン(A1-1)のアミン価は、100mgKOH/g以上700mgKOH/g以下の範囲が好ましく、特に200mgKOH/g以上500mgKOH/g以下の範囲が好ましい。
【0031】
ポリエーテルアミン(A1-1)の分子量は、100以上2000以下の範囲、特に200以上1000以下の範囲であることが好ましい。ここで、ポリエーテルアミン(A1-1)は、これらの化合物のうち1種または2種以上の混合物であってもよく、この場合、混合物であるポリエーテルアミン(A1-1)を構成する化合物の数平均分子量(Mn)が、上記の範囲であることが好ましい。
【0032】
ポリエーテルアミン(A1-1)の配合割合は、硬化剤(A)の全質量に対して、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。また、(ポリ)アミドアミン(A1-3)の配合割合は、硬化剤(A)の全質量に対して、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0033】
[脂環式ポリアミン(A1-2)]
脂環式ポリアミン(A1-2)は、変性または未変性の脂環式ポリアミンによって構成される。脂環式ポリアミンは、環状脂肪族炭化水素を分子内に有するポリアミンであり、好ましくは4員環~8員環である環状脂肪族炭化水素を分子内に有する。また、脂環式ポリアミンは、分子内にある環状脂肪族炭化水素を構成する炭素原子の一部が、窒素原子などのヘテロ原子になっていてもよく、このとき脂環式ポリアミンは複素環を有する。脂環式ポリアミン(A1-2)を含むことで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)や低分子量エポキシ化合物(B2)に含まれるエポキシ基との反応性を高めて硬化時間を短くすることができる。それとともに、環状脂肪族炭化水素の立体障害によって硬化反応を穏やかにすることができるため、塗料の可使時間を長くすることができる。
【0034】
脂環式ポリアミンとしては、一例として、脂環式ジアミンおよび脂環式トリアミンを挙げることができる。より具体的には、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’-(4-アミノ-1,3-フェニレンビスメチレン)ビス(シクロヘキシルアミン)、1,3-シクロペンタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1-アミノ-1-メチル-4-アミノメチルシクロヘキサン、1-アミノ-1-メチル-3-アミノメチルシクロヘキサン、4,4´-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4´-メチレンビス(3-メチル-シクロヘキシルアミン)、メチル-2,3-シクロヘキサンジアミン、メチル-2,4-シクロヘキサンジアミン、メチル-2,6-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン{例えば、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンなど}などを挙げることができる。
【0035】
ここで、脂環式ポリアミン(A1-2)は、変性脂環式ポリアミンを含んでもよい。脂環式ポリアミンが変性されていることで、アミノ基とエポキシ基との反応に寄与するとともに、冬場などの低温環境下、より具体的には5℃~10℃の環境下においても、アミノ基とエポキシ基との反応による硬化を進み易くすることができる。
【0036】
変性脂環式ポリアミンとしては、マンニッヒ化合物、エポキシ化合物とのアミンアダクト物(ポリアミンのエポキシ付加物)、ケチミン化物、ポリアミドアミン類、マイケル付加化合物、アルジミン化物、イソシアネート化合物との尿素アダクトなどを挙げることができる。このうち、マンニッヒ化合物の一例としては、一級または二級のアミンとホルムアルデヒドの反応生成物を挙げることができ、その中でも、複素環を形成することが可能な、アニリンとホルムアルデヒドの反応生成物が好ましい。また、マンニッヒ化合物には、マンニッヒ化合物に対するさらなる反応の生成物、例えば水素化反応の生成物も含まれる。
【0037】
脂環式ポリアミン(A1-2)としては、これらの化合物のうち1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0038】
脂環式ポリアミン(A1-2)の配合割合は、硬化剤(A)の全質量に対して、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。また、脂環式ポリアミン(A1-2)の配合割合は、硬化剤(A)の全質量に対して、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0039】
なお、硬化剤(A)には、脂環式ポリアミン以外のポリアミンを含んでもよい。例えば、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンなどの鎖状脂肪族ポリアミンおよびその変性物、メタキシレンジアミンなどの芳香環を含む脂肪族ポリアミンおよびその変性物、ならびに、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ポリアミンおよびその変性物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
[(ポリ)アミドアミン(A1-3)]
(ポリ)アミドアミン(A1-3)は、単数または複数のアミド結合とアミノ基を分子中に有する化合物であり、分子中に反応性の一級アミンと二級アミンを有する。このような(ポリ)アミドアミン(A1-3)を用いることで、塗膜の靭性を高めるとともに、主剤(B)との反応による硬化の進行が緩やかになるため、塗料の可使時間を長くすることができる。なお、本明細書における「(ポリ)アミドアミン」は、アミドアミンおよびポリアミドアミンのうち、一方または両方を含む。
【0041】
(ポリ)アミドアミン(A1-3)のアミン価は、200mgKOH/g以上800mgKOH/g以下の範囲であることが好ましく、350mgKOH/g以上500mgKOH/g以下の範囲であることがより好ましい。これにより、(ポリ)アミドアミン(A1-3)の分子内に、適度に炭素原子が含まれるため、主剤(B)による硬化によって得られる塗膜の靭性を、より一層高めることができる。
【0042】
(ポリ)アミドアミン(A1-3)の配合割合は、硬化剤(A)の全質量に対して、10質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。また、(ポリ)アミドアミン(A1-3)の配合割合は、硬化剤(A)の全質量に対して、65質量%以下が好ましく、55質量%以下がさらに好ましい。
【0043】
なお、硬化剤(A)には、ポリエーテルアミン(A1-1)、変性ポリアミン(A1-2)および(ポリ)アミドアミン(A1-3)に含まれないアミン類が含まれていてもよい。しかしながら、ポリエーテルアミン(A1-1)、変性ポリアミン(A1-2)および(ポリ)アミドアミン(A1-3)に含まれないアミン類の配合割合は、硬化剤(A)の全質量に対して、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0044】
[非反応性希釈剤(A2)]
非反応性希釈剤(A2)は、硬化剤(A)と主剤(B)との混合物における粘度などの物性を調整し、それにより硬化剤(A)と主剤(B)の混合や塗装の作業性を改善する目的や、塗膜の柔軟性を高める目的で、硬化剤(A)に任意に含有させることができる。非反応性希釈剤(A2)の具体例としては、常温で液体のものを用いることが好ましく、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂などの炭化水素樹脂またはその変性物や、ベンジルアルコール、フェノール、フェネチルアルコール、ノニルフェノール、ジノニルフェノールなどの芳香族アルコールや、イソパラフィン混合物、高沸点芳香族炭化水素化合物、ホワイトタールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
その中でも、非反応性希釈剤(A2)としては、塗膜の耐水性を高める観点から、液状のフェノール変性炭化水素樹脂が好ましく用いられる。フェノール変性炭化水素樹脂の一例としては、石油の分解油留分などに含まれるジオレフィン及びモノオレフィン類を、フェノール、クレゾール、キシレノールなどのフェノール類と共重合させたものが挙げられる。
【0046】
非反応性希釈剤(A2)に含まれる、炭化水素樹脂やその変性物として、上市されているものとしては、「EPX-L、EPX-L2」(以上、NEVCIN社製/フェノール変性炭化水素樹脂)、「ニカノール(R)Y-51」(三菱ガス化学(株)製/キシレン樹脂)などが挙げられる。
【0047】
非反応性希釈剤(A2)を配合する場合、非反応性希釈剤(A2)の配合割合は、硬化剤(A)の全質量に対して、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。また、非反応性希釈剤(A2)の配合割合は、反応に寄与する成分の含有量を相対的に高め、それにより塗膜硬化性を高める観点から、硬化剤(A)の全質量に対して、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
【0048】
[その他の成分]
本実施形態に係る硬化剤(A)には、必要に応じて、可塑剤、水分吸収剤、物性調整剤、着色剤、タレ防止剤、酸化防止剤、老化防止剤、溶剤、顔料、染料、蛍光体等の各種の添加剤を加えてもよい。
【0049】
<主剤>
本実施形態に係る塗料に含まれる主剤(B)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)と、低分子量エポキシ化合物(B2)と、補強材(B3)と、を含有する。
【0050】
本実施形態に係る塗料は、主剤(B)でビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)に低分子量エポキシ化合物(B2)を加えることにより、塗料の粘性が適度に下がることで、塗料の塗布作業性を高めることができ、かつ、硬化剤(A)との反応による分子量の増大が緩やかになることで、塗料の可使時間を長くすることができる。また、主剤(B)に補強材(B3)を加えることで、塗料の基材への1回の塗布で、膜厚の大きな塗布膜を形成しても、塗布膜から塗料を垂れ難くすることができる。したがって、本実施形態の主剤(B)によることで、膜厚の大きな塗膜の形成に好適であるとともに、塗布作業性が高く、可使時間の長い塗料を得ることができる。
【0051】
[ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合反応により得られるエポキシ樹脂であり、1分子中にエポキシ基を2個以上有し、アミン系硬化剤と反応して架橋することが可能なポリマーまたはオリゴマーである。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)を用いることで、塗料の硬化を促進するとともに、硬化によって靭性の高い塗膜を得ることができる。
【0052】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)の質量平均分子量は、好ましくは400超4000以下の範囲であり、より好ましくは400超1000以下の範囲である。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)の粘度(25℃)は、好ましくは20Pa・s以下であり、より好ましくは15Pa・s以下である。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)のエポキシ当量(JIS K7236に準拠)は、好ましく150g/eq~1000g/eqであり、より好ましくは150g/eq~700g/eqである。
【0053】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)の配合割合は、主剤(B)の全質量に対して、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)の配合割合は、主剤(B)の全質量に対して、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下としてもよい。
【0054】
[低分子量エポキシ化合物(B2)]
低分子量エポキシ化合物(B2)は、分子量が400以下の範囲であり、エポキシ基を有する化合物である。より好ましくは、1分子中にエポキシ基を2個以上有し、アミン系硬化剤と反応して架橋することが可能な化合物である。このような低分子量エポキシ化合物(B2)を上述のビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)と組み合わせることで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)のみを用いる場合と比べて、塗料の粘性が適度に下がることで、塗料の塗布作業性を高めることができる。また、エポキシ化合物の平均分子量が小さくなることで、反応性を失わせることなく、硬化剤(A)との反応による分子量の増加を緩やかにすることができるため、塗料の可使時間を長くすることができる。
【0055】
低分子量エポキシ化合物(B2)としては、一般に市販されているモノ、ジ、トリエポキサイドであれば特に限定されるものではない。例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、o-クレシルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、グリシジルエステル、α-オレフィンエポキサイド、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテル、アルキルフェノールグリシジルエーテルから選択される1種以上を、低分子量エポキシ化合物(B2)として用いることができる。
【0056】
低分子量エポキシ化合物(B2)の配合割合は、主剤(B)の全質量に対して、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。また、低分子量エポキシ化合物(B2)の配合割合は、厚い塗膜を形成しやすくする観点では、主剤(B)の全質量に対して、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下としてもよい。
【0057】
[補強材(B3)]
本発明の塗料は、補強材(B3)を含有する。これにより、基材への塗料の1回の塗布で、膜厚の大きな塗布膜を形成しても、塗布膜から塗料を垂れ難くすることができる。
【0058】
補強材(B3)としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、イットリアなどの無機酸化物のほか、窒化ケイ素や炭化ケイ素などのファインセラミックスを含有することができる。その中でも特に、材料の入手しやすさの観点から、無機酸化物を含有することが好ましく、シリカおよびアルミナのうち少なくとも一方を含有することがさらに好ましい。
【0059】
補強材(B3)の配合割合は、塗布膜から塗料を垂れ難くする観点から、主剤(B)の全質量に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。他方で、補強材(B3)の配合割合は、基材への塗布を行い易くする観点から、主剤(B)の全質量に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下としてもよい。
【0060】
補強材(B3)の中でも、シリカ(B3-1)およびアルミナ(B3-2)を含有することが好ましい。
【0061】
(シリカ(B3-1))
このうち、シリカ(B3-1)としては、BET法による比表面積が、好ましくは25m2/g以上330m2/g以下の範囲、より好ましくは50m2/g以上150m2/g以下の範囲にあるものを用いることができる。また、シリカ(B3-1)の粒径は、必要とされる塗膜の厚さを超えない範囲で設定される。さらに、シリカ(B3-1)の表面は、必要に応じて疎水処理または親水処理されていてもよい。
【0062】
本発明の塗料におけるシリカ(B3-1)の含有量は、主剤(B)の全質量に対して、1質量%以上としてもよい。他方で、本発明の塗料におけるシリカ(B3-1)の含有量は、主剤(B)の全質量に対して、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下としてもよい。
【0063】
(アルミナ(B3-2))
他方で、アルミナ(B3-2)としては、質量基準の粒度分布において、63μm超1700μm以下の範囲内にピークを有することが好ましく、75μm超1000μm以下の範囲内にピークを有することがより好ましい。このような粒度分布を持ったアルミナ(B3-2)によることで、基材に塗料を塗布して塗布膜を形成したときに、塗布膜から塗料を垂れ難くすることができる。
【0064】
本発明の塗料におけるアルミナ(B3-2)の含有量は、主剤(B)の全質量に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。他方で、本発明の塗料におけるアルミナ(B3-2)の含有量は、主剤(B)の全質量に対して、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下としてもよい。
【0065】
[その他の成分(B4)]
本実施形態で用いられる主剤(B)は、作業性を改善するなどの目的で、その他の成分(B4)として、非反応性希釈剤、シランカップリング剤、有機溶剤、可塑剤などを含有してもよい。
【0066】
また、本実施形態で用いられる主剤(B)は、塗膜の装飾性を高めるなどの目的で、その他の成分(B4)として、顔料、染料、蛍光体などの着色剤を含有してもよい。着色剤としては、カーボンブラック、二酸化チタン、酸化第二鉄、活性亜鉛華、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、亜鉛フェライトおよびコバルトアルミ酸化物が挙げられる。
【0067】
本発明の塗料におけるその他の成分(B4)の含有量は、主剤(B)の全質量に対して、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下としてもよい。
【0068】
<塗膜の形成方法>
本実施形態に係る塗膜の形成方法は、上述の硬化剤(A)および主剤(B)とを混合して塗料を作製する混合工程と、塗料を基材の表面に塗布した後に乾燥させることによって硬化した被膜を形成する塗布・硬化工程と、を有する。
【0069】
[混合工程]
混合工程では、上述の硬化剤(A)および主剤(B)を混合して、塗料を作製する。すなわち、2官能または3官能以上であるポリエーテルアミン(A1-1)と、変性脂環式ポリアミンを含む変性ポリアミン(A1-2)と、(ポリ)アミドアミン(A1-3)とを含有する硬化剤(A)と、分子量が400超4000以下の範囲であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)と、分子量が400以下である低分子量エポキシ化合物(B2)と、補強材(B3)とを含有する主剤(B)とを混合する。上述の硬化剤(A)は液状であり、主剤(B)はペースト状であることが多い。そのため、混合手段としては、ペースト状の主剤(B)に液状の硬化剤(A)を混合できる手段を用いることが好ましい。
【0070】
硬化剤(A)および主剤(B)の混合割合は、硬化剤(A)が、主剤(B)100質量部に対し、22質量部以上35質量部以下、より好ましくは25質量部以上30質量部以下の範囲になるように混合する。硬化剤(A)および主剤(B)の混合割合をこの範囲内にすることで、塗料を基材に塗布して塗布膜を形成する際の作業性を高めるとともに、後述する塗布・硬化工程において塗布膜の硬化を促進することができる。特に、硬化剤(A)および主剤(B)は、硬化剤(A)を、主剤(B)100質量部に対して22質量部以上、より好ましくは25質量部以上混合することで、得られる塗膜の靭性を高めることもできる。
【0071】
混合工程における硬化剤(A)および主剤(B)の混合時間は、均質な塗料を得るため、1分間以上であることが好ましく、2分間以上であることがより好ましい。他方で、混合時間の上限は、可使時間に応じて定めることができるが、10分間未満であることが好ましく、5分間以下であることがより好ましい。ここでいう「可使時間」は、JISK6870:2008における手塗りによる求め方に基づき、容積が300cm3の容器に塗料を収容したときの、刷毛を用いて塗り広げられなくなる時間をいう。
【0072】
塗料の可使時間は、使用温度等の環境条件によって変動するが、70分超であることが好ましく、75分以上であることがより好ましい。これにより、塗料を塗布する部分の面積が大きい場合であっても、後述する塗布・硬化工程で、塗料を硬化させずに塗布することができる。
【0073】
[塗布・硬化工程]
塗布・硬化工程では、硬化剤(A)および主剤(B)の混合物からなる塗料を基材に塗布して塗布膜を形成した後、塗布膜を乾燥させることによって、硬化した塗膜を形成する。
【0074】
塗料を塗布する基材としては、特に限定されず、表面の少なくとも一部が鋼材からなるものに塗布することも好ましい。本発明の塗料は、基材に強固に結合し、膜厚の厚い塗膜を得ることができるため、鋼材などの錆びやすい基材の表面に塗布することで、基材表面に高い防錆性能を付与することができる。
【0075】
基材には、必要に応じて素地調整を行ってもよい。本発明の塗料は、3級ケレンのような比較的軽度な素地調整(錆びている部分を取り除く程度の素地調整)しか行っていない基材に塗布する場合であっても、所望の特性の塗膜を得ることが可能である。
【0076】
基材に塗料を塗布する手段は、従来公知の手段を用いることができ、例えば刷毛やローラーなどを用いることができる。本発明の塗料は、塗布・硬化工程においてローラーを用いた基材表面への塗布に耐えうる粘性を有するとともに、可使時間も長いため、基材の広い範囲に、膜厚の大きな塗膜を一度に形成することができる。
【0077】
基材に塗料を塗布する厚さは、例えば200μm~1000μm、より好ましくは250μm~500μmとすることができる。本発明の塗料は、エポキシ樹脂(B1)と低分子量エポキシ化合物(B2)の硬化によって塗膜が形成されるとともに、補強材(B3)を含むことで塗膜が補強されるため、1回の塗布で200μm~1000μmの乾燥膜厚を有する塗膜を形成しても、塗料の垂れが起こり難くなる。したがって、本実施形態の塗料によることで、膜厚の大きな塗膜を効率的に形成することができる。
【0078】
塗膜に対する乾燥および硬化に要する時間は、使用温度等の環境条件によって変動するが、例えば、常温(10℃以上25℃以下)の温度条件下で、24時間以下であることが好ましい。これにより、基材に塗料を重ね塗りする作業を連日行うことができるため、所望の厚さの塗膜を、重ね塗りによって効率的に形成することができる。
【0079】
このように、本発明の塗料は、可使時間が長く基材の広範囲に塗布することが可能であり、かつ1回の塗装によって乾燥膜厚の大きな塗膜を形成することが可能なため、屋外の構造物の10m2~500m2の範囲の面積を有する塗装面、特に重ね塗りを必要としていた塗装面に、好適に用いることができる。また、本発明の塗料は、道路橋や高架道路の橋脚などの構造物における、より大面積の塗装面に対する補修塗装にも、好適に用いることできる。
【実施例0080】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
<塗料の調製>
表1に示す配合割合にて、硬化剤(A)および主剤(B)をそれぞれ調製した後、硬化剤(A)および主剤(B)を混合して、塗料を得た。
【0082】
【0083】
表1に記載される硬化剤(A)および主剤(B)の調製に用いた各成分の詳細は、以下のとおりである。
【0084】
〔硬化剤(A)〕
(ポリエーテルアミン(A1-1))
・ポリ(オキシプロピレン)ジアミン(ハンツマン・コーポレーション社製、型番:ジェファーミンD-400、分子量:430、アミン価:230mgKOH/g~263mgKOH/g)
・トリメチロールプロパンポリ(オキシプロピレン)トリアミン(ハンツマン・コーポレーション社製、型番:ジェファーミンT-403、分子量:440、アミン価:342mgKOH/g~370mgKOH/g)
(脂環式ポリアミン(A1-2))
・アニリンとホルムアルデヒドの反応生成物の、水素化反応生成物(4,4’-(4-アミノ-1,3-フェニレンビスメチレン)ビス(シクロヘキシルアミン))(蝶理GLEX株式会社製、型番:アンカミン2280、当該水素化反応生成物の含有量:40質量%~50質量%、アミン価:250mgKOH/g)
・1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのエポキシ付加物(蝶理GLEX株式会社製、型番:ハードナーPH834、当該エポキシ付加物の含有量:15質量%、アミン価:300mgKOH/g~380mgKOH/g)
・1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、メタキシレンジアミンと、4-tert-ブチルフェノールの混合物(Yun Teh Industries社製、型番:JOINTMINE989、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン含有量:40質量%~50質量%、メタキシレンジアミン含有量:7質量%、アミン価:380mgKOH/g)
・変性脂肪族ポリアミン(蝶理GLEX株式会社製、型番:ハードナーPH785、ポリオキシプロピレンジアミン含有、アミン価:320mgKOH/g)
((ポリ)アミドアミン(A1-3))
・ポリアミドアミン(築野食品工業社株式会社製、型番:ベジケムグリーン V140、アミン価:370mgKOH/g~400mgKOH/g、ポリアミドアミン含有量:95質量%)
・ポリアミドアミン(Yun Teh Industries社製、型番:JOINTMINE320、アミン価:370mgKOH/g~430mgKOH/g、ポリアミドアミン含有量:90質量%)
・アミドアミン(Yun Teh Industries社製、型番:JOINTMINE3599、アミン価:440mgKOH/g、アミドアミン含有量:95質量%)
[非反応性希釈剤(A2)]
・NEVOXY(登録商標)EPX-L2(Neville Chemical社製)
【0085】
〔主剤(B)〕
[ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)]
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量:400超1000以下、エポキシ当量:150g/eq~700g/eq、粘度:15Pa・s以下/25℃)
[低分子量エポキシ化合物(B2)]
・トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(Huntsman Advanced Materials社製、型番:ERISYS(登録商標)GE-30、分子量:302、エポキシ当量:135g/eq~150g/eq、粘度:100cps~200cps/25℃)
[補強材(B3)]
(シリカ(B3-1))
・疎水性フュームドシリカ(日本アエロジル株式会社製、型番:RY-200S、BET法による比表面積:65m2/g~95m2/g)
(アルミナ(B3-2))
・アルミナ(質量基準の粒度分布のピークが75μm超1000μm以下の範囲にあるもの)
【0086】
得られた塗料は、表面が平坦な板材からなる基材に、ローラーを用いて300μmの厚さで均一になるように塗布して塗布膜を形成した後、静置することで塗膜を得た。
【0087】
このとき、塗料の作業性と、1回の塗装によって乾燥膜厚が厚い塗膜を得ることの可否について、塗料を基材に塗布する際の粘りの有無と、塗布膜からの塗料のダレの有無を、目視によって評価した。塗料を基材に厚さ300μmで塗布した際に形状を保持することができ(ダレが生じず)、かつ塗布時に塗り広げ易いものを、作業性が良好であり、かつ1回の塗装によって乾燥膜厚が厚い塗膜を得ることが可能であるとして「○」とした。また、塗料を基材に塗布した際に形状を保持し難い(ダレが生じた)ものや、塗布時に塗り広げ難いものを、作業性が劣り、または1回の塗装では乾燥膜厚が厚い塗膜を得ることが困難である(不可)として「×」とした。結果を表1に示す。
【0088】
また、塗料の可使時間について、JISK6870:2008における手塗りによる求め方に基づき、容積が300cm3の容器に塗料を収容したときの、刷毛を用いて塗り広げられなくなる時間を可使時間とした。可使時間の測定結果を表1に示す。このとき、可使時間が70分超であったものを、可使時間が長いものとして、可使時間の評価を「〇」とした。また、可使時間が70分以下であったものを、可使時間が短い(不可)ものとして、可使時間の評価を「×」とした。結果を表1に示す。
【0089】
また、塗布膜を乾燥および硬化させる際の膜の硬化について、JIS K 5600-1-1:1999に基づいて評価した。ここで、塗料を基材(試験板)に1回塗りで塗布して常温乾燥(23℃±2℃で乾燥)させたときに、24時間以内に硬化乾燥の状態(塗面の中央を親指と人差指とで強く挟んで、塗面に指紋によるへこみが付かず、塗膜の動きが感じられず、また、塗面の中央を指先で急速に繰り返しこすって、塗面にすり跡が付かない状態)になったものを、塗膜の硬化が良好であるとして、塗膜硬化の評価を「〇」とした。他方で、塗料を基材に1回塗りで塗布して常温乾燥させたときに、24時間以内に硬化乾燥の状態にならなかったものを、塗膜の硬化が不良である(不可)として、塗膜硬化の評価を「×」とした。また、塗料を基材に1回塗りで塗布してから、指触乾燥(塗面の中央に指先で軽く触れて、指先が汚れない状態)、半硬化乾燥(塗面の中央を指先で静かに軽くこすって塗面にすり跡が付かない状態)および硬化乾燥の状態になるまでの時間を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
また、塗膜の靭性について、ポリプロピレンからなる基材に、乾燥厚さ500μmの塗膜を形成して十分に硬化させた後で塗膜を剥がし、得られた塗膜を指で180°折り曲げたとき(2つ折りにしたとき)の、塗膜の状態について評価した。このとき、塗膜が割れずに、かつ折り曲げる力を解放した際に元に戻る方向に変形したものを、靭性が高いものと評価して「〇」とした。また、指で180°折り曲げた際に、塗膜が割れたものや、折り曲げる力を解放した際に元に戻る方向に変形しなかったものを、靭性が低い(不可)と評価して「×」とした。結果を表1に示す。
【0091】
塗料の作業性および1回の塗装によって乾燥膜厚が厚い塗膜を得ることの可否と、塗料の可使時間と、塗膜硬化に関する3つの評価結果のうち、3つとも「○」と評価した場合を、1回の塗装によって厚い塗膜を得ることが可能であり、かつ可使時間と硬化時間のバランスが取れているとして、「○」と評価した。また、これらの3つの評価結果のうち、いずれかの評価結果が「×」になった場合を、1回の塗装によって厚い塗膜を得ることが困難であり、または可使時間と硬化時間のバランスが不合格であるとして、「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0092】
表1の評価結果から、本発明例1~7の塗料は、硬化剤(A)および主剤(B)の組成が本発明の適正範囲内であるとともに、塗料の作業性および1回の塗装によって乾燥膜厚が厚い塗膜を得ることの可否に関する評価結果と、塗料の可使時間に関する評価結果と、塗膜硬化に関する評価結果が、いずれも「○」と評価されており、総合評価においても「〇」と評価されるものであった。
【0093】
上記結果より、本発明例1~7の塗料は、1回の塗装によって乾燥膜厚が厚い塗膜を得ることが可能であり、かつ可使時間(70分超え)と硬化時間(塗布後24時間以内)とをバランスよく満足させることができた。
【0094】
さらに、本発明例1~7の塗料は、塗膜の靭性に関する評価結果が「○」と評価されており、靭性に優れた塗膜を得られることが分かった。
【0095】
これに対し、比較例1の塗料を用いて形成した塗膜は、ポリエーテルアミン(A1-1)を含有しない塗料を塗布したものであったため、塗料の可使時間が短く、それにより可使時間に関する評価結果が「×」と評価される点で劣っていた。
【0096】
また、比較例2および比較例3の塗料を用いて形成した塗膜は、脂環式ポリアミン(A1-2)を含有しない塗料を塗布したものであったため、塗布から24時間経過しても膜が硬化乾燥の状態になっておらず、それにより塗膜硬化に関する評価結果が「×」と評価される点で劣っていた。
【0097】
また、比較例4の塗料を用いて形成した塗膜は、(ポリ)アミドアミン(A1-3)を含有していない塗料を塗布したものであったため、塗料の可使時間が短く、それにより可使時間に関する評価結果が「×」と評価される点で劣っていた。
【0098】
また、比較例5の塗料を用いて形成した塗膜は、主剤(B)100質量部に対する硬化剤(A)の混合量が少ない塗料を塗布したものであったため、塗布から24時間経過しても膜が硬化乾燥の状態になっておらず、それにより塗膜硬化に関する評価結果が「×」と評価される点で劣っていた。
【0099】
また、比較例6の塗料を用いて形成した塗膜は、主剤(B)100質量部に対する硬化剤(A)の混合量が多い塗料を塗布したものであったため、1回の塗装によって乾燥膜厚が厚い塗膜を得ることが困難なものであった。また、1回の塗装で厚い塗膜を形成できた場合であっても、塗布から24時間経過しても膜が硬化乾燥の状態になっておらず、それにより塗膜硬化に関する評価結果が「×」と評価される点でも劣っていた。
【0100】
以上、本発明の実施の形態および実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態および実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態および実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。