(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145262
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】多気筒内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02F 1/10 20060101AFI20220926BHJP
F02F 1/14 20060101ALI20220926BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
F02F1/10 D
F02F1/14 D
F01P3/02 B
F01P3/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046588
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】岡林 大輔
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA40
3G024CA05
3G024DA18
3G024FA03
3G024FA14
(57)【要約】
【課題】気筒の保温性を確保しつつ、冷却すべき箇所は過不足なく冷却される内燃機関を開示する。
【解決手段】内燃機関は、冷却手段として、シリンダブロック1に設けたブロックジャケット8を備えている。シリンダブロック1の長手一側部に冷却水分配通路11が形成されており、下段ヘッドジャケット13に冷却水分配通路11から送水される。ボア間部7には、下段ヘッドジャケット13から冷却水が噴射される。ブロックジャケット8は、ヘッドボルト6の箇所では深底部8a,8cになって、隣り合ったヘッドボルト6の間の部位では浅底部8bになっている。冷却水ジャケット8の下半部での冷却水の移動はないため、気筒9の保温機能に優れている。また、ヘッドボルト6の箇所では深底部8a,8bになっているため、ヘッドボルト回りの肉厚をできるだけ均等化して締結後の歪みを防止できる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックジャケットに、クランク軸線方向に並んだシリンダボアの群と、前記シリンダボアの群を冷却水ジャケットとが上向きに開口するように形成されて、前記冷却水ジャケットはボア間部に向けて入り込んだ凹入部を有しており、
かつ、前記冷却水ジャケットの凹入部の外側の部位と、クランク軸線方向から見て前記冷却水ジャケットの前後両側の部位とに、ヘッドボルトが一直線状に並んで配置されている構成であって、
前記冷却水ジャケットは、前記ヘッドボルトの箇所では深底部になって、隣り合った深底部の間では浅底部になっており、前記浅底部の深さは前記深底部の深さの略半分になっている、
多気筒内燃機関。
【請求項2】
前記シリンダブロックの冷却水ジャケットからシリンダヘッドの冷却水ジャケットへの通水部は存在しておらず、前記シリンダブロックのボア間部に、前記シリンダヘッドの冷却水ジャケットから冷却水が噴出するようになっており、
かつ、前記深底部の下端は前記ヘッドボルトの下端と同じ高さか下方に位置している、
請求項1に記載した多気筒内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、水冷式の多気筒内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリン機関やディーゼル機関のような内燃機関では、冷却手段として水冷式が多く採用されている。水冷式には幾通りかの冷却パターンがあり、シリンダブロックのウォータポンプから連通穴を介してシリンダヘッドの冷却水ジャケットに通水していることが多いが、単に冷却水をシリンダブロックの冷却水ジャケットからシリンダヘッドの冷却水ジャケットに流すだけの構成では、シリンダブロックが過冷却される等の問題がある。そこで、様々な改善策が提案されている。
【0003】
その例として特許文献1には、シリンダブロックの冷却水ジャケットにスペーサを嵌め入れて、冷却水が主として冷却水ジャケットの上部を流れるように設定することが開示されている。
【0004】
他方、他の改善策と、冷間始動時のシリンダブロックの過冷却防止を主目的として、シリンダブロックの冷却水ジャケットへの送水経路とシリンダヘッドの冷却水ジャケットへの送水経路とを別系統として、温度によって開閉するサーモバルブや電磁式のバルブにより、冷間運転時に、シリンダブロックの冷却水ジャケットへの送水を停止して、シリンダブロックの冷却水ジャケットのみに送水する2系統冷却システムも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のようにスペーサによって整流する方式は、冷却水ジャケットの深さが一定になっている既存の構造のシリンダブロックには有益であるが、この場合、スペーサを配置しても冷却水の流れは存在しているため、保温効果が十分とは言い難い。また、スペーサを使用すると、部材のコストや組み付けの手間が増大することになる。従って、スペーサを使用することなく、シリンダブロックを的確に冷却・保温できる技術が望まれていると云える。
【0007】
2系統冷却方式も同様であり、冷間始動時におけるシリンダブロックの過冷却は防止できるが、冷間運転を脱した後の通常運転状態では、冷却水はシリンダブロックのシリンダヘッドを経由してシリンダヘッドの冷却水ジャケットに流れるため、通常運転状態でシリンダブロックが過冷却される可能性は残っている。また、2系統冷却方式はサーモ弁等の切り換え手段が必要であるため、コストが嵩むことは否めない。
【0008】
従って、シリンダブロックについて、気筒の上部はしっかりと冷却して中位部・下部は保温する技術が要請されていると云える。この場合、シリンダヘッドについて考慮する必要がある。すなわち、シリンダブロックには、各シリンダボアを囲うようにヘッドボルトが配置されており、ボア間部の外側にもヘッドボルトが配置されているが、締結に伴うひずみの発生を防止するため、ヘッドボルトの周囲の箇所はできるだけ肉厚を一定化することが要請されていると云える。
【0009】
本願発明は、このような要請に応えた技術を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は多気筒内燃機関に関するもので、この多気筒内燃機関は、
「ブロックジャケットに、クランク軸線方向に並んだシリンダボアの群と、前記シリンダボアの群を冷却水ジャケットとが上向きに開口するように形成されて、前記冷却水ジャケットはボア間部に向けて入り込んだ凹入部を有しており、
かつ、前記冷却水ジャケットの凹入部の外側の部位と、クランク軸線方向から見て前記冷却水ジャケットの前後両側の部位とに、ヘッドボルトが一直線状に並んで配置されている」
という構成において、
「前記冷却水ジャケットは、前記ヘッドボルトの箇所では深底部になって、隣り合った深底部の間(或いは、隣り合った隣り合ったの間)では浅底部になっており、前記浅底部の深さは前記深底部の深さの略半分になっている」
という特徴を有している。この場合、「略半分」は、1/3~2/3程度の範囲を含んでいる。
【0011】
本願発明は、様々に展開できる。その例として請求項2では、
「前記シリンダブロックの冷却水ジャケットからシリンダヘッドの冷却水ジャケットへの通水部は存在しておらず、前記シリンダブロックのボア間部に、前記シリンダヘッドの冷却水ジャケットから冷却水が噴出するようになっており、
かつ、前記深底部の下端は前記ヘッドボルトの下端と同じ高さか下方に位置している」
という構成を採用している。
【発明の効果】
【0012】
本願発明では、シリンダブロックの冷却水ジャケットは、深底部と浅底部とが周方向に交互に並んだ形態になっているため、深底部の下半部では冷却水の流れは基本的に発生しない。従って、気筒の保温機能に優れている。
【0013】
他方、冷却水ジャケットの上部では冷却水の流れが形成されるため、気筒の上部に冷却水を継続的に当てることが可能であり、従って、気筒の上部の冷却性は阻害されない。すなわち、気筒は、冷却すべきところはしっかりと冷却して、保温すべきところはしっかりと保温できる。
【0014】
従って、気筒の局部的な過剰昇温を防止してノッキングを抑制しつつ、オイルの温度を高めてピストンの摺動抵抗を低減し、燃費の向上に貢献できる。そして、シリンダブロックからの放熱を抑制できるため、機関及び冷却水の早期昇温を促進して、燃費の向上に貢献できると共に、触媒を早期活性化して排気ガスの浄化性能向上も図ることができる。自動車用の内燃機関でヒータの熱源に冷却水を利用している場合、ヒータの効きを良くすることができる利点もある。
【0015】
また、2系統冷却システムのような弁装置は不要であり、また、シリンダブロックの冷却水ジャケットにスペーサを配置する必要もない。従って、構造を複雑化することなく上記の効果を享受できる。
【0016】
そして、冷却水ジャケットは、ヘッドボルトの箇所では深底部になっているため、ヘッドボルトが貫通している部分の肉厚をできるだけ均一化して、締結後の歪みの発生を防止できる。従って、ヘッドボルト回りの肉厚の均等化による品質の向上と、気筒(特にボア間部)の保温とを同時に達成できる。
【0017】
請求項2の構成を採用すると、シリンダブロックの冷却系統とシリンダヘッドの冷却系統とが別々になっているため、シリンダヘッドの冷却と気筒の冷却・保温とを確実化できる。更に、ボア間部にはシリンダヘッドで加温された冷却水が供給されているため、ボア間部の過冷却を防止しつつ、ボア間部の箇所の保温も確実化できる利点がある。
【0018】
そして、冷却水ジャケットにおける深底部の下端は前記ヘッドボルトの下端と略同じ高さかよりも下方に位置しているため、ヘッドボルト回りの肉厚の均等化を確実化できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る冷却水ジャケットの分離平面図である。
【
図2】積層した冷却水ジャケット群の平面図である。
【
図3】積層した冷却水ジャケット群の斜視図である。
【
図4】(A)はシリンダブロックの部分平面図、(B)は積層した冷却水ジャケット群の側面図である。
【
図5】(A)は積層した冷却水ジャケット群の後面図、(B)はシリンダブロックの冷却水ジャケット及び冷却水分配通路の斜視図である。
【
図7】(A)は
図6のVIIA-VIIA視断面図、(B)は
図6のVIIB-VIIB視断面図である。
【
図8】変形例を示す図で、(A)は分離平面図、(B)は積層状態での平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用しているが、前後方向はクランク軸線方向であり、左右方向は、クランク軸線及びシリンダボア軸線と直交した方向である。前と後ろについては、タイミングチェーンが配置される側を前、変速機が配置される側を後ろとしている。
【0021】
(1).基本構造
本実施形態は、自動車用の3気筒ガソリンエンジンに適用しており、まず、
図1~7に示す基本形を説明する。
【0022】
図7に示すように、エンジンは、シリンダブロック1と、その上面にガスケット2を介して固定されたシリンダヘッド3とを備えている。シリンダヘッド2の上面には、図示しないヘッドカバーが固定されている。
図6に示すように、シリンダブロック1には、3つのシリンダボア4がクランク軸線方向に並んで形成されている。
【0023】
シリンダヘッド3には、シリンダボア4に対応した下向き開口の燃焼室(凹所)5が形成されており、燃焼室5に点火プラグ5aの電極が露出している。また、燃焼室5には、図示しない前後一対の吸気ポートの終端と、前後一対の排気ポートの始端とが開口している。敢えて説明するまでもないが、吸気ポートの始端はシリンダヘッド3の吸気側面に開口している。他方、一対ずつの排気ポートは1つの排気集合通路に集合しており、排気集合通路は1つの排気出口を介してシリンダヘッド3の排気側面に開口している。排気出口は、平面視で中間部のシリンダボア4の左右側方に開口している。
【0024】
図7(B)のとおり、シリンダヘッド3はヘッドボルト6の群によってシリンダブロック1に固定されている。例えば
図1に示すように、ヘッドボルト6は、気筒列を挟んだ両側でかつ各シリンダボア4を囲う位置に配置されている。従って、前後中間部に位置した左右2本ずつのヘッドボルト6は、隣り合ったシリンダボア4の間のボア間部7の左右側方に配置されている。
【0025】
図6に明示するように、シリンダヘッド2には、冷却水が通る冷却水ジャケット8を設けている。以下では、便宜的に、シリンダブロック1の冷却水ジャケット8をブロックジャケットと呼ぶこととする。ブロックジャケット8は、平面視では、気筒列を囲うループ形状に形成されており、ボア間部7の箇所では、当該ボア間部7に向けて入り込んだ凹入部8aになっている。
【0026】
ブロックジャケット8を設けたことにより、気筒9が形成されている。ボア間部7の上部には、これを前後に2分するようにスリット10が形成されている。従って、ブロックジャケット8のうち気筒列の長手中心線を挟んで左右に位置した凹入部8aの上部は、スリット10を介して互いに連通している。
【0027】
シリンダブロック1の上面のうちブロックジャケット8を挟んだ一方の長手側部(吸気側の長手側部)に、前後長手の冷却水分配通路(吐出通路)11が形成されている。冷却水分配通路11とブロックジャケット8のうち各気筒9に対応した3か所とが、シリンダブロック1の上面に形成した細いスリット状の下ジェット通路12を介して連通している。
【0028】
他方、例えば
図3~5から容易に理解できるように、シリンダヘッド3には、下段の冷却水ジャケット13と上段の冷却水ジャケット14とが形成されており、下段の冷却水ジャケット13に冷却水分配通路11から送水され、更に、下段の冷却水ジャケット13から上段の冷却水ジャケット14に送水される。以下では、便宜的に、シリンダヘッド3における下段の冷却水ジャケット13を下段ヘッドジャケット13と呼び、上段の冷却水ジャケット14を上段ヘッドジャケット14と呼ぶこととする。
【0029】
(2).冷却水分配通路とブロックジャケット
図6に示すように、冷却水分配通路11は平面視では前後方向にほぼ一直線状に延びる長溝状に形成されているが、中間部の2本のヘッドボルト6の箇所では、ヘッドボルト6を設ける肉部を逃がすための内向き部15を設けたことによって溝幅が狭くなっている。
【0030】
他方、側面視では、
図3,4(B)に示すように、冷却水分配通路11は、前(一端)から後ろ(他端)に向けて深さが浅くなっており、かつ、前端部には下向き張り出し部11aを設けており、下向き張り出し部11aに、図示しないウォータポンプの吐出通路と連通した冷却水入口16が位置している。
【0031】
なお、ウォータポンプはクランク軸によって駆動される方式でもよいし、電動式でもよい。クランク軸で駆動される場合は、補機駆動ベルトで駆動されるので、必然的にシリンダブロック1の前部に配置される。従って、本実施形態のようにウォータポンプの吐出通路16をブロックジャケット8の前部に配置すると、クランク軸で駆動されるウォータポンプにも簡単に対応できる。
【0032】
図5(特に分図(B)参照)において、ブロックジャケット8の形態を明示している。
図5と
図4とから理解できるように、ブロックジャケット8は、ボア間部7に対応した前後左右の2か所の凹入部8aと、前後両端の左右2か所ずつの部位8cとの合計8か所において深底部になって、隣り合った深底部8a,8cの間では浅底部8bになっている(凹入部8aは深底部でもあるので、深底部にも符号8aを付している。)。別の視点から見ると、ヘッドボルト6の内側の箇所で深底部8a,8cになっている。
【0033】
図7(B)に示すように、ヘッドボルト6の下端は深底部8a,8cの下端と同じ高さになっているが、深底部8a,8cの下端をヘッドボルト6の下端よりも下方に位置させてもよい。
【0034】
水平方向から見た状態で、深底部8a,8cの下端は若干の平坦面になっているものの、基本的には湾曲した形状に近くなっている。浅底部8bの下端はある程度の範囲で平坦になっている。いずれにしても、深底部8a,8cと浅底部8bとの連接部は丸みを帯びており、両者は滑らかに連続している。
図4に示すように、浅底部8bの深さH2は、深底部8a,8cの深さH1の半分とほぼ同じかやや小さくなっている。
【0035】
また、シリンダボア4との関係でみると、深底部8a,8cの深さH1はシリンダボア4の直径Dとほぼ同じか僅かに大きくなっており、浅底部8bの深さH2は、シリンダボア4の半径Rとほぼ同じかやや小さくなっている。
図7(B)に一点鎖線で示すように、深底部8aをボア間部7のスリット10よりも下方の部位において幅狭に形成してもよい。
【0036】
ブロックジャケット8の後端部のうち吸気側にずれた部位に、外向きに突出したリアはみ出し部17を形成している。
図5(B)において、リアはみ出し部17を含む平面視四角形(左右長手の長方形)のエリアを一点鎖線で表示しているが、この部位が冷却水出口部18になっている。
【0037】
図1から最も理解し易いと解されるが、シリンダヘッド3の後部に、上下ヘッドジャケット13,14に接続された排水通路19から吸気側に分岐して下段ヘッドジャケット13に向かうバイパス通路20が接続されており、バイパス通路20の上流端に、下段ヘッドジャケット13に近接した状態で角柱状の中継部20aが形成されて、中継部20aが、ブロックジャケット8の冷却水出口部18に上から連通している。(
図7(B)に示すガスケット2には、中継部20aと冷却水出口部18とを連通させる連通穴(図示せず)が空いている。)。
【0038】
従って、ブロックジャケット8に流入した冷却水は、その後端部から排出されて、下段ヘッドジャケット13から排出された冷却水と一緒に配水部(図示せず)に向かう。
図3及び
図4では、バイパス通路20と中継部にハッチングを施して形態を明示している。この図のとおり、バイパス通路20は円形になっている。
【0039】
図1や
図5に示すように、ブロックジャケット8のうち排気側の部位でかつ前端寄りの部位に、フロントはみ出し部21を設けている。例えば
図6に示すように、既述の下ジェット通路12は、シリンダボア4における左右長手の中心線22の延長線上に位置している。但し、下ジェット通路12は、中心線22を挟んだ前後両側に2本ずつ形成するなど、様々なバリエーションを採用できる。
【0040】
(3).ヘッドジャケットの概要
次に、シリンダヘッド3の冷却水ジャケットを説明する。先に図面について補足説明しておくに、
図2において、右上がりのハッチングで表示しているのは下段ヘッドジャケット13であり、右下がりのハッチングで表示しているのはブロックジャケット8である。ハッチングを施していない部分は上段ヘッドジャケット14である。ヘッドボルト6は点線のハッチングで表示している。
【0041】
更に、図面について補足説明しておくと、
図3,4,5(A)では、下段ヘッドジャケット13と上段ヘッドジャケット14との境界、及び、下段ヘッドジャケット13とブロックジャケット8及び冷却水分配通路11との境界を太線で表示している。
【0042】
例えば
図1から容易に理解できるように、下段ヘッドジャケット13及び上段ヘッドジャケット14は、プラグホール用肉部23、バルブ配置用肉部24、ヘッドボルト配置用肉部25,26などを回避して形成されている。プラグホール用肉部23及びバルブ配置用肉部24は、実際には穴が空いていて筒状になっているが、図では簡略化して全体を肉部として表示している。
【0043】
なお、例えば
図2から理解できるように、上段ヘッドジャケット14及び下段ヘッドジャケット13とも平坦ではなく、各部位において高低差が存在している。従って、図における上段ヘッドジャケット14と下段ヘッドジャケット13とは、厳密には、冷却水ジャケットを平面方向から見た投影図になっている。
【0044】
図1から理解できるように、下段ヘッドジャケット13及び上段ヘッドジャケット14とも、気筒列の中心線に沿って前後方向に延びるセンタージャケット部13a,14aと、センタージャケット部13a,14aと一体に連続して前後方向に長く延びる排気側ジャケット部13b,14bと、センタージャケット部13a,14aから半島状の状態で突出した吸気側ジャケット部13c,14cとを備えている。上下の排気側ジャケット部13b,14bは、排気ポートや排気集合通路を挟んで上下に分離している。
【0045】
排気側ジャケット部13b,14bが前後方向に長く延びているのは、排気ポートに連通した排気集合通路が前後方向に長く延びていることに対応している。上下ヘッドジャケット14,13の後端に出口ポート19a,19bが後ろ向きに突出しており、上下の出口ポート19a,19bは既述の排水通路19に集合している。また、既述のとおり、排水通路19にはバイパス通路20も集合している。排水通路19は、請求項に記載した戻り通路の一部を成している。
【0046】
なお、排水通路19は図示しない配水制御部に接続されており、配水制御部からラジエータやヒータコアなどの熱交換部に分岐している。各熱交換部を経由した冷却水は、管路を介してウォータポンプに吸引される。また、配水制御部には、低温時に冷却水をウォータポンプにダイレクトに戻す管路も接続されている。
【0047】
図1の比較から理解できるように、上段ヘッドジャケット14の吸気側ジャケット部14cの突出量は僅かであるのに対して、下段ヘッドジャケット13の吸気側ジャケット部13cは、平面視で冷却水分配通路11に重なる位置まで大きく突出しており、冷却水分配通路11から下段ヘッドジャケット13の吸気側ジャケット部13cの先端部に、ガスケット2に空いた連通穴を介して冷却水が送水されている。
図1,6に、吸気側ジャケット部13cと冷却水分配通路11との連通部27を網かけで表示している。
【0048】
(4).ヘッド内の冷却水の流れ
これらの点を更に正確に説明する。
図1に明示するように、2箇所のボア間部7から突出した2つの吸気側ジャケット部14cはヘッドボルト6を避けて二股に分岐しており、その先端部がそれぞれ冷却水分配通路11と連通している。また、前端に位置した吸気側ジャケット部13cは単純な左右長手の形態になっており、その先端部が冷却水分配通路11の前端部に連通している。
【0049】
他方、後端に位置した吸気側ジャケット部13cは、排気ポートの群等を囲うようにL形に曲がっており、その先端部が冷却水分配通路11の後端部に連通している。後端に位置した吸気側ジャケット部13cも単純な左右長手の形態に形成するたことは可能であるが、図示のようにL形に形成すると、冷却水分配通路11を短くしてコンパクト化できる利点がある。
図3や
図5(A)に示すように、下段ヘッドジャケット13の各吸気側ジャケット部13cは、センタージャケット部13aから段落ちした状態に形成されている。
【0050】
いずれにしても、下段ヘッドジャケット13の吸気側ジャケット部13cは、半島状に細長く延びてブロックジャケット8の吸気側部分を跨いでおり、これによって下段ヘッドジャケット13と冷却水分配通路11とが前後複数箇所で連通している。この点、本実施形態の大きな特徴の1つである。
【0051】
下段ヘッドジャケット13の吸気側ジャケット部13cは、プラグホール用肉部23の前後両側に位置しており、各吸気側ジャケット部13cに流入した冷却水は、各肉部を避けて排気側に横流れしていき、排気側ジャケット部13bで後ろ向きに縦流れてして出口ボート19aに流れ込む。
【0052】
この場合、
図1に示すように、下段ヘッドジャケット13におけるセンタージャケット部13aのうち、ボア間部7の上に位置した部位に、吸気側に向けて突出した整流ボス部28を形成している。従って、ボア間部7の箇所に位置した2つの吸気側ジャケット部13cから排気側に向かう水流は、整流ボス部28によって前部に分岐してから排気側に向かう。
【0053】
このように整流ボス部28を設けたのは、ボア間部7の上方部に肉部がないことから、横流れの水流がセンタージャケット部13aを素通りしてしまうことを防止するためである。排気側でかつボア間部7の箇所に位置したヘッドボルト配置用肉部25は、吸気側に向けて突出するように平面視く字形に形成されている。従って、冷却水がヘッドボルト配置用肉部25を通過するに当たって水流は流速を増しており、これにより、冷却水を排気側ジャケット部13bにまんべんなく流して、排気ポートや排気集合通路をしっかりと冷却できる。
【0054】
下段ヘッドジャケット13のセンタージャケット部13aと上段ヘッドジャケット14のセンタージャケット部14aとは、
図1,2に示すように、平面視で気筒列中心線上に位置した連通穴29を介して互いに連通している。連通穴29は、プラグホール用肉部23を挟んだ前後両側に位置しており、ボア間部7の上方の箇所では、連通穴32は整流ボス部28の箇所に位置している。もとより、連通穴29の位置は任意に設定できる(例えば、上段ヘッドジャケット14における吸気側ジャケット部14cの箇所で連通させてもよい。)。
【0055】
上段ヘッドジャケット14では、冷却水は、センタージャケット部14aから排気側ジャケット部14bに向けて横流れしていき、排気側ジャケット部14bにおいて、出口ポート19bに向けて縦流れしていく。また、連通穴29が気筒列中心線上に位置しているため、冷却水の一部は吸気側に向かい、反射してから排気側ジャケット部14bに向かう。従って、吸気側の部位が過冷却されることを防止できる。なお、
図1,2に示すように、排気側でかつ後端に位置したヘッドボルト配置用肉部26にはオイル落とし穴30が空いている。
【0056】
そして、下段ヘッドジャケット13においては、半島状に形成された各吸気側ジャケット部13cからそれぞれ横流れの水流が形成されるため、下段ヘッドジャケット13のセンタージャケット部13aをまんべんなく均一に冷却できる。
【0057】
(5).気筒の冷却構造
図6を参照して説明したように、シリンダヘッド3におけるボア間部7の上部には、これを前後に分断するスリット10が形成されている。
図7(B)に示すように、スリット10は上からフライスカッターを降ろすことによって加工さている。従って、その下面は、正面視で下向きに膨れた(上向きに凹んだ)円弧の形状になっている。
【0058】
そして、
図7(B)に示すように、シリンダヘッド3のうちボア間部7の上方の部位に、下段ヘッドジャケット13のセンタージャケット部13aから冷却水をスリット10に向けて噴出する左右一対の上ジェット通路(冷却水噴出穴)31を形成している。ガスケット2には連通穴2aが空いている。左右の上ジェット通路31は、正面視で逆ハ字を成すように傾斜している。かつ、両者の延長線が交叉しないように設定している。
【0059】
シリンダヘッド3において、冷却水は下段ヘッドジャケット13から上段ヘッドジャケット14に流れており、従って、上段ヘッドジャケット14よりも下段ヘッドジャケット13において水圧は高くなっている。また、ブロックジャケット8と下段ヘッドジャケット13とを比べると、冷却水分配通路11から下段ヘッドジャケット13に向かう水量が圧倒的に多く、ブロックジャケット8よりも下段ヘッドジャケット13の水圧が高くなっている。従って、下段ヘッドジャケット13の冷却水は、上ジェット通路31からスリット10に向けて高圧で噴射される。従って、できるだけ少ない水量でボア間部7をしっかりと冷却できる。
【0060】
本実施形態では、ブロックジャケット8には、冷却水は、シリンダヘッド3に形成した上ジェット通路31と、シリンダブロック1に形成した下ジェット通路12とから送られるのみであり、他にブロックジャケット8への送水部は存在しない。シリンダヘッド3の下段ヘッドジャケット13に対する冷却水の送り量とブロックジャケット8に対する冷却水の送り量とは、おおよそ10:1の割合になっている。
【0061】
上下ジェット通路31,12の通水割合は任意に設定できるが、ボア間部7を冷却する必要性が勝っているので、上ジェット通路31からの送水量が多いのが好ましい。上ジェット通路31を流れる冷却水の温度は、下ジェット通路12を流れる冷却水の温度よりも高いので、ボア間部7をしっかりと冷却するためには、大部分が上ジェット通路31から送水されるように設定するのが好ましいといえる。
図7(B)において符号32で示すのは、シリンダヘッド3の鋳造に際して中子を安定させるために設けた足部の名残の水足である。
【0062】
(6).変形例(
図8)
図8の変形例では、下段ヘッドジャケット13の吸気側ジャケット部13cは、各シリンダボア4の側方において、吸気ポートの対の下方に位置したブリッジ33を介して連続している。従って、前後一対の吸気ポートが配置されている各肉部35は、吸気側ジャケット部13cによって上下左右から囲われている。
【0063】
そして、下段ヘッドジャケット13のブリッジ部33と下段ヘッドジャケット13の吸気側ジャケット部14cとが、吸気ポートの間を通るポート間通路34によって連通している。ポート間通路34の下端は、シリンダボア4に寄せられている。従って、吸気ポートの下流端部やバルブシートに対する冷却性がアップしている。
【0064】
また、この変形例では、ブリッジ部33の前後中間部にも連通部27を形成している。従って、
図1~7の実施形態に比べて、連通部27の数が2つ増えている。
図3,4では、下段ヘッドジャケット13の吸気側ジャケット部13cは、
図8の形態になっている。
【0065】
(7).まとめ
本実施形態は以上の構成であり、ブロックジャケット8への通水量がヘッドジャケット5への通水量に比べて格段に少ないため、冷却水を利用して気筒を保温できる。これにより、オイルの温度を上げてピストンの摺動抵抗を低減し、燃費の向上に貢献できる。
【0066】
シリンダブロック1に比べてシリンダヘッド3は高温になるが、ヘッドジャケット5への通水量は多いため、シリンダヘッド3の冷却はしっかりと行える。また、気筒9の上部は上下のジェット通路31,12から噴射した冷却水によって的確に冷却できる。従って、冷却すべき箇所はしっかりと冷却して、ノッキングの抑制等に貢献できる。
【0067】
また、シリンダブロック1からの放熱が抑制されて機関及び冷却水の早期昇温を促進できるため、燃費の向上に貢献できると共に、触媒を早期活性化して排気ガスの浄化性能向上も図ることができる。ヒータの効きもよい。そして、バルブは不要であるため構造は簡単であり、それだけコストを抑制できる。
【0068】
気筒9に対して噴出された冷却水は、ブロックジャケット8の上部を流れて冷却水出口18に向かうが、深底部8a,8cの箇所では冷却水の移動はないため、特にボア間部7の箇所を保温できる。そして、ヘッドボルト6の箇所で冷却水ジャケット8は深底部8a,8cになっているため、ヘッドボルト6が貫通している部分の肉厚をできるだけ均一化して、締結後の歪みの発生を防止できる。従って、ヘッドボルト回りの肉厚の均等化による品質の向上と、気筒9の保温とを同時に達成できる。
【0069】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本願発明は、内燃機関に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0071】
1 シリンダブロック
2 ガスケット
3 シリンダヘッド
4 シリンダボア
8 ブロックジャケット
8a,8c 深底部
8b 浅底部
9 気筒
11 冷却水分配通路
13 下段ヘッドジャケット
16 冷却水分配通路の冷却水入口
18 ブロックジャケットの冷却水出口部
20 ブロックジャケットの冷却水を排出するバイパス通路