(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145291
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】砥石表面転写物の作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
G01N1/28 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046639
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】籾井 孝平
(72)【発明者】
【氏名】五十君 智
(72)【発明者】
【氏名】石田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】木邨 祐太
(72)【発明者】
【氏名】安田 樹由
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA19
2G052AD32
2G052AD52
2G052FD03
2G052FD06
2G052GA35
2G052JA07
2G052JA09
(57)【要約】
【課題】転写性及び作業性の少なくとも一方を向上させた砥石表面転写物の作製方法を提供する。
【解決手段】砥石10の研削表面10sを観察するために研削表面10sの凹凸が転写された砥石表面転写物の作製方法であって、(a)研削表面10sに第1部材20を配設し且つ硬化させた後に研削表面10sから剥離して研削表面10sの凹凸が転写された1段レプリカ面22sを有する1段レプリカ22を作製する工程と、(b)1段レプリカ22の1段レプリカ面22sに第2部材30を配設し且つ硬化させた後に1段レプリカ面22sから剥離して1段レプリカ面22sの凹凸が転写された2段レプリカ面32sを有する2段レプリカ32を作製する工程と、を備え、(c)第2部材30は、第1部材20との反応性を有さない硬化性樹脂である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石の研削表面を観察するために前記研削表面の凹凸が転写された砥石表面転写物の作製方法であって、
前記研削表面に密接するように第1部材を配設し、且つ、配設した前記第1部材を硬化させた後に前記研削表面から剥離させることにより、前記研削表面の凹凸が転写された1段レプリカ面を有する1段レプリカを作製する1段レプリカ作製工程と、
前記1段レプリカ面に密接するように第2部材を配設し、且つ、配設した前記第2部材を硬化させた後に前記1段レプリカ面から剥離させることにより、前記1段レプリカ面の凹凸が転写された2段レプリカ面を有する2段レプリカを作製する2段レプリカ作製工程と、を備え、
前記第2部材は、前記第1部材との反応性を有さない硬化性樹脂である
ことを特徴とする砥石表面転写物の作製方法。
【請求項2】
前記第2部材は、常温硬化性を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の砥石表面転写物の作製方法。
【請求項3】
前記第1部材がアセチルセルロースの樹脂フィルムである場合には、前記第2部材は、二液混合型のシリコーン樹脂であり、
前記第1部材がシリコンゴム成形剤である場合には、前記第2部材は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂、又は、ポリエステル樹脂を主要成分とする一液型の光硬化性樹脂であり、
前記第1部材がシリコーン混和剤である場合には、前記第2部材は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂であり、
前記第1部材が二液混合型のシリコーン樹脂である場合には、前記第2部材は、ビスフェノールAエポキシ樹脂及びアクリル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂、又は、ポリエステル樹脂を主要成分とする一液型の光硬化性樹脂である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の砥石表面転写物の作製方法。
【請求項4】
前記第2部材は、二液混合型の硬化性樹脂であって気泡除去に必要な硬化時間を有する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の砥石表面転写物の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石の研削表面を観察するためにその研削表面の凹凸が転写された砥石表面転写物の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砥石の研削表面における砥粒破砕状態、砥粒再生状態、目詰まり状態などの観察により得られる解析結果は、砥石の材料や組成の研究、砥石の研削条件の研究、砥石の設計などの技術資料として重要である。そのため、砥石の研削表面の観察が種々の砥石の研削試験毎に必要とされる。
【0003】
上述した砥石の研削表面を観察するために、(a)砥石の研削表面にアセチルセルロースの樹脂フィルムを密接するように貼付し且つ貼付した樹脂フィルムを硬化させた後に剥離し、研削表面の凹凸が転写された1段レプリカ面を有する1段レプリカを作製し、(b)次に1段レプリカを囲む枠内に溶媒にて溶解したポリビニルアルコールを流し込んで1段レプリカ面に密接するようにポリビニルアルコールを配設し、且つ、流し込んだポリビニルアルコールを硬化後に剥離させることにより、1段レプリカ面の凹凸が転写された2段レプリカ面を有する2段レプリカを作製する、砥石表面転写物の作製方法が知られている。例えば、特許文献1に記載の砥石表面転写物の作製方法がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、砥石の材料や組成の研究、砥石の研削条件の研究、砥石の設計などの技術資料として砥石の研削表面を観察することから、砥石の研削表面に対して転写性が良い2段レプリカを作製することが望まれている。また、特許文献1に記載の砥石表面転写物の作製方法では、2段レプリカの部材となるポリビニルアルコールの流し込み及び乾燥作業などのために数日を必要とするため、作業性の向上が望まれている。このように、転写性及び作業性の少なくとも一方を向上させた砥石表面転写物の作製方法が望まれている。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、転写性及び作業性の少なくとも一方を向上させた砥石表面転写物の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の要旨とするところは、砥石の研削表面を観察するために前記研削表面の凹凸が転写された砥石表面転写物の作製方法であって、(a)前記研削表面に密接するように第1部材を配設し、且つ、配設した前記第1部材を硬化させた後に前記研削表面から剥離させることにより、前記研削表面の凹凸が転写された1段レプリカ面を有する1段レプリカを作製する1段レプリカ作製工程と、(b)前記1段レプリカ面に密接するように第2部材を配設し、且つ、配設した前記第2部材を硬化させた後に前記1段レプリカ面から剥離させることにより、前記1段レプリカ面の凹凸が転写された2段レプリカ面を有する2段レプリカを作製する2段レプリカ作製工程と、を備え、(c)前記第2部材は、前記第1部材との反応性を有さない硬化性樹脂であることにある。
【0008】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記第2部材は、常温硬化性を有することにある。
【0009】
第3発明の要旨とするところは、第1発明又は第2発明において、(a)前記第1部材がアセチルセルロースの樹脂フィルムである場合には、前記第2部材は、二液混合型のシリコーン樹脂であり、(b)前記第1部材がシリコンゴム成形剤である場合には、前記第2部材は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂、又は、ポリエステル樹脂を主要成分とする一液型の光硬化性樹脂であり、(c)前記第1部材がシリコーン混和剤である場合には、前記第2部材は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂であり、(d)前記第1部材が二液混合型のシリコーン樹脂である場合には、前記第2部材は、ビスフェノールAエポキシ樹脂及びアクリル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂、又は、ポリエステル樹脂を主要成分とする一液型の光硬化性樹脂であることにある。
【0010】
第4発明の要旨とするところは、第1発明乃至第3発明のいずれか1の発明において、前記第2部材は、二液混合型の硬化性樹脂であって気泡除去に必要な硬化時間を有することにある。
【発明の効果】
【0011】
第1発明の砥石表面転写物の作製方法によれば、前記第2部材は、前記第1部材との反応性を有さない硬化性樹脂である。第2部材を第1部材との反応性を有さない硬化性樹脂とすることにより硬化後の2段レプリカにおいて1段レプリカ面から2段レプリカ面を転写性良く剥離することができる。したがって、転写性が良い砥石表面転写物を作製することができる。
【0012】
第2発明の砥石表面転写物の作製方法によれば、第1発明において、前記第2部材は、常温硬化性を有する。第2部材が常温で硬化するため、例えば第2部材の硬化中において、2段レプリカの転写対象である1段レプリカの第1部材が熱によって膨張することが抑制される。すなわち、第2部材の硬化中において、研削表面の凹凸が転写された1段レプリカ面の形状の変化(変形)が抑制されるため、2段レプリカの2段レプリカ面の転写性が悪化することが抑制される。
【0013】
第3発明の砥石表面転写物の作製方法によれば、第1発明又は第2発明において、(a)前記第1部材がアセチルセルロースの樹脂フィルムである場合には、前記第2部材は、二液混合型のシリコーン樹脂であり、(b)前記第1部材がシリコンゴム成形剤である場合には、前記第2部材は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂、又は、ポリエステル樹脂を主要成分とする一液型の光硬化性樹脂であり、(c)前記第1部材がシリコーン混和剤である場合には、前記第2部材は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂であり、(d)前記第1部材が二液混合型のシリコーン樹脂である場合には、前記第2部材は、ビスフェノールAエポキシ樹脂及びアクリル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂、又は、ポリエステル樹脂を主要成分とする一液型の光硬化性樹脂である。これら第1部材と第2部材との組み合わせにより、2段レプリカ作製工程において硬化後の第2部材すなわち2段レプリカの2段レプリカ面を1段レプリカ面から転写性良く剥離することができる。
【0014】
第4発明の砥石表面転写物の作製方法によれば、第1発明乃至第3発明のいずれか1の発明において、前記第2部材は、二液混合型の硬化性樹脂であって気泡除去に必要な硬化時間を有する。気泡除去に必要な硬化時間となるように、主剤と硬化剤とが混合された二液混合型の硬化性樹脂が第2部材とされることで、1段レプリカ面の凹凸に対して硬化前の気泡による2段レプリカ面の転写性の悪化が抑制される。これにより、1段レプリカ面の凹凸に対して転写性の良い2段レプリカ面を有する2段レプリカを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例に係る砥石表面転写物の作製方法を説明する工程図である。
【
図2】
図1に示す各工程における要部断面図であって、(a)は、第1部材の配設工程における断面図であり、(b)は、第1部材の剥離工程後の1段レプリカの断面図であり、(c)は、第2部材の配設工程における断面図であり、(d)は、第2部材の剥離工程後の2段レプリカの断面図である。
【
図3】第1部材及び第2部材に各種材料を適用した実験例における2段レプリカを作製する際の作業性(硬化時間)、剥離性、及び転写性の評価を記載した一覧表である。
【
図4】第1部材及び第2部材に各種材料を適用した実験例における2段レプリカを作製する際の作業性、剥離性、及び転写性の評価を記載した一覧表である。
【
図5】第1部材及び第2部材に各種材料を適用した実験例における2段レプリカを作製する際の作業性、剥離性、及び転写性の評価を記載した一覧表である。
【
図6】
図3乃至5に示す実験例で用いられた材料の主要成分を記載した表である。
【
図7】
図3乃至5に示す実験例で作製した2段レプリカにおける2段レプリカ面のSEM写真である。
【
図8】
図3乃至5に示す実験例で作製した2段レプリカにおける2段レプリカ面のSEM写真及び光学顕微鏡写真である。
【
図9】
図3乃至5に示す実験例で作製した2段レプリカにおける2段レプリカ面のSEM写真及び光学顕微鏡写真である。
【
図10】
図3乃至5に示す実験例で作製した2段レプリカにおける2段レプリカ面のSEM写真及び光学顕微鏡写真である。
【
図11】
図3乃至5に示す実験例で作製した2段レプリカにおける2段レプリカ面のSEM写真である。
【
図12】
図3に示す実験例17において適用された第2部材であるエポキシ樹脂の主剤及び硬化剤の重量混合比を変化させた場合における2段レプリカを作製する際の作業性及び転写性の評価を記載した一覧表である。
【
図13】
図12に示す第2部材であるエポキシ樹脂の主剤及び硬化剤の重量混合比を変化させた場合における2段レプリカの2段レプリカ面のSEM写真である。
【
図14】
図3に示す実験例17における第2部材の配設からの経過時間毎の気泡状態の観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例0017】
図1は、本発明の実施例に係る砥石表面転写物の作製方法を説明する工程図である。
図2は、
図1に示す各工程における要部断面図であって、(a)は、第1部材20の配設工程における断面図であり、(b)は、第1部材20の剥離工程後の1段レプリカ22の断面図であり、(c)は、第2部材30の配設工程における断面図であり、(d)は、第2部材30の剥離工程後の2段レプリカ32の断面図である。
【0018】
まず、第1部材20の配設工程(
図1のステップS10)では、
図2(a)に示すように、1段レプリカ22の材料となる第1部材20が砥石10の研削表面10sに密接するように配設される。砥石10は、多数の砥粒を結合剤で固定した工具であり、例えば用途に応じていろいろな形にした回転研削工具として用いられる。例えば、砥石10は、金属製台金(ホイール)の周辺又は端面に砥粒層をもつ研削砥石である研削ホイールとして用いられる。砥粒の大きさは、研削対象である加工物の表面を削り取る切れ刃の大きさでもある。研削の用途に応じて砥石10中に含まれる砥粒の平均粒径は様々なものがある。例えば、砥粒の平均粒径は0.1[μm]程度のものから1000[μm]程度のものまで各種ある。砥石10の研削表面10sにおける砥粒破砕状態、砥粒再生状態、目詰まり状態などの研削表面10sの観察を行うためには、砥粒の平均粒径よりも小さい領域の状態が把握できる解像力(分解能)が必要である。第1部材20は、配設される前は液体状又は軟化した固体状であるが、配設された後に硬化可能な部材である。なお、「配設」には、例えば研削表面10sへの第1部材20の塗布や貼付、或いは、研削表面10sを上にして配置した砥石10を囲む枠内に液体状の第1部材20を流し込む態様も含まれる。
【0019】
次に、第1部材20の硬化工程(
図1のステップS20)では、第1部材20が硬化させられる。例えば、第1部材20は、後述する主剤と硬化剤とを混合した状態で含むことで時間の経過とともに重合により硬化させられたり、第1部材20が乾燥や溶剤の揮発により硬化させられたり、紫外線が照射されることにより硬化させられたりする。第1部材20が硬化すると、第1部材20の剥離工程(
図1のステップS30)において第1部材20が砥石10の研削表面10sから作業者によって剥離され、
図2(b)に示すように、砥石10の研削表面10sの凹凸に対応する凹凸が転写された1段レプリカ面22sを有する1段レプリカ22が作製される。1段レプリカ面22sは、砥石10の研削表面10sに対して凹凸が反転している。なお、第1部材20の配設工程、第1部材20の硬化工程、及び第1部材20の剥離工程は、本発明における「1段レプリカ作製工程」に相当する。
【0020】
1段レプリカ作製工程においては、研削表面10sはその凹凸を観察する観察対象面であって転写の元となる転写対象面であり、砥石10は転写対象物であり、また、1段レプリカ面22sは転写面であり、1段レプリカ22は転写物である。
【0021】
次に、第2部材30の配設工程(
図1のステップS40)では、
図2(c)に示すように、2段レプリカ32の材料となる第2部材30が1段レプリカ22の1段レプリカ面22sに密接するように配設される。第2部材30は、配設される前は液体状又は軟化した固体状であるが、配設された後に硬化可能な部材である。なお、「配設」には、第1部材20の配設工程と同様に、例えば1段レプリカ面22sへの第2部材30の塗布や貼付、或いは、1段レプリカ面22sを上にして配置した1段レプリカ22を囲む枠内に液体状の第2部材30を流し込む態様も含まれる。
【0022】
次に、第2部材30の硬化工程(
図1のステップS50)では、第2部材30が硬化させられる。例えば、第2部材30は、後述する主剤と硬化剤とを混合した状態で含むことで時間の経過とともに重合により硬化させられたり、第1部材20が乾燥や溶剤の揮発により硬化させられたり、紫外線が照射されることにより硬化させられたりする。第2部材30が硬化すると、第2部材30の剥離工程(
図1のステップS60)において第2部材30が1段レプリカ面22sから作業者によって剥離され、
図2(d)に示すように、1段レプリカ面22sの凹凸に対応する凹凸が転写された2段レプリカ面32sを有する2段レプリカ32が作製される。2段レプリカ面32sは、1段レプリカ面22sに対して凹凸が反転している、すなわち砥石10の研削表面10sと凹凸の向きが同じである。なお、2段レプリカ面32sを有する2段レプリカ32は、本発明における「砥石表面転写物」に相当する。また、第2部材30の配設工程、第2部材30の硬化工程、及び第2部材30の剥離工程は、本発明における「2段レプリカ作製工程」に相当する。
【0023】
2段レプリカ作製工程においては、1段レプリカ面22sは転写の元となる転写対象面であり、1段レプリカ22は転写対象物であり、また、2段レプリカ面32sは転写面であり、2段レプリカ32は転写物である。
【0024】
以下、特に区別しない場合には、1段レプリカ22及び2段レプリカ32を単に「レプリカRP」と記し、1段レプリカ面22s及び2段レプリカ面32sを単に「レプリカ面RPs」と記すこととする。
【0025】
例えば、このように作製された2段レプリカ32の2段レプリカ面32sに金属蒸着を行い、金属が蒸着された2段レプリカ面32sを電子顕微鏡で観察することで、砥石10の研削表面10sの状態を知ることができる。
【0026】
図3乃至5は、第1部材20及び第2部材30に各種材料を適用した実験例における2段レプリカ32を作製する際の作業性(硬化時間)、剥離性、及び転写性の評価を記載した一覧表である。
図3乃至5に示す各実験例で用いた砥石10は、砥粒がA系(Al
2O
3)、平均粒径が約250[μm]、結合剤がビトリファイドである。
図6は、
図3乃至5に示す実験例で用いられた材料の主要成分を記載した表である。
図3乃至5の各実験例において、第1部材20及び第2部材30の硬化は常温で行われている。すなわち、第1部材20及び第2部材30を硬化させるために加熱の必要はない。
【0027】
図7乃至11は、
図3乃至5に示す各実験例で作製した2段レプリカ32における2段レプリカ面32sのSEM写真及び光学顕微鏡写真である。
図7乃至11に示す2段レプリカ面32sのSEM写真のうち観察箇所(1)及び観察箇所(2)は、それぞれ同じ箇所を観察したものである。なお、観察箇所(2)は、
図7に示す実物の観察箇所(1)のSEM写真において長方形に囲まれた部分である。
【0028】
図3乃至5に示す実験例のうち、実験例3,17~19,22,26~28,34,35,39は本発明の実施例であり、それ以外の実験例は比較例である。比較例のうち実験例12は、開示文献(特開平11-14519号公報)に記載された従来例である。
【0029】
図3乃至5に示すように、各実験例において、第1部材20(1段レプリカ22の材料)及び第2部材30(2段レプリカ32の材料)は、(1)アセチルセルロースの樹脂フィルム、(2)シリコンゴム成形剤、(3)シリコーン混和剤、(4)シリコーン樹脂、(5)メタクリル樹脂、(6)エポキシ樹脂、(7)アクリル樹脂、(8)ポリエステル樹脂、(9)ウレタン樹脂1、(10)ウレタン樹脂2、(11)ポリエステルの光硬化性樹脂、(12)ウレタンアクリレートの光硬化性樹脂、及び(13)ポリビニルアルコールが、それぞれ組み合わされている。なお、ウレタン樹脂1は注型用ウレタン樹脂であり、ウレタン樹脂2は軟質ウレタン樹脂であり、ウレタン樹脂1とウレタン樹脂2とは成分が異なるものである。
【0030】
アセチルセルロースは、酢酸メチルなどの溶剤に対して軟化し且つ溶剤の揮発により硬化可能な材料である。そのため、レプリカRPの材料がアセチルセルロースの樹脂フィルムである場合には、転写対象面に密接するように、表面が軟化させられたアセチルセルロースの樹脂フィルムが貼付された後に、溶剤の揮発により樹脂フィルムが硬化させられて転写対象面の凹凸がレプリカ面RPsに転写される。
【0031】
レプリカRPの材料がシリコンゴム成形剤、シリコーン混和剤、シリコーン樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂1、及びウレタン樹脂2のいずれかである場合には、転写対象面に密接するようにそれらレプリカRPの材料が配設された後に時間の経過とともに重合によりレプリカRPの材料が硬化させられて転写対象面の凹凸がレプリカ面RPsに転写される。シリコンゴム成形剤、シリコーン混和剤、シリコーン樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂1、及びウレタン樹脂2は、いずれも主剤及び硬化剤を混合して硬化させる二液混合型の常温硬化性樹脂である。二液混合型の硬化性樹脂は、主剤と硬化剤とが混合されることにより硬化が促進される樹脂であって、主剤と硬化剤との混合比に応じて硬化時間を調整することが可能である。主剤には、ポリマー(高重合体)である高分子樹脂の材料となるモノマー(単量体)やオリゴマー(低重合体)が主要成分として含まれ、硬化剤には、重合を促進する物質(例えば触媒)が含まれている。
【0032】
レプリカRPの材料がポリエステルの光硬化性樹脂及びウレタンアクリレートの光硬化性樹脂のいずれかである場合には、転写対象面に密接するようにそれらレプリカRPの材料が配設された後に、例えば紫外線が照射されることによりレプリカRPの材料が硬化させられて転写対象面の凹凸がレプリカ面RPsに転写される。ポリエステルの光硬化性樹脂及びウレタンアクリレートの光硬化性樹脂は、いずれも一液型の光硬化性樹脂である。
【0033】
レプリカRPの材料がポリビニルアルコールである場合には、転写対象面に密接するように熱湯などの溶媒にポリビニルアルコールが溶解した溶液が配設された後に乾燥によりポリビニルアルコールが硬化させられて転写対象面の凹凸がレプリカ面RPsに転写される。
【0034】
セルロイド製の所謂スンプ板は、酢酸アミルなどの溶剤に対して軟化し且つ溶剤の揮発により硬化可能な材料である。そのため、レプリカRPの材料がスンプ板である場合には、転写対象面に密接するように、表面が軟化させられたスンプ板が貼付された後に、溶剤の揮発によりスンプ板が硬化させられて転写対象面の凹凸がレプリカ面RPsに転写される。
【0035】
1段レプリカ22及び2段レプリカ32の作製において要求される機能としては、作業性、剥離性、転写性が良いことが挙げられる。
【0036】
図3乃至5では作業性について、レプリカRPを作製する作業時間に含まれる硬化時間が1日以内の場合には、作業性を「○」と評価し、硬化時間が1日を超過する場合には、作業性を「△」と評価している。なお、実験例4,16,40において、第1部材20又は第2部材30がメタクリル樹脂である場合には、そのメタクリル樹脂を硬化する際に臭気が発生するため換気が必要である。また、実験例26,28では、作製された1段レプリカ22の1段レプリカ面22sに直に第2部材30(2段レプリカ32の材料)を配設すると、第2部材30の硬化中において1段レプリカ面22sと第2部材30との間の何らかの化学反応により気泡が発生する現象が観察された。そのため、実験例26,28では、作製された1段レプリカ22の1段レプリカ面22sを石鹸水で洗浄してから第2部材30を配設して2段レプリカ32を作製している。また、実験例20,29,37において、第2部材30がウレタン樹脂1である場合には、そのウレタン樹脂1の硬化中に硬化剤と水とが反応して炭酸ガスが発生した。
【0037】
図3では剥離性について、転写対象物と硬化後のレプリカRPとが固着して剥離できない場合には、剥離性を「×」と評価している。転写対象物から硬化後のレプリカRPを剥離できる場合には、剥離性を「○」と評価している。
【0038】
図3乃至5で2段レプリカ32の剥離性が「○」と評価された実験例1~3,12~14,17~24,26~39,47~49では、第2部材30は、硬化した第1部材20(1段レプリカ22)に対し反応性を有さない材料である。「反応性を有さない」とは、化学反応を起こさないことすなわち化学変化を起こさないことであり、結果として1段レプリカ22と2段レプリカ32とが接着しないことを意味する。なお、1段レプリカ22に対し反応性を有さない材料である第2部材30は、実験例26,28のように、1段レプリカ22の1段レプリカ面22sが石鹸水で洗浄された場合であっても良い。
【0039】
1段レプリカ22の剥離性が「×」の評価である実験例については、2段レプリカ32の作製を行っていない。
【0040】
図3乃至5では転写性について、2段レプリカ32の2段レプリカ面32sをSEM(走査電子顕微鏡)や光学顕微鏡により観察し、研削表面10sの実物の形状と比較して評価している。各実験例における相対評価となるが、実験例12(従来例)よりも2段レプリカ面32sの形状が研削表面10sの凹凸を忠実に再現している場合(すなわち分解能が良い場合)の転写性を「◎」,「○」(「◎」の方が「○」よりも転写性が良い)と評価し、実験例12と同程度の分解能の場合の転写性を「△」と評価し、実験例12よりも分解能が悪い場合の転写性を「×」と評価している。また、2段レプリカ32を作製できない場合及び2段レプリカ32が剥離できない場合には、転写性を「評価不能」と記している。
【0041】
図7に示す実験例1の備考は、1段レプリカ面22sに密接するように配設された後に硬化された第2部材30を1段レプリカ面22s及び2段レプリカ面32sに平行に切断した断面のSEM写真である。実験例1では、
図7に示す備考のSEM写真のうち実線で囲まれた部分に見られるように、第2部材30内に気泡が発生して転写性が悪くなっている。
【0042】
図7に示す実験例3の備考は、2段レプリカ32を2段レプリカ面32sに交差する方向に切断した断面及び2段レプリカ面32sの表面を観察したSEM写真である。実験例3では、
図7に示す備考のSEM写真のうち実線で囲まれた部分に見られるように、2段レプリカ32の内部や2段レプリカ面32sの表面に亀裂(ひび)が発生している。
【0043】
実験例13では、
図7の備考のSEM写真に示すように、2段レプリカ32は気泡を含んで硬化している。実験例14,23,33,48では、
図7,8,10,11のそれぞれの備考のSEM写真に示すように、全く転写できていない。実験例20,29,37では、
図8,9,10のそれぞれの備考の光学顕微鏡写真に示すように、2段レプリカ32は気泡を含んで硬化している。実験例21,30では、
図8,9のそれぞれのSEM写真に示すように、観察箇所(1)及び観察箇所(2)では2段レプリカ32に研削表面10sの転写対象面が転写されているが、他の箇所では備考のSEM写真に示すように2段レプリカ32は気泡を含んで硬化している。すなわち、実験例21,30では、安定した転写はできていないため、観察箇所(1)及び観察箇所(2)におけるSEM写真にかかわらず、転写性を「×」と評価している。
【0044】
図3乃至5では総合評価について、1段レプリカ22の剥離性及び2段レプリカ32の剥離性,転写性のいずれかの評価が「×」である場合には、その実験例の総合評価を「C」としている。1段レプリカ22の作業性及び剥離性の評価が「○」であって、2段レプリカ32の作業性の評価が「△」,剥離性の評価が「○」,転写性の評価が「△」である場合には、その実験例(実験例12)の総合評価を「B」としている。1段レプリカ22の作業性及び剥離性の評価が「○」であって、2段レプリカ32の作業性の評価が「○」,剥離性の評価が「○」,転写性の評価が「◎」である場合には、その実験例の総合評価を「AAA」としている。1段レプリカ22の作業性及び剥離性の評価が「○」であって、2段レプリカ32の作業性の評価が「○」,剥離性の評価が「○」,転写性の評価が「○」である場合には、その実験例の総合評価を「AA」としている。1段レプリカ22の作業性及び剥離性の評価が「○」であって、2段レプリカ32の作業性の評価が「○」,剥離性の評価が「○」,転写性の評価が「△」である場合には、その実験例の総合評価を「A」としている。
【0045】
総合評価「A」は、2段レプリカ32の作製について、実験例12(従来例)に比較して転写性の評価は同等であるが、作業性の評価は良い。総合評価「AA」は、2段レプリカ32の作製について、実験例12(従来例)に比較して作業性及び転写性の評価がいずれも良い。総合評価「AAA」は、2段レプリカ32の作製について、実験例12(従来例)に比較して作業性及び転写性の評価がいずれも良く、転写性の評価は総合評価「AA」よりも更に良い。
【0046】
図12は、
図3に示す実験例17において適用された第2部材30であるエポキシ樹脂の主剤及び硬化剤の重量混合比を変化させた場合における2段レプリカ32を作製する際の作業性(硬化時間)及び転写性の評価を記載した一覧表である。
図13は、
図12に示す第2部材30であるエポキシ樹脂の主剤及び硬化剤の重量混合比を変化させた場合における2段レプリカ32の2段レプリカ面32sのSEM写真である。なお、
図13に示す2段レプリカ面32sのSEM写真の観察箇所(1)及び観察箇所(2)は、前述の
図7乃至11と同じ箇所をそれぞれ観察したものである。
【0047】
図12に示す作業性(硬化時間)及び転写性は、前述の
図3乃至5に記載したのと同じ基準で評価している。ただし、硬化時間が1週間を超過する場合には、作業性を「×」と評価している。
【0048】
図12に示すように、エポキシ樹脂における主剤及び硬化剤の重量混合比10:2~10:10の範囲では、硬化性が実験例12(従来例)と同等もしくは同等以上に良く且つ転写性が実験例12(従来例)よりも良く、特に重量混合比10:4~10:5の範囲で転写性が好適である。このことが示すように、第2部材30が二液混合型の硬化性樹脂である場合における主剤及び硬化剤の重量混合比を調整することで、主剤と硬化剤との混合比に応じて硬化時間を調整することが可能である。これにより、後述するように、例えば気泡を含んだ状態で第2部材30が硬化しないように硬化時間を調整することが可能である。
【0049】
図14は、
図3に示す実験例17における第2部材30の配設(1段レプリカ面22sを上にして配置した1段レプリカ22を囲む枠内への第2部材30の流し込み)からの経過時間毎の気泡状態の観察写真である。
図14に示すのは、実験例17における第2部材30の配設から30秒経過後,2分経過後,15分経過後,20分経過後,40分経過後,75分経過後,90分経過後における気泡状態を観察した写真である。
【0050】
図14に示すように、30秒経過後には第2部材30は多くの気泡を含んでいるが、時間の経過とともに次第に気泡が減少して75分経過後には肉眼では気泡が見られない状態となっている。実験例17は硬化時間が1日であるため、気泡が消滅した状態で硬化している。
【0051】
このことが示すように、第2部材30の硬化時間が短い場合には気泡を含んだ状態で第2部材30が硬化してしまうため、転写性は悪化しやすくなる。一方、第2部材30の硬化時間が長い場合には2段レプリカ32を作製する作業時間が長くなるため、作業性は悪化しやすくなる。なお、実験例17における「気泡が見られない状態となる75分」は、本発明における「気泡除去に必要な硬化時間」に相当する。
【0052】
本発明の実施例である
図3に示す実験例3,17~19,22,26~28,34,35,39の2段レプリカ32(砥石表面転写物)の作製方法によれば、第2部材30は、第1部材20との反応性を有さない硬化性樹脂である。第2部材30を第1部材20との反応性を有さない硬化性樹脂とすることにより硬化後の2段レプリカ32において1段レプリカ面22sから2段レプリカ面32sを転写性良く剥離することができる。したがって、転写性が良い2段レプリカ32を作製することができる。上記反応性を有さない硬化性樹脂とは、剥離の際に2段レプリカ面32sが損なわれない程度に、第2部材30が第1部材20と反応しないか、或いは、反応性が低いことをいう。
【0053】
本発明の実施例である
図3に示す実験例3,17~19,22,26~28,34,35,39の2段レプリカ32の作製方法によれば、第2部材30は、常温硬化性を有する。第2部材30が常温で硬化するため、例えば第2部材30の硬化中において、転写対象物である1段レプリカ22の第1部材20が熱によって膨張することが抑制される。すなわち、第2部材30の硬化中において、研削表面10sの凹凸が転写された1段レプリカ面22sの形状の変化(変形)が抑制されるため、2段レプリカ32の2段レプリカ面32sの転写性が悪化することが抑制される。
【0054】
本発明の実施例である
図3に示す実験例3,17~19,22,26~28,34,35,39の2段レプリカ32の作製方法によれば、(a)第1部材20がアセチルセルロースの樹脂フィルムである場合には、第2部材30は、二液混合型のシリコーン樹脂であり、(b)第1部材20がシリコンゴム成形剤である場合には、第2部材30は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂、又は、ポリエステル樹脂を主要成分とする一液型の光硬化性樹脂であり、(c)第1部材20がシリコーン混和剤である場合には、第2部材30は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂であり、(d)第1部材20が二液混合型のシリコーン樹脂である場合には、第2部材30は、ビスフェノールAエポキシ樹脂及びアクリル樹脂のいずれかを主要成分とする二液混合型の硬化性樹脂、又は、ポリエステル樹脂を主要成分とする一液型の光硬化性樹脂である。これら第1部材20と第2部材30との組み合わせにより、2段レプリカ作製工程において硬化後の第2部材30すなわち2段レプリカ32の2段レプリカ面32sを1段レプリカ面22sから転写性良く剥離することができる。
【0055】
本発明の実施例である
図3に示す実験例17の2段レプリカ32の作製方法によれば、第2部材30は、気泡除去に必要な硬化時間を有する。気泡除去に必要な硬化時間となるように、主剤と硬化剤とが混合された二液混合型の硬化性樹脂が第2部材30とされることで、1段レプリカ面22sの凹凸に対して硬化前の気泡による2段レプリカ面32sの転写性の悪化が抑制される。これにより、1段レプリカ面22sの凹凸に対して転写性の良い2段レプリカ面32sを有する2段レプリカ32を作製することができる。
【0056】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0057】
前述した本発明の実施例では、第2部材30の気泡除去に必要な硬化時間は実験例17の場合のみが記載されていたが、本発明の実施例である
図3に示す実験例3,18,19,26~28,34,35においてもそれぞれ第2部材30の気泡除去に必要な硬化時間を実験により予め定めることが可能である。この予め定められた気泡除去に必要な硬化時間を有するように、例えば第2部材30の硬化時間が主剤及び硬化剤の重量混合比により調整されることで1段レプリカ面22sの凹凸に対して硬化前の気泡による2段レプリカ面32sの転写性の悪化が抑制される。
【0058】
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。