(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145162
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】レーザ処理装置、レーザ処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/268 20060101AFI20220926BHJP
B23K 26/57 20140101ALI20220926BHJP
【FI】
H01L21/268 J
B23K26/57
H01L21/268 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046456
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】598072179
【氏名又は名称】株式会社片岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】長崎 克俊
(72)【発明者】
【氏名】前田 勇輝
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AE05
4E168CB07
4E168DA33
4E168EA13
(57)【要約】
【課題】被処理物上の複数の帯状領域をラインビームにより走査するレーザ処理を実行するにあたり、隣接する領域間にはっきりとした継目が現れることを回避する。
【解決手段】Y軸方向に沿って拡張したラインビームBを、被処理物Wに対して相対的にY軸と交差するX軸方向に沿って移動させる走査を行い、レーザ光Bを被処理物W上の帯状領域P1、P2、P3に照射するレーザ処理装置であって、被処理物W上のある帯状領域P1、P3に照射後これに隣接する他の帯状領域P2に照射する際、被処理物WをラインビームBに対して相対的にX軸及びY軸と交差するZ軸回りに180°回転させた上、ラインビームBにより他の帯状領域P2を走査することで、前者の領域P1、P3における後者の領域P2に接する境界部にも、後者の領域P2における前者の領域P1、P3に接する境界部にも、ラインビームBの同じ側の端部が当たるようにした。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光をY軸方向に沿って拡張したラインビームを、被処理物に対して相対的にY軸と交差するX軸方向に沿って移動させる走査を行い、レーザ光を被処理物上の帯状領域に照射するレーザ処理装置であって、
被処理物上のある帯状領域に照射後これに隣接する他の帯状領域に照射する際、被処理物をラインビームに対して相対的にX軸及びY軸と交差するZ軸回りに180°回転させた上、ラインビームにより他の帯状領域を走査することで、前者の領域における後者の領域に接する境界部にも、後者の領域における前者の領域に接する境界部にも、ラインビームの同じ側の端部が当たるようにするレーザ処理装置。
【請求項2】
前記被処理物は、基板上に何らかの膜または層を設けたものであり、
その被処理物に前記ラインビームを照射することを通じて膜または層を基板から剥離させる処理を実施する請求項1記載のレーザ処理装置。
【請求項3】
前記被処理物を支持するとともにこれをX軸方向に沿って移送するステージと、
ステージに支持させる被処理物をZ軸回りに回転させる回転機構とを具備する請求項1または2記載のレーザ処理装置。
【請求項4】
前記被処理物に照射するラインビームを生成する光学系が、
レーザ光源から供給されるレーザ光を拡張しY軸方向に沿ったライン長さを調整するためのレンズと、
レーザ光のX軸方向に沿ったビーム幅を調整するためのレンズと、
レーザ光のY軸方向に沿った光強度を均一化するためのレンズと、
レーザ光のX軸方向に沿ったビーム幅を縮小するための集光レンズとを含んでいる請求項1、2または3記載のレーザ処理装置。
【請求項5】
レーザ光をY軸方向に沿って拡張したラインビームを、被処理物に対して相対的にY軸と交差するX軸方向に沿って移動させる走査を行い、レーザ光を被処理物上の帯状領域に照射するレーザ処理方法であって、
被処理物上のある帯状領域に照射後これに隣接する他の帯状領域に照射する際、被処理物をラインビームに対して相対的にX軸及びY軸と交差するZ軸回りに180°回転させた上、ラインビームにより他の帯状領域を走査することで、前者の領域における後者の領域に接する境界部にも、後者の領域における前者の領域に接する境界部にも、ラインビームの同じ側の端部が当たるようにするレーザ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラインビームを被処理物に対して相対的に移動させる走査を行い被処理物上の帯状領域に照射するレーザ処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物の広範囲にレーザ光を照射する処理の具体例として、基板上に製膜されたデバイス膜を基板から剥離するLLO(Laser Lift Off)や、加熱により残留応力を取り除くアニーリング、付着している不純物を除去するクリーニング等が挙げられる。LLOは、近時普及しつつあるOEL(Organic Electro-Luminescence)またはOLED(Organic Light-Emitting Diode)等の製造工程で用いられる。
【0003】
このようなレーザ処理を実行するにあたっては、レーザ光を所定のY軸方向に拡張したラインビームを生成し、そのラインビームを被処理物に対しX軸方向に沿って相対移動させる走査を行うことが通例である(例えば、下記特許文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ラインビームのY軸方向に沿った長さは有限である。そのライン長さが被処理物の全幅に比して小さい場合、一度の走査では被処理物上の限られた一部分、即ちY軸方向の幅寸がライン長さと同程度の帯状の一領域にしかレーザを照射できない。被処理物の広範囲に万遍なくレーザを照射するためには、ラインビームをY軸方向にずらしながら都度X軸方向に走査するという手順を反復する必要がある。
【0006】
ラインビームのプロファイルは、Y軸方向に沿った一端から他端まで光強度が均一となっていることが理想である。だが、現実には、
図9に例示するように、光強度は完全に均一とはならず、しかも一端側Lの光強度と他端側Rの光強度とが非対称になることも少なくない。
【0007】
被処理物の広範囲にレーザを照射する処理を実行する際には、被処理物上のある帯状領域をラインビームにより走査した後、これと隣接する他の帯状領域をラインビームにより走査することになる。このとき、前者の領域における後者の領域に接する境界部には、ラインビームの一端側が当たる。そして、後者の領域における前者の領域に接する境界部には、ラインビームの他端側が当たる。
【0008】
その帰結として、前者の境界部の処理または加工の状態と、後者の境界部の処理または加工の状態との間に差が生じ、
図10に示すように、人の肉眼で視認できるような境界線、継目Jが現れることがある。それにより、処理または加工の精度、品質に何らの問題がないにもかかわらず、レーザ処理装置の性能に疑義を与える懸念があった。
【0009】
以上の問題に初めて着目してなされた本発明は、被処理物上の複数の帯状領域をラインビームにより走査するレーザ処理を実行するにあたり、隣接する領域間にはっきりとした継目が現れることを回避しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するべく、本発明では、レーザ光をY軸方向に沿って拡張したラインビームを、被処理物に対して相対的にY軸と交差するX軸方向に沿って移動させる走査を行い、レーザ光を被処理物上の帯状領域に照射するレーザ処理装置であって、被処理物上のある帯状領域に照射後これに隣接する他の帯状領域に照射する際、被処理物をラインビームに対して相対的にX軸及びY軸と交差するZ軸回りに180°回転させた上、ラインビームにより他の帯状領域を走査することで、前者の領域における後者の領域に接する境界部にも、後者の領域における前者の領域に接する境界部にも、ラインビームの同じ側の端部が当たるようにするレーザ処理装置を構成した。
【0011】
本レーザ処理装置は、例えば、基板上に何らかの膜または層を設けた被処理物に前記ラインビームを照射することを通じてその膜または層を基板から剥離させる処理を実施するために用いられる。
【0012】
本レーザ処理装置は、典型的には、前記被処理物を支持するとともにこれをX軸方向に沿って移送するステージと、ステージに支持させる被処理物をZ軸回りに回転させる回転機構とを具備する。
【0013】
前記被処理物に照射するラインビームを生成する光学系は、例えば、レーザ光源から供給されるレーザ光を拡張しY軸方向に沿ったライン長さを調整するためのレンズと、レーザ光のX軸方向に沿ったビーム幅を調整するためのレンズと、レーザ光のY軸方向に沿った光強度を均一化するためのレンズと、レーザ光のX軸方向に沿ったビーム幅を縮小するための集光レンズとを含む。
【0014】
本発明に係るレーザ処理方法は、レーザ光をY軸方向に沿って拡張したラインビームを、被処理物に対して相対的にY軸と交差するX軸方向に沿って移動させる走査を行い、レーザ光を被処理物上の帯状領域に照射するレーザ処理方法であって、被処理物上のある帯状領域に照射後これに隣接する他の帯状領域に照射する際、被処理物をラインビームに対して相対的にX軸及びY軸と交差するZ軸回りに180°回転させた上、ラインビームにより他の帯状領域を走査することで、前者の領域における後者の領域に接する境界部にも、後者の領域における前者の領域に接する境界部にも、ラインビームの同じ側の端部が当たるようにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被処理物上の複数の帯状領域をラインビームにより走査するレーザ処理を実行するにあたり、隣接する領域間にはっきりとした継目が現れることを有効に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態のレーザ処理装置の全体概要を示す斜視図。
【
図2】同実施形態のレーザ処理装置のラインビームを生成する光学系の構成を模式的に示す図。
【
図3】同実施形態のレーザ処理装置によるレーザ処理の対象となる被処理物を模式的に示す断面図。
【
図4】同実施形態のレーザ処理装置によるレーザ処理の模様を説明する図。
【
図5】同実施形態のレーザ処理装置によるレーザ処理の模様を説明する図。
【
図6】同実施形態のレーザ処理装置によるレーザ処理の模様を説明する図。
【
図7】同実施形態のレーザ処理装置によるレーザ処理の模様を説明する図。
【
図8】同実施形態のレーザ処理装置によるレーザ処理の模様を説明する図。
【
図9】同実施形態のレーザ処理装置が生成するラインビームのビームプロファイルを示す図。
【
図10】従来のレーザ処理装置によるレーザ処理の模様を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態のレーザ処理装置は、レーザ光をY軸方向に拡張したラインビームBを生成し、そのラインビームBを被処理物Wに対しY軸と直交するX軸方向に沿って相対移動させる走査を行うことで、被処理物Wの広範囲にレーザ光Bを照射する処理を遂行するものである。
図1に示すように、本実施形態のレーザ処理装置は、被処理物Wを支持する支持体1と、その支持体1を支持しながらこれを移送するステージ2と、支持体1とステージ2との間に介在する回転機構3と、支持体1に支持させた被処理物Wに向けてラインビームBを照射する照射ユニット4とを具備する。
【0018】
ステージ2は、例えば既知のXYZステージである。XYZステージ2は、被処理物Wを支持する支持体1を、ラインビームBの短軸であるX軸方向、ラインビームBの長軸であるY軸方向、並びにX軸及びY軸と直交するZ軸方向の三次元方向に移動させることができる。ラインビームBの光軸A、換言すれば照射ユニット4のノズル47から出射して被処理物Wに向かうレーザ光が指向する方向は、Z軸と平行であってもよく、Z軸に対して傾斜していてもよいが、XY平面に対しては常に一定の角度で交わる。
【0019】
回転機構3は、支持体1をステージ2に対して相対的にZ軸と平行な回転軸回りに回転させることを可能とする。回転機構3は、例えばNC(Numerical Control)円テーブル、ロータリアクチュエータ、DD(Direct Drive)モータ等を用いて構成できる。尤も、支持体1をステージ2に対し手動で回転させ得るように軸支させた機構としても構わない。
【0020】
図2に、照射ユニット4が包含する光学系の構成を示す。この光学系は、レーザ光源となる発振器41から供給されるレーザ光をY軸方向に拡張するためのY軸ビームエキスパンダ42と、Y軸ビームエキスパンダ42を通過したレーザ光をX軸方向に拡張するためのX軸ビームエキスパンダ43と、X軸ビームエキスパンダ43を通過したレーザ光のY軸方向に沿った光強度を均一化するためのアレイレンズ44及び照明レンズ45と、アレイレンズ44及び照明レンズ45を通過したレーザ光を集光するための集光レンズ46とを有している。
【0021】
Y軸ビームエキスパンダ42は、一枚または複数枚のシリンドリカルレンズを用いてなり、照射ユニット4のノズル47から出射するラインビームBのY軸方向に沿ったライン長さを調整する働きをする。X軸ビームエキスパンダ43もまた、一枚または複数枚のシリンドリカルレンズを用いてなり、照射ユニット4のノズル47から出射するラインビームBのX軸方向に沿ったビーム幅を調整する働きをする。なお、ビームエキスパンダ42、43の要素として、シリンドリカルレンズに代えて、またはシリンドリカルレンズとともに、ロッドレンズ、ロッドインテグレータ、フライアイレンズ、パウエルレンズ等を用いることもできる。アレイレンズ44は、多数の小形のシリンドリカルレンズを集積したものである。
【0022】
集光レンズ46は、一枚または複数枚のトロイダルレンズ(トーリックレンズ)を用いてなり、照射ユニット4のノズル47から出射するラインビームBのX軸方向に沿ったビーム幅を縮小する。図示例のものでは、そのうちのより照明レンズ45に近い上流側に位置する集光第一レンズ461が、レーザ光の伝搬する光路に沿って変位可能となっており、これにより集光レンズ46のNA(Numerical Aperture)を可変調整することができる。
【0023】
本実施形態のレーザ処理装置は、基板W1上にデバイス膜W2が製膜された被処理物WにレーザBを照射し、そのデバイス膜W2を基板W1から剥離するLLO処理を実行する用途に使用される。LLOは、近時普及しつつあるOELまたはOLEDディスプレイ等の製造工程で実施される。
図3に、対象となる被処理物Wの構造を示す。基板W1は、例えばガラス基板やサファイア基板であり、その厚さは数mm程度である。デバイス膜W2は、例えば基板W1上のポリイミド膜W21に重ねて薄膜トランジスタやLED等の素子W22を配したものである。ポリイミド膜W21の厚さは、数十μmないし数百μmである。
【0024】
被処理物Wの基板W1側からレーザ(特に、紫外線レーザ)Bを照射すると、基板W1を透過したレーザがポリイミド膜W21の基板W1に密接する表面に吸収され、ポリイミド膜W21中の分子または原子間の結合が切断される。そうして、ポリイミド膜W21の表面が分解、気化または蒸散を経て除去される結果、デバイス膜W2を基板W1から綺麗に剥離させることができるようになる。このようなLLOの手法は、デバイス膜W2に熱ダメージを与えない。
【0025】
LLO処理では、Y軸方向に拡張したラインビームBを、被処理物Wに対し相対的にX軸方向に移動させる走査を行う。本実施形態では、ステージ2を駆動して被処理物Wを支持する支持体1をX軸方向に移送しながら、照射ユニット4のノズル47から被処理物Wに向けてラインビームBを照射する。
【0026】
ラインビームBのY軸方向に沿った長さは有限である。そのライン長さが被処理物Wの全幅に比して小さい場合、一度の走査では被処理物W上の限られた一部分、即ちY軸方向の幅寸がライン長さと同程度でありX軸方向に延伸した帯状の一領域P1、P2、P3にしかレーザBを照射することができない。被処理物Wの広範囲に万遍なくレーザBを照射するためには、ノズル47の直下にある領域P1、P2、P3を走査した後、ステージ2を駆動して支持体1をY軸方向に変位させ、それにより被処理物W上のラインビームBが照射される位置をY軸方向に沿ってずらし、しかる後別の領域P1、P2、P3に対して再度の走査を行うという手順を繰り返す。
【0027】
被処理物Wに照射するラインビームBのプロファイルは、Y軸方向に沿った一端から他端まで光強度が均一となっていることが理想である。だが、現実には、
図9に示すように、光強度が完全に均一とはならず、ラインビームBの一端側Lと他端側Rとで強度が不等であったり、ラインビームBの一端側LにおけるY軸方向に沿った強度の変化量(傾き)と他端側Rにおけるそれとが非対称であったりする。
【0028】
ラインビームBの一端側Lと他端側Rとで光強度が相異するのは、レーザ発振器41自体のモードや個体差もあるが、光学系を構成するレンズ42、43、44、45、46に代表される光学部品の数が多く、それらの精度のばらつきや光軸調整のずれ等にも起因していると考えられる。
【0029】
被処理物W上の複数の帯状領域P1、P2、P3に対して、単純にラインビームBによる走査を行うと、各帯状領域P1、P2、P3の一方の側縁には必ずラインビームBの一端側Lが当たり、他方の側縁には必ずラインビームBの他端側Rが当たることになる。その帰結として、ラインビームBの一端側Lと他端側Rとの光強度の差から、隣り合う二つの帯状領域P1、P2、P3の互いに接する境界部の処理または加工の状態に段差が生じ、
図10に示すように、隣り合う二つの帯状領域P1、P2、P3の間に人の肉眼で視認できるような境界線、継目Jが現れることが起こり得る。
【0030】
この事象を回避するべく、本実施形態のレーザ処理装置によるレーザ処理では、
図4に示すように、被処理物W上のY軸方向に並ぶ複数の帯状領域P1、P2、P3のうち、互いに隣接せず間に他の一つの帯状領域P2を挟んでいる帯状領域P1、P3を、先にラインビームBで走査する。いわば、Y軸方向に並ぶ帯状領域P1、P2、P3を一つ置きにレーザ処理する。これら帯状領域P1、P3をレーザ処理するときの被処理物Wの向きは一定とする、即ち被処理物WをZ軸回りに180°反転させない。
【0031】
それから、
図5に示すように、回転機構3を介して支持体1を回転させることで、これに支持させた被処理物Wの向きをZ軸回りに180°反転させる。その状態で、未だレーザ処理していない帯状領域P2、つまりは既にレーザ処理した帯状領域P1、P3に挟まれた帯状領域P2を、ラインビームBで走査してレーザ処理する。
【0032】
上記の手順によれば、隣り合う二つの帯状領域P1、P2、P3の互いに接する境界部に、ラインビームBの同じ側の端部が照射されることになる。
図5に示す例に則して述べると、帯状領域P1、P3の図中右方の側縁、及びこれに隣接する帯状領域P2の図中左方の側縁には、ともにラインビームBの一端側の端部Lが当たる。並びに、帯状領域P1、P2、P3の図中左方の側縁、及びこれに隣接する帯状領域P2の図中右方の側縁には、ともにラインビームBの他端側の端部Rが当たる。従って、隣り合う二つの帯状領域P1、P2、P3の互いに接する境界部の処理または加工の状態に段差が生じず、隣り合う二つの帯状領域P1、P2、P3の間に人の肉眼で視認できるような境界線、継目Jが現れない。
【0033】
あるいは、
図6に示すように、被処理物W上の一つの帯状領域P1をラインビームBで走査する。次いで、
図7に示すように、被処理物Wの向きをZ軸回りに180°反転させ、その状態で直近に処理した帯状領域P1に隣接する帯状領域P2をラインビームBで走査する。さらに、
図8に示すように、被処理物Wの向きを元に戻すようにZ軸回りに180°反転させ、その状態で直近に処理した帯状領域P2に隣接する帯状領域P3をラインビームBで走査する、というように、帯状領域P1、P2、P3を一つずつ、都度被処理物Wを180°回転させながら順次レーザ処理するようにしても、同様の処理結果を得ることができる。
【0034】
複数の帯状領域P1、P2、P3を順次ラインビームBにより走査するときには、帯状領域P1、P3に対して照射するラインビームBのY軸方向の位置決め(ノズル47に対する被処理物WのY軸方向の位置決め)や、当該領域P1、P2に隣接する帯状領域P2に対して照射するラインビームBのY軸方向の位置決めを行う。これは、隣り合う領域P1、P2、P3の境界部に照射するレーザビームBのエネルギ強度を合わせる微細な調整を実現する意図である。
【0035】
本実施形態では、レーザ光をY軸方向に沿って拡張したラインビームBを、被処理物Wに対して相対的にY軸と交差するX軸方向に沿って移動させる走査を行い、レーザ光Bを被処理物W上の帯状領域P1、P2、P3に照射するレーザ処理装置であって、被処理物W上のある帯状領域P1、P3に照射後これに隣接する他の帯状領域P2に照射する際、被処理物WをラインビームBに対して相対的にX軸及びY軸と交差するZ軸回りに180°回転させた上、ラインビームBにより他の帯状領域P2を走査することで、前者の領域P1、P3における後者の領域P2に接する境界部にも、後者の領域P2における前者の領域P1、P3に接する境界部にも、ラインビームBの同じ側の端部が当たるようにするレーザ処理装置を構成した。本実施形態によれば、被処理物W上の複数の帯状領域P1、P2、P3をラインビームBにより走査するレーザ処理を実行するにあたり、隣接する領域P1、P2、P3間にはっきりとした継目Jが現れることを有効に回避できる。
【0036】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、ステージ2が支持体1及び被処理物Wを移動させることで、ノズル47から出射するラインビームBによる帯状領域P1、P2、P3の走査を実現していた。が、ノズル47自体を(特に、X軸方向に沿って)駆動可能とし、ノズル47を移動させることでラインビームBにより帯状領域P1、P2、P3を走査する態様をとることもできる。
【0037】
また、支持体1及び被処理物WをZ軸回りに180°回転させることに代えて、ノズル47自体をZ軸回りに180°回転させて、複数の帯状領域P1、P2、P3を順次走査することも考えられる。
【0038】
本発明に係るレーザ処理装置の用途は、LLO処理に限定されない。本発明に係るレーザ処理装置を、アニーリングやクリーニング等の処理に使用することも当然に可能である。
【0039】
その他、各部の具体的な構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、被処理物にレーザ光を照射して所望の処理を施すレーザ処理装置及び方法に適用できる。
【符号の説明】
【0041】
2…ステージ
3…回転機構
4…光学系(照射ユニット)
42…Y軸方向に沿ったライン長さを調整するためのレンズ(Y軸ビームエキスパンダ)
43…X軸方向に沿ったビーム幅を調整するためのレンズ(X軸ビームエキスパンダ)
44、45…Y軸方向に沿った光強度を均一化するためのレンズ(アレイレンズ、照明レンズ)
46…X軸方向に沿ったビーム幅を縮小するための集光レンズ
B…ラインビーム
P1、P2、P3…被処理物上の帯状領域
W…被処理物
W1…基板
W2…デバイス膜