(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014525
(43)【公開日】2022-01-20
(54)【発明の名称】回転撹拌型熱処理装置
(51)【国際特許分類】
F27B 7/16 20060101AFI20220113BHJP
【FI】
F27B7/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116871
(22)【出願日】2020-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】391002683
【氏名又は名称】日本新金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 義一
(72)【発明者】
【氏名】久永 昌広
【テーマコード(参考)】
4K061
【Fターム(参考)】
4K061AA08
4K061BA02
4K061BA05
4K061BA12
4K061CA29
4K061DA05
4K061EA07
4K061GA05
(57)【要約】
【課題】特に、塊状被処理物の熱処理を確実に行うことができる回転撹拌型熱処理装置および該装置を用いた熱処理方法を提供する。
【解決手段】被処理物を熱処理する回転撹拌型熱処理装置であって、
前記被処理物をその一端から供給し、その内部で熱処理し、他端から排出する円筒体を有する熱処理部と、
前記円筒体の内部を加熱する加熱手段と、
前記円筒体の内周に前記円筒体の内周方向に分割され、かつ、前記円筒体の長手方向に沿って複数個の処理ゾーンを形成する処理ゾーン形成手段を有し、
前記処理ゾーン形成手段は、前記円筒体の間欠回転により回転し、各前記処理ゾーンに供給された前記被処理物が他の前記処理ゾーンに移動することが抑制されている形状を有していること、を特徴とする回転撹拌型熱処理装置および該装置を用いた熱処理方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を熱処理する回転撹拌型熱処理装置であって、
前記被処理物をその一端から供給し、その内部で熱処理し、他端から排出する円筒体を有する熱処理部と、
前記円筒体の内部を加熱する加熱手段と、
前記円筒体の内周に前記円筒体の内周方向に分割され、かつ、前記円筒体の長手方向に沿って複数個の処理ゾーンを形成する処理ゾーン形成手段を有し、
前記処理ゾーン形成手段は、前記円筒体の間欠回転により回転し、各前記処理ゾーンに供給された前記被処理物が他の前記処理ゾーンに移動することが抑制されている形状を有していること、
を特徴とする回転撹拌型熱処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転撹拌型熱処理装置を用いることを特徴とする被処理物の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物に対して、撹拌熱処理を施す回転撹拌型熱処理装置および該装置を用いた熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物に対して、種々の熱処理を施すべく回転撹拌型熱処理装置が用いられている。この回転撹拌型熱処理装置は、回転する円筒形の炉内へ被処理物を導入し、回転により、被処理物を炉の上流から下流に向かって移動させつつ熱処理を行うものである。
一方、この熱処理の目的は被処理物の種類によって異なり、その目的として、例えば、石灰に対しては焼成、電極材料に対しては混合、金属粉に対しては酸化等をあげることができる。
【0003】
そして、この回転撹拌型熱処理装置において、熱処理をより効果的に行うために種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、回転する炉心管の内周面を転動して被処理物に衝撃を付与するビータ部材を有する回転撹拌型熱処理装置が記載され、転動するビータ部材により被処理物に衝撃を与え、被処理物が炉心管の内周面への付着を防止するとされている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、回転する炉心管内に3枚または4枚の羽根で構成された回転子を有し、回転子の羽根の長さをL、炉心管の内径をRとするとき、L/Rが0.1~0.6である回転撹拌型熱処理装置が記載され、電解銅粉を酸化第二銅粉へ酸化させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-163282号公報
【特許文献2】特許第6056709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の回転撹拌型熱処理装置は、石灰を主成分とする5mm以下の被処理物を熱処理の対象とし、特許文献2に記載の回転撹拌型熱処理装置は、電解銅粉を熱処理の対象としているように、被処理物が粉体または粉体に近い大きさの小さなものであれば、特許文献1および2に記載されているような熱処理が可能である。しかし、これら特許文献1および2には、塊状被処理物の熱処理については記載がなく、本発明者の検討によれば、これら回転撹拌型熱処理装置はビータ部材または回転子を有しているものの、実際に塊状被処理物の熱処理を行ってみると十分な熱処理が困難であることが判明した。
【0008】
本発明の目的は、特に、塊状被処理物の熱処理を確実に行うことができる回転撹拌型熱処理装置および該装置を用いた熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、近年、安価かつ確実なリサイクルが求められているタングステン(W)を含む塊状のスクラップのような、特に、目開きが5mmの篩を通過せず、同30mmの篩を通過する大きさまでの塊状被処理物であっても熱処理が可能な回転撹拌型熱処理装置の構造について、鋭意検討した。
ここで、目開きが5mm、30mmの篩とは、それぞれ、一辺が5mm、30mmの正方形の目開きを有する篩を云う。
【0010】
その結果、円筒体(炉心管)の内周に、円筒体の長手方向に沿って、複数個の処理ゾーンを設け、この処理ゾーンが円筒体の回転により回転し、かつ、各処理ゾーンに供給された前記塊状被処理物は他の処理ゾーンに移行(移動)することを抑制して、撹拌、整粒されつつ熱処理されるようにすれば、確実な熱処理が可能であるという新規な知見を得た。
【0011】
本発明は、この知見に基づくものであって、以下のとおりのものである。
「(1)
被処理物を熱処理する回転撹拌型熱処理装置であって、
前記被処理物をその一端から供給し、その内部で熱処理し、他端から排出する円筒体を有する熱処理部と、
前記円筒体の内部を加熱する加熱手段と、
前記円筒体の内周に前記円筒体の内周方向に分割され、かつ、前記円筒体の長手方向に沿って複数個の処理ゾーンを形成する処理ゾーン形成手段を有し、
前記処理ゾーン形成手段は、前記円筒体の間欠回転により回転し、各前記処理ゾーンに供給された前記被処理物が他の前記処理ゾーンに移動することが抑制されている形状を有していること、
を特徴とする回転撹拌型熱処理装置。
(2)前記(1)に記載の回転撹拌型熱処理装置を用いることを特徴とする被処理物の熱処理方法。」
【発明の効果】
【0012】
本発明の回転撹拌型熱処理装置は、特に、塊状被処理物であっても熱処理が可能なものであり、また、本発明の熱処理方法は同塊状被処理物の熱処理を確実に行うことができる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の回転撹拌型熱処理装置の一例を示す断面模式図である。
【
図2】処理ゾーン形成手段の一例の円筒体の径方向の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、塊状被処理物を熱処理する本発明の実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
なお、本明細書でいう塊状被処理物とは、目開きが5mmの篩を通過せず、同30mmの篩を通過する大きさの塊状被処理物(前記30mmの篩を通過しない塊状被処理物を破砕したものである場合は、破砕によって生じる前記5mmの篩を通過しない大きさのものを意図せずに含むことがある)であり、該塊状被処理物の熱処理とは、チタン、モリブデン、クロム、銅等の金属を塊状被処理物とする大気中(酸化雰囲気中)の酸化処理、スクラップ等の産業廃棄物を被処理物とする焼成処理を例示できる。
【0016】
図1に示す本発明の実施形態である回転撹拌型熱処理1は、上流から下流に向かって、供給部2、熱処理部3、および、排出部4を有している。
図1において、熱処理部3に設けられている処理ゾーン形成手段の図示は省略している。
【0017】
供給部2は、例えば、ホッパー21とスクリューコンベア22(詳細な構成の図示は省略)を有している。ホッパー21内には、熱処理を施す塊状被処理物、例えば、タングステンを含む塊状のスクラップが貯留されており、この貯留された塊状被処理物はスクリューコンベア22により、熱処理部3へ所定量供給される。
【0018】
排出部4は、熱処理部3で熱処理が施された塊状被処理物を回転撹拌型熱処理装置1の外へ排出する排出手段41を有している。この排出手段41は、熱処理を施された塊状被処理物を排出することができれば、その構造に特に制約はなく、適宜公知の手段を採用すればよい。
【0019】
熱処理部3は、図示を省略された手段によって間欠回転する円筒体(炉心管)31を有している。図示を省略している架台に対して、この円筒体31は一端側(供給部2を有する側、上流)が他端側(排出部4を有する側、下流)よりも高くなるように傾斜している。すなわち、円筒体31は、排出部4側が供給部2側よりも高さが低い。円筒体31の内周には、処理ゾーン形成手段5が設けられ、後述するように、円筒体31の間欠回転より、処理ゾーン形成手段5が間欠回転し、供給部2から供給された塊状被処理物が、撹拌、整粒されながら、熱処理されて、排出部4に向かって移動する。そして、塊状被処理物が円筒体31の排出部4側の端部に到着すると、排出部4へ落下して排出手段41により回転撹拌型熱処理装置1の外へ排出されるように構成されている。
【0020】
また、熱処理部3には、図示を省略しているが、塊状被処理物を加熱するための加熱手段として、例えば、抵抗加熱体によって構成されるヒータが設けられており、このヒータを発熱させて円筒体31の内部を所定温度に加熱する。なお、円筒体31が間欠回転できるように、円筒体31とヒータとの間には所定の隙間が設けられている。
【0021】
円筒体31の内周方向に分割され、かつ、円筒体31の長手方向に沿って複数の処理ゾーン6を形成する処理ゾーン形成手段5が、円筒体31の内周に設けられている。この処理ゾーン形成手段5は、それぞれが、
図2に示すように円筒体31の径方向の断面において、例えば、鉤形状をしており、円筒体31の上流から下流に向かって、任意の位置の同断面が同じ鉤形状をしており(鉤形状は円筒体31の上流から下流に向かって同一形状のものが連続して設けられている)、処理ゾーン6を形成し、供給された塊状被処理物を保持する。
【0022】
そして、この複数の処理ゾーン6のそれぞれに供給された塊状被処理物は、円筒体31の間欠回転の停止時に、各処理ゾーン6の前方(回転方向)の円筒体31の内周上に放出され、撹拌され、円筒体31の回転が再開されると、放出された塊状被処理物はもとの各処理ゾーン6に戻される。すなわち、各処理ゾーン6の塊状処理物は、実質的に、再び、同じ処理ゾーン6に戻るため、各処理ゾーン6の塊状被処理物は他の処理ゾーン6への移動が抑制されている。この一連の塊状被処理物の移動が繰り返されることにより、酸化されていない塊状被処理物に酸化された塊状被処理物が覆い被さって未酸化部分が残存せず、均一な熱処理が可能となると推定される。
【0023】
ここで、塊状被処理物の移動が抑制されるとは、塊状被処理物が移動することが全くないということではなく、各処理ゾーン6内の塊状被処理物が最大で10容量%程度は、移動することを許容するという意味である。
【0024】
処理ゾーン形成手段5は、円筒体31の内周に1個設ければ、本発明の目的は達成できるが、2個以上、さらには、熱処理の生産性を考慮すれば、3~6個程度が好ましい。そして、各処理ゾーン6には等量の塊状被処理物を供給することが好ましい。
【0025】
また、各処理ゾーン形成手段5の鉤形状の先端と円筒体31の内周との距離(
図2におけるMの長さ)は、塊状被処理物であるとき、例えば、円筒体の内径をDとするとき、M/Dが0.01~0.06(1~6%)であることが好ましい。その理由は、この範囲にあるとき、円筒体31の回転が与える処理ゾーン6の間欠回転によって塊状被処理物の撹拌、整粒がなされながら熱処理を施し、かつ、各処理ゾーン6にそれぞれ供給された塊状被処理物を他の処理ゾーン6へ移動することの抑制がより確実にできることがあるためである。M/Dの値は0.02~0.04(2~4%)がより好ましい。
【0026】
なお、処理ゾーン形成手段5の形状として
図2に示す鉤形状のものを例示したが、これに限定されるものではない。すなわち、その形状は、円筒体31の間欠回転の停止時に塊状被処理物をその前方の円筒体31の内周上に放出し、回転の再開時にこの放出された塊状被処理物が元の処理ゾーン6に戻れるものであればよい。
【実施例0027】
以下に本発明の回転撹拌型熱処理装置の一実施例について具体的に説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
塊状被処理物として、タングステンを含むスクラップ(WC-Coスクラップ(WCとCoの質量比が9:1))を用いた。このスクラップは破砕されたものであった。そして、このスクラップに対して、
図2に示す鉤形状の処理ゾーン形成手段5を有する回転撹拌型熱処理装置1を用いて熱処理を行い、その結果(実施例1~3)を表1に示す。
【0029】
これに対して、比較のために、実施例と同じスクラップを塊状被処理物として、処理ゾーン形成手段5としてラディブレードを用いていてはいるものの、処理ゾーン内の被処理物が他の処理ゾーンに移行することが抑制されていない回転撹拌装置(特許文献2に記載されたものに相当)を用いて熱処理を行った。その結果(比較例1~2)を表2に示す。
【0030】
表1、2において、供給量、処理温度、処理時間は同じにし、塊状被処理物の移行の抑制の有無のみが異なっている。ここで、供給量とは、スクラップの供給量であり、処理温度は回転撹拌型熱処理装置の円筒体の最高温度と最低温度であり、処理時間とは、スクラップの円筒体内の滞留時間である。また、隙間とは、鉤形状の処理ゾーン形成手段、または、ラディブレードの羽根の先端と円筒体の内周との距離をM、円筒体の内径をDとしたときのM/Dの値をいい、塊状被処理物であるときは、この値が0.01~0.06(1~6%)の範囲であれば、被処理物が他の処理ゾーンに移行することがより抑制されることが確認できた。
【0031】
また、質量増加率は、
[(熱処理後の質量)/{(熱処理前の質量)×1.19}]×100
で定義されるもので、酸化率に相当する。
なお、1.19は、WC-Coスクラップ(WCとCoの質量比が9:1)が完全に酸化され、WO3、CoWO4およびCO2が生成するときの、酸化前と酸化後の質量比である。
【0032】
【0033】
【0034】
表1および2から明らかなように、実施例1~3は、いずれも、処理ゾーン内の被処理物が他の処理ゾーンへの移行することが抑制されているため、高い質量増加率を示し、酸化処理が効率よく行われていた。これに対して、比較例1~2は、被処理物が他の処理ゾーンへ移行することが抑制されていないため、質量増加率が低く、酸化処理が十分に行われていないことが確認できた。