(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145255
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】鳥獣忌避剤及び鳥獣忌避方法
(51)【国際特許分類】
A01N 63/30 20200101AFI20220926BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20220926BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A01N63/30
A01P17/00
A01N25/02
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046578
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】521119016
【氏名又は名称】一般社団法人微生物活用研究会
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】錦織 文子
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AE02
4H011BB21
4H011BB22
4H011BC06
4H011DA13
4H011DC05
4H011DD07
(57)【要約】
【課題】経済的かつ安全な鳥獣忌避剤及び鳥獣害防止方法の提供。
【解決手段】光合成細菌を含む微生物を含有する、鳥獣忌避剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成細菌を含む微生物を含有する、鳥獣忌避剤。
【請求項2】
前記光合成細菌の含有率が前記微生物全体の30%以上である、請求項1に記載の鳥獣忌避剤。
【請求項3】
液体である、請求項1又は請求項2に記載の鳥獣忌避剤。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の鳥獣忌避剤を対象地に配置する工程を含む、鳥獣忌避方法。
【請求項5】
前記鳥獣忌避剤は容器に入れた状態である、請求項4に記載の鳥獣忌避方法。
【請求項6】
前記対象地を囲むように前記鳥獣忌避剤を配置する、請求項4又は請求項5に記載の鳥獣忌避方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は鳥獣忌避剤及び鳥獣忌避方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本各地の農地には、イノシシ、シカ、タヌキ、ハクビシン、アナグマ、サル、モグラ、カラスなどの害獣が頻繁に現れては農作物を食い荒らし、農家は甚大な被害を被っている。最近はイノシシやサルが住宅地にまで出没するようになり、テレビのニュース番組やワイドショーでも報道されている。
【0003】
農林水産省の2019年10月の報告によると、2018年度の野生鳥獣による農作物被害額は約158億円となり、被害金額は依然として高水準を維持している。このことは就農者の営農意欲の減退につながり、農産物の実害として数字に現れる以上に深刻な影響を及ぼしている。そのため、農林水産省は、「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」に基づき、現場に最も近い行政機関である市町村が中心となって実施する、野生鳥獣に対する様々な被害防止のための総合的な取組を支援する。」と発表している。
【0004】
しかし、農林水産省、行政機関等が提唱する具体的な害獣対策方法は、侵入防止柵や電気柵の設置、狩猟や射撃による射殺、爆音による威嚇などによるものであり、その費用対効果は営農者が期待する域に達していない。その理由として、侵入防止柵や電気柵の場合は、必要な機材が高額である、敷設に手間がかかる、維持費が高い、人間に対して危険であることが考えられる。また、狩猟や射撃の場合は、猟師の人件費、誤射による事故 、狙撃の失敗による手負い害獣の発生などが考えられる。
【0005】
これまで農林水産省や行政機関が提唱してきた鳥獣対策とは根本的に違う方法によって、鳥獣被害のこれ以上の拡大を防ぎ、同時に営農者の就農意欲の低下を防ぐ方策が望まれている。
さらには、自然環境や使用者の健康への影響に配慮し、化学品によらずに鳥獣害を防ぐ方法が種々提案されている。例えば、特許文献1には圃場の周囲にダブルフラワーローマカミツレを植栽して害獣の圃場への侵入を防ぐ方法が記載されている。特許文献2には、サルボウ貝を焼成して得られる消石灰を含有する鳥獣忌避剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-55739号公報
【特許文献2】特開2018-177785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は上記事情に鑑み、経済的かつ安全な鳥獣忌避剤及び鳥獣害防止方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>光合成細菌を含む微生物を含有する、鳥獣忌避剤。
<2>前記光合成細菌の含有率が前記微生物全体の30%以上である、<1>に記載の鳥獣忌避剤。
<3>液体である、<1>又は<2>に記載の鳥獣忌避剤。
<4><1>~<3>のいずれか1項に記載の鳥獣忌避剤を対象地に配置する工程を含む、鳥獣忌避方法。
<5>前記鳥獣忌避剤は容器に入れた状態である、<4>に記載の鳥獣忌避方法。
<6>前記対象地を囲むように前記鳥獣忌避剤を配置する、<4>又は<5>に記載の鳥獣忌避方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、経済的かつ安全な鳥獣忌避剤及び鳥獣害防止方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】鳥獣忌避剤を配置した水田で撮影したイノシシの挙動を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<鳥獣忌避剤>
本開示は、光合成細菌を含む微生物を含有する、鳥獣忌避剤を含む。
【0012】
本発明者らの検討の結果、上記の鳥獣忌避剤を用いると種々の野生鳥獣の圃場への侵入を抑制できることがわかった。
【0013】
本開示において「光合成細菌」とは、光合成を行う細菌を意味する。光合成細菌には酸素発生型光合成を行うものと酸素非発生型光合成を行うものとがあるが、いずれも本開示の有害鳥獣忌避剤に使用することができる。
光合成細菌としては、藍色細菌、紅色硫黄細菌、紅色非硫黄細菌、緑色硫黄細菌、緑色滑走性細菌などが知られている。これらの光合成細菌の中でも、紅色硫黄細菌及び緑色硫黄細菌が好ましい。
有害鳥獣忌避剤に含まれる光合成細菌は、1種のみでも2種以上の組み合わせであってもよい。
【0014】
光合成細菌は培養により容易に増産できるため、経済性に優れている。また、光合成細菌は生体に対する毒性がなく、人体および鳥獣に健康被害を及ぼす心配がない。
【0015】
光合成細菌を培養する方法は特に制限されず、種菌が増殖できる環境下で光合成に必要な光を照射することで光合成細菌を培養することができる。培養条件は特に制限されず、公知の方法から選択できる。光合成細菌の種菌としては、市販品を用いてもよい。
【0016】
鳥獣忌避剤は、光合成細菌以外の微生物を含んでもよい。光合成細菌以外の微生物としては、酵母菌、乳酸菌、酢酸菌、雑菌等が挙げられる。
充分な鳥獣忌避効果を得る観点から、鳥獣忌避剤に含まれる微生物全体に占める光合成細菌の含有率は30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましい。
鳥獣忌避剤に含まれる光合成細菌の含有率は特に制限されず、鳥獣忌避剤全体の5質量%~100質量%の範囲から選択できる。
【0017】
本開示において、微生物全体に占める光合成細菌の割合を測定する方法は特に制限されない。例えば、後述する実施例に記載した方法で測定できる。
【0018】
鳥獣忌避剤は、液体であっても、固体(ゼリー状、粉末状、団子状等)であってもよい。充分な鳥獣忌避効果を得る観点からは、鳥獣忌避剤は液体であることが好ましい。必要に応じ、使用の際に鳥獣忌避剤を水等で希釈してもよい。
【0019】
鳥獣忌避剤は、微生物以外の成分を必要に応じて含んでもよい。微生物以外の成分としては水、アミノ酸等が挙げられる。
【0020】
<鳥獣忌避方法>
本開示は、上述した鳥獣忌避剤を対象地に配置する工程を含む、鳥獣忌避方法を含む。
【0021】
本開示の鳥獣忌避方法は、あらゆる鳥獣類に対して有効である。忌避対象となる鳥獣として具体的には、イノシシ、シカ、タヌキ、ハクビシン、アナグマ、サル、ヌートリア、モグラ、カラス、ムクドリなどが挙げられる。
【0022】
鳥獣忌避剤を対象地に配置する方法は特に制限されず、鳥獣忌避剤の形態、鳥獣類の種類、対象地の状態等に応じて選択できる。例えば、鳥獣忌避剤を容器に入れた状態で対象地に配置しても、鳥獣忌避剤を対象地に散布、埋設等によって配置してもよい。
【0023】
鳥獣忌避剤を配置する対象地の種類は特に制限されず、水田、畑、果樹園等の農地、山林、住宅地、道路、公園、ゴルフ場などであってよい。
【0024】
充分な鳥獣忌避効果を得る観点から、鳥獣忌避剤は、忌避対象となる鳥獣の対象地への侵入経路に近い場所に配置することが好ましい。例えば、忌避対象が空中を移動する場合は地面からの高さが0.5m~3mの場所に配置することが好ましく、忌避対象が地上を移動する場合は地面からの高さが0m~2mの場所に配置することが好ましく、忌避対象が地中を移動する場合は地面からの深さが0m~1mの場所に配置することが好ましい。
【0025】
充分な鳥獣忌避効果を得る観点から、鳥獣忌避剤は、対象地を囲むように配置することが好ましい。例えば、鳥獣忌避剤を配置する地点間の距離が5m以内となるように配置することが好ましく、3m以内となるように配置することがより好ましく、2m以内となるように配置することがさらに好ましい。
【0026】
鳥獣忌避剤の効果を持続させる観点からは、鳥獣忌避剤を容器に入れた状態で対象地に配置することが好ましい。容器の種類は特に制限されず、プラスチック容器、金属容器等を用いることができる。容器は、鳥獣忌避剤が充分な効果を発現するのであれば密閉された状態であっても、密閉されていない状態であってもよい。
【0027】
鳥獣忌避剤の配置は、必要に応じてポール、ロープ等の補助具を用いて行ってもよい。
【実施例0028】
以下、実施例に基づいて本開示を説明する。ただし本開示は以下の実施例に制限されるものではない。
以下に示す試験は2020年7月~11月の間の150日間を試験期間とし、島根県内及び岡山県内で実施した。
【0029】
<培養液の調製>
光合成細菌(紅色硫黄細菌及び緑色硫黄細菌)の種菌に水、乳酸菌、酵母菌、アミノ酸及び糖蜜を加え、太陽光が当たる場所で20℃~30℃の温度環境下にて14日間静置し、光合成細菌の培養液を得た。得られた光合成細菌の培養液を500mlの無色透明ペットボトルに入れ、蓋をした。
得られた培養液は光合成細菌と、酵母菌、乳酸菌、酢酸菌、雑菌等の光合成細菌以外の微生物とを含み、下記の方法で測定した光合成細菌の含有率は微生物全体の35%であった。
【0030】
<含有微生物の分析及び解析方法>
(1)サンプル前処理
サンプルをコニカルチューブに移し、遠心し、沈殿物を採取する。
【0031】
(2)DNA抽出
VD-250R Freeze Dryer(TAITEC)を用いて、サンプルを凍結乾燥し、マルチビーズショッカー(安井器械)で1,500rpmで2分間粉砕する。次いで、破砕されたサンプルにLysis Solution F(ニッポンジーン)を添加し、65℃で10分間静置する。その後、12,000xgで1分間遠心分離し、上清を分取する。MPure-12 システムとMPure Bacterial DNA Extraction Kit(MP Bio)とを用いて、分取した溶液からDNAを精製する。
【0032】
(3)DNA溶液の定量測定
Synergy LX(Bio Tek)とQuantiFluor dsDNA System(Promega)とを用いて、DNA溶液の濃度測定を行う。
【0033】
(4)ライブラリー作製
2-step tailed PCR法を用いて、16SrRNA V3-V4領域のライブラリーを作製する。
【0034】
(5)ライブラリーの定量
Synergy H1(Bio Tek)とQuantiFluor dsDNA Systemとを用いて、作製されたライブラリーの濃度測定を行う。
【0035】
(6)ライブラリーの品質確認
Fragment Analyzer とdsDNA 915 Reagent Kit(Advanced Analytical Technologies)とを用いて、作製したライブラリーの品質確認を行う。
【0036】
(7)シーケンシング解析
MiSeq システムとMiSeq Reagent Kit v3(Illumina)とを用いて、2x300bpの条件でシーケンシングを行う。
った。
【0037】
(8)Qiime2を用いた解析
Qiime2(ver.2020.8)のdada2プラグインでリードをトリミング・結合し、キメラ配列とノイズ配列を除去した後、代表配列とOTU表を出力する。次いで、feature-classifierプラグインを用いて、取得した代表配列とGreengenes(ver.13.8)の97%OTUとを比較し、系統推定をする。
【0038】
(9)配列情報検索・文献調査
各サンプルで多く検出された細菌の上位5種について、得られた16S rRNAのシークエンスデータをBLAST(Basic Local Alignment Search Tool (NCBI)https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)にて配列検索を行い、細菌種を同定する。同定された細菌種について、文献調査を行う。
【0039】
<実施例1>
水田の全周を囲むように2m間隔でポールを立て、地面から1mの高さで隣接するポールの間にロープを張った。各ポールの基部(地面上)に調製した光合成細菌の培養液を入れたペットボトルを置いた。この状態で、試験期間における水田への鳥獣の侵入の発生状況を足跡や被害状況などを目視することによって調べた。結果を表1に示す。
【0040】
<実施例2>
野菜畑の全周を囲むように2m間隔でポールを立て、地面から1mの高さで隣接するポールの間にロープを張った。各ポールの地面から0.8mの高さの位置に実施例1で用いたものと同じ光合成細菌の培養液を入れたペットボトルを取り付けた。この状態で、試験期間における野菜畑への鳥獣の侵入の発生状況を調べた。結果を表1に示す。
【0041】
<実施例3>
水田の全周を囲むように2m間隔でポールを立て、地面から1mの高さで隣接するポールの間にロープを張った。各ポールの地面から2mの高さの位置に実施例1で用いたものと同じ光合成細菌の培養液を入れたペットボトルを取り付けた。あわせて、水田の中心にもポールを立て、地面から2mの高さの位置に実施例1で用いたものと同じ光合成細菌の培養液を入れたペットボトルを取り付けた。この状態で、試験期間における水田への鳥獣の侵入の発生状況を調べた。結果を表1に示す。
【0042】
<実施例4>
水田の全周を囲むように、2m間隔で深さ0.1mの穴を掘り、実施例1で用いたものと同じ光合成細菌の培養液を入れたペットボトルを穴の中に置いた。この状態で、試験期間における水田への鳥獣の侵入の発生状況を調べた。結果を表1に示す。
【0043】
<実施例5>
水田の全周に、実施例1で用いたものと同じ光合成細菌の培養液を散布した。この状態で、試験期間における水田への鳥獣の侵入の発生状況を調べた。結果を表1に示す。
【0044】
<比較例1~4>
実施例1~4を実施した各圃場において、光合成細菌の培養液を入れたペットボトルを同量の水を入れたペットボトルに変更したこと以外は同様の条件で試験を実施した。結果を表1に示す。
【0045】
<比較例5~8>
実施例1~4を実施した各圃場において、光合成細菌の培養液を入れたペットボトルを設置しなかったこと以外は同様の条件で試験を実施した。結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
表中の「〇」は侵入なし、「×」は侵入あり、「△」は侵入のありなしが混在をそれぞれ意味する。斜線は試験対象でないことを意味する。
表1に示すように、本開示の鳥獣忌避剤を用いた実施例1~5では、試験対象とした鳥獣に対して優れた忌避効果を示した。
【0048】
<ビデオカメラによる検証>
実施例1において、ビデオカメラで水田の周囲を撮影した。撮影した動画の静止画像を
図1に示す。
図1の(a)に示すように、午前0時頃に裏山に生息するイノシシ(白丸で囲んだ部分)が水田の脇の茂み(点線で囲んだ部分)から現れ、(b)に示すようにポール間に張ったロープ(白線で示す)に近づいてきた。イノシシは(c)に示すようにロープの外側で水田への侵入を躊躇し、(d)に示すように去っていった。
【0049】
光合成細菌の培養液を入れたペットボトルの代わりに同量の微生物の培養液を入れたペットボトルを用いたこと以外は同様の条件で、ビデオカメラによる撮影を実施した。この培養液は、酵母菌、乳酸菌、酢酸菌、雑菌等の光合成細菌以外の微生物を含み、光合成細菌の含有率は微生物全体の0%である。
【0050】
撮影した画像から、イノシシがペットボトルを気にすることなく水田に侵入する様子が確認された。この結果から、実施例で使用した培養液に含まれる微生物のうち、光合成細菌が鳥獣忌避作用を有することがわかった。
【0051】
以上の結果から、本開示の鳥獣忌避剤によれば圃場への鳥獣の侵入を有効に抑制できることがわかる。